2011年2月8日火曜日

生命を構成する基本物質は思いがけない場所で生成されていたのかも

 
Dec/15/2010

[訳注:この文書は20101215日に米国航空宇宙局(NASA)のゴダード飛行センターのニュースとしてNASAのウェブサイトに掲載された記事「Building Blocks of Life Created in "Impossible" Place(http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/releases/2010/10-111.html)2010/10-111.htmlの仮訳です。なお、和訳に際しては正確さを心がけてはいますが、もし訳文に疑義が感じられた場合は原文をご参照ください。]


<引用開始>




この写真はNASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影したものである。撮影された物体は当初彗星であると考えられていた。しかし、これは小惑星同士の衝突ではないかと推測されている。挿入画に示されている詳細を観察すると、非常に複雑な構造を呈しており、この物体は彗星ではなく、小銃弾の速度の5倍にも相当するような高速度(4.8キロメートル/秒)で移動していた小惑星同士が衝突したものであると考えられている。小惑星帯の物体はお互いに衝突を繰り返しながらだんだん損耗していくものだと天文学者たちは長い間推測していたが、衝突そのものを観察する機会はなかった。写真に見られる線状の構造は塵や小石から成っており、直径が138メートルの中心部から最近放出されたものであると推測される。幾つもの線状構造が太陽からの放射圧によって後方に流され、真っ直ぐに伸びた塵状の帯となっている。線状構造の部分には塵状物質で構成された小さな塊状のものも含まれ、これらの塊は線状構造と一緒に移動しているが、これらは衝突する前には見ることもなかった小惑星に由来したものだ。この「衝突に由来する」という見方は、地上の望遠鏡を用いて記録されたスペクトルではガスの存在が観察されてはいないので、この推測とよく一致する。[訳注:通常、彗星はガスを放出しているので、その点が小惑星の場合とは異なる。] ハッブル望遠鏡による20101月の観察の時点では、この物体は太陽から約3億キロメートルの距離、地球からは14千万キロメートルの距離にあった。
提供: NASA(アメリカ航空宇宙局)ESA(欧州宇宙機関)およびD. Jewitt (カリフォルニア大学ロサンゼルス校)

[メリーランド州グリーンベルト市] NASAの支援を受けた研究者たちが誰も予想することがなかった隕石から生命を構成する基本物質を発見した。

「この隕石はふたつの小惑星が衝突した時に生成されたものだ」と、メリーランド州のグリーンベルト市にあるNASAゴダード宇宙飛行センターのダニエル・グラヴィン博士は言う。「衝突時の衝撃によって2,000F1,093度C)以上にも熱せられ、アミノ酸のような複雑な有機物は破壊されてしまうような温度に到達したのだが、それでも我々はアミノ酸を発見することができた。」グラヴィン博士は、1215日発行の隕石学の専門誌、Meteoritics and Planetary Scienceに掲載される論文の筆頭著者である。「この種の隕石からアミノ酸を発見できたということは宇宙においては生命を生成する方法はひとつだけには限らないということを示しており、宇宙のいたるところで生命を発見する機会が今後増えていくのではないか。」


アミノ酸はたんぱく質を構成し、生命体の主要な分子である。例えば、髪の毛から始まって、化学反応を促進し調整する、触媒作用を持った酵素に至るまで、まさにありとあらゆるところで用いられている。アルファベットの26個の文字を組み合わせることによって数限りない言葉が作りだされているように、生命体は20個のアミノ酸を用いて何百万ものお互いに異なるたんぱく質を作り出す。ゴダード宇宙生物研究所の科学者たちは、さきに、NASAの探査機「スターダスト」で得たヴルト第2彗星のサンプルや炭素を多量に含むさまざまな隕石からアミノ酸を発見していた。これらの物体からアミノ酸を発見したという事実は、生命の起源は宇宙にあるとする説、つまり、生命の基本物質の幾つかは宇宙にあり、その昔隕石によって地球にもたらされたとする説を支えるものだ。

カリフォルニア州マウンテンビューにあるSETI(地球外知的生命体探査協会)ならびに同州のモフェットフィールドにあるNASAのエイムズ研究センターで研究を進めているピーター・ジェニスケンズ博士は小惑星「2008 TC3」からの炭素を豊富に含んだ残骸にアミノ酸が含まれているかどうかを究明してみたいとNASAに提案した。しかし、その当時、何かが見つかるかも知れないといった期待はまったく無かった。非常に過酷な状況を生み出す衝突が過去にあったことから、この小惑星から発見された生命の基本物質はあたかも「すっかり焦げ付かせてしまったお料理」のようにほとんどが炭化してしまっていたのだ。縦横の直径がせいぜい1.2メートルと4.5メートル程度と推定される小惑星は、まず、2008107日の地球との衝突の前に宇宙空間で確認されていた。ジェニスケンズ博士がハルトーム大学のムアウィア・シャッダード博士とともに南スーダンのヌビア砂漠で幾つもの残骸を発見した時、それらの残骸はまだ汚染がまったくなく、このような良好な状態で見つかったものとしては初のユレイライト隕石であることが判明した。
隕石サンプルは分割され、ゴダード研究所とカリフォルニア州のサン・デエゴ市にあるカリフォルニア大学スクリップス海洋研究所に引き渡された。「我々の分析結果もゴダードで得られた結果とまったく同じだ」と、分析を進めたスクリップス研究所のジェフリー・バダ教授が語った。両研究所で使用された高感度分析機器は少量(0.5149ppm)とは言え、19種類のアミノ酸を隕石サンプルから同定していた。研究チームはこれらのアミノ酸が地球上の生命体によって汚染されてはいないことを確認しなければならなかった。その作業も首尾よく終わった。アミノ酸分子は人の両手のようにお互いに鏡像関係にある二種類の構造をとることができる。地球上の生命体は左手構造のアミノ酸だけで構成されており、決して右手構造のアミノ酸と混用されることはない。しかしながら、隕石サンプルからのアミノ酸は左手構造と右手構造とが同じ割合で発見されたのだ。





「メテオサット8号衛星」によって撮影された小惑星「2008 TC3」の爆発の様子を示す赤外線映像。隕石が辿った軌跡を黄色の矢印で示し、矢印の赤黄色の塊は衝突時に発せられた赤外線である。
提供: EUMESTAT(欧州気象衛星機関)

同サンプルからは高温においてしか生成されないようなミネラルが幾つか発見されているが、これらは衝突時に非常に過酷な状況に曝されたことを物語っている。これらのアミノ酸は衝突をしたふたつの小惑星のどちらかに由来するものである。つまり、どちらかがアミノ酸の生成に対してより好ましい条件を備えていたということだ。SETIのジェニファー・ブランク博士は水や氷に閉じ込めたアミノ酸について実験を行ったところ、低い角度で地球と衝突した場合や小惑星同士が衝突した場合に匹敵するような圧力や温度に対してもアミノ酸は耐えることができることを示した。

しかしながら、同チームとしては、衝突によって隕石が生みだされた時の条件、すなわち、2,000度F(1,093C)を超すような高温に曝されながら、しかも、長時間にわたって曝されながらもアミノ酸が分解せずに済んだとする考えには抵抗を感じた。「衝突に由来する高エネルギ-状態を配慮すると、衝突を惹き起した小惑星のひとつから他の天体(地球)へアミノ酸が引き継がれたとする考え方には無理がありそうだ」と、バダ教授は述べた。


上記の考えに代わって、同チームは宇宙空間においては別の方法でアミノ酸を作りだすことができるのではないかと信じている。「以前は、隕石の中でアミノ酸を作りだせる最も単純なケースは液体の水が存在する環境下であって、その場合はより低い温度でアミノ酸を作りだせると考えていた。しかし、この隕石の場合はさらに別の考え方を導いてくれた。つまり、非常に熱い隕石が冷却していく過程で、何らかのガス反応が起こったのではないか」と、グラヴィン博士が語った。同チームは、目下、ガス相での化学反応について幾つかの条件を実験し、アミノ酸が生成されるかどうかを追及しようとしている。



2008 TC3」小惑星に由来する典型的な隕石の残骸。炭化した状態を呈している。
提供: ピーター・ジェニスケンズ博士

2008 TC3」の残骸は全体として「アルマハタ・シッタ」または「ステイション・シックス」と呼ばれているが、この名称はこれらが回収された場所に近いスーダン北部の鉄道の駅名にちなんで名づけられたもの。これらの隕石は非常に貴重だ。ユレイライト隕石は非常に稀にしか見つからないからである。「ひとつの興味深い可能性としては、一部の研究者たちによるとユレイライト隕石は太陽がまだ星雲であった頃に生成されたものだと考えられており、アルマハタ・シッタから見つかったアミノ酸は太陽系の歴史の中でも非常に初期の時期に生成されたものであることを示唆している」と、バダ教授が説明した。

ゴダードの分析チームにはグラヴィン博士を始めとしてジェイソン・ドウオーキン、マイケル・キャラハン、ジェイミー・エルシラ博士らが含まれている。本研究はNASAエイムズ研究センターやゴダード宇宙生物学センターの傘下にあるNASA宇宙生物学研究所ならびにNASA宇宙化学・宇宙生物学/宇宙生物学・進化生物学プログラムからの支援を受けている。




Goddard Release No. 10-111
Nancy Neal-Jones / Bill Steigerwald
NASA's Goddard Space Flight Center, Greenbelt, Md.
301-286-0039 / 5017

<引用終了>




翻訳雑感:

生命の起源については諸説があり、今後も引き続き新たな説が出てくると思われますが、このニュースは「生命の起源が小惑星同士の衝突後の冷却過程におけるガス反応によってもたらされたものではないか」との新たな考え方を提示しています。個人的に最も興味を覚えたのはたんぱく質の構造が地上のアミノ酸のそれとは違って、ふたつの小惑星の衝突に由来する隕石から発見されたアミノ酸は左手構造と右手構造とがそれぞれ半々であるという点にあります。

では、地球上の生命体のアミノ酸はどうして左手構造だけに限られているのだろうか?右手構造のアミノ酸はいったい何処へ行ってしまったのだろう・・・

京都大学の研究者によりますと(詳細は「たんぱく質中のD-アミノ酸の生成と老化現象との関連について」: http://hlweb.rri.kyoto-u.ac.jp/fl/research.html 参照ください)、人の皮膚や眼の水晶体においては老化に伴って本来ならば存在しないはずの右手構造のアミノ酸(D-アミノ酸)が生成されるとのことです。特に紫外線にさらされた部分ではこの反応が顕著であるとのこと。地球上の動物の場合は右手構造のアミノ酸は生命を脅かす存在であるようです。何十億年もの進化の過程で右手構造のアミノ酸は選択的に排除され、左手構造のアミノ酸だけが存在するようになったということでしょうか。

同研究者は地球上では左手構造のアミノ酸だけであるが、右手構造のアミノ酸だけで構成された生物がいる惑星の存在も否定はできないとさえ述べています。



 

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