2015年4月28日火曜日

「影のCIA」とも称される米シンクタンク「ストラトフォー」の考え - ウクライナ紛争



本日引用しようと思う記事 [1] はもう1ヶ月以上も前に出版されたものである。この記事はウクライナ紛争を巡って今後ロシアがどのような軍事的展開を見せるかについて幾つかの可能性を論じている。

前回のブログではロシアの諜報機関のトップに対するインタビューを掲載したばかりである。そこではウクライナ紛争に関するロシアの諜報専門家の見方を学ぶことができた。本日は、ロシアの対極にある米国における民間シンクタンク「ストラトフォー」の考えについてもこの際おさらいをしておきたいと思う。

<引用開始>

米国の分析者は、ロシア軍はウクライナの東部および中央部に侵攻し、ドニエプル川まで到達するだろうと予測している。これらの結論は米シンクタンクの「ストラトフォー」が図解しながら示した一連の筋書きの中で公開された。
最初の筋書きでは、米分析者によると、ロシアは黒海沿岸に沿って全面戦争を展開し、クリミアへの陸続きの橋頭保を築くためにヘルソン地域にまで到達すると予測している。
Photo-1: 陸路でクリミアと接続

この地域を占領するには、ロシアの攻撃軍はヘルソンやドニエプル川に沿って位置するノーバヤ・カホーヴカに向けて進撃し、ドニエプル川を天然の防衛線として活用するだろう、と米分析結果は予測している。
クリミアへの陸続きの地域を確保することを目標とし、24,000から36,000人の兵力で、46,620平方キロの面積を抑えることによって、クリミアへの電力や水の補給路を陸続きで確保することができる。ストラトフォーによると、ロシア軍がこの選択肢を実行するには14日間を要する。
この考察によれば、ウクライナ南部の海岸地帯の全域を占領すること(二番目の筋書き)に比べ、より多くの利点があると判断される。
 Photo-2: 海岸部全域を確保

沿ドニエストル共和[訳注:モルドバ共和国の東側に接した南北に長い地域。ルーマニア語では「トランスニストリア」と称する。公用語はルーマニア語、ウクライナ語およびロシア語。人口は約50万人。軍事、経済をロシアに頼っている。] に到達するまでの侵攻となり、103,600平方キロの地域面積には6百万人が住んでおり、ロシア軍は40,000から60,000人の兵力を投入する必要がある。地域住民からのゲリラ活動や潜入してくる破壊工作員に対抗し、この地域の防衛を実現するためにはさらに20,000から70,000人の兵力を必要とする。この選択肢はキエフ政府には深刻な打撃となり、ウクライナは黒海への進出が不可能となる。ロシアは黒海地域における防衛拠点をすべて確保することができる。ストラトフォーの推算によると、この選択肢の実行には23日から28日を要する。
また、ストラトフォーはロシアがキエフ軍部の中枢の戦闘意欲を削ぐためにウクライナ東部の国境線に沿って一連の攻撃を仕掛ける可能性があることについても配慮している。これは、ハリコフやドニエプロペトロフスクおよびザポロジエといった都市を含め、ウクライナ東部と中央部のすべてを占領することを意味する(3番目の選択肢)。 
 Photo-3 : ウクライナ東部を確保

ドニエプル川に沿ってウクライナを二分するという考えはウクライナのすべての工業力が剥ぎ取られてしまうということに等しく、ロシア側にとっては比較的容易にドニエプル川に沿って天然の防衛線を確立することが可能となる。ドニエプル川はそのほとんどの部分で川幅が非常に広く、橋は数カ所に存在するだけであり、クリミアへの補給を可能とし、NATOの基地をロシアとの国境の直ぐ側の地帯よりも遥かに遠ざけてくれる。
仮にロシアが全面的な軍事行動を起こし、長期的な防衛線を確立しようとする場合は、ロシアにとってはこの選択肢がもっとも妥当であるとストラトフォーは見ている。
占領するべき総面積は224,740平方キロとなり、91,000人から135,000人の兵力を必要とする。この地域には1300万人が住み、住民の抵抗の程度によって大きく左右されるが、同地域の占領にはさらに28,000人から260,000人の警備用の兵力を必要とする。ロシアは現在280,000人の地上兵力を持っていることから、このウクライナでの軍事行動はロシアの保有戦力の非常に多くの部分を必要とすることになる。
有利な点がひとつある。それはこの作戦ではロシア軍がドニエプル川に到達するのに11日から14日を要するのみであるという点だ。その一方、本作戦は大規模な動員を行い、警備要員を配置することになることから、モスクワ政府の意図は丸見えとなり、NATO軍は早期の段階から対抗措置をとることが可能となる。
ストラトフォーは数多くの作戦の組み合わせを作成したが、何れをとってみても、ウクライナは領土や人命の面で恐ろしいほどの損害を喫することになろう。
何時もの行動様式から判断すると、米国人はまたもやこう主張するだろう。「ロシアはノヴォロシアの民兵に対して膨大な支援を行っており、これこそがルガンスクやドネツクの地域からウクライナ軍を撃退する作戦を可能にしているのだ」と。
 <引用終了>

最後の3行の文章は何を言いたいのだろうかと、考えさせられてしまった。オブラートに包まれたような表現であって、真意がなかなか見えて来ないのだ。
私の個人的な理解ではこんな具合になる。米国はロシアとの直接的な軍事衝突はしたくない。ウクライナに対する支援はあくまでも軍事訓練を提供したり、武器を供給することだけにとどめたい。しかし、戦争努力のためには何でも行う。IMFがその内規に反することにはお構いなしに、IMFにはウクライナ政府に対する融資さえも行わせた。すべてはロシア正規軍のウクライナ領内への侵攻を誘発させることが目標である。つまり、ウクライナの領土を守ることではないのだ。一たびロシア軍がウクライナへ侵攻したら、上記の筋書きのどれかによって決着を見る、あるいは、決着させる。今までに繰り返された停戦とは違って、これが最終的な停戦となる。
キエフ政府軍が敗北することによって、米国にとっては、今までのロシアに対する非難とは比べ物にならない正当さをもって、ロシアのウクライナ領内への侵攻を事実として大ぴらに非難する口実が成立する。米国の軍産複合体は、またもや、この先50年も続く「新冷戦」を確立したことになる。経済が低迷する米国にとっては「めでたし、めでたし」である。第二次世界大戦後数十年にわたって継続した冷戦は米国の軍産複合体にとっては重要な利益源であったことは誰にでもよく理解されている。
ロシアがクリミアを割譲したという米側の非難は説得力に欠けていた。西側が無理に独立させたコソボの前例もあるからだ。最近、オバマ大統領は民主的な選挙によって選出されていたヤヌコヴィッチ大統領を追い出した昨年2月のキエフでのクーデターは米国が支援していたということを公に認めた。あの暴力的なキエフでの政変に反応して、クリミア住民の大多数は住民投票でロシア側につくことを意思表示したのである。この一連の出来事を考慮すると、クリミアの割譲はロシアが積極的に遂行したものだとは決して言い切れない。今や、新冷戦を標榜する米側に残されたロシアに対する非難の口実はロシア軍のウクライナ領内への侵攻というシナリオだけである。
歴史を紐解くと、ベトナム戦争は南ベトナム軍を支援するために軍事訓練を行う米軍の将兵を南ベトナムへ送り込むことから始まった。正規軍を送り込む理由は何時ものように自作自演によって簡単に作り出せる。そして、まさにそのように展開した。ウクライナでは、米軍の将兵がすでに現地に派遣され、ウクライナ軍の訓練を開始している。ベトナムで見られた軍の高官や好戦派の政治家の論理は、多分、ウクライナでも繰り返されることになるのではないか。そして、NATO加盟国間で意見の一致が見られない場合は有志連合軍を大量に投入することになるのかも知れない。その場合は、特に、米軍とポーランド軍とがその中心となりそうだ。さらには、英国やカナダも続く。
しかし、どちらに転んでも、ウクライナの一般庶民にとっては非常に迷惑な話である。国連の最近の報告によると、ノヴォロシア地域での内戦による犠牲者の数は6,000人を超したという。物価は上がり、失業者が急増。生活水準は低下する一方である。ウクライナ政府は近いうちに債務不履行に陥りそうだとも報道されている。経済はますます悪化するだろう。ウクライナの政治家はこれらの問題についてはまったく無頓着であるかのようだ。キエフ政府内の汚職は一向に改善されてはいないと報道されているが、政府や軍部の高官にとっては今を除いては大金を稼ぎ出す機会は二度とやっては来ないという明確な判断があるのかも知れない。
このような状況がヨーロッパの一角で起こっており、ヨーロッパの政治家はこれを食い止めることができないままでいる。ウクライナ紛争の収束のためにはヨーロッパの英知を期待したい、と何時だったかこのブログで書いたことがある。しかし、それは望めないのかも知れない。


参照:
1: US Think Tank: Russia Could Reach Dnepr in Ukraine: By Ayre OT, Voice of Sevastopol, Mar/13/2015, en.voicesevas.ru > ... > News > Analytics




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