2015年12月24日木曜日

不信感が募るばかり - 「遺伝子組み換え作物のリスク評価は欠陥だらけ」と専門家が指摘



世界中の消費者が食品の安全性を考える時、日本で生産され、放射能で汚染されているかも知れないという一抹の不安を覚える農産物や海産物を除いては、遺伝子組み換え(GM)作物ほどその安全性が曖昧なままにされているものは他にはないのではないだろうか。

報告によると、GM作物はすでに加工食品や家畜の飼料を通じて誰もが口にしていると言われている。

たとえば、甘味料として用いられるコーンシロップ。(注: コーンとはトウモロコシのこと。)これはトウモロコシの実のデンプンを酵素処理して糖分に変換した液状甘味料だ。この甘味料が加工食品では広く使われている。他の甘味料に比較すると、コーンシロップは安価であるからだ。清涼飲料や菓子類、アイスクリームには広く用いられている。

また、GMトウモロコシは安価であることから、食用油の抽出や家畜用の飼料としても多用されている。卵、牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳、ならびに、ハム、ソーセージ、チーズ等の畜産加工品を通じて我々消費者はGMトウモロコシを毎日のように口にする。しかし、問題は加工食品の表示ラベルに現れる原料の項目ではコーンシロップとは記載されずに、コーンシロップのような異性化糖製品は日本農林規格にしたがって「果糖ブドウ糖液糖」といった別の表現が使われる。その原料であるデンプンはトウモロコシから由来したものか、それともサツマイモに由来したものかは全然分からない。

こうして、素人の我々がGM食品を正確に把握することはかなり厄介である。

米国では、トウモロコシの栽培は今やほとんどすべてがGMトウモロコシに置き換わっている。GM作物には「除草剤耐性」と「害虫抵抗性」のふたつの異なった形質がある。これらふたつの形質の両方が付与されたGM作物も急速に普及している。

米農務省の最近の情報(USDA Economic Research ServiceAdoption of genetically engineered crops in the United States, 1996-2015, dated Jul/09/2015)によると、2015年の米国内でのトウモロコシの作付面積のうち除草剤耐性型のトウモロコシは89%、害虫抵抗型のトウモロコシは81%を占める。これらふたつの形質を併せ持ったトウモロコシは全体の77%を占めるという。総じて、2015年のGMトウモロコシの作付けはトウモロコシの全作付面積の92%に達するとのことだ。

つまり、米国では遺伝子組み換えがされてはいない伝統的なトウモロコシの作付面積は8%にしかならない。恐らく、この8%はその多くがオーガニック市場用ということかも知れない。オーガニック作物は消費者価格が割高となるものの、ホワイトハウスの厨房からの需要を始めとして、根強い人気がある。

日本のオンライン市場で甘味剤として用いられるコーンシロップを検索してみた。「Karoコーンシロップ」は米国原産であると記述している。さらには、その473㎖のボトルの写真には星条旗も添えられており、米国産であることを視覚に訴えて強調している。

小生の独りよがりな推察が間違っていればそれに越したことはないのだが、米国産のコーンシロップの場合、これはGMトウモロコシから生産されたものであると推察される。消費者向けのコーンシロップ製品は大量生産を行って、コストの低減を図り、規模の利益を追求しなければならないというビジネスの現実を考えると、これは頷けることだ。もっとも安価で、市場でもっとも入手し易いトウモロコシ原料が使用されているに違いない。米国では、上記の農務省のデータが示すように、トウモロコシはそのほとんどがGMトウモロコシである。こうして、GM作物は加工食品を通じて日本の市場へとうに侵入している。そして、消費者は何の疑いもないかのようにそれを消費している。

また、別の商品として「マゾーラ・コーンオイル」も検索してみた。3.78リットル入りのマゾーラ・コーンオイルの商品説明を読むと、食用トウモロコシ油が原料として用いられ、原産地はアメリカ合衆国であると記述されている。

農林省が発表した2014年の日本の食糧自給率はカロリーベースで39%である。ここまで低下した食糧自給率の日本では、GMトウモロコシを使ったコーンシロップが店頭に並んでいても多くの消費者にとっては何の関心も起こさない。ここまで来たら、もう「お手上げだ」ということなのだろうか。

しかし、長期的な安全性に関して強い疑問があって、それに対して産業界が信頼できそうな答えを用意してはいないとしたら、あなたはどう考えますか?

遺伝子組み換え作物の種子や除草剤を生産し販売するバイオテクノロジー業界は、当然のことながら、安全性は確保されていると主張し、製品の宣伝を行って来た。そうした主張を支える文献は数多く出版されている。ただ、その方面の専門家に言わせると、産業界が主張する安全性は短期的な安全性ばかりであって、長期的なデータには欠けている。

安全性が確保されてはいないとする科学者からの報告も決してないわけではない。しかし、少ない。なぜ少ないのかと言うと、業界の豊富な資金が多くの研究活動を支えており、資金源である業界に不利な研究成果は文献としては現れにくいという業界にとっては非常に好都合な背景があるからだ。長期的な健康障害が現れると指摘する研究報告に関してバイオテクノロジー業界が必ずしも有効な反論をしているとは私には思えない。つまり、長期的な安全性はGM作物が食品として完全であるのかという基本的な問いに対してはアキレス腱であるのかも知れない。

こうした現状について小生も自分のブログで何度か拙文を掲載している(注: 「芳ちゃんのブログ」を検索してみてください)。

本日のブログで引用する記事の著者は「私は科学から離脱することにした。その最大の理由は、率直な一般大衆の懐疑的な態度をとりながら研究を続けることはもう不可能だと感じたからである…」と述べている。現代は科学者にとっては稀に見る苦難の時代だ!


16世紀から17世紀にかけて活躍したイタリアの科学者、ガリレオ・ガリレイは科学を実践するためにキリスト教と対峙した。宗教が科学の検証に口出しをしたからだ。それと同じような状況が起こっている。GM作物について科学を実践しようとする21世紀の科学者は巨大な多国籍企業と対峙しなければならないのだ。


今回分かったことではあるが、それとまったく同じ意見を持つ他の研究者からの報告を私は2014613日付けの「遺伝子組み換え食品による著しい炎症反応 - 豚を使った試験で」と題したブログでも紹介していた。少なくともこれら二人の研究者はお互いに独立した研究者であるにもかかわらず、同じような意見を述べているという事実を見過ごしにしたくはないと思う。単なる偶然とは考えられず、科学を実践しようとする研究者らが直面する大きな難題を明確に示している。その点をここで理解しておきたい。

2014613日付けの小生のブログでご紹介した研究者(ジュディ・カルマン博士。彼女はオーストラリアのフリンダース大学の准教授)の具体的な事例を下記に添えておこう。

過去6年間に、大学での地位をはく奪されそうになったことが6回 もあるという。このインタビュウで彼女が後に述べているように、彼女はこの研究ではこういったことが起こるかも知れないということを知っていたからこそ、 自分の身を守ることができたのだ。彼女は給料を貰うことを辞退し、その研究に対して助成金を受けることを辞退したほどだ… カルマン博士の場合、幸せなことには、彼女のチームには南オーストラリア州政府から研究資金を取得することができた。

小生の願望あるいは期待することは何かと言うと、日本の主流メディアでは取り扱われてはいないだろうと思われる英語圏で入手可能な情報を小生のブログへ日本語で掲載し、英文の記事や研究論文に直接アクセスすることができない方々のために少しでも役立ちたいという点にある。一人でも多くの人がGM食品の安全性に関して正しい知識を身に付けて貰えたらと思う。

小生の心の何処かには、福島原発事故の際に日本中が経験した「安全神話の崩壊」が明らかに尾を引いている。GM食品においても、産業界が主張する安全性は単に砂上の楼閣に過ぎないのではないかと感じる。まずは疑ってみる。率直に言って、さまざまな記事や文献を読んでみて、GM食品はもうひとつの「安全神話」に過ぎないと思うようになった。


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本題に戻ろう。

ここに、『不信感が募るばかり - 「遺伝子組み換え作物のリスク評価は欠陥だらけ」と専門家が指摘』と題された記事 [1] がある。GM作物に詳しい研究者が執筆したものであって、かなり最近の記事である。その全文を仮訳し、下記に掲載してみよう。

<引用開始>



Photo-1: 収穫間際のGM小麦

ジョナサン・レイサム:  私は植物生物学について教育訓練を受けた。1990年代の始め、私は博士号を取得する研究の一部でもあるGM植物を作り出す作業で多忙を極めていた。ウィルスやバクテリアなどの他の生物から得たDNAを植物へ組み込むという作業だ。

当初、私はGM植物が人間の健康や環境に何らかの影響を与えるなんてまったく心配してはいなかった。そのような心配を持たなかったひとつの理由は、私は複雑な生物学の世界や科学の研究こそが自分の道であると信じる若造に過ぎなかったからである。また、もうひとつの理由は我々が作っていたGM植物が栽培され、食に供されるとは想像もしなかったのである。私自身に関して言えば、GM植物は単なる研究の対象でしかなかった。

しかしながら、次第に、特定の企業がまったく別の考えを持っていることが明白となって来た。私の先輩の研究者の中にも私と同じように懐疑的な人が何人かいた。商業的な関心が科学的な知識よりも遥か先にまで行ってしまったのである。私は注意深く傾聴してみたが、同意はしなかった。あれから20年後の今日、GM作物、特に大豆やトウモロコシ、パパイヤおよび綿花は世界中で商業的に栽培されている。

あなたが何処の国に住んでいるのか次第ではあるが、GM作物は、多分、ラベル表示がされてはいなく、あなたの食生活でもふんだんに使用されているのではないだろうか。加工食品(ポテトチップ、朝食用シリアル、ソフトドリンク、等)はGM作物を原料としている公算が高い。それらは多くの場合トウモロコシや大豆から製造されるからだ。しかしながら、コメや小麦、大麦、カラス麦、トマト、ブドウや豆類を含めて、ほとんどの農産物は依然として伝統的な作物が主体である。

肉食の消費者にとってはGM作物の消費はその性格が異なってくる。畜産用に用いられる「GM動物」はまだ存在しない(「GM鮭」は1993年からFDAの承認待ちとなっている)が、特に畜産工場や魚の養殖場において使用される飼料はGMトウモロコシであったり、GM大豆である可能性が高い。これらの事例では、ラベル表示の問題や人の健康が被る悪影響の可能性は複雑な議論となる。

今、当時よりも遥かに多くの事柄を経験している研究者としての私は、GM作物は依然としてそれらが持つリスクよりも遥かに先を走っていると考える。大雑把に言って、こう考える理由は非常に単純である。私は生物が持つ複雑さ、ならびに、生物が人に恩恵や危害を与える能力に関してはその真の姿をより多く、かつ、より深く理解することができるようになった。とは言え、科学者としての私は自然界の奥深い複雑さや多様性の理解に関しては単にその表面を引っ掻いているに過ぎないと自覚するほどである。科学が提供し得る能力については、私は以前にも増して謙虚になっている。決まり文句になってしまうかも知れないが、私はそのことを理解すればするほど、我々科学者はまだほんの僅かしか理解してはいないと言わざるを得ない。

GM作物のリスク評価方法は欠陥だらけ: 

GM作物についての私の懸念の幾つかは実際的な観点からのものだ。私はGM作物のリスク評価申請書を数多く読んだ。これらはGM作物の安全性を「証明する」際に政府が頼りにする文書である。これらの文書は非常に長く、非常に複雑であって、これらの文書は平凡な質問を提起し、それに答えているだけだと言う意味においてはこの文書の長さは誤解を招きやすい。さらには、これらの文書に記述されている実験は多くの場合不適切であり、ご粗末でもある。科学的管理に欠けることが多く、実験要領や試薬品の記述はご粗末で、得られた結果は不明瞭で、説明することすらもできていない。この不明瞭さや下手くそな文章は単に偶然の賜物であるとは私には思えない。たとえば、最新式の研究所を備えている多国籍企業が時代遅れの手法を用いることはごく普通のことである。申請者が望んでいることを示す結果が出た場合は何も言わない。しかし、得られた結果が不都合であったり、赤旗が振られているような場合には、彼らは古めかしい手法の限度をあれこれと責めたてる。申請者はどんなデータが現れようとも、あるいは、如何に実験がひどいものであったとしても、それには関係なく安全であると主張する。防弾を巧みに施してあるこうした論理が公式のGM作物のリスク評価文書においては日常的に観察されるのである。

これらの申請書類を読むと、正直な観察者には真剣で、しかも、心をかき乱すような疑問を引き起こす。つまり、それは申請者ならびに規制当局の信頼性に関する疑念である。彼らは公衆を守り、そのための機能を十分に備えた企業や規制当局の立場に戻ることはとてもできそうにはない。

GM作物の危険性:

リスク評価の完全性に関して深刻な疑義を抱いているが、そればかりではなく、私にはGM作物については科学の観点からも具体的な懸念を抱いている。それらの懸念を下記に述べてみよう。これらはGM作物を批判する人たちが通常準備するリストには含まれないだろうからだ。

多くのGM作物には、普通、そのメーカーが供給する殺虫剤が組み込まれている。この種のGM作物にはトウモロコシ、綿花、大豆が含まれる。これらは「Bt植物」と称されている。Bt植物にはバチルス・チューリンゲンシス(Bt)というバクテリアから取得されたタンパク質系の毒素を生成する導入遺伝子が組み込まれているのだ。多くのBt作物は複数の結晶毒素を含んでおり、複数の形質を持ったBt作物は「スタッキング」と呼ばれる。Bt作物のメーカーは個々のBt毒素は特定の害虫に対してのみ作用する特異性を持っているから、安全であると考えている。しかしながら、安全性や特異性に関しては疑義を挟むべき幾つかの理由がある。ひとつの懸念は、バチルス・チューリンゲンシスは世間で良く知られている炭疽菌から区別することはできないという点だ。もうひとつの理由は、Bt由来の殺虫剤はその化学構造がリシンと非常によく似ていることである。リシンが猛毒であることはよく知られている。1978年、ブルガリア人の作家であり、亡命者でもあったゲオルギー・マルコフの暗殺には少量のリシンが使われた。三番目の理由としては、Bt由来の蛋白質の作用モードはまだ解明されてはいない(Vachon他、2012年)という点だ。効果的なリスクの評価を行うにはGM作物に導入された遺伝子の作用機構を明確に理解していることが必要であり、これは科学における公理である。このことは安全性を確かめる、あるいは、それに異議を唱えるには適切な実験を実施しなければならないことからも自明の理である。ここに掲げられた警告の赤旗は二重の意味で厄介だ。ある種の結晶毒素は人の分離細胞において毒性を示すことが知られているからだ(Mizuki他、1999年)。ところが、我々はこれらを食用の作物に組み込んでいるのである。

二番目の懸念はGM作物が多くの場合除草剤に対して耐性を持っていることから来る。この耐性は農家にはもっと多くの除草剤を散布したらどうかと勧める招待状みたいな役割を演じる。実際にそうしている農家はかなり多い。最近の研究によると、商業的に出回っているGM大豆は除草剤のラウンドアップ(グリフォサート)を蓄積するが、メーカーであるモンサントさえもが、かって、そのレベルは「極端だ」と言った程である(Bøhn他、2014)。 

グリフォサートが最近ニュースに登場した。世界保健機構(WHO)がもはやグリフォサートを「相対的に無害である」とは見なさなくなったのである。そして、GM作物に使われているもうひとつの除草剤がある。こちらもグリフォサートと同じような懸念をもたらす。グルフォシネートと称されるこの除草剤(バイエルが製造。フォスフィノスリシンとも称される)は植物の重要な酵素であるグルタミン合成酵素を阻害することによって植物を死滅させる。この酵素はいたるところに存在し、カビ類、バクテリア、および動物にも存在する。その結果、グルフォシネートはほとんどすべての生物に対して毒物として作用する。また、グルフォシネートは哺乳類に対しては神経毒としても作用し、環境中ではそう簡単には分解しない(Lantz他、2014年)。かくして、グルフォシネートは単に除草剤という名称を与えられている(が、実際には動物にも広く作用するのである)。

したがって、伝統的な農法においてはグルフォシネートの使用は危険であるのだが、GM作物の場合はさらに厄介なものとなる。GM作物では、グルフォシネートは作物上に散布されるが、植物内での分解は導入遺伝子によって阻害され、導入遺伝子は化学構造的にはほんの僅かだけグルフォシネートを変化させる。これがGM作物がグルフォシネートに耐性を持つ理由であるのだが、その結果、バイエルのグルフォシネート耐性型GMトウモロコシや菜の花を食べると、何週間あるいは何ヶ月が過ぎても、ほんの僅かだけ構造変化したグルフォシネートは分解されずに残り、多分、そのままであろう(Droge他、1992年)。ところが、グルフォシネートによる健康被害はGM作物によるそれよりもずっと大きいのであるが、科学が示す危険性はグルフォシネート耐性型GM作物のリスク評価では無視されたままである。

GM作物には他にも懸念をもたらす理由がある。ほとんどのGM作物は「カリフラワー・モザイク・ウィルス(CaMV)プロモータ」(あるいは、それと同様のフィグウオート・モザイク・ウィルス(FMV)プロモータ)と呼ばれるウィルス配列を持っている。2年前のことであるが、GM作物の安全性を監督する欧州食品安全機関(EFSA)CaMV プロモータおよびFMV プロモータはどちらも蛋白質をコード化することはないとして(ほぼ20年間にもわたって)完全に間違った想定をしていたという事実を発見した。これらのふたつのプロモータは、実際に、複数の機能を持つウィルスの小さな蛋白質をコード化し、すべての通常遺伝子の発現を誤導し、植物が本来有する病原体に対する主要な防護機構のスイッチを閉じてしまう。彼らには不運なことではあったけれども、無名の科学雑誌において発表されたこの内容を我々が見つけ出した。このことが暴露されたことによって、EFSAや関連する規制当局は消費者が実験で証明されたこともないようなウィルス由来の蛋白質をなぜ食しているのかについて説明せざるを得なくなった。 

科学の観点から見たGM作物に関する懸念を綴ったこのリストはこれですべてだという訳ではない。たとえば、二本鎖RNAsdsRNAs)を用いた新規のGM作物が市場に投入されようとしている。これはさらに大きな危険をもたらす可能性を持っている(Latham and Wilson2015)

GM作物の真の目的:

科学だけがGM作物を判断する場であるとは言えない。GM作物の商業的目的は世界に食料を供給することでも、農業を革新することでもない。それは、むしろ、種子や作物の栽培法に関する知的財産(即ち、特許権)を通じて利益を得て、アグリビジネスが恩恵を浴することができる方向へと農業を誘導することにある。この動きは農家や消費者および自然界が支払う代価の上で成り立っている。たとえば、米国の農家の場合、GM作物が導入されてからというもの種子のコストは4倍にも増え、種子の選択肢はひどく狭くなってしまったGM作物との戦いはその重要性が狭い範囲だけに限られているわけではない。それどころか、我々全員が影響を受けるのだ。

それでも、具体的な科学上の懸念は議論を進める上では重要だ。しかし、私は科学からは離脱した。その最大の理由は、率直な一般大衆の懐疑的な態度をとりながら研究を続けることはもう不可能だと感じたからである。一般大衆こそが科学に対する究極的な資金提供者であり、リスクを負う人たちであると私は考えている。

科学や技術を批判することは依然として非常に難しい。数多くの学者たちはその地位を終身的に保証され、高い給与を受け取る恩恵に浴してはいるが、多くの科学においては批判をするプロセスは概して欠如している。これこそがGM作物のリスク評価に短絡を起こし、GM作物に対する一般大衆の不信感を高めてしまった理由である。深い傷を負ってしまった科学が適切に矯正されるまでは、科学者や一般大衆がGM作物を研究所から外部へ持ち出すことに関して疑念を持ち続けることはまさに正しいのだ。

(この記事は最初にhttp://nutritionstudies.org/に掲載された。)

参照: [訳注:この部分の仮訳は省略します。]

1. Bøhn, T, Cuhra, M, Traavik, T, Sanden, M, Fagan, J and Primicerio, R (2014) Compositional differences in soybeans on the market: Glyphosate accumulates in Roundup Ready GM soybeans. Food Chemistry 153: 207-215.

2. Droge W, Broer I, and Puhler A. (1992) Transgenic plants containing the phosphinothricin-N-acetyltransferase gene metabolize the herbicide L-phosphinothricin (glufosinate) differently from untransformed plants. Planta 187: 142-151.

3. Lantz S et al., (2014) Glufosinate binds N-methyl-D-aspartate receptors and increases neuronal network activity in vitro. Neurotoxicology 45: 38-47.
Latham JR and Wilson AK (2015) 
Off -­ target Effects of Plant Transgenic RNAi: Three Mechanisms Lead to Distinct Toxicological and Environmental Hazards.

4. Mizuki, E, Et Al., (1999) Unique activity associated with non-insecticidal Bacillus thuringiensis parasporal inclusions: in vitro cell- killing action on human cancer cells. J. Appl. Microbiol. 86: 477–486.

5. Vachon V, Laprade R, Schwartz JL (2012) Current models of the mode of action of Bacillus thuringiensis insecticidal crystal proteins: a critical review. Journal of Invertebrate Pathology 111: 1–12.


<引用終了>


この記事を読むと、現在の大学や研究所を取り巻く環境、特に、GM作物に関して研究をしてみようと考える研究者にとっては非常に厄介なものであることがよく分かる。特許で守られた種子は産業界を圧倒的に有利にしており、産業界が有する豊富な資金力を背景に、科学のあるべき姿を捻じ曲げてしまっている。その結果、GM作物のリスク評価は未だ不完全なままであると、この記事の著者は科学者の立場から警鐘を鳴らしている。

非常に貴重な情報である。と同時に、非常に貴重な意見でもある。


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概して、ヨーロッパではGM作物は否定的に受け取られている。

2014年の612日、EU28か国は環境委員会を開催し、GM作物の許認可は各国別で行うことで合意した。GM作物は米州やアジアでは広く認められているが、ヨーロッパでは賛否が分かれている。

農業大国であるフランスを始め、ドイツやオーストリア、ルクセンブルグ、等、多くのEU加盟国はGM作物に反対である。

ヨーロッパでは今5か国でモンサントのGMトウモロコシが栽培されていると報告されている [2]。スペイン、ポルトガル、チェコ、ルーマニアおよびスロヴァキアである。さらには、GM作物に好感を持っている国としては英国とオランダがこれに続く。 
ごく最近のことではあるが、96日の記事、「Sanity Prevails: Scotland to Ban the Cultivation of GMO Crops」によると、スコットランド政府はGM作物の栽培を禁じると宣言した。

また、526日の記事、「German Ministers Call for EU-Wide Ban on Monsanto’s Deadly Glyphosate Herbicide (Roundup)」によると、ドイツ政府はEU圏全域でモンサント社のグリフォサート除草剤(ラウンドアップ)を禁止するよう呼びかけている。これは国連のWHOがモンサント社の除草剤、ラウンドアップの主成分であるグリフォサートについて「恐らくは、発がん性を持っている」と、最近、述べたこと(今年320日、Bloomberg Businessによる)に対応した動きのようである。

ロシアではプーチン大統領が、つい最近の129日、非GM作物の輸出では世界のトップの地位を築くとする新たな政策を示した。ロシアは小麦の輸出量では世界でもトップ・ファイブに入る国である。この政策はロシアではGM作物を許可しないという基本的な方向性を示したものだ。


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バイオテクノロジー業界は除草剤耐性作物を栽培することによって作物の収量を改善することができると約20年間にもわたって公言して来た。しかしながら、現実には必ずしもそうは展開していないようだ。

GM作物を採用することによって収量が改善されたとは言えないと主張する最初の報告が2009年に米国で公表された [3]。それを部分的に引用すると、下記のような具合だ。

・・・バイオテクノロジー業界は、1990年代の中頃以降、収量を改善すると約束して来た。しかし、「収量を改善することに失敗」と題されたこの報告書は「産業界は20年間にもわたって収量の改善をしようと試みて来たが、著しい成果を産み出すことはできなかった」と述べている。

収量を改善することに失敗」と題したこの報告書は「潜在的収量」と「実際の収量」との間には基本的に相違があるとしている。これらのふたつの概念は、産業界によっても多くの場合混同され、その結果、周囲の人たちには誤解を招いている。潜在的収量は最良の条件下で特定の作物が達成し得る究極的な収穫高を指す。一方、実際の収量は病害虫や旱魃あるいはその他の環境要因による損失分を差し引いた後、農家が実際に手にする収穫高を指すものだ。

本研究では米国でもっとも一般的な三種類のGM作物、つまり、除草剤耐性大豆、除草剤耐性トウモロコシ、および、害虫抵抗性トウモロコシ(Btコーンとも称される)の三種について詳細な調査が行われた。

除草剤耐性大豆、除草剤耐性トウモロコシ、および、Btコーンは潜在的収量を改善することには失敗したと本報告書は報告している。また、除草剤耐性大豆および除草剤耐性トウモロコシは、伝統的な農法で栽培された大豆やトウモロコシと比較しても、実際の収量を改善することにも失敗したのである。

その一方で、本報告書はBtコーンは実際の収量においては伝統的な農法に比べて3-4パーセントほど改善していることを見い出した。Btコーンは1996年に商業化されたことから、一年あたりの収量の改善は平均で0.2から0.3パーセントとなる。この数値を文脈に含めてみると、過去数十年間にわたり、総合的な米国のトウモロコシの収量は平均で一年あたり約1パーセントの改善を実現して来ているが、これはBtコーンの達成率よりも遥かに高いのである。

遺伝子組み換えの記録を評価することに加えて、収量を改善することに失敗」と題したこの報告書は今後の2030年間に達成されるかも知れない技術革新が果たすであろう役割を捨てたわけではない。本報告書は作物の収量を向上させることに何時の日にかバイオテクノロジーが寄与する可能性を否定しているわけではない。しかしながら、収量を著しく改善することに成功した技術を代価として遺伝子組み換えの技術を支援していくことは妥当であるとは言えないとする立場だ。特に、数多くの発展途上国においては確かにそう言える。加えるに、最近の研究によると、無農薬栽培やそれに近い農法を用いると、殺虫剤や化学肥料の使用を最低限にして、たとえば、サハラ砂漠以南の地域に住む貧しい農家の出費をほんの僅かなレベルに抑えたまま、収量は二倍にも伸ばすことが可能だ・・・


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いわゆる「二重の大失敗」とも言えるような現状に直面しているバイオテクノロジー業界が今後どう動くのかは小生には分からない。また、国連のWHOの発言がどれだけの影響力を持つのかも不明である。果たして消費者の健康が大事にされるのか?それとも、バイオテクノロジー業界による金儲けが今まで通りにブルドーザの如く邁進して来るのか?状況を見守るしかない。

状況を見守るしかないと言ったが、この拙文に掲載したような情報を十分に理解した上で、さらには、今後公開される関連情報を吟味しながら、我々を取り巻く状況を監視し続けなければならないと思う次第だ。


参照:

1Growing Doubt: a Scientist’s Experience of GMOs. “Flawed Processes of GMO Risk Assessment”: By Jonathan Latham PhD, Global Research, Sep/02/2015 

2MEPs approve national ban on GM crops cultivation: By Daniela Vincenti, EurActiv.com, Jan/13/2015

3Failure to Yield: Evaluating the Performance of Genetically Engineered Crops (2009): By Union of Concerned Scientists, Apr/2009






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