3月14日の投稿で「ロシア側は極超音速ミサイルを有しており、西側の対空防衛システムはこれに対応できない」と簡単に記述したが、これについてもっと詳しい情報を探ってみよう。
丁度、ここに「アヴァンギャルド ― 米ミサイル防衛システムを使い物にならなくしたとプーチンが豪語する極超音速ミサイル」と題された最新の記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
***
水曜日(3月13日)のロシアのメディアとのインタビューで、ロシアの大統領は同国の核の三本柱は他のどの国よりも「近代的」であると断言し、モスクワはその国家としての地位が脅かされない限りはそのような恐ろしい兵器を決して使用しないと繰り返して述べた。
ロシアが開発した核搭載可能な極超音速滑空体「アヴァギャルド」はミサイル防衛システム構築のために米国が行った巨額の投資を無意味にしたとウラジーミル・プーチン大統領は公に述べた。
プーチン大統領に対する「ロシア・セヴォードニャ」のドミトリー・キセレフ事務局長のインタビューの全文はこちらからご覧いただきたい。
「よく知られている米国のミサイル防衛にはいったいどれだけの費用がかかったのかを計算すると、これらのミサイル防衛を克服するためにわれわれが所有する主要な構成要素のひとつは大陸間滑空装置を備えた大陸間弾道ミサイルであるアヴァンギャルドだ。まあ、予算を比較することは必ずしもできそうにはないが、基本的には、われわれは連中がやったこと、つまり、連中がこのミサイル防衛システムに投資したことのすべてを無にした」と、プーチンはスプートニクの親会社であるメディア・グループのロシア・セヴォ―ドニャのドミトリー・キセレフ会長に語り、米防衛産業の気前の良さと莫大な浪費に言及した。
プーチン大統領によると、アヴァンギャルドの開発経験はロシアが戦略兵器の分野で堅持し続けるべき道を示しているという。
アヴァンギャルドとはいったい何か?:
2018年にプーチン大統領がロシアの国会議員に向けた演説で初めて発表され、2019年後半に就役したアヴァンギャルドは、既存の、ならびに、将来のすべてのミサイル防衛システムを突破するように設計されており、機動性が高く、超高速で、核搭載可能な極超音速滑空体である。
重量級のR-36およびRS-28サルマト大陸間弾道ミサイルに搭載されて、軌道に投入され、ミサイルの弾頭である多重再突入機(MIRV)の一部として展開されるアヴァンギャルドは近宇宙空間では最大マッハ27(32,200
km/時)の速度まで加速でき、降下中は大気抵抗によって推定でマッハ15-20(18,500-23,000
km/時)まで低下する。
滑空機の独立航続距離は6,000km以上で、爆発力は0.8〜2メガトンと報告されている(訳注:広島や長崎へ投下された原爆の爆発力はTNT火薬換算で20~22キロトン相当であるから、約40~100倍の威力がある。2019年12月から実戦配備されている)。また、通常兵器モードでも利用可能で、ターゲットを攻撃する高速によって生成される巨大な運動エネルギーを活用して、さまざまな戦略的目標を破壊することができる。
機動性と速度に加えて、飛行特性、特に摂氏2,000度Cまでの高温度に耐えられる本ミサイルの能力はアヴァンギャルドに対する防御を本質的に不可能にしているもう一つの要因である。
「アヴァンギャルドは(飛行中は)実質的にプラズマで覆われる。プラズマは電磁波を吸収することから、この極超音速滑空体はレーダーからは見えない。高い運動エネルギーを持つ結果として、アヴァンギャルドは核兵器を使用しないでも標的を破壊することができる。これはユニークなツールであって、今日まで世界の他のどの国もそのようなものを生み出してはいない」と、軍事史家であり、国防評論家でもあり、ミサイルおよび防空の専門家であるユーリ・クヌートフは、最近、スプートニクに語った。
打ち上げ用のサルマト・ミサイルは15,200kmから18,000kmの航続距離を有することから、アヴァンギャルドは地球上のあらゆる地点を攻撃することができる。
1発のサルマト・ミサイルには最大で24個のアヴァンギャルドを搭載でき、他のMIRVや、敵のミサイル防衛を欺いて分散させるように設計されたダミー弾頭を搭載することも可能。
アヴァンギャルドはロシアの兵器庫に待機する6種の新型戦略兵器のひとつであり、たとえ敵が核攻撃や通常攻撃でロシアの不意を突いたとしても、これらの兵器は敵の戦争計画立案者が侵略を開始する前に考え直さざるを得ないほど厳しい対応を保証するように設計されている。
ロシアのNPO法人「マシノストロイェニア・ロケット設計局」がアヴァンギャルドの開発を主導した。その伝説的な名誉総裁であり、デザイナーでもあるゲルベルト・エフレモフを称賛したプーチン大統領は、彼の2020年の誕生日に、アヴァンギャルドの製作におけるマシノストロイェニアの成功を1949年にソ連が初めて核爆弾を製造したことになぞらえた程である。
エフレモフの指導の下でNPOのマシノストロイェニアは1980年代にアヴァンギャルド計画の前身を創設し、ロナルド・レーガンの「スター・ウォーズ」ミサイル防衛構想への直接的な対応として1987年に「プロジェクト4202」として知られる極秘プロジェクト、後には「アルバトロス」というコードネームの下で開発が承認された。この計画はワシントンとの関係が改善した1990年代初頭に、そして、その後はソビエト連邦の崩壊に伴う財政難のために保留となった。
2000年代初頭、米国が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約から一方的に離脱し、ヨーロッパにミサイル防衛網を配備し始めた後、ロシアは独自のミサイル防衛プロジェクトを再開した。
「2002年に米国がABM条約から離脱したことで、ロシアは極超音速兵器の開発に着手せざるを得なくなった」と、プーチン大統領はエフレモフとの会話で回想している。「われわれは米国の戦略ミサイル防衛システムの配備に対応して、これらの兵器を作らなければならなかった。同防衛システムはわれわれの核の可能性全体を無力化し、時代遅れにすることさえできたであろう・・・現代ロシアの歴史上初めて、ロシアは最も近代的なタイプの兵器を保有している。その威力、速度、そして、非常に重要なこととしてはそれ以前に存在し、現在も存在するすべてのものと比較しても、精度の点で遥かに優れている」とプーチンは述べている。
***
これで全文の仮訳が終了した。
極超音速ミサイルの開発にロシアが成功したという事実は確かに驚くべき成果である。だが、歴史的背景を考えると冷戦下にあった当時の米ソ両国の思考や行動は実に興味深い。
米国は常にソ連に対して軍事的脅威を与え続けてきた。そして、ソ連は常に米国からの脅威に反応し続けてきた。この引用記事が報じているように、ロナルド・レーガン米大統領のスターウオーズミサイル防衛構想に反応して、ソ連はアヴァンギャルド・プロジェクトを立ち上げた。2000年代初頭、米国がABM条約から一方的に離脱し、欧州にミサイル防衛網を配備し始めた後、ロシアは独自のミサイル防衛プロジェクトを再開した。
しかしながら、米国が旧ソ連に対して一人勝ちしたとして有頂天になって浮かれている間(1990年代以降)にロシア側は次世代戦略兵器の開発に注力した。それは1990年代にイエルツィン政権の下で米国の経済専門家たちの手でロシア経済が食い物にされるという苦い経験がロシアの政治家を目覚めさせたからであろう。西側の資本家にロシアを売って、巨万の富を自分のポケットに収めようとした数多くの新興財閥たちはロシアから追放された。
核を搭載することができる極超音速ミサイルをロシアが実戦配備したことによって米ロ間の軍事バランスは崩れた。べいこくにとっては一方的に不利になった。
だが、自分たちが相対的に弱体化したという米国を取り巻く現実は、ある意味で、新しい脅威を招く可能性が出て来た。一部の専門家によると、自暴自棄になった米国の戦争屋は自分たちが所有する核兵器を最後の頼りとするのではないかという心理的側面を新たな脅威として取り上げているのである。極めて不気味な洞察である。
参照:
注1:Avangard: Hypersonic Glide Vehicle Putin Credits With
‘Nullifying’ US Missile Defenses: By Ilya Tsukanov, Sputnik, Mar/14/2024
0 件のコメント:
コメントを投稿