2013年2月3日日曜日

ルーマニアの労働事情


ルーマニアの労働事情 - 来年は果たして英国へどっと押し寄せるか?

2014年は重要な年となる。
EUに最近加盟したルーマニアとブルガリアの労働者は2014年にはEU各国何処ででも自由に職を探すことができるようになる。それを受けて、英国のタブロイド紙「サン」は、両国からは年間4万人も英国へ移住してくるだろうと予測している。「英国はルーマニアよりもずっといい。2014年には友だちが皆やって来る」と題する記事がタブロイド紙「サン」に掲載された[1]
この表題は英国で働いているルーマニア人の一人が語った口調をそのまま取り上げており、十分に臨場感がある。また、掲載された写真を見ると、その日の仕事を求めてたむろす10人ほどの労働者の姿がある。この記事が訴えるメッセージは、たとえ未熟錬労働者であってもルーマニア国内で働くよりも英国で働いたほうが賃金が遥かに大きいという現実だ。
200711日、ルーマニアとブルガリアはEUに加盟した。現在でも、ルーマニアから出国する前に英国の雇用主から雇用の保証書を取得してさえいれば誰でも自由に英国へ入国することができる。2014年になると、現状とは違って、保証書無しでも職を求めるために英国へ渡ることができるようになる。現在に比べてかなり簡単に入国できるようになる。これはEUメンバーのどの国についても同様だ。
上記のサン紙の記事によると、英国では多数の非合法的な労働者が働いている。例えば、ルーマニア人のパラフェニ・ヴァシレ(36歳)は一日の労働で130ポンド(22日の円・ポンド交換レート145円で換算すると、18,850円に相当)を稼ぐ。彼の話では、「2014年になると友達が皆やって来る。来てはいけないとでも?」
彼は何百人ものブルガリア人やルーマニア人のうちの一人である。彼らは毎日のようにロンドン北部のトッテンハムにあるDIY店「ウィックス」の駐車場へ集まってくる。我々の調査担当の記者は白いヴァンが時々その場所に現れ、彼らのうちの一人を車に乗せて建築現場へ連れて行くのを目撃した。
非合法労働者の存在は米国ではその規模が桁違いに大きく、しかも彼らは米国経済の重要な部分のひとつである「食糧」の生産にとっては欠かせない存在である。これは皮肉な現実だと言えよう。CNNの報道[2]によると、2011年の非合法労働者の推定値は11.5百万万人にもなるということだ。
英国では、監査局の調査によると、新しい査証システムが導入された2009年以降、偽の申請書を用いた留学生の数が急増しているという[3]。当年度(2012)は恐らく4万から5万人の非合法留学生が国境を通過するだろうと推定されている。多くはインド、バングラデシュおよび中国からの渡航者だ。そしてこれらの入国者については殆どの場合追跡調査が実施されることはない。留学生と偽って入国する非合法渡航者の数は前回行われた推定値に比べて10倍も多いという。
欧州議会議員である英国独立党のGodfrey Bloom氏は「わが国の警察を誰が運営しようとも、2007年にブルガリアとルーマニアがEUに参加した際に締結された条約を破棄せずには、政府はその両手を条約によって拘束されたままであり、流入制限の解除を中断させることはできないので、わが国に押し寄せる移民の波を押しとめることはとてもできないだろう」と主張している[4]。さらには、「もしルーマニアとブルガリアの人口の5%が英国へ移住すれば、150万人が新たに職を求めることになる。わが国ではすでに100万人もの若年失業者を抱えており、労働市場全体の失業率は8.4%となっている。これは150万人が職を探し失業手当の給付を求めていることを意味する。英国はこれ以上の失業者を抱えることはできない。」
 

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次に、ルーマニア側の情報を掘り出してみたい。ルーマニア国内で入手された情報によると、英国のメデイアがセンセーショナルに報道する内容とは違った別の側面を学び取ることができる。その辺りを究明してみたいと思う。
BBCの報道がある[5]。これは先月の報道であるので、かなり新しい。
ブカレスト在住の社会学者でありコメンテーターでもあるDr. Mircea Kivuによると、「多くの人たちが英国を目指して出国するとは思えない」とのことだ。「外国へ移住したいと思う人たちの殆どは既にそうしている。大きな波はもう過去のものだ。これからも波はあるだろうが、大きな津波にはなり得ないだろう。」
ここからは引用部分を段下げして示す。
カルパチア山脈の麓にあるニマイエシュテイ村はトランシルヴァニアの奥深くに位置している。その村では殆どの世帯の少なくとも一人はスペインへ出稼ぎをしていた。何人かは暫くの間スペインに居付いてしまった。一階建ての田舎屋の狭い庭先で私はクリスチャン・カバウと面会した。彼は薬剤師の助手としてのキャリアを持ってはいたが、スペインでは初心者向きの仕事に従事せざるを得なかった。ルーマニアへ帰国してから近くの町の薬局で仕事を見つけたので、「これからはルーマニアでずっと生活をする積もりだ」と、彼は言った。
数マイル離れた小さなフィズイス村を通り抜けた所で、私は本通りに面した家に住んでいる退職者のラドウ・サーブに迎えられた。彼はその家で一人住まいだった。と言うのは、彼の奥さんはイタリアで年配のご婦人の面倒をみるために半年間はイタリアへ出かけているからだ。イタリアでは1ヶ月に600から700ユーロ(22日の換算レート126円で75,600円から88,200円に相当)を稼ぎ、これは彼ら二人の年金の4倍にもなる。このお金は娘さんの結婚資金の一部に廻したいという。
Dr. Alina Brandaニマイエシュテイ村とフィズイス村の出稼ぎ者の行動を調査した。彼女の説明によると、村人たちはスペインの同じ町へ出かけることが多く、その町で家探しや職探しでお互いに助け合っていた。殆どすべての人たちがトランシルヴァニアへ戻ってきている。ある者は蓄えたお金で家を建て、あるの者は新しいビジネスを開始した。
それは言わば「循環型」の出稼ぎだ。ルーマニアの田舎では典型的な姿でもある。しかしながら、ユーロ危機の煽りを受けて、今もそういう形で働いている人の数は非常に少なくなっている。
 
Dr. Brandaと一緒に村の若者たちと会った。中にはスペインで少年・少女期の大半を過ごした10の若者たちも含まれている。彼らの行動は親たちのそれとは違っていた。Dr. Brandaの調査によると、若者たちはより冒険的である。 

ジェアニーナとマデリンはサラゴッサ(スペインの東北部の大きな町、人口が約70万人)で学校生活を何年か送った。二人の父親がそこで建築業を営んでいたからだ。二人はスペインへ戻りたかったと私に打ち明けた。エミール・サーブは30歳台のレンガ職人でスペインで働いた。スペインではルーマニアの田舎で手にする賃金の何倍も稼ぐことができた。彼はスペインだけではなく、他のEUの国でも働きたいと言う。村人たちは来年には制限が解かれるということは誰も知らなかった。 

18歳のアドリアン・ブダウは彼の両親がスペインで働いていた時スペインで過ごした。だが、彼は好きになれなかった。「僕は自分の国に住みたいんだ!」と彼は私に言った。 

この言葉はブカレストのど真ん中で会った若いプロフェショナルたちの考えと同じだった。彼らはいい仕事についており、多くはソフトウェア産業に従事し、国際的に活動する企業で働いている。「ルーマニアには政治的にも経済的にも改善しなければならない事は山ほどあるけれども、やっぱりルーマニアに残りたい」と彼らは言う。 

サビーナ・カテイネアンは最近のスコットランドへの旅行の様子を話してくれた。彼女がツアーバスの切符を買おうとしていた時、彼女がルーマニアからやってきたことを知って窓口のおばさんは大層驚いた様子だったという。「だって、こんなに上手く英語をしゃべるなんて...」と、窓口のおばさんが言ったのだそうだ。サビーナは「私たちの国は教育も無いような極貧の国ではないのよ!」と私に言った。 

サビーナの言ったことは実はその通りなのだ。 

ルーマニア人は英語をよくあやつることができるとして外国からの企業の間では知られた存在である。これはルーマニアにとっては大いに誇ることができることだし、ルーマニアへ進出する外国の企業にとっても大きな利点になる。一方、英国で職を求めるルーマニアからの若い労働者たちは英語をしゃべらなければならないことがそれほど大きな心理的負担にはならないということでもある。 

 

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EUの一員となったブルガリアとルーマニアに対して両国からの移民の流入を抑制する政策が2013年末には解除されることから、2014年には大量の移民がどっと英国へ流れ込んでくるのではないかとの懸念がある。そのことから、英国のメデイア[6]によると、関連省庁は英国へ来たいと思っている潜在的移民に対して否定的なキャンペーンを掲載する考えのようだ。 

デイリー・テレグラフ紙が推奨する宣伝文句はこうだ。仮訳を下記に示す。

「英国での生活の暗い面についてもよく検討しなさい。特に、しゅっちゅう変化する天候など。」 

一方、やや左寄りで人気が高いガーデイアン紙は潜在的な移民がどっとやって来るのを抑える宣伝文句について読者から募った。その結果は一見に値する。
読者からの宣伝文句には英国人が自分を卑下する気持ちと現行の連立内閣や末端のお役所仕事に対する不平不満とが入り混じっている。提出された案件のひとつは「こちらへ来て、トイレを清掃しないか!」 そして、もうひとつは「英国:私らは自分の国を去らなかった。何故かと言うと、公共交通機関が動いていないからだ!」 他にも幾つかの事例があるが、英国のうんざるするような悪い天候を題材にしたものが多い。
しかし、ルーマニア人やブルガリア人の多くはこれらのキャンペーンが持つ冗談めいた側面は理解することはないかも知れない。
一方、ルーマニア側からも応戦があった。
「我々の国には渋滞税はない。渋滞そのものが十分に懲罰だと思うからだ。我々は必ずしも英国人が好きというわけではないが、あなたたちはきっとルーマニアが大好きになる。ルーマニアへどうぞ!」
お互いに冗談を言いながらの応酬ではあるのだが、それぞれの立場をよく表現していると思う。英国はあくまでも移民の流入を軽減したいだろうし、ルーマニア側は英国人観光客や英国を含めた外国からの企業誘致や投資をさらに促進したいのが本音だ。
ユーロ危機のさ中にあって、EUの労働政策は加盟各国にとっては大きな負担でもあるようだ。各国の事情はそれぞれ違うことから利害が一致することは到底ないだろう。そうかと言って、英国が欧州同盟から脱退するかどうかは非常に大きな決断になることだろう。難しい課題だ。
果たして2014年はどう展開するのだろうか。見守っていきたい。
 

参照:

1: ‘The UK is much better than Romania. All my mates will come in 2014’: By NICK FRANCIS, The Sun, Nov/11/2012

2: Facts on immigration in the United States: CNN, Jun/15/2012 

3: Tens of thousands of immigrants illegally entered Britain under new visa system: By Rowena Mason, Political Correspondent, The Telegraph, Mar/27/2012 

4: UK ‘cannot afford’ EU open borders any longer: By Godfrey Bloom (欧州議会議員)、英国選出、英国独立党所属、Jan/14/2013 

5: Romanian’s mixed feelings over working abroad: By Sanchia Berg, BBC Newsnight, Transylvania, Jan/09/2013
 
6: Romanian Campaign Hits Back At Negative British Ads: Radio Free Europe, Jan/30/2013
 

 

 

 

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