2015年4月2日木曜日

ウクライナ危機を通じて米国人もNATOの拡大はすべきではないことに気付くかも - ウクライナ、グルジア、等への拡大はすべきではない



この記事 [1] はもう半年以上も前に「フォーブズ」誌に掲載されたものではあるが、今読んでみても、その内容は米国の国際政治を議論する上で依然として有効であり、非常に示唆に富んでいる。
ウクライナ危機における米国の存在については、私もこの1年間さまざまな情報をこのブログで取り扱って、少しでも国際情勢についての理解を深めようと努力をしてきた積りだ。キエフでのマイダン革命と多数の犠牲者、選挙で選出されていたヤヌコヴィッチ大統領の暴力による排除、暫定政権の樹立と米国による速やかな承認、クリミアでの住民投票では圧倒的多数がロシアへの帰属を選択したこと、ドネツクおよびルガンスクの東部2州のウクライナからの分離要求、オデッサでの大量虐殺、右翼やネオナチの台頭、東部の分離派とキエフ政府軍との間の武力闘争、何回かの停戦、等を見てきた。しかし、ウクライナ危機の状況はムーデの法則に則って深刻になる一方である。
そんな中、私は『「ウクライナ危機を招いたのは西側であって、プーチンではない」 - 米外交問題評議会』という表題を持ったブログを掲載した。昨年の91日だった。当時、この種の意見は非常に稀だった。

ウクライナ紛争の究極的な懸念は核大国であるロシアとキエフ政府軍を後押しする米国との間で核戦争が起こるかも知れないという点である。それがどちらかの大統領の命令の下に始まった核戦争であろうとも、取るに足りない偶発的な人的ミスによって引き起こされたものであろうとも、一度核戦争が起こったら全人類はこの世からおさらばとなる。文字通り永遠にだ。

どちらが悪いといった低次元の議論はまったく意味のない状況になるということを冷徹に理解する必要がある。

あれから半年以上もの時間が経過した。ウクライナ危機は何回目かの停戦に入り、この停戦を利用して今まで劣勢にあったキエフ政府軍側は自分たちの戦力の復旧に余念がないと報じられている。また、米国政府は殺傷兵器をウクライナ政府に提供すると公言している。と言うことは、遅かれ早かれ、内戦はまたもや再開されるということだ。しかも、さらに激化することが予測される。無差別の砲弾に晒される一般市民にとっては何とも恐ろしい話である。

91日のブログで引用した記事の著者(ジョン・ミアシャイマー教授)は、現行の米国政府の政策は間違っており、軌道修正するべきであると明快に述べている。しかしながら、ウクライナ危機を計画し、実行している米国の産軍共同体やネオコン勢力はまったく聞く耳を持ってはいないようだ。少なくとも現時点ではそのような兆候は見当たらない。米国の意思決定はオバマ政権が行っているのではなく、背後の軍産共同体が行っているかのようだ。不幸なことには、それが今の現実である。
そんな現状にあるだけに、本日引用する記事は我々に改めて明快な洞察を与えてくれると考える次第だ。その仮訳を以下に掲載し、理解を深めたいと思う。

<引用開始>
ウクライナでは悲惨な内戦が続いている。ロシアは自分たちの隣国を征服しようとまではしないようだが、分離派であるロシア系住民を支援して、キエフ政府を不安定化させている。NATO各国はロシアに対する対応ではふたつに割れたままである。
ヨーロッパのほとんどの人たちはロシアと戦う積りはない。モスクワとの経済的な連携は利益をもたらし、ウクライナとは条約上の義務は何もない。しかも同盟国のメンバー国家は何処も戦争を望んではいない。たとえロシア側にちょっとした間違った行為があったとしても、米国としては何らの利害関係もない。それにもかかわらず、ワシントン政府はモスクワと対立することに指導的な立場を取ることにした。
事実、この危機は米国側の軍事行動に関して数多くの提言をもたらした。分析専門家や政治家たちはウクライナを直接支援することを唱え、他の者は潜在的に四面楚歌の状況にある。また、人気のある提言としてはNATOの拡大がある。
例を挙げると、タカ派で知られているジョン・マケイン上院議員はウクライナを欧米の同盟関係に加えるよう主張している。前に国連駐在大使を務めたジョン・ボルトンは「グルジアとウクライナ両国のためにNATOメンバーへの道を開く」よう提言した。同様に、前国防長官のロバート・ゲイツはグルジア、ウクライナおよびモルドバとの間にNATOとの連携協定を結ぶよう提唱した。これらの国以外でも連携が提唱されている国としてはアルメニア、ボスニア・ヘルツゴヴィナ、フィンランド、コソボ、マケドニア、モンテネグロ及びスウェーデンがある。
NATOを拡大しようとする努力は著しく見当違いである。そもそも、伝統的には、軍事同盟は一国の安全保障を向上させるために締結されてきた。それは国際ビジネスのために仲良しクラブを運営するためのものでも、同一の価値基準を共有するためのものでも、あるいは、政治的統合のための道具として用いるものでもない。軍事同盟は戦争を回避し、戦争に勝つためのものである。冷戦時代に、戦争で疲弊していたヨーロッパ各国を敵としてのソ連邦やその衛星国による脅威から守るために米国は軍事同盟を設立した。
冷戦の終結はNATOの存続理由を排除してしまった。米国の危険極まりない世界規模の敵は消えてしまったのだが、繁栄を謳歌し人口の多いワシントンの同盟国は経済的にも復興し、国際的にも発展した。米国がヨーロッパを守る必要は無くなったのである。 
しかしながら、軍事同盟の賛同者たちはこの古い組織のために新しい存在理由を見つけ出そうとした。例えば、交換留学生制度を推進するとか、麻薬の密輸と戦うとか、環境保護を擁護するとか… これらの怪しげな提言はどれも支持を勝ち取ることはできなかったが、メンバーである各国政府はNATOを中央ヨーロッパや東ヨーロッパの国々を取り込むメカニズムとして活用した。この仕事はEUの仕事であったのだが、米国は直接的に関心を持っているわけではなかったもののワシントン政府は「指導的な」立場を持つことを欲した。こうして、この軍事同盟はソ連邦の後継者でもあり、その影響圏が縮小してしまったロシアの国境にまで拡大された。
新たな同盟国として迎えられた国々はバルト三国、東ヨーロッパ、ならびに、バルカン諸国である。これらの国々は米国の安全保障に重要であったことはなく、恐らく、その状況は今後もほとんど変わらないであろう。ソ連邦が崩壊する前は米国が自国の防衛には何ら重要でもない国々に対して安全保障を提供することなどは誰も想像し得なかっただろう。

Photo-1: ルクセンブルグ籍として登録されているNATOE-3早期警戒管制機。NATOの演習で米空軍の3機のF-16ファルコン戦闘機と共に飛行(Photo credit: Wikipedia)  
実際には、この軍事同盟の高官らはこの同盟は国際的な紳士クラブであるかの如くに振舞った。拡大の支持者たちは米国が全面的にその軍事的信頼や信用をこの政策に寄せているという現実については実際よりも軽く見ていた。何十年にもわたる冷戦時の危険この上ない不確実性の後、ついに平和を身近なものとして見い出しておきながらも、新たな国々を自分の軍事的責任の下に加えることによって何故に米国はその貴重な勝利をポイと投げ捨てなければならないのかについては誰も説明しようとはしなかった。
NATOは怠惰で裕福な国にとっては慈善的な施し物となった。裕福なヨーロッパの国々は世界規模の安全保障を推進する上で米国のパートナーとなり、その代わりに、米国の福祉を享受するお客様となった。モスクワ政府の崩壊後、ヨーロッパ各国は軍事費を定常的に削減した。ロシアにもっとも近い位置にあってさえも、新たなメンバー国家は自国の軍備を強化することにはほとんど注力しなかった。今日のヨーロッパ大陸では軍事大国であるフランスや英国でさえも軍事費を削減した。軍事的には取るに足りないリビアに侵攻した際には、ヨーロッパ各国はミサイルの在庫が払底して、米国に支援を依頼する始末であった。
NATOがセルビアやリビアといった反撃能力を十分には持っていない国を爆撃する際にはこれらの事柄は何れも問題とはならなかったようだ。しかし、ウクライナ危機を契機に、通常兵力を回復した核兵器大国でもあるロシアに対しては各国は当該軍事同盟がその責任を全うするよう求めている。新たに加盟した幾つかの国々は米国が軍事基地を新設し、部隊を配属するよう訴えている。
この馬鹿げた状況はNATOの拡大という愚行を明確に示している。ロシアとの戦争についてのエストニアやラトヴィアとの約束がいったいどのようにして米国をより安全にすると言うのだろうか?余りにも広く展開されている米国の軍隊をさらにリトアニアやポーランドへ派兵することがいったいどのようにして米国をより安全にすると言うのであろうか? 
馬鹿げた意思決定を行った結果、しかも、それを覆すことは決して容易ではないのだが、今日、これらの国々はすべてがこの軍事同盟のメンバーである。戦略的には価値がより小さい新しいメンバーを追加することによって、この間違いが事態をさらに悪化させることをそのまま放置しておくべきではない。よりによって、今は領土に関する中国の積極的な主張に対抗するためにも米軍の戦力をアジアへ振り向けるべきであり、イスラム国との戦いのために戦力をイラクへ戻し、シリア政府を打倒し、苦境に陥っている政府を支援するためにアフガニスタンでは駐留を継続し、反抗的なイランを爆撃する、といった事を議論している最中でもある。
潜在的同盟国の長いリストはワシントン政府が持つ戦略上の狂気を物語っている。例えば、ボスニア・ヘルツゴヴィナやマケドニアおよびモンテネグロはバルカン半島に位置する小国である。これらの国は米国の安全保障にとって重要であった試しはなく、今後も同様であろう。米国の戦争のために一握りの兵隊を進んで提供する - 私が2年ほど前にカブールのキャンプ・エッガースを訪問した時、マケドニア兵が入口の警護をしていた - という意欲は必ずしも彼らのロシアに対する自衛を正当に保証するものではない。ロシアが実際にマケドニアにとって脅威の存在であったことはないのである。
コソボの場合は状況がもっと悪い。議論が多いこの国はNATOが初めて行った攻撃的な戦争の産物である。1989年、セルビアを解体するために武力行使が行われた。セルビアは同盟国の一員に対して攻撃を仕掛けたわけでもなく、脅しをしたわけでもない。西側が監視する中、新たに常勝軍となったアルバニア人のゲリラ勢力は何十万人かのセルビア人やロマ人、ユダヤ人あるいは非アルバニア系のムスリム教徒に対して民族洗浄を推進し、ヨーロッパ人が「ならず者国家」と称した国家を設立。何万人かのセルビア系住民はコソボに取り残され、コソボやスロヴェニア、マケドニア、クロアチア、モンテネグロ、およびボスニアの住民に対しては与えられていた民族自決の権利を否定された。首都プリシュテナの防衛は米軍の使い方としては立派ではなかったし、今後もそうはなり得ないだろう。
フィンランドやスウェーデンは冷戦期間中は独立・中立政策を維持してきたことから、完璧に感じの良い国として受け止められ、これらの国は今日何らの脅威にも直面してはいない。冷戦があれほどまでに深刻になったにもかかわらず、両国の安全保障政策は大成功だった。米国は、これらの国の安全保障問題に取り組むことによって、何故に壊れてもいない物を修理しようとするのか?ワシントン政府が守る必要のない国が少なくともひとつくらいは存在しているのではないか? 
旧ソ連邦の一員であったアルメニアはもっとも遠隔地にあるが、同国にもNATOの一員になるようにとの誘いがかかっている。隣国のアゼルバイジャンとの間で深刻な領土問題を抱えている同国が米国の安全保障にとって幾ばくかの関連性を持っているとして議論を進めること自体がそもそも不可能である。モスクワ政府がアルメニアに侵攻するという恐れはかってなかったし、いったい米国は実際にどのようにしてアルメニアを守ろうとするのだろうか。例えば、何らかの危機が起こった場合、ドイツやイタリア、オランダあるいはラトヴィアがコーカサスにまでジェット戦闘機を飛ばすと真剣に予想する者がいるのだろうか。第82空挺師団を投入する?サンクト・ペテルスブルグを爆撃する?雌雄を決する核戦争を引き起こす?
さらには、モルドバやグルジアおよびウクライナ。これらの国は潜在的なメンバー国家としては最悪である。これらの三つの国はそれぞれが核保有国であるロシアとの間で領土問題を持っており、これらの国を守ろうとするとロシアとの戦争を誘発することになり、米国の防衛環境は一気に最悪なものとなる。
モルドバはルーマニアとウクライナとの間に位置した小国である。モルドバのひとつの地域はトランスニストリアと呼ばれるが、モスクワ政府の支援を受けてモルドバから分離した。キシナウ政府にとっては困難な状況にあるが、だからと言って米国による軍事的展開を保証するものではない。端的に言って、モスクワを巻き込んだ現行の抗争に米国が利害関係を持っているわけではない。
グルジアは以前からNATOへの加入を望んでいた。驚くには当たらないが、旧ソ連邦からの離脱後グルジアは政治的な不安定さや国際的な不合理に翻弄された。グルジアの独立はもう一つ別の分離騒ぎを引き起こした。ロシアからの支援を受けたアブハジアと南オセチアである。トビリシ政府は、大砲の餌食を供給することによって、米国のアフガン戦争やイラク戦争で自国の兵士を犠牲にした。その見返りとして、ロシアに対するグルジアの戦争ではワシントン政府が米国の政治家たちに米軍の派遣を考慮するように影響力を与えることを期待したのである。
ブッシュ政権はひどく稚拙な判断に基づいてそれに応じ、トビリシのNATOへの加入を支援した。しかしながら、ヨーロッパ各国はそれほど愚鈍ではなく、この動きを抑止した。これについては我々は皆が大感謝である。トビリシの興奮しやすい大統領、ミカイル・サーカシビリは南オセチアに駐屯していたロシア軍を砲撃して、愚かにも「2008年のロシア・グルジア戦争」を引き起こした。明らかに、米国の軍事的支援を期待してのことだった。しかし、目先のことしか見えてはいないブッシュ政権にとってさえも、これは明らかにやり過ぎであった。
このグルジアの事例は、小国で不安定な依存国家である場合その国の戦争や平和については同盟国が如何なる意思決定をするのかを如実に示してくれた。この地域に米国が経済やエネルギーについての如何なる関心を持っていたとしても、ロシアとの国境でロシアとの抗争を正当化するようなものは何も見当たらない。この地域はロシアにとってはもっとも重要視されている地域である。モスクワを武力抗争に追い立て、その抗争にワシントンを引き込もうとした国を後押しする正当な理由は何もないのである。 
これよりもさらに妥当性が低いのはウクライナである。最近まで、少なくとも、多くのウクライナの住民も同じように考えていた。経済的には西側に傾いているが、ウクライナ人はロシアを軍事的な敵国と見なす理由を見いだせない。ロシアとは文化的にも、経済的にも、そして歴史的にも強い絆を持っているからである。ウクライナの地位は米国にとっては理論的な関心であり、ヨーロッパにとっては経済的な価値ではあるのだが、ロシアにとっては以前はソ連邦の一員であったウクライナは安全保障上極めて重要な存在である。
キエフ政府はモスクワによって支援された内紛を通じてすっかり消耗しているが、そのキエフを欧米の同盟関係に引きずり込もうとする試みはこの軍事的には弱小国を核大国との間で戦争ゲームを引き起こすことになり、非常に危険である。モスクワの関心は遥かに大きく、ロシアがウラジミール・プーチンの指導の下にあろうとも、あるいは将来他の大統領の下にあろうとも、ロシアが引き下がるとは考えにくい。冷戦の期間何十年にもわたってずっとソ連邦との戦争を避け、平和を維持してきた後で、より小さな利害関係を巡ってワシントンは今あえてロシアとの抗争を引き起こすべきではない。
同盟国が米国の安全保障を推進してくれるならば、同盟国の存在は有益である。今日NATOのメンバー国として推奨されている国々はすべてが米国にそれらの国を防衛する義務をもたらす。NATOの存在理由はソビエト連邦がユーラシア大陸を席巻することを阻止するためのものであった。その可能性は今やまったく消え去った。ワシントンはヨーロッパの安全保障はヨーロッパに返還するべきである。モンテネグロやコソボといった関係性が見当たらない小国家、アルメニアのような遠隔地にある無名の国家、ならびにグルジアやウクライナといった紛争を呼び込もうとする国々を巡って米国が戦争を引き起こす理由はまったくないである。
ウクライナにおける現行の争いはモスクワによる犯罪であり、キエフにとっては悲劇である。これはまた米国に対しては警告でもある。NATOは軍事同盟であって、社交クラブではない。時には、国家は戦争に参加するとの約束を遂行する。政府は自分が言ったことを遂行できないならば、他国に安全保障を提供するべきではない。
NATOの拡大は米国の安全性を低下させる。それに代わって、米国は同盟国に対する自国の責任を縮小するべきである。
<引用終了>

上記の引用記事には「ウクライナ人はロシアを軍事的な敵国と見なす理由を見いだせない」という部分があるが、これに関しては210日に掲載した「広がる厭戦気分、ウクライナ政府は徴兵に大失敗」と題した小生のブログを参照いただくと、その一端を垣間見ることができる。
少なくとも私自身の感想としては、この引用記事には冷静に物事を見つめようとする意思が感じられる。主流メデアが喧伝する内容とはまったく違って、著者の姿勢はあくまでも冷静そのものである。その点が非常に新鮮であり、頼もしい。こういった論客が米国に一人でも二人でも増えて欲しいものだ。そして、一般大衆をおおいに啓蒙して欲しいと思う。


参照
1: Ukraine Crisis Reminds Americans Why NATO Should Not Expand: Not To Ukraine, Georgia, Or Anyone ElseBy Doug Bandow, Forbes, Jul/28/2014




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