2019年12月27日金曜日

街頭には数多くのデモ参加者がいるのに、大手メディアは香港のデモだけに焦点を当てている


1220日に掲載した「ジャーナリストの言: ニューズウィークはOPCWのスキャンダルに関する私の記事を没にし、告訴を仄めかして私を脅迫しようとした」と題する投稿では、私は大手商業メディアが真実の情報を無視し、ディープステーツの筋書きに沿って偏った情報を流すことによって一般庶民を洗脳しようとしている一例をご紹介した。そこでは国連の下部機関である化学兵器禁止機関(OPCW)の上層部も米国の意向に応じるために情報操作に不当に行っていたことが内部告発によって判明した。これはOPCWを巡る大きなスキャンダルに発展した。
そもそも、OPCWは化学兵器の製造や使用および貯蔵に関して専門家としての調査を行い、第三者の立場から客観的な意見を述べることが基本原則であった。それにもかかわらず、OPCWのお偉方は恥も外聞もなく前回の投稿で紹介されているような不祥事を引き起こした。

地政学的な分断を推し進め、一般大衆を洗脳しようとするこうした風潮についてはその深層をできるだけ多く学んでおく必要がある。素人ながらも、国際政治をまともに理解したいからだ。世界中の一般大衆の国際政治に関する理解の深さ(もっと辛辣に言えば、浅さ)やその方向性を牛耳ろうとする大手メディアの思惑や「新聞が売れればいい」とか、「テレビの視聴者が増えればいい」といったその場凌ぎの商業主義には注意深く監視し、不祥事が起こった場合は変革を求めなければならない。

ここに「街頭には数多くのデモ参加者がいるのに、大手メディアは香港のデモだけに焦点を当てている」と題された記事がある(注1)。ハイチとかペルー、エクアドルでは数多くのデモ参加者が街頭を埋め尽くした。しかも、死者さえもが出た。ところが、香港では取締り当局の暴力による犠牲者はゼロである。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。香港デモを巡る西側大手メディアの問題点をおさらいしておこう。



<引用開始>

Photo-1: 火炎瓶を持った香港のデモ参加者を報じるニューヨークタイムズに掲載された写真(11/17/19)  

Photo-2: 米国に依存する国家における反政府デモとは違って、香港の反政府デモの参加者については「民主主義を求める」という形容詞が頻繁に使われた。(CNN8/30/19の記事)。

2019年は反政府行動の年として記憶されるかも知れない。デモの参加者が世界を満たしたからだ。フランスにおける「黄色いベスト」運動から始まって、レバノンやガザ、チリ、エクアドルおよびハイチに至るまで、変革を求める抗議運動が世界中の街路を埋め尽くした。しかしながら、米国の企業メディアは不釣り合いにも香港におけるデモだけに興味を示した。

先にFAIRが論じたように(FAIR.org, 10/26/19)、大手メディアの報道におけるこの不均衡はいったい誰が抗議をしているのか、そして、何について抗議をしているのかを理解することによってほとんど説明がつきそうである。香港における抗議行動は香港と中国本国政府および台湾との間における送還条約が提言された3月に起こった。この条約については数多くの香港市民が懸念を抱き、北京の権力者が中国政府に反対する市民を逮捕し、起訴するのではないかという恐れを感じた。ところで、香港における抗議行動の対象となったのは米国が公言するところの敵国である。このことから、この反政府運動は広がりを見せ、好感をもって迎えられた。
FAIRは世界における四つの重要な抗議行動に関してニューヨークタイムズとCNNの報道に関して調査を行った。つまり、香港、エクアドル、ハイチおよびチリの四カ国について調査を行った。新聞やテレビ報道においてもっとも重要なテーマは何か、何をニュースとして取り上げるべきかの判断に対する影響力や名声をベースに、これらのメディア企業が選ばれた。サンプリングされたすべての記事へのリンクを含め、すべての情報が文書化され、それらはこちらでアクセスが可能だ。これら二社のウェブサイトにて「country+protests」で検出可能な各抗議行動に関する記事のすべてをその初日から収録した。ただし、明らかに再掲載であると判断されるものは除外した。香港デモの初日は315日、エクアドルのデモは103日、チリは1014日、ハイチは201877日だ。本調査の最終日は20191122日。

Photo-3: ニューヨークタイムズとCNNによる反政府デモに関する記事。20191122日までの記事を収録。
二社の合計では香港の抗議デモは737件、エクアドルは12件、ハイチは28件、チリは36件を数えた。グラフに見られるように、タイムズとCNNの各社の報道割合はほぼ同様のパターンを示している。

Photo-4: エクアドルでは8人もの犠牲者が出たにもかかわらず、CNNはエクアドルにおける反政府デモに関しては二つの記事を報じただけである。
このような驚くほどに大きな不均衡は他の要因、たとえば、デモの規模とか重要性によって説明することは不可能で、警備当局が行った取り締りの程度によっても説明することはできない。たった一週間の混乱の後、政府の人権擁護局によるとエクアドルでは死者数が8人にもなった。その一方、ハイチでは42人の犠牲者が出たと国連が報じている。右翼系のセバスチャン・ピニラ大統領が市民に対して文字通りの宣戦布告をしたチリでは街頭に戦車が配備され26人が死亡26,000人以上逮捕された。これとは対照的に、香港ではひとりが建物から落下して死亡さらには、70歳の老人がデモ参加者が投じたレンガに当たって死亡したけれども(これらの事故はデモが何カ月も続いた後の11月の出来事だ)、警備当局の暴力によるデモ参加者の犠牲者はゼロである。

もちろん、チリやエクアドルでのデモは香港のデモよりも遥か後になってから始まったので、記事の総数を直接比較することは賢明ではないだろう。しかしながら、そのことを配慮したとしても、不釣り合いの程度は依然として非常に大きい。エクアドルのデモが最高潮に達した期間(10314日)にニューヨークタイムズが報じた記事の数は6件で、CNN3件。これは同期間に香港について流された記事の数が33件と38件であった事実とは好対照をなすものだと言える。チリでのデモが始まって(1014日)からタイムズが報じた記事の数は14件で、CNN22件。これらの二社がその期間に香港について報じた記事の数はそれぞれ59件と92件にもなる。
ところで、ハイチにおけるデモは香港のデモよりも2倍もの長い期間続いていたが、このカリブ海の島国において多数の死者を出した反政府デモについての報道は香港のそれと比べると遥かに少なく、香港のデモに対してはハイチのそれに比べて50倍も多くの関心が寄せられた。

数値的にはその違いが非常に大きいにもかかわらず、実際には報道の不均衡はさまざまな形で控えめに扱われている。第一に、数多くのエクアドルやチリに関する記事はそれらの国における個々の出来事に焦点を当てたものではなく、単に「世界における反政府行動」という十把一絡げの記事であって、それぞれの出来事についてはたったひとつかふたつの文章で報じられるだけに終っている(たとえば、ニューヨークタイムズの10/23/19の記事 CNN11/3/19の記事)。事実、エクアドルで起こった出来事のみに関する記事としてCNNが流した記事は全部で2本だけだ(10/8/1910/13/19)。これとは対照的に、香港に関する記事のほとんどは島国の都市国家で起こった出来事のみに集中され、抗議行動については報じてはいないけれどもアジアの株式市場の下落について報じた記事、すなわち、CNNの報告(11/13/19)は香港に関する記事の総数には含められてはいない。ところで、CNNのハイチに関する記事の半数(すなわち、2/16/19の記事2/18/19の記事)はこの騒乱によって何らかの影響を被った米国市民に関するものである。

Photo-5: チリにおける反政府デモの参加者は「民主主義を求める」デモ参加者としてではなく、「暴力的な暴徒」として形容された。ニューヨークタイムズの10/19/19の記事
香港のデモ参加者はほとんど何処でも「民主化を求めるデモ参加者」として形容され(たとえば、CNN8/30/19の記事10/15/19の記事、あるいは、ニューヨークタイムズの10/15/19の記事11/21/19の記事)、チリを揺り動かした反政府デモの参加者は「反乱者」として(たとえば、CNN10/19/19の記事)、あるいは、「略奪者や放火犯」として記述された(ニューヨークタイムズの10/19/19の記事)。これと同様に、エクアドルの反政府デモの参加者による暴力は決まって誇大化されて報じられた(たとえば、 ニューヨークタイムズの10/9/19の記事CNN10/8/19の記事)。「労働組合や輸送労組の憤怒」と題するCNNの記事(10/9/19)はわれわれにこう伝えた。つまり、彼らの憤怒は「解き放たれ」、キトーでは「暴力的な抗議デモが猛威を振るい」、デモ参加者らは兵士を人質にした・・・と。

香港のデモ参加者については、たとえこれらの文言を適用することがほぼ間違いなく可能であったとしても、こういった文言が使われることは稀であった。そこいら中で起こった物的損害や、前述のように、投げられたレンガに当たって年金生活者が死亡したことに加えて、最近、デモ参加者らはもう一人の年配者に可燃性の液体を浴びせ、彼に火を放った。これは撮影されていた。彼は10日間以上も昏睡状態のままであった。
デモ参加者が矢を放ち、これが警察官の脚を突き通す出来事があったが、ニューヨークタイムズは(11/17/19の記事)これを受動態を用いて報道した。つまり、「デモ参加者を抑圧する」ための警察の猛攻に対して「活動家らが抵抗」したことにより、「警察官は脚を矢で射られた」 と、同紙は報じている。また、タイムズのリポーターはデモ参加者らが自分たちが使う「何百個、何千個もの爆弾」を作っているところを見て、その様子を報じた。それにもかかわらず、同紙は武装したデモ参加者を依然として「民主化を求める活動家」と形容し続けた。(訳注:英語表現における受動態には能動態に比べて内容をぼやかす効果があるということを念頭に置いてください。つまり、ここではニューヨークタイムズはデモ参加者に対する批判の程度を和らげる効果を期待したと言えそう。)

多分もっとも心配となるのはCNNの記事(11/17/19)であろう。掲載された映像は手作りのガスボンベのサイズの爆発物であって、かなり大きいことを除けば、これはボストンマラソンでジョハル・ツルナエフが使った爆弾とよく似ている。また、CNNはデモ参加者がすでに警察に対してこれらの爆弾を用いたという情報を受け取ったと述べている。仮に「ブラック・ライブズ・マター」や「アンティファ」が通行人を殺害し、警官を殺害し、あるいは、ツルナエフが使ったような爆弾を作ったとしても、CNN(11/22/19の記事)やニューヨークタイムズ(11/22/19の記事)の両社は、香港のデモ参加者らをそう形容して来たように、彼らを依然として「民主化を求めるデモ参加者」と形容するのであろうか?
企業メディアは香港の反政府デモの詳細については多くの詳細を隠してきた。そうすることによってデモ参加者を「民主化を求める香港市民」として大袈裟に賛美し、北京の「共産主義の支配者」と闘っているとするニューヨークタイムズの論説室が描写する非常に単純な筋書き(6/10/19の記事)を彼らは後生大事に維持し続けてきたのである。

香港に関する記事の量は意見の多様性とは反比例する。現実が示す状況は遥かにさまざまなニュアンスを持っている。しかしながら、これらのニュアンスはサンプリングした何百にも上る記事からは欠落している。香港に関しては企業メディア各社はまったく同一の歌を唄い、皆が歩調を合わせ、一心不乱になっている状況を示している。いかなる専制君主的なプロパガンダ体制にとってもこの状況は実に印象的に映るのではないだろうか。
調査活動支援: Matthew Kimball

<引用終了>



これで全文の仮訳が終了した。

すべては非常に明瞭である。この引用記事は香港における反政府デモに関する米国内の具体的な報道を取り上げて、ニューヨークタイムズやCNNがどうやって一般読者を洗脳しようとしてきたのかを具体的に述べている。恣意的に一般大衆を洗脳しようとする姿勢は長く継続され、ありとあらゆる機会が動員される。その結果、米国内の一般庶民の世界観は大手メディアが伝える報道や解説がすべてであるかのように形作られる。

そして、ヨーロッパや日本でもまったく同一内容の報道が繰り返される。なぜならば、世界中の新聞社はほとんどが三つの国際的な通信社(米国のAP、英国のロイター、フランスのAFP)が流すニュースに全面的に依存し、個々のメディアが独自の調査報道を行うことはほとんどないからだ。

好むと好まざるとにかかわらず、本投稿を1220日に当ブログで掲載した「ジャーナリストの言:ニューズウィークはOPCWのスキャンダルに関する私の記事を没にし、告訴を仄めかして私を脅迫しようとした」と併せて読んでいただくと、大手メディアが行っている情報操作の現状を非常に明瞭に理解できるのではないかと思う次第だ。



参照:

1With People in the Streets Worldwide, Media Focus Uniquely on Hong Kong: By Alan MacLeod, Dec/06/2019






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