「ウクライナの市民が内戦で死にたくはないと選択した時」と題された報道 [注1]が最近現れた。それによると、上述のような状況があちこちで起こっている。ウクライナ政府は第4回目の徴兵キャンペーンを推進しようとしたが、志願者が集まらず、大失敗に終わった模様だ。
本日はこの記事に注目して、過去10か月間に市民の間で5,400人以上もの犠牲者を出しているウクライナ紛争の実態をウクライナ市民の目線から見たいと思う。
日本はウクライナの戦場からは何千キロも離れており、ウクライナ市民の窮状を正しく理解することは実際には並たいていではない。また、たとえ多くの日本人が現状を正しく理解することができたとしても、そのことが直接的にウクライナの和平に繋がるとはとても思えない。今ウクライナを直視して、状況を正しく理解しなければならないのは嘘で固められた宣伝工作に曝され、そのような状況を許容して来たヨーロッパの政治家たちであると言えよう。
そうは言っても、われわれのような一般人の平和を願う気持ちに神様が何時の日にか応えてくださることがあるかも知れない。神様は国境や言語、宗教、文化、歴史、人種、性別、年齢、等の違いには無頓着の筈だ。そう期待して、少しでも心を研ぎ澄ましておきたいと思う。
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「想像してごらん。皆が平和に暮らしている様子を」
多分、ジョン・レノンのあの有名な「イマジン」の歌詞はいささかナイーブに聞こえるかも知れない。でも、結局のところ、これは希望を込めた将来像であるという点においてはまったく同じことではないか。反戦デモ、大量の徴兵忌避、政府の命令や抑圧に対する闘い、戦闘命令に対する不服従の表明…。市民が同胞を殺し合うことに正義を見出せないと判断した時、これらの状況は数多くの戦争を抑止してきた。
ウクライナ東部で進められている戦争の現状やキエフ政府が新たに実行しようとした第4回徴兵キャンペーンは徴兵や戦闘に対して大規模な抗議行動を引き起こした。一気に燃え盛ったのである。反対運動はウクライナ全土で起こった。依然として、国粋主義者や極右派の戦争支持者たちはたくさん存在する。彼らは反戦活動に対しては暴力を振るい、脅迫を試みているものの、抗議を鎮静させる彼らの威力は低下するばかりである。
ウクライナは歴史的に平和的な国家である。これまでのところかなりの期間にわたって、ウクライナは東欧のいたる場所、たとえば、ユーゴスラビア、グルジア、等で燃え広がった軍事的紛争を巧みに回避して来た。しかし、キエフ政府がウクライナ東部の住民に対して「テロ殲滅作戦」を開始したことから、この平和だった期間は、昨年、終わりを告げた。この紛争の当初から、兵士らの間では同胞に向けて発砲することに拒否をしたり、軍隊から逃亡したり、徴兵を忌避する行動が見られる。女性たち、つまり、徴兵対象者の母親、妻、姉妹、娘たちは抗議行動をし、反戦騒ぎを引き起こし、強制的な兵役に反抗した。
抗議行動は、まずは、多くのウクライナ人にとっては政府が説明する戦争の理由を鵜呑みにすることはとても出来ないという現実から始まった。多くの市民にとっては必ずしも外国(ロシア)からの軍事侵攻が起こっているとは思えない。ウクライナ兵が知り得る限りにおいては、自分たちが銃を構え、大砲を据える時に照準の中に見えるのは決まって同胞のウクライナ人なのだ。
二番目には、多くの市民は極端に国家主義的で新自由主義的な連中で構成された現政権のために命を捧げる気なんて毛頭ない。ウクライナの新興財閥の利益のために銃火の餌食になりたくはないのだ。戦争の遂行者は内戦を継続し、西側からの財政支援を吸い上げ、自分たちの支配に反対する者を抑圧しようとする。ウクライナ南部・中央部の集落で行われたデモで、若い女性たちがこういった声を力強く表明した。
最後に、大部分の労働者や農民は(中流の都市居住者とは違って)その地域について独特な感情を抱いており、共通の属性を共有している。彼らはドンバス、ブコヴィナ、トランスカルパチア、あるいは、ヴォルイーニといった地域こそが、ウクライナ以上に、自分たちの祖国であると実感している。愛国心や親ウクライナ、反ロシアのメッセージをそういう市民に納得させることは非常に難しいものとなる。
驚くべきことに、今回実施された4回目の徴兵では自主的に徴兵事務所へ出頭した者はほとんど皆無であった。この最近の徴兵キャンペーンの結果はキエフ政府やウクライナ軍司令部にパニック状態を引き起こしている。政府や軍は何時ものように愛国心や国家主義的な感情を煽ろうとしたが、ほとんどの市民は今まで以上に聞く耳を持たない。
徴兵年齢にある男たちは、新兵募集係の手中に陥るのを避けようとして、何千人もがウクライナの国境を超したり、国内のどこかに身を潜めたりしている。ポロシェンコ大統領は、徴兵年齢にある男性はこれ以降は軍務登録事務所で登録を完了した者だけが国を離れることが許可されるとする指令を出さざるを得なかった。
ウクライナの日刊紙「コレスポンデント」によると、「連日、大量の徴兵忌避が出現している。これはまったく新しい状況だ。2014年の1回目の徴兵では徴兵の呼びかけに応えて自主的に出頭した者は20%であった。同年の2回目の徴兵では、10%となった。」
「そして、今年は徴兵の呼びかけに対して自主的に出頭した者は6%に低下した。」
ウクライナ西部のトランスカルパチア地域では、男たちが徴兵逃れをするために集落全体がさまざまな場所で国境を超してしまった。イヴァノ・フランキヴスク地方のコシヴ地区評議会の議長は集落の住民は全員がバスを予約して、ロシアへ移動し、そこで戦争が終わるのを待っていると報告している。
コルチノの集落では、軍務登録のために役所から呼び出された105人の内で3人が出頭しただけだった。
トランスカルパチア地域の新兵募集の最高責任者を務めるボイコ氏はコレスポンデント紙にこう言った。「大きな矛盾として聞こえるかも知れないが、ウクライナ西部のテルノーピリ地域の住民はロシアへ逃げて、徴兵を忌避している。」
一時的な逃亡先としては多くの市民は東欧各国を選んでいる。ウクライナ大統領の顧問を務めるユーリ・ビリュコフは「最近の30日間で、チェルニウツィ地方(ウクライナ西部)の予備役人口の17%が国外へ脱出してしまった」と言った。
「非公式な情報源によると、隣のルーマニア側の国境沿いにあるホステルやモテルは徴兵を忌避するためにやって来たウクライナ人で溢れかえっている。」
ウクライナ西部のヴォリニア地域では、役所が招集書類を配布しようとしたが、地域住民がそれを阻止した。112.uaの報道によると、「1月24日、ヴォリニア地域のシャツキー地区のメルニキ、ザテイシエおよびピシチャの集落の住民たちは、地区の役人が到着すると、彼らの車両を停止させた。これらの車には地域の役所の代表者や新兵募集担当の将校らが乗っており、徴兵の書類を配布するために到着したところだった。」
「抗議する住民たちは役人に書類を破棄するよう求めた。その後で、役人らはようやくその場所から引き返すことができた。住民たちも帰宅した。」
この事件では役所は報復をした。同地域の警察署は「刑法336条(徴兵の忌避)に抵触するとして3件の刑事手続きを開始させた」と報告している。
オデッサの新聞「タイマー」は、1月23日、オデッサ地域のサラツキー地区のクレヴチの集落においては徴兵に反対して暴動が起こり、新兵募集係官らは事務所から追い出された。
地域住民は240人の招集書類が自分たちの集落へ到着しつつあることを知った。数分間のうちに、タイマー紙によると、500人程が集落の広場に集まって来た。6人の新兵募集係が書類を持ってやって来たが、地域住民にはまったく歓迎されてはいないことを直ぐに悟った。係官が徴兵忌避は刑事責任を問われることになるという説明を始めた。住民らは「戦争反対!」、「われわれは平和を求める!」と叫び出した。住民たちはウクライナには戒厳令が敷かれているわけでもないし、昨年の9月にミンスクで締結された停戦合意はウクライナ政府によって正式に破棄されたわけでもないことを役人らに思い起こさせようとした。住民らは、この新たな徴兵キャンペーンは違法であると主張し、係官らを力ずくで集落から退去させた。
集落へ向けて出発するに当たって、同地区の軍法委員であるイーゴル・スクリプニクはこの徴兵手続きについては集落の住民は反感を抱いていることを十分に承知していた。そこで、彼は徴兵の書類を配布する際の安全策を講じた。こうして、武装した二人の警察官が同行した。しかし、これは彼の意図とはまったく異なる結果をもたらすことになった。
「迷彩服を着て、武装している二人の男が集落に現れた時、瞬く間に住民の関心を呼び起こし、その場で暴動へと発展してしまった」と、同地区の行政府議長代行を務めるセルゲイ・バリノフは言う。「リマンスキー集落の約200人の住民が軍の代表者と武装警官を取り囲み、彼らを罰すると言って、脅かした。」 レニ地区の役所のイヴァン・スタッドニコフ副議長とイーゴル・スクリプニク軍法委員が直ちに集落へ急行した。交渉は困難を極めたが、なんとか妥協点を見い出した。しかし、地域住民らは徴収書類を押収し、ガソリンをまき、この集落へ徴兵書類を運んできた係官の面前でそれらの書類を燃してしまった。
テルノピル地域のいくつかの集落では、地域評議会の議長は徴兵書類の配布には参画しようとさえもしなかった。そればかりではなく、新兵募集の係官の到着が近づくと、住民らが徴兵から逃れる機会を与えるために住民たちにこっそりと情報をもらしてやった。
1月27日、ロシアのイタル・タス通信社は「ウクライナの男たちは、徴兵逃れのために、大挙して外国に職を求め始めた」と報道している。
「集落全体でバスを予約し、集落の男たちを出来る限り遠方へ送り出している。軍事委員会は徴兵逃れをした住人の名簿を法執行機関へ送付し、徴兵の対象となる男たちが自分の生まれ故郷や居住地域の外部へ移動することを抑止しようとしている」と、タス通信は言う。
ウクライナのヴェステイ通信を参照して、タス通信は「ザポリズイア(ウクライナの南東部)のナタリアは数か月前に息子をロシアへ出発させた。彼女は自分の名前を伏せることを条件にヴェステイ通信に一部始終を話してくれた。1週間前には夫もロシアへ送り出した。西部地域の男たちはポーランドやハンガリーに向けて出国している。ウクライナの首都キエフの軍事委員会も徴兵逃れについては愚痴をこぼしている」と、報じている。
反戦の抗議行動はドンバス地域のウクライナ軍の支配下にある地区でも続いている。ドンバス地域のクラマトルスク市では、1月末に、女性たちが「戦争反対!」と叫んで、偶発的な暴動にまで発展した。抗議行動のビデオを見ると、1分45秒が経過した辺りで、政府の徴兵策が如何に追い詰められているかを目にすることができる。一人の女性が将校に向かって詰問しているのだ。「どうして連中は真夜中に私たちの家のドアを叩き、男性を軍へ連行しようとするのよ?」
最近の数週間、近くの小さな都市、デバルツエヴォはドンバスの自警団とウクライナ軍との間の激しい戦闘の中心地となった。何千人ものウクライナ軍の兵士らが取り囲まれ、捕虜となる危険性が迫っている。町の住民はほとんどが避難してしまった。たった6千人から8千人ほどが依然として残っているに過ぎない。彼らは電気も、暖房も、水道もない生活を送っている。食事を準備するには焚火を使うしかない有様だ。
ウクライナのオンライン・メデイアであるExpres.ua は、デバルツエヴォの市長が最近ウクライナの秘密警察に逮捕され、自治を求めているドンバスの自警団に好意を示したとして非難されている、と伝えた。これらを目にして、住民らは1月末にデモを行い、住民の苦難はウクライナ軍のせいであると非難し、ウクライナ軍は立ち去るようにと訴えた。
徴兵の対象者の母親や妻たちは最近ルガンスク州のベロヴォドスクの集落(この地域はウクライナ政府軍の支配下)で抗議行動を起こした。役人たちが自動小銃で武装した警備員に守られて徴兵策の説明にやって来た。住民たちはポロシェンコ大統領には投票しなかったと言い、新興財閥のイーゴル・コロモイスキー(有名なウクライナの富豪で、戦争支持派)の利益のために自分たちを犠牲にする意思は毛頭ないと主張した。
ソーシャルネットワークは「捉えどころのない大隊」という名称のサイトを立ち上げて徴兵に対応している。それが意図するメッセージはこうだ。「高官や議員ならびに高名なビジネスマンらの子息も軍務についているというのはまったく架空の世界の話だ。」
ウクライナ語のウェブ・ジャーナル「Liva」に寄稿しているジャーナリストのロマン・リウバルはこう説明する。「徴兵によって、ウクライナ当局は(皮肉にも)この国の市民を何とか結束させることに成功した。市民は方々で徴兵逃れをし、徴兵に対する抗議行動は増加するばかりだ。刑事責任を追及される恐れや軍の宣伝が行われているにも拘わらずだ…」
「今や、ウクライナの市民は一番貧しい市民、つまり、自分たちが砲弾の餌食になって戦死する状況に直面していることを今まで以上にはっきりと理解した。その一方で、政府高官や裕福な資本家の連中はそういった運命からは巧妙に逃れているのだ。」
エフゲニー・コパトコはウクライナの分析専門家であり、Research and Branding Groupの創立者でもあるが、タス通信にこう述べた。「ウクライナの社会ではごく普通の市民たちからますます多くの声が聞こえて来るようになった。彼らは戦闘に参加するよりはむしろ刑務所で刑期を過ごすことに心の準備ができていると言う。このような状況においては、さらなる徴兵の実施はウクライナ政府にとってはもうひとつ別の大きな試練となりそうである。」
セルゲイ・キリチュクはウクライナの左翼組織である「ボロトバ」の指導者であるが、1月29日の論評でこう書いている。「政府寄りの政治家や分析専門家さえもが今回の徴兵は大失敗に終わったと言っている。ある者は徴兵委員会には顔も出さず、また、ある者は徴兵の登録をした後、姿をくらましてしまう。こうして、大量の徴兵逃れが出現し、住民の不満が煮えたぎっている大釜に加わって行くのである。」
このような状況下においては、キエフ政府は(ウクライナの極右派の武装組織の力を借りて)大衆に対するテロに依存することになるかも知れない。市民らは銃口を突き付けられて戦場に駆り出され、反戦活動家らは殺されるかも知れないのだ。しかし、第一次世界大戦中の1917-1918年に起こった暴動と革命の経験に基づいて言うと、そのような政策が辿りつく行き先についてはわれわれは熟知している。悲惨な経済環境に直面して、市民は腹を立てており、平和を求めているにも拘わらず、市民の意思は無視されている。市民は武装させられ、自分たちの意思に逆らって戦いを強いられる場合、混乱や大失敗の責任は政府や資本家らのせいであるとされることからも、政府や資本家の今後の見通しは非常に良好であるとはお世辞にも言えない。
ドウミトリー・コレス二クはウクライナのジャーナリストであって、左翼の活動家でもある。また、ウェブ・ジャーナル「Liva.com」(Livaとは「左翼」の意)の編集者でもある。同ジャーナルは英語の頁を持っており、ウクライナ語やロシア語の記事から翻訳された英訳版が掲載される。
<引用終了>
以上がウクライナでの現状である。
この報道によると、徴兵忌避はウクライナのいたるところで起こっている。少なくとも、私自身はこのような情報には始めて接しただけに、この報道内容は非常に衝撃的である。
ドイツの諜報機関が公表した別の報道 [注2]
によると、ウクライナ危機での市民の犠牲者数は50,000人にもなるという。公式には最新の犠牲者数は5,400人と報道されている。しかし、この数値はウクライナ東部のドネツク州とかルガンスク州における民間人の犠牲者の数である。残りの44,600人はウクライナ兵とドンバスの自警団の犠牲者ということになる。そして、さまざまな情報から判断すると、ウクライナ軍の犠牲者数はドンバスの自警団に比して非常に多いのだ。
これだけ多数の犠牲者が出ると、政府や軍がいくら宣伝工作をしてみても、実態を隠ぺいし続けることはもはや不可能になったのではないかと推測される。実情を肌で感じ取っている住民たちの不満は募る一方で、すでに爆発する一歩手前にまで来ているようだ。
新兵募集のためにやって来た係官にくってかかる地域住民の憤懣やるかたのない様子は多くのビデオに収録されている。特に女性たちの突き上げにあって、立ち往生する係官の姿は実に興味深い。
男たちにとっては、たとえ徴兵逃れで刑務所にぶち込まれても、最悪の場合でも5年後には社会復帰できる。それまでの我慢だ…ということのようだ。
多くの市民はそこまで追い込まれているのだ。この状況では、ポロシェンコ政権はそう長くはもたないだろう。
参照:
注1: When Ukrainians Choose Not to Die in a War: By DMITRY KOLESNIK, Counterpunch, Feb/06/2015
注2:50,000 casualties in Ukraine:
German intel says 'official figures not credible’: By RT, Feb/08/2015, http://on.rt.com/guy7mh
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