2014年11月21日金曜日

手も足も出なかった! - 黒海で米ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」を恐怖に陥れたのは何だったのか?


「え、こんなことがあったの?」というのが小生の実感だった。 

米国ご自慢のイージス戦闘システムを搭載した米巡航ミサイル駆逐艦が黒海でロシアの爆撃機からの妨害電波を受けて手も足も出なかったという。これは驚きだ! 

ウィキペディアでイージス艦を調べてみると、下記の様な解説がある:

イージス艦とはイージス・システムを搭載した艦艇の総称。通常、高度なシステム艦として構築されている

フェーズドアレイレーダーと高度な情報処理・射撃指揮システムにより、200を超える目標を追尾し、その中の10個以上の目標(従来のターター・システム搭載艦は23目標)を同時攻撃する能力を持つ。開発当初の目的である艦隊防空だけではなく様々な任務に対応可能な汎用性を持つため、アメリカ海軍ではイージス艦のみで水上戦闘群を編成している。

イージス・システムは、イージス艦のイージス艦たる所以であって、その戦闘システムの中核である。イージス艦が搭載する全ての兵器はイージス・システムに接続され、組み込まれる。このため、イージス艦が搭載する戦闘システム全体を指してイージス・システム(イージス戦闘システム; Aegis Combat System)と総称することもある。

これは今年の412日に実際に起こったこと。もう7か月も前のことだ。ちょうど、ウクライナ政府がウクライナ東部のドネツクやルガンスク州の反政府派をテロリストと呼び始め、いわゆる「テロリスト殲滅作戦」を開始する直前だった。 

お膝元の米国では、この話は大手メデアにはまったく現れなかったそうだ。多分、軍産複合体を応援する主要メデアは情報管制を行っていたに違いない。察するに、威勢のいい言葉を口にしていたタカ派の政治家や軍産複合体のロビイストにとっては非常に不都合な話だったのではないか。したがって、この情報は非営利系のメデア(たとえば、この情報源のVoltairenetはパリに本拠を置く非営利組織)、または、ブログを通じて報道されたものばかりである。 

今日はこのテーマについて詳しい情報を探ってみたい。さっそく、小生が目にした118日の記事 [1] を仮訳し、その内容を皆さんと共有したいと思う。
 

<引用開始>



 Photo-1: 米海軍の巡航ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」

注: この記事は2014年の9月にVoltairenet によって初めて出版された。その使用言語は英語ではなく、他言語が用いられていた。[訳注:このVoltairenetはパリに本拠を置き、その記事はEU圏のさまざまな言語、ならびに、ロシア語、トルコ語、アラビア語、等で出版されている。]

米国務省は、米駆逐艦「ドナルド・クック」が黒海でロシア軍のスホイ24Su-24)戦術爆撃機による頭上の飛行を受けて極度の混乱状態に陥ってしまったことを認めた。同機には爆弾やミサイルは装備されてはおらず、電子兵器だけが装備されていた。

YouTubeビデオのタイトル: US destroyer Donald Cook enters Black Sea amid Ukraine tension 

[訳注: 引用記事ではここにビデオがあって、ビデオを視聴することができるのだが、その部分はこの訳文へはコピペができなかった。そこで、参照されているビデオのタイトルをここに示すことにした。読者の皆さんもそのビデオを覗いていただければと思う。駆逐艦「ドナルド・クック」が黒海へ入って来る様子は外交ルートを通じての交渉はとうの昔に捨ててしまい、対外政策の行使を軍事力に頼るようになってしまった米国の現状を示すものとして象徴的でさえもある…]

このビデオは米駆逐艦「ドナルド・クック」がロシアの領海の近傍で優位な位置につくために黒海へ入って来る様子をとらえたもの。

2014410日、米艦「ドナルド・クック」は黒海の海域に入った。412日、同駆逐艦の上空をロシアのSu-24が飛び回り、ひと悶着を引き起こした。複数の報道によると、これによって同艦の乗組員はすっかり混乱状態に陥った。ペンタゴンが抗議をしたほどである。

米艦「ドナルド・クック」(DDG-75)は誘導ミサイル駆逐艦としては第4世代であり、その主要な武器は2,500キロの攻撃距離を持つトマホーク巡航ミサイルである。また、核爆弾を装備することも可能。同艦は通常56基のトマホークを装備しており、攻撃モードでは96基を搭載することができる。 

この駆逐艦は最新式のイージス戦闘システムを搭載している。これは米国海軍の総合武器システムであって、単一ネットワークの下ですべての艦艇のミサイル防衛システムを互いに連結し合うことが可能である。そうすることによって、同時に何百基もの敵ミサイルを探索、追尾、破壊することができる。さらには、ドナルド・クックには4基の大型レーダーが装備されており、その能力は何個ものレーダー基地に相当するほどだ。防衛に関しては、同艦はさまざまな種類のミサイルを搭載しており、50基以上ものミサイルを装備している。

その一方で、米駆逐艦「ドナルド・クック」の上空をすれすれに飛んだロシアのスホイ24には爆弾もミサイルも装備されてはいなかった。単に機体の下側にバスケットが装備されていただけだった。ロシアの「ロシスカヤ・ガゼッタ」紙によると、このバスケットには「ヒビヌイ」と称するロシア製の電子戦用の装置が搭載されていた。

ロシアのジェット機が米駆逐艦に近づくと、この電子装置が米駆逐艦に搭載されているすべてのレーダーや指揮系統、諸々のシステム、情報通信、等を遮断してしまった。言い換えると、NATO軍の最新型の艦艇のほとんどに搭載されている防衛システムに連結され、全能の筈のイージス・システムが遮断されてしまったのである。あたかも、リモートコントロールでテレビの映像を切るかのごとく… 

それから、ロシアのSu-24は、実質的にすっかりつんぼになり、めくら同然となった米駆逐艦に向けてミサイル攻撃のシミュレーションを行った。あたかも演習を実施しているかの如くであった。ロシア機は、非武装ではあったが、飛び去る前に12回もこの演習を繰り返した。

その後直ちに、この第4世代駆逐艦はルーマニアの港へと向かった。

この出来事以降、防衛産業の専門家からは幅広い反応があったのは事実であるが、大西洋主義のメデイアはこの事件を注意深く隠ぺいし、米国の艦艇は二度とロシアの領海へ近寄ろうとはしなくなった。

ある専門分野のメデアによると、27名の乗組員が米艦ドナルド・クックでの勤務からは辞退したいとの届けを出したという。

ロシア空軍アカデミーに付属し、いわゆる「可視性を低減する」技術を評価し、電子兵器の研究開発を行う部門を率いるウラジミール・バルビンは次のようなコメントをした:

「電子システムが複雑になればなる程、電子兵器を使ってそのシステムの機能を無効にすることがより簡単になる。」
 

YouTubeビデオのタイトル: Aegis Ballistic Missile Defense - FTM 04-1

このビデオは米イージス・システムを紹介したもの。イージス・システムは最新鋭の米艦艇に搭載されており、NATO加盟諸国の海軍にもその搭載が進められている。しかし、このミサイル防衛システムは黒海でロシア機の電子兵器によって完全にノックアウトされた。

YouTubeビデオのタイトル: Ukraine Crisis: Russian Su-24 buzzes US Destroyer USS Donald Cook

この出来事を再現したもの。
 

<引用終了>
 

日本では6隻のイージス護衛艦が就役しており、さらに2隻が近いうちに就役する予定だ。しかし、それらの性能も、米艦「ドナルド・クック」と同様に、ロシア空軍のSu-24の電子兵器の前では無用の長物なのだろうか? 

最近見られるロシアと中国との急接近は経済面だけではなく、政治や軍事の面でも広範な協力が進められると報道されている。当然のことながら、個々の軍事技術についても例外ではないだろう。今回のロシア空軍のSu-24が示した性能は中国にとっては垂涎の的という位置づけになるのではないだろうか。 

尖閣諸島の海域では中国海軍の艦艇が日本の護衛艦に対して火器管制システムのレーダーを照射したことがあった。あの行為は日本では大騒ぎになった。以前はせいぜい中国旗を掲げた船団が尖閣諸島の周辺へやって来る程度のものであったが、この時は中国の艦艇が日本の護衛艦へ向けて火器管制レーダーを照射したのだ。つまり、火器を使用する一歩手前の段階であった。これは明らかに、日本側に対する対処の仕方がより強硬なものになったということだ。中国側の政治的意思の表明の仕方が一段と厳しいものに格上げされたということのようだ。 

上記の引用記事で見る米駆逐艦ドナルド・クックに対するロシア空軍の対処にもこれと似たような面が感じられた。 

ロシア側は電子兵器を使用して米側の対応を探ったのではないか。ロシアにとっては黒海は自分たちの裏庭にあるプールみたいなものだ。今回の事件を契機にして米艦艇がロシアの領海へ近づくことには抵抗を感じるようになったという事実はロシア側にとっては大きな収穫であったのではないか。
 

♞  ♞  ♞ 

この出来事をより客観的に把握したいと思うので、もうひとつの報道 [2] も下記にご紹介しよう。
 

<引用開始> 

巡航ミサイルのトマホークを搭載した米駆逐艦「ドナルド・クック」は、410日、黒海の中立海域へ入った。その任務はウクライナやクリミア半島におけるロシアの守備位置と関連して米国側の武力を誇示し、脅しをかけることにある。この海域に領土を持ってはいない米国の艦艇がこの海域に姿を現すことは行動の特性や滞在の期間を定めたモントルー協定と矛盾する。 

対応措置として、ロシア側は武装をしてはいないスホイ24Su-24)戦術爆撃機を派遣し、米駆逐艦の周りを飛行させた。しかしながら、専門家はこのロシア機には最新式の電子兵器が搭載されていたと説明している。その説明によると、この「イージス・システム」は近づいてくる航空機を遠距離からすでに探知しており、警報を出していた。すべては順調に進行していた。米艦のレーダーは近づいてくる航空機の速度を計算していた。突然、すべてのスクリーンが消えてしまった。「イージス・システム」はもはや稼働してはいなかった。標的情報はロケットには伝達されては来なかった。一方、Su-24は駆逐艦のデッキ上空を飛行し、戦闘時のような動きを展開して、米艦に向けてミサイル攻撃のシミュレーションを行った。そして、それを繰り返した。12回もだ。  

イージス・システムを復帰させ、防御のための標的情報を何とか伝達させようとする努力はどうやらすべてが無駄に終わったようだ。米国側からの武力による脅かしに対するロシア側の反応ぶりは非常に冷静であった、とロシアの政治学者であるパヴェル・ゾロタレフは感じている: 

威嚇行動は十分に独創的であった。武器を装着してはいないが、敵のレーダーに対して妨害電波を浴びせることができる装置を搭載しただけの爆撃機がイージス・システム、つまり、対空ならびに対ミサイルの最新式のシステムを搭載した米駆逐艦に対抗し、好成績を収めたのだ。この場合は艦艇での話ではあるが、システム自体がその位置を移動する場合は、本システムには重大な欠点がある。すなわち、目標追尾能力である。お互いに連携することが可能な艦艇が複数いる場合にはこれらのシステムは良好に動作する。今回の事件では、1艘だけの駆逐艦であった。この駆逐艦に搭載されているイージス・システム用レーダーのアルゴリズムは、Su-24からの妨害電波を受けて、データを読み込んではくれなかったようだ。ロシア空軍の爆撃機が周りを飛びまわっているという事実(こういった行動は冷戦時にはよく起こったものだ)に対して神経質になったばかりではなく、米国人はこの最新式のシステム、特に、情報処理とレーダーが適切な作動をしなかったという事実に対して神経をとがらせたのだ。こうして、この出来事の最中は非常に神経質な対応となったのである。 

この出来事の後、外国のメデイアは米駆逐艦ドナルド・クックはルーマニアの港へ急行したと伝えている。乗組員の内で27名が辞職願を提出した [訳注: ウィキペデイアによると、乗員数は337]。つまり、これらの27名の乗員は自分の生命を脅威に曝したくはないとして行動を起こしたわけだ。これはペンタゴンの声明によって間接的に確認されており、それによると、この出来事は米艦艇の乗組員のモラルに大きな影響をもたらした。 

黒海で米国が引き起こしたこの出来事による影響としてはどんなことが考えられるだろうか?パヴェル・ゾロタレフは下記のような状況を予想している: 

米国人はイージス・システムを何とか改善することになると思う。これは純粋に軍事的な課題だ。政治の観点からは、どちら側にも論証的な措置はほとんどない。あれで十分だ。当面、米国側にとってはこの出来事は非常に不愉快であろう。一般的に言うと、彼らが配備するミサイル防衛システムは非常に高価だ。彼らは、その都度、予算を割り当てなければならないことを証明しなければならない。と同時に、地上に設置された弾道弾仰撃ミサイルは理想的な条件下で実験が行われているが、それでもなお効率は低い。ペンタゴンはこの現状を隠している。海上で運用されるイージス・システムは最新式ではあるものの、この出来事を見る限りでは弱点があることを示している。 

<引用終了>
 

ドナルド・クックの乗組員は定員が337名とされている。この事件後、その内の27名が辞職願を提出したという。この事実はこの出来事が乗組員に如何に大きな心理的ストレスを与えたかを物語っている。イージス艦の戦闘システムの中核をなすイージス・システムが作動しなかったことから、乗組員は極度のパニックに陥った。想像に難くない。 

また、他の報道によると、この米駆逐艦は424日には黒海を後にした。410日に黒海へ入って来たのだから、この出発は到着の日から15日目のことであった。モントルー条約の下では、黒海へ入って来た艦艇は通常21日間は滞在することが許されるという。その期間を十分に使い切らないうちに、同駆逐艦は早目に黒海を離れたということになる。はるばると黒海にまで派遣された米艦艇にとっては、普通なら考えられないことだ。米海軍の上層部が如何に困惑したかが想像できよう。 

ところで、理解できない事柄がひとつあった。この引用記事では「お互いに連携することが可能な艦艇が複数いる場合にはこれらのシステムは良好に動作する。今回の事件では、1艘だけの駆逐艦であった」との記述がある。この部分は技術的に何を言おうとしているのかがまったく分からない。専門家の方の説明をお待ちしたい。 

ところで、軍事技術は未完成ではあっても配備は開始される。通常、それを使いながら改善を続けていくといった側面が大なり小なりついてまわる。 

二番目に引用した記事の最後の文章には「地上に設置された弾道弾仰撃ミサイルは理想的な条件下で実験が行われているが、それでもなお効率は低い。ペンタゴンはこの現状を隠している」という記述がある。私の理解するところでは、今までのシミュレーション・テストでは、敵のミサイルとして想定される弾道ミサイルについてはその速度や方向、高度が事前に分かっているという理想的な条件下においてテストが実施されていたにもかかわらず、失敗が続いていたと報道されている。多分、そのことを指しているのだろう。 

今回明らかになったイージス・システムの弱点も、システムを使用しながら改善を続けて行かなければならないという軍事技術特有の状況であると言えようか。 

この事件は小生のような素人が思い悩むべき事柄ではないかも知れないが、米軍の存在感に日本の防衛を依存している専門家の皆さんにとっては、衆知の事実となってしまったこの事件を耳にして、頭を抱えているのではないだろうか。 

 

参照: 

1What frightened the USS Donald Cook so much in the Black Sea?: By Voltaire Network, Nov/08/2014, www.voltairenet.org/article185860.html  


2Russian Su24 scores off against the American USS “Donald Cook": By RUSSIAN RADIO, Apr/21/2014, indian.ruvr.ru/.../Russian-Su-24-scores-off-against-the-Americ...

 

 

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