2017年8月4日金曜日

ペンタゴンの研究報告 - 米帝国が崩壊する



米帝国の崩壊が語られ始めてすでに久しい。

実質的な購買力に基づいて算出される中国経済の規模は米国のそれをすでに上回ったと報道されている。そして、現在の経済成長が続くとすれば、ドル換算の中国経済の規模も2030年には米国を超すであろうと推測されている。中国経済が大きくなるにつれて中国の軍事予算も着実に増加している現状を見ると、総合的な中国のパワーは、どう控え目に見ても、さらに強化されるであろう。これは素人であっても容易に想像することが可能だ。

IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は最近こう言った。「中国の経済成長が続くと、IMFの本拠をワシントンから北京へ引っ越すことになるかも知れない」と。これは725日の報道であった。IMFの定款によると、IMFの本拠は最大出資国の首都に置くと規定されているからである [1]。 

ペンタゴンが最近発表した内部報告さえもが米帝国の崩壊を予想しているという。世界規模の資源を利用する権限を維持するために、この報告書は軍産複合体のさらなる拡大を求めている [2]。つまり、米国の覇権に服そうとはしない国家を服従させるためには、米国はより強大な軍事力を行使すると述べているに等しい。

しかし、米国の同盟国の多くにおいては一般庶民は最近の米国の軍事力を背景にした外交に拒否反応を示していることが世論調査で判明している。

本日はこのペンタゴンの内部報告を伝える記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
ペンタゴンは何を報告しようとしているのであろうか?

この記事の著者であるナフェーズ・アフマド博士は著名な調査報道ジャーナリストであって、戦争と平和に関する評論が多いことを考えると、戦争に明け暮れている米国の現状について分析し、将来の展望を推論しようとすることには大きな意味があると言えそうだ。


<引用開始>

米国防省がついに目を覚ました。米国の優越性が崩壊し、第二次世界大戦後の大国、米国によって作り上げられた国際秩序は今や急速に破綻しつつあることに気が付いたのである。

しかし、次に何がやってくるのかに関してペンタゴンが示した展望は自信を鼓舞するには程遠い。われわれはペンタゴンの展望に見られる洞察と認識の欠如に関して分析を試みたいと思う。たとえば、次のような質問をしてみよう。つまり、「米帝国の終焉を加速するものはいったい何か?」、「問題点をより正確に判断することによって、実際の解決策としては何があるのか?」を問うてみたい。

つい最近のペンタゴンの研究報告は第二次世界大戦後に確立された米国主導の国際秩序は「ぎくしゃくとし始めて」おり、「崩壊」するかも知れず、その結果、米国は国際問題における「優位性」を失うかも知れないと結論している。 

しかしながら、「優越性の終焉後」にやって来る環境において米国パワーを防護するべく提示された策はあまり変わり映えがしない。たとえば、監視を多くし、プロパガンダをもっと強力にして(見識について戦略的な操作を行って)、軍事的拡張を強化するとしている。

本文書は、基本的に世界は新しい変革期に突入したと結論付けている。つまり、米国パワーは低下し、世界秩序はほころび、政府の権威はどこでも崩壊するだろうとしている。

過去に享受していた「卓越」した地位を失い、米国は今や危険で、予期もし得ないような「優越性の終焉後」の世界に浸っている。この新しい世界を定義する特徴は「権威に対する抵抗」である。 

最大の危険は米国の国益に対する脅威として急速に台頭しているロシアや中国からやって来るだけではなく、増加する一途にある「アラブの春」のような出来事によってさえも招来される。これらは中東で勃発するだけではなく、世界中のどこの地域においてさえも起こり得ることであって、現政権の信頼性が近い将来どうなるのかという危惧の念を感じさせる恐れがある。 

この報告書は国防省内の主要部署や米陸軍の専門家との協議を経て、1年もの長い時間をかけて研究した結果に基づくものであって、世界を監視し、世論を「戦略的に操作する」ことによってより好ましいプロパガンダを行い、「より広範な領域に影響力を与え、柔軟性に富んだ」軍事力を構築することに米政府がもっと投資するよう呼びかけている。

この報告書はこの6月に米陸軍士官学校戦略研究所によって出版されたもので、ペンタゴン内の政策立案部署のすべてのレベルにおける国防省のリスク評価への取り組みを評価することを目的としている。本研究は米陸軍の戦略計画・政策理事会、統幕事務局のJ5(戦略政策局)、戦略および軍事力の開発を担当する国防副長官事務所、陸軍研究プログラム管理事務所、等からの支援や資金援助を受けた。


崩壊: 

「米国は政治的、経済的、ならびに、軍事的に世界で最強の大国として残るものの、もはや挑戦して来る国に対して難攻不落と言うわけではない」と、報告書は嘆いている。

「手短かに言うと、現状は第二次世界大戦後米国の戦略家によって生み出され、育て上げれて来たものであって、国防省にとって数十年間にわたって「もっとも優れたもの」として見なされて来たものが今やほつれ始め、実際には、崩壊しつつあるのかも知れない。」 

この研究報告は、この秩序は米国の優越性によって支えられ、米国とその同盟国はまさに自分たちの国益に合わせて国際関係に影響力を与えて来たと描写している: 

「現在の秩序とそれを構成する要素は第二次世界大戦から生まれたが、ソ連邦の崩壊に伴って、これは単極支配システムに生まれ代わり、それ以降は、概して米国ならびに西側やアジアの同盟国によって支配されて来た。現状の軍事力は集団的なものとして国際的な安全保障がもたらす結果に圧倒的な影響力を与える役割には好都合であって、ライバル的な軍事力や権威を持つ新たな中心地が生まれることには逆らっている。」 

しかし、米国とその同盟国が思い通りに行動することが可能な時代はいつの日にか終焉する。米国の高官らは「国際社会における米国の地位を好ましい国際秩序の下に維持する義務を痛切に感じる」ことを認めているが、「米国が構築し、70年間維持して来た、規則に根ざした秩序は今や甚大なストレスの下に曝されている」と本報告書は結論付けている。

本報告書はこの秩序が急速にほころび始め、ペンタゴンは国際問題に対して以前にも増して後手に回っていることを国防省が如何に受け止めているのかについて詳細に論じようとしている。「国際問題は国防省に現在備えられている手段を用いて対応可能な迅速さよりもはるかに急速に変化しており、米国はソ連邦の崩壊後20数年間にわたって享受して来た強力な支配や優越性、あるいは、傑出さ、等から成る難攻不落の地位に頼り続けることはもはやできなくなった」と結論付け、警告を発しているのである。

米国パワーは余りにも衰弱してしまっており、米国は、もはや、「地域的な軍事力の優位性を自動的に組織化し、維持することさえも出来なくなった」。 

下降線を下り始めたのは米国パワーだけではない。米士官学校のこの研究は次のような結論を導いている: 

「すべての国家や伝統的な政治権力の機構は内部や外部からの勢力がもたらす圧力に曝されている・・・。冷戦後の国際システムの崩壊はまさにすべての国において政治的、社会的、ならびに、経済的な骨組みにほころびを生ぜしめている。」 

しかし、この文書はこうも言っている。これは敗北主義的行動として見るべきではなく、むしろ、「警鐘」として見るべきである。もしもこの優越性の崩壊後の環境に適応するために何の策も実施されなかったとしたら、国際問題の複雑さや変化の速さは「国防省の現在の戦略、計画、および、リスク評価における慣習や先入観に対してますます逆らうことになるだろう。」 


「現状」の防護: 

国際的な「優位性」における米国の地位を引きずり下ろした要因の最たるものは競争勢力が果たした役割である、とこの報告書は言う。たとえば、大国としてはロシアや中国であり、より小さな国家としてはイランや北朝鮮である。 

特に、これらの国家が脅威であるのかどうかに関して本文書は率直に述べている。それは具体的な軍事的あるいは安全保障上の課題があるからということではなく、主として彼ら自身の合法的な国益の追求が、それ自体、米国の優位性を台無しにしかねないからであると言う。

ロシアと中国は「修正主義勢力」として描写されている。両国は米国が支配する国際秩序から利益を享受するが、「米国の支配に競合する合法的なライバルとして台頭するのに釣りあったパワーや権力の新たな配分を求めている。」 分析者が言うところによると、ロシアと中国は「米国の権威や意思、影響の範囲、影響力、ならびに、その効果には限界があることを証明する手の込んだプログラムに没頭している。」 

この結論の前提は米国支配の国際秩序の「現状」は米国ならびにその同盟国にとっては根本的に「好ましい」ものであるという点である。世界の秩序をどこか他所の国家のために「好ましい」形に変えようとする動きはいかなるものであっても自動的に米国パワーや米国の国益にとっては脅威であると見なされる。

こうして、ロシアと中国は「現在の状況の中に自分たちの地位を、最低でも、自分たちの中核的な目的を追求するのに今まで以上に好ましい環境を形作ることができるようなやり方で秩序付けようとしている。」 一見、これは特に何も間違ってはいないように見える。「最大利益を追求しようとする観点から言えば、米国や西側ならびにアジアの同盟国による直接コストの下で彼らは自分たちの利益を追求しているように見える」と、分析者は強調する。

もっとも人目を引く点は何かと言えば、ロシアと中国が如何にして米国の国家的安全保障に対して意味のある脅威となるのかについてはこの文書は何も語ってはいないのだ。

主たる挑戦は彼らが「グレイ・ゾーン」テクニックを用い、「現状を修正しようと決心している」点にある。これには「曖昧ではなく、あからさまな挑発や紛争と見なすには程遠い手段や手法が用いられている。」 

そのような「より曖昧で、はっきりとはしない形での国家としての攻撃性」は、実際の暴力に至ることはないとは言え、米国は非難を受け、道徳的に意味のある地位を失う。ペンタゴンの研究報告は、米国の影響力を確保するには、米国自身が「グレイ・エリアを追求する」か、あるいは、「国内へ戻る」かのどちらかであると主張する。

イランや北朝鮮のような「革命勢力」に対しては、本文書は米国が敵対的な姿勢を示す本当の理由を提示している。これらの地域では彼らは米国の帝国主義的影響力に対して基本的に障害となるのである。彼らは: 

現代の秩序の産物でもなければ、その秩序に満足しているわけでもない・・・ 最低でも、彼らは米国主導の秩序が自分たちの合法的な影響圏に浸透して来ることを排除しようとしている。また、彼らは自分たちの地域ではそれを自分たちが支配する一連の新ルールに置き換えようとする。」

イランと北朝鮮の実態は米国政府が公に主張しているように核の脅威であるとの主張からは程遠く、それに代わって、両国は「米国主導の秩序」を展開するのに問題となるのだ、と本文書は主張する。


宣伝戦に失敗: 

これらの競合国からの挑戦を受ける中、ペンタゴンの研究報告は非国家勢力からの脅威も国家とは違った形で、主として情報を介して、「米国主導の秩序」を台無しにすると強調している。

「情報の過剰な接続性や兵器化、偽情報、ならびに、不信」は秩序のない情報の広がりをもたらす、とこの研究チームは意見を述べている。挙げ句の果てには、ペンタゴンは秘密や作戦に関する防護策を解除することが避けられないような状況に直面することであろう。

「テクノロジーに対する無秩序で広範なアクセスはほとんどの人たちは当然のこととして受けとめているが、これは節度や秘密、または、内密な意図や行動、あるいは、作戦の展開が以前有していた長所を急速に喪失させてしまう・・・ ついには、国防省の高官は、国防に関わるすべての行動は、小さな戦術的な動きから始まって大規模な軍事行動に至るまで、今後は誰にでも大っぴらに観察できる状態で実行するものと想定することであろう。」 

この情報革命は、まわり回って、「伝統的な権威構造の全体的な崩壊をもたらし、情報の過剰な接続性や冷戦後の現状の衰えや潜在的な失敗によって火に油が注がれ、崩壊は加速化されて行く。」


市民の暴動

ISIS やアルカエダといったグループによってもたらされる脅威に光を当てて、この研究報告は「指導者がいない騒乱(たとえば、アラブの春)」を「伝統的権威構造の全体的な侵食または崩壊」であると指摘している。 

この文書はそのような大衆主義的な市民暴動は、米国内も含めて、西側の各国においても人目を引くようになるかも知れないと仄めかしている。

「これまで、米国の戦略家は大中東地域におけるこの種の潮流だけに固執してきた。しかしながら、彼の地で稼働している勢力は、世界の至る地域で、政府が影響を及ぼし得る領域や政府の権威をまったく同じように侵食する・・・ これらは突然変異を起こし、新たな地域へ転移し、時間の経過と共に違った様相を示す、等の事実を認めようとはしないのは愚かである。」 

米国本土は「伝統的権威構造」の崩壊に対しては特に脆弱であると指摘されている:

「米国およびその市民は、過剰な情報接続性や恐怖、および、無秩序や不安の種を蒔くといった脆弱性を高め、これ等の同時発生によって、前にも増して個人あるいは動機を持った活動家から成る小グループによってもたらさられ深刻な危害や治安の浸食に曝されることになるだろう。この高度に方向性を失った、混乱した形での権威に対する抵抗は身体的な、バーチャルな、さらには、心理的な暴力を介して到来し、その発生源や物理的なサイズ、または、身近な危害あるいは脅威の大きさとは比べようもないほど大きな影響力をもたらすことが可能である。」 

しかしながら、政府の政策によってそのような不信の念の流行を引き起こすことについての米国政府自身の役割に関しては何らの内省さえも示してはいないのである。 


悪質な事実:

このような市民の暴動や大衆の不安定化をもたらすもっとも危険な原動力には異なったカテゴリーの事実が含まれるとこの文書は断定する。「客観的な真実」を弱体化する情報として定義され、明らかに「事実を伴わない」カテゴリーは別にして、他のカテゴリーには米国の国際的信用を損なう本当の真実が含まれる。

「事実としては不都合な」情報は「合法的な権威を台無しにし、政府と国民との間の関係を侵食する」ような、暴露された詳細情報によって構成される。たとえば、政府の政策が政治的に如何に堕落しているか、無力であるか、あるいは、非民主的であるかといった類いの事実である。

「事実としては危険な」情報とは基本的にはエドワード・スノーデンやブラッドリー・マニングのような内部告発者によってリークされた国家の安全保障に関わる情報を指す。これは「高度に機密で、公にはしにくい、または、所有権がはっきりとした情報の暴露であって、戦術的な、軍事作戦上の、あるいは、戦略的な利点の喪失を加速するために用いることが可能である。」 

「事実としては毒のある」情報は本当の真実に関係し、これらの事実は「文脈もなしに暴露される」ことから、「政治的に重要な話」を毒するものだとしてこの文書は苦言を呈している。この種の情報は市民の暴動の引き金を引くにはもっとも有効である。何故ならば:

「・・・国際的、地域的、国家的、または、個人的なレベルにおいて基本的な安全保障を致命的に弱体化する。確かに、事実として毒のある情報の暴露は国境を超えて、あるいは、国境の内部で、または、複数の国民集団の間で、あるいは、同一の国民集団の間でぱっと伝染するような不安感をもたらす。」 

手短かに言うと、米士官学校の研究チームが信じるところによれば、米帝国の正当性に挑戦する「事実」が広く伝播することが帝国の衰退を促す主要な原動力となる。事実が指し示す実際の帝国の挙動が必ずしも原動力になるというわけではない。 


国民の監視および心理戦争

ペンタゴンの研究は、こうして、情報の脅威に関してふたつの解決策を提言する。

最初の策は米国が有する国民に対する監視能力をより上手に使うことである。米国の監視能力は「世界ではもっとも大規模で、近代的で、統合的な監視機構である」と言われている。米国は「競合国の何処よりも素早く、より信頼性のある形でひとつの理解に到達することができる。」 これを「米国の軍事力の前方展開や戦力投射」と組み合わせると、米国は他国が羨むような総合能力を持った地位にあるのだと言える。

ただし、一般に信じられているところでは、問題は米国がこの潜在能力を十分に使ってはいないことにある:

「しかしながら、この能力が生きながらえ得るのはそれを理解し、それを米国が持つ長所として採用しようとする意思がはっきりと存在する間だけである。米国とその国防産業が指導力を発揮する限りにおいては、他国もこれに従うことであろう・・・」 

また、本文書は米国の諜報システムへ侵入し、破壊しようとする外国の取り組みに対して過剰に防護しようとする米国の戦略を批判してもいる。過剰防護の代価として、「世論を戦略的に操作することやそれに伴って起こる政治的ならびに治安上の結末に対処するために同システムを確固として開発することになる」のである。 

こうして、ペンタゴンの高官は単純に次の記述を受け入れる必要がある: 

「・・・米国の国土、個々の米国市民、米国の世論、および、物の見方は以前にも増して戦場と化すことになろう。」 


軍事的優位性: 

米国の優位性が失われてしまったことに弔意を表明してから、ペンタゴンの報告書は米国の軍事力を拡大することが唯一の選択肢であると言う。

しかしながら、軍事力の優位性に関して両党派の合意を得るだけでは十分ではない。この文書は「最大限の行動の自由」を持ち、米国が「国際紛争における結末に関して著しい影響力を及ぼす、あるいは、保つ」ことができるだけの著しく強力な軍事力を求めている。
この米陸軍の文書においては帝国主義的意図に関する明快な表明を見い出そうとして誰もが四苦八苦することだろう: 

「概して、米国のふたつの政党の指導者らは潜在的に競合するライバル国家に対する軍事的優位性を常に保って来たが、優位性が崩壊した後の現実に対処するには、出来る限り広範な領域を持った軍事的ニーズの全域において強みを発揮できて、さまざまな選択肢を提供し、より広範に行動し、より柔軟性に富んだ軍事力が求められる。米国の政治指導者にとっては、軍事的強みを維持することは最大限の行動の自由をもたらす・・・ 最終的に、ライバル国家は米国の著しい軍事力やそれが投入された場合には受け入れ難い結末が約束されていることに脅威を覚えて、米国の意思決定者が国際紛争の結末に著しい影響力を及ぼしたり、保てるような機会を容認することだろう。」 

改めて言うと、米軍事力は本質的には他国を米国の要求に従うように強制し、脅しをかけ、丸め込むために使う米国のツールとして描写されている。

「自衛」という概念そのものは、こうして、圧倒的な軍事力を思い通りに用いる能力として再構築される。この能力を台無しにするようなものは何であっても自動的に米国に対する脅威であると見なされ、攻撃の対象となる。


資本の帝国

その結果、この軍事的拡大主義の中核となる目標は「自分たちの安全保障と繁栄を支援するために、米国やその国際的なパートナー国家は海、空、宇宙、サイバースペースおよび電磁スペクトルにおいて何の制約もなくアクセスできることを確実にする」点にある。 

これは、米国は自分が望む地域に対して、望みさえすれば何時でも物理的にアクセスすることができる能力を保持しなければならないことを意味する: 

「たとえば、米国が世界でもっとも重要な地域に乗り込んで、そこで軍事行動を起こす能力を喪失したり、そうすることに限界が感じられるようであれば、それは米国やそのパートナーの安全保障を台無しにしてしまう。」 

こうして、米国は「庶民に対するばかりではなく、基本的に重要な地域や資源、市場に対する断固たる、悪害を及ぼす、あるいは、偶発的なアクセスにおける中断」を最小限に抑えなければならない。

「資本主義」を直接引用することはなく、この文書はペンタゴンがどのように「恒常的な紛争2.0」と称されるこの新しい時代を見るかに関する曖昧さについては除外している:

「・・・いくつかの国はグローバル化と戦い、グロ―バル化を推進する側もそれに対して活発に反撃している。これらを組み合わせてみると、これらの軍事力はすべてが、如何なる国家に対してであっても、生存のために維持しようとし、かつ、依存している安全保障網や安定した政府を破壊してしまう。」 

つまり、これは米国主導の資本主義者のグローバル化とそれに抵抗する勢力との間の戦争である。

この戦争に勝つために、本文書は一連の戦略を提案している: つまり、米国の諜報機関を強化し、それを今まで以上に冷酷で野心的に使用する。一般大衆に対する監視とプロパガンダを強化し、世論を操作する。米軍を拡大し、「戦略的な地域や市場および資源」へのアクセスを確実にする、等の提案をしている。 

たとえそうではあっても、最重要の目標は、どう見ても、もっと慎み深いものではないのか。つまり、それは米国主導の秩序がさらに崩壊することを防止することにある筈だ: 

「・・・好ましい米国主導の現状は内部および外部からの著しい圧力に曝されている一方、うまく適応した米国のパワーはほとんどの重要地域において徹底的な敗北を未然に防ぎ、反転させることが可能である。」 

望むらくは、「米国が形を変えたとしても、依然として好ましい形で優位性が崩壊した後の国際秩序を形作ることが可能であって欲しい。」 


自己陶酔:

米陸軍兵学校のすべての出版物がそうであるように、この文書は必ずしも米陸軍や国防省の公式見解を示すものではないと注釈している。この警告は記述されている内容は米政府の公式見解としては受け取れないことを指摘しているが、相談を持ち掛けた数多くの高官たちの「集団的見識」であることを本文書は認めている。

その意味においては、本文書はペンタゴンの心を覗きこむ絶好の窓であるとも言えるのであるが、その認知領域は何とまあ狭いのであろうか。気恥ずかしいばかりである。

これは、まわり回って、ペンタゴンのやり方が如何に物事を悪化させるかを暴くだけではなく、より生産的な代替手法はどのようなものであるかを示してくれる。

2016年の6月に開始され、2017年の4月に完了した米陸軍兵学校のこの研究プロジェクトはペンタゴンの全域において高官らとの間に活発な議論をもたらした。たとえば、統幕スタッフ、米国防長官室(OSD)、アメリカ中央軍(USCENTCOM)、アメリカ太平洋軍(USPACOM)、アメリカ北方軍(USNORTHCOM)、アメリカ特殊作戦軍(USSOCOM)、在日米軍(USFJ)、国防情報局 (DIA)、国家情報会議、アメリカ戦略軍(USSTRATCOM)、アメリカ太平洋陸軍(US­ARPAC)、太平洋艦隊(PACFLT)、等が含まれる。

この研究チームはどちらかと言えばネオコンの信条に富んでいるいくつかの米シンクタンク組織の専門家とも話をした。たとえば、アメリカン・エンタープライズ研究所、戦略・国際問題研究所(CSIS)、ランド研究所、ならびに、戦争研究所(Institute for the Study of War)が含まれる。

こうして見ると、この報告書が非常に近視眼的であること自体については驚くに値しないだろう。

しかし、自分自身に向かって喋っているのと少しも変わりがないような、余りにも自己陶酔的な形で行われたこの研究から読者はいったい何を期待するのであろうか?提言された解決策はまさに共鳴箱の様相を呈している。米国のパワーを不安定化させたものとまったく同じ政策を強化するように呼びかけていること自体は何らかの驚きであろうか? 

この研究手法は米国の優位性を台無しにした原動力に関わる証拠を組織的に無視しようとしている。たとえば、アラブの春の背景に見られる気候やエネルギー、食品の供給遮断の背後にある生物物理学的な過程ISISの台頭の背後にある軍事的暴力や化石燃料に対する関心、地政学的な同盟関係の同時発生的な状況、あるいは、2008年の金融崩壊以降の政府に対する不信感、ならびに、ネオリベラル経済の失敗が今も続いている現状によってもたらされた根源的な怒り、等についてである。


膨大なデータは次のことを示している。米国パワーに対して拡大するばかりのリスクは米国パワーの外部からやって来たものではなく、米国パワーの動きそのものから生じたものである。米国主導の国際秩序の崩壊は、この視点から言えば、当該秩序の構造や価値観および考え方に深く内在する欠点によってもたらされた直接の結果として現出したものである。

この文脈においては、本研究の結論はペンタゴンが自分自身や世界をどのように見ているかに比べると、決して世界の現状を反映するものであるとは言えない。

もっとも明らかなことは、過去数十年間広範な政策を組織的に追求して来たペンタゴン自身の役割を認識することに関しては本文書は驚く程無力であるが、これらの政策こそが今ペンタゴンが防護しようとやっきになっている非安定性の出現に直接貢献して来たのである。 

ペンタゴンはホッブス流の混乱の外側に存在すると自分たちを捉えていることから、ペンタゴンは実に都合よく世界に対して投影する。その結果、世界に何が起ころうとも、あたかも記念碑のような途方もない形で、実に都合よく、その責任を拒絶するのである。 

この意味においては、本文書は従来のリスク評価手法の自己制御的な失敗を如実に示した事例である。それに代わって必要なものは何かと言うと、それはペンタゴンの内部が何を信じているかを評価するのではなく、そういった信念が徹底した精査に耐え得るのかどうかを試すには例の原動力に関して独立した形で提示される科学的証拠とどっぷりと関わり合うことだ。

そのような進め方は本文書が推奨するものと比較して非常に違ったシナリオを目の前に展開してくれることだろう。それは鏡の中を実際にのぞき込もうとする意欲に基づいた新たなシナリオである。そして、それが、まわり回って、ペンタゴンの高官には過去の陳腐で失敗に帰した政策ではなく、実際に機能する本物の機会を持った代替政策をイメージする貴重な機会を与えてくれるかも知れない。

とすると、米国パワーの崩壊は避けられないとするペンタゴンの明白な確信は度が過ぎているとする考えさえもが驚きではない。 

MIT国際研究センターのショーン・スターズ博士によると、米国パワーの真の姿は国内の評価からだけでは特定することができない。われわれは多国籍企業の評価にも注視しなければならない。

スターズは米国の多国籍企業は彼らの競合企業よりも遥かに強力であることを示している。彼のデータは米国経済の優位性は過去最高の位置にあり、依然として中国のような経済大国による挑戦さえをも受けてはいないのである。

これは米国の帝国パワーは新たな崩壊の時代に直面し、前例のない混乱に遭遇するというペンタゴンの新たな認識を必ずしも疑うものではない。 

しかし、それは世界における米国の優位性に関するペンタゴンの判断は米国の資本主義を世界的に投影する米国の能力に大きく関係していることを示唆している。

米国の経済進出に対しては地政学的ライバル国家が扇動し、世界の資源や市場に対する米国の「何の抑制もないアクセス」を台無しにしようとする新たな動きが現れることから、実に明らかな点は、国防省の高官らは米国の資本主義と競合する、あるいは、弱体化させるものは何であっても当面の明確な危険であると見ることだ。

しかし、実際にはこの文書に提案されていることは米国パワーの衰退を弱めることには何も貢献しないであろう。 

それどころか、ペンタゴンの研究が推奨しようとする点はまさに帝国主義的政策を強化することにあって、ソ連邦の崩壊を正確に予言した未来学を専門とするヨハン・ガルトウング教授は「米帝国の崩壊」は2020年頃に加速するであろうと予測している程だ。

われわれが「優位性の崩壊後の時代」に足を踏み入れるにつれて、市民や政府、市民社会、産業、等に関して意味のある質問をするとすれば、それは次のようなものではないだろうか。帝国が崩壊し、死の激痛の中で吐き出す文言は「この後、何がやって来るんだ?」 


著者のプロフィール: ナフェーズ・アフマド博士は受賞に輝き、調査報道には16年の経験を有するジャーナリストであって、クラウド・ファンディングによる調査報道プロジェクト、INSURGE Intelligenceを設立した。彼はVICE’s MotherboardにてSystem Shiftのコラムニストを務めている。
著者の記事はガーディアン、ヴァイス、インデペンデント日曜版、インデペンデント、スコッツマン、シドニー・モーニング・ヘラルド、エージ、フォーリン・ポリシー、アトランティック、クウオーツ、ニューヨーク・オブザーバー、ニュー・ステ―ツマン、プロスペクト、ル・モンド・デイプロマティック、ロー・ストーリー、ニュー・インターナショナリスト、ハフィントンポストUK、アル・アラビア・イングリッシュ、アルタ―ネット、エコロジスト、アジア・タイムズ、他によって出版されている。
ナフェーズはイブニング・スタンダードの「ロンドンでもっとも影響力のある1000人」と称されるリストに2回登場した。
彼の近著、「Failing States, Collapsing Systems: BioPhysical Triggers of Political Violence (Springer, 2017)は気候、エネルギー、食物および経済危機が世界中でどのようにして国家的な失敗をもたらしているかに関して科学的に究明したものである。

本記事はクラウド・ファンディングによる調査報道プロジェクトINSURGE INTELLIGENCEによって人々や地球のために出版された。他の人たちが一歩を踏み出すのを恐れる場所を深く掘り下げるために我々を支援ください。

注: この記事に表明された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。 

<引用終了>


これで全文の仮訳は終了した。

私がもっとも興味を覚えた部分はソ連邦の崩壊を正確に予言した未来学を専門とするヨハン・ガルトウング教授は「米帝国の崩壊」は2020年頃に加速するであろうと予測している程だという文言、ならびに、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事が述べた「中国の経済成長が続くと、(10年後には)IMFの本拠をワシントンから北京へ引っ越すことになるかも知れない」という言葉だ。相互にはまったく関係のない専門家らがほぼ同じような予測をたてていることが実に興味深いのだ。

また、日本の周辺に目を移すと、ペンタゴンによる北朝鮮の見方は非常に興味深い。この記事はこう言っている。つまり、『イランと北朝鮮の実態は米国政府が公に主張しているように核の脅威であるとの主張からは程遠く、それに代わって、両国は「米国主導の秩序」を展開するのに問題となるのだ、と本文書は主張する』と。米国を始め、日本の大手メディアが北朝鮮に対して頻繁に使う文言は「核の脅威」である。しかしながら、ペンタゴンのブレーンである陸軍兵学校の研究報告はそのようには見てはいない。

要するに、読者を洗脳するために大手メディアの報道には嘘が含まれている。純粋に軍事的な観点から見た「核の脅威」と情緒的に見た、あるいは、新聞の販売部数やテレビの視聴率を上げるために用いられる「核の脅威」との間には非常に大きなギャップがあるのだと言える。

ペンタゴンの研究報告は「・・・米国の国土、個々の米国市民、米国の世論、および、物の見方は以前にも増して戦場と化すことになろう」と述べているが、米国はすでに強力な警察国家になってしまっている。それにも増して、今後、この趨勢がさらに追及されるとすれば、米国の社会はいったい何処へ行き着こうとしているのであろうか?  
また、『「自衛」という概念そのものは、こうして、圧倒的な軍事力を思い通りに用いる能力として再構築される』とも述べている。私にはこの文言は日本政府の動きとダブって見える。つまり、憲法9条を書き換えて、自衛隊を海外に派兵することができるようにするという政治意志はまさに米帝国主義の日本版である。もちろん、政府はあからさまにそうは言わない。日本の国民にとって最大級の皮肉は、日本の政治は今衰退の一途を辿っている米国と運命を共にしようとしている点にあることだ。まったく先が見えていない。

「このペンタゴンの文書はペンタゴンの心を覗きこむ絶好の窓であるとも言えるのであるが、その認知領域は何とまあ狭いのであろうか。気恥ずかしいばかりである。これは、まわり回って、ペンタゴンのやり方が如何に物事を悪化させるかを暴くだけではなく、より生産的な代替手法はどのようなものであるかを示してくれる」と著者は指摘している。

著者は米国のタカ派的な外交政策によって世界情勢がさらに悪化することを心配している。その一方で、現行の米国の対外政策の弱点を探る絶好の材料にもなるとして、この報告書を評価している。今後、さまざまな専門家からの提言や意見を反映して、国際政治における緊張の緩和に向けた策を模索して行って欲しいものだ。

「米国パワーに対して拡大するばかりのリスクは米国パワーの外部からやって来たものではなく、米国パワーの動きそのものから生じたものである」と著者は言う。米国内部に最大要因があると言っているのだ。ここに今後の議論のための突破口があるようだ。

われわれ凡人は毎日の生活に気を奪われていて、世界秩序の変化に思いを馳せることなんてほとんどないのが現実ではあるが、専門家に言わせると、これほどまでに米帝国の崩壊のプロセスは進行しているのだ。

冷戦後の世界を一極支配して来た米国が新たな世界秩序、つまり、多極支配の構造に移行することを避けられないとすれば、米国の政治家の最大の任務は秩序の変更に伴って起こる一般市民が被るであろう苦難を最小化する策を構築し、国際的な広がりをもってそれを実行に移すことであろう。それ以外にはない。

ところが、米国の上下両院は新たに対ロ経済制裁を可決し、この法案を受け取ったトランプ大統領は、83日、これに署名した。経済制裁の対象となるロシア、イラン、北朝鮮は別としても、対ロ貿易を復活したいEUは甚大な影響を受けることであろう。米国以外の世界はますます大きな経済的損害と政治的緊張を抱え込むことになる。

たとえこの対ロ経済制裁によって米国の覇権の余命を10年、あるいは、20年延ばすことに成功したとしても、依然としてそれは一時的な延命策に過ぎないのではないか。

米国の政治エリートたちは先がまったく見えてはいない!名もないヤブ医者であっても、これよりも遥かに立派な処方箋を書けるのではないかと思えてならない。




参照:

1IMF may soon be moving to China - Christine Lagarde: By RT, Jul/25/2017, https://on.rt.com/8ink

2Pentagon Study Declares American Empire Is ‘Collapsing‘: By Nafeez Ahmed, Information Clearing House, Jul/17/2017





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