2013年6月7日金曜日

シリア内戦での毒ガス使用のミステリー


シリアでは「毒ガスを使った、使わない」とか「使ったのはそっちだ」といった非難の応酬が政府側と反政府側との間で続いている。
反政府側を支援する米国のオバマ大統領も反政府側からの要請に対しては「立証は極めて困難」との立場をとって、米国の介入には慎重な姿勢だ[1]
引用部分は何時ものように段下げして示す。
シリアの反政府グループは、昨年12月以降、少なくとも十数回、アサド政権が化学兵器を使用したと非難している。しかしながら、オバマ大統領は4月30日、米国はシリアで化学兵器が使用された証拠をつかんでいるとしがらも、それがいつ、だれによって、どのように使用されたのか分かっていないと述べた。また、シリア政府は、化学兵器使用を否定しており、使用したのは反政府派の方だと非難している。
そんな中で、最近二つの重要なニュースがあった。そのひとつはイラクから、もうひとつはトルコからだ。
 
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イラクからの61日の報道[2]によると、
イラク当局はサリン・ガスやマスタード・ガスを製造するアル・カエダのふたつの拠点を突き止め、毒ガス製造に当たっていた過激派5人と製造装置ならびに製造されたサリン・ガスを押収した。逮捕された過激派の自供によると、他のアル・カエダ分派からの指令に基づいてサリン・ガスを製造していた。押収品の中には遠隔操作が可能な玩具の飛行機が含まれていた。
トルコからの61日の報道[3]によると、
首都イスタンブールおよびシリアとの国境に近い三つの市・地域でトルコの警察当局は「アル・ヌスラ・フロント」と呼ばれるシリアのアル・カエダ分派に属する12人のメンバーを検挙し、化学兵器を押収した。トルコでは主流メデイアが大々的に報道をしたが、この水曜日の逮捕劇は、ニューヨーク・タイムズを含め、米国の企業利益優先のメデイアには無視され、この情報は一般大衆には届いてはいない。シリアへの米国の介入を大っぴらに支持しているニューヨーク・タイムズは一言も報道しなかった。
アル・カエダの分派であることを公言していたアル・ヌスラ・フロントは昨年12月に米国務省によってテロリスト集団に指定され、国連安全保障理事会も同分派を金曜日(注:つまり、531日)にアル・カエダ制裁ブラック・リストに登録した。アル・ヌスラ・フロントはアサド政権を倒そうとしている反政府グループの中では最も活動的な武装集団であることはよく知られている。最近、反政府軍に武器を供与することができる道を開くために、英仏両国は欧州連合によるシリアへに対する武器禁輸政策を解禁した。
米国における報道管制は2003年のイラク侵攻前夜の様子とよく似ていると私は思う。オバマ政権に都合が悪い情報は隠しておきたいということのようだ。このような感じを抱いている人は少なくはないだろう。米国の大手新聞は政府の御用新聞になり下がってしまったことから、プレステイチュート(「プレス」と「プロステイチュート」とを組み合わせた新語)と呼ばれて久しい。
欧州連合はシリアへの武器の禁輸を解いた。勿論、これは反政府グループへ武器を供給するための準備だ。そして、アサド政権に対する主要新聞の宣伝活動は衰えを見せてはいない。ここでも、さらなるシリアへの介入の動きが着々と進められている。
これらを見ると、「またも?」という思いがする。
反政府グループだけではなく英仏両国の政府もシリア政府が化学兵器を使用したと何度も主張している。しかしながら、先月、国連のシリア化学兵器調査団の指導的なメンバーのひとりであるカーラ・デル・ポンテ氏が「殆どの証拠は反政府側が使用したことを示している」と述べた。(注:他の情報によると、このカーラ・デル・ポンテ氏のコメントは後に撤回されたとも報じられている。情報そのものがかなり錯綜しているということか。)
最近トルコで判明したことから、西欧側が支持するイスラム系過激派が化学兵器を使用してトルコ市民を攻撃しようとしていたことが明らかとなった。トルコ市民を攻撃することによって大量の被害者を作り出し、それをシリアの政府側が行ったことだと吹聴して、米国主導の軍事的介入に役立てる目的があったことを示唆している。
ベトナム戦争の引き金として使われたトンキン湾事件にもあったように、シリア紛争でも反政府側による自作自演工作が進行中であったということだ。しかし、米大統領は「大量破壊兵器として国際的に認められている化学兵器を政府側が使ったら、それは現状を一変させるものであり、米国が軍事介入を決断することになる」と匂わせていただけに、どちらが毒ガスを使ったのかを明確にし得ない現状は米国の自作自演シナリオにとっては非常にお粗末だ。
上記のトルコからの報道に対する米国メデイアの静けさは、かってイラク戦争で演じた役割と同様の役割をもう一度演じようとしているかのごとくに見える。しかし、過去10年間の果てることのない戦争を全世界が体験したことから、今やこういった仕事は一層難しいものになっている。
金曜日に公表されたギャロップの世論調査結果によると、たとえ外交交渉による解決がシリアでの内戦を終結することに失敗したとしても、3人にふたり(68%)の米国人はシリアに対する米国の軍事介入には反対である。
今や、米国市民がどれだけまともな判断をしてくれるか、そして、どれだけ多くの人たちが新たな戦争に反対するかによって、このシリア内戦の行方が決まりそうな気配だ。
何れにしても、今一番気になる点はシリアの内戦が近隣諸国だけではなく全世界にとってどのような危険を孕んでいるのか、あるいは、どういった方向性を持っているのかということではないだろうか。
最近のシリア政府軍による反撃の成功はレバノンのヒズボラや(ある報道によると)イラン軍の参加によるものだとの見方がある。そして、かねてから約束されていたロシア政府からの長距離地対空ミサイル、S-300の提供が開始され、その最初の船積み分が到着したと、531日にアサド大統領が述べている。
シリア国内で長距離地対空ミサイルが使用可能になると、イスラエル空軍による攻撃もままならない状況になる。そして、米軍やNATO軍にとっても制空権の維持が困難となる。2011年のリビアに対する攻撃のようには事が運ばなくなるということだ。そして、イランが公式に参戦すると、スンニ派(米国が支援)対シーア派(イランが支援)というイスラム教圏内の勢力争いとなる。
こうなることを願っているのはイスラエルではないだろうか。10年前、イラク戦争の開始時のイスラエルの基本戦略のひとつはイラクを内戦状態にして、スンニ派、シーア派そして北部のクルド人の三つの勢力にお互いを離反させ、イラクの国力を最小に抑えることだった。今のイラクを見ると、この戦略は図星であったと言えようか。シリア紛争では、イスラエルは全イスラム圏がまとまることを是非とも避けたいのではないか。イスラム圏を二分させ、内紛状態を作り出すことがイアスラエルの基本戦略だと推測される。そして、米国がそれを後方から支援する。米国が支援しているサウジアラビアやカタールのふんだんな資金で雇われた兵隊を訓練し、英仏から提供された武器弾薬を使ってシリアを下し、レバノンのヒズボラやイランを圧倒すれば、中東地域にはイスラエルの敵がなくなるという将来像だ。
 
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シリア内戦についてはもっと大きな地政学的な構図がある。それはエネルギー資源の確保をめぐる帝国主義的な動きだ。
地政学的な構図に登場してくるのは数年前までは外交の世界ではまったく無名の存在であった「超お金持ちのカタール」だ。そのカタールについて非常に興味深い記事[4]がある。
今日はそれを是非ともおさらいしておきたい。この記事は次のような書き出しで始まる。
シリアで今起こっていることは専制的な政府に対する市民による民主化闘争でもなく、ふたつの陣営間の勢力争いでもない。シリアは代理戦争の戦場となって、その近隣諸国に火の粉を撒き散らしつつある。結果として、バシャル・アル・アサド大統領を排除することだけに焦点を置いた戦略は失敗する。それは紛争を解決することにはならないからだ。シリア危機はバシャル・アル・アサドという個人を遥かに超えたところにある。その結果、専制君主の退陣要求は末永く続く停戦を実現することにも流血を止めることにもならず、政治的に明るい将来がシリア国民のもとにやってくるとは限らない。
シリア紛争は最初は民主化運動であった。しかし、その民主化運動は反政府グループが武器を持った時点からいわゆる「アラブの春」とはまったく違ったものに変貌してしまった。この記事が指摘したいことは、シリア紛争はシリアの国内紛争からふたつの帝国主義陣営の間の扮装に変わったということだ。
「アラブの春」は2010年から2011年にかけてアラブ諸国に起きた政治的な動きだ。チュニジアに始まり、エジプト、イエメン、そしてリビアへと飛び火し、民衆主導のデモによって旧体制が崩壊した。
アラブの春については、私も「アラブの春と米国の思惑」と題したブログ(20111130日)の中である歴史家の見方を紹介した。ロシアのRTテレビは著者で歴史家のウィリアムFエングダールの見解として次のような内容を報道した。「米国の最終的な目標はアフリカや中東の資源を軍事力の影響下に置くことによって、中国やロシアの経済成長を妨害することにある。そうすることにより、ユーラシア大陸全体を支配下に置くことだ。」 
アラブの春との観点でここで言いたい点は、シリアの市民運動が内戦に発展し、その後はふたつの帝国主義陣営間の代理戦争となっている。この変遷の様子は歴史家ウィリアムFエングダールが述べた通りではないか。何とよく一致することか、気味が悪いほどである。
人道的な危機は高いものにつくかも知れないが、欧州連合(フランスがその急先鋒)と米国は自分たちの同盟国を選び、シリア政府の崩壊を追及することによって地政学的ならびに経済的な国益を引き続き守ろうとしている。この目的を実現するためには、政治上の議論は理想主義的なものとなり、大量虐殺や人道的な課題には焦点を当てるものの、国益は現実のものであり、その実像が語られることはまずないだろう。 
しかしながら、現実的な観点から言えば、この紛争は主としてロシアと自分たちの国益をさらに拡大しようとする西側との間に繰り広げられる壮大な戦いである。イランを孤立させること、ならびに、ヨーロッパへの投資をふんだんに行い、ロシアの天然ガスに代わるような選択肢を提供できるアラブ国家、例えば、カタールとの間に経済的な同盟関係を樹立することが西側にとっての国益につながるのだ。
シリアの内戦に登場するカタールという国の役割については、私はかねがね疑問に思っていた。「内戦」という言葉が現状を理解することを難しくしていたのかも知れない。この記事を読むと、その辺をうまく説明してくれているので非常にありがたい。地政学的な観点からの洞察であるだけに説得力は何倍も膨らむ感じだ。これは地政学的なアプローチがお好きな政治家、あるいは、彼らを操る黒幕の考え方をうまく説明しているのではないだろうか。
(1) イランの孤立化
 
米国と欧州連合の外交政策はその核開発プログラムを槍玉に挙げてイランを孤立させることにある。テヘランの戦略的な同盟国の崩壊、例えば、シリアのアサド大統領の失脚は、ヨーロッパや米国およびイスラエルを相手に対決しようとするイランにとっては大きな痛手となるだろう。確かに、ダマスカスとの戦略的な同盟関係はイランがシーア派抵抗勢力(イラク、シリア、レバノンおよびヒズボラ)を形成し、それを維持することに大きく貢献している。
その一方、この同盟関係はテヘランにとってはEUおよび米国による制裁措置による孤立状態に対抗するものとなる。さらには、核問題に関する国際社会との交渉の場でひとつの梃子として使えるような代理国家を持つということにもなる。これらの代理国家はイスラエルからの攻撃の脅威に対してイランが対抗する際にも大きな助けとなる。これらのことを念頭に置いて、アサド大統領の後釜としてイランを孤立させることに同意する傀儡政権を樹立することはEUや米国の国益のために効を奏し、ペルシャ湾岸のライバルであるアラブ諸国(主として、サウジアラビア、カタールおよびアラブ首長国連邦)にも利し、イスラエルにも(アサド退陣後の政権次第ではあるが)別の意味で利することになろう。
(2) ペルシャ湾岸諸国との戦略的ならびに経済的な同盟関係の維持
フランスはイランの主要な競争相手のひとつであるカタールとの同盟関係を謳歌している。ニコラス・サルコジ前大統領の下で、ハマド・ベン・カリファ・アル・サーミ首長は2007年にエリゼー宮に招かれたが、これはアラブ諸国中では初の事例となった。この特別な関係を今も維持しようとしているのがフランソア・ホランド現大統領である。仏大統領選(2012年5月)の後、8月22日にイスラム教国の首長が訪問した際にエリゼー宮で最も歓待された国はカタールであり、それはハマド・ビン・ジャセム・アル・サミ首相の二度にわたる訪問であった。
この経済大国カタールは何百億ドルもの投資を行っている。不動産やCAC40の株価指数(パリ証券市場)に採用されている上位企業(例えば、トタル、ヴィヴェンデイ、ヴィオリア、ラガルデール、スエズ、LVMH、ブイグ、バンシ、等から始まって、カタール2022ワールドカップ、カタールとバーレーンとを結ぶ「友情の架け橋」の建設に至るまで)、スポーツ関連(パリ・サンジェルマン・フットボール・クラブの買収)、メデイア(アル・ジャジーラがフレンチ・チャンピオンシップ・リーグの放送権を取得)、最近の事例ではパリ郊外での不動産へ投資、といった具合だ。
ヨーロッパの経済危機に伴って、カタールのフランスとの協調関係はこの小さな首長国がフランス政府の意思決定に影響を与えるほどにもなっている。このことについてカタールは否定するのだが.... ドイツでも同様な投資が行われている。カタールはフォルクスワーゲンの資本の17パーセントを所有し、ポルシェの10パーセント、建設大手のホホテイーフの9パーセント、そしてシーメンスの3パーセントを最近取得した。
カタールの投資は英国にとっても非常に重要である。ロンドン株式市場の20パーセントを所有し、カタールはバークレイ銀行の主要株主でもある。オリンピック競技にも多量の投資を行った。ロンドンで最も高層なビルの95パーセントに対して融資をしており、英国の家庭の59.3パーセントにはカタールからの液化天然ガス(LNG)が供給されている。
その結果、カタールは経済危機に陥っているヨーロッパへ投資をし、ヨーロッパ政府との間で契約を締結することによって長期的な利害関係をさらに拡大しようとしている。したがって、カタールはアラブ諸国による武力介入を提唱する最初のアラブ国家となり、同国はダマスカスに対する圧力を増すことができる梃子をさらに拡大し、国連の安全保障理事会を通じての影響力を拡大している(また、カタールはアル・ジャジーラを通じてアラブ世界に影響を与える力も持っている)。
この情報によって、カタールがどうしてシリア紛争に影響力がある国として登場してきたのかが理解できるようになった。カタールの膨大な資金力が経済危機に陥っているヨーロッパへの影響力(経済的にだけではなく、政治的にも)をいやがうえにも拡大させている現状がよく理解できる。
(3) 天然ガスを取り巻く地政学
 
しかしながら、国連による軍事介入を許さない大国がある。それは(中国と共に)ロシアだ。ヨーロッパは巨大な量の天然ガスを必要としており、その1/4はロシアから供給されている。
 
カタールは世界最大のガス田、サウス・パーズ(イラン原産)ならびにノース・ドーム(カタール原産)をイランと共有してる。イラン側はカタールと同程度のスピードを持って天然ガスの採掘を進めることができないことから、両国の間には緊張感がある。この状況は、主として、イランに対する制裁措置に由来するものだ(テヘランは共同ガス田を空にするカタール側の採掘には不快感を示している)。
 
1年以上も前のことではあるが、イランとイラクならびにシリアはパイプラインの建設に関して合意書に署名した。これはヨーロッパ市場へ天然ガスを供給するためにペルシャ湾から地中海へ天然ガスを輸送するためのものだ。
 
当面、カタールはホルムズ海峡を渡って天然ガスを輸送している。したがって、この天然ガスの輸出はイランに依存せざるを得ないことを意味する(LNG船を使って、スエズ運河を通過しなければならないからだ)。カタールはサウジアラビア、ヨルダンおよびシリアを通過する天然ガス用パイプラインの建設計画を持っている。しかしながら、バシャル・アル・アサドは、イランとの合意を優先し、長期にわたるロシアとのエネルギー契約を温存させるためにこのプロジェクトには反対した。
 
ロシアの巨大企業、ガスプロムにそのエネルギー源を大きく依存している欧州は、値上がりを見せる天然ガスの価格を抑えるためにも競争相手を探したいところだ。スンニ・パワー(注:つまりは、カタール)は自国の資源を供給する方法を多様化するためにもカタール・サウジアラビア・シリアのパイプラインを何としても守りたいとする意向はよく理解できる。加えるに、このルートはイランがイラン・イラク・シリアの「シーア・パイプライン」から物資を入手することを防ぐことによって引き続きイランを封じ込めることもできよう。
 
かくして、最も注目すべきはシリアであり、何故シリアの市民が血なまぐさい代理戦争の犠牲になっているのかは、これらの地政学的な現実がよく説明している。また、シリアに関して上記とはまったく違った地政学的な利害関係を持ち、国連安保理の常任理事国のメンバーであるひとつの国(注:つまり、ロシア)の位置づけや同国が引き起こしているデッドロック状態をも十分に説明している。さらに、このことはそれぞれの列強がシリアを舞台にして自国の国益を追求し、競争しあっている現状をよく説明している。
西側の動きや政策については有り余るほど多くの情報がある。上記の記事を読むと、EUや米国の対シリア政策の深層心理が見えてくる。それはロシアとの対抗を押し進めるためにカタールの経済発展の野望に待ってましたとばかりに乗っかったものと言えるのではないか。カタールとEUとの組み合わせの結果、全体としてはシリアの市民運動であった民主主義の確立はとうの昔にどこかへ捨て去られ、今やロシア産の天然ガスよりも安い資源を確保することがEUの主要目的となっている。米国にとってもこれを拒む理由は何もない。この段階へ来ると、シリア市民の民主主義ばかりではなくシリア市民の生命さえもがどうでもよくなってしまっているのだ。
その一方、ロシア側の長期対外政策はどの方向を向いているのだろうか。最近のある記事[注5]にはロシア政府の考え方がどのようなものであるかに関してかなり詳しく報道されている。要点を示すと次のようである。
ロシアのシリアに対する最大の関心事はエネルギー分野への投資とシリアの地中海に面した港湾都市、タルトウースに設置されているロシア海軍の基地の確保である。
シリアとの関与について言えば、ロシアほどに定常的にシリアと関わってきた国は他にはない。モスクワはバシャル・アサド大統領の政府に対しては主要な武器供給国である。これはアサド大統領の父の時代から続いているものだ。
外交官や分析専門家に言わせると、ロシアは中東での存在感を示すために巧妙な努力をしており、自身の関心事を徹底的に防護するためにさまざまな計画を練っているとのことだ。
ロシアの明白な関心事はイスラム勢力の台頭については「ノー」とは言いながらもその語調は和らげることにあり、その一方で、ダマスカスにおいては彼らが政府を築こうとすることについては徹底して拒否することにあるようだ、とレバノン紙のコラムニストを務めるラギーダ・ダーガム氏は彼女のブログで述べている。 シリアに対するロシアの軸足は今までの一連のロシアの意見ともよく整合性を保っており、一言で言うと、それは政治的にも、軍事的にも、そして外交的にもロシアの役割を完全に支えるものとなっている。
本メッセージは、この地域に活動拠点を置く中東の外交官や分析専門家によると、シリアの反政府グループを支援するスンニ派が多数を占める国々も含めて、アラブ圏のそれぞれの首都にある外交チャンネルを通じて各国に伝えられている。モスクワはアサド大統領を罰するための国連決議案を何度となく廃案にした。この5月の初めには、ヨルダンが北部国境地帯のシリア難民キャンプを国連安保理が査察するよう提案した際にもロシアはこのヨルダンの提案を葬った。ラブロフ外相はこのような査察はシリア紛争に対する外国の介入のためのもっともらしい口実になり得るとして、切って捨てた。
言うまでもなく、ロシアのシリアに対する政策にはさまざまな要素が絡んでいる。上記に掲載した情報は非常に限られてはいるが、ロシアの方向性を理解することができると思う。
シリア情勢はNATOを擁する米国プラスEUの陣営と(中国を含む)ロシア陣営との間の綱引きの舞台となっている。その最大の要素はエネルギーの確保をめぐる攻防である。
「毒ガスを使った、使わない」、「毒ガスを使ったのはそっちだ」といった水掛け論は米国対ロシアというふたつの帝国の間の地政学的な構図の前で今やどれだけの意味を持っているのだろうかと不思議な感じさえ覚えるのは私だけだろうか。シリアの市民の生きる権利はとうに忘れさられているのが現状だ。

米国には何にもましてロシアや中国と競争あるいは対抗しようとして「ツキジデスの罠」に陥らないようにして欲しいと願うばかりだ。(注:「ツキジデスの罠」については20121021日付けのブログ、「尖閣諸島問題に見る覇権の興亡 - ある歴史学者の見方」を参照されたい。)
 
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かって、米国による日本に対する石油禁輸の打開策として日本はインドネシアの石油を確保しようとした。しかし、これは完全な不成功に終わった。最近、サハラ砂漠の南側で武装ゲリラの鎮圧に乗り出したフランス軍の動きも、自国の原発用燃料である天然ウランの安定供給を確かなものにすることががその背景にあったことは明白である。
世の中の軍事的動きの大部分はエネルギーの確保がキーワードとなっている。そして、その趨勢は強まるばかりである。
 
参照:

1: アサド政権による化学兵器使用、立証極めて困難:By SAM DAGHERTHE WALL STREET JOUNAL2013 5 02

注2: Iraq uncovers al-Qaeda ‘chemical weapons plot': BBC News, June/01/2013
注3: Syrian Opposition Fighters Arrested with Chemical Weapons: By Bill Van Auken, June/01/2013, www.wsws.org/en/articles/2013/06/01/syri-j01.html‎
 
注4: War in Syria: Geopolitics of the Conflict: Milad Jokar, The Huffington Post, Jan/02/2013, www.huffingtonpost.com/.../war-in-syria-geopolitics-_
 
注5: Russia reasserts influence in Syria, Mideast: By Karen DeYoung and Joby Warrick, The Washington Post, THE JEWISH WEEKLY REVIEW, May/30/2013
 
 

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