2017年2月21日火曜日

米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?



「ネオコン派や米国を背後から操る指導者らはトランプ大統領を去勢してしまった。みんな、これですべてはお終いだよ!」と題した衝撃的な記事が米ロ間の政治や安全保障の分析で定評が高いThe Sakerのブログに掲載された [1]

何が終わったのかと言うと、これはトランプ大統領が選挙運動中に約束していた公約が反故になったという意味だ。トランプ政権の安全保障担当補佐官として登用されていたマイケル・フリン少将がネオコン派や主流メディアの攻撃にあってついに辞表を提出し、トランプ大統領が彼の辞表を受理したのだ。当面、ジョセフ・キース・ケロッグ退役陸軍中将が補佐官代行の任につくという。

このThe Sakerのブログによると、フリン国家安全保障担当大統領補佐官の更迭によって、トランプ大統領の外交政策上の中核であった「ロシアとは仲良くやって行きたい」という非常に基本的な路線はその方向性を見失ったのである。すべてはネオコンの好戦的な筋書きに逆戻りする可能性が高い。

これらは214日の報道である。

ネオコンの筋書きはロシアを米国の脅威と見なすことによって、さらには、ロシアをNATO軍の仮想敵と位置付けることによって米政府の天文学的な軍事予算を正当化し、武器や弾薬を大量に消費させ、軍需産業の繁栄を何とか継続させることにある。そうすることによってのみ、米国の陸・海・空の数多くの将官らは退役した後の天下り先をたくさん確保することが可能となるのだ。そして、政治家たちは見返りとして軍産複合体の団体や企業から豊富な選挙運動資金を入手する。この癒着構造には衰える気配がない。

こうした一連の動きは米ロ対決路線への逆戻りを可能にし、トランプ大統領が約束していた選挙公約を反故にしてしまうだろう。好むと好まざるとにかかわらず、その延長線上には米ロ核大国間の戦争が再び浮上して来る。

実は、こうした予見は今回の国家安全保障担当のフリン大統領補佐官が辞表を提出する前からくすぶっていた。上記の記事 [1] は次のように述べている(斜体で示す)。

「本日、クレムリンではこの出来事を祝う人は誰もいない。プーチン大統領、ラブロフ外相、および、その他の政府高官らは今回起こったことの意味を正確に理解している。それはあたかも2003年の大統領選 [訳注: 大統領選は2003年ではなく、2004年だった] でホドルコフスキーがプーチンを破ることに成功したかのようなものだ。事実、私はロシアの批評家たちに敬意を表したい。すでに数週間も前から彼らはトランプを(ウクライナの)ヤヌコビッチに喩えていた。ヤヌコビッチも選挙民の大多数によって選出されてはいたのだが、彼は自分に対する「色の革命」を阻止する決意を実現することには失敗した。もしも、トランプが新たなヤヌコビッチであるとするならば、米国は次のウクライナに相当するのであろうか?」

また、ネオコンの政策が再登場するかも知れないことを受けて、ポール・クレイグ・ロバ―ツは最近の記事 [2] に「米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?」という不気味な表題を付けている。

本日はこの記事 [2] を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたい。


<引用開始>

もしもあなたが米国のテレビやプレスティチュートと呼ばれる西側の主要メディアの対談番組でその司会役を務めたいと望むならば、まずは、あなたはビル・オライリーやCNNMSNBC、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ウオールストリートジャーナル、等のように無能で、知性を疑われるような人物となる必要がある。

ドナルド・トランプ大統領との対談で、オライリー [訳注:1949年生まれ。FOXニュースのニュース番組「ジ・オライリー・ファクター」の司会者] は次のように言った。「プーチンは殺人者だ」と。

オライリーは熱核戦争が一度起これば地球上の生命を死滅に追いやるという事実にはまったく無関心である。オライリーにとっては、トランプ大統領が願望する対ロ関係の正常化が進められると、米国の大統領は殺人者たちと取引を行わなければならないことを意味する。これはあたかも最近の三代の米国大統領は他国を完膚なきまでに、あるいは、部分的に破壊したことや何百万もの無辜の市民を殺害したことには決して関与してはいなかったとでも言いたいかのようである。

オライリーの文言に対してトランプ大統領からの反撃があった。「我々の側には数多くの殺人者がいる。あんたはいったいどう思っているんだね?米国は比べようもない程に無実であるとでも思っているのかね?」

トランプ大統領の反撃の言葉にはひとつだけ間違いがあった。それはプーチンはオバマやジョージ・W・ブッシュならびにビル・クリントンとは変わりがないと暗黙のうちに認めているようなものであるからだ。しかしながら、プーチンが「殺人者」であるという証拠はまったくない。この非難は資金や権限が自分たちに向かってとどこおりなく流れて来ることを堅持するために「ロシアの脅威」を主張し続けている連中が唱える文言そのものである。

フィニアン・カニンガムが示してくれているように、新大統領がこれから正常な関係を構築しようと願っている一国の大統領に対して証拠もなく、外交的な配慮に欠けた非難をしたとしてトランプ大統領はオライリーを叱責するべきであった。http://www.strategic-culture.org/news/2017/02/06/trump-apology-for-killer-putin-wrongheaded.html

明白な事実であるにもかかわらず、トランプ大統領の主張に対しては議会の共和党員やヒラリー大統領候補を推していた民主党員、自由主義者、進歩派、左翼、および、西側のプレスティチュート、等によって「殺人者の擁護」というレッテルが貼られた。

たとえば、politico.comというオンラインのサイトでさえもが、「ウラジミール・プーチンの殺人歴に対するドナルド・トランプによる擁護」という文言を批判している。アフガニスタンやイラク、ソマリア、リビア、イエメン、パキスタンおよびシリアにおけるイスラム教徒に対して、さらには、イスラム圏以外ではユーゴスラビアやウクライナのロシア語地域の住民に対して、ワシントン政府は過去24年間方々で大量殺人を行った来た。その後の言葉としてはまさに驚きに値すると述べているのである。ワシントン政府は人類の歴史においては大量殺人を行った最悪の政府のひとつとしたランクされるが、西側のプレスティチュート各紙はプーチンに対して大量殺人者としてのレッテルを貼っている。

ここで、ワシントンにおいて米国民を代表する議員たちの言葉を聞いてみよう: 

上院多数派のリーダーであるミッチ・マッコネル(共和党、ケンタッキー州)は3回も選出されているロシアの大統領を指して「彼は悪党だ」と言った。マッコネルは過去15年間ワシントン政府が関与してきた市民の殺戮を支持して来た。そして、この大量殺人への加担者は、ワシントン政府による何百万人もの殺戮の結果、西側諸国の至る所へもたらされた無数の難民は米国を非難するのに十分な証拠にはならないと言った。トランプの発言に対する反論として、実際に、マッコネルは「われわれはロシア人が振る舞うようには振る舞わない。米国人全員が理解することができるような違いが歴然として存在すると思う。私はその違いをそのような仕方で特徴付けようとはしなかった」とも述べている。http://www.politico.com/story/2017/02/republicans-denounce-trumps-defense-of-killer-putin-234665

フロリダ選出のマルコ・ルビオ共和党上院議員は「我々はプーチンとは同じではない」と言った。もちろん、われわれは同じではない。われわれの方こそが大量虐殺者なのだ。

ネブラスカ州選出のベン・サース共和党上院議員は「プーチンは政治的に反対意見を持った敵だ。米国は政治的な反対意見を祝福し、暴力に遭遇することなく、何処でも[カリフォルニアのバークレイのように]、どんな考えについてさえも市民が論争する権利を称賛する。世界の歴史を見ても自由をもっとも愛する米国と自分の身内を擁護するプーチンの下にある悪党共との間には道徳的に等価なものは何もない」と言ったが、これはもう無知以外の何物でもなく、米国人にさえも理解することが困難だ。 [訳注: 彼の発言を読んでみると、論理が支離滅裂だ!]

ウオールストリートジャーナルのブレット・スティーブンスは「トランプは米国をプーチンが率いるロシアの道徳と同レベルに置いた。大統領自身が自国をこのように中傷するとは歴史的にはなかった」と言った。

ブレット、そうじゃないよ!君はまったく逆に受け取っている。確かに、米国の大統領はロシアをこのように中傷したことなんてないんだ。ワシントン政府とモスクワ政府との間には道徳的に等価なものなんて何もない。ワシントン政府には道徳のかけらさえもない。でも、ロシアはそうではない。過去15年間にわたって少なくとも9ヵ国で殺人を犯し、人々を不具にし、故郷から移動させ、難民を西側各国へ送り出したのは(米国であって、)ロシアではない。そうした難民の中の何人かは当然恨みを抱いても不思議ではない。

トランプの副大統領を務めるマイク・ペンスは、急遽、NBC テレビでトランプ大統領は米国が道徳的にプーチンのロシアよりも優れているわけではないと言いたかったわけではないと注釈した。もちろん、米国は道徳的には誰よりも優れているのだ。何百万人もの市民を殺害し、故郷から追い出していることこそがわれわれの道徳的優位性に疑問の余地を感じさせない証拠だ。我々が結婚式や結婚式に参列して殺害された人たちの葬式、あるいは、子供たちのサッカーの試合や数知れない病院や医療センター、学校、農場、公共輸送機関、等を爆撃した時、例外的な存在で、かつ、必要不可欠な存在であるわれわれ米国人は全世界に対して決まってわれわれの道徳的優越性を行動で示して来た。道徳的に優位な者だけがその責任を問われることもなく人間性に対する重大な犯罪を犯すことが可能なのだ。

ロシアとの正常な関係は手の内のカードに含まれてはいない。悪魔視することや嘘は継続するだろう。「新冷戦」の存在は支配者層にとっては極めて重要であって、トランプ大統領がロシアとの関係を正常化することは軍事・安全保障関連からの選挙運動資金に依存する下院や上院の議員らにとっては何としても回避したい一大事である。

リーガンとゴルバチョフが成し遂げたことはすべてが覆されてしまった。一握りの連中が求める物欲が再び人類を危機の瀬戸際にまで追い込んでいるのだ。

「世界の歴史の中で自由をもっとも愛する偉大な国家」でありながら、それを論じることさえもない。何故ならば、その議論はまさにプーチン自身の弁証論であり、プーチンと道徳的に等価であることを意味することになるからである。

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策担当の財務次官補を務め、ウールストリートジャーナルでは副編集長として働いた。また、ビジネスウィーク、スクリップス・ハワード・ニュースサービス、および、クリエーターズ・シンジケートではコラムニストとして執筆した。数多くの大学から招聘を受けている。彼のインターネット・コラムは世界中の読者を魅了している。ロバ―ツ博士の最近の著書:The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Order

注: この記事に掲載された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの見解を代弁するものではありません。 

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

このブログでは同一著者の記事がふたつも続いてしまったが、ポール・クレイグ・ロバーツの見解は歯切れがいい。国際政治の深層を見事に読み解いてくれる。

私が理解した内容で私流に反芻するとすれば、米国の好戦派の政治家や支配者層および主流メディアの論説委員たちは日頃プーチンを悪魔視し、プーチンについて嘘の報道を行っているからこそ、テーブルを挟んでプーチンと議論をすることは受け入れられない。そうすることは非常に恐れている。彼らは自分たちがプーチンに関して流して来た嘘八百によって金縛りにされているのだ。何故ならば、そんなことをすれば道徳的には自分自身もプーチンと同列となってしまい、日頃米国民に向かって言い聞かせて来た心地よい言葉、つまり、全世界に対する米国人の「例外主義」や「必要不可欠な存在」が胡散霧消してしまうからだ。そうなったら、今まで行って来た軍産複合体に対する支援は継続する意味が無くなってしまい、自分たちの出る幕は消えてしまう。この点こそが、著者が指摘する「一握りの連中」にとっての最大の関心事であり、一歩も譲歩することは出来ないのである。

「一握りの連中」は、何とまあ、利己的な考えに浸っているのであろうか?

しかしながら、これこそが現実の姿であり、大なり小なり今日の米国の政治を操っている原動力なのである。

こうして、ポール・クレイグ・ロバーツの「米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?」という懸念がいや増しに現実味を帯びて来る。




参照:

1The Neocons and the ‘deep state’ have neutered the Trump Presidency, its over folks!: By The Saker, Feb/14/2017

2Has The American Establishment Opted for Thermo-Nuclear War?: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Feb/08/2017






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