西側が報道する内容は政治的な筋書きに合わせるために歪曲されている。西側の主流メデイアだけに依存していると、その偏向振りにはまったく気が付かないほどだ。実に巧妙である。シリア危機では、イラクへの武力侵攻の時にまさにそうであったように、シリアに関する報道はアサド大統領を失脚させようとする宣伝一色であった。しかし、RTの場合は、それとはまったく違った切り口で報道されていた。要するに、ロシア側の言い分が率直に報道されていたのだ。歪曲がなく、常識的に理解できるのだ。「これはすごい!」と思った。
ところで、私のブログでは何回か「プレスティチュート」という言葉を使って来た。この言葉の定義をここでもう一度確認しておきたいと思う。ウィキショナリーによると、下記のような具合だ。
これはGrant W. Farrarによって発明された言葉で、Gerald Celenteによって多用され、良く知られるようになった。多くの場合、代替メデイアにおける独立系のジャーナリストや著者によって多用され、この言葉は政府や巨大企業に寄り添い、偏向した見解や前もって決められた筋書きに沿った意見を述べる主流メデイアのジャーナリストや語り手を指す時に使用される。ジャーナリストは、本来、基本的な義務として、ニュース報道においては中立的な立場を維持しなければならない
。
あれから1年以上となる。最近では、プレスティチュートの最たる存在である米国のCNN Newsを検索することはほとんどない。ニューヨークタイムズやワシントンポストおよびウオールストリートジャーナルも然りだ。
一方、英国からの報道に関しては、BBC Newsやガーデイアンおよびインデペンデント紙を時々覗いて見ることにしている。しかし、英国の主流メデイアがジャーナリストとして米国のそれに比べて少しでもいいのかと言うと、残念ながらそうではない。国際政治に関する報道では英国のメデイアは米国にべったりだからである。そうではあっても、今でもこれらの英国のメデイアを検索する理由は西側が今何を言おうとしているのかを知るためだ。
目下の最大の関心事は西側のメデイアが一体何時になったらプレステイチュートから脱皮して、真のジャーナリストに求められる報道姿勢に戻ってくるのかという点だ。残念なことには、答えになりそうな兆候は現在のところまったく見当たらない。
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最近、本ブログの表題に示すような表題を持った記事 [注1] が現れた。この表題はまさに昨年辺りから私が感じていた事にぴったりではないか。西側の主流メデイアにはすっかり失望させられている折から、この記事は見過ごせない。
さっそく、仮訳をして、読者の皆さんと共有してみよう。
<引用開始>
西側のメデイアは「世界第1級の課題」を詳細に論じることを好む。あたかもバケツにいっぱい入った冷水をわれわれの頭にぶっかけて来るかのようにだ。あるいは、キム・カーダシアンの豊満なヒップのような圧倒的なボリュームを伴ってだ。
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西側のメデイアはイラク戦争や金融危機でわれわれに嘘をつき、そして今はウクライナで何が起こっているのかに関してもわれわれに嘘をついている。
Photo-1: ラヴェルは熱狂的な人気を誇っている。彼はロシアの公立メデイアにおいてはリーダー格である。多くの場合、宣伝臭が濃いと批判されてはいるが…
ピーター・ラヴェルはRTでは一番人気の対談番組「クロストーク」のホスト役を務めている。
主流メデイアのエコー・チェインバーはロシアのメデイアを評してこう主張する:「ロシアのメデイアはたっぷりとした資金に支えられた宣伝機関であるから強力であり、効果的でもある」と。
[訳注:メデイア業界で用いられている「エコー・チェインバー」という言葉はウィキペデイアによると次のような意味だ。
メデイアにおいては、エコー・チェインバーとは情報や考えまたは意見が「閉ざされた」システムの中で伝達されている際、あるいは、情報伝達が繰り返されている際にその内容が増幅され、強化されていく状況を指す。このような状況においては、違った見解や競合する考えは淘汰され、否定されてしまう。マスメデイアにおいてジャーナリズムを観察する人たちはメデイアの話法に起こるエコー・チェインバー効果が現れる過程を次のように描写する。情報の提供者が何らかの主張をする。その主張に共鳴する数多くの人たちがその主張を反復する。あるいは、ふと耳にし、それを繰り返す(多くの場合、誇張が入ったり、歪曲される)。このプロセスは、その特定の話の中である種の極端に変化したストーリーがほとんどの人たちによってそれこそが真実であると見なされるまで続く。]
果たして本当にそういうことなんだろうか?ロシアのメデイアで10年以上も仕事をしてきたが、私の観察するところでは、ロシアのメデイアは外国の視聴者に対しては西側とは非常に違った形で取り組みをしている。つまり、国際的なメデイアとしての意図を形成し、それをコントロールしようとする西側覇権国の支配に対して挑戦をしているのだ。
西側のメデイアは、つい最近まで、ニュースの課題をどのように定義するかという面ではほとんど独占的な地位を謳歌していた。また、権力とも足並みを揃えて来た。ワシントン・ポストやウオール・ストリート・ジャーナルおよびファイナンシャル・タイムズの社説の反対側のページに掲載される論説を読むと、それらの論説は西側政府の対外政策を色濃く反映していることに誰でもが即座に気付く。
確かに居心地も良かった。他人の言いなりになりやすいメデイアは対外政策における冒険主義を歪曲して報道する。そのお返しとして、主要メデイア各社は戦争を取材するための第1列目の席を提供され、世界を救済する西側の一員として組み込まれるのだ。
このモデルは結構うまく行っていた。しかし、それはインターネットの威力が明確になる時点までの話であり、金融危機が到来し、戦争での失敗が暴露されるまでのことだった。そして、今や、代替メデイアが出現している。
私に頻繁に向けられるひとつの質問がある: 「RTのような新興のメデイアがどうして世界中の視聴者の間で人気があるのだろうか?」 多分、いくつもの理由があるとは思うが、一言で言えば、RTが提供する報道内容は既存のメデイアとは異質であるからではないか。視聴者はそこに新鮮味を感じるのであろう。
Photo-2: Madmagazine.com
西側のメデイアが如何にジョージ・W・ブッシュの戦争に加担して来たかを理解することは非常に重要であると私は思う。世界中で侵略行為を支援することが、むしろ何のとがめもなく、当てにされているということをエコー・チェインバーであるメデイアは実証したのである。
ブッシュの戦争(あるいは、オバマの戦争)に関して真実を報道せず、嘘をついたということでメデイアでは一体何人が職を失ったのだろうか?「イラクを乗り超えて行こう」とわれわれは言われている。しかしながら、今日、西側のメデイアは視聴者に対して嘘をついていたという強烈な意見がある。
そして、2008年から2009年にかけては金融危機があった。西側のメデイアは大部分が企業メデイアである。ウオール・ストリートの銀行家は一体何人が刑務所へ送られたのだろうか?このテーマに関しては非常に立派な調査報道が行われてきてはいるが、主流メデイアはこのストーリーを追いかけようとはしない。われわれは、またしても、「その件は乗り越えて行こう」と言われている。
銀行家は救済し、残るわれわれには資本主義的緊縮財政を堅持することについて、「国家社会主義」があるとする強い認識が存在する。主流メデイアのエコー・チェインバーは無意味にも「世界の第1級の課題」を詳細に論じることを好む。あたかもバケツにいっぱい入った冷水をわれわれの頭にぶっかけて来るかのようにだ。あるいは、キム・カーダシアンの豊満なヒップのような圧倒的なボリュームを伴ってだ。そうこうしているうちに、ウオール・ストリートやワシントンの政策立案者たちはその過去や現在の行為について特段の説明を求められることもなくなる。
代替メデイア(あるいは非西側世界)の範ちゅうにあるわれわれの場合は、何か違うことを喋ったというだけで、多くの場合、宣伝臭いと言われる始末だ。このようなことを主張する人たちや組織あるいは政府は、権力者側にとっては居心地が良く、気分もいい、標準的な筋書きとは一線を画する人たちをひどく恐れているようだ。しかし、われわれのメデイアとしての使命はそれとは違う:われわれは既存の英知に挑戦し、西側メデイアの覇権を崩すためにこそ存在するのだ。われわれは数多くの意見を少しでも多く、幅広く聞くことに興味を覚えるのである。
ウクライナで演じられている悲劇は代替メデイアに属するわれわれにとっては非常に重要である。このストーリーは分かり易く、悪さをしでかした(そして今も悪さをしている)のは誰であるのかは明白である。ワシントンやブリュッセルが民主的に選出された政府に対する反対運動でウクライナにおいて非合法的なクーデターを支援したという事実に関しては、実に多くの決定的な証拠が存在する。西側は断固としてそれらを否定する。市民による革命があったのだとする西側の公的な筋書きはそれ自体が宣伝ではないか。
メデイアはもっと質が悪い。キエフでは憲法に基づく秩序は暴力によって破壊された。そして、狙撃者による銃撃によって90人超の人たちが命を失った。引き金を引いていたのは反政府運動側の武装勢力であるらしいことが判明した時、西側のメデイアはこのストーリーには関心を払おうとはしなかった。オデッサ市では虐殺が起こった。ユーチューブで入手可能な数多くの動画によると、この虐殺の容疑者はクーデター政府と繋がりを有するファシスト連中である。西側のメデイアはこのストーリーにもこれっぽちの興味も示そうとはしなかった。
そして、NH-17便撃墜事件がある。何週間かにわたって、この撃墜事件はメデイア史上では最大級の事件のひとつとして取り扱われた。しかし、間もなくMH-17はニュースの見出しからは消えていった。何故か?空を飛んでいる旅客機を一体誰が撃墜したのかは西側の諜報当局も良くご存じの筈だ、と常識が教えてくれている。しかし、この情報は公開されてはいなく、主要メデイアの路線はもちろん「ロシアがやった!」である。そして、西側のメデイアはその先へ踏み出し、それ以上の疑問を表明することにはまったく興味を示さない。一方、さらに興味を覚え、疑問を呈するわれわれは宣伝主義者であると決めつけられる始末だ。
落とし穴のある究極的な質問は、西側のメデイアがウクライナ危機を報告する際に「ロシアは何時ウクライナへ侵攻したのか?」との質問をぶつけることだ。それに対する答えはない。なぜならば、侵攻はなかったからだ(そして、今後も恐らくないだろう)。それと同時に、ウクライナに関しては西側の視聴者には四六時中包括的な偽情報やデマ情報が流されている。これに挑戦する人は誰でも宣伝主義者だと決めつけられる始末だ。
代替メデイアに属するわれわれはストーリーを常に明確にしている訳ではない。しかし、権力の座にある人たちに挑戦するような単純な質問をしたからと言って、何故われわれは宣伝主義者だと決めつけられるのだろうか?伝統的に言って、これはジャーナリズムが存続するための中核的な使命として見なされてきた事柄だ。
この件に関しては、西側のエコー・チェインバーは自らの道徳的権利を喪失してしまった。まさに、西側のエコー・チェインバーはわれわれのためにより大きな活動空間を提供してくれたようなものだ。
<引用終了>
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念のために、著者のピーター・ラヴェルの概略をここに付記しておこう:
1965年にカリフォルニアで生まれ、現在はモスクワに活動拠点を置いている。国際経済で文学士号、ユーロッパ史で修士号、そして、カリフォルニア大学のデイヴィス校でヨーロッパ経済史で博士号を取得した。ポーランドのワルシャワにあるポーランド科学アカデミーの政治学研究所においてフルブライト主任研究員を務めた。彼は東ヨーロッパやロシアにて25年間以上も居住し、ワルシャワ大学では講師を、コルゲート・パーモリ―ヴ社では市場開拓の研究員を務め、ロシアのアルファ銀行を含む証券会社では投資分析を担当した。
ラヴェルは数多くの記事を執筆し、次のようなメデイアに寄稿している:Asia Times Online(香港に本拠)、Radio Free Europe/Radio Liberty(米議会の出資によるメデイアで、チェコのプラハに本拠)、United Press International(米国の通信社)、The National Interest(米国の雑誌社)、Current History(国際関係に重点を置いた米専門誌)。ラヴェルは電子ニューズレターであるUntimely Thoughtsの著者でもある。
引用記事には「今日、西側のメデイアは視聴者に対して嘘をついていたという強烈な意見がある」という記述が見られる。これは何を言っているのだろうか?
私の個人的な理解では、一例を挙げるとこんな具合だ。
ドイツの著名なジャーナリストのひとりが「自分は米国のCIAのプレッシャーを受けて偽りの記事を書いていた」と、自分の非を公にした [注2]。これは10月19日の報道だった。この編集者は「私は米国のCIAや他の諜報機関、特に、ドイツの諜報機関のエージェントが書いた記事を私自身の名前で発行するようになった」と告白している。「ある日、BND(ドイツの諜報機関)の職員がフランクフルトにある私の事務所へやって来た。彼らは私にリビアとムアンマル・カダフィ大佐について書いてくれと言った… 一連の機密情報を私に手渡して、その記事に私の名前を署名するだけでいいと言った。その記事はカダフィがどのようにして毒ガス工場を秘密裏に建設しようとしたかというものだった。このストーリーは2日後に世界中に配信された。」
で、問題はこれが単なる独立した唯一の事象であるのか、それとも他にも数多くの同類の事例があるのかという点だ。恐らくは、後者だろう。
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読者の皆さんにRTの言い分を丸々信じてくれとお願いする積りは私にはまったくない。
しかし、さまざまな情報を吟味し、右派や左派の意見に耳を傾け、自分が抱いている疑問についてはわれわれはそれぞれが自分の判断で結論を見出したいと思う。その場合問題となるのは、ここに引用した記事の内容からも明らかなように、主流のメデイアだけを頼りにしていてもいいのかという点だ。
このブログで引用したRTの記事は実に見事な回答を示してくれた。はっきり言って、世界中の主流メデイアは、今、深刻な課題に直面している。商業主義のメデイアでは非常に大事なことが欠落してしまっている。それはジャーナリズム精神だ。今日その欠落を埋めてくれているのが代替メデイアであると言えようか。
日本について言えば、NHKや全国紙、民報テレビからの情報だけを頼りにしていてもいいのかということだ。人工的に形成された日本の原発の「安全神話」は脆くも壊れた。多くの日本人はあの時点で目が覚めた筈だ…
参照:
注1: Why is Russian Media so Popular?
Because Western Media has Failed: By Peter Lavelle, RT,
Nov/21/2014
注2: German journo:
European media writing pro-US stories under CIA pressure (VIDEO): By RT,
Oct/19/2014, http://on.rt.com/mk2nxh
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