副題: 動物園で生まれ育った鳥が人から「渡り」を学習
1996年の米国映画「グース」を観た方々はあの映画を思い起こして欲しい。14歳の少女、エイミーはカナダ雁の雛が孵化した時「刷り込み」によって雛鳥たちの「母親」になってしまう。ここからこの映画は思わぬ展開を始める。最後には、これらのカナダ雁は実の親鳥から教わらなければ決して学ぶ機会がないはずの「渡り」を超軽量飛行機に乗ったエイミーから教わって越冬のために南へ向けて移動する。非常に楽しく、感動的でもあった。家族向けの映画としては環境問題や自然の営みを題材にした秀作だ。アウトドア派のご家族にはうってつけの映画だと思う。
No.1 出典:「ウィキペディア」の映画「グース」から
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あの映画のような試みが科学者グループの手で進められている。2010年10月とこの1月の報告、合わせてふたつの報告をご紹介したいと思う。
まず、2010年の記事(注1)をこのブログでは取り上げてみよう。この記事の主人公はホウアカトキである。この鳥の写真を見ると、「トキ」の一種であるだけに日本で今人工的に繁殖させようとしている日本古来のトキとよく似ている。
仮訳をして、それを下記に段下げをして示そう。
仮訳をして、それを下記に段下げをして示そう。
No.2 空高く:BBCはヨハネス・フリッツ博士と
彼の一団の奇妙な渡りに参加。
「おっしゃる通り、われわれはちょっと頭がおかしいのではないかと皆さんは思っているようですよ」と、苦笑いしながらヨハネス・フリッツ博士が言った。その現場を調査して、どうしてそう言われるのかは当方にも直ぐにピンと来た。
われわれ取材班は、今、スロヴェニアとの国境に近いオーストリアの小さな集落にある運動場に居る。その運動場には急ごしらえのキャンプが設置され、よく見かける道具があちこちに散らかっている。しかし、実に大きな鳥小屋だ。そこには14羽のホウアカトキが収容されており、二人のホウアカトキたちの「母親」が優しくホウアカトキの世話をしている。この様子はきっと読者の興味をそそるのではないかと思う。
そして、超軽量飛行機が脇に待機している。
この数日間、この質素な場所がワルダラップ・チームの本拠であり家であった。「ワルダラップ」はホウアカトキの別名である。でも、このグループはここに長居するつもりはまったくない。この一団はドイツからイタリアまでの1300キロの道のりをこれらの鳥たちと「渡り」を続けている最中だ。しかし、通常の「渡り」とは違う。鳥たちが超軽量飛行機の後を追って飛ぶことによって、科学者のチームが鳥たちに渡りのルートを教え込んでいるのだ。
信頼感の構築:
このプロジェクトはこの絶滅しかかっている種を救済する広範な保護計画の一部である、とワルダラップ・チームを率いるフリッツ博士が説明してくれた。
No.3 ホウアカトキは屋外ではそれほどうまくはやっていなかった
ホウアカトキはかってはヨーロッパ、北アフリカ、中東に広く分布しごく普通に見られる鳥であった。しかし、今日、生息地を失い、捕獲され、ヨーロッパからは姿を消した。モロッコにはすっかり数が減ってしまった群れが残っている。ほんのわずかがシリアでも観察されるが、それだけになってしまった。
ワルダラップ・チームは世界に散らばる他の幾つかのグループと共に人工的に繁殖した鳥を野生に戻すことができるかどうかの具体的な手法に取り組んでいる。でも、それは単に鳥籠の扉を開いて鳥たちを自由にしてやるといった単純な話ではない。本来ならば親鳥から学んだ知識によって毎年のように渡りをすることができるのだが、動物園で生まれ育った鳥たちはそのような知識を持ってはいないので、野生へ放されても生き長らえることはできない。
No.4 里親は終日鳥小屋の中で鳥たちと共に時間を過ごす。
米国で進行していたOperation Migrationと称するプロジェクトに触発されて、科学者たちは「渡り」の飛行計画を鳥たちに教え込むことにした。しかし、この目標の実現には非常に時間がかかる。すべての活動は春から始まる。雛が孵化すると、雛たちを人間の里親に引き会わせる。その時点以降何ヶ月もの間、里親は鳥たちが眠っている時間は除き四六時中鳥たちと一緒に過ごし、餌を与えたり、身づくろいをしてやったり、鳥たちと遊んだりする。
今年のチームには二人の里親がいるが、シーニャ・ウェルナーはその一人である。彼女曰く、「私たちは鳥たちの親になろうとして、可能な限りのことをしているわ。一番大事なことは自分を信用してくれるかどうかです。」そして、この努力の結果、最終的には里親が超軽量飛行機に乗っている時であっても、鳥たちは里親が行くところへは何処へでもついて行くようになる。
野生保護の危機:
この活動には費用もかかるし、多くの人的な介入が要求され、とてつもなく時間がかかるが、ワルダラップ・プロジェクトは従来の野生保護活動では見られなかったような領域へ踏み込もうとしている。野生を保護するためにその生息地を確保し、保護区を設定するといった時代は過ぎ去った。
極限の構想:
この報告は絶滅に瀕した生き物を救おうとする保護活動家たちの徹底的な手法を紹介する3部作の中の最初のものである。恐竜が絶滅した時代以降、目下、最も大規模な絶滅が進行しており、われわれは今それを目撃している。ある意味で、恵まれた機会に感謝したいとも思う。ある研究者はさらに進んでもっと極限的な策を取らなければならないとも提言している。
伝統的な手法に取り組みながらも、われわれはさらに資源を投下し、これらのホウアカトキの例に見られるように野生への再導入を試み、生き物を地球規模で移動させ、クローニングも含めて、もっと極限的で実験的な手法さえも視野にいれて行かなければならない、と彼らは言う。
野生動物保護財団のジョン・ファ・ダレル教授の言葉:種の個体数は激減している。そういった種の生存を実現するにはより多くの介入を施すしかない。
野生動物保護財団の理事を務めるジョン・ファ・ダレル教授は、「われわれは絶滅の脅威にさらされている6000種について話をしている。また、増加する一方の公害や生息地の分断化、他の生物を脅かす侵略的な種についても論議をしている。非常に多くの種が絶滅の脅威にさらされており、この脅威は強まるばかりだ。いくつかの状況においては、種の個体数が極端に低下しており、それらの生存を図るには介入の度合いを強化するしかなく、そのような状況がわれわれをかなり極端な手法に走らせているのが現状だ。われわれ自身はもっと革命的な手法を考えざるを得ないところまで追い込まれている。」
確かに、このプロジェクトは勘定書きにうまく調和している。翌朝、われわれはチームが行動を開始する様子を目撃することになった。
No.5 要は鳥たちに里親の後を追わせることにある。
でも、何時もうまく行くとは限らない。
夜明けとともに、キャンプは闇の中から脱して蜂の巣を突っついたような活動が始まった。スロヴェニアとの国境を越えて、今日は200キロ程を移動する。そのための準備が始まったのだ。
最後の準備もとどこおりなく終了し、超軽量飛行機に乗り込む前に里親のシーニャはホウアカトキたちの様子を確認した。速力を得て、露で湿った牧草地を横切って空中へ上っていく。霧が立ち込める田舎の風景が遠ざかっていく。
No.6 「渡り」の経由地
鳥小屋があけられて、「こっちよ、ワイリー、こっちへ来て」とラウドスピーカーから流れてくる里親の声に勇気づけられて、鳥たちも空中へ飛び立つ。しかし、愛情を込めて鳥たちに与えられた「ワイリー」という呼び声は鳥たちをもう少しその気にさせるには何かが必要であることが間もなく分かった。
時々、里親の努力が功を奏して、鳥たちはV字型の隊列を成して飛行機の後を追うのが観察される。しかし、その後鳥たちはばらばらになってしまい、里親が懸命に呼び戻そうとする声だけが上から聞こえてくる。この奇妙な空中散歩は90分間ほど続けられたが、今日は、鳥たちは、いたずら盛りの子供のように、言われた通りに実行する様子は見せなかった。
ついに、チームは今日の仕事をここで切り上げることにした。出発した地点からたった10キロ移動しただけだった。
元の軌道に戻って:
2-3週間後、フリッツ博士から連絡があった。
No.7 チームは予定のルートに沿って
10キロ程を移動しただけだった
初期の失敗の後、鳥たちは行動を起こした。1300キロの「渡り」を終了し、記録的な時間でイタリアに到着した、と伝えてくれた。
「2010年の渡り」は素晴らしかった、桁外れの出来事だった、と彼は言った。
「初めて、渡りの速度や距離が野生の鳥が渡りをする時の速度や距離と肩を並べるまでになった。」
初めての「渡り」が終わった今、このホウアカトキの集団は「渡りの飛行計画」を自分のものにしている。繁殖期が来た時には人の手助けもなく自分たちだけでドイツへ渡って欲しいと思う。
これらの鳥たちに将来何事が起ころうとも、ひとつだけ確かなことがある。それは、ここに報告した人の介入を極度に高めた手法は決して容易でもなければ、予測可能でもないという点だ。
私がもっとも面白いなあと感じたのは、これらの鳥たちの里親が超軽量飛行機に乗っている時であっても自分の親として認識している点だ。鳥は里親の姿や形状に基づいて里親を認識しているわけではないことが明らかだと思う。それでは何を根拠に認識しているのだろうか。声やにおい、あるいは、幾つもの組み合わせだろうか。
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今日のヤフーニュースには『トキの「精密な」V字型飛行を解明、国際研究』という記事[注2]がある。この記事はV字型に編隊を組んで飛ぶ雁やペリカンの習性についてひとつの科学的な説明が可能になったことを報告している。鳥たちは空気力学的にもっともエネルギーを要しない飛び方をしていることが分かったのだ。見事なグループ行動をしているのである。この記事の出所はこのブログで掲載したものと同じBBCからの報告である。このブログと上記のヤフーニュースの記事の両方を読んでいただくと、鳥たちの渡りには科学的な観点からも非常に興味深い背景があることをご理解いただけると思う。
冒頭ではふたつの報告について紹介したいと書いたが、二つ目の報告についてはその必要がなくなったようだ。
もう半世紀以上も昔のことになるが、私が子供のころは信州の田舎でも雁が一列になって上空を飛んでいるのを毎年のように目撃することができたものだ。
また、私が米国カリフォルニア州の最南端の片田舎で仕事をしていた頃(80年代から90年代)は、通勤の途上毎日のように、ソルトンシーの湖の上を縦一列に並んだペリカンが飛んでいるのを見ることができた。湖面すれすれに飛んでいるので、横から見ていることになるが、上下の動きに飽きもせず見入っていたものだ。湖面にぶつかる寸前まで滑空し、それから羽ばたいて上昇し、また滑空に移る。徐々に高度が下がって湖面にぶつかる寸前にまた羽ばたく。この繰り返しである。一列縦隊であるから、横から見ると、編隊としては見事なサインカーブとなっており、その山から山への波長は一定に保たれていた。見飽きることもないほどの素晴らしい眺めだった。
ただ、ペリカンによるV字型の編隊は残念ながらまだ見たことはない。
参照:
注1:Follow
that microlight: Birds learn to migrate: By Rebecca Morelle Science reporter, BBC News, Oct/27/2010
注2:トキの「精密な」V字型飛行を解明、国際研究:ヤフーニュース、Jan/17/14、headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140117-00000024-jij_afp...
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