2019年6月9日日曜日

ヨーロッパが不可逆的に崩壊しようとしている ― 欧州選挙がそのことを示唆


5年に一度の欧州議会の選挙が52326日に実施された。751の議席をめぐって数多くの党が入り乱れる混戦であったが、選挙前から与党は議席を失うだろう、それに代わって大衆受けのする党が躍進するであろうと言われていた。ほぼ、その通りの結果となった。ふたつの政党(中道右派のEPPと中道左派のS&D)が伝統的に強力で、今まで過半数を占めてきたが、今回初めて過半数を割った。選挙前にはこれらのふたつの政党が合計で403議席を占め、過半数(376議席)を維持していたが、選挙後は過半数を割って、332議席にとどまった。躍進した政党はグリーン党とALDEである。

有権者の心理としては現行の欧州議会の政策に不満を抱き、現行の指導者に愛想をつかして、新たな政策を求めている。

どうしてそうなのかと言うと、数多くの要因が絡んでいるようだ。

ここに、「ヨーロッパが不可逆的に崩壊しようとしている ― 欧州選挙がそのことを示唆」と題された論評がある(注1)。著者は辛口の論調と幅広い見識、ならびに、鋭い洞察力で知られているアンドレ・ブルチェクだ。彼の社会を見つめる姿勢には1パーセントの超富裕者と99パーセントの一般大衆との間の格差を如何に是正するべきかと言う難問を解決しようとする熱意が感じられる。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

Photo-1

ヨーロッパは「古くから」の植民地主義者の大陸であるが、今やそれは衰えつつある。いくつかの地域は崩壊しさえしている。それは状況が如何に悪いかを示唆するものだ。不思議なことに、ヨーロッパの人たちはそれが自分たちの間違いであるとは決して考えない。

北米も衰えつつあるが、そこでは、人々は他と比較することにはまったく不慣れで、彼らは「状況は良くないと感じる」だけである。すべてがうまく行かないと、彼らは単に二流、三流の仕事に就こうとするだけで、何とか生き延びようとする。

指導者らは大西洋の両側でパニックに陥っている。彼らの世界は危機的な状況にあるのだ。主として中国やロシア、イランといった大国、さらには、南ア、トルコ、ベネズエラ、北朝鮮、フィリピンといった素晴らしい国々がワシントンやロンドン、パリが示す筋書きに従って行動することは大っぴらに拒んでいることから、この「危機」が到来したのである。これらの国々では西側の裕福な市民の祭壇に自分たちの国民を生贄として捧げることにはもはや応じようとしなくなった。いくつかの国々では、たとえば、ベネズエラやシリアでは自分たちの独立のために戦っている。

彼らに対しては正気の沙汰とは思えないような虐待的な禁輸措置や経済制裁が西側によって課される。中国やロシア、イランは今や盛況を極めており、いくつもの分野でヨーロッパや北米よりもうまくやっている。

この先彼らがさらに押しやられるようなことがあれば、中国とロシアならびにその同盟国は団結して、米国の経済を簡単に崩壊させてしまうであろう。米国の経済は粘土細工であり、役立たずの借金で構築されている。また、ペンタゴンは北京やモスクワ、テヘラン政府を軍事的にやっつけることは出来ないということがすでに明白になっている。

西側は何世紀にもわたって世界中を脅威に曝して来たが、その西側も今やほとんど終わりだ。倫理的にも、経済的にも、社会的にも、さらには、軍事的にもだ。西側は依然として略奪しているが、世界の現状を改善しようという計画なんて何も持ってはいない。そのようなことは考えることさえも出来ないのだ。

進歩的で国際的な施策を提案する中国や他の国々を西側は憎んでいる。西側は習近平国家主席や彼の申し子である一帯一路については悪口を叩くが、西側は全世界に向けて提案できるような新しい、誰もが有頂天になるような提案をすることはできないでいる。そうそう、政権交代やクーデター、軍事介入、ならびに、天然資源の略奪はもちろん行っている。だが、それ以外にはどうだろうか?何もない。口を閉ざしたままだ!

*

私はヨーロッパで仕事のために2週間滞在した。その間のことだが、人間開発指数(HDI)ではイタリアやスペインを越しているチェコ共和国(今は名称をチェヒアと変更している)では、私は身だしなみが決して悪くはない何人かの若い男たちが私が泊まっているホテルの前で、何か食べられる物を求めてゴミ箱を物色している様子を目撃した。

ドイツで二番目に裕福な都市であるシュトットガルト(ここではメルセデスやポルシェが生産されている)では若いヨーロッパ人らが跪いて、物乞いをしているのを見た。

今回訪問したEU内の7カ国で目撃したのは混乱であり、無関心、極端な利己主義、まさに醜悪とも言えるような無駄であった。アジア諸国とはまったく対照的であるのだが、ヨーロッパでは誰もが自分たちの権利や特権に執着していた。ところが、責任については誰も関心を払わない。

私の旅客機がコペンハーゲンからシュトットガルトに向かっている時、雨が降り出した。酷い降り方という程ではなく、ごく普通の雨だった。SASが運行していたカナダ航空の旅客機は小型で、到着ゲートには横付けしなかった。ターミナルからは何メートルか離れて駐機し、機長が地上作業員は雷と降雨を理由にバスを用意してはくれないとアナウンスした。ということで、われわれは機内で待機した。10分、20分、そして30分。雷が止んだ。しかし、小雨は続いており、40分経ってもバスは来なかった。1時間後、バスがやって来た。地上作業員は全身をプラスチックで包み、雨からは完全密封するような雨具をまとって、くつろいだ様子で現れた。でも、乗客には傘の一本も提供しなかった。

それから、街の中心部では「I love myself」という落書きが目についた。 

この落書きを見た場所は鉄道の中央駅からそれ程遠くはなかった。この中央駅は、市民の反対があったにもかかわらず、何十億ユーロもかけて改装されていた。この巨大プロジェクトは正気の沙汰とも思えないようなゆっくりとしたペースで進んでいる。深く掘り下げた工事現場ではせいぜい56人の作業員の姿しか見えない。

シュトットガルトは信じられないほど汚ない。エスカレータはしばしば停止し、酔っ払いが至るところに認められる。そして、物乞いもだ。もう何十年にもわたって誰もこの街の改善を行わなかったかのように見える。かっては無料で入館することができた博物館が高額の入場料を請求し、公園や通りに設置されていた公共ベンチはほとんどが姿を消してしまった。

劣化が至る所に見られる。ドイツ鉄道(DB)は実質的に崩壊してしまった。ほとんどすべての列車が遅延する。地域鉄道から始まって、かっては栄光を極めていたインターシティー・エクスプレス(ICE)(このドイツ版の「弾丸列車」は、インドネシアのインターシティー・エクスプレスに比べてさえも、実際に速度を落として運行されている)に至るまで・・・

ヨーロッパで提供されているサービスは、フィンランドからイタリアに至るまで、見苦しい程に悪化している。コンビニ店、カフェ、ホテルのすべてが人手不足であって、それらのサービスは劣化し、ほとんど横柄に近い。人手は、多くの場合、機能が完全とは言えない機械にとって代わられている。至る場所で緊張が増し、何処でも険悪なムードが感じられる。何かを頼むなんて考えられない。相手に噛みつかれ、侮辱されて、えらい目に遭うことだろう。

西側のプロパガンダがかっては資本主義圏の国々でのサービスを如何に栄光視していたかを私は今でも覚えている。あれはわれわれが共産圏に住んでいた頃の話だ。「お客様はいつでも神様のように扱われる。」 そう、その通りだ!何とも笑止千万である。

何百年間にもわたって「ヨーロッパの労働者」は植民地主義者やネオ植民地主義者からの「助成」を受け、世界中のあらゆる非白人国家で略奪を行い、犯罪を犯して来た。彼らはすっかり甘やかされ、さまざまな恩恵を与えられ、非生産的になってしまった。エリートたちにとってはそれはオーケーであった。つまり、西側の帝国主義体制に投票をしてくれる限り、オーケーなのだ。

「プロレタリア層」はこうして右傾化し、帝国主義者となり、快楽主義者となった。

今回、私は数多くの物事を観察することになった。それらについては近いうちにもっと多くを書きたいと思う。

私がまったく目撃しなかった事柄は希望とか熱狂である。楽観主義なんて何処にもなかった。健全で生産的な意見交換はなく、掘り下げた討論を行うこともなかった。つまり、中国やロシア、あるいは、ベネズエラで私がよく見慣れていたものは何処にも見当たらなかったのだ。あらゆる場所で混乱や無関心、劣化だけが目についた。

もっと良心的で、人間的で、近代化された社会主義的熱狂に包まれている国々に対する憎しみだけだった。

*

イタリアは少し違った感じである。ここでは私は偉大な左翼の思想家らと会った。教授や映画製作者、ジャーナリストたちである。私はヨーロッパでは最大規模のサピエンツ大学で話をした。ベネズエラと西側の帝国主義に関して講義をした。私はローマにあるベネズエラ大使館で一緒に仕事をした。しかし、これは本当にイタリアでの出来事だったのだろうか?

私がローマからベイルートへ飛んだ翌日、イタリアでは皆が選挙に出かけた。彼らは私の友人たちが属している「五つ星運動」党に対する支持を止め、同党の支持率は17パーセントに低迷した。その一方、極右翼の「北部同盟」は支持率を倍増させた。

このような状況は実質的にヨーロッパの至る所で起こった。英国では労働党が負け、右翼のEU離脱勢力が著しく多くの票を集めた。極右翼は、ファシスト党に近い勢力を含めて、予想を上回る得票を確保した。

すべてが「ミー、ミー、ミー」の政治だ。言わば、これは「政治的セルフィー」の乱痴気騒ぎである。「ミー」勢力には移民者が多くいる。「ミー」はより良い恩典を手にしようとする。「ミー」はより良い医療サービス、より短い労働時間、等々を手に入れようとする。

いったい誰がそれを支払うのだろうか?そのことについてはヨーロッパでは誰も気にはしていないようだ。ヨーロッパの政治家が西パプアまたはボルネオ、あるいは、アマゾンまたは中東での略奪を遺憾に思う声なんてまったく何も聞かなかった。ましてや、アフリカについてはなおさらのことだ。

ところで、移住者についてはどうか?ヨーロッパからの難民(移住者)のはた迷惑についてわれわれは何か聞いたことがあるだろうか?何百万人にもなり、多くは非合法である。彼らは過去何十年かの間に東南アジアや東アフリカ、南米ならびに亜大陸へ移住した。彼らは集団で意味のなさや憂鬱さ、空虚な存在感から逃れようとしたのだ。その過程で、彼らは地元住民の土地や不動産、海岸、等を何でも奪ってしまった。

「難民は出て行け!」 それもいいだろう。(ついでに言えば、)ヨーロッパからの難民もヨーロッパ以外の地域から出て行け!一方的な主張はもうたくさんだ! 

最近行われた欧州選挙はヨーロッパが進化してはいないことをはっきりと示してくれた。数え切れないほど数多くの世紀にわたって、ヨーロッパは自分たちの喜びのためだけに生き、自分たちの生活を高く維持するために何百万人もの人たちを虐殺して来た。

ヨーロッパは、今、政治システムおよび行政機構を改革しようとしている。この改革は前と同じことを継続するためのものである。もっと効率よく!

そして、何よりもばかばかしいほどに世界はあの過剰に賃金が払われているが、生産性が低く、多くが右翼系で、無気力なヨーロッパのプロレタリアートを哀れみ、さらに何千万人もの他の国の人々を犠牲にするよう期待されている。これは単にヨーロッパの生活水準を引き上げるためなのだ。 

これらはどれもが決して起こってはならないことだ。二度と起こってはならない!是が非でも止めさせなければならない。

何百万人という「よそ者」の犠牲の上に立ってヨーロッパがこれまでに成し遂げたことは、間違いなく、そのために死ななければならないような価値なんて何もない。

ヨーロッパとヨーロッパ人には気をつけよう!彼らの歴史を学ぼう。彼らが世界中に広げて来た帝国主義や植民地主義、大量虐殺についてよく学んで欲しい。

彼らにはファシストへの投票をさせておこう。しかし、彼らを近づけさせるな。彼らが世界中に害毒をばら撒くのを防止しよう。

彼らは自分たちの国益を第一に考えたいのか?実に素晴らしいことだ!われわれもまったく同じことをしようではないか。ロシアの人々を第一に考えよう!そして、アジア、アフリカ、南米を第一に考えようではないか! 

著者のプロフィール: アンドレ・ヴルチェクは哲学者であり、小説家、映画製作者、調査報道ジャーナリストでもある。彼はVltchek’s World in Word and Imagesと称するサイトを立ち上げ、数多くの本を書いている。たとえば、 China and Ecological Civilization。また、オンライン誌の “New Eastern Outlook”にて健筆を振るっている。
https://journal-neo.org/2019/05/30/europe-in-irreversible-decay-eu-elections-are-proof-of-it/

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

さまざまな国を訪問し、数多くの人たちと会い、議論をし、意見交換をする著者の姿が目に浮かぶようだ。著者のプロフィールで紹介されているVltchek’s World in Word and Imagesと称するサイトを覗いてみると、旅行記やインタビュー、投稿記事(オンライン誌のNEOに掲載された本引用記事もリストアップされている)、著書、映像(百か国を超える国々での写真が掲載されている。日本に関しては、たとえば、原爆ドームの写真)、講演(ローマのサピエンツ大学での彼の話の様子は動画で紹介されている)、等、が掲載されている。この著者の活動の広さを物語っている。

この著者について私が個人的に感じることはこんな具合だ。たとえば、彼はヨーロッパの国々を訪問し、そこで人々がどんな行動をしているのかを観察し、さまざまな断片を集めて、それらの集合の中にこの地域に住む人々の思考構造を読み取り、それをひとつの概念に抽象化する。アンドレ・ヴルチェクはこの作業を効率的に行い、それにめっぽう秀でている。私ら素人は街で落書きを見ると、「街を汚しているなー」と感じる。しかし、そこから先の知的展開はほとんど皆無だ。しかしながら、この著者にとっては、一見非常に些細な要素ではあっても、この小さな要素が、実は、その先の思考の展開に重要な役割を担うことになる。こうして、素人のわれわれにも理解しやすい説得力のある論評を提供してくれる。何時ものことではあるが、彼の非凡さを痛感させられる。

もっとも感銘させられる点は、彼は一般大衆の目線から国際政治や貿易戦争、経済制裁、武力紛争、内戦、戦争を冷静に観察していることだ。1パーセントの持てる者が残りの99パーセントに対して当然のごとくもたらす不正義を暴こうとする彼の熱意には頭が下がる思いがする。昨今の大手メディア、たとえば、ニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNNMSNBCBBCからは真実の報道を期待することはできなくなった。今や、真実は代替メディアからの情報に求めるしかないようだ。われわれが住む世界における出来事は、その理由が必ずしも表面には現れず、われわれの意識や知覚に明確に認識されることは決して多くはない。それらの出来事について隠されている真実とわれわれ一般大衆との間に立って、アンドレ・ヴルチェクがわれわれ一般大衆のために提供することができる知的サービスには計り知れない程大きな価値が秘められている。世間には知識人はたくさんいる。しかしながら、私の印象では、その中で彼は群を抜いているひとりだ。今後もこの非凡な才能に期待したい。


参照:

1: Europe in Irreversible Decay, EU Elections are Proof of It!: By Andre Vltchek, NEO, May/30/2019








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