そこへ本日のブログの表題に示すようなタイトルを持った記事 [注1] が現れた。
私は9月1日に「ウクライナ危機を招いたのは西側であって、プーチンではない」と題するブログを掲載した。あれは米国のシンクタンクとしては定評のある外交問題評議会が発行する「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載された記事に関するものであった。本日ここに引用する記事によると、あのフォーリン・アフェアーズ誌の記事が今ヨーロッパで進行している政治論議の引き金になったと報告している。
それでは、最近の記事 [注1] の内容を皆さんと一緒に確認してみたいと思う。
<引用開始>
● 「フランスとドイツはミンスク合意の停戦および実施で進展を見た。この進展によって、そのままでいるか、あるいは、経済制裁を元に戻すために必要な措置を取るかの自由を与えられた。」
● 「アンゲラ・メルケルの政策とも言える欧州全域にわたる緊縮財政やロシア叩きはそれらの政策によって苦労を強いられている人たちからの非常に強い批判に晒されている。」
●「ロシアを罰し、経済制裁を加えるという米国主導の政策はヨーロッパでは失敗するのではないかと私は思う。つまり、2015年の3月には経済制裁が延長されることはないだろう。」
Photo-1: EUには難題が盛りだくさん
スプートニク・ニュースは下記の3点に関してギルバート・ドクタロウにコメントを求めた:
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キエフ政府、ウクライナ東部の反政府派、ロシアおよびOSCE(欧州安全保障協力機構)の4者からの代表者が集まって行われるウクライナに関するミンスクでの会合。
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ロシアの行動を非難する米下院の決議。
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ウラジミール・プーチン・ロシア大統領と会談するためにオランド仏大統領が予定外にモスクワへ立ち寄ったこと。
ふたつの大陸で進行しているそれぞれ別個の事象はひとつの特性を共有していると思います。これらの事象はヨーロッパと米国の方向性には現時点では相違があることを示しています。カザフスタンからの帰路オランド仏大統領がウラジミール・プーチンと面会するために急遽モスクワに立ち寄ったという事実については後にコメントが出され、アンゲラ・メルケルとの会談の折にも言及されていますが、彼のコメントは彼自身がそう信じたいと思っていることだとも言えます。どうしてオランド大統領はそう思うのかという点がわれわれが今分析したい中心的な課題です。
フランスとドイツはミンスク合意による停戦とその実施で進展しました。これは前提条件を再吟味し、多分、経済制裁を逆戻りさせるためのものとなります。もし両国が決心したとすれば、より良好な現実があることやミンスク合意を満たすための前進が成されるといった現地の実情とは関係なく、それは両国を自由に開放し、必要なことを実行できるようにして、経済制裁を続行するか中断するかの決断に多いに役立つことでしょう。
さて、米国では下院の投票は必ずしも大統領を拘束するものではありませんが、下院の議決はロシアに対する非公式な宣戦布告です。ロシアの侵略とか冷戦後のヨーロッパの秩序に対する脅威と見なされる事柄に対処するに当たって、それは大統領に必要なことは何でも実行することができる自由を与えてくれます。
それは将来何が起こるかを示す上では非常に重要な点ですが、その点だけに限定されるわけではありません。先週あるいは先々週、他にも展開がありました。ワシントンでは、議会ではなく政府がロシアに対してもっと攻撃的な動きをしたのです。
私の考えでは、あれはハンガリーのオルバーン首相を孤立化させ、罰するための動きでした。私はチェコの大統領に対する自然発生的なデモのことも考えています。このデモはワシントン政府が資金を供給する米国民主主義基金からの支援を得ています。
言わば、ワシントン政府は上述の中欧の国々に対して剛腕を振るおうとしていることを示しており、それらの国々がロシアに接近することを米国は懸念しているのです。もっと一般的に言いますと、それらの国々は対ロ経済制裁には乗り気ではないのです。つまり、ロシアに対してどのように取り組むかという点で、旧大陸と米国は目下意見の相違が拡大しています。
米国との意見の相違については、ヨーロッパはどれだけ先まで推し進めることができるのか?
ギルバート・ドクタロウ: 私の目の前には左翼党(ドイツ連邦議会の左派)の副党首が昨日行った演説の見出しの翻訳があります。それによると、彼女はアンゲラ・メルケルを非難して。「あなたには米国政府に立ち向かう勇気がない」と言っています。
最近の2週間、経済制裁に関するメルケルの立ち位置に対して、さらには、ロシア経済が混迷を深めていることに関して、ドイツの指導的な政治家や有名人たちによる非常に注目に値する声明が幾つも表明されました。
私の念頭にはひとつの公開書簡があります。これにはドイツのさまざまな経歴を持った数多くの人たちが署名をしており、「ターゲスシュピーゲル」誌に掲載されました。その見出しは(直訳すると)「われわれの名前の下ではなく」で始まります。署名者の中にはドイツ共和国元首相が含まれ、指導的な政治家や俳優、劇作家、ならびに、ドイツでは良く知られた人たちが並んでいます。これらの人たちはメルケルの政策について非常に批判的です。
フランスではオランド大統領が今までフランスが支持して来た経済制裁から離脱するために後退していますが、驚くほどのことではありません。これはマリーヌ・ル・ペンが率いる組織、「国民戦線」の非常に基本的な路線です。
彼らは、自分たちは親プーチン派でも反ウクライナ派でもない、米国にはヨーロッパに対する剛腕振りを排除することを要望し、ヨーロッパの問題は自分たちで解決したいと言っているのです。
ところで、これは非常に微妙なメッセージであり、フランスの主要メデイアに浸透しつつあります。ニコラス・サルコジが自分の党、UMPの統治のために行った最終的な論争で用いた第1幕は「ミストラル級ヘリ空母をロシアへ引き渡そう」というものでした。つまり、公衆の意識空間にはマリーヌ・ル・ペンの党の影響が拡大しているのです。それが国民的な位置付けであって、米国の国益に従属することには反対し、自国を防護しようとしているのです。
いったい何処に落ち着くのか?米国主導のロシアを罰し、経済制裁を実施するいう政策はヨーロッパでは失敗する可能性があると私は思います。経済制裁は2015年の3月に再延長されず、場合によってはそれ以前に中断となるかも知れません。
そういった事態になりますと、米国で起こり得る一般的な状況としては、キャメロン首相がシリアで武力行使をしようとして提出した法案が英議会で拒否された事例とそれほど大きな違いがないような状況が現出します。あの時、米議会はオバマに向かって敵意を示し、オバマは米国の議会で同様な法案を通過させることは無理だと判断したのです。
戦略的には、ヨーロッパが肝心であると私は思っています。前述したふたつの互いに異なる方向性は互いに離れつつあり、先週あれ程明確に示された相違点は詳細な解析を行う価値があります。
NATOの諜報部門は西側はプーチンが発している信号を間違って理解していると提起しているように思いますが…
ギルバート・ドクタロウ: はい、その通りです。もうちょっと先まで戻ってみましょう。11月11日に、「フォーリン・アフェアーズ」誌のオンライン版は29人のロシア専門家から成る(米政府の)顧問団に対して行った調査結果を公開しました。これはジョン・ミアシャイマーが9月・10月号で著した論文で一体「誰に責任があるのか」を問いかけ、その答えとして現行のウクライナ危機については西側に責任がると答えたのですが、同論文の影響がどれほどあるのかを追跡調査したものです。
あの論文は米国では大論争を引き起こしました。今まで、公衆の見方は99%が反ロシアで占められていたからです。それとは違ったことを言おうとしたら、誰でもが「あんたはプーチンの執事ではないか」と非難されかねない雰囲気でした。フォーリン・アフェアーズ誌の9月号でこの批判記事が掲載された今、米国の対ロ政策の前提は真っ向から覆されてしまいました。しかも、対ロ政策だけに限るわけではありません。
嵐のような論争を引き起こしました。その結果はあの調査に示されています。29人のメンバーの内で実に3分の1以上の専門家が現在進行しているロシアとの抗争は西側の責任であると答えたのです。
あの顧問団にはマーシャ・ゲッセンやアレキサンダー・モテイルといった本能的に反ロ派の人たちが含まれており、しかも数多くの人たちがそうであるといる事実を考慮しますと、3分の1もの人たちが自分の所信を表明し(それが誰であるかも識別でき、彼らの所信表明はフォーリン・アフェアーズ誌上に示されており、それをダウンロードすることも可能)、これらの人たちは基本的に米国政府の対外政策に反対しているのです。この記事が発行されたことから、他の人たちも多いに勇気づけられたのではないかと私は思っています。
われわれが目撃している事実はある種の市民としての勇気が表面化して来たのだと私は考えます。数か月前には米国の対外政策は正しく行われていると信じていた人たちが公開の場で異議を唱えたのです。これは非常に大きな変化です。あのフォーリン・アフェアーズ誌の記事、ならびに、その後展開された議論は米国の公衆の意識空間には非常に有益な影響を与えたのです。
何らかの違いをもたらしてくれるでしょうか?
ギルバート・ドクタロウ: もしヨーロッパが躓くと、大きな違いが出て来ます。もしもヨーロッパが路線をそのまま維持し、ジョー・バイデンの指示に従属したままでいると、この33%の人たちの考え方は米国の政策が将来採用する路線に関与することはもはやないでしょう。
しかしながら、これは実際に起こり得ると私は思うのですが、危機について言及する際は、皆はヨーロッパだけを対象にして物事を見たいのであって、米国のことをあれこれと考えることはないと思うからです。私は、本日、たまたまゼネストの真っ最中にあるブリュッセルであなたとお会いすることになりました。
ブリュッセルは大なり小なり操業停止状態です。これは緊縮財政のせいです。週末を通じて、ヨーロッパ各国の首都では同様のデモが行われているのを誰もが目にしています。
アンゲラ・メルケルの主導の下に行われている政策ならびにロシア叩きは、両方共、苦痛を経験している人たちからの厳しい批判に晒されています。
そういう人たちが街頭に繰り出しているのです。問題は国内経済なのです。
<引用終了>
ここで、著者のギルバート・ドクタロウのプロフィールをもう少し詳しく調べておこう。
彼はロシアの専門家である。25年間彼は米国やヨーロッパの多国籍企業において市場開拓や一般管理部門で特定の地域の責任者としての仕事をしてきた。2000年には英国の多国籍企業のロシアおよび独立国家共同体についての管理職から退き、民間企業での仕事からは離脱した。ドクタロウは国際関係に関する分析的な記事をベルギーの日刊紙「ラ・リーブル・ベルジーク」に寄稿しており、英語版のモスクワ・タイムズの社説の反対側のページに掲載される論説コラムにも米ロ関係に関して投稿している。ドクタロウはモスクワのアメリカン大学の主任研究員である。1998年から2002年にかけてはRussian Booker Literary Prize(ロシアの著名な非政府系文学賞)の議長を務めた。
この著者はロシアの専門家として錚々たる職歴を持っている人であることが分かる。
ウクライナ紛争に絡んで実施されている米国主導の対ロ経済制裁やプーチン叩きはEUのそれぞれの国家にとっては結局のところ国内問題であると言う結論は秀逸だ。この著者は自国の国内問題に真剣に取り組めば取り組む程に反米的な独自政策を取らざるを得ないという現実を浮き彫りにしてくれた。したがって、米国の反感を買っているチェコやハンガリーの指導者は自国の国益に真面目に取り組んでいるということだ。また、フランスの国民戦線を引っ張っているマリーヌ・ル・ペンも同様だ。一見、国粋主義的に見えるかも知れないが、米国の対外政策に従属せず、自国の主権を少しでも回復しようとすると、当然のことながら反米色が強まって来るという今日的な現実があるのだ。
これは貴重な政治分析であると思う。
ウクライナ紛争では3回目の停戦が12月9日に当事者間で同意されたようであるが、巻き添えになって死亡した市民の数は、国連の報告によると、11月21日現在で4,317人にも達したという。膨大な数である。ひとたび軍事紛争が起こると、最悪の犠牲者は市中の一般市民である。世界の至る所でこのような現実が現出している。国際政治に従事する政治家の無能振り、非人道性、人間性に対する無関心さを見る思いがする。
彼らの関心は自分の給料を払ってくれる主人、つまり、巨大資本に注がれているだけのようだ。そういう観点から前フランス大統領であったサルコジの政治的な動きを見ると、彼は今後どこまで「ミストラル級ヘリ空母をロシアへ引き渡そう」という主張を推し進めることができるのだろうかという疑問が湧いてくる。仮に、彼がフランスの大統領に帰り咲いたとしよう。その時、この主張を堅持することができるのだろうか。彼がフランスの主権を堅持しながらも大統領に復権した場合、(日本の短期政権の歴史を考えると)彼の政権は果たして1年以上生き長らえることができるのだろうか。あるいは、これは単に当面の政局を乗り切るための過渡的な主張に過ぎないのだろうか。
著者は米国ではフォーリン・アフェアーズ誌に掲載された記事を契機に公衆の良識あるいは良心が政治の表に出て来たと評している。今後ヨーロッパでも主流メデイアに取り上げられ、この種の議論が継続された場合、大多数の公衆に受け入れられることになるのかも。この新しい考え方が効を奏して、ウクライナ紛争ならびに対ロ経済制裁は解決に向かうのかも知れない。そうなって欲しいものだ。
参照:
注1:
EU Is Diverging
From US on Russia. Could Lift Sanctions Next Year: By Gilbert Doctorow, RUSSIA INSIDER, Dec/11/2014
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