2015年8月16日日曜日

ロシアには第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある



ウクライナ危機が始まって、もう1年半となる。この米ロ間の代理戦争が何時の日にか両国間の直接的な武力衝突に取って代わるかも知れないという可能性が指摘されてすでに久しい。必然的に、それは世界規模の戦争へと展開するだろう。第三次世界大戦だ。そして、恐らく、核戦争となる。人類がどうしてそのような帰結を許してしまうのかは分からないが、この地球上に発展してきた文明は、間違いなく、そこで終焉する。

まずウクライナ危機があって、そこから第三次世界大戦へと発展していくという考えは間違った見方であるようにも思われる。専門家たちの論評によると、ウクライナ危機は単なるウクライナという限定された地域に関わるものではなく、むしろ、ヨーロッパ全体をロシアと戦わせるように当初からデザインされていたと言われている。明らかに、この見方はウクライナ危機から自然発生的に第三次世界大戦へと発展していくとする見方とは大きく異なる。後者は覇権国たる米国による分割統治政策という方程式によって導かれる解である。戦争計画者がネオコンであろうが、産軍複合体であろうが、そこにはロシアに対して戦争を始めるという明確な意思が存在しているのだ。非常に不気味な話である。

ウクライナ紛争との関連で発動された対ロ経済制裁をめぐってEU圏とロシアの政治家の反応を見ると、EUの政治家は米国の政策にすっかり追従していることが見て取れる。一方、ロシアの政治家は自国の主権を守ることに全力を挙げている。言うまでもなく、ここには非常に大きな違いがある。この点こそがEUとロシアの政治家の行動に観察される決定的な差異であると言えよう。

ロシアの基本的な外交政策はいったいどこに焦点が当てられているのだろうか?その疑問に関して興味深い記事 [1] が見つかった。

もう2ヶ月も前の記事ではあるのだが、この記事の表題(仮訳すると、「ロシアには第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある」)は、幸か不幸か、今日現在も100%有効のままである。本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>


Photo-1: 201567日、G7の指導者たちがドイツのババリア地方、クリュンの町に集合。(Reuters/Stephen Crowley)

ウラジーミル・プーチンが今週こう言った。「ロシアはNATOを攻撃するかも知れない。しかし、その考えは気違いじみた者の夢の中の話に過ぎない!」 不幸なことには、西側の政治やメデアに携わる者の間には気違いじみた者がたくさんいる。 

もしもG7の参加国は購買力で調整されたGDPに基づいて構成しければならないとすれば、G7のメンバーは米国、中国、インド、日本、ロシア、ドイツおよびブラジルとしなければならない。このような並び替えが実施されるならば、このG7は素晴らしい勢力となるだろう。全世界のGDPの53%を代表し、地球上の3大軍事勢力が代表に加わることになるのだから

しかし、ここに想定されるようなG7の構成は米国にとっては大問題だ。この種のG7においては、世界の秩序に関して非常に真面目な議論が噴出することになるだろう。

真の姿を代表するG7の代わりに、現行のG7では茶番劇が行われている。米国が君臨するこの「お喋りの集い」では、米国は二日間にもわたって「友好的な」外国の指導者らによって自国の腹部をくすぐってもらう。反対意見は決して出ない。ワシントン政府の優越性については疑問を挟む余地はなく、誰もが陽気な気分で過ごす。ロシアのウラジーミル・プーチンを追い出してしまってからというもの、その傾向は特に強い。彼は全会一致に挑戦する唯一のお客さんだった。


       Photo-2: 対ロ経済制裁を支持するよう要請されたG7の指導者たち

しかしながら、米国にとって「都合のいい」G7は賞味期限がとうに過ぎてしまった。この実に古めかしいG7の参加国が世界経済を支配していた日々はグランジ [訳注:米国で起こったロック音楽のひとつのジャンル。1990年代初期から中期。] やブリット・ポップ [訳注:1990年代にイギリスで起ったポップ・ミュージック。] の時代がとうに過ぎてしまったのと同じくらい遠い昔のこととなった。今日、G7は全世界のGDP 32%を占めているに過ぎない。重量級の中国やインドの代わりに、カナダやイタリアといった軽量級の国がメンバーとなっている。後者のふたつの国は経済的にはにっちもさっちも行かない。カナダのGDP は危機に瀕しているスペインよりもほんのちょっぴり大きい程度であり、メキシコやインドネシアの経済規模には及ばない。

とは言え、この相対的には実体のない国の指導者であるステーブン・ハーパーは、自分の意見が非常に大事であると信じる者に特有な自信を見せながら、この週末ずっとババリア地域をもったいぶって歩き回っていた。もちろん、ハーパーはオバマに圧力をかけるようなことはしない。比ゆ的に言えば、むしろ、彼は主の指輪に接吻して、南に位置する自分の主が歌っている讃美歌と同じ旋律を優しい声で歌う方を好むのだ。

NATOG7:これらは同じコインの表と裏の関係でしかないのか?

G7では「ロシアの侵略」に関して多くが話し合われた。7カ国のうちの6カ国がNATOのメンバーであることを考えると、これは決して驚きではない。NATOはワシントンにペコペコするもうひとつの団体であるからだ。オバマが出席し、デイビッド・キャメロンはボスの感情をオウム返しに反復し、ハーパーはロシアにおける政権交替を非常に効果的に訴えた。もしもプーチンがババリアに来ていたら彼らが喋った問題点はもっと簡単に解決できていただろうにという感慨はこれらの三人にはとても思い浮かばなかったに違いない。同クラブからロシアを締め出すという反射的な行動を取った彼らにとっては、会話に繋がるような展開には到底ならなかったであろう。

その一方で、マッテオ・レンツはとても冷静であった。EUの対ロ経済制裁がイタリアが奮闘している経済にさらに悪い影響を与えていることから、イタリアの首相はこの経済制裁に一人で反対していたと広く報道されている。また、レンツG7サミット後の最初の仕事はプーチンをローマへ招待することにあった。


Photo-3: 「ロシアはNATOを攻撃するかも知れない」 - プーチン

ローマへの訪問を念頭に置きながら、プーチンはイタリアの「Il Corriere della Sera」紙 [訳注:イタリアのもっとも古くからある新聞のひとつ] とのインタビューに応じて、オバマやキャメロンおよびハーパーが自分たちの玩具を乳母車から放り出すこともなく、ロシアを旧G8から締め出さなかった場合にプーチンに対して問いただして見たかったと想定される質問について、彼は非常に本質的な答を示したのである。プーチンはこう強調した「現代的な世界においては世界的な規模での軍事的紛争は想像外であることから、今西側が流布している「ロシアの侵略」というデマは誰も真面目に受け取るべきではない」と。また、ロシア大統領は「我々には第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある」とかなり単刀直入に答えたのである。

数多くの冷静な解説者が継続して指摘している点に関してもプーチンはこう言及した。「幾つかの国はそういった恐怖を意図的に育んでいる」と付け加え、こう述べた。「仮定的な話ではあるが、米国は大西洋共同体における指導力を維持するために外的な脅威を必要としている」と。 「はっきり言って、イランは非常に恐ろしいというわけではないし、大きな脅威になるというわけでもない」と、プーチンは皮肉を込めて言った。

「善玉」と「悪玉」の世界:

巨額の軍事予算を維持しようとする米国にとっては、米国市民を極度の緊張状態にしておかなければならないのだ。さもなければ、彼らは幾つかの部隊に使用されるキャッシュは病院や学校の費用に回すべきだと言い出しかねない。これらの民生用の予算の配分は、勿論、武器の製造企業にとっては利益をもたらすことはなく、読者に衝撃を与えるような筋書きを求めている新聞やテレビの編集者らにとってはとても有用とは言えないのだ。

ソ連邦の崩壊後、ロシアは余りにも弱体化してしまい、米国が望むようなそれ相応の敵国とは見なし得なかった。ロシアの核兵器(これらの核兵器を配備すると、それは相互破壊を意味することになる)は別として、ロシアの質素な軍隊はとても本物の脅威とは成り得なかった。それに代わって、戦争屋の関心は中東からバルカン半島へと向けられた。サダム・フセインやムアンマル・カダフィ、スロボダン・ミロセヴィッチ、あるいは、オサマ・ビン・ラデンが一般大衆の関心を釘付けにし、それは10数年も続いた。しかしながら、これらの人物は今や皆が死んでしまい、戦争屋のプロパガンダのためにはアメリカのバットマンに対抗してジョーカーの役を演じる新たな悪役が必要となってきた。

金正恩はひととき格好の人物であると思えた。とは言え、彼の最大の問題は北朝鮮の行動は予測可能とは言えず、挑発に対しては極めて高い確度で応酬してくることが予測された。そのような反応は、例えば、ソウルに対する核攻撃に繋がる可能性があって、ワシントン政府は最終的に中国を相手とする紛争に巻き込まれることになりかねない。ネオコンたちにとってさえも、これは余りにもリスクが大きい。別の候補者としては、シリアのバシャル・アル・アサドが挙がった。しかし、戦争屋にとっては不幸にも、ダマスカスが自分たちの視野に入って来た頃、プーチンが彼らの計画を台無しにしてしまったのである。少なくともネオコンたちは、これを契機にプーチンを悪魔視するようになった。そして、彼らはロシアに向けて軍の訓練を開始した。


Photo-4:  「プーチンはNATOを脅かそうとしている」と、デンプシー合同参謀本部議長は言う

ロシアは中東・北アフリカの戦場か?

メデアにおいては、過去2年間に何人ものネオコンのハッカーがシリアの専門からロシアの専門へと鞍替えした。Pando.comのマーク・エイムズ(以前はMoscow’s eXILE)はこの不思議な現象を特集して、最近秀逸な記事をものにしたエイムズは反ロシア的な「インタープリター」誌(同誌は実際にはブログであるが)を編集するニューヨークの活動家、マイケル・ワイスの特異な事例に焦点を当てた。「インタープリター」誌はミハイル・ホドロフスキーならびにHerzen(アムステルダムに本拠を置くオリジナルのHerzenではない)という名称の財団によって支配されていると報じられているが、その詳細は公開されてはいない。


Photo-5:  茶葉占い - べリングキャットのMH17便の写真のスクープはドイツの専門家の疑問を招いた

ワイスは長い間中東の専門家であり、彼はアサドを追い出すために米国の介入を画策した。 キエフにおけるマイダン革命の初期の段階の少し前に、突然、彼は自分自身がロシアとウクライナについての専門家であるとでっち上げ、米国のメデアのいたる場所で自分の「英知」を披露するために専門家として出演したのである(CNNから始まってポリテコやデイリー・ビーストに至るまで)。彼がロシアについて知っていることはほんの僅かであり、彼の地には住んだこともなかったにもかかわらずである。「インタープリター」誌の編集長はジェームズ・ミラーという人物であって、彼はツイッターのハンドルネームには@millerMENAを使っているが、MENAとは中東(Middle East)および北アフリカ(North Africa)を意味する。私自身は両方の地域に住んだことがあるのだが、ロシアと北アフリカとの間には共通点などは何もないと断言することができる。

ワイスとミラーだけが異常であるとは決して言えない。戦争屋やネオコンの活動家たちは、シリアを巡る自分たちの夢の計画が初期の内にロシアによって葬り去られてしまったことから、ロシアを毛嫌いしているのだ。ほとんどの人たちは無害ではあるのだが、これら二人の人物は米国のメデアに対して相当の影響力を行使している。自然と、これはウクライナに対してもひとつの懸念となろう。現実には、彼らはウクライナのことなど何とも思ってはいないのだ。それはあたかも肉を食べることが大好きな人が果たして自分の夕食に関する思いを台無しにしようとするだろうかという状況によく似ている。ウクライナのことについては、彼らはまさにその程度の関心しか抱いてはいないのだ。

ロシアの軍事政策は「全世界を相手にすることはなく、攻撃的でもなく、侵略的でもない」とプーチンは力説しており、ロシアは「実質的には海外に軍事基地をひとつも持ってはいない」と付け加えている。幾つかは旧ソ連時代の遺物であるとも述べている。ところで、ノルウェー沖で常時警戒態勢にある米原潜から打ち上げられるミサイルはたった17分でモスクワ上空に到達する、とプーチンは言う。しかしながら、メデアにおいてはこの事実は「攻撃的である」とは決して論じられないのである。

バルト諸国の衰退:

もうひとつの課題はバルト諸国である。人口の減少が続いて、これらの三か国は独立の当初から問題の解決には程遠い状況に置かれている。エストニアの人口は過去25年間に16%の減少を見ており、ラトヴィアは25%、リトアニアは32%もの減少である。これらの国では政治指導者は想像の産物である「ロシアの脅威」を自分たちの経済的失敗や腐敗から市民の関心をそらす手段として用いている。彼らは恒常的に米国にせっつき、軍事的支援を確保しようとする。これがクレムリンをさらに苛立たせ、このことはNATOがロシアの西側の国境でその存在を拡大しているとして受け止められるのである。この地域はナポレオンやヒトラーが侵攻して来た地域でもあることから、ロシア人はこういった事実には紛れもなく被害妄想的状況に陥るのである。


Photo-6:  米国主導のバルト諸国での演習では49艘のNATO諸国からの艦船および5,600名の兵士が終結した

単純な事実を述べると、ロシアはバルト三国なんて必要とはしない。また、たとえモスクワ政府がバルト三国へ侵攻する夢を抱いたとしても、彼らを支配するコストは余りにも大きい。ロシアと米国はアフガニスタンで、米国はイラクでそのことを学んだ。21世紀においては占領を嫌う国家を占領することは多かれ少なかれ不可能である。カウナスへ侵攻するためにロシアはやっとのことで勝ち取った経済や社会の進歩を犠牲にさえするかも知れないという考えは、率直に言って、余りにも馬鹿げている。

ロシアによるクリミアの合併はソヴィエト・ロシア帝国時代の版図を再興しようとするクレムリンの野望を示唆するものだとしばしば解説されている。これはナンセンスも甚だしい。クリミア市民の大多数はロシアへの復帰を希望し、ニキータ・フルシチョフがロシアの領土をウクライナへ併合した歴史的事実を無効にしようとしたのだ。もっとも狂信的なロシアの国家主義者であってさえも、リガやタリンの住民の殆んどがロシア市民になりたいと望んでいるという話を信じることは恐らくないだろう。

プーチンは「リスボンからウラジオストックに至る経済圏」を確立する要があると最初に提唱したのはフランスのシャルル・ドゴール大統領であることを我々に思い出させてくれた。NATO がモスクワをけん制するために倍賭けの手を打つ中、あのドゴールの夢が長期的な観点から吟味されることはなかった。 

(免責条項: このコラムで公表された発言や見解ならびに意見は著者自身のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代弁するものではありません。)

<引用終了>


ヨーロッパには第三次世界大戦の懸念が根強く残っている。

上記に引用した記事の最大の論点は、イタリアの「Il Corriere della Sera」紙とのインタビューに応じて、プーチンが「我々には第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある」とかなり単刀直入に答えたとという点に集約される。ロシアは西側との第三次世界大戦にはまったく関心がないのである。我々一般大衆もこの点を明確に理解しておかねければならない。

では、誰が関心を持っているのか?これを解くことは誰にとっても容易だ。ふたつの勢力のうちのひとつであるロシアは、上記に示したように、「我々には第三次世界大戦よりももっとやりたいことがある」と言っているからだ。

一方、西側には戦争を始めることに全英知を投入しようとする専門家や評論家ならびにメデイアが五万といるのだ。そして、不幸なことには、それを引き留める勢力の声はややもすると見過ごされてしまう程に小さいのが現状だ。

西側のメデアについて言えば、代替メデアだけが後者の範ちゅうに入るのが現状である。主流メデアである商業新聞やテレビは販売部数や視聴率の維持に汲々としており、読者や視聴者の関心を得ることにのみに注力している。センセーショナルな記事を流すことに追われているのだ。

ここで思い出すのは、米国のシンクタンクのひとつである外交問題評議会のジョン・ミアシャイマー教授が著した「Why the Ukraine Crisis Is the Wests Fault」という記事である。その中で「米国とその同盟国はウクライナを西洋化するという自分たちの計画を破棄し、その代わりに、冷戦時代のオーストリアの地位がそうであったように、同国をNATOとロシアとの間の中立的な緩衝地帯とすることだ」と、同教授は提言している。あの記事は小生のブログでも引用した(昨年の91日)。

人類は第三次世界大戦を引き起こすこともなく生き延びることができるのだろうか?この疑問は今年の夏も消えそうもない……


参照:

1Russia has better things to do than start WW3 (OP-ED): By Bryan MacDonald, RT, Jun/08/2015, http://on.rt.com/c0rcax






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