本日は「偽りの多いわれわれの横断幕は米国の崩壊をもたらす」と題した彼のブログ(注1)を引用しようと思うが、その前にThe New Yorkerの2009年1月26日号の「The Dystopians」という記事に紹介されている彼の人物像をまずここにご紹介しておきたい。その冒頭の部分を引用してみよう。
不動産価格が下落していた1年半前、レニングラードからやって来て、ソフトエンジニアを務める46歳のドミトリー・オルロフはボストンのブライトン地区にあるアパートと家具を売り払い、ベイマツの船舶用合板で建造されている古い小型平底船を購入した。今は借金無しの生活を送り、文芸翻訳に従事する妻のナターシャと一緒にその船に住んでいる。二人はボストン海軍工廠の近くにあるコンステイチューション・マリーナの一角を借り受けた。近所にある仕事場の広告代理店までは歩いていく。買出し等の用がある時は自転車を使い、時には自転車を船のデッキに駐輪する。自家用車やテレビを持っていたのはもう大分前のことだ(「テレビの前に5分間も座っていると、テレビが私に向かって嘘をついているように思われて、ワイヤーカッターを取り出して電源コードを切断したい衝動に駆られるのが落ちだ」と彼は言う)。「ホグフィッシュ」と名付けたボートにはソーラーパネルを取り付け、6か月分のプロパンガスを積めるようにした。また、船底には6か月分の米と豆を蓄える。「基本的にはサバイバル用のカプセルみたいなものだ」と、最近、彼は言った。
オルロフは12歳の時に米国へ移住し、アンドロポフ政権時に政治犯であった彼の叔父さんが刑務所から出てきた直後、1989年にソ連へ出かけた。1990年の二回目の旅の際、ソ連は燃料不足に見舞われており、彼はトラックに積み込んだウォッカで中世都市のポスコフとノブゴロドを訪れるための旅費を捻出した。道中のブラックマーケットで0.5リッター入りのウォッカの瓶を10リッターのガソリンと交換したのである。(丁度ゴルバチョフ政権がアル中対策キャンペーンを始めた直後のことであって、オルロフは家族の一員の死を活用して、ウォッカ用クーポンで葬式の費用に相当する額を換金した。)これに勝るとも劣らない当時の資金源はブルージーンズであったが、彼が持参していたブルージーンズは一着だけだった。誰もルーブルを受け取ろうとはしない。この状況を彼は将来のための教訓とした。「崩壊する経済に直面した際には、金で富を測ることは止めるしかない。」
彼の名前はソ連と米国の崩壊を比較した2011年出版の本によってよく知られている(彼は米国の崩壊はもっと性質が悪いだろうと考えている)。 彼は多作で、非常に広いテーマを扱う。彼の作品についてはアマゾンで検索されたい。
「嘘は別の嘘を生み出し、近い将来、偏見に囚われない諜報の収集や理に適った分析、折り目正しい目標の策定は不可能になるだろう。」
「・・・真実を告げることによる名声はたった一回の嘘で失われ、それ以降は米国の機密情報の情報元という言葉を使うことは厚かましい嘘つきが巡らす陰謀行為とほぼ同義語となった。」
「ワシントンや西側のメディアが如何なるメッセージを押し通そうとしても、それに対する完全に有効な対応策は彼らは過去において何時も嘘をついて来たということを指摘することだ。そして、「いったい何時から嘘をつくことを止めたのか?」と問いかけることだ。
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(訳注: ここから本論に入る。)
もしもあなたが今やほとんど密閉されたも同然の西側の主流メディアの心の風景にどっぷりと浸かっていながらも、依然として真実を探求する人物であるとすれば、あなたの生涯はあなたにとっては殊更に不公平なものとなるに違いない。なぜならば、どうもがいてもあなたには勝ち目はないからだ。
もう何十年にもわたって、その手口は次のような具合であった。議会ではどちらの党が優勢であるか、あるいは、大統領を送り出したのはどちらの党かということには関係なく、ワシントンに隠れている、変わりばえのしない国家的なエリート、あるいは、多国籍的なエリートが課題を設定し、たとえそれが合法的、非合法的、または、明らかに犯罪的であるとしても(国家的な破産が近づき、自暴自棄の気分が根をおろすにつれて、後者の状況が支配的となる)、必要とされるあらゆる手段を駆使してその課題を押し通そうとする。
彼らの工作員は実際に起こったことに関しては如何なる調査も始まることがないように物事を整える。虚偽に満ちた公式の筋書きと矛盾する西側メディアからの報告はすべてが揉み消される。真実を調査し、真実を見つけ出そうとする独立した取り組みは「陰謀論」として過小評価される。この言葉はまさにこの目的のためにCIAが名付け、使用している用語である。
虚偽に満ちた公式の筋書きに対抗しようとする西側メディア以外からの情報元はことごとく無視され、人身攻撃やあらゆる種類の証拠のない主張に遭遇することになる。そして、すべての試みが失敗に終わった場合には、そこで禁止される(まさに、最近、ロシア・トウデイの衛星テレビチャンネルが実際に遭遇したようにだ)。
もしもそれが一般大衆とのコミュニケーションのための手法であるとすれば(私はそうに違いないと確信している。もしもあなたがまだ確信してはいないならば、何らかの調査を行なって確信して貰いたいものだ)、われわれにはいったい満足することが出来るような真実を見出す機会があるのだろうか?
通常、われわれはいくつかの、多分、何処かが矛盾している出来事を提示され、徹底した調査や熟考の後に判断を下し、意見の集約を図るためにその判断がわれわれの間に広められる。こうして、その判断はわれわれ皆が同意したという現実の体系を積み上げるのに必要なひとつのレンガとなるのである。
皆が同意したという現実を維持することは重要であることから、これらは優先度が高い仕事である。つまり、これはわれわれがまともな者を狂人たちから区別することを可能とする。そうすることによって、若者たちの誰かの心は余りにも未熟であって、根拠のない考えや過激な考え方、あるいは、彼らが安全だと考える事柄に向かって導かれることなしには自分自身の結論には到達し得ないと彼らに告げることさえもが可能となるのである。
もしもわれわれが皆同意したという現実的な感覚を維持する能力に欠けているならば、われわれの仲間(および子供たち)の目の前で面目を失い、社会的に妥当であるという感覚を失ない、自尊心に苦しむことになる。
しかし、どんな選択肢があるのだろうか?
それが嘘であることを十分に知っていながらも、告げられた公式の嘘をわれわれが鵜呑みにするならば、自分たちは愚か者であるかのように感じる。もしもそれらを鵜呑みにすることをわれわれが拒むならば、誰もわれわれに与えてはくれないだろうし、村八分を避け、脇へ押しやられる危険を避けるためには、他の代替となる解釈あるいは筋書きを、たとえそれを証明する事実が存在しなくても、受け入れなければならない。あるいは、われわれは不可知論者の立場をとり、必ずしも真実に通じてはいないにしても、公式の筋書きは嘘八百であることを十分に理解していると宣言しなければならない。これらの内で最初のふたつはどちらも失敗に終わる動きであり、最後の動きは一役演じることを拒む動きであるから名誉を失うことになる。こうして、三つの動きはすべてが失敗に終わる。
ここには勝ちを保証する動きはないのだ。
しかし、状況はもっと悪い。われわれは勝ちをもたらす戦略を持ち得ないだけではなく、われわれはどのように勝負をするのかもわきまえずに、連中に操られることに甘んじる負け組に属しているのである。
unz.comの出版者であるロン・ウンズは最近こう言った:
「時々、私は皆にこんな冗談を言ったものだ。もしもテレビ局や他の主要メディアの使用権を持ち、支配することができるならば、新たな情報体制を確立するには2-3週間もあれば十分だ。連携した動きによって米国の一般大衆の心の中にあるもっとも有名な陰謀論のすべてをひっくり返すことができるだろう。」
カッターナイフで武装した19人のアラブ人が何機もの航空機をハイジャックし、われわれのNORAD防空システムをかいくぐって、いくつもの有名な建物を木っ端微塵にしたという話は漫画の本から精神的におかしな連中の心へ真っ直ぐに到達したもっとも馬鹿げた陰謀論として直ぐにも冷笑を受け、至る所へと広がって行くことであろう。これはJFKの暗殺が一匹狼の仕業であったとする馬鹿げた話をいとも簡単に凌駕するであろう。」
失敗に帰したイラク侵攻を例に取り上げてみよう。4,801人の米国の将兵が戦死し、1,455,590
人のイラク人が殺害された。かっては繁栄を極めていた国家が破壊され、テロリストが跋扈する国家と化し、中央政府の力は貧弱でイランと同盟を組み、ロシアから武器を購入し、米国に対する敵意は強まるばかりである。
戦争はいわゆる「併置による証明」のテクニックを用いて売り込まれ、米市民を納得させてきた。このテクニックはこんな風に用いられる。つまり、山のようにある死体の傍にたたずむボブの写真を見せられて、彼は何人かを殺害したが、たとえ一人を除いてはすべてが自衛のため、あるいは、間違って殺したのだとしても、そうこうしているうちにボブは大量殺人者であるとして皆が信じるようになるのだ。
これはまさにサダム・フセイン(CIAのために働いていたオサマ・ビン・ラーデンの宿命の敵であった)に対して行われたことそのものだ。2003年までには米国人の70%がサダム・フセインは世界貿易センターを破壊した張本人であると信じ込まされたのである。
「併置の証明」はテレビによってすっかり混乱した米国のゾンビには効き目があるが、他の国々では、国連安保理事会での状況によって代表されるように、イラクの「大量破壊兵器」のようなでっち上げによるもっと強力な嘘八百を用いなければならなかった。世界は見て見ぬ振りをして、イラクに対して武力を行使するという決議案に賛成票を投じ、拒否しようとはしなかった。
大量破壊兵器は決して見つからず、大量破壊兵器の存在を世界中に納得させようとして用いられた情報はまったくの作り話であった。
これはとてつもなく重大な出来事であった。なぜならば、真実を告げることによる名声はたった一回の嘘で失われ、それ以降は米国の機密情報の情報元という言葉を使うことは厚かましい嘘つきが巡らす陰謀行為とほぼ同義語とさえなった。それに代わって、「米国の諜報」に基づく提案に対する標準的な対応は「湖へ飛び込む」という何の変哲もない行為と何ら変わらないものとなった。
しかし、今まで分かってはいなかったことが分かるまでには時間がかかった。偽りの情報(人道的な面での大惨事)を用いて武力侵攻のために国連の許可を取り付けた最後の事例はリビアであった。当時ロシアの大統領であったドミトリー・メドベージェフは西側に気に入って貰おうとしてこの決議案を阻止することに失敗したのである。後にこの決断について彼は後悔することになった。
信頼感のすべてが消えてしまった事実やそれがもたらした死や破壊の処理における遅れは嘆かわしいことではあるが、今や裁定が下され、不服の申し立てはあり得ない。もしもこの最後のパラグラフがいくらかの怒りをもたらすとするならば、それは多分妥当である。作り上げられた「事実」を用いて正当化されたいくつもの間違った死は誰かの善悪の判断力のせいであって、あなたや私のせいではないことを祈ろう。
最初の質問点へ戻る。このゲームで勝つにはどのように振舞うべきか?上記に基づいて言うと、どのような課題であっても、支配的な西側の公けの筋書きは嘘八百であると想定することは立派である。
最初の質問点へ戻る。このゲームで勝つにはどのように振舞うべきか?上記に基づいて言うと、どのような課題であっても、支配的な西側の公けの筋書きは嘘八百であると想定することは立派である。
ワシントンや西側のメディアが如何なるメッセージを押し通そうとしても、完全に有効な対応策は彼らが過去において何時も嘘をついて来たことを指摘することだ。そして、ひとつの単純な質問を放つことだ。「彼らはいったい何時嘘をつくのを止めたのか?」と。この質問に対して妥当な答えを見つけることは非常に難しいことから、問題を解決するにはすべての西側の政府やメディアを嘘を言い放った容疑者と見なすことだ。
もしも公式の筋書きを無視すべきであるとするならば、そこには代替となる筋書きのための空間が生み出される。少なくとも三種類の筋書きがあろう。
彼らの手にひっかかる連中と一緒に焼き払うべき架空の人物が設定される。もしも彼らが「間違った筋書きA」であなたを納得させることができないならば、彼らは「間違った筋書きB」(この筋書きは彼らを悪者に見せかけるので、あなたにとっては魅力的に見える)を持ち出してあなたを納得させようとする。こうして、彼らはあなたに「陰謀論者」としてのラベルを付け、あなたを道路から逸らせ、側溝へ落下させようとする。
さらには、「間違った筋書きC」がある。これは対抗となる筋書きであって、他国、他の国家群、あるいは、地政学的な敵国(ロシアや中国、イラン)または悪の枢軸国(キューバやベネズエラ、北朝鮮)によって作り上げられる。
この場合、(もしもあなたが惚れ込めば)あなたは外国の影響力を売り歩く人物として見なされ、(もしもあなたが惚れ込まなければ)あなたは精神的にはどっちつかずの状態に陥るリスクに曝される。
何れの場合においても、「いったい誰が得をするのか?」と問いかけることによって、その状況を理解しようとすることは可能だ。「間違った筋書きA」では受益者は米国のエリートたち、支配者、ディープステーツ、等である。「彼らが勝つか、あなたが負けるか」という定型を除けば、「間違った筋書きB」でもまったく同様だ。「間違った筋書きC」においても、「彼ら」は国内ではなく、外国からの嘘つきであることを除けば、まったく同様である。しかし、誰が嘘をついているのか、そして、どうして嘘をつくのかをたとえあなたが知っていても、真実を入手するという意味ではあなたは依然として勝つことはできない。
しかし、あなたにも勝ち目がある。それは結果を観察することによってだ。あなたが観察し得るのは定型的な失敗の連続である。他の人たちに嘘をつく連中は自分たち自身に対しても嘘をつくのをあなたは見かけるであろう。
どんなに大きなグループであっても、たった2-3人の反社会的な人間は、心の中では真実を求め、正直ではあっても、他の人たちに向かって一貫して嘘をつく。誰にとっても汚水だめに浸けられているという経験は精神的にむしばまれ、感情的に消耗させられ、倫理観を失ってしまう。もはや自分の任務を適切に達成することなんて望めそうにはない。
私はイラクやアフガニスタンへ従軍した数多くの男たちや士官らとビールを飲んで、彼らが体験した苦悩に耳を傾けた。彼らが公式に受けた教化や洗脳は「敵」との接触の後にも生きながらえていることは実に稀であった。もっと重要なことはこのような体験によってもたらされた感情面の傷跡は、多くの場合、永続化することだ。
嘘がもたらす感情面における衝撃のさらに先には、指揮権を有する将官らの間に判断を阻まれるという現実的な影響がある。嘘は別の嘘を生み出し、近い将来、偏見に囚われない諜報の収集や理に適った分析、折り目正しい目標の策定は不可能になるだろう。
その結果、失敗が保証され、繰り返される:
コソボを見て欲しい: 崩壊し、ヤクに浸かった国家がマフィアの手で運営されている。
アフガニスタンを見て欲しい: タリバンが戻って来て、以前よりはましだ。しかし、ヘロイン・ビジネスが大きなブームとなった。
イラクを見て欲しい: テロリストの遊び場と化し、イランと同盟関係を結んだ。
リビアを見て欲しい: 破壊しつくされた国家は今やイスラム武装勢力の遊び場と化し、ヨーロッパへの難民の積み替え拠点となっている。
シリアを見て欲しい: シリア人とロシア人は米国製の武器で武装し、米国の訓練を受けたテロリストから同国のほとんどの地域を取り戻した。
ウクライナを見て欲しい: ウクライナはバラバラになり、国民の中でもっとも優秀な連中はロシアへ逃げてしまい、今や、国家の崩壊に見られる五つの段階に関する事例研究の格好の場となっている。
このパターンに対する反例を見い出して貰いたい: 多分、あなたは何も見つけることはできないだろう。
真実を告げる横断幕を掲げて戦場に赴く者は公衆を騙したことを隠すために股間にイチジクの葉を身につけた者よりも優勢となる公算は遥かに高い。
横断幕に書かれていることをあなたは解読することが出来ないかも知れないが、秋の風がイチジクの葉を吹き飛ばした後にはあなたは間違いなく読み解くことができるであろう。
とすると、まさにこういうことなのだ。
マタイ伝: 「その人たちは実によって見分けられます。いばらからブドウを,アザミからイチジクを集めることなどあり得るでしょうか。」
<引用終了>
通常、横断幕には目標が記述され、誰もが見れるように高々と掲揚される。この引用記事では、横断幕には米政府の国内政策や対外政策が記述される。そして、最大の問題は記述されている内容が嘘八百であることが多いことだとオルロフは指摘する。残念なことには、そのような状況が実際に繰り返されているのだ。
そうした混乱を繰り返し、無駄遣いを継続することによって米経済は破綻し、米国は内部崩壊するぞ、と著者は警告を発しているのである。
ただ、こういった警告が果たして一般庶民の関心を呼ぶのかどうかは私には分からない。多くの人たちは自分の生活に追われており、このような記事を読み漁ろうとする習慣や時間を持ってはいないのではないかと推測する。嘘八百で書かれた横断幕は大手メディアによって喧伝され、一般大衆は習慣的にCNNテレビでニュースを観て、フットボールの試合を観戦し、ワシントンポストの見出しを鵜呑みにする。こうして、相も変らぬ洗脳のプロセスは今日も繰り返され、継続される。
そして、日本でもこれとほとんど同じパターンが繰り返されている。
私の推測が完全に間違っているならば、それほど素晴らしいことはないのだが・・・
参照:
注1:Our Banner of Deceit is Leading the US to
Failure: By Dmitry Orlov, Aug/08/2019
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