昨年の米大統領選挙の選挙運動期間中にトランプ大統領候補は「ロシアとは仲良くやっていきたい」と述べていた。これは何を意味するのか?多くの人たちにとっては「ロシアと仲良くする」とは現在NATOとロシアとの間で進行している「新冷戦」を中断し、米国とECとがロシアに課している経済制裁を中止して、冷え切ったロシアとの関係を全面的に修復することだ。そういった米ロ間の動きの究極の目標は核戦争の脅威を低減するところにある。少なくとも、私はそう思った。
しかしながら、トランプ政権が発足してからまだ2ヶ月にもならないというのに、トランプ政権は軍事費を10パーセント増強すると公言している。対ロ関係の改善努力の戦力としては最大級の人物であろうと見られていた国家安全保障担当補佐官のマイケル・フリンがリベラル派やマスコミからの攻勢に耐えきれずに辞職願を提出した際、トランプ大統領はあっさりと彼の辞任を認めた。さらには、「時代遅れになった」と言って、批判の対象にしていたNATO軍を解体する気はどうもなさそうだ。
これらの一連の出来事を見ていると、トランプ政権になっても旧態依然たる米国の外交政策や軍事戦略は今後もそのまま続くのではないかと思わせるのに十分だ。とすると、核大国間同士の核戦争の脅威はまったく低下しないということになる。それどころか、核戦争の脅威は拡大するばかりとなるかも知れない。全人類にとってはこれ程大きな脅威はない。
米国の頭脳は今の米国の姿を、特に、大揺れに揺れている大統領選後の米国の政治に関してどのように受け取っているのだろうか?
ちょうど、ここにノーム・チョムスキーとデイビッド・ギッブスとの対談記事 [注1]
がある。そのテーマはトランプ新政権に対する不安でもあり、期待でもあると想像される。同記事の表題、「ロシアが米大統領選へ介入したとの主張を聞いて世界中が笑い転げている」はそれ自身がすでに多くを語ってくれている。
さっそく、この記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたいと思う。
<引用開始>
デイビット・ギッブス: 誰の心にも浮かぶであろう主要な点はドナルド・トランプの大統領への就任です。「原子力科学者会報」は、高まる核戦争の脅威や地球の温暖化を受けて、トランプ新大統領がもたらす計り知れない危険性を強調しています。大統領の就任式の後、同会報の比喩的な世界終末時計は新たに「真夜中」の2分半前を指しました。ここで、「真夜中」は世界の終末の時刻を象徴しています。トランプ政権によってもたらされると指摘された危険性に関して、あなたは同会報に同意しますか?
ノーム・チョムスキー: その中のひとつについては疑問の余地はない。これらふたつの危険性は人類にとっては大変な脅威だ - そのひとつは基本的には人類の終焉をもたらし、他の多くの生物種にとっても同様だ。気候変動に関しては、議論をする基盤が存在しないかのように私には思える。トランプは多くの事柄に関して一貫性を欠いている。ツイッターでは、彼はあらゆる課題について言及しているが、幾つかの課題に関しては非常に一貫性がある。つまり、気候変動に関して言えば、それを悪化させること以外には何もしようとはしない。彼は自分自身のことを示しているだけではなく、共和党全体や政権全体のことを示しているのだ。すでにその影響は出ている。悪い影響だ。来週にはこの件について話そうと思う。たとえこの影響から逃れる術があるとしても、そう簡単ではないだろう。
核兵器に関しては、何かについて喋ることは結構難しい。彼は多くの事を喋っている。あなたが言ったように、国家安全保障の専門家たちは恐怖に駆られている。しかし、彼らがより多くの恐れを感じるのは彼の主張そのものではなくて、彼の人柄だ。もしもあなたが主導的な地位にあって、この上なく慎重で、博識な専門家のひとりについて、たとえば、ブルース・ブレア― [1] のような人物の書き物を読もうとするならば、彼の主張は世界の至るところに及んでいると彼は言うが、人柄の方が恐ろしい。彼 [訳注: 「彼」という代名詞が幾つも重なって現れますが、この「彼」はトランプを指しています] は完全に誇大妄想狂だ。彼がどのように反応するかは決して予測できない。彼が約300万票の差で選挙に敗れることを知った時、彼が即座に示した反応は狂気の沙汰だった。つまり、300万人から500万人の不法入国者をどうにかこうにかかき集めて、思いも寄らない仕方で選挙に投入したのだ。小さな事柄に関しては、たとえば、ミスユニバースだったか何かに関しては彼はまったく予測不能で、足を踏み外して外界の世界へ迷い込んでしまいそうだった。彼の教祖的存在の役を務めるスティーブ・バノンはもっと性質が悪く、もっと恐ろしい。彼は、多分、自分がやっていることをよくわきまえている。
深刻な事態が起こった場合には核兵器を使用するのか、使用しないのかに関してぎりぎりの決断をする場面が何年にもわたって次から次へと生じた。彼のご自慢の交渉術が奏功しなかった場合、あるいは、誰かが彼の言うことを聞かなかった場合、この男はいったいどうする積りだろうか?彼はこう言うのではないか。「オーケー、彼らを核攻撃しようか?交渉は終わったよ。」 大規模な核戦争が起こった場合、第一撃は攻撃対象の国を壊滅する。これは何年も前から知られていることだ。核大国による第一撃は核の冬を引き起こす可能性が非常に高く、結果として何年にもわたって世界規模の飢餓をもたらし、基本的にはすべてが破壊されてしまう。何人かの生存者は生きるために悪戦苦闘することだろう。彼はこのような惨事を引き起こす積りだろうか?誰にも分からない。
彼のコメントのいくつかを見ると、核戦争の脅威を減じる可能性があると翻訳することは可能だ。現時点での最大の脅威はロシアとの国境線上にある。メキシコとの国境ではなく、ロシアとの国境だ。状況は深刻である。彼は緊張を緩和し、ロシア側の懸念を前向きに取り上げると述べて、さまざまな声明を出している。その一方、そのことを米国の核戦力の増強との間でバランスを維持し、いわゆる予算不足の軍隊(米国はすでに米国以外の国々の軍事費の合計よりも大きいのであるが)を増強しなければならない。また、シリアでの攻撃のためにはシリアへ戦力を送り込み、爆撃を開始しなければならない。次に何が起こるのかについては誰にも分からない。国家安全保障担当補佐官のフリン [2] について言えば、イランが実施したミサイル実験に対する彼の反応振りは非常に恐ろしいものであった。ミサイル実験は無分別な行動であるととられる現在、彼らは実験を行うべきではなかった。しかし、国際法や国際的な取り決めに違反するものではない。ミサイル実験は行うべきではなかった。彼の反応は米国は報復のために戦争をするべきであると示唆した。彼らは(イランとの)戦争を始めるだろうか?戦争を始めたとしたら、次に何が起こるかを知ることなんてできない。すべてが粉々になる。
米国は移民を受け入れないとする例の7カ国に対する禁止令については、分析専門家たちは誰にとっても明白な事柄を指摘している。つまり、この措置はまさにテロの脅威を増加させるだろう。テロの基盤を醸成するようなものだ。これはアブ・グレイブやバグラムおよびグアンタナモで行われた流血沙汰と同様だ。これらの流血沙汰はアルカエダやISIS を補強し、強化させるには絶好の手法となった。こんなことは誰でもが理解している。さて、米国はイスラム世界の一部に対して禁止措置をとった。7カ国を禁止した。実際には、これらの7カ国はたったひとりのテロリストについてさえも責任を問われたことはない。彼はそれら7カ国を禁止したのだ。しかし、サウジアラビアのように本当に責任が問われなければならない国が放置されている。サウジは急進的なイスラム教の聖戦士のために宣伝を行い、資金を提供する中心的な存在である。とは言え、ビジネス上の利害関係があるが故に彼らに手を出すことはできないでいる。彼らは石油を産出するのだ。実際に、ワシントンポストにはこんな記事がある。これが冗談の積りで出版されたのかどうかは私は知る由もないが、同記事は禁止国家リストに載せられるかどうかの判断基準はトランプがその当事国でビジネスをしてはいないという点にあると述べている。多分、そうなのかも知れない。しかし、彼が喋る内容以上に私がひどく心配になるのは予想することがえらく困難で、誇大妄想狂的で、敏感に反応する狂気じみた彼の人柄である。さて、気候変動については、何も言うことはない。彼は完璧に単刀直入だ。
ギッブス: 米国の大統領選の過程でロシアの介入を主張したメディアの役割に焦点を絞ってみましょう。大手メディアのジャーナリストたちはトランプはロシアの操り人形だと決めつけました。まさに映画「影なき狙撃者」に出て来る「洗脳された人物」の現代版そのものです。他の連中は何の証拠もなしに報じられるロシアの影響力を受け入れたとして、あるいは、そのような主張を事実であるかのように報道したとしてメディアを批判しています。たとえば、ノーマン・ソロモンやセルジュ・アリミはこの問題を報じるメディアはあたかもマッカーシー時代を思い出させるかのようで、大衆には興奮状態をもたらすと述べています。セイモア・ハーシュはロシアに関する報道は「言語道断だ」と批判しました [3]。このような状況についてあなたはどう見ていますか?
チョムスキー: 私の推測では、全世界が笑い転げている。すべての主張が、つまり個々の主張が正しいとしても、米国の基準から見ると余りにも素人っぽくて、笑い飛ばすことさえもできない。米国が今やっていることは1948年にイタリアで記いた内容と同種類の状況だ。そのような感じで、次から次へとコンピュータへの不法侵入を行い、メディアが根も葉もない噂を広げるばかりではなく、あんたたちを飢え死にさせ、われわれが望むように投票しなかったらあんたたちを殺すぞ、とさえ言っている。私が言いたいのはこれこそが今米国で行われていることだ。
良く知られている9/11同時多発テロを例にとってみよう。本件をしばらく考えてみよう。この事件はおぞましいテロ行為であった。場合によっては、もっともっとひどい結果を招いていたかも知れない。さて、乗客の手でペンシルバニアへ航空機を墜落させる代わりに、目標としていた場所へ墜落させたと想定してみよう。多分、目標の場所はホワイトハウスだったのではないか。次に、この墜落によって大統領が殺害されたと想定してみよう。政府を乗っ取るために武力クーデターが計画されていたのだと想定してみよう。即時に5万人の市民が殺害され、70万人が拷問を受けたと想定してみよう。経済専門家の一団がアフガニスタンから送り込まれたが、彼らを「カンダハールの男たち」と呼ぶことにしよう。彼らは経済を速やかに破壊し、経済を壊滅させる専制政治を確立した。これは9-11同時多発テロよりも遥かに性質が悪い。しかし、このようなことが1973年9月11日にチリで実際に起こった。われわれ米国人が引き起こしたのだ。その例では政党への介入を行ったり、不法な侵攻を行ったのだろうか?この種の疑問に答える記録は世界中に存在し、政府を転覆させ、武力侵攻し、市民にはわれわれが言うところの民主主義に従うように強制したのである。私が挙げた想定の通りである。もしもすべての主張が正確であるとするならば、それは冗談であって、これを聞いて世界の半数の人たちは笑い転げていることだろう。なぜならば米国以外に住んでいる人たちはそれを良く理解しているからだ。最初の9-11事件についてはチリの市民に真相を告げてやる必要なんてない。
ギッブス: 冷戦後の時代においてもっとも大きな驚きのひとつは北太西洋条約機構とそれ以外の米国主導の同盟が依然として健在していることです。これらの同盟は冷戦の時代にソ連邦の脅威を封じ込めることのためだけに、あるいは、それを主要な目的として構築されたものです。1991年にソ連邦は地図上から消滅しましたが、対ソビエト同盟のシステムは存続し、実際には拡大しさえしました。われわれはNATOの存続と拡大をどのように説明するのでしょうか?冷戦後におけるNATO の目的は何だとお考えでしょうか?
チョムスキー: その問に対しては公の答があります。これは非常に興味深い問いかけです。私はこのことについて話をしようとしていましたが、時間がありませんでした。ですから、感謝します。これは非常に興味深い質問だ。50年間も、われわれはNATOが必要だと聞かされて来た。西ヨーロッパをロシアの大群、つまり、衛星国家の一団から守るためだ。1990年から1991年にかけて、ロシアの大群は消えてしまった。オーケー、そこでいったい何が起こったか?実際に提案された将来のシステム像がある。そのひとつはゴルバチョフの提案であった。彼はヨーロッパ安全保障システムを提案した。これには軍事ブロックは含まれない。彼はこれを「欧州共通の家」と呼んだ。軍事ブロックはなく、ワルシャワ条約機構軍もなく、NATO軍もない。そのセンターはブリュッセル、モスクワ、アンカラ、多分、ウラジオストックも含めて、その他の都市に置かれる。これは抗争もない統合された安全保障システムである。
まず、その提案がそのひとつだった。もうひとつは「指導的政治家」であったジョージ・ブッシュ1世と彼の国務長官を務めたジェームズ・ベーカーから提案されたものだ。ところで、これについては非常に詳しい知見が存在する。実際に何が起こったのかに関しては実に多くのことが明らかにされており、すべての文書が公開されている。ゴルバチョフはドイツの統合に賛成すると述べ、ドイツがNATOに属することにも同意した。これは、たとえNATO が東へ一歩も拡大しないにしても、実に大きな譲歩であった。ブッシュとベーカーは口約束をしたが、これは非常に重要なことだった。口約束でNATO は「1インチたりとも東へ」拡大しないと言った。これは東ドイツのことである。当時、これ以上のことは誰も話をしなかった。彼らは1インチたりとも東へは拡大しない。さて、これは口約束であったのだ。記録には残されなかった。直ちにNATOは東ドイツへ拡大した。ゴルバチョフは不平を表明した。彼はこう言われた。「いいかい、書き物は何もないんだよ」と。誰も実際にそう言った者はいないけれども、それが意味することは「ねえ、あんたがわれわれとの紳士協定を信用するほどのお人よしであるならば、それはあんた自身の問題だよ」と言っているのと同じだ。NATO は東ドイツへ拡大した。
非常に興味深い研究がある。ジョシュア・シフリンソンというテキサスの若い研究者が著した研究を覗いてみたいならば、彼の研究は著名な雑誌のひとつであり、MITによって出版されている「International Security」誌に掲載されている [4]。彼は文書記録を注意深く漁って、ブッシュとベーカーがゴルバチョフを意図的に騙したという極めて説得力のある主張をしている。本件に関する批評家の見解はふたつに割れている。それは、多分、彼らにとっては十分に明快ではなかったのかも知れないし、他に何らかの理由があったからかも知れない。しかし、この論文を読んでみると、これはかなり説得力があると私は思う。彼らはゴルバチョフを騙すために故意に罠を仕掛けたのだ。
オーケー、NATOは東ベルリンおよび東ドイツへと拡大した。クリントン政権の下でNATOはさらに旧ソ連邦の衛星国へと拡大した。2008年、NATOはウクライナのNATOへの参加を公に提案した。これは信じられないことだ。と言うのは、歴史的な繋がりやそこに住む人々等を除けば、ウクライナはロシアの利害関係においては地政学的には中核的な地域である。このプロセスが始まるや否や、たとえばケナンを始めとする非常に真剣に物事を考える長老の政治家たちはNATO の東方への拡大は大問題をもたらすとして警告した [5]。つまり、それはメキシコとの国境にワルシャワ条約機構軍を配備するようなものだ。信じられないことだ。そして、他の長老たちも本件については警告を発したが、政策立案者たちは気にも留めなかった。先へ進めたのである。
現在われわれはどこに居るのだろうか?ロシアとの国境に居り、両陣営は挑発的な行動をし、両者は共に軍事力を増強している。NATO軍はロシア国境から数百ヤードの地点で軍事行動を行い、ロシアのジェット機は米軍機すれすれに飛んでいる。1分もすれば、何でも始まってしまいそうな気配だ。1分もしたら、あなたにもすべてが判明するだろう。どんな出来事であっても瞬時に勃発しそうだ。両陣営は、核兵器を含めて、自分たちの軍事システムを近代化し、増強している。
NATOの目的は何か?実際には、われわれはすでに公式の答えを持っている。あまり公表されてはいないが、2年ほど前にNATOの事務総長が公式声明を発表し、冷戦後の世界におけるNATO の目的は世界的なエネルギー・システムやパイプラインおよび海上輸送ラインを制御することにあると説明した。これが示すところはNATO は世界規模のシステムであり、もちろん彼は実際には言わなかったが、NATO はわれわれが繰り返して見て来たように、米国の下で介入をするための軍事力である。それがNATOだ。ヨーロッパをロシアの大群から防御するのに要した何年もの期間にいったい何が起こったのだろうか?さて、ここでNSC-68 [6]に戻ってみよう。それが如何に深刻なものであったかを調べることが可能だ。それこそがわれわれが受け入れて来たものだ。
われわれの生存に対する当面の脅威はイスラム教を奉じる7カ国からのテロリストである。皮肉なことには、われわれはそれらの国々からはたったひとつのテロ行為さえも受けてはいない。米国の歴史や文化を振り返ってみると、それは目を見張らせるものであると国民の約半数は信じることだろう。と言うのは我が国は世界でももっとも平和な国であったし、世界でももっとも恐怖を抱く国でもあったのだ。それこそが「銃の文化」の源泉となる大きな要素である。スターバックスへ立ち寄る際には銃を携えて行かなければならないのだ。何故かと言うと、そこでいったい何が起こるかは誰にも分からないからだ。しかし、このようなことは他の国々では決して起こらない。
何かが米国文化に深く根ざしているのだ。それがいったい何であるのかをあなたは識別することができるだろう。歴史を覗いてみよう。米国はつい最近までは世界的な大国ではなかったということを思い出して欲しい。歴史のすべては国内での征服だ。あの見識あるトーマス・ジェファーソンが独立宣言で「残酷で野蛮なインディアン」に対する攻撃を命じているように、あなたは自分自身を防衛しなければならない。彼の良く知られている戦争手法は拷問と破壊である。ジェファーソンは愚かではなかった。彼はこれらの行為を実行するのは残酷で野蛮な英国人であることを知っていた。これは独立宣言の中にあって、毎年7月4日に平和裏に読みあげられるが、残酷で野蛮なインディアンが何の理由もなく突然われわれを襲って来たわけではない。まず、そのことがひとつ。さらに言えば、米国には多くの奴隷人口があって、あなたは彼らに対して自分を守らなければならない。銃が必要であった。その結果のひとつは南部諸州に見られ、銃の保有は一人前の男の象徴となった。これは奴隷から身を守るばかりではなく、他の白人の男たちからも自分の身を守るためのものであった。銃を持ってさえいれば、あんたは俺を手荒に扱うこともない。「いいかい、俺はあんたが俺の顔を殴りつけて来るような相手ではないんだよ。」
他の要素もあった。結構興味深い要素だ。19世紀の中頃から終わりにかけて、銃の製造業者は自分たちの市場が限られていることを認識していた。我が国は真本主義国家であることを思い出して欲しい。自分たちの市場を拡大しなければならないのだ。彼らは銃を軍隊に売っていた。軍隊は非常に限られた市場である。残りの一般市民についてはどうだろうか?何が始まったかと言うと、西部におけるワイアット・アープやその他の拳銃使いに関するありとあらゆる勇猛伝が出回ったのである。これらの勇者は銃を使ってあらゆる難題から自分たちを守り抜く。何とまあ胸を躍らせる話であろうか。
私が子供の頃、私はそんな中で育った。友達と一緒に私はよくカウボーイとインディアンの遊びをしたものだ。西部の物語通りに、われわれはインディアンを殺すカウボーイ役だ。これらのすべてが非常に奇妙な文化に統合されて行った。この文化には恐怖を感じる。本日の世論調査を確かめてみよう。国民の半数は米国へやって来て何かを仕出かす、何か得体の知れないことを仕出かす連中の入国を禁止することに賛成していると私は思う。実際にテロリズムに関与した国々が存在するが、それらの国は例のリストには入ってはいない。私が思うには、これはシャリーア法を禁じたオクラホマみたいなものだ。オクラホマ州には多分50人程のイスラム教徒が住んでおり、オクラホマはシャリーア法を禁止しなければならない。米国では何処ででも起こり得るこのテロに関しては常に扇動が繰り返される。ロシア人たちもNSC-68の一部であったが、これはかなり芝居がかったものだ。そして、それは他の多くのプロパガンダのように必ずしも全面的に作文されたものではない。ロシア人たちは腐り切った事をたくさん仕出かしており、彼らを名指しすることさえも可能だ。しかし、「私は現実の乱用を求める」と言ったハンス・モーゲンソ―が何を求めていたのかを考えるならば、世界像は彼らが示したものと比べるとほとんど正反対のものであった。しかしながら、これは良く受け入れられて、少なくともこの種の状況においては常に繰り返される。
ギッブス: 冷戦の最中、左翼勢力は一般に武力介入には反対でした。しかしながら、1991年以降、介入に反対する動きは崩壊し、それに代わって人道的介入という考えが浮上してきました。これは人権の擁護として介入を称賛するものです。バルカン半島やイラク、リビアにおける軍事行動はすべてが圧政を受ける市民を救済するという人道主義的行為として提案され、これらの介入はリベラル派の間では最初は人気を博しました。シリアにおける米軍の介入の強化は多くの場合人道主義的な原則を主張するものです。人道的介入についてはどのようにお考えでしょうか?
チョムスキー: 私はこの件をそのようには受け取ってはいない。反介入運動を振り返ってみよう。あの運動はいったい何だったのか?第二次世界大戦以降では最大の犯罪であったベトナム戦争を取り上げてみよう。年配の皆さんは何が起こったのかを思い起こして欲しい。何年にもわたって戦争に反対するなんて誰にも出来なかった。主流のリベラルな知識層は熱狂的に戦争を支持した。私が住んでいたリベラルな気風のボストンでは、1966年の終り頃になるまでは公共の場でデモをするなんて不可能だった。リベラル派の新聞は拍手を送り、デモが暴力的に粉砕されずに終わることなんてなかった。その頃までには、何十万人もの米兵が南ベトナムで暴れ回っていた。南ベトナムは実質的に破壊されていた。主導的な歴史家で、ベトナム史についてはもっとも尊敬を集め、さらには軍事関連の歴史家でもあったバーナード・フォール [7] はたまたまタカ派ではあったが、彼はベトナム人のことを心配し、ベトナムはあれだけの規模にわたって甚大な被害を受けて、歴史的および文化的にひとつの国家として果たして生き残れるのかどうかは決して明らかではない、と彼は言っていた。ちなみに、彼は南べトナムのことを語っていた。その頃までには、われわれはなんらかの抗議運動を始めていた。しかし、リベラル派の知識層からの賛同はなかった。彼らは戦争には反対をしなかったのだ。
事実、1975年になるとすべては劇的に変化した。すべてが明らかとなった。戦争は終わった。この戦争に関して、あるいは、戦争とは何を意味するのかに関して誰もが何かを書かなければならなかった。世論調査結果もあった。一般大衆の見方は劇的に違っていた。つまり、知識層の書き物を見ると、二種類の見解があった。ひとつはこう言った。「もしもわれわれがもっと真剣に戦っていたならば、われわれは戦争に勝つことができた」と。これは背中にナイフを突きつけるようなものだった。しかし、ニューヨークタイムズのアンソニー・ルイスのような左翼の人たちやその他の連中について言えば、1975年当時、彼はベトナム戦争は善を施そうとする戦争努力で始まり、大失敗に終わったのだとの見解を述べている。1969年までにはこの戦争は大失敗であることはすでに明らかであった。われわれには代償が大きすぎた。われわれが喜んで引き受けることができるコストで南ベトナムへ民主主義をもたらすことはできなかった。この戦争は大失敗だった。これが極左翼の見解だ。
世論を見てみよう。米国民の約70パーセントはこの戦争は失敗ではなく、基本的に間違っており、倫理に反するものだと世論調査で意思表示をした。80年代の始めに行われた世論調査でも見られるように、この見方は続いた。世論調査では理由は質問しない。単に数字を示すだけだ。米国民はどうしてこの戦争は基本的に間違っており、倫理に反するものだと考えたのであろうか?世論調査を行っていたのはシカゴ大学の教授で、リベラル派に属するジョン・E・リーリイであった。彼はこの世論調査結果が意味することは余りにも多くの米国人が戦死したということだと述べている。多分、その通りだ。他にも可能性のある見方としては、われわれは第二次世界大戦以降で最悪の犯罪を犯しているという事実であって、米国民はこれを好きにはなれなかったのだ。しかし、この理由が可能性のあるものとして提示されなかったという事実はまさに想像を絶することだ。
それに続く数年間にはいったい何が起こったか?教育を受けた連中の間では状況はまったく同じままであったと私は考える。皆は人道的な介入について喋る。まるでベトナム戦争は人道的な介入であったと言わんばかりだ。一般大衆の間では、話はまったく違ってくる。イラク戦争を例に取ってみよう。あの戦争は第二次世界大戦後では2番目に悪質な犯罪であった。歴史上、つまり、帝国の歴史では初めてのことだったが、戦争が公式に始まる前にさえも大きな抗議デモがあった。実際には、戦争はすでに始まっていた。しかし、戦争が公式に布告される前にさえもそこいらじゅうで大きなデモが行われた。あれはかなりの影響を与えたものと私は思う。一般大衆の意見は依然として割れていた。
ヴェトナム戦争後、実際に行われた介入の形式は一般大衆の反応を引き起こさないように計画された。事実、最初のブッシュ政権が始まった頃、ブッシュ1世は彼らの文書のひとつで、将来、米国の戦争は遥かに弱い敵国を相手にして行われるだろうと述べている。さらには、国民的な反応が現れる前に、彼らは迅速に、かつ、決定的にその戦争に勝たなければならない。実情を観察すると、それこそが実際に行われているのだ。数日間でけりが付いたパナマ侵攻を例に挙げてみよう。さらには、米兵は投入されなかったコソボの例。コソボの件に関してあなたは立派な本を書いている [8]。しかし、それが実際のものとは異なるという点については私は確信を持てない。
ギッブス: 冷戦の終焉と共に、米国ならびに他の国々では核武装の放棄に関する現状改革主義は低下して行きました。繰り返しになりますが、この状況は冷戦時代とは異なります。当時は核兵器に反対する大衆運動(1980年代からの核凍結運動を思い起こしてください)がありましたが、この運動は1991年以降大幅に低下しました。核戦争の危険性は今までと同様に未解決のままですが、この課題に対する一般大衆の関与は非常に低調です。そのように感じられます。核兵器反対運動が消滅してしまったことについてあなたはどのように説明しますか?
チョムスキー: まったくその通りだ。核兵器反対運動のピークは1980年代の始めの頃だった。当時、大きな抗議行動が起こった。リーガン政権はこの抗議行動を静めようとし、スターウオーズ計画、いわゆる、戦略防衛構想(SDI)の幻想を持ち出すことによって部分的ながらも成功した。どうにかこうにかわれわれは核兵器を排除するというものであった。反核運動の美辞麗句を取り挙げて、リーガン政権は「やー、あんたたちが言っていることは正しいよ」と言った。われわれは核兵器を廃絶しなければならない。そして、それを実現する手法は核兵器が攻撃目標に達することを防ぐ戦略防衛構想(SDI)、すなわち、スターウオーズ計画だ。こうして、反核運動を鎮静してしまった。
やがて、ソ連邦が崩壊し、核の緊張を和らげることが出来るかもしれないと思われた。しばらくの間、核の緊張は和らいだ。核兵器の削減が両陣営で実施された。さまざまな策が採られた。十分だとはとても言えないが、いくつかの策が実施された。
その一方、米国の公式の立場を理解しておくことが非常に大切だ。関係文書を読んでみるべきだ。1995年、これはクリントン政権の頃だ。非常に重要な文書が作成され、これは今も機密扱いであるが、今や多くの部分が機密を解除されている。この文書は「冷戦後の戦争抑止政策の要点」と題されている [9]。冷戦後の戦争抑止政策とは何を意味するのか?戦争抑止政策とは核兵器の使用を意味している。この文書は戦略軍が発行したもので、彼らの任務は核兵器の計画立案や運用にある。この文書が公開された時、私はこれに関して書き、それ以降私は書き続けてきた。しかしながら、この文書を参照した他の事例を見たことがない。しかしながら、これは驚くべき文書である。同文書はこう言っている。われわれは、核装備をしてはいない国々に対する攻撃を含めて、第一撃、つまり、核兵器を最初に使用する権利を保持しなければならない。彼らの指摘によると、核兵器は実際には常に使用されている。何故ならば、核兵器は他の軍事行動に対して暗い影を投じるからだ。換言すると、われわれが核兵器を使用することには躊躇しないということを皆が知った時、もしもわれわれが好戦的な動きをすれば、彼らは後退し始めるからだ。こうして、基本的には、核兵器はすでに使用されているのだ。
これはダン・エルスバーグが何年にもわたって指摘してきた点だ。これはあんたと私が拳銃を持って食料品店に押し入るのとまったく同じだ、と彼は言う。店主はレジの中にある現金をあんたに渡すだろう。私は発射する積りがない拳銃を使っている。さて、拳銃に代わって、これが冷戦後の戦争抑止政策の要点である核兵器の場合においては、核兵器はすべてに対して暗い影を投じる。さらには、こう言う。われわれは理不尽で、かつ、報復的な国家としての外観を示さなければならない。そうすると、彼らは譲歩する。そして、これを始めたのはトランプではなく、クリントンだ。ご存知のように、ニクソンではない。われわれは理不尽で、かつ、報復的でなければならない。そういう態度こそが人々を恐怖に陥れるからだ。しかも、何年にもわたってこの状況を継続しなければならない。そうして初めて、われわれは自分たちがやりたいと思っていることを実行することが可能となる。
これが冷戦後の初期の頃のわれわれの核兵器戦略だった。しかし、これは学者やメディアを含む識者のコミュニティーが犯した大失敗であったと私は考える。至る場所に派手な見出しを示すものではない。そして、これは秘密ではなくて、証拠となる文書が存在するのである。しかも、これは、恐らくは、正真正銘の姿だ。ご存知のように、誰もがニクソンの「狂人理論」のことをあれこれと話している。それについてはわれわれは実際には何も知らない。あれは誰かの回想録だった [10]。しかし、こっちは現実の狂人理論だ。われわれは理不尽で、かつ、報復的でなければならない。われわれが何を仕出かすかについては誰にもまったく予測できない。これはトランプやバノンの産物ではない。これはクリントン政権の頃から始まったのだ。
ギッブス: もうひとつの質問をこなすだけの時間があるかと思います。一般大衆の議論においては「国家安全保障」という言葉は殆んど独占的に軍事的脅威に対する安全保障を意味するようになってしまいました。この語り口では、たとえば、気候変動、抗生物質に耐性を獲得したバクテリア、あるいは、ウィルス病の大流行といった非軍事的な脅威を過小評価してしまいます。取り沙汰されている軍事的脅威は莫大な政府資金を与えられ、メディアの関心を呼びよせます、その一方、非軍事的な脅威には比較的僅かな予算が付与され、僅かな関心を集めるだけです。これらふたつの間には大きな不均衡が生じています。軍事的脅威が誇大に扱われている状況をわれわれはどのように説明するべきでしょうか?
チョムスキー: さて、軍事的脅威に関しては、現実にそれを見ることができる。それを想像することも可能だ。ただ、一般市民はそれについて十分に考えようとはしない。しかし、ほんの僅かでも考えて見れば、核攻撃はそれこそすべてを終わらせてしまうということは理解が可能だ。他の脅威はそのプロセスが緩慢であって、来年には何かが起こるだろうとは誰も思いはしない。多分、科学は不確かであり、多分、それについてそれ程心配する必要はないのだ。気候変動は最悪な事例だが、他にもいろいろとある。
疾病の大流行を考えてみよう。深刻な大流行が簡単に起こり得る。多くの疾病はわれわれが関心を払わないことに起因する。たとえば、肉を食べることに起因する。食肉の生産業、食肉の大量生産は膨大な量の抗生物質を消費する。正確な数値は記憶していないが、多分、抗生物質の半分が用いられている。抗生物質は約利効果を示す。しかし、これらの抗生物質はバクテリアに突然変異を誘発し、その効果を失って行く。急速に突然変異が進行するバクテリアの脅威に対抗できる抗生物質には限りがあり、少なくなって来ている。この状況の多くは食肉生産業界に起因する。われわれにはこのことが心配になるのか?心配した方がいい。今、病院へ出かけようとしても、そうすることは危険だ。治療ができない病気に感染する可能性がある。そのような細菌が病院中を動き回っている。原因を辿ってみると、これらの多くは食肉の大量生産に遡る。これは非常に深刻な脅威である。しかも、何処でもだ。
考えたこともない課題を取り上げてみよう。それは海洋中のプラスチックだ。海洋中のプラスチックは生態学的には非常に大きな影響力を持っている。地学の専門家たちが地学上の新しい時代として「人新世」の始まりを公表した時、人類は環境を破壊していた。彼らが指摘する主要な要因のひとつは地球上におけるプラスチックの使用である。われわれは考えもしないが、この問題は深刻な影響力を持っている。これらは自分の眼前に実際に見ることがない問題である。これらの課題については、招来する結果がどのようなものとなるのかについて少しでも考えてみる必要がある。脇へ寄せてしまうことは簡単だ。メディアはこれらの課題を取り上げようともしない。他にももっと重要な課題がある。たとえば、明日の食糧をどのようにして確保するのか?この問題は私が前から心配して来た事柄だ。非常に深刻だが、これらの課題が如何に深刻であるかを提起することは並大抵ではない。核兵器が落とされ、すべてが消滅してしまうような現実を前にして、映画で示すことができるような派手な特性を持ってはいない課題の場合はなおさらのことだ。
注釈: [訳注:この部分の仮訳は割愛します]
1 For the recent opinions of Princeton University nuclear weapons specialist Bruce G. Blair, see Blair, “Trump and the Nuclear Keys,” New York Times, October 12, 2016.
2 Note that Michael T. Flynn resigned as national security advisor on February 13, 2017, several days after this interview took place
3 See Solomon, “Urgent to Progressives: Stop Fueling Anti-Russia Frenzy,” Antiwar.com, December 21, 2016, http://original.antiwar.com/solomon/2016/12/20/urgent-progressives-stop-fueling-anti-russia-frenzy/ ; Halimi, January, 2017, ; Jeremy , “Seymour Hersh Blasts Media for Uncritically Reporting Russian Hacking Story,”
4 The End of the Cold War and the US Offer to Limit NATO Expansion,” International Security 40, no. 4, 2016.
5 On George F. Kennan’s warning about the dangers of NATO expansion, see Thomas L. Friedman, “Foreign Affairs: Now a Word from X,” New York Times, May 2, 1998.
6 Here, Chomsky references the National Security Council memorandum NSC-68, one of the key documents of the Cold War. This document was the topic of Chomsky’s lecture, which preceded the interview. The document text is now fully declassified and available online. See “A Report to the National Security Council – NSC 68,” April 14, 1950, made available through the Harry S. Truman Presidential Library, https://www.trumanlibrary.org/whistlestop/study_collections/coldwar/documents/pdf/10-1.pdf .
7 Regarding Bernard Fall’s writings on Vietnam, see Fall, Last Reflections on a War. Garden City, NY: Doubleday, 1967.
8 The book Chomsky references with regard to the Kosovo intervention is David N. Gibbs, First Do No Harm: Humanitarian Intervention and the Destruction of Yugoslavia. Nashville, TN: Vanderbilt University Press, 2009.
9 This e full text of this declassified document is now available online. See US Department of Defense, Strategic Command, “Essentials of Post-Cold War Deterrence,” 1995 [no exact date indicated], made available through provided by the Federation of American Scientists, Nuclear Information Project, http://www.nukestrat.com/us/stratcom/SAGessentials.PDF.
10 The idea that President Richard Nixon subscribed to a “madman” theory of international relations first appeared in the memoir by former Nixon aide H. R. Haldeman, in Haldeman and Joseph DiMona, The Ends of Power. New York: Times Books, 1978, p. 98.
この記事に示されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing House の見解を反映するものではありません。
<引用終了>
これで仮訳は終了した。
これはインタビュー記事であるから話し言葉のままでもあり、難解な部分に何度か遭遇した。具体的に言うと、代名詞の「彼」が誰を指すのか混同し易いくだりもあった。前後の文脈で判断するしかない。また、チョムスキー教授には皮肉を込めて表現する彼独特の言い回しがあって、真の意味は奥の方に隠されている。何と言っても、米国の超大物の頭脳のひとりに対するインタビュー記事である。読み解くこともひとつの楽しみである考えよう。
トランプ新大統領はイスラム7カ国からの移民を禁止した。しかしながら、サウジアラビアのように本当に責任が問われなければならない国は放置されたままだ。この現状をチョムスキーはこう指摘している。「サウジは急進的なイスラム教の聖戦士のために宣伝を行い、資金を提供する中心的な存在である。とは言え、ビジネス上の利害関係があるが故に彼らに手を出すことはできないでいる。彼らは石油を産出するのだ。」
米国の大統領選の過程でロシアの介入を主張したメディアの役割に関して論じた部分ではチョムスキーはロシア介入説は米国以外の国々では誰もがそのいい加減さを理解しているが、理解していないのは米国国内だけだと、指摘している。米国では一般大衆の洗脳がそれだけ広く行われ、かつ、徹底して行われているという事実を指摘しているように思えるがどうであろうか。
ジョシュア・シフリンソンというテキサスの若い研究者が米ロ間の政治的駆け引きの深層を究明し、発表しているとチョムスキーが紹介してくれた。それによると、手短かに言えば、「NATOは東方へは1インチたりとも拡大しない」という口約束はゴルバチョフを騙すために故意に罠を仕掛けたものだと結論した。この結論は最近までに得られていた知見をさらに一歩も二歩も踏み込んだ立派な研究成果である、と私は言いたい。この研究者が発表した論文は是非とも読んでみたい。
NATOの存在意義を問われた時、チョムスキー教授ほどに明快な答えをしてくれる識者は稀ではないかと思う。彼は「NATO は世界規模のシステムであり、もちろん実際には誰も言わないが、NATO はわれわれが繰り返して見て来ているように、米国の下で介入を行うための軍事力である。それがNATOだ」と、単刀直入に述べている。
米国には根強い「銃の文化」がある。たとえどこかの大学で乱射事件が起こり、数多くの学生や先生たちが犠牲になったとしても、メディアでは一時的に銃の規制があれこれと論じられるものの、やがては静まってしまう。何時もこの繰り返しである。チョムスキー教授はこの現状を皮肉って、「スターバックスへ立ち寄る際には銃を携えて行かなければならないのだ。何故かと言うと、そこでいったい何が起こるかは誰にも分からないからだ。しかし、このようなことは他の国々では決して起こらない」と述べている。銃を製造する産業はもう手がつけられない程に大きいということでもあろう。これは国際テロにおいては中核的な国であるサウジアラビアについて、トランプ政権は同国を移民禁止国リストへ含めることができなかったのとまったく同じ政治姿勢を反映したものだ。
また、核兵器反対運動についての歴史的考察は非常に興味深い。チョムスキーは米国の公式の立場を理解しておくことが非常に大切だと説いている。そして、次のように述べている。
「1995年、これはクリントン政権の頃だ。非常に重要な文書が作成され、これは今も機密扱いであるが、今や多くの部分が機密を解除されている。この文書は「冷戦後の戦争抑止政策の要点」と題されている。・・・同文書はこう言っている。われわれは、核装備をしてはいない国々に対する攻撃を含めて、第一撃、つまり、核兵器を最初に使用する権利を保持しなければならない。彼らの指摘によると、核兵器は実際には常に使用されている。何故ならば、核兵器は他の軍事行動に対して暗い影を投じるからだ。換言すると、われわれが核兵器を使用することには躊躇しないということを皆が知った時、もしもわれわれが好戦的な動きをすれば、彼らは後退し始めるからだ。こうして、基本的には、核兵器はすでに使用されているのだ。」
そして、米国の仮想敵国であるロシアの最新の軍事ドクトリン(2014年12月に見直された)はロシアが核攻撃や通常兵器による攻撃を受けた場合には核兵器を使用する権利があるとしてる。こうして、世界の二大核保有国が核戦争をも辞さないと言った時、残る世界の国々にはいったいどのような選択肢が残されているのだろうか?
世界終末時計が真夜中の2分半前にまで進んでしまった今、われわれはこの問いかけに答えられる政治家あるいは識者を探し出さなければならない。しかも、早急にだ。そして、選挙を基盤とした民主政治の舞台では一般大衆の政治的覚醒が決定的に重要であることは論を待たない。
多分、期待しなければならないのは政治家でも識者でもなくて、われわれ自身であるかも知れない。これが唯一の答えであろう。正直に言うと、かってはノンポリであった自分自身の体験から政治に目覚めることの重要性を今さらながら痛感するからである。
参照:
注1: “Most of the World is Just Collapsing in Laughter” on Claims
that Russia Intervened in the US Election: By Noam Chomsky and D. Gibbs,
“Information Clearing House” – “DC”, Mar/05/2017
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