2013年2月23日土曜日

ブカレストでの食生活


2010年の9月にブカレストへ引っ越してきてから約2年半になろうとしています。ずっと前からブカレストに住んでいた妻や娘は私のために様々な料理を作り、私の味覚や食欲を満たそうと気を配ってくれます。そのような料理のひとつにルーマニア料理の「焼きナスのサラダ」がありますが、これはブログにも掲載しました(2011822日、「夏の味覚、ルーマニア風ナス・サラダの作り方」)。夏の料理として私の大好物のひとつです。
今日は素人目から見たブカレストの地でのお料理について記してみたいと思います。あまり役に立つとは思えませんが、ご興味がありましたら読み進んでください。テーマに応じて日本との対比を交えながら進めてみようと思います。
 
今年の冬は昨年のそれとは打って変わってかなりの暖冬となりました。まだ2月だというのに、地上の雪はすっかり消えてしまい、この冬はもう終わりという気配です。今冬は、コニャックを入れた紅茶が私たち家族の日曜日の定番となりました。紅茶そのものはしばらくの間は老舗ロンドンのトワイニングズ社のモーニング・テイーとアール・グレイ・テイーでした。それらのふたつの缶が空になった今はセイロンのバシラーが登場しています。ジャスミンが添加されたこの製品の名称はプレゼント・ゴールド。ジャスミンやバニラなどの香料がブレンドされたものは芳香が素晴らしいです。濃い琥珀色の紅茶に砂糖を入れよく溶かしてから、レモンを絞り込むと紅茶の色は少し薄くなりますが、これは何らかの化学反応が起こっているようです。最後にコニャックをテイースプーンに二杯ほど加えますと出来上がり。コニャックにも様々な種類があります。最初はマーテルでしたが、次はヘネシーのVSOPとしました。やはり後者の方が芳香が良いということで私たち三人の意見は一致しています。クールボアジェもいいかと思います。何はともあれ、紅茶そのものが持つ香りとコニャックからの芳香とが一緒になって醸しだす香りと味は、日曜日の朝時間を忘れて紅茶の味に耽溺するのには最高です。気分を新鮮にしてくれ、それと同時に体をホッカホカにしてくれます。ロシアの人たちがレモン・テイーをこよなく愛することがよく理解できます。

イラクサの群落:ウィキペデイアから

早春の頃、私の大好物はペースト状に調理した野草の一種、イラクサ。これは信州の蕗のとうがそうであるように、春独特の季節の味。ブカレストの人たちは冬の間の野菜不足に陥り勝ちだった食生活に対して、春になりますと伸び始めた柔らかなイラクサ(ルーマニア語ではurzici、ウルジッチと読みます)を調理して食べます。イラクサを食べることによって「血液が浄化される」と言っています。この頃ピアツ(市場)へ出かけますと、そこいらじゅうがこのウルジッチでいっぱい。つまり、それだけやくさんの消費があるということです。ウルジッチのペーストの外観は、日本の草餅に用いる茹でた「よもぎ」をペーストにしたような感じです。味を調整するにはタマネギ、デイル、若いタマネギの葉、ニンニクなどをみじん切りにして加えます。ニラも効果が抜群だと思います。普通はパンに塗って食べるのですが、早春の野草の香りが何とも言えません。
春の柔らかな芽が広がったばかりのイラクサとは言え、その名が示すとおりトゲがあって素手で触るとチクチクと痛むような感じがしますが、ホウレンソウの代わりにいろいろな料理に使えます。ビタミンCも豊富です。これはヨーロッパの全域で春の食材として人気が高いようです。
 
行者ニンニク:ウィキペデイアから。花の様子がニラの花とそっくり!行者ニンニクもニラも分類学的には同じネギ属だからです。

行者ニンニク(ルーマニア語ではleurda、レウルダと読みます)の葉もピアツでよく見かけるようになります。一ヶ月間位は入手可能。これも血液の浄化作用を担う貴重な食材です。日本でも山菜の一種ですよね。
蕗のとう:ウィキペデイアから。

 
この頃までには日本では蕗のとうの季節が過ぎているでしょうか。蕗のとうについては私もブログ(201256日の「ブラショフへの旅」)に書きましたが、ルーマニアでも見かけました。ブラショフへ旅行した際にはシナイアでかなり伸びた蕗のとうを観察しました。また、ブカレスト市内の植物園でも見かけています。当地では、花の色はこの写真にあるような白い色ではなくて赤紫色のようです。
 
蕗のとうは、当地では、食材としての使用はまだ確認できていません。インターネットで調査した結果では、食用としては見つかりませんでしたが、蕗の根からの抽出物については薬用としての様々な効果が報告されています。例えば、偏頭痛、リューマチ痛、椎間板ヘルニアの痛み止め、等。
初夏にはさくらんぼが出回ってきます。旬の頃になると値段も下がって、1キロとか2キロとか買ってしまいます。この行動は、相対的にかなり高価な日本のさくらんぼに対する報復行動ということかも知れませんね。
ラズベリー(長野にて)
 
さらに、ラズベリー(ルーマニア語ではzmeura、スメウラと読みます)が出回ってきますと、我が家では毎日の食卓に欠かすことができない品目となります。単独で食べても美味しく、メロンやスイカ、マンゴ、オレンジ、キウイなど他の果物と一緒にしても存分に楽しめます。6月から7月の頃です。ラズベリーが出回っている期間が短いのが残念です。ピアツに出始めたばかりの頃はかなり高価です。
 
秋は何と言っても生ブドウです。かなりの期間、年末まで楽しめます。甘みが十分についたブドウは甘過ぎると感じる人がいても不思議ではない程に甘味が強いのです。特に美味しいのは、私の場合、「ハンブルグ」という種類です。日本には「巨峰」という素晴らしい生食用のブドウがありますが、私だけの理解かどうかは確信ありませんが、日本ではハンブルグを見たことがないのです。こんなに美味しい種類のブドウを日本ではなぜ栽培しないのだろうかと何時も思ってしまいます。 
秋が深まってきますと、輸入物の柿が登場します。面白いことに店頭の表示は「kaki」となっていました。当地ではスペイン産がスーパーマーケットに並び始めます。日本の「百匁柿」に似た大型の甘柿。季節の始めには一個が6レイ(150円前後に相当)と比較的高価でしたが、段々と値段が下がって当初の1/4位になりました。12月も下旬になると、柿の実は柔らかくなってきます。この頃が食べ時です。購入後さらに熟成させておきますと、柔らかすぎて皮をむくのがちょっと面倒になってきて、時にはスプーンですくって食べることになります。そんな時期の柿の美味しさはまた格別。昨年は12月の末に購入したものが最後のチャンスとなりましたが、我が家では1月の中旬頃まで堪能しておりました。この頃の柿はその甘さ、香り、質感と三拍子揃っており、どれをとっても形容が難しい程です。「果物の女王」とでも命名したい程の美味しさです。
柿の実(これは渋柿。長野にて)

 故郷の信州では晩秋になりますと、葉がすっかり落ちてしまった柿の木に無数の実がなっている光景にぶつかります。青空を背景にして橙色に輝く柿の実は私にとっては秋の風景を代表する大事なひとこまです。


 
サルマーレ(ロールキャベツ)は私の大好物
上記には四季折々の味を簡単に纏めましたので、ここからは四季を通じてのルーマニア料理を考えてみましょう。
私のルーマニアとのお付き合いは、初めてルーマニアの土を踏んだのが1972年でしたから、暦の上ではもう40年となりました。その間、ルーマニアへは何度も出入りしていますが、そんな時に決まって私の方から注文するのはサルマーレ(samae)です。


ブラショフのレストランにて。
 
特に、ひき肉に細かく刻んだ玉ねぎやお米を混ぜて一緒にし、キャベツの葉で包み、何時間もかけて煮込んだサルマーレは逸品です。ひき肉は牛肉と豚肉とを半々にしたものですが、豚肉は脂肪分が入っていないとあの独特の味がでません。また、個々のサルマーレを鍋に並べて、煮込む際にはベーコンも加えます。味を最終調整するためにこれは必須です。
 
キャベツの葉の代わりに葡萄の葉を使うサルマ-レもありますが、何故か私は当地で伝統的な塩漬けのキャベツの葉を使ったものが好きです。塩漬けのキャベツは使用の前に2日間ほど水につけて塩抜きをする必要があります。当時、家内の母が作ってくれたサルマーレを10数個も食べたといって、我が家では今でも伝説のように語り継がれています。私の方からは特に釈明することはないのですが、強いて言えば、サルマーレの数は一個一個の大きさが何時も同じというわけには行きませんので、小粒に作れば必然的にこちらが食べる個数は増えてしまいます。キャベツの玉が小さいと個々の葉も小さいので小型のサルマーレになってしまいます。サルマーレは年がら年じゅう何時でも調理します。
ただし、サルマーレは美味しいので食べ過ぎることがないようにくれぐれもご注意の程を!
また、塩漬けのキャベツが手に入らない場合は、生のキャベツを湯がいて、キャベツを柔らかにさせてから調理に使います。
サルマーレは語源的にはトルコ語のsarmaから由来しており、「包む」という意味だそうです。サルマーレは各国で代表的な料理のひとつとなっているようで、バルカン半島一帯からトルコさらにはアラブ諸国まで、ならびに、ロシアやウクライナ、ポーランドからドイツやフランスへと、ヨーロッパ全域にわたって広がりがあると言われています。また、地域性によってその材料や作り方は非常に多様だとも....
ミッチ(mici)またはミテテイ(mititei
オリジナルはアラブ世界の「カフタ」がトルコを経由してルーマニアへ入って来たと言われています。ひき肉を太さが2-3センチで長さが10センチ前後にした、皮のないソーセージみたいなものです。これをグリルの上で焼きます。アラブ圏では羊が専ら使用されるようですが、ルーマニアでは、牛肉、あるいは牛と豚の合せ挽き、牛と羊の合せ挽きの3種類が代表的なものとなります。私たちは牛と羊との合せ挽きを好んで使っています。グリルで焼きますから、脂分は焼いている間にその多くが落下してしまいます。
 
グリルで焼くミッチ:ウィキペデイアから

 
辛子を付けて食べます。また、何と言っても、ミッチには冷えたビールが欠かせません。時間がない方たちのためには、ミッチはスーパーで年がら年中入手することが可能です。

お米
ブカレストではルーマニア産のお米が何時でも手に入りますが、最近は韓国食材の店でお米を買ってきます。5キロとか10キロ入りの袋で買います。日本の銘柄米と比べてもまったく遜色がないので、大満足です。
ブカレストにはDami Korean Restaurant(場所はBlvd. AerogariiBlvd. Ficusuluiとの交差点の北東側の角)という韓国料理のレストランがありますが、そこでは様々な食料品も販売されています。私たちはお米や韓国味噌、醤油、米酢、豆腐、海苔、蕎麦、ラーメンなどを購入します。キムチの素も購入できますし、私にとっては最も大事な韓国の濁酒(マッコリ)を手に入れることができます。面白いことに、マッコリは家族全員で楽しめる貴重な存在になっています。特に、暑い日には冷やしたマッコリは爽快そのもの。
スーパーにはさまざまな魚が並んでいますが、私たちの経験ではドラーダ(dorada)という地中海産の魚が焼き魚としては最高です。店頭にはイタリア産が何時でも並んでいます。人気が高いのでしょう。一度試してみてください。ただし、鯛の仲間の様ですから骨がたくさんありますので、ご注意を。
ある時、「刺身用に生の鮭を購入するには衛生面からみてどの店が一番信頼できるでしょうか?」とプロの方に聞いてみました。その方は「METROが一番いいでしょう」と、快く返事をしてくれました。こうして、私たちはMETROで鮭を購入し始めたのです。野菜売り場ではアボカドやキュウリを買ってカリフォルニア・ロールの準備をします。自分で海苔にご飯を乗せ、鮭やアボカドおよびキュウリを加えて、巻きながら食べるのがひとつの楽しみにもなっています。我が家では生の鮭がブカレストで寿司の気分を味わう貴重な食材となっています。最近はREALでも購入しています。
牛、豚、羊、鶏、七面鳥が通常手に入ります。私たちの場合は羊や七面鳥は稀ですが、他の三種類の肉は日常的に消費します。私個人としては今後は羊や七面鳥も多く消費したいと思っています。子羊の肉は春の復活祭にはなくてはならない象徴的な食材です。また、牛タンが思いのほかに美味しいことが私にも分かってきました。特に、ネギやオリーブの実と一緒に煮込んだ牛タンは逸品です。正直言って、この美味しさは最近になるまでまったく気が付かなかったのです。
肉料理は調理する前の処理にコツがあるようです。例えば、牛肉は前の晩に漬け汁に漬け込んでおきます。料理の味はこの漬け汁次第のようですので、工夫する必要があります。漬け汁の材料のひとつである酢についても幾つかの種類を準備しておきます。リンゴ酢、米酢、ワイン・ビネガー、バルサミコ、等。これらの他に、日本酒やみりん、ワインも戦列に加わってきます。また、調味料も重要です。
家内の料理を側で見ていますと、もうひとつ重要な点はソースです。家内はこの漬け汁とソースにかなりの時間をかけています。ソースを作る時はさまざまな調味料が必要ですので、日頃からの調味料の収集が大事になってきます。先日はカルダモンの種子を手に入れたばかりです。様々な調味料の中で最も高価なものは何と言ってもサフランでしょうか。
珍しい食材
日本ではあまり使われていない食材ですが、当地ではごく普通に使われているものもあります。
カリン:果物のカリンですが、当地ではこれを料理にも使います。
ザクロ:野菜サラダやミックス・フルーツに使います。また肉料理の調味料としても使っています。
ルーマニアではワインとツイカを語らないわけにはいきません。
ワイン作りは古い歴史を持っているようです。ルーマニアの黒海沿岸には古代ローマの遺跡がたくさんあります。古代ローマ帝国が黒海沿岸で植民都市を作っていた頃、皇帝に仕え、大臣級の地位を築いていたのが皇帝にワインを注ぐ専門職だったそうです。きっと、この地でワイン作りを行い、ワインに詳しい人たちがそういった専門職についていたのでしょう。
ルーマニアでのワイン作りの歴史はヨーロッパ各国でのワイン作りの歴史よりも古く、今から6000年前にまで遡ると言われています。上記の古代ローマ時代よりも遥かに古くからワインの生産が行われていたことになります。古代ギリシャ神話にはぶどう酒の神デュオニソス(ローマ神話ではバッカス)が登場しますが、デュオニソスは現在のルーマニア南部からブルガリア一帯にかけて勢力を持っていたトラキアという国に生まれたと言われています。このトラキア人の一派であるダキア人が現代ルーマニア人の祖先。ラテン語でのダキア(Dacia)はルーマニア語では「ダチア」と読みます。古代ギリシャ人にはゲタエ(Getae)人の名で、古代ローマ人にはダキア(Dacia)人の名で知られていたとのことです。
これらの逸話はルーマニアのワイン作りの伝統をよく物語っているのではないでしょうか。
この地に生活している今、どの料理にはどんなワインが合うのかを理解したいと思います。豪華な料理が出来上がった時、それに最もよく合うワインを添えてみたいと思いませんか。
私たち家族全員が好きな銘柄はデザートワインのタミオアサとかブスヨアカです。また、私個人としては赤ワインではフェテアスカ・ネアグラ、メルロー、ピノノワール、白ではソーヴィニオン・ブランです。試してみたい銘柄は他にもたくさんありますが、生産者や生産年との組み合わせを考えますと気が遠くなりそうです。
ツイカという地酒があります。これは蒸留酒です。
田舎の方へ行きますと、自宅の周辺にたくさんのスモモの木を持っているお宅があります。きっと、毎年のようにツイカを蒸留しているのではないでしょうか。それぞれのご家庭では手作りのツイカが自慢の種となります。普通はアルコール度が30度前後あって日本の焼酎のような感じですが、ひとつ大きな違いがあります。それは独特な果実の芳香です。この香りが何とも言えません。そして、2回の蒸留を経たものは50-60度くらいの強いお酒となります。
先日、かってクルテア・デ・アルジェシュで一緒に働いていた時の同僚から彼が丹精を込めて作ったツイカをいただきました。その味はまだみてはいないのですが、彼の自慢のツイカであるに違いありません。どんな味わいなのかが楽しみです。
 
 

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