2022年6月14日火曜日

ワシントン政府は如何にして太平洋をNATOの新しい紛争地帯に変えるのか?

 

30年程前に旧ソ連邦が崩壊したことによって半世紀近くも続いていた東西の冷戦は終結した。こうして、米国による単独覇権が現出した。しかしながら、この米国による単独覇権も、今や、挑戦を受けている。米国が沈滞し、新しい強国が台頭しつつあるからだ。つまり、ロシアや中国の台頭である。

すでに3か月半にもなったロシア・ウクライナ戦争はロシアが単にロシア語を喋るドネツク・ルガンスク両共和国の住民の安全をウクライナ政府軍からの砲撃から守るという構図だけではない。実際にはロシアとNATO圏との間の地政学的な争いである。事実、NATO諸国からは大量の兵器がウクライナへ運び込まれ、NATO諸国の軍人がウクライナでウクライナ軍をあれこれと指揮し、そういった兵器についてもウクライナ兵を訓練している。そして、これは最終的にはNATOを牛耳る米国とロシアとの間の代理戦争でもある。NATO諸国の総人口は世界人口の12%を占めるから、この戦争は12%対88%の戦争であると見る向きもある。

世界の覇権国である米国の政治的および軍事的な目標は、米政府高官が述べているように、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を口実にして(今まで何度も聞いて来た言葉である!)ロシアに対して経済制裁を課し、台頭しつつあるロシアの経済を潰すことにある。この目標は米国による単独覇権を確実に維持するためには必要不可欠な戦略であると米シンクタンクのランド研究所はその報告書(How to bring down Russia, May/21/2019)で記している。ロシア経済を弱体化させる過程で同盟国のEUが多少疲弊したとしても、それは大目標を達成するためのコストに過ぎないと政治家は考える。何百万人ものウクライナ市民が戦禍を避けてEU諸国へ移動するだけではなく、安価で安定した供給が可能なロシア産天然ガスや原油を失ったドイツ産業界は大打撃を受け、ヨーロッパ経済全体が国際競争力を失う。結局、ドイツ産業界にとって、ならびに、ヨーロッパ諸国全体にとって米国の対外政策に従順に振る舞うことは単なる巻き添え被害に見舞われるだけではなく、経済における自殺行為の様相を呈している。

単独覇権から多極的覇権への移行という地球規模の新たな趨勢から見ると、米中関係はいったいどうなるのであろうか?

米国は中国の国内問題である台湾を中国との紛争のためのテコとして使おうとしている。台湾周辺の米国の同盟国は日本や韓国である。そして、オーストラリアもその範疇に入ってくる。米中戦争というチェス盤上では米国は日本や韓国といった駒にどんな役割を持たせようとするのだろうか?またしても、米国からは何千キロも離れた場所、つまり、台湾が、そして、恐らくは日本も米国の利益を確保するための戦場と化す。

ここに「ワシントン政府は如何にして太平洋をNATOの新しい紛争地帯に変えるのか?」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1:この4月、ポーランドでの記者会見におけるロイド米国防長官

オースティン・ロイドはロシア・ウクライナ紛争における米国の中核的な目標は、長い間には不可能ではないにしても、その回復を困難にさせるようなやり方でロシアを軍事的に弱体化させることだと公然と宣言した。オースティンは「ロシアがウクライナ侵攻でやったようなことは二度と繰り返すことができない程までに弱体化するのを見たい」と述べ、ロシアはウクライナで失った軍隊と装備を「非常に迅速に再現する能力を持たせるべきではない」と付け加えた。この声明はウクライナ紛争をきっかけに成されたものではあるのだが、紛争の舞台や反ロ枢軸の地理的な範囲はヨーロッパだけには留まらない。米国は自国の立場を広め、強化するために、太平洋地域、特に、日本を積極的に軍事化している。先月、日本政府は軍事費をGDP1%から2%に増やし、軍事支出を倍増させると発表した(訳注:日本国内の報道によると、バイデン米大統領が訪日し、岸田首相は523日に行われた日米首脳会談において防衛費を増額する方針を表明した。この表明は国会における審議を経てはおらず、岸田首相の独断である)。この増加によって、憲法上「平和主義」のイデオロギーに注力し、攻撃的な軍事力を持とうとはして来なかった日本は防衛に860億ドルを費やすことができる。

日本の武装意欲にはヨーロッパとの興味深い類似点が観察される。つまり、ドイツは国防費を1000億ユーロに大幅に増やすことを決定した。中核的なライバル国であるヨーロッパのロシアとアジアの中国との周辺に強力な軍隊を配備するためにワシントン政府はこれらの重要な変化を積極的に支援している。こうして、新たな形の紛争が出現する可能性が高まる。そして、この動きに対抗する主要な対抗同盟の見通しも視野に入って来る。

この状況は日本海と東シナ海上空でロシアと中国の戦略爆撃機が、最近(524日)、合同哨戒を行ったことからも極めて明白である。この哨戒演習は日本がロシアと中国に目を向けて、軍国主義に向かって意欲を増大していることに対する応答として行われたものだ。したがって、日本の自民党が4月に行った予算増額の決定はウクライナ紛争と中国からの地域的圧力によって促されたと述べたことは驚くほどのものではない。ロシアと中国は日本に直接的な領土的脅威をもたらさなかったが、日本が防衛の軌道を変更するという日本の決定は、太平洋地域における紛争、あるいは、少なくとも緊張の高まりを不可避にし、その結果、協力の見通しを暗くするような方向で変化し始めていることを意味する。

日本の防衛予算の増大は日米両軍の間の「相互運用性」の全面的な確立を目指しており、日本の軍隊が「前方展開攻撃能力を実践する」ことを可能にする。ここで注目すべき非常に重要な点は「相互運用性」の中心的な目的は防御的ではないということにある。つまり、日本のいわゆる「平和主義」はロシアと中国に対する急速に増大する軍事的準備を隠すために東京が利用する美辞麗句に過ぎず、これからもそれを使い続けるだろう。

このプロセスが今米国によって積極的に支援されていることは、バイデンの東京訪問の傍らで日本の岸田文雄首相が軍事力を「劇的に強化する」と発表したことから明らかである。

岸田政権が発表した新たな経済政策案によると、今回の決定は「東アジアの勢力による一方的な現状変更の試みにより、地域の安全保障がますます厳しくなってきている」ことへの対応である。この評価が曖昧に聞こえるならば、それはアメリカの同盟国としてロシアと中国に対抗できる新たな軍事大国としての日本の台頭をカモフラージュする意図によるものである。

事実、ロシア・ウクライナ紛争で日本はすでにロシアに対するアメリカの同盟国として行動している。この4月、日本の当局者はウクライナ軍がロシア軍と戦うのを助けるためにウクライナに防衛装備品(無人機と防護服)を送ると発表した。日本の自衛隊規則は防衛製品の他国への移転を禁じているが、岸信夫防衛大臣はこれを「商業用」かつ「使用済み品」として正当化した。日本のいわゆる「平和主義軍事化」を覆い隠すために極めて利己的な正当化が行われており、今後も発明されることだろう。

ロシアとの緊張がさらに高まる可能性が高い。4月、日本政府が予算増額を発表したのとほぼ同じ時期に、日本政府は千島列島に対する姿勢を変更した。

2022年の外交青書において「北方領土は日本が主権を持ち、日本領土の不可欠な部分を構成する一群の島々であるが、これらは現在ロシアによって不法に占領されている」と日本政府は述べている。

この記述は以前から係争中であった領土を取り巻く緊張のレベルを高めることになるから、外交上の大きな変化である。日本がロシアを「不法」占領者と呼ぶことはロシアによるクリミア「占領」に関する欧米の言説に日本が賛同していることを示唆している。

実際的な意味においては、ロシアに対して(そして中国に対しても)温度を上げることによって日本は世界におけるこの地域で米国とNATOの最前線に立つ軍事同盟国に変貌しつつある。

米国の支援の影の下で行われる日本の軍事化は米国/欧米がNATOを地域同盟としてではなく、ますます広く投影しようとしていることにも結びついている。実際、最近の進展は、NATOがいかに傲慢に「グローバルな」役割を自画自賛しているかを示している。この4月、英国のリズ・トラス外相は「グローバルNATO」を呼びかけた。 彼女は、NATOはインド太平洋地域における脅威を先取りし、日本やオーストラリアのような同盟国と協力して太平洋を防護することを確実にするために「グローバルな見通し」を持たなければならないと付け加えた。そして、「台湾のような民主主義国が自らを防衛できるようにしなければならない」と。

こうして、日本は戦わずしてNATOのグローバル化戦略の論理的な拡張を支えようとしている。つまり、反ロシアと反中国という地政学的構図である。したがって、敵基地攻撃能力を獲得するために再武装するという東京の決定は自国のニーズに結びついているのではなく、米国がロシアや中国を打ち負かし、世界の単独覇権を維持するために世界的な反ロ・反中連合を作り出すことに結びついている。

著者のプロフィール:サルマン・ラフィ・シェイクは国際関係やパキスタンの国内・対外政策に関して研究し、分析を行っている。オンライン誌である「ニュー・イースタン・アウトルック」のために独占的に執筆。

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これで全文の仮訳が終了した。

日本で進められている軍国化は外から見るといったいどう見えるのか?この問い掛けは日本人にとっては何時の時代においても興味深いテーマのひとつである。その一方で、大っぴらには必ずしも触れたくはなく、むしろそっと放置しておきたいような冷酷なテーマでもある。

平和憲法の解釈はその時の政権にとって都合のいい形でさまざまな議論や解釈が進められて来たという経緯がある。だが、解釈論だけで平和憲法の精神を歪曲し続けるには自ずから限度がある。それは日本人が何百年、何千年という時間をかけて築いて来た伝統の力や価値観を拒否することにも繋がるからだ。太平洋戦争で日本は敗者になったという事実は紛れもない歴史の一部であり、現行の憲法も同じく歴史の一部であると言える。美辞麗句に飾られた政府の言い訳や国営テレビの時事解説の裏に潜められている真の政治的筋書きが米国に対する無条件の服従を継続することにあるとしたら、この現状は政治家や国会議員にとってだけではなく、日本全体にとっても余りにも情けない話だと言わざるを得ない。現行政府が政権を長く維持したいならば、米国に向けて良い顔をし続けなければならないのが現実だ。さもなければ、その政権はその先半年足らずの命となるであろう。こういった状況は今までにも見てきているので、私にも良く分かる。だが、だからと言って限度もなしにそれを許容し続けることはできるのだろうか?米国への服従の構図は何十年もの長い歴史的背景によって築き上げられており、幾重にも重なった網が掛けられ、さまざまな方向からのコントロールが維持され、日本の政治は自立心を失った。極めて受動的な政治観が日本人の毎日の生活を支配している。だから、余計に性質が悪い。こうして、一般庶民は出口が見えては来ない状態にがんじがらめにされて、やりどころのない不満に襲われる。社会全体が病的でさえある。

ここまで思いつくままに書いて来て、私はあたかも日本の現状を何らかの形で肯定し、擁護しようとしているのではないかという疑問を覚えた。つまり、この精神状態は日本のメディアによる洗脳プロパガンダが如何に強力で効果的であるのかを物語っているのだと思う。

もちろん、そんなことは読者の皆さんとここで共有したいことではない!もっとも中心的な課題は米国への無条件服従からどうやって脱却するのかという点だ。

現状を見ると、日本が米国の軍事的統合の下に置かれ、米国の対中戦争の場面では日本がその最前線に立つ仕組みとそれに必要な軍事的装備とが、今、日米間で議論されているのだ。日本は軍備強化に充当する新予算を計上し、岸田首相は最近の日米首脳会議で軍事費をGDPの2%に増額すると約束した。

日本が中国を敵国として見なすことは、まさに、何百年もの間ロシア文化の中にあったウクライナが突然ロシアを敵視し、ロシア文化をキャンセルし、ロシア語を喋るドネツク・ルガンスク両地域の非武装住民に対して8年前から無差別に砲撃し始めた過程に実によく似ている。さらに言えば、ウクライナも日本も米国が単独覇権を維持するための道具として使われるという側面が実によく似ている。この相似関係は驚くばかりだ!

このような位置づけは日本人の多くは決して耳にしたくはないであろう。だが、現実を直視しなければならない時は必ずやって来る。われわれは米国および西側が推進するグローバル経済、ネオリベラリズムといった新植民地主義の妄想の中で無批判のままに生き続け、金儲けのために方々で紛争を引き起こすのではなく、お互いの国々の主権を尊重し、互恵の念を大事にして、お互いが発展して行けるような国際的枠組みを積極的に構築して行くべきではないのか。

ウクライナ紛争が始まってからすでに100日以上が過ぎようとしている今、われわれ日本人はウクライナ紛争を上述のような観点から十分に分析し、吟味しておかなければならない。今や、ウクライナ大統領さえもが地上に展開している現実を直視し、それを受け入れ、自分の言動に修正を加え始めたかのようである。つまり、最近の報道によると、ゼレンスキーはクリミアを奪還することは諦めると仄めかし始めたようだ。(原典:American diplomat reported on Zelensky’s hint of a compromise on the Crimea: By RIA Novosti, Jun/12/2022

残念なことには、日本政府は米国政府に服従することに汲々としている余りに、西側メディアのプロパガンダにただ乗りしたままで、ウクライナ情勢を独自に分析し、日本の長期的な国益を判断することでは積極性や客観性に欠けているように見えて仕方がない。

ウクライナを巡る米ロ間の情報戦では米国・西側の勝ち、しかしながら、地上の軍事的な戦ではロシアの勝ちだと評価する向きがある。総合的に観ると、戦場となったウクライナはインフラに大きな損傷を受け、都市や集落が破壊され、数多くの若者を戦場で失い、あるいは、兵役を逃れるために国外への逃亡を許し、国内政治はネオナチによる脅迫やテロ行為によって完全に麻痺してしまった。最近のガーディアン紙の報道によると、ウクライナ軍は開戦以来109日目の現在1万人もの戦死者を出している(原典:Russia-Ukraine war: what we know on day 109 of the invasionBy The Guradian, Jun/12/2022)。

結局、ウクライナはこの戦争をドカ貧で終わるような印象が強まるばかりである。ウクライナが被った損害は余りにも大きい。これらの物的ならびに精神的な損傷はいったい何のためだったのか?ウクライナは、今後長い間、深刻な後遺症に悩まされ続けることであろう。

西側諸国がロシアによるウクライナ侵攻を嬉々として口汚く批判し、ロシアをキャンセルし、ウクライナへ大量の武器を供与し、ウクライナへ志願兵さえをも送り込んだあの熱気はいったい何だったのであろうか?地球上の総人口の12%は自分たちが仕掛けた根拠のないプロパガンダを信じ込み、自分自身を欺き、大衆形成精神病に陥り、単なる妄想に駆られただけであったのだろうか?

このようなウクライナの姿からわれわれ日本人は今何を学んでいるのか?ロシア・ウクライナ戦争から日本は何を学びとることができるのかを真剣に掘り下げてみる必要があると思う。この時点では問題の提起だけであって、解決策の提案には至ってはいない。解決策はわれわれ全員に残された宿題である。

参照:

1How Washington is Turning the Pacific into a New Theatre of NATOs ConflictBy Salman Rafi Sheikh, NEO, Jun/09/2022

 

 


4 件のコメント:

  1. Дорогой друг, здравствуйте!
    Спасибо Вам большое за красивый перевод хорошей статьи. Но мне кажется, что Ваши комментарии же являются просветительными.

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    1. シモムラさま、
      激励のお言葉、有難うございます。
      米国に対して「No!」とは言えない日本政府は窮地に陥りそうな感じがしてなりません。

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  2. 追加情報
    今日(6月15日)付けの天木直人のメールマガジン(有料)に小生の拙文と共鳴する部分が見つかったので、その一部を抜粋して、ここに読者の皆さんと共有しようと思う。

    ***
    ・・・なぜ日本は日本の国益を最優先する自主、自立した外交が出来ないのか。
     なぜ日本は、「日米関係は最重要だが、アジアの日本はアジアとの共存関係も重要だ」という当たり前の主張をしないのか、いや出来ないのか。
     米国がそれを許さないようなら、世界から非難されるのは米国のほうだ。
     日本は当たり前の外交が出来ない国になってしまったということだ。
     そして、「それはいくら何でもおかしいだろう」と言う政治家も官僚も有識者も、只の一人も見つける事ができなくなってしまった。
     しかし、いまの日本でそれが言える者がいる。
     それは沖縄だ。
     沖縄だけはそれが言える。
     そして沖縄がそれを本気で言い出して行動を起こせば、誰もその沖縄を止める事は出来ない。
     沖縄こそが、米国との戦争の捨て石にされ、そして今度は米国の戦争のための捨て石にされるからだ。
     いまこそ沖縄の出番だ。
     沖縄が、「日本が米中戦争に参戦しても沖縄だけは参戦しない、日本が米中戦争に参戦するなら、沖縄だけは、日本から独立してでも米中戦争に反対する」
     そう本気で沖縄が世界に向けて宣言すれば、世界は拍手喝采するだろう。
     そして沖縄は世界を動かす事ができる。
     日本はそんな沖縄に救われることになる。
     そう訴えるために金城実さんと私は「沖縄よ!ウクライナにナルナ」を緊急出版した。
     6月20日発売予定・・・
    ***

    天木直人氏の素晴らしい点は、小生の場合とは決定的に異なって、具体的な解決策を提案していることにある。この方は「日本人としての宿題」を早々と済ませたのだ。賞賛をお送りしたい。
    解決策は他にもたくさんあるに違いない。この夏、読者の皆さんと共にそのうちの幾つかを掘り起こしたいものである。

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  3. 日本は負け組についた、今のところ。
    ここ数年、メディアは反対意見どころか反対の事実も報道しなくなりました。したとしても、ごまかして言いかえる。これ、末期症状ですね。言論界含め、惨憺たる状況ですが、末期症状だと捉えると気が楽になります。そういう意見があることは知っていましたが、自分なりの言葉に置き換えると気が楽になるのだなと、ひとり感心してしまいました。メディアを変える事なんてできませんので。

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