2016年12月6日火曜日

それは我々次第だ



米大統領選ではどうしてトランプが勝利を手にすることができたのであろうか。今、さまざまな見解がインターネットを賑わしている。

そして、世界の将来像に関して日本でも、ロシアでも、ヨーロッパでもそれぞれ違った見方がたくさん出回っている。世界に対する米国の覇権が揺らぎ始めたとは言え、トランプ次期米大統領が描く世界像は広く関心を集めている。

今回の米大統領選が見せた新しい基本的な潮流は草の根的な一般庶民が政治的に覚醒したことにあると見られる。西海岸や東部の都市部に強い民主党のクリントンは捨てられ、経済的に疲弊している中西部や南部の州の住民は多くがトランプを選んだのである。換言すると、多くの住民が既存の政治路線、つまり、寡頭制や軍産複合体に支配された対外政策には決別して、まったく新しい政治を求めているのだ。

興味深いことには、フランスやドイツにおいても、来年の大統領選に向けて、今、米国の潮流と同じような胎動が感じられる。124日、イタリアでは首相が提案した憲法改正に関する住民投票が行われたが、反対が多数を占め、首相は辞任に追い込まれている。ここでも、権力者対民衆の構図で争われ、民衆が勝ったのだ。

そんな世相に答えるかのような興味深い記事が見つかった [注1]。その表題は「それは我々次第だ」と題されている。

本日はその記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

ドナルド・トランプは彼が人種偏見主義的であり、女性嫌いであって、米国人たちもそうだからこそ、この選挙に勝ったのだろうか? 

そうではない。そのような見方は権力層からたっぷりと給料を貰っている連中や「リベラルな進歩派」、シンクタンク、あるいは、大学の連中のたわ言に過ぎない。

トランプが選挙を盗んだからこそ、この選挙に勝ったのだろうか?

それもたわ言だ。投票装置をことごとくコントロール下に置いているのは権力層だ。彼らは今回の選挙を盗むことには失敗した。世論調査ではヒラリーに投票をしたいと言いながらも、実際の投票では多くの市民が権力層を出し抜いたのだ。ヒラリーは間違いなく勝利するというプレスティチュートのプロパガンダが独り歩きし、権力層は自分たちが推進していたプロパガンダ路線を信じ込んでしまい、自分たちの勝利を確実にしなければならないなんて夢にも思わなかった。

[訳注: 「プレスティチュート」とは「プレス」と「プロスティチュート」との合成語。この新語はジャーナリズムの腐敗ぶりを表現する言葉として米国では多用されている。]

トランプは米国の市民に直接語りかけ、真実を喋ったので大統領選に勝った。彼は市民らが以前から知っていることだけではなく、今まで政治家が口にしたこともないようなことまでも喋ったのである。たとえば、こんな具合だ:

「我々の新政府は、失敗に失敗を重ね、腐敗し切っている政治的権力層をあなたたちによって、つまり、米国市民によってコントロールされた政府で置き換える積りだ。権力層の連中は何十億ドルもの金をこの選挙に賭けている。ワシントンで権力のレバーを握っている連中、ならびに、彼らと連携してグローバルな規模で特別な利害関係を持っている連中はあなた方のためになることなどは何も考えようとはしない。我々の動きを止めようとする政治的権力層こそがわれわれに惨めな自由貿易協定をもたらし、大量の不法移民を放置し、この国の富を流失させてきた経済政策や対外政策にかかわってきた張本人なのだ。」

「経済に関する意思決定に関与しているのはグロ-バルな権力構造だ。この構造こそがわれわれの労働者階級を強奪し、この国の富を略奪して、その金を一握りの巨大企業や政治家集団のポケットに押し込んできたのだ。この腐敗し切ったマシーンを止めることが出来るのはあんた方だけだ。我が国を救うことが出来る唯一の勢力は俺たち自身だ。この堕落した権力者集団を出し抜いて選挙で勝ち抜くことができるのはあんた方、米国市民だ。」

トランプは投票者に多くの約束をしたわけではない。彼はあれについても解決する、これについても解決すると言ったわけではない。彼はほころびてしまったわれわれの国を修復できるのは米国市民たちだけだと主張し、彼自身は有権者から付託された権限を行使するエージェントであると言う。

市民たちはこの選挙戦を勝ち抜いたが、権力層は依然としてそこに存在している。しかも、前と同じように強力なままだ。彼らは、トランプの合法性を認めないとして、メディア界における彼らの追従者やリベラルな進歩派グループを介して抗議や請願およびフェーク(偽)・ニュースを使ってすでに攻撃を開始している。ジョージ・ソロスは、彼がかって英国通貨に対して攻撃を仕掛けて大儲けした金を使って、トランプ新政権の発足を邪魔しようとして何千人ものデモ参加者に金を支払うことだろう。

トランプの動きはどうだろうか?トランプ自身が見い出したように、寡頭制の経済や対外政策を操る権力層には属さないような人物を指名することは非常に難しい。ワシントンは批判者や反対者が心地よく感じることができるような場所ではない。たとえば、パット・ブキャナンのことを考えてみよう。ふたつの政権でホワイトハウスの高官として勤め、二回も大統領候補になった。彼は非常に経験豊かな人物である。しかしながら、ワシントンは彼を脇に押しやってしまった。

さらには、たとえ部外者のための居場所を見つけたとしても、部外者は内部の連中によって生きたまま喰われてしまうことだろう。トランプは部内者を採用しなければならないだろう。しかし、彼はある程度は自己主張がはっきりしている部内者を任命しなければならない。マイケル・フリン将軍を国家安全保障担当補佐官に任命したことは決して悪い選択ではない。フリンはシリアに対してISISを採用することについては反対だとオバマ政権に提言した前国防情報局長官である。シリアにおけるISISの出現はオバマ政権の「意図的な意思決定」の産物であると、フリンはテレビで公言している。換言すると、ISISはワシントンのエージェントであり、それが故にオバマ政権はISIS を防護したのだ。

トランプの首席補佐官となるプリーバスや最高戦略責任者となるバノンは妥当な選択である。セッションズ(検事総長)とポンペオ(CIA長官)は彼らのメディアが名声を盛り挙げたものであって、いささか気に掛かる指名だ。とは言え、もしもセッションズが拷問を認めるようであるならば、憲法が拷問を禁止していることから、彼は検事総長には向かない。米国としては米国憲法を支持しない検事総長がまたもや出現することは許容することができない。

もしもポンぺオが実際には余りにも情報不足であったが故にイランとの和解に反対したというのであれば、彼はCIA 長官には向かない。イランは核兵器プログラムを持ってはいないと CIA自身が言い、ロシアの助けを得てあの問題を解決したのである。トランプはネオコンの連中がイランとの喧嘩を再開するために使えそうなCIA 長官を望んでいるのであろうか?

セッションズやポンぺオの見解は時世の産物であると言えそうであって、心の底からそう思っているものではなさそうだ。とにかく、トランプは強靭で、強情な人物である。もしもトランプがロシア人や中国人との和平を望むならば、邪魔をしようとする指名者は更迭されるだろう。まあ、トランプ政権をこき下ろす前に、まずは同政権が何をするのかを注視しようではないか。

過激なネオコンであるジョン・ボルトン、あるいは、以前は地方検事を務め、ニューヨーク市長を歴任したルディ―・ジウリアーニが国務長官の候補者として挙げられているというプレスティチュートの報道は信用出来そうにはない。もしもトランプがプーチンと仲良くやって行きたいと思うならば、彼の国務長官がロシアとの戦争を望むようではトランプはいったいどうやってロシアとの和平を実現するのだろうか?トランプは旧ソ連邦と交渉をした経験を持つ外交官を見つけるべきである。リチャード・バートは戦略兵器制限交渉で重要な役割を担ったことから、彼は理に適った人選ではないだろうか。もう一人の妥当な候補者としてはリーガン政権時代に駐ソ連邦米国大使を務めたジャック・マトロックが挙げられる。

もしもトランプがロシアとの和平を望むならば、国務長官の任命は非常に重要なものとなる。もしもトランプとしては権力層が米国市民を略奪することを何としてでも中断させたいならば、国務長官の任命は非常に重要なものとなろう。

過去3代の大統領の下では、財務長官は潰すには余りにも巨大な銀行やウールストリートのためのエージェントであった。金融ギャングが財務省を抱き込むことは、今や、伝統と化してしまっている。この伝統が余りにも強固であって、トランプにはそれを壊すことが出来ないのかどうかは時を待つしかない。

権力層はトランプ大統領が就任する前に彼の信用を落とそうとしいる。この動きはリベラル派や進歩派が移民法を執行しようとはしないこと、同性愛者や性転換者の権利を擁護すること、等を表面化させ、逆に彼ら自身の信用を落とすことになろう。しかし、これらの課題は経済的な富が減少するばかりで、過去の15年間はネオコンの覇権を推進する政策を支え、軍部・警備の複合体に利益や権力をもたらしただけの戦争にすっかり飽きてしまっている有権者にとっては重要な争点ではないのである。

The Saker [訳注: 米国の多言語ブログ・サイトのひとつであって、ロシアの情勢について詳しい分析を提供することで人気を博している] の報告によると、プーチンは ロシア国内の第5列部隊の一員である汎大西洋主義者の影響力を低減するために、彼らを排除し始めた。トランプがわれわれの国の第5列部隊、つまり、米国の市民や米国の品位を売り渡したネオコンの連中やネオリベラル派を排除することが出来るかどうかに注目しよう。

[訳注: 「汎大西洋主義」とはロシアではEUや米国との協調を重視しようとする一派を指し、中国や中央アジア諸国との連携を強めようとしているプーチン路線とは異なる。また、「第5列部隊」とは戦争などで敵を支持するグループを指す。第二次世界大戦前のスペイン内戦で使われた言葉が定着したもの。]

もしもトランプが成功しなかったならば、米国の市民に残される唯一の解決策はもっと急進的になることしかない。 

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士はリーガン政権にて財務省の副長官を務め、経済政策を担当した。また、ウールストリートジャーナル紙の共同編集者の任にも就いた。ビジネスウィーク、スクリップス・ハワード・ニュースサービス、クリエーターズ・シンジケート、等でコラム記事を執筆した。多くの大学から招聘を受けた。彼のインターネットでのコラムは世界中のファンの関心を呼んでいる。近著: The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West, How America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Order.

<引用終了>


これで、仮訳が終了した。

今回の米国の大統領選は革命的であるという指摘もある。それは、この選挙を通じて、有権者は権力層が推進していたヒラリー・クリントンを捨てて、ドナルト・トランプを勝利させたからだ。

ヒラリー・クリントンを支持していた権力層とは米国の有権者の1パーセントのことであり、米国の資本主義を支える大富豪や軍産複合体、大銀行、多国籍企業、それらを取り巻き、情報を操り、一般大衆をひとつの方向に誘導しようとしていた大手メディア、等が含まれる。そして、残りの99パーセントは民主党と共和党に二分された。

クリントン支持派は「自分たちが推進してきたプロパガンダを信じ込んでしまって、クリントンの勝利を確実なものにしようなんて夢にも思わなかった・・・」という指摘は痛快だ。彼らは熱狂した挙げ句に、自己暗示に陥り、冷静な判断が出来なくなったのだ。競争相手であるトランプの選挙演説会場は大入り満員であるにもかかわらず、自分たちの会場では有権者を十分に動員できなかった。挙げ句の果てには、報道に使われる写真を加工して、あたかも数多くの有権者が駆け付けたかのように見せるべく改ざんさえも行った。そうした目に見える現実がありながらも、自己陶酔のあまりに彼らは盲目になっていたのだ。

フェーク・ニュースは昔から存在していた。しかし、今回の大統領選では大手メディアによるフェーク・ニュースの横暴振りはその極に達した。それだけに、118日の開票結果はクリントンを支持していた権力層には大きなショックを与えた。米国の大手メディアは自らの手で自分たちのために大きな墓穴を掘ったことに今気付いている筈だ。

それとも、一部の者にとってはこの大統領選の展開のすべては最初からシナリオ通りであったのであろうか。私には分からない。

要は、一国の将来を決めるのは一般大衆だとする古くて新しい方程式が、今、その勢いを増しているかのようだ。資本主義国ではどこの国でも富裕層とそれ以外の大多数の持たざる者たちとの間では富の配分が過剰なまでに偏ってしまっている。今までの民主主義は権力者たちの意向に沿って展開されて来た。そこには、大多数の一般民衆に対する情報操作や洗脳さえもが巧妙な形で動員された。今、一般大衆はその現実に明確に気付いたのだ。

今回の米国での大統領選の結果はこれまで見られていた現実に対する反発であり、民主主義の本質を探ろうとする動きであるのかも知れない。そういう意味で、すべては我々次第なのである。

有権者は今までの政治の在り方にうんざりしている。米国ではトランプの勝利となった。英国では欧州同盟からの脱退となった。そして、今度はイタリアでも政府が提案した憲法改革案が拒否された。権力層にとっては脅威の時代がやって来たとも言えよう。要は、有権者が日頃感じている政治に対する不満感を建設的な政治への参画に結集させることができるかどうかだ。政治家は本気で有権者の声なき声を聞かなければならない。

この構図は日本にも当てはまりそうだ。

最後にこの著者は「もしもトランプ政権が有権者の期待に応えなかったとしたら、有権者はもっと急進的にならなければならない」と述べている。それは、質的には一般大衆が政治に目覚めることであり、量的には一人でも多くの庶民が覚醒しなければならないという意味であろうか。それがなくしては、米国における極端に偏った富の配分が是正されることはない。ネオリベラリズム、あるいは、ネオキャピタリズムによって米国の社会から消えてしまいそうだとも言われている中産階級が復帰してくることはないだろう。

米国においてさえも、本当の民主主義はこれからなのである。今後の4年間、有権者から付託を受けたトランプ大統領が有権者のエージェントとして働いてくれるのかどうかに注目して行きたいと思う。



参照:

注1: It Is Up To Us: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Nov/24/2016







4 件のコメント:

  1. いつも非常にためになる記事を翻訳して頂き感謝しております。
    日本の現状は、
    鎌倉時代の『名こそ惜しけれ』の精神や、室町時代から密かに始まった『侘び寂び』などの日本の美は、ゴミ箱に捨てられ、
     官僚と政治家だけが特権をもち、グローバル企業が国政にも介入するTPPなどを可決させるなど、悪徳のペンタゴンの全盛です。
     ※悪徳のペンタゴンは植草一秀先生が定義『「政治屋(政)・特権官僚(官)・大資本(業)・米国(外)・御用メディア(電)」=「悪徳のペンタゴン」』

     見渡せば 花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの 秋の夕暮れ

                            藤原 定家 

    この歌のような雅の日本に復活してほしいと、常日頃感じております。

     さて、貴記事『芳ちゃんブログ』の一部を拙作の写真ブログに転載させて頂いて宜しいでしょうか。(職業カメラマン)
     貴ブログのように上品ではなく、かなり感情的に殴り書きしている場合もありまして、恥ずかしい限りですが、一部引用や一部転載許可を頂きますれば幸いです。
     その場合、出典元のURLは明記させて頂きます。
    煩わしいお願い事ですが、宜しくお願い致します。

    返信削除
  2. Shiragapapa様

    コメントを有難うございます。

    「悪徳のペンタゴン」という言葉を今確認させていただきました。当方、浅学にて、この表現は知らずにおりましたが、全体像を捉えるには見事な表現だと思います。

    小生のブログを一部、もしくは、全体を転載する場合にはその出典元として「芳ちゃんブログ」、あるいは、「yocchan31.blogspot」と明記していただければ十分です。一人でも多くの方々の目に留まれば当方としましては嬉しい限りです。

    写真ブログのご発展を祈願しております。そのブログのURLを教えていただけますでしょうか?

    実は、私も日曜カメラマンとして近くの公園で撮影したものをフェースブックに掲載しています。題材は非常に限られており、専門のカメラマンの方の鑑賞に耐えるものではありませんが、もし宜しかったら、一度私のフェースブック(Yoshimichi Ota)を覗いていただき、掲載している写真についてコメントをいただければ嬉しいです。

    今後ともよろしくお願いします。

    返信削除
  3. こんばんは。快いご返事頂き恐縮です。
    当方のブログは、Tumblrでコメントが難しいようです。(^_^;)
    http://nea-horses.tumblr.com/

    写真をクライアントに販売して生業としていますので、販売商品はアップしておりません。まーほぼ同じようなショットはありますが。^^;
     今後共宜しくお願い致します。
    また、拙作ブログに許可頂いた転載した折は、必ずこのコメント欄にお知らせ致します。ありがとうございました。

    返信削除
  4. ブログを拝見しました。素晴らしい写真が多数。また、アオサギとコサギの分類の仕方がDNA解析の結果を反映して変更になっているという話を知り、興味が倍増しています。有難うございます。

    返信削除