2015年10月26日月曜日

MH17便の撃墜、答えられてはいない疑問点 - ロバート・パリー



MH17便の撃墜は多くの人たちに素朴ではあるが、非常に本質的な疑問をもたらした。「いったい誰があの旅客機を撃墜したのか?」

何の証拠も示すことができないにもかかわらず、西側のメデイアは撃墜の数時間後には「ロシアのプーチンが撃墜した」との大合唱を始めた。こういった情報操作のための報道は1年以上も続き、上記の疑念はさらに高まることになった。

こうして、多くの人たちが今年の1013日が来るのを持っていた。当日、オランダの安全委員会が最終調査報告書を発表する予定となっていたからだ。

事故から15か月経ってオランダ安全委が発表した最終報告書は全文(Report MH17 Crash: 279 pages)と要約(Brochure Report MH17 Crash: 20 pages)のふたつの形でインターネット上で入手可能である。

要約の内容を見ると、「撃墜に使われた武器はソ連製のブク地対空ミサイル(9M31型)であり、その弾頭(9N314M型)は操縦席左側上空で爆発した」と結論付けられている。また、「コックピット内、ならびに、3人の乗員の遺体内から発見された破片は非合金鋼であった。これらの破片は立方体および蝶ネクタイの形状をしている」とも報告している。

また、「その発射地点としてはMH17便の飛行経路前方の320平方キロにおよぶ広い地域がミサイル発射の可能性があった区域である」と断定している。また、「ミサイルの発射場所の特定にはさらなる調査が必要である」とも付け加えている。

このオランダ安全委の報告書に関してはさまざまな論評が出回っている。数多くの論評の中でも、私は米政府の諜報部門も含めて幅広い情報源を持っているロバート・パリーの論評 [1] を取り上げて、それを読者の皆さんと共有してみたいと思う。ロバート・パリーは調査報道のベテランであって、今までもこのブログに登場してきた。


<引用開始>



Photo-1: ブク・ミサイル発射装置

オランダ安全委の報告書2014717日に撃墜されたマレーシア航空の旅客機にはブク・ミサイルが使用されたと結論付けている。しかし、誰がそのミサイルを所有していたのか、ならびに、誰が撃墜したのかについては何も断定しはいない。それにもかかわらず、本報告書で恐らくもっとも際立っている点はその報告書には書かれてはいないことである。即ち、米国はこの惨劇に関しては何の情報も提供してはいないという事実である。 

今もって吠えつこうとはしない犬がいる。米国のスパイ衛星やその他の情報源が入手している筈の証拠はこの報告書からは欠如したままである。米国務長官のジョン・ケリーは撃墜の3日後にはミサイルが打ち上げられた場所を正確に示した。これは誰がミサイルを発射したのかを確定する上で重要な情報である。 

2014720日、ジョン・ケリーはNBC の「Meet the Press」 という番組で「我々はこの発射をとらえている。その軌道も分っている。ミサイルが何処から来たのかについても分っている。そのタイミングも分っている。あれはちょうどこの旅客機がレーダーから消えた時だった」と述べた。

しかし、そのような米国政府の情報は279ページもあるオランダの報告書では一言も言及されてはおらず、同報告書は誰がMH17便を撃墜したのかということよりも、むしろ、民間旅客機に対してウクライナ東部の空域を封鎖しなかったという過失や墜落の原因に関心を集中している。オランダの犯罪面からの捜査は依然として別途進められており、その目標はいったい誰が罪を犯したのかを特定することにあるのだが、近い内に結論付けられるという兆候は見られない。

私は今年の始めに米国の諜報関係者からは次のように聞いていた。つまり、CIA の分析専門家がオランダの調査官と会って、機密扱いにするとの前提の下で米国所有の極秘情報が何を示しているのかを説明したという。

米諜報筋からの説明を受けている別の情報源からは私は昨年こう聞いた。諜報関係者らは「ウクライナ政府内のごろつき共が、ある新興財閥と結託して、撃墜したのだ」と判断している。一方、ポロシェンコ大統領やヤツニュク首相といった政府高官はこれには関与してはいない。しかし、この米国の分析内容が諜報部門全体の意見であるのか、それとも、単に反体制派の意見であるのかに関しては私は特定することはできなかった。

昨年の10月、デア・シュピーゲル誌は、ドイツの諜報部門(BND)はミサイル発射装置の出処はロシアではなく、ウクライナ軍の基地で入手したものであると判断しており、同ミサイルを発射したのは親ロ分離派であると結論付けている。しかしながら、ヨーロッパの消息筋はBND の分析はデア・シュピーゲル誌が説明した程にはその証拠が決定的ではないと私には言っている。

火曜日に公開されたオランダの報告書はこれらの相矛盾する説明を解き明かすものではないが、ロシアのブク地対空ミサイルのメーカーが解析した結果とは合致する。[訳注:メーカーはアルマス・アンテイ社。同社の技術者が行った解析結果は201563日付けの「MH17便撃墜事件を再訪 - ロシアの軍需産業技術者からの詳細報告書」と題した「芳ちゃんのブログ」でもご紹介しています。] ロシアのミサイル・メーカーはMH17便の墜落現場から回収されたシュラップネルやミサイルの破片は9M38 型ミサイルからのものであり、これは生産がすでに中断された旧型のブク・ミサイルであると報告している。 

この報告書はさらにこうも述べている。「破壊の規模や種類、破壊の範囲やその進行角度、破壊個所の数、機体を貫通した跡の寸法、破壊された機体内で発見された蝶ネクタイ型の破片、等は9M38型や9M38M1型のブク地対空ミサイルに用いられる9N314M型弾頭が引き起こす破壊の形態と一致する。」 

今年の6月、ロシアのメーカー、アルマス・アンテイ社はブク・ミサイルに関する情報をオランダ側へ提供し、同社が機体の残骸を調査した結果、MH-17 便は「9M38M1型のブクM1 ミサイル」によって撃墜されたと述べた同社のCEOであるヤン・ノヴィコフはこの型のミサイルの製造は1999年に中断されたと述べた。

誰がこのミサイルを持っているのか?:

ロシア政府は、9M38型はもはや使用に供されてはいないと主張している。ロシアのタス通信によると、ロシア陸軍防空部隊の前副指揮官、アレクサンダー・ルザンは問題視されている弾頭はロシアが9M317型を使用し始めた15年前にはロシアの備蓄ミサイルから排除されたと述べている。 

9M389M38M、および9M38M1型ミサイルはブク・ミサイル発射装置用のかっての改良型であるが、これらの改良型には同一種類の弾頭が用いられてきた。これらはロシア軍では今や使用されてはいないが、ウクライナはこれらを所有している」と、ルザンは言う。 

「改良型や用いられたミサイルの種類、ならびに、撃墜の場所に基づいて言えば、このブク・ミサイルはウクライナ軍に属するものだ。ところで、ウクライナ軍には三つの軍管区、つまり、カルパチアン、オデッサ、およびキエフがある。これら三つの軍管区は五つ以上のブク対空ミサイル部隊を持っており、ブク、ブクM、ブクM1、等の改良型ミサイルが配備され、100基以上のミサイル発射車両を有している。」 

しかし、ルザンの説明は古い型のブク・ミサイルがロシアの武器庫にも保管されていたかも知れないという可能性を完全に打ち消すことはできそうもない。古い型の、余剰となっている武器を反政府派に引き渡すことは諜報部門の活動としては、CIAも含めて、ごく普通にあり得ることである。これは、たとえ当該武器の出処が問われたとしても、それを否定し続けることを容易にするためだ。 

一方、ウクライナ政府は古いブク・ミサイルの在庫はジョージアへ売却したと主張しているが、ウクライナが所有する武器の写真に基づいて言うと、ウクライナは依然として9M38型のブク・ミサイルを所有しているようだ。MH-17 便撃墜事件が起こる前のことではあるが、ウクライナ東部の親ロ分離派はウクライナ政府の基地を襲撃してブク・ミサイルを手に入れたと報道されている。しかし、オランダの報告書によると、そのミサイルは使い物にはならないとウクライナ当局が言っている。反政府派も使用可能なブク・ミサイルの所有については否定している。

ミサイルの発射場所に関しては、オランダの報告書はウクライナ東部の320平方キロの範囲内にあるいかなる地点も発射場所となり得ると報告している。これは発射地点が反政府派あるいは政府軍のどちらの勢力範囲下にあったのかを特定することは非常に難しいことを示している。20147月の時点では前線の位置は流動的であったことや激しい戦闘は北部で行われていた事実を考慮すると、南部の前線に沿っては移動式ミサイル発射装置が一方の側から他方の側へ移動することは可能であっただろうと思われる。

オランダの報告書はMH-17 便は空対空ミサイルによって撃墜されたのかも知れないと言うロシア高官によって提起されたもう一つの想定は信用できないとして捨てた。オランダはウクライナ空軍の戦闘機がこの地域で活動していたとするロシア側のデータを却下し、それに代わって、オランダにとってはもっと完璧なデータであると思われるウクライナのデータを採用した。

また、本報告書はロシアが主張した他の証拠も無視した。これにはブク・ミサイルを使って航空機を狙う際に用いられるレーダー装置を稼働させていたという事実を示すウクライナ政府が所有している筈の電子データも含まれる。ロシアのアンドレイ・カルトポロフ中将は20147月中旬にブク・ミサイルをウクライナ東部のある地点へ移動させたことについてウクライナ政府に説明を求めた。キエフのクポルM19S18レーダー(これはブク・ミサイルの飛行状態を調整・制御するために用いられる)の活動がどうして717日の撃墜の日に向けて活発になったのかを問うていた。

米国が所有する情報についてはまったく沈黙:

オランダ主導の事故調査では、恐らく、ウクライナ政府の拒否権によって報告書に盛り込まれた内容は妥協の産物となった。とは言え、オランダの報告書がもっとも声高に主張しているのは米国が所有しながらも沈黙したままにしている情報である。もしも、ケリーが主張したように、米国政府は問題のミサイルが何処から発射されたのかを直ちに感知していたならば、なぜその情報を秘密のままにしているのか? 

米国の諜報活動にとってはウクライナ東部の紛争はこの上なく重要であることから、ウクライナは2014年の7月においては高度の優先順位が与えられ、この地域には潤沢な資源が投入された。これには衛星による監視、電子盗聴、ならびに人的資源が含まれる。航空機の撃墜後の週末に急遽行った発言で、どうせそんなことだろうとしてケリーは認めたのである。 

しかし、オバマ政権は米国が所有する情報を公開することは拒んだ。米国政府筋によると、遅れ馳せながらも、CIAの分析担当官はオランダの調査官に対して説明を行った。しかしながら、その内容は極秘のままにされている。

別の消息筋は私にはこう話してくれた。米国は何故に所有している情報を公開しないのかというと、初期の段階でケリーや他の高官らがすべてを親ロ分離派のせいにし、間接的とは言えロシアのウラジミール・プーチン大統領に責任を擦り付け、プーチン大統領が反政府派の連中に旅客機を撃墜することが可能な武器を与えたとして非難していたこと、等と矛盾することになってしまうからだと言った。

ロシア側の否定にもかかわらず、298人もの乗員・乗客を殺害したMH-17便の撃墜に関する世界中の嫌悪の念は反プーチンのプロパガンダには強力な勢いを与え、ロシアがウクライナへ介入したことに対する罰として米国はEUに厳しい対ロ経済制裁を課すことを要求した。EUがそれに納得できるように仕向けたのである。この消息通による説明によると、ウクライナのごろつき共が実行したという事実を認めてしまうと、それはロシアに対して振り回している強力なプロパガンダの棍棒を引っ込めることになってしまうのだ。

バラク・オバマ大統領に米国が所有する情報を公開するように要請した組織のひとつとして「ベテラン・インテリジェンス・プロフェッショナルズ・フォー・サニティー」(VIPS)という団体がある。これはほとんどが引退した米国諜報分析の専門家たちで構成された集団である。まさに冷戦のような舌戦が拡大し続ける最中、2014729日、撃墜から12日後のことであったが、VIPS はこう書いている。「諜報の専門家として我々は一部の情報をプロらしくはなく、不公正に使用することには赤面するような思いがする… もしも政府が決定的な証拠を所有しているのであれば、我々はアメリカ人として政府に対してその証拠を、これ以上遅延することなく、公開する何らかの策を見い出すよう希望する。直接的であるにせよ、間接的であるにせよ、ロシアに罪を擦り付けることにおいて、特に、ジョン・ケリー国務長官は断定的に振る舞っている。しかし、証拠は決して断定的であるとは言えない。」 

しかしながら、米国が所有するデータについては何らの言及をすることもなく、オランダの最終報告書が発行された。これは米国政府は政府所有の証拠を今後も隠し続けるということを示唆している。この欠如したままの証拠は、シャーロック・ホームズが「白銀号事件」の謎解きをする際に極めて重要な事実を用いたように、吠えつかない犬の役割を演じることになろう。あのミステリーでは、名探偵は犬が吠えつかなかったことこそが犯人であることを如実に示したのだと種明かしをしてくれた。

<引用終了>


米政府は振り上げた刀を降ろすことができなくなって、自分たちが所有しているスパイ衛星で入手した証拠や電子盗聴のデータを今さら公開することはできないのだとする消息筋の説明はさもありなんという感じがする。つまり、辻褄を合わせられないということは自作自演の民間航空機の撃墜が計画通りには進まなかったということを意味している。あるいは、計画そのものが杜撰であったのだ。

米国が所有している筈の衛星写真等の情報との関連で言えば、折から、黒海ではブルガリア、ルーマニア、トルコ、ギリシャ、イタリア、英国および米国が参加するNATO海軍の演習が行われていた(SEA BREEZE 2014)。10日間の演習はちょうど717日に終了となった。ちょうど、マレーシア航空のMH-17便が撃墜された日である。識者の言によると、情報戦の演習のために米国のスパイ衛星はウクライナ上空に位置していたとのことである。これは単なる偶然だったのだろうか?

世界でも最高のレベルにある軍事技術を駆使して、毎日24時間、情報集めを行っていた筈の米国からは何らの情報インプットもされてはいない現実を見せられて、「298人もの犠牲者を出したこの事故はいったいどう受け止めたらいいんだ」、あるいは、「政治とは何と酷いことを仕出かすんだろう」といった、やりきれない思いが募るばかりである。

著者のロバート・パリーは「沈黙をしている米国政府(ならびにキエフ政府)こそが真犯人ではないか」と言っているのである。これから年末にかけて、オランダの刑事捜査の結果が何を報告してくれるのか、興味深い限りだ。

しかし、ロシアと米国との関係は今急速に変化しつつある。この現実が米国のウクライナ政策にも変化をもたらすならば、関連情報の公開に関する米国の姿勢が急激に変わったとしても決しておかしくはない。特に、オバマ大統領としては任期が1年しかない。世界の歴史に名を残すことができる実務の時間は短くなる一方である。


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ロシアのミサイル・メーカー、アルマス・アンテイ社は今年の56日に「あれはブクM1ミサイルだった」と題する技術報告書を公開した。その内容は、上記に述べたように、私のブログにも収録している。

同社はそれ以降も実物を使った実験を2回も繰り返して、1013日にその最終報告を行った。
アルマス・アンテイ社の報告内容は、もちろん、オランダの安全委の最終報告書の内容とは異なる。もっとも大きな違いはブクミサイルが発射されたと推測される地点に関する考察である。専門家の知識を駆使して行われた解析や地道な実験を繰り返して得られた結論はこの上なく貴重であると言えよう。

発射地点の特定は、今後、中心的な論争点になると思われる。

アルマス・アンテイ社の最近の報告に関する1013日付けの記事 [2] を下記に掲載して、新たに報告された内容を確認しておきたいと思う。これはMH17便撃墜事件の真相を知りたいと思う人たちにとっては非常に重要な情報である。


<引用開始>

マスクワ、1013/タス通信ロシアの武器メーカー「アルマス・アンテイ」社の専門家らはマレーシア航空MH17便に向けて地対空ミサイルが発射されたと推定される地点を高精度に特定した。

「発射地点と推定される地点は一辺が3~4キロ、もう一方の辺が4キロの区域内にある」と、同社のヤン・ノヴィコフCEOが報告した。

ロシアの指導的なミサイル・メーカーであるアルマス・アンテイ社は実験を行い、「MH17 便はウクライナ軍のコントロール下にあったザロシチェンスコエの集落から発射されたミサイルによって撃墜された」と、この火曜日(1013日)、ヤン・ノヴィコフCEOが述べた。

2回目に行われた実験の結果はミサイル発射場所についてのオランダ安全委の結論を完全に覆すものだ」と、ノヴィコフは言う。「マレーシア航空のボーイング機がブク・ミサイルによって撃墜されたとするならば、そのミサイルはザロシチェンスコエから発射された9M38型ミサイルによって撃墜されたのだと我々は明言することができる。」 

アルマス・アンテイ社の設計部門の顧問を務めるミカエル・マリシェフスキーは報道陣にこう言った。「もしも、国際調査団が主張しているように、スネジノエの集落からミサイルが発射されたとすれば、MH17便のエンジンや左翼には損傷を与えることはあり得ない。メーカーの経営陣によると、これは同メーカーが実施した3Dモデリングによってはっきりと示されている。」 

「高速で飛翔する破片(シュラップネル)の中でどの破片が機体と衝突するのかを図式的に確かめるために、我々は3Dモデルのシミュレーションを行った。ザロシチェンスコエから発射されたミサイルの少なくとも22個の破片は左側のエンジンに衝突した。そして、二番目には、スネジノエから発射されたミサイルについてもモデリングを行った。この場合のミサイルからの破片は左翼や左側エンジンには一個も衝突しなかった。」 

メーカーの言: 「オランダの調査団が示した破片(シュラップネル)MH17便を撃墜したものではない。」

また、これらの実験の結果、MH17便は当初提案されていたミサイルよりももっと古い型式のミサイルが用いられていたことが分かった。このより古い型式の破片は国際調査団が示した蝶ネクタイ(アイ・ビーム)の形状ではないのだ。 

アルマス・アンテイ社のヤン・ノヴィコフ社長は「国際調査団は9M38M1型ミサイルと合致するアイ・ビームの形状をした三個のシュラップネルを提示した」と言った。

731日、9M38M1型のシュラップネルを用いてアルミ製の楯に向かって撃ち出す最初の実験を行った。この実験によって明白になったことがある。もしもマレーシア航空のボーイング機がブクM1ミサイルによって撃墜されたのだとするならば、実際のミサイルはアイ・ビーム形状の破片を持ってはいない9M38型のミサイルである。この実験から得たデータは8月の始めには(国際調査団にとっても)入手可能となった。しかしながら、我々の知る限りでは、この情報は最終報告書には採用されなかった」と、ノヴィコフは述べた。 

この9M38型ミサイルはロシア軍の使用からは撤去された。 

「もしもブク・ミサイルであったとするならば、それは明らかに9M38型のミサイルである。この型式の最後のミサイルは1986年にソ連邦で製造された。これらのミサイルの役務期間は、設計部門長の判断の結果、すべての延命策を講じたとしても25年間と定められた。この件に関しては特定の手続きがある。この期限が過ぎると、ミサイルの使用は禁止され、これらのミサイルは役務から撤去される」と、ノヴィコフは言った。

アルマス・アンテイ社の設計部門の顧問によると、9M38M1型ミサイルのシュラップネルは機体に蝶のような形状をした典型的な疵跡を残す筈であるが、破壊された機体にはそのような痕跡がまったく見当たらないのである。

「もしも9M38M1型のミサイルによって撃墜されたのだとするならば、あのボーイング機にはそのような痕跡が残されている筈だ」と、彼は述べた。 

ロシアの国営企業で武器メーカーであるアルマス・アンテイ社は2014年にウクライナでブクM1ミサイルによって撃墜されたボーイング777型機の破壊された機体を示した。

アルマス・アンテイ社は破壊の様子を再現するために実物大の実験を行った。記者会見の場からタス通信の記者が行った報告によると、機体の破片はミサイル攻撃を受けて痕跡を残した金属板に相当する。これは1013日に行った実験の結果得られたものであると武器メーカーは説明した。

アルマス・アンテイ社のCEO によると、同社はマレーシア航空のMH17便事件を独自に調査するための実験で1千万ルーブル(約16万ドル)を費やした。

「我々はこの実験に総力を結集し、破壊の状況を数学的にモデル化した… この作業では莫大な量の情報を寄せ集め、金に糸目は付けなかった」と、ノヴィコフは述べた。 

6月の始め、アルマス・アンテイ社はMH17便の撃墜に関して自分たちが行った調査結果を公表した。同社の技術者たちは、問題の旅客機はザロシチェンスコエ集落の南に位置する地点か発射された9M38M1型のブクM1ミサイルによって撃墜されたのだとする結論に到達した。同社はウクライナはこの種類のミサイルを所有していることに注目してはいるが、旅客機の撃墜をウクライナ軍または反政府勢力の責任に擦り付けることはしなかった。これとは別個の可能性についてもアルマス・アンテイ社は排除してはいない。

MH17便の撃墜:

2014717日、マレーシア航空のボーイング777型機、MH17便はオランダのアムステルダムを発ってマレーシアの首都、クアラルンプールへ向かう飛行中にウクライナ東部のドネツク地域で墜落し、乗員と乗客の全員が死亡した。乗客のほとんど(193人)はオランダ人であった。この墜落の原因として考えられるのは地対空ミサイルによる撃墜であった。

本日、オランダは2014年にウクライナ東部で撃墜されたMH17便について15カ月にわたってオランダ安全委が実施した調査の結果が公表されることになっている。この調査は誰がこの惨劇に関与したのかについての調査ではなく、むしろ、墜落事故の原因を技術的な観点から究明することに注力した。オランダ検察当局は撃墜に関与した犯人を究明するために別個の刑事捜査を実施中である。

本調査の参加国はオーストラリア、英国、マレーシア、オランダ、ロシア、米国、およびウクライナである。暫定的な調査報告書は61日に提示された。参加各国はその後の2か月間に報告書に関する修正内容を提言できることとなっていたが、そうした修正が実際に考慮されたのかどうかは不明のままである。

<引用終了>


オランダ主導の国際調査の目的は、撃墜に関与したのは誰かを究明することではなく、旅客機の墜落の原因を技術的な観点から究明することにあったとは言え、結局のところ、この技術的な調査は政治的な結論で終わった。ロシアのミサイル・メーカーからは専門家の手による詳細な解析の結果を受け取っていながらも、そのデータを客観的に扱うことはしなかった。ましてや、米国政府の沈黙を破ることなどはできなかった。

オランダの最終報告書はオランダ安全委の限界を示すことになったと言えよう。非常に残念なことではあるが、オランダ安全委は倫理観においても、事故調査のプロとしての技術面においてもその能力を十分に発揮せずに終わった。


参照:

1 MH-17: The Dog Still Not Barking: By Robert Parry, Consortium News, Oct/13/2015, consortiumnews.com/.../mh-17-the-dog-still-not-barkin...

2Russian missile maker traces site of missil launch against flight MH17 with 4 km accuracy: By TASS, Oct/13/2015, tass.ru/en/world/828312 




2 件のコメント:

  1. 少し前の読売の社説
    http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20151018-OYT1T50091.html
    この社説氏にとっては、オランダの「最終レポート」を疑う事など思いも寄らぬことなのでしょう。素人の小生から見ても、ボイスレコーダーも、ウクライナ管制官との交信も、撃墜時間違いなく上空にあった米国の軍事衛星の写真にも全く触れない「最終レポート」を信じることなど到底無理だと思いますが、プロの西側ジャーナリストはそう考えないようです。

    最近ではシリアの露軍空爆の報道もそうです。ロシアは民間人を殺していると。要は結論ありきなのですね。最初から記事タイトルは決まっていて、内容は適当にそれらしく作文する。現実を「あるべき姿」に合わせていくという伝え方です。真実など青二才の戯言だ。もっと大人になれ。とでも言うのでしょうが、この状態が続くと言葉が死に絶え、嘘が嘘でなくなり、間違いが間違いでなくなる。反省など出来ない社会になり、衰退の一途を辿ると思います。ソ連の末期はそういう状態でした。ソ連時代は「我々の社会には間違いは存在しない」と嘯いていたことを反省して今日のロシアがあると、最近テレビを見ていてそう思います。「誤り」「失敗」「間違い」を修正できるシステムを内包するのが「民主主義」の筈ですが、ソ連崩壊以降、米国を中心としてこのフィードバック機能が決定的に失われているようです。こういう社会は落ちぶれる一方でしょう。

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    1. 石井さん、

      コメント、有難うございます。

      石井さんのご意見にまったく同感です。オランダの安全委の最終報告書はまったく不完全ですよね。自分たち(つまり、米国主導の西側)の筋書きに沿った報告書でしかないと言えます。事故の本当の原因を追究しようとする姿勢は残念ながら見られません。

      ご紹介いただいた「マレー機撃墜 ロシアは事件捜査に協力せよ」と題した読売新聞の社説を呼んでみました。
      私に言わせると、この社説の表題は「マレー機撃墜 米国は事件捜査に協力せよ」と変更して、内容を全面的に書き換えるべきでしょうね。日米同盟を先ず第一に考える読売らしい記事ですよね。真実を伝えようとするジャーナリストの姿勢は全然無く、これは米国に追従する日本政府を支えるメデイアとしては教科書的な社説と言ったらいいのでしょうか。

      もうひとつ大事な点は我々一般庶民はメデイアにすっかり愚弄されているという事実を認めなければならないと思います。ここまでバカにされているのかという憤りを感じてしまいます。

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