副題:米国の存在が薄れようとしている
1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊し、1991年12月25日にはソ連邦が崩壊した。これらの一連の出来事によって何十年も続いて来た東西の冷戦には終止符が打たれた。誰の目にも共産主義のソ連が敗退し、資本主義の米国の一人勝ちが決定的であると映った。
こうして、90年代の初めは米国を有頂天にさせた。しかし、この有頂天振りはとんでもない勘違いであったのかも知れない。2003年に米国はイラクへ侵攻したが、米国は今でもイラクから軍を撤退させることができないままだ。米軍が方々へ派遣され、軍事費は増加するばかりで、米経済を疲弊させている。
冷戦の終結から27年が経過する今、米国による世界規模の支配に関しては「米帝国による覇権は崩れようとしている」、あるいは、「われわれはすでに多極化された世界の中にいる」といったさまざまな見解が出回っている。何を指標にして言うのかによって、見方は大きく分かれるようだ。
米国にはポール・クレイグ・ロバーツというブログ作家がいる。米国政府の政策を率直に批判する論客として定評がある。
ここに、彼の最近の記事がある [注1]。その表題は「米国の崩壊を見ている思いがする」。
本日はこれを仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。米国内の識者のひとりが自分の国をどのように観察しているのかについて学んでおこう。
1950年代から1960年代における米国の社会には活気があった。上向きの動きが顕著で、中産階級が拡大して行った。1970年代にはケインズ学派の需要管理に見られる内部矛盾によって景気が鎮静する中でインフレが進行した。しかし、レーガン政権の供給側経済政策がこの難問を解決した。冷戦を終結する交渉を始めるために、レーガンは健全な経済を引っさげて、自国の経済問題を解決できないでいるソビエト政府に対して圧力をかけた。
ところが、この極めて幸せな展開は、米国においてもソ連においても、国内勢力には歓迎されなかった。米国では強力な軍・安全保障複合体がソビエトからの脅威を失うことに落胆した。ソ連の脅威があったからこそ、彼らの予算や権力が拡大し続けて来たのである。愛国主義的で極右派の保守勢力はレーガンがソビエトを信頼することによって米国を売り渡そうとしていると非難した。米国の右派はレーガン大統領を二流の俳優で、「抜け目のない共産主義者」であると描写した。
ソビエト政府においてはゴルバチョフはもっと大きな問題に直面した。二つの核大国の間で確立された信頼感に基づいてゴルバチョフは東欧に対する手綱を緩めた。ソビエト共産党の強硬派は余りにも多くの事柄が余りにも急速に変化することを目にして、ゴルバチョフはソ連邦をワシントンに売り渡したのだと結論付けた。この結論はゴルバチョフの逮捕へと展開し、この逮捕の結果、ソ連邦と共産党が崩壊した。
共産主義が去って、ロシア人は資本主義に関するマルクスの教えを忘れてしまい、われわれにとっては今や誰もが友達だと思い込んだ。イエルツィン政権は米国の忠告に基づいてすべてを開放し、ナイーブにも米国の忠告を受け入れた。ロシアは略奪され、極貧に陥った。イエルツィンの指導下にあるロシアは米国の操り人形と化した。そのため、ロシア市民は自分たちの生活水準を下げてまで代価を支払うことになった。
ソ連邦の崩壊は通常レーガンに帰され、彼の成功例のひとつと見なされる。しかし、これは作り話だ。私はレーガン政権の財務省で次官補として働き、その後はCIAを召還する権限を持った大統領のための秘密委員会のメンバーでもあった。レーガンは彼の目的は冷戦に勝つことではなく、冷戦を終わらせることだとわれわれに何度も言っていた。
彼はこの仕事に関与する者には誰にでも「目的は核戦争の脅威を終わらせることにあり、相手に侮辱的に映るような凱旋をすることではない。ソビエト側には常に尊敬の念を示さなければならない」と言って聞かせた。
不幸なことに、ロシア人との間でレーガンが築き上げたこの信頼関係は、残念ながら、腐敗し切った犯罪者的なクリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマの政権によって裏切られてしまった。これらの極端に腐敗した政権のせいで、米ロ間の不信感は今や何十年間も続いた冷戦時には存在したこともないような酷い状況にある。犯罪者的なクリントン、ブッシュ、オバマが行ったことはレーガンとゴルバチョフが葬り去った核戦争の可能性を蘇らせた。
私が十分に説明したように、さらには、入手可能な証拠のすべてが支えてくれているように、トランプに対する攻撃は「ロシアゲート」と呼ばれる組織化された批判に依存している。しかし、これには何の証拠もない。これはジョン・ブレナンやジェームズ・コミー、クラッパー、ロッド・ローゼンシュタイン、ミュラー、そして、民主党全国委員会によってでっち上げられたものだ。トランプを大統領執務室から排除するという考えを一般大衆の心に植え付けるために、「ロシアゲート」がその根拠とするあからさまな嘘がプレスティチュートであるメディアによって継続的に繰り返されている。たとえば、次のサイトをご覧いただきたい:
https://www.paulcraigroberts.org/2018/08/23/the-brennan-rosenstein-mueller-comey-presstitute-witch-hunt/
さらには、こちらも: http://thehill.com/opinion/white-house/402959-cohens-plea-deal-is-prosecutors-attempt-to-set-up-trump
ミュラーは、彼を特別検察官として指名した司法長官代理のローゼンシュタインと同様、反トランプの陰謀の重要な一角を成している。二人は米国の大統領を排除しようとする組織化されたクーデターに活発に参画したことから、扇動の罪を犯している。しかしながら、トランプは余りにも非力で彼らを逮捕し、民主主義に対する陰謀で裁判にかけることもできないでいる。トランプ大統領は事実や真実を信用することによって終末的な間違いを仕出かしそうである。これらはどちらも西側文明の乏しい残骸の中ではもはや尊重されてはいない。
かってはインターネット上で入手できる情報は西側の新聞やテレビ、NPRといったプレスティチュート、等によって喧伝された嘘に対抗する勢力として十分に機能してくれるのではないかという期待があった。しかし、これはまったく無駄な期待で終わった。良心的で、信頼できるウェブサイトがいくつも存在するが、支配層のエリートらによって閉鎖され、その数は多くなるばかりだ。支配層のエリートは多くの現金を所有し、オンライン上で発言する者の大半を資金的に支援することができる。資金援助された者は皆が真実に対して反論を唱えるために雇用されるのである。
私は今日ルーツアクションからトランプの弾劾を早期に実現するために募金を募っているとの電子メールを受け取った。彼らのウェブサイトは弾劾文さえをも準備しており、「トランプの元弁護士はトランプ大統領は2016年の大統領選を干渉する陰謀に参画したと言っている」との主張を掲載している。
この非難はトランプの元弁護士であるマイケル・コーエンが発したものだ。この種の非難は被告弁護士であればほとんど誰もが一様に理解する代物であって、マイケル・コーエンは、ハーバード大学法学部のアラン・ダーショウィッツ教授の文言を使うとすれば、ミュラーが何としてでも捕まえたい相手であるトランプ大統領に不利になる証拠を「作文する」ことによって自分自身の脱税に課される罰を軽減しようとするものだ。
私は曖昧さを完全に排除したい。ルーツアクションは、ニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNN、MSNBC、NPR、ならびに、その他諸々のメディアがそうしているように、嘘をついている。二人の女性に対する支払いが問題視されているが、このような申し立てを表に出すために、これらの女性は軍・安全保障複合体から支払いを受けているのかも知れない。あるいは、ヒラリー&ビル・クリントンまたは民主党全国委員会が支払っているのかも知れない。もしくは、彼女らはただ単にドナルド・トランプから大金をむしり取る絶好の機会であると判断したのかも知れない。これらの女性に対する支払いは決してルーツアクションが主張しているようなものではない。彼らは「この支払いは米大統領選の結果に不正な影響を与えようとして行った大罪であり、軽犯罪である。これは大統領府からトランプを排除することを正当化させるものであって、弾劾を可能とする犯罪である」と主張している。
誰がルーツアクションに助言を与えているのかは別にしても、この助言者は極めて無能な弁護士だ。さらに付け加えると、ルーツアクションの無知な主張がもたらした彼らの馬鹿さ加減を敢えて指摘すれば、「軽犯罪」は「大罪」ではないし、「大罪」は「重犯罪」である。
私は自分のウェブサイトに「原告に支払いをすることは不法行為ではない」とする法律専門家の見解を掲載している。企業はこのような支払いを何時でも行っている。偽りの主張に対する支払いはその申し立てに関して法廷で反論するよりも遥かに安く決着をつけることが可能だ。大統領選に臨み、党の指名を獲得しようとしている候補者にとっては自分の懐から金をもぎ取ろうとする原告と法廷で戦うことによって気を散らされてもいいとする理由は何もない。
さらには、東西の海岸線の間に居住する米市民が何十年にもわたって晒されてきた職場の海外移転による厳しい苦境、軍・安全保障複合体に対する年間1兆ドルにも達する財源の割り当てによって自分たちの生活水準を低下させられた何百万人もの市民に対して何の救済策をも提供することができないでいる政府の無能振り、一般大衆はロシアを戦争に誘い込むことには関心を抱いてはいないことにトランプが気づいている事、等を考慮すると、ルーツアクションやその他の間抜けな連中はどうしようもないほどに正気を失っていると言わざるを得ない。彼らはトランプに投票した選挙民はトランプが二人の女性と性的な関係を持ったかどうかを気にしていると考える始末だ。米国人が晒されている悲惨な苦境を考慮すると、実際にそのようなことが起こったと想定し、二人の女性と関係を持ったとしても、自分たちのチャンピオンに逆らって投票するのはどう見ても一番最後の行動であろうと思う。
ところが、自分自身の所得税を支払わなかった弁護士による何の証拠もない主張、つまり、より軽い罰則にして貰うことと引き換えに米国の大統領には不利となる偽の証拠を提出することは、ルーツアクションやニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、NPR、CNN、MSNBC、等によれば、米ロ間の非常に危険な緊張を和らげたいとする米国の大統領を弾劾する根拠として見なされるのである。
トランプはロシアとの和平を望んでいる。つまり、彼は彼らの予算と権力を正当化するのには欠かすことができない敵を奪い去ろうとしていることから、軍・安全保障複合体はトランプを弾劾したいのである。
米国人は余りにも愚かで、「ロシアゲート」の主張にはこれっぽちの証拠もないことには気付かないのだろうか?その代わりにわれわれが目にしているのは所得税の脱税に関する起訴であって、これはトランプに対する起訴ではなく、弁護士で共和党の選対委員長でもある人物に対する起訴である。もっと納得がいく起訴をしようと思えば、民主党員に対して起訴をすることが可能であるが、これは実現してはいない。犯罪者的なヒラリー陣営は今まで起訴を免れて来た。
ロシアとの和解を正常化したいとするトランプの意図は人類の生存を継続するために世界中で求められているもっとも中核的な願いであることを認識するために知性を持つ必要なんてこれっぽちもない。核兵器が爆発した暁には、地球の温暖化は今までとは異なる、まったく新しい意味合いを持つことになるであろう。
3人の米国大統領がそれぞれ8年間の任期を終えた後、米ロ関係は冷戦中に経験した緊張とは比較にならないほど危険なものとなっている。私にはこのことは事実として分かる。何故かと言えば、私は冷戦に直接関与していたからだ。
米国だけが軍事大国であると信じる中、無頓着な米国人が見い出す安全保障の姿はどう見ても無知そのものでしかない。クラリティ・プレスから出版されたアンドレイ・マルティアノフの新刊書は米国はせいぜい二流の軍事大国でしかなく、あの間抜けなNATO加盟諸国と共に、ロシアには意のままに、かつ、徹底的に破壊されてしまうだろうと述べている。NATOの加盟国は個々には軍事的に不能である。ロシアが馬鹿馬鹿しい非難や馬鹿馬鹿しい脅かし、あるいは、自分自身の傲慢さに酔いしれて完全に劣等な軍事力を宣伝する馬鹿馬鹿しさ、等に嫌気をさした暁には、現在の軍事力の相関関係において言えば、たとえ西側世界の1インチ平方の土地を救おうとしても西側は何もすることができないであろう。
米国人は余りにも無頓着で、このことを分かろうとはしないが、現実にはロシアの慈悲の下で一日一日を過ごしているのである。
著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策を担当する財務省の次官補を務め、ウオールストリートジャーナルの共同編集者を務めた。彼はビジネスウィークやスクリップス・ハワード・ニュース・サービス、ならびに、クリエーターズ・シンジケートの特別寄稿者も勤めた。彼は数多くの大学から招聘されている。彼のインターネットへの寄稿は世界中の関心を集めている。ロバーツ博士の近著:
The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic
Dissolution of the West、How
America Was Lost、および、The
Neoconservative Threat to World Order。
<引用終了>
これで前文の仮訳は終了した。
私が学校教育を受けていたのは1950年代から1960年代だった。あの頃の米国の存在感は絶大で、テレビで見る米国社会は子供の目にはキラキラと輝いていた。少なくとも私にはそう思えた。
レーガン政権(1981~1989)の下で働いていた著者はレーガン大統領の言葉を伝えている。こういった具体的な言動については私はまったく知らなかった。大手メディアが流すフェークニュースによってこれらも歪曲された真実のひとつであったのだろうか?実に興味深い言葉だ:
レーガンは彼の目的は冷戦に勝つことではなく、冷戦を終わらせることだとわれわれに何度も言っていた。
彼はこの仕事に関与する者には誰にでも「目的は核戦争の脅威を終わらせることにあり、相手に侮辱的に映るような凱旋をすることではない。ソビエト側には常に尊敬の念を示さなければならない」と言って聞かせた。
レーガン大統領がこれほどまで大きな器であったことに私は驚いた。ネオコン連中が評した二流の俳優どころか、彼は非常にまともな紳士ではないか!これらの言葉にはそう思わせる品格が感じられる。
ふたつの核大国間に存在する危険極まりない今日の緊張状態を考えると、レーガン大統領は歴代米大統領の中ではもっとも鋭い洞察力を持った大統領のひとりであったことを示している。そして、それに続くのはトランプ大統領だと言えよう。8月にヘルシンキで行われたトランプ・プーチン会談を受けて、トランプが今後ロシアとの和平を進めるためにどのような具体策を提案するのか、今後の動きを注視して行かなければならない。米国の国内政治は複雑で、非常に分かりにくいが、11月には中間選挙を控えているので、何らかの具体的な動きが見られることだろう。
参照:
注1:
Watching
America Collapse: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House,
Aug/24/2018
翻訳有難うございます。
返信削除レ-ガン像ですが,二つの説があって小生にはいまだ判断を下せず,困っているところです。
常にいろいろな見方があるのは当然ですが,小生の研究する加藤周一とP.C.ロバ-ツ氏の見方が分かれているのでどちらが真実に近いのか分からないのです。つまりロバーツ氏のレ-ガン像は分かるのですが,加藤はレ-ガンを軍拡主義者とみているのです(『山中人閒話』福武書店または朝日選書)。
1970年後半から意識して加藤を読みだしたのですが,生来の能力の低さに加えて政治とか軍事とは別な職業を選んだので当時のことがよく思い出せないのです。もちろん当時は米国で起きたことが10年遅れで日本で起きると言われていた時代ですので,米国に行ったことのないので海の向こうで何が起きているかに関する情報も日本には少なかったように思うのです。それでもTIMEアジア版は読んでいたのですが,ビル・ゲイツなどの情報に接した覚えがないのです。
1980年代は海外に出かけることが多くなったのですが,レイキャビク会談の印象はあるのものの,それが一体なんであったのかよく思い出せないのです。
箒川兵庫助様、
削除コメントを有難うございます。色々と研究をされていること、そして、長期間にわたって継続していらっしゃることに敬服します。
私は、最近、視力が落ちて、通常の書籍の文字がえらく小さく感じるようになっています。本を読むことがめっきり少なくなってしまいました。コンピュータでもフォントのサイズを10.5から12に大きくして作業をしています。
レーガン像の件、論評をする人が何について議論をするのかによってさまざまな議論が可能となると思います。ポール・クレイグ・ロバーツは、ふたつの核大国間で武力衝突が起こった場合、最終的には世界規模の核戦争に発展してしまうという危機感を抱いています。最終的には地球上の生命のすべてを絶滅してしまうという危機感です。
これを避けるにはひとつの策しかありません。それは米ロ両国が和解することです。そして、事故による核戦争を防止するにはすべての核兵器を撤廃することです。
この認識が正しく、しかも現在の世界では一番重要だと考えるならば、自分の子供や孫の世代にこの地球を譲り渡す立場にあるわれわれ自身が成すべきことは自明です。たとえば、ロシアや中国における人権問題を国際政治の場面に持ち出して、軍産複合体の利益のために米ロ間の緊張を維持しようとする政策を喧伝することは倫理的にも、社会的にも、そして、人道的にも許されないことであると言えます。
著者はそういった連中を「愚鈍な米国人」と称しています。
二つのことの中からひとつを選択するという場面は毎日のように現れます。通常、選択しなかった事柄には翌日からは自分の影響力を行使することはできません。あれもこれもと、すべてを手中に収めようとしますと、当然ながら個人的にも、社会的にも大きな歪を発生します。
米ロ間の和平を実現したい、実現しなければならないと考える人たちにとっては、軍産複合体は最大の障害物となっています。
この現状は誰でもが理解できることだと思います。
個人的なレベルでは、ならびに、この地球上に次世代が生活できる環境を残してあげたいと本気で考える場合、今の米ロ間の関係はどうしようもないほどに危険な状況であると判断します。何十年も続いた冷戦時の危機状態よりも遥かに危険だと言われています。和平に抵抗する勢力は非常に大きく、強力です。不幸なことです。
非力な個人にはいったい何ができるでしょうか?
今私にできることは、こうした見解を日本語でブログに掲載し、読者の皆さんとこの種の見解や情報を共有することです。当ブログには核戦争の回避をテーマとした投稿が少なからずあります。より大きな地政学的な構図で見ますと、シリア紛争も米ロ間の核戦争に繋がりかねない出来事です。
私はポール・クレイグ・ロバーツの努力を全面的に支持したいと考えます。