1月20日、米国にトランプ新政権が誕生した。あれからまだ1ヶ月にもならない。
したがって、同政権を評価することはあまりにも近視眼的である。それにもかかわらず、世間にはトランプ政権をあれこれと批判する声が実に多い。なぜだろうか?
ひとつには、トランプ大統領自身が国際政治にはまったくの素人だとする見方があって、外交には疎い新大統領が行おうとすること、たとえば、メキシコとの国境沿いに塀を建設するとか、イスラム教徒の入国を禁止するといった政策やその進め方がひどく稚拙に見えてしまうからではないか。そして、もうひとつは、昨年11月の大統領選で大敗を喫したヒラリー・クリントン候補を支えていた活動家や民主党を支えるネオ・リベラル派は、主要メディアやジョージ・ソロスと組んで、新政権をあれこれと非難し、街頭デモを行い、トランプ叩きを継続することに余念がない。
新政権にあれこれと注文をつけることはむしろ建設的なプロセスだ。メディアは社説で多いに論じるべきだ。
しかしながら、彼らは世論操作のためのフェーク・ニュースに貴重な人的資産をふんだんに投入しているのが現状だ。1960年代から1980年代にかけての米国では調査報道がメディアの主流であった。ニクソン大統領を辞職させたワシントンポストのニュース記者の活躍は映画にもなって一世を風靡した。しかし、今や、そうした伝統を持つワシントンポスト紙さえもが退廃の一途を辿っている。メディアはもはや娯楽の一形態でしかない。英語圏では「infotainment」という合成語が新たに登場し、ニュース報道は娯楽の一翼を担う役割を与えられているに過ぎない。この新語は、とりもなおさず、現在のメディアの位置を象徴していると言えよう。
こうして、一般庶民の洗脳のためには膨大な資源が投入されている。そんな人的資源の浪費は止めて、真実を報道することに少しでも専念して欲しいものだ!
こうした表面的な諸々の現象を目にして、これらの現象の背後にはいったいどのような真相が隠されているのだろうか?われわれ一般人には見えてこない根源的な理由はいったい何だろうか?
そのような問いに対する識者の答えがひとつ見つかった。米国の政治に関しては冷静、かつ、辛辣な論評で名高いポール・クレイグ・ロバーツの記事
[注1]
である。その表題には「トランプ政権はすでに死に体か?」という衝撃的な言葉が躍っている。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
トランプ新政権に対する希望は必ずしもその明るさを増し、さらに燃え上がりつつあるわけではない。トランプ政権の国防長官に指名されたマティス将軍は彼のニックネームである「狂犬」に相応しい姿を見せ始めた。イランは「世界で唯一のテロ支援国である」と、最近、
彼は断言した。
彼はロシアは米国にとって最大級の脅威であるとも言っている。
彼は中国の領土問題に介入するという脅しもかけている。
私は間違がっていた。わたしはマティス将軍の起用はまともな選択だと思っていたのだ。何故ならば、彼は拷問の効果に関しては異論を唱えており、トランプ大統領によれば、「拷問は効果がない」ことをトランプにも確信させたとのことであったからだ。しかしながら、マティスはどうやらこのレベルの確信を超えて、それよりもさらに先にある次元がより高い地政学的な確信にまでは到達することはできないようだ。トランプ大統領はロシアとのまともな関係の再構築の行く手を塞ごうとするペンタゴンの長官としてのマティスを解任する必要がある。
イランやロシアおよび中国の挙動にはマティスの見解を支持する証拠は何もない。「脅威」という言葉に関する彼の定義はネオコン派のものである。つまり、米国の覇権に抵抗する国家を指している。これは軍産複合体にとっては非常に好都合な言葉だ。そのような「脅威」が存在することによってこそ、天井知らずの軍事費の予算を正当化できるからである。この覇権に対する強い欲求こそがテロリズムの源泉となっている。
真実を語ることが許されるとすれば、覇権に強い願望を抱く国は世界中でも2カ国しかない、と私は断言したい。米国とイスラエルだ。そして、これらのふたつの国がテロリズムの源泉となっているのだ。イスラエルはパレスチナ人にテロ行為を行い、すでに約70年となる。米国は全世界でそれ以外の国々でテロ行為を働いている。
イスラム教徒のテロリストは、知り得る限りでは、米国政府が作り上げた産物である。アルカエダは、アフガニスタンが旧ソ連によって占領されることを聖戦によって阻止するために、カーター政権によって作られた。ISISは、トランプ政権の国家安全保障補佐官に任ぜられた国防情報局元長官のフリン少将がテレビで公表したように、リビアのカダフィ政権を打倒するためにオバマ/ヒラリー政権によって作られた。ドネツクおよびルガンスクの両共和国を攻撃しているウクライナのネオナチらはオバマ/ヒラリー政権がウクライナで民主的に選出されていた政権を打倒したことによって解き放たれた。ワシントンとイスラエルはすべてのテロ行為に関連している。
ウクライナ政権の打倒にワシントン政府が関与した事実には反論の余地がないけれども、洗脳されてしまった大多数の米国人はロシアがウクライナへ侵攻したと信じ込んでいる。この洗脳の構図は「イランはテロ支援国家である」とするフェークニュースを信じてしまうことと酷似している。
イランが最後に他国に対して侵略戦争を行ったのは18世紀最後の10年間であった。当時、コーカサス地方とジョージアを再度征服したが、イランは間もなくロシアとの戦争の結果それらの地域を失った。
我々の時代におけるイランは侵略行為を行ってはいない。単にワシントン政府の傀儡国家になることを拒んでいるだけだ。
加えるに、自らは何の政策も持たず、独立した対外政策を持たず、独立した経済政策を持たないイスラム教徒の国家の間では、ロシア人によって救出されたイランとシリアだけが米国に従順な傀儡政権ではない。
イランは膨大なエネルギー資源に恵まれた大国である。イランはその独立心と軍事能力に関しては古代まで遡る長い歴史を持っている。今日、イランはロシア連邦のイスラム教地域にイスラムによる聖戦を引き起こそうとする米ネオコン指導者らの企てに対する緩衝地帯としてロシアにとっては非常に重要である。その結果、もしもトランプがロシアとの間に脅威を与えない正常な関係を構築しようとするならば、イランはトランプにとってはもっとも都合の悪い目標である。その上、狂犬とのニックネームを持つペンタゴンの長官は、向こう見ずにも、イランは「テロリスト国家」であると主張し、脅しの声明を発している。
イランに対する脅かしにはイスラエルの手が伸びているのであろうか?中東においてはイランとシリアは米国の操り人形ではない唯一の国家である。シリア軍は戦闘を通じてより以上に頑健な軍隊になっており、これはシリア軍が米国の支援を受けたイスラエルに立ち向かうためには必要不可欠である。シリアとイランの両国はナイル川からユーフラテス川までに及ぶ「大イスラエル」というシオニスト構想を奉じるイスラエルの前にはだかっている。シオニストにとってはパレスチナやレバノン南部はほんの緒戦に他ならない。
イスラエルは腐敗に満ちた英国を実に巧妙に活用して来た。そして、今は、神が彼らを放り出した地で自分たちの領土を再構築するために腐敗に満ちた米国を操ろうとしている。これは英国や米国の知性や道徳を褒めるものではない。そもそも褒めるべき事柄なんていったいあるんだろうか?
また、マティスやティラーソンからは中国の影響圏に対して干渉しようとする脅かしの声が聞こえて来る。トランプ政権の要職に指名されたこれらの高官は、イランや中国に照準を合わせているようでは、ロシアとの関係を改善することはできないということが十分に理解することができてはいないようだ。
トランプ政権には地政学的に覚醒する見込みがあるのだろうか?強気な発言をするトランプ政権は米国の外交政策に影響力を及ぼそうとするイスラエルのシオニスト勢力を屈服させ、米議会の票をひっくり返すだけの十分な頑健さを果たして見せてくれるだろうか?
もしもそれが不可能であるとすれば、より多くの戦争が不可避的に勃発することだろう。
24年間(つまり、犯罪者的なクリントン政権の8年間、ブッシュ政権の8年間、ならびに、オバマ政権の8年間)にわたって世界はワシントンからの脅かしを受けて来た。その結果、何百万人もの無辜の市民が殺害され、幾つもの国家が崩壊した。トランプ政権は今までとはまったく異なるワシントンの姿を全世界に向けて提示する必要がある。
著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策担当の財務次官補を務め、ウオールストリートジャーナルでは副編集長として働いた。また、ビジネスウィーク、スクリップス・ハワード・ニュースサービス、および、クリエーターズ・シンジケートではコラムニストとして執筆した。数多くの大学から招聘を受けている。彼のインターネット・コラムは世界中の読者を魅了している。ロバ―ツ博士の最近の著書:The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic
Dissolution of the West、How America Was Lost、および、The Neoconservative
Threat to World Order。
注: この記事に掲載された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation
Clearing Houseの見解を代弁するものではありません。
<引用終了>
この記事を読むと、ネオコン派のイデオロギーや政策が如何に米国の政策を歪めているかがよく分かる。歴史を歪曲し、一般庶民を洗脳してしまう。それが過去24年間の米国政府の姿だ、と著者は言う。
また、結びの言葉が素晴らしい。
「24年間(つまり、犯罪者的なクリントン政権の8年間、ブッシュ政権の8年間、ならびに、オバマ政権の8年間)にわたって世界はワシントンからの脅かしを受けて来た。その結果、何百万人もの無辜の市民が殺害され、幾つもの国家が崩壊した。トランプ政権は今までとはまったく異なるワシントンの姿を全世界に向けて提示する必要がある。」
トランプ新大統領が今までとはまったく異なるワシントン政府の姿を全世界に向けて提示することができたとしたら、彼は間違いなく米国のトップクラスの政治家として歴史に名を残すことになるだろう。そうなれば、クリントン、ブッシュおよびオバマの三人の大統領とは大違いとなる。
ここで言う「今までとはまったく異なるワシントン政府の姿」とは経済的、政治的および軍事的覇権を追求する今までの国内政策や対外政策とはまったく異なるものであり、多国籍企業のためにさまざまな国際条約を締結して米国の利益のみを確保しようとする姿勢とも異なり、気に入らない政権の転覆や傀儡政権の樹立に翻弄する対外政策の対極に位置するものを指す。それは過去24年間の米国の政策を正面から否定するものに他ならない。
現在の米国の政策やNATOの動きは軍産複合体という一部の組織や企業の利己的な延命策に翻弄されている。一般大衆は覇権の維持のために主要メディアによって作り出されたイデオロギーによって洗脳されている。こうして、最悪の場合、米国ではロシアに対する核先制攻撃さえもが正当化されよう。米ロ核大国間の核戦争による相互確証破壊を誘発し、人類の絶滅のリスクは、偶発的な核戦争を含めて、飛躍的に高まってしまう。今までの米国の政策と決別することによってしか人類は生き延びることができないのだ。国際社会は、富める国も貧しい国もすべてが分け隔てなく、今や、そのような位置にまで追い込まれているのだと認識しなければならない。
トランプ政権の出現は伝統的な指導者層にとっては天地をひっくり返すような大きな変化である。トランプ政権が約束のすべてを実現できるとはとても思えないが、その基調は米大統領選の最中に繰り返して聞かされてきた。そして、昨年11月の米国の大統領選ではトランプ候補が大勝した。選挙民が彼を選んだのである。
ポール・クレイグ・ロバーツによれば、「トランプ新政権に対する希望は必ずしもその明るさを増し、さらに燃え上がりつつあるわけではない」と言う。しかしながら、これは新政権の発足の前後に見られた、そして、今でも続いているクリントン候補の陣営による執拗な嫌がらせやサボタージュによって引き起こされた一時的な混乱に過ぎないのではないか。
今後必要な軌道修正を適宜行って、トランプ新大統領による選挙公約の実現を目にしたいものだ。
参照:
注1: Is The Trump Administration Already
Over?: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Feb/06/2017
0 件のコメント:
コメントを投稿