2022年1月25日火曜日

ロシアとの戦争はどのようなものとなるか?

 

ウクライナとロシアとの間には険悪な状況が現れ、その程度は時間がたつにつれてさらに悪化している。ロシアにとってはウクライナの戦闘能力を無力化することは軍事的には容易いことだと言われている。しかし、たとえ軍事的にウクライナを惨敗させたとしても、国際政治上ではロシアは大きな非難を浴びて、孤立することが目に見えている。それでは、結局のところ、政治的にはロシアの負けである。ロシアは国際的な地位を今以上に劣化させてはならないからだ。

そして、ウクライナの背後にはNATOが居る。ウクライナに比べてロシアが感じるより大きな懸念はNATO軍との戦争であると専門家は言う。ロシアとNATOとの間に全面的な戦争が起こると、最終的にはNATO軍が壊滅の憂き目にあい、ロシア軍が勝利するだろう。これも、軍事専門家の見方だ。

ここに「ロシアとの戦争はどのようなものとなるか?」と題された最新の記事がある(注1)。巷にはこのテーマに関してはさまざまな見方があるが、この問いかけに対する答えは、もちろん、あなたが拝聴しようとする相手によって大きく相違する。まずは、お互いに異なるさまざまな見解を理解し、整理してみることが肝要であろう。

ジュネーブで111日に米ロ高官による会談が始まった。ロシア側はロシアの安全保障を保証するための米国との枠組みに関して自分たちが前もって練り上げた具体案を事前に米国側に示していた。これはロシア側からの最後通牒であると見なされている。その核心はNATOがさらに東への拡張はしないという点にある。つまり、ウクライナをNATOのメンバーには加えないという約束を米国から取り付けることだ。米国側は何らかの返答をしなければならないのであるが、ジュネーブでの米ロ高官の会談は何の成果も見ずに終った。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

***

ウェンディ・シャーマンは月曜日(111日)にジュネーブで始まるロシア高官との会談における彼女の目的は過度な自信を抱くことがもたらす対価について彼らに講義をすることにあると考えているようだ。ところが、スコット・リッターは彼女は米国やNATOおよびEUを破滅の道に招きかねないと警鐘を鳴らしている。

Photo-1:公式の会談が開始となる前に米国の国務副長官のウェンディ・シャーマンはロシアの外務副大臣のセルゲイ・リアブコフと日曜日にジュネーブで会い、ワシントン政府は「外交による純粋な進展を歓迎するであろう」と彼に伝えた。(ジュネーブでロシア側代表団)

もしもある根本的な外交交渉が最初から失敗する運命にあったとすれば、それはまさにウクライナとロシアの安全保障に関する米ロ間の話し合いのことを指している。

両者は会談の議題についてさえも同意することができない。

ロシア側の観点からは、状況は実に明白だ。つまり、「ロシア側は明白な立ち位置を携えてここ(ジュネーブ)へやって来たのである。その立ち位置にはいくつかの要素が含まれているが、それらは、私の考えでは、理解可能であり、(高い水準も含めて)明白に組み立てられている。われわれの提案から逸脱することは単純に言ってあり得ない」とロシアの外務副大臣を務めるセルゲイ・リアブコフが米国の代表団を指揮するウェンディ・シャーマン国務副長官によって開催された日曜日の夕食会の後で記者団に向かって述べた。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領はロシアの安全保障を西側が保証することに関して12月初めにジョー・バイデン米大統領に向けて要求を示していた。この要求は後にロシア側がその詳細をふたつの条約の形で書き上げた。そのひとつは米ロ間の安全保障条約であり、もうひとつはロシアとNATOとの間の安全保障の合意である。

後者はウクライナのNATOへの参加を禁止し、北大西洋軍事同盟の東方への拡大は如何なるものも排除することを意味する。また、リアブコフは、両陣営が会合を持っている間に何らかの結論を得るために米国はこれらの提案に速やかに着手するべきであると簡潔に述べた。ところが、この会合が月曜日に始まろうとしている今でさえも、米国が何らかの決断をしたようには見えない。

「会談は困難なものとなろう」とリアブコフは夕食会の後で記者たちに向けて言った。「彼らは容易い相手ではない。彼らはビジネスのように取り組むであろう。明日は時間を浪費してはならないと私は思う。」ロシアは妥協する用意があるのかと質問され、リアブコフは簡潔にこう答えた。「米国側こそが妥協する用意をするべきだ。」

米国がどうしてもやりたいと思うことは、もしもロシアがウクライナへ侵攻したら、「深刻な結果」が待ち受けていることをロシアに思い起こさせることにあるようだ。それは米国とNATOが恐れていることが身近に迫り、何万人もの兵力が関与するロシア軍の演習が最近この地域で行われたからであった。この種の脅しは、近く行われる首脳会談の枠組みを話し合うためにプーチンがかけた電話での際も含めて、バイデンはプーチンに対して何度か行っている。

さらには、リアブコフ・シャーマン会談の前夜、トニー・ブリンケン米国務長官はもしもロシアがウクライナへ侵攻したらロシアは「甚大な結果」に直面するだろうと述べ、これらの脅迫をさらにもう一度単純に繰り返した。

プーチンについて言及しながら、「彼にはふたつの道を提供したことが明らかである」と言った。「ひとつは外交と対話を通してだ。もうひとつは抑止力によってだが、もしもロシアがウクライナに対する攻勢を再開したらロシアには甚大な結果が待ち受けているだろう。われわれはプーチンがどちらの道を選ぶかについて今週試すことになる。」

歴史の教訓:

Photo-21941623日、前線へ向かうソ連軍兵士。看板:「われわれの大義は正義にある。敵を蹴散らかせ。われわれの勝利だ!」(Anatoliy Garanin .License: CC BY SA 3.0.)

ロシアの真意を読み取ろうとする時、バイデンとブリンケンは二人ともまさに唖で、愚か者であり、盲同然である。

リアブコフはロシア人にとってはすでに明白となっている事実をそれとなく言った。つまり、正真正銘な国家安全保障に関するロシア側の関心には妥協の余地はまったくない。もしも米国がロシアを個々の加盟国の安全を脅かす唯一の敵であると見なす軍事同盟における戦力の増強はロシアにとって如何に脅威であるかを理解することができないならば、1941622日の出来事が如何にして今日のロシアの心情を形作ったのか、ロシアは何故そのような状況が二度と起こることを許さないのか、どうして今回の話し合いが始まる前にすでに失敗に終わったのかについてはまったく理解できないであろう。

米国の脅威に関してはロシアはすでに回答をしている。ロシアを制裁しようとする試みは如何ななるものであってもそれはロシアと制裁国側との関係に「完全な断絶」をもたらすことになろうと。誰も歴史を専攻する学生である必要はない。ふたつの当事国の間の「完全な断絶」の後にやって来る論理的な段階は一方の国家の、あるいは、両方の国家の安全保障に対する脅威を巡る事柄で対立し、平和的な関係を再開することはできずに、戦争に走るしかない。

モスクワにおける米国務省の見栄っ張り連中には当たり障りのない言い方は見られず、むしろ、彼らは冷たく硬派な態度で事実を表明している。つまり、ロシアの要求を自己責任で無視している。最悪の事態はロシアがウクライナへ侵攻することであると米国は考えているようだ。その場合、ロシアは経済制裁を受け、軍事的脅威の下で疲弊することとなる。

ロシアが考える最悪の事態はNATOとの軍事紛争である。

一般的に言って、軍事的紛争の現状に関してもっともよく準備した側が勝利を手にする。

ロシアはこの種の可能性に関して1年以上をかけて準備して来た。戦争準備が整った10万人以上の兵力を短期間に召集する可能性を繰り返して内外に示して来た。その一方で、NATO69か月間にも及ぶ真剣な準備の結果、やっと3万人を招集することができることを示した。

戦争の形:

Photo-3:ロシア空軍のスホイSu-24(mil.ru/Wikimedia Commons)

ロシア・NATO間の紛争はどのようなものとなるのだろうか?手短に言うと、それはNATOが準備して来たものにはなりそうもない。そのような場合、NATOにとっては時間稼ぎが最強の援軍である。時間を掛けることによってロシア経済を疲弊させ、NATOにとってはロシアの通常兵器に匹敵するだけの兵力を準備することが可能となって来る。

ロシアはこのことを良く知っており、ロシア側の行動はすべてが迅速で、かつ、決定的なものとなるように計画するであろう。

もしもそういった事態になったならば、何よりもまず、ロシアがウクライナへの侵攻を決心する際には、彼らは成功裏に実行するために必要な十分な資源を当てがい、十分に考え抜いた行動計画を実践することであろう。ロシアはウクライナにおいて軍事的な間違いを仕出かすことはないだろう。そんな間違いをしたならば、アフガニスタンやイラクにおいて米軍が経験したように泥沼に引き込まれる可能性があるからだ。ロシアはそれよりも以前の米国の軍事行動(たとえば、砂漠の嵐作戦や第一次湾岸戦争)を研究し、そういった紛争から得た教訓をしっかりと心に刻んでいる。

敵国を破壊するのにはその国の領土を占領する必要はない。敵国の領土を占領する代わりに、その国の国力を壊滅するような戦略的な空爆こそが取り得る最高の作戦だ。つまり、それが経済、政治、軍事上の能力であろうと、あるいは、それらのすべてであろうとも、敵国の軍隊を潰すべく計画された陸上作戦と組み合わせて実施する。

ミサイルによる精密な攻撃に裏打ちされているロシアは圧倒的な軍事的優位性を持っていることからも、ウクライナに対する戦略的な空爆作戦を行えば、米国が1991年にイラクで1か月以上をかけて達成した事柄を数日の内にも達成することができるであろう。

地上では、ウクライナ軍の壊滅は保証付きだ。単純に言って、ウクライナ軍は大規模な地上戦に向けて装備し、訓練して来たわけではない。同軍は順次に壊滅され、ロシア軍はウクライナの守備軍を殺害することよりもウクライナ兵士の捕虜の取扱いにより多くの時間を費やすことになろう。

しかしながら、ウクライナに対するロシア軍の作戦が大規模なNATOとの紛争において成功するには、ふたつの事柄がおこらなければならない。つまり、ウクライナは現代的な国民国家としての存在を失うこと、ならびに、ウクライナ軍の壊滅は一方的で急速に起こることのふたつだ。もしもロシアがこれらのふたつの事柄を達成することができるならば、ロシアはNATOを相手にした総合戦略上の立ち位置を確立する上で次の段階へ移行する。つまり、威嚇へと進むことが可能となる。

米国、NATOEUおよびG7はいずれもが「前代未聞の制裁」を約束したが、制裁は相手がそれを気にする時にだけその効力を発揮する。西側との関係を完全に破棄することによって、ロシアはもはや西側からの制裁を気に掛けることはないであろう。さらには、たとえSWIFTによる国際決済から除外されたとしても、ロシアはヨーロッパがロシアからのエネルギー無しに耐えることができるよりもさらに長く生き残れるという現実は極めて単純な認識である。ロシアと西側との関係の断絶はヨーロッパの顧客に対するロシア産の天然ガスや原油の供給は禁輸となることを意味する。

ヨーロッパには代替案がない。ヨーロッパは苦難に喘ぐが、ヨーロッパはかっての民主主義国家で構成されていることから、政治家が償うことになる。ロシアとの対決に関して盲目的に米国に追従して来た政治家たちは、今や、誰もがナチを崇拝する連中やヨーロッパの他の国々とは共通点を何も持たず、全面的に腐敗している国家(ウクライナ)のためにいったいどうしてわれわれが経済的自殺をすることになったのかに関して有権者に対して説明をしなければならない。会話は極めて短かく終わるであろう。

NATOの解決策:

Photo-3:ドイツにおけるNATO軍の演習。(Spc. Ashley Webster/Wikimedia Commons)

もしもロシアがウクライナへ侵攻した後に米国がロシアの西方の前線に沿ってNATO軍を構築しようと試みるならば、ロシアはヨーロッパにおける既成事実を今や「ウクライナ・モデル」として知られているであろう形で再度提示することであろう。手短かに言えば、バルト諸国やポーランド、フィンランドがNATOへの参加を試みた場合、ロシアはウクライナに対する対応とまったく同じ対応をこれらの国々にも適用することであろう。

また、米国が十分な軍事力を蓄えるのに十分な時間を費やすまでロシアが待ってくれることなんてないだろう。ロシアは攻撃対象となる国家の経済機能を劣化させる空爆との組み合わせによって対抗しようとする国を単純に破壊するであろうし、陸上作戦は戦争遂行能力を削ぐために計画される。ロシアはNATO 圏を長い期間にわたって占領する必要はない。ただロシアとの国境にNATOが集結した軍事力を破壊するだけで事は足りるのだ。

ここには思わぬ展開が待ち受けている。それは核兵器を採用するには至らないという点だ。このような結果を予防することについてNATO は何をすることも出来ない。軍事的には、NATOは以前の自分たちの姿の影でしかない。かっては偉大なヨーロッパの軍隊であったが、彼らはバルト諸国やポーランドにおいて大隊規模の「戦闘グループ」を創立するために彼ら自身の戦闘組織からその一部を充当しなければならなかった。その一方で、ロシアは二つの軍隊サイズの組織を再構成した。つまり、第一防衛タンク軍団と第二十混成兵器軍団であって、これらは冷戦時代から敵地の奥深くにまで軍事行動を展開することを専門とする組織である。

たとえラスベガスであってさえもこのような状況に勝ち目を与えてはくれないであろう。

シャーマンはヨーロッパの運命を手中に握りながら、ジュネーブでリアブコフと対峙する。悲しいことには、彼女はこの機会をそのようには見てはいない。バイデンやブリンケンおよび米国の今日の国家安全保障の状況にたむろすロシア恐怖症の連中のお陰で、シャーマンは単に外交上の失敗の結果をロシア側に伝えるためにそこに居ると考えている。脅かしを与えるために。単なる言葉尻だけで。

シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中が理解しなければならないことはロシアはこういった結末をすでに織り込み済みであって、それらの結末を受け止めようとしていることは明白なのだ。そして、その結末に対応する。行動で。

シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中はいったいこのことをじっくりと考え抜いたのであろうかと誰もが不振に思うであろう。可能性としては、彼らは何も考えもしなかった。ヨーロッパにとってこのような結末は実に悲惨なものとなる。

著者のプロフィール:スコット・リッターは海兵隊の元諜報専門将校であって、軍縮条約を実行する旧ソ連邦において勤務し、砂漠の嵐作戦ではペルシャ湾で仕事をし、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を監督した。

注:ここに掲載されている諸々の見解は全面的に著者のものであって、それらはコンソーシアムニュースの見解を反映すものあるかも知れないし、まったく反映したものではないかも知れません。

***

これでこの記事の仮訳は終了した。

米英はウクライナ政府に対する武器の供給を強化している模様だ。つまり、武器を供給することによってウクライナ政府に対して対ロ戦争を煽っているのである。しかも、NATO圏全体を見ると、バルト三国を経由した供給ルートもあり、NATO加盟国が米国製の武器をウクライナへ供与することを米国は容認したとも報じられている。今まで何度も見て来た典型的な姿がここに観察されるのである。

ロシアはウクライナへの侵攻はしないとかねてから強調して来た。しかしながら、ウクライナの東部地域ではロシア語を日常語とする同胞が2014年のクーデターによって設立されたネオナチのウクライナ傀儡政権によって弾圧され、死者が多数出ている現実を見ると、ロシア国内の世論は最終的には同胞の救済という正義に駆られるのではないか。そういった世論が強くなると、モスクワ政府は今までの文言を繰り返すことはできなくなるだろう。

ヨーロッパ経済を率いているドイツにとっては安価なエネルギー源であるロシア産天然ガスを確保することは純然たる経済上の論理であって、高価な米国産の天然ガスをはるばると輸入することは論外であると思う。自ら進んで自国の国際競争力を劣化させる必要はないからだ。NATO軍がロシアとの交戦を始めたら、ロシア産天然ガスの供給は当然ストップする。ヨーロッパの冬は厳しいが、寒い冬を過ごさなければならない。経済は停滞する。これはヨーロッパの住民の大多数にとってはあり得ないカードだ。

米国の戦争屋や大手メディアは本当にロシアとの戦争を願っているのであろうか。現実には対ロ戦争を回避する意見も少なくはなく、決して一枚岩ではないことが観察される。ましてや米国の対空防衛システムでは対応ができない極超音速ミサイルを実戦配備しているロシアを相手に戦争を始めることは素人の私には自殺的にさえ見える。今まで米軍にとってはお家芸であった空母軍団は今や水面に浮かぶアヒル同然であるとさえ言われている程だ。武装兵力のバランスが最近均衡を失い、優位性の所在は正反対になったのである。そんな現実を見ると、米軍の将官らはロシアとの交戦を本当に望んでいるのであろうか?

意思決定者らの間にある総合的なバランスはいったいどちらに傾くのか?私にはさっぱり分からない。ひとたび戦争が起こると、最大の犠牲者は一般庶民であることは歴史を見るまでもなく明らかだ。ロシア・NATO戦争が起こらないことを願うばかりである。

ここまでは昨日書いた。

一夜明けて、今日は興味深い展開を目にした。昨日(124日)の報道によると、米英両国の政府はウクライナに駐在する政府職員の家族はウクライナから速やかに出国するようにと推奨した。報道の見出しによると、これは命令である。この推奨内容はウクライナ政府が数日前にロシアによる攻撃が真近に迫っているとして大声を張り上げたことを受けたもののようだ。そして、本日(125日)、それとは打って変わって、EUの外交官トップであるジョセフ・ボレルの言葉として次のような内容が報じられている。「もちろん、何もない。攻撃が迫っているという懸念を強めるような情報が何かあるとは私には思えない。」

やはり、ウクライナを巡ってのロシアとの武力紛争は起こしたくはないということがEU側の本音なのではないだろうか。


参照:

1What War With Russia Would Look Like: By Scott Ritter, Consortium News, Jan/10/2022

 



20 件のコメント:

  1. 登録読者のИ.Симомураです.興味深い記事の翻訳に感謝申し上げます.Consortium Newsは,これまで知りませんでした.同氏の他の記事を読みましたが,どれも非常にためになります.これまで私は,ロシアが欧州向けガスと石油の輸出を停止することはないだろう,と考えておりました.しかし,本物の戦争をする前に,この禁輸措置は採られるだろう,と考えるに至っております.ドイツはロシアの本気度に気が付いたのでしょう.

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  2. シモムラさま
    コメントをお寄せいただき、有難うございます。
    今やロシアの本気度についてはドイツには何の疑いもないのではないでしょうか。結局、ドイツが米国の分断統治によるヨーロッパ支配に屈し、主権を失うと、EU市民は今までの栄光については歴史書の中でしか味わえない状況に見舞われることになります。
    EUでは、特に独仏は急速に米国離れを示す行動をとり、ロシアとの対話を呼びかけ始めていますよね。この現状は米国の国内政治ならびに外交が混迷を深めていることとも関連しているように思えます。もう米国には頼ってはいられないという明確な判断があるのでしょう。ウクライナをめぐるロシアとNATOとの武力対決を避けるための努力はあらゆる手を尽くして継続して欲しいものです。ヨーロッパを石器時代に戻さないでもらいたい!

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    1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  3. 始発の音声形式の再構築(reconstruction)過程を,長々と書いてしまい,読み返したところ,自慢たらたらのように見えます.気恥ずかしく削除致しました.

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    1. シモムラさま
      とんでもないです。遠慮なく投稿していただきたいと思います。私を含めて、われわれ門外漢にとっては投稿していただく内容は刺激的です。すごく興味があります。投稿がないとすれば、他にはアクセスの機会がなくて、分け入ろうとしても何処から始めるのか躊躇するような極めて専門性が高い野ですから・・・次回の投稿を楽しみにしております。

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    2. お言葉に甘えます.古代日本語では濁音の直前に鼻音がありました.概略mba-mbi-mbu-mbo(古代日本語にはエ段の母音は無かった),nga-ngi-ngu-ngo,nza-nzi-nzu-nzo.今日では”ンガ”一つがその面影を留めている助詞ですね.”昆布”は音読みのkombuであり,mはbに同化しbbとなり,二つは融合し,最終的にkobuとなった.これをkomurにあてはめると,konbur→kombur→kommur→komurと進みます.一方komusはkonbursek~konbursakという形式から,konbursek→ kombursek→ kommursek→ komursek→ komutsek→ komussek→ komusek→ komuseh komuse→ komus(komuseのeは無声音)と進みます.私は始発形式をqonbursukie qon "sheep"+bur "tendon fiber"+sukie "string"と再構しました.語根は全部アルタイ諸語からのものです.紀元前一世紀の漢字表記資料があります.渾不思konbusiと虎撥思兒kobasirの二形式からkonbusirとkonbarsirを再構できます.古代朝鮮語でsirは絃や糸を意味します.私は始発形をkonbursirと推測しました.思いがけない収穫もありました.アイヌの語源楽器トンコリの語源を解明できたのです.松浦武四郎の『北蝦夷余誌』には”トンクル”と記録されており,ton "gut" とkur "stringed instrument"のアルタイ語に対応します.tonkoriのiはアイヌ語です.アイヌ語の名詞には概念形と分譲可能形というものがあり,後者の場合,語末にi或いは hiを後続させるのです.意味は大体”その”というところです.ところでルーマニア語のqobzaはどうなるでしょうか.qonbursak → qonburzak→ qombuzzak→ qobbuzak→ qobuzak→ qobzak→ qobzah→ qobzaだと思います.uは急に脱落するのではなく,一度無声化(声帯振動が無い囁き声のu)してから脱落します.日本語でもarimasuのuは無声音ですね.

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  4. 前便に修正追加があります.… konbur→kombur→kommur→komurと進みます.一方komusはkonbursek~konbursakという形式から,konbursek→ kombursek→ kommursek→ komursek→ komutsek→ komussek→ komusek→ komuseh→ komuse→ komus(komuseのeは無声音)と進みます.私は始発形式をqonbursukie qon "sheep"+bur "tendon fiber"+sukie "string"と再構しました.語根は全部アルタイ諸語からのものです.紀元前一世紀の漢字表記資料があります.渾不思konbusiと虎撥思兒kobasirと胡不兒koburの三形式からkonbursirとkonbarsirを再構できます.古代朝鮮語でsirは絃や糸を意味します.私は始発形をkonbursirと推測しました.思いがけない収穫もありました.アイヌの五弦の楽器トンコリの語源を解明できたのです.松浦武四郎の『北蝦夷余誌』には”トンクル”と記録されており,ton "gut" とkur "stringed instrument(文語蒙古語)"のアルタイ語に対応します.tonkoriのiはアイヌ語です.アイヌ語の名詞には概念形と分譲可能形というものがあり,後者の場合,語末にi或いは hiを後続させるのです.意味は大体”その”というところです.ところでルーマニア語のqobzaはどうなるでしょうか.qonbursak → qonburzak(sが有声音rに同化してzになる)→ qombuzzak→ qobbuzak(融合してz一音になる)→ qobuzak→ qobzak(aが無声音化した)→ qobzah(kが摩擦音化した)→ qobza(摩擦音化した喉奥調音のhが脱落した)だと思います.uは急に脱落するのではなく,一度無声化(声帯振動が無い囁き声のu)してから脱落します.日本語でもarimasuのuは無声音ですね.
    拙稿が公開されてから,主に海外の研究者からメイルが届きます.皆様百数十例の音標文字表記の例が,ただ一つのqonbursukieに,二十ほどの漢字表記の例がやはりただ一つのqonbursirに収斂することに驚いておりました.再構の手続きの厳密さを教えてくださったのは,ドイツ人の当時助教授でした.またレニングラードの研究所では,マヤ文字を解読しておられたЮрий Кнорозов氏に,日本人は小学校時代から漢字の音読み訓読みの習読に入ることを教えたところ,早速ソ連出版の漢字辞典を取り出し,発音してくれと頼まれたことを懐かしく思い出します.彼はソ連崩壊後の1999年病院の廊下の簡易ベッドの上で逝去された.

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    1. シモムラさま
      コメントをお寄せいただき、有難うございます。
      日本語はアルタイ語族として分類されますが、同じ語族の中では言葉(発音)の変化はほぼ同じような変化を辿るということでしょうか。他の語族から入って来た言葉も同じような変化をするということでしょうか。たとえば、正倉院に保管されている琵琶はイランから伝わって来たと言われています。ペルシャ語による琵琶の楽器名から日本語の琵琶になるまでの変化ではどこかで語族の壁を通り越すことになりますよね。それとも、依然としてペルシャ語源の音を留めているのでしょうか。ふと、そんな疑問が浮かんで参りました。

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  5. ご返信ありがとうございます.前便で記述した音声変化は,語族の違いを超えて適用される,非常に一般性の高い変化規則です.それに対して日本語に見られる促音便は,大変個別的な変化規則です.樹木の”木”の発音は長いイ母音をもつkiiであるとされています.紀伊国屋書店の”紀伊”にそれが表れていますね.秋田方言では薪を伐採する山のことをキッキリヤマkikkiriyamaと促音節にして発音します.キーキリヤマkiikiriyamaの語頭から二番目のイ母音を促音で代用したものなのです.日本語の促音便は,漢語の入声(にっしょう)語末の破裂をおこさないp-t-kの発音が元になったと解されております.日本語の系統はまだ未解決です.確かに単語配列規則(統語規則)はアルタイ語のものとほぼ同じです.例えば,蒙和辞典と和蒙辞典を使い,日本語の語順に蒙古語の単語を並べると相手に通じます.しかし言語の系統の近さは,音韻の類似に基づくものとされております.音声は如何様にも並べる(発音する)ことが可能であるのに,それらが規則的に似ているならば,その祖先はおなじであったと考えることは極めて自然ですね.Sir William Jonesはインドの古典語サンスクリット語と古ゲルマン語の類似性を指摘し,両者は遥か昔同源であったと主張しました.これを切っ掛けにドイツで比較言語学が生まれました.”阿弥陀amida”のaは英語のアナーキズムanarchismの否定の意味をもつaに対応し,midaはメートルmetreに対応します.”阿弥陀”はサンスクリットの発音で,その意味は”無量infinity”というものです.リトアニア語は欧州の言語の中で,最もサンスクリットに似ている言語であると言われています.何年か前インドは弾道ミサイルを開発し,それにエゲニegeni”火”と名付けました.露語のアゴーニагонь”火”,英語のイグナイトignite”着火する”と同根であることが分かります.欧州の音声学はこのサンスクリットの音声学をもとにしています.日本語の五十音図にもそれが示されております.例えば,ア段のアカサタナハマ,古代日本語の発音ではa-ka-tsa-ta-na-pa-maはa喉頭-ka軟口蓋-tsa舌先上歯茎-ta舌先上歯茎-na舌先上歯茎-pa両唇-ma両唇というふうに,声道の解剖学的順序に配列されています.日本語の系統について,アイヌ語と比較されたことがあります.”手”はtekと発音されます.しかし,"手の(所有形)”はタta(eg.タナゴコロtanagokoro)と変化します.アイヌ語のtekは変化しません.もしもtakで”手の”意味をもつならば話は別になりますが.公開論文中に”不”字の発音[pʰī]ピーを,1. 滂ポーの語頭子音[pʰ]; 2. 脂シーの母音[i]; 3. 平ピーのイーのアクセント[ī]; 4. 不の字の否定の意味'не’と分析しました.語頭子音pʰが母音īから切断されてますね.語頭子音pʰが母音īから反り返ったと言い換えてもよいでしょう.中国語音韻学では,この子音と母音の分離方法を「反切」と呼ぶのです.Вот всё за сегодня

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  6. シモムラさま
    「音声変化が語族の違いを超えて適用され、その変化規則は非常に一般性が高い」とのこと、実に興味深いですね。つまり、それは誰もが持っている語族の違いには関係のない身体構造、あるいは、解剖学的な条件によって支配されているということでしょうか?さまざまな要因が存在するとは思いますが、素人の私はとんでもないジャングルへ踏み込んでしまい、今自分が何処に居るのかさえもまったく掴めないでいるような印象です。今日もいい一日を!

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  7. お考えの通りです.唇に始まり,上の歯,歯茎,硬口蓋,口蓋垂,咽頭壁,最終端である声帯までの解剖学的箇所(調音点と呼びます)に,舌体の様々な部分(舌先-舌面-舌奥-舌根)を近づけたり,接触させたりして,様々な子音を生み出します.その時,肉体的に容易な運動が行われます(調音運動の経済性と呼びます).この経済性が進行同化,逆行同化,有声化,無声化,融合,異化,音位置転倒(あらたしa-ra-ta-siがあたらしa-ta-ra-siになる変化でアルタイ語に多い),同時調音(英語でcaughtの語頭子音を発音するとき,両唇が丸く突きでますね.kwという音なのですが,これが同時調音による子音です),等々変化が起こるのです.一般性の高い音現象を扱う音声学は「一般音声学」(general phonetics)と呼ばれます.昔チンパンジーに言葉を教える実験がなされましたが,一般音声学の視点から考えたとき,チンパンジーの唇は皮膚と同じであるので両唇閉鎖音p-b-mや両唇摩擦音(日本語のフφu)を作ることができないのです.ところでネアンデルタール人の母音数はクロマニョン人の母音数より少なかったと言われております.喉頭は軟骨でできているため化石として残りませんが,舌骨だけは硬骨なので化石として残ります.その解剖学的特徴から舌体と咽頭腔の形状が推定でき,母音の数をも推定可能です.母音の数が多いほど,言語情報量が増大します.旧人が衰退したのは新人の話す言葉の流暢さに負けたからでしょう.

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    1. シモムラさま
      「調音運動の経済性」という言葉は初めて聞く専門用語ですが、言われてみますと、身の回りには方言が他の地域の言葉や標準語と微妙に異なっていること、時代の流れによって変化していること、等、経済性みたいなものの存在が感じられますよね。稚拙な形で私の意識にあったとしても、それが学問として体系化されていることに目を覚まされる思いでした。大いに興味をそそられました。有難うございます!

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    2. 英語のguarantとwarrantは古代においては同源で仮構形*gwarantであると思います.gwという同時調音が”split 割れ”を起こして,同一の意味の二語になったのです.フランスのGaulゴール地方は英国ではWalesウェールズも同様です.フランス人の名前Guillaumeギョームはイギリスの人名Williamウイリアムが相当します.大陸ケルト語ではgが採用され,島ケルト語ではwが採用されたのです.スラブ語でもgwのスプリットは起こりました.波語で”ポーランドの”の語はpolskiegoポリスキエゴですが露語ではпольскогоでポーリスカヴァpol'skavaとなりますね.言語学ではLabial-velar theory”唇音軟口蓋音理論”と呼ばれる言語現象です.

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    3. シモムラさま
      WilliamとGuillaumeとが同根であり、さらには、スペイン語ではGuillermoとなりますよね。Williamの短縮形はBillとなりますが、これはWとBとは発音の機構としては近いということでしょうか?いわゆる経済性が働いているのでしょうか?人名の短縮形については何時も疑問に感じていたことですが、Robertの短縮形はなぜBobとなるのでしょうか。経済性とはまったく違う要素が絡んでいるのでしょうかね?下らない議論ですが・・・

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  8. 大学二年生のとき,米国人のRobert君が北海道の実家で一月過ごしました.兵役忌避者だったと思います.オホーツク地方では組織的に国後島に送り届ける漁家がありました.見返りはソ連領海内での操業です.ソ連からスウェーデンに行ったようです.彼ボビーが行ったかどうかは知りません.Bobの愛称その時も気になりました.確かにロブよりもボブの方が発音しやすいですね.Billもそうかも知れません.JoeはJosephですかね.大統領を愛称形で呼んでいるのでしょうか.因みに,ユーゴのチトー大統領は,口癖”Ti to” (Ты то”君はそれをやれ”)からと言われております.

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  9. シモムラさま
    チトー大統領のエピソード、面白いですね。これはジョークから始まったのでしょうか?
    ルーマニアの独裁者として有名であったチャウシェスク大統領についても非常に面白いものがあります。ある日、チャウシェスク大統領は工場視察にやって来ました。ビスケットを生産する工場です。流れ作業の終りの方では無数のビスケットが流れています。部外者にとっては目を見張らせるような光景です。大統領が思わず、「ビスクイッツィ!」と言ってしまいました。周囲に居る労働者がそれを聞いて皆が「ビスクイム!」と唱和したのです。
    「ビスクイッツィ」は本来は名詞の複数形でしかないのですが、その「ツィ」は動詞の複数二人称の活用形にも相当します。ちょっと語尾を上げると、質問の形となります。「ビスクイム」という言葉は無いのですが、その「イム」は複数一人称の活用形を模したものです。
    大統領:「ビスクイッツィ?」
    労働者:「ビスクイム!」
    チャウシェスク大統領の演説に合わせて延々と拍手を続けたり、「ルーマニア共産党、万歳!」と唱和することを強要されていた当時の労働者たち。彼らの間でこれはあっという間に広まったそうです。皆が喝采したジョークだったそうです。
    独裁者に関するジョーク、実に秀逸ですよね。脱帽です。

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  10. ロシア語でビスケットはбисквит Бисквим!!とすると,これもなんとなく”我らは何々するぞ”に聞こえますね.実に面白い.ところで対格補語(目的語のこと)を要求する動詞は、その補語(目的語)の素性が男性活動体であれば生格になることを要求し,女性活動体であれば,主格になることを要求するでしょう:Иван Петра любит. イヴァンはピョートルを愛する.Пётр Нинулюбит.ピョートルはニーナを愛する.というふうに.古い時代,男性活動体名詞の対格形は主格形と同じだったのです:Иван Петер любит.というふうに.ロシア語では語順は自由なので,「イヴァンはピョートルを愛する」にも「イヴァンをピョートルは愛する」にも解されます.この曖昧性(二重解釈)を避ける工夫として,男性活動体名詞の対格形のみを生格形にしたのです.私は大学では英語文法とロシア語文法を教えてきましたが,進入生からこの種の変則規則の成立を教えてきました.前に解説したLabial-velar theoryも同様に説明しました.このような背景を教えられると,文法を学習者は効率よく覚えてくれます.Ti toはジョークでしょうね.

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    1. シモムラさま
      曖昧さを避けるために文法が工夫され、厳密に意思を伝えられるようにした時期というのは案外最近だったということでしょうか。でも、そういった歴史的背景を知ると、文法を学ぶ学生たちにとっては忘れようもないほど確かな記憶となったことでしょうね。学生たちのためにいろいろと工夫を凝らしておられたお姿を、今、想像しています。

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  11. 当時ロシア人教師の同僚がおりました.ロシア共産党の党員で,「党員集会で演説者に誰かが拍手を始めると,誰がそれを止めるかが気になってならなかった」と言っておりました.家内はポーランド人ですが,このようなロシア人をホモソヴィエトクスhomo sovietcusと呼んでいました.

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    1. そのロシア人の同僚の方が言った「誰が拍手を止めるか気になってならなかった」というのはその最中の心理描写としてよく分かります。お互いに誰かが、特に、上層部の誰かが止めるまでは延々と続いていましたね。脇から見ていても、非常に冗長そのもの。そういった特性を持った人たちをhomo sovietcusと命名した奥様に乾杯です!

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