2019年10月11日金曜日

イエメンのフーシ派はどうやってチェス盤をひっくり返したのか

国益を求めて国際関係を自国に有利に展開させようとする努力はチェス盤上での闘いにたとえられることがある。国際関係における闘いでは、多くの場合、地政学的な戦略が結果を大きく左右する。

914日に起こったサウジアラビアの原油生産設備に対するイエメンのフーシ派によるミサイル攻撃は世界最大の原油輸出国であるサウジの原油輸出能力を半減させたと言われている。破壊された設備の復旧には何か月もかかるのではないか。サウジにとっては歳入を大きく左右することから、甚大な損失である。もうひとつの側面は、サウジがフーシ派に対して行っている敵対的な行為を止めるようフーシ派が求めている。サウジがフーシ派に対する攻撃を続行すれば、フーシ派は第二、第三の反撃も辞さないと宣言していることだ。つまり、914日の攻撃と同様な軍事行動が繰り返されれば、サウジの原油輸出能力はゼロになってしまう可能性がある。つまり、サウジにとってはもう選択肢はないも同然だ。それ程の衝撃なのである。

このサウジの原油生産設備に対するフーシ派の攻撃に関しては、私は924日に「イラン対サウジアラビア - ゲームは終わった」と題して投稿したばかりである。

米国のポンぺオ国務長官はこの攻撃はイランの仕業だと公言した。その後もインターネット上ではさまざまな論評が出回っている。世界中の多くの専門家はこれはフーシ派が犯行声明を出した通りに彼らが行ったことだと理解しているようだ。しかしながら、最大の疑問は、今回の攻撃が高精度で実行され、サウジが使っている米国製の対空防衛網をかいくぐって見事に攻撃を達成した技術能力の高さが観察されたが、本当にイエメンのフーシ派の仕業であろうかと訝る声も聞こえてくる。

ここに「イエメンのフーシ派はどうやってチェス盤をひっくり返したのか」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

われわれはフーシ派だ。われわれは街へやって来る。アブカイク製油所に対して実に見事な攻撃を加えて、イエメンのフーシ派は南西アジアの地政学的チェス盤をひっくり返してしまった。これは完全に新しい次元をもたらした。つまり、サウド家を権力の座から放り出すことの可能性が見えて来たのだ。 

負の結末には厳しいものがある。フーシ派(イエメン北部のシーア派に属するザイディ派)とワハビ派は何世紀にもわたってお互いに闘って来た。この本(訳注: Tribes and Politics in Yemen: A History of the Houthi Conflict” 1st Edition, Kindle Edition at Amazonを指す)はフーシ派が持っている驚くほどの複雑さを理解するのに基本的には欠くことができない。おまけに、それはアラビア半島の南部における騒動を単なるイランとサウジとの間の代理戦争を越える地位にまで押しやってしまう。

東部の州に住むシーア派はサウジの原油生産設備で働いており、彼らはリヤド政府と戦っているイエメンのフーシ派とは自然発生的に同盟者であることを考慮せざる得ない。この要素は常に重要である。

フーシ派の攻撃能力、つまり、群れをなして襲いかかる無人機と弾道ミサイルとによる攻撃は過去1年かそこらの間に目を見張るほどに進歩した。アラブ首長国連邦が地政学的および地理経済学的な風が今どちらへ向かって吹いているのかを見極めたことは単なる偶然ではない。アブダビ政府はモハンマド・ビン・サルマン王子がイエメンに対して行っている凶暴な戦争からは身を引き、今や「平和第一」の戦略を採用している。

アブカイクへの攻撃の前にさえも、フーシ派はサウジの原油施設だけではなく、ドバイやアブダビの空港に対していくつかの攻撃を行っていた。7月の始め、イエメンのオペレーションズ・コマンド・センターはサナーアで弾道ミサイルや有翼ミサイルおよび無人機の全機種にまたがる展示を行った。

現状としては、見応えのあるシナリオに関してさまざまなお喋りがペルシャ湾中を横行している。たとえば、サウジ国内の東部にある原油ベルト地帯で蜂起するシーア派集団と呼応して、フーシ派はメッカやメジナを確保するためにアラビア砂漠を猛ダッシュするというシナリオこそが買いだ・・・といった噂。もはや、とても手が届かないという話ではないのだ。極めて不可思議な出来事が中東で起こったのである。結局のところ、サウジの連中はバーでの喧嘩にさえも勝てない。それこそが彼らが雇用兵に依存する理由だ。

東洋人の特質がふたたび襲う:

フーシ派にはそのような技術的に洗練された攻撃なんてできる筈がないと米諜報界は繰り返すが、彼らの言い草は東洋人的特性を示す最悪のらせん構造ならびに白人の責任あるいは優越感を表すものだ。

サウジ側が今までに公開したイエメンからのミサイルの部品はイエメン製「クッズ1」巡航ミサイルからのものである。サナーアに本拠を置くイエメン武装組織の報道官を務めるヤフヤ・サレーエ准将によると、「クッズ・ミサイルは目標を正確に捉え、敵の対空防衛システムをかいくぐるという素晴らしい能力があることを証明したのだ。」 

フーシ派武装勢力はアブカイク製油所の攻撃について正式に犯行声明を出した。「この作戦はサウジアラビア国内の奥深くで行ったもっとも大規模な作戦のひとつであり、正確な情報を探る諜報作戦や事前の監視およびサウジ王国内部にいる誇り高く自由な人たちからの協力があって初めて実現した。」 

ここでもっとも重要な概念に気付いていただきたい。サウジアラビア国内からの「協力」とは誰のことかと言うと、それはイエメン人のすべてから始まって、サウジの東部の州に住んでいるシーア派住民をも含めることが可能だ。 

攻撃を成功に導いたさらに関連深い要因としては、衛星やAWACS、パトリオット仰撃ミサイル、無人機、戦艦、ジェット戦闘機、等の強大な米国製ハードウェア―があべこべに配置されていたことから(訳注:他の記事によると、サウジの対空防衛システムはイランからの攻撃を想定してレーダーは北東向きに設置されていた。しかし、イエメンはサウジの南側に位置している)、何も探知せずに終わった、あるいは、間に合わなかったという事実が挙げられる。クウェートの鳥の猟師がサウジに向かって「あてもなく飛行する」三機の無人機を観察したことが「証拠」として見なされている。 無人機が群れになっており、恥ずかしくなるような写真を始めとして、無人機の飛行はサウジ領内で何時間にもわたって何らの制約も受けなかったのだ。

国連職員が大っぴらに認めているように、問題はフーシ派の新しいUAV-X無人機の1,500キロの航続距離以内に存在する施設だ。つまり、サウジアラビアの油田、首長国連邦で建設中にある原発、ドバイのメガ空港、等が問題となる。

私は過去の2年間テヘランのある消息通と会話を交わして来たが、フーシ派の新型の無人機とミサイルは、ヒズボラーの技術屋からの貴重な支援の下でイエメンでイランのデザインをコピーし、組み立てられたものである。

米諜報界は17機の無人機と巡航ミサイルはイランの南部から連結して発射されたと執拗に言い張っている。理論的には、パトリオットのレーダーがこの発射を探知し、これらの無人機やミサイルを撃墜していた筈であった。現時点では、そのような弾道コースを示す記録は何も公開されてはいない。軍事専門家は一般的にパトリオット・ミサイル用レーダーは立派であると誰もが認める。しかし、控えめに言って、その成功率については議論が多い。 もう一度言っておきたいが、重要な点はフーシ派は先端技術を駆使した攻撃用ミサイルを所有しているということだ。アブカイクで披露された正確な攻撃能力は尋常ではなかった。

現在のところ、サウジ王室が米英からの支援の下でイエメンの市民を対象に行っている戦争(20153月に始まり、聖書における出来事なみの大規模な人道的危機をもたらしたと国連は形容している)の勝者は、どう見ても、広くMBSと呼ばれているサウジのプリンスではない。

将軍の言うことを聞いてくれ: 

アブカイクでは何基もの原油のスタビライザー用タワーが、天然ガス貯蔵タンクと並んで、具体的な攻撃目標となった。ペルシャ湾のエネルギーに関する消息筋は装置の修理もしくは再製作には何か月もかかると私に言った。リヤド政府もこのことを認めている。 

証拠も無しにイランを盲目的に非難することは上手くは行かない。テヘラン政府は一群のトップクラスの戦略的思索家を当てにすることが可能だ。ところで、彼らには西南アジアを吹き飛ばす必要は何もなく、たとえ実際にそうすることが可能ではあってもそうしたいとは考えない。革命防衛隊の将軍らは、過去に何度か記録に残されているように、戦争の準備は出来ていると言っている。

テヘラン大学のモハンマド・マランディ教授は外務省と近しい関係を持っているが、彼は断固としてこう言った。「イランからやって来たのではない。もしもイランからやって来たとするならば、米国にとっては極めて恥ずかしい立場となることであろう。彼らは数多くのイランの無人機やミサイルを探知することができなかったことを示すことになる。まったくつじつまが合わない。」 

マランディはさらにこうも強調する。「サウジの対空防衛施設はイエメンからの攻撃ではなく、イランからの攻撃を防御するように設置されている。イエメンはサウジを攻撃し、彼らの攻撃能力は向上している。無人機やミサイル技術を4年半にわたって開発し続け、今回の目標は攻撃しやすい施設だった。」  

民間の無防備の攻撃目標: 使用に供されている米国製のPAC-2およびPAC-3対空防衛システムはすべてが東に向けて設置され、イランに向けられている。ワシントン政府もリヤド政府も一群の無人機とミサイルがいったいどこからやって来たのかについては何の確信もない。

読者の皆さんはアミル・アリ・ハジザデー将軍との画期的なインタビューに関心を寄せるべきだ。アミル・アリ・ハジザデー将軍は(イランの)イスラム革命防衛隊の空軍指揮官である。このインタビューは米国の制裁を受けている知識人であるナデル・タレブザデーによってペルシャ語で行われ(英語の字幕付き)、そこには米国人の分析専門家で私の友人でもあるフィル・ジラルディやマイケル・マルーフならびに私からの質問も含まれている。

イランの防衛能力における自給自足体制を説明するハジザデーは極めて理性的な人物であると見受けられる。ここで肝腎なことは次の点だ。「われわれの見方では米国の政治家もわれわれの政府も戦争を望んではいない。RQ-4N無人機が6月に撃墜されたが、あのような出来事が起こり、あるいは何らかの事故が起こって、もっと大きな戦争へと発展した場合は、まったく別の話だ。したがって、われわれは何時でも大きな戦争のための準備ができ
ている。」 

革命防衛隊は特に米国に対してどんなメッセージを送りたいのかという私の質問に答えて、ハジザデーは決して婉曲には言わない。つまり、はっきりとこう言った。「アフガニスタンやイラク、クウェート、首長国連邦ならびにカタールといったさまざまな国にある米軍基地に加えて、2000キロの距離内にある艦船のすべてに狙いを定め、われわれはそれらを常時監視している。彼らは400キロの距離さえあればわれわれの射程範囲には入らないと思っている。彼らが何処にいようが、一瞬の内に彼らの艦船や空軍基地、あるいは、部隊を攻撃することができる。」  

自分のためにS-400か何かを入手したまえ:

エネルギーの最前線でテヘラン政府は圧力下に曝されながらも、非常に緻密なゲームを演じてきた。イランから離れてから、自分たちのタンカーの応答装置のスイッチを切って、彼らは夜中に海上でタンカーからタンカーへと積荷を移送し、積荷の原油を売り、その積荷は他の生産者から出荷されたかの様に積荷のラベルを書き換えもした。私は信頼できるペルシャ湾の貿易業者と一緒になってこのことを何週間にもわたって調査してきた。彼らはすべてを確認してくれた。イランはこのやり方を永久に続けることだってできる。

もちろん、トランプ政権はこのことを知っている。しかし、事実を言うと、彼らは別様の見方をしている。その状況を精密に描けば、JCPOAを破棄したことによって彼らは落とし穴にはまり込んでしまい、今や面目を保つことができる出口を探しているのだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は何週間にもわたって警告を発していた。遅くなり過ぎる前に米国は自分たちが背を向けた合意に復帰するべきだと彼女は言った。

ここで身の毛もよだつような話をしよう。

アブカイクに対する攻撃は、クウェートやカタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビアを含めて、中東全体が産する日量千8百万バーレルが容易く打ちのめされてしまう可能性があることを示している。これらの無人機やミサイルに対抗する適切な防御体勢はゼロに等しい。

ところで、ロシアはいつもそこに居る:

ここにひとつのエピソードがある。これは、今週、プーチンとロウハニおよびエルドアンの3人の大統領を結びつけるシリアに関するアンカラ・サミットが行われた後の記者会見で何が起こったのかを伝えるものだ。

質問: サウジアラビアのインフラを復旧するためにロシアは何らかの支援をするのか?

プーチン大統領: サウジアラビアを支援することについて言えば、コーランには自分たちの国民を助ける場合を除いては如何なる形の暴力も非合法であると書かれている。サウジの国民や国家を防護するためには、われわれはサウジアラビアが必要とする支援を提供する用意がある。サウジアラビアの政治的指導者のすべてがしなければならないことは、イランがS-300ミサイルシステムを購入することを決めたように、ならびに、エルドアン大統領がロシア製の最新式S-400 トライアンフ対空防衛システムを購入することを決断したように、賢明な決意をすることだ。これらのシステムはサウジの如何なるインフラに対しても信頼性の高い防御を提供するだろう。

ロウハ二大統領: 彼らはS-300あるいはS-400を購入する必要があるのか?

プーチン大統領: それは彼らの決心しだいだ(笑い)。

The Transformation of War」と題した書籍(訳注:1991年の出版)で、マーチン・ファン・クレフェルトは実際にこのような状況を予見していた。つまり、軍・産・安全保障複合体はその武器システムのほとんどが第4世代の非対称的な敵国に対しては何の役にも立たないことが暴かれると、この複合体全体が崩壊することであろう。南側諸国のすべてがこの状況を観察していることには何らの疑いもなく、このメッセージを彼らは間違いなく受け取ることになる。 

ハイブリッド戦争が再び装弾された: 

今、われわれは非対称ハイブリッド戦争に突入しようとしている。

ネオコン系の常連の容疑者によって扇動され、恐ろしい事故(訳注: たとえば、米国がイラクへ侵攻する理由とした911同時多発テロのような自作自演による事故)を受けて、ワシントン政府はイランを攻撃することを決定したとしても、ペンタゴンはイランやイエメンの無人機のすべてを攻撃し、破壊しつくすことは望み得ないであろう。米国は間違いなく全面戦争を予見する。そして、ホルムズ海峡を通過する船舶は1艘も見当たらない。われわれは誰もがこの戦争の結末を知っている。

このことはわれわれをとてつもなく大きな驚きに直面させる。ホルムズ海峡を通過する船が1艘も見当たらない本当の理由は湾岸地域にはタンカーに積み込む原油がもうないからだ。油田が爆撃され、炎上しているからである。

こうして、われわれは現実的な最終局面へ戻る。この最終局面はモスクワと北京だけではなく、パリやベルリンもが強調していた点である。米国のトランプ大統領は一世一代の賭けに出たが、その賭けには負けた。今、彼は面目を保つ術を見つけ出さなければならない。戦争屋がそうすることを許すならばの話ではあるが・・・。 

著者のプロフィール: ぺぺ・エスコバーアジアタイムズの特派員である。彼の最近の著書は「2030」。フェースブックで彼をフォローされたい。

注:この記事の初出は「アジアタイムズ」。 


<引用終了>

これで全文の仮訳が終わった。

著者のペペ・エスコバーは私の好きな著者のひとりだ。今までに何回かこのブログに登場して貰っている。この引用記事において彼は中東におけるチェス盤がイエメンのフーシ派勢力によって見事にひっくり返された状況を説明している。イエメンとサウジとの間の戦争は非対称型の戦争であるとする見方が興味深い。イエメンは最貧国のひとつであるが、サウジは世界で3番目に大きな軍事費を使っている国であるが、今回のフーシ派武装勢力によるサウジの原油生産設備に対する無人機・ミサイル攻撃はイエメンを勝者にした。この
状況は素人目にもよく分かる、実に見事な非対称性であると言えよう。

サウジアラビアにはやっかいな国内事情がある。国内には、特に石油が産出される東部の州ではシーア派の住民が圧倒的に多い。これらの人たちはサウジの歳入の大部分を占める原油の生産に従事しているが、サウジの裕福な富の恩恵を十分には受けていないという不満を抱いている。このような社会構造があることから、サウジ国内の反政府勢力(シーア派)がイエメンのフーシ派に協力をしたとしても決して不可解ではない。たとえば、製油所の従業員が製油所のスタビライザー用タワーが設置されている位置をGPSで正確に割り出し、その座標データをフーシ派に伝えるというシナリオは現実味を帯びて来る。

著者は「米国のトランプ大統領は一世一代の賭けに出たが、その賭けには負けた」と述べているが、本当の意味で負けたのはトランプ大統領ではなく、トランプ大統領を罷免しようとしている軍産・諜報・メディア複合体の方ではないか。サウジアラビアのために米国の軍産複合体が今まで推進して来た軍事施設は最貧国のひとつであるイエメンのフーシ派武装勢力からの攻撃に負けたのである。




参照:

1How the Houthis overturned the chessboard: By Pepe Escobar, Information Clearing House, Sep/18/2019










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