米国では今トランプ大統領に対する弾劾プロセスが進行している。下院司法委員会では公聴会が開始され、証言が始まった。インターネットの動画サイトにはさまざまなビデオクリップが掲載されているので、証言の様子を観察することができる。
私がこの弾劾プロセスでもっとも不思議に思うのは民主党側自体が「これは法的なプロセスではなく、政治的なプロセスである」と言っている点である。つまり、トランプ大統領が何らかの法律を破ったが故に弾劾されているということではないのだ。たとえトランプ大統領が何かを仕出かしたとしても、それは微罪に過ぎないのだ。つまり、すべてが来年11月の大統領選を意識したものであって、これはテレビ画面上で公聴会でのやり取りを全国規模で放映することによって支持票を集めようとする民主党の政治ショウであると言えよう。しかしながら、そのショウが間違いなくいい結果を招くのかと言うと、それは予断を許さないと思う。
ここに「米大統領の弾劾プロセスにおける証言者らの妄想はより大きな課題を示唆」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。トランプ大統領に対する弾劾プロセスの深層を少しでも多く理解しておきたいと思う次第だ。
昨日(12月4日)の米下院司法委員会における弾劾公聴会で民主党の証言者のひとりは正気の沙汰とは思えないような証言をした。スタンフォード大学の法学部教授であるパメラ・カーランは、まず、世界における米国の役割に関してネオコンが抱いている妄想にすっかり巻き込まれていることを自ら証明した。つまり、彼女はこう言った:
米国は、ジェフェリー氏が言ったように、単に「最良の希望としての最後の国家」であるばかりではなく、「丘の上に輝く町」でもある。もしもわれわれが自国で民主主義を実践できないならば、われわれが世界中で民主主義を推進することは不可能だ。
ボリビアや他の国の人たちが正確に証言することができるように、米国は民主主義を推進してはいない。米国は方々で右翼政権を樹立し、詐欺師のような資本主義を推進しようとする。米国自身は民主主義国家ではなく、ハーバード大学の研究からも分かっているように、寡頭政治を実践している国家である:
ビジネス上の関心を抱く経済エリートや組織団体は米政府の政策に対して強力で独自の影響力を与え得る。その一方で、平均的な市民や一般大衆を母体とする市民団体はほんの僅かしか独自の影響力を与えることができない。もしくは、ゼロである。
選挙を防護し、ウクライナが間違いなく強国で、ロシアと戦うことが出来るようにし、われわれが米国内でロシア人と闘うことがないようにすることはわれわれの国益である。そればかりではなく、民主主義を世界中で推し進めることはわれわれの国益でもある。
彼女が言ったことは冗談ではなかった。この動画を見ると、間違いなく彼女はこのたわ言を信じ切っているようだ。
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一例を挙げると、ウクライナは「ロシア」と戦っている訳ではない。米政府が憲法に違反するマイダン革命を引き起こした後、キエフ政府は米政府が樹立したナチ主導の政権に反対するウクライナ東部の住民と戦っているのである。ロシアはウクライナ東部へ物資を補給し、ロシアからやって来た何人かのボランティアがウクライナ東部の住民のために戦ってはいるが、ロシア軍がウクライナへ侵攻したという訳ではない。
しかし、その話は別にしても、「われわれが米国内でロシア人と闘うことがないように」するためにもウクライナはロシアと戦うという話をいったい誰が信じてくれるのだろうか?
ロシアは米国への侵攻の途上にあるのか?何処で?どうやって?もっとも重要なことはいったいそれは何のためなのかという点だ。
米国本土への侵攻がどうしてロシアの国益になるのか?
そのようなたわ言を信じるなんてその当人は気が動顛しているに違いない。カーランがそういった妄想を抱いているにもかかわらず、彼女は大学で教鞭をとっている。こんなことがどうして起こり得るのだろうか?
米市民が納めた税金の一部をウクライナに与え、米国製の武器をウクライナに買わせることがどうして米国の国益となるのか?この考え方の背後に存在する唯一の動機は金儲けと汚職であって、決して国益なんかではない:
[駐ウクライナ米特使の]ヴォルカーは、2017年、通常は見られないパートタイムの形式で国務省での勤務を始めた。これはウクライナと米国の軍需企業であるレイセオン社とのために活動する有力なロビー活動専業の企業であるBGRにおいて彼がコンサルタント役を継続することを可能にした。在職中、ヴォルカ―は米国がレイセオン製の対戦車ミサイル「ジャベリン」をウクライナへ送り込むよう主張した。この策はレイセオン社に何百万ドルもの商談をもたらした。
しかし、ミサイルはこの紛争では無益だ。ミサイルはウクライナ西部の国境付近で米国の管理下に置かれている。もしもジャベリンが東部の前線へ配備され、ウクライナ東部の住民に対して使用された暁には、ロシアは何処にでも反撃してくるであろう。米国はそのことを恐れている。ウクライナがこの種のミサイルをもっと多く調達するために充当する資金を供与することをトランプがぶっきらぼうに差し控えた事実は何の違いさえももたらさなかった。
これが米国の国益を損なうと主張するなんてまさにナンセンスだ。
米国の対外政策を実践する連中がカーランのような人物の下で学んでいるならば、米国の対外政策はさまざまな混乱を引き起こし続けるであろう。驚くには値いしない。中東ならびにその他の至る地域においてロシアの対外政策は米国の企てを取り囲み、それらの企ての成果をコントロール下に収めようとする。そんなことが出来るのかと言うと、それを可能にしている理由のひとつは十分な知識や現実性が米国の対外政策に関わる思考の過程から欠落している点にある。このこと自体は教育危機がもたらした結果だ。米国の「政治学」は事実を客観的に認識することができず、現実的な概念でそれらの事実に対応することはできていない。それでもなお、そのような物の見方を実践しようとしている。
民主党の連中はリーガン風のたわ言を繰り返すだけで、妄想を抱く党員の証言者を送り出すことが民主党のために役立っているとは言えない。これらの事柄が実際には何を示しているのかと言うと、すべてが不真面目な弾劾ショウを演じているだけなのだ。
その一方で、トランプが70万人にも影響を与えるフードスタンプを排除しようとしているにもかかわらず、民主党はそのことに関しては我関せずだ。民主党が下院で維持している優勢な状況は弾劾プロセスで費やした膨大な時間を本件や他の嫌らしい事柄を未然に防ぐために振り向けることができた筈である。
そもそも民主党は彼らの投票者がこのことについては何も気付いていないと本当に思っているのであろうか?
注: この記事の初出は「Moon Of Alabama」。
<引用終了>
これで全文の仮訳が終了した。
まず、米国は民主主義国家ではなく寡頭政治国家であるという指摘はこのブログでも11月29日に掲載した「米国は民主主義を失うことはない。民主主義はとうの昔に失われてしまったからだ - プリンストン大学の研究」と題する投稿で論じたばかりである。その詳細については、同投稿をご一覧願いたい。
本記事の面白い点はさまざまな事柄を例に挙げて、今までに事実として報道されて来た内容と比較し、トランプ大統領を弾劾するために招じ入れられた証言者が述べた内容は妄想に過ぎないと痛烈に批判し、さまざまな要素を具体的に反論していることにある。
そうすることによって、著者は進行中のトランプ大統領に対する弾劾のプロセスが如何に不完全なものであるかを浮き彫りにし、米選挙民に少しでも理解を深めて貰おうと努力している。一見、些細な点を論じていると受け止められるかも知れないが、政治の舞台で繰り広げられている欺瞞と不条理に関しては、米国だけではなく日本においても、もっと真剣な関心を寄せることが求められる。突き詰めて考えると、これは間違いなく選挙民個人個人の問題である。改めて自分自身のベルトを締めなおそうではないか。
参照:
注1: The Delusions Of The Impeachment
Witnesses Point To A Larger Problem: By Moon Of Alabama / Information Clearing
House, Dec/06/2019
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