2013年5月14日火曜日

放射能の脅威 ― 先天異常


放射能による先天異常はまず広島・長崎に投下された原爆による健康被害として日本人の記憶には残されている。しかしながら、その記憶の形はほとんどが非公式なものであり、科学的なデータとしては日本では必ずしも資料化されてはいないようだ(しかし、米国には公開されてはいないデータがたくさんあるのかも知れない...)。
日本は福島で歴史上二回目、いや、第五福竜丸事件を数えると三回目の放射能の脅威に晒されていることになるが、放射能による先天異常の可能性を直視するには思った以上の努力を必要とすことだろう。ここでは、福島で今後表面化するかも知れない現実を直視するためにインターネットで入手できる情報をおさらいしておきたいと思う。
 

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イラク戦争の勃発から10年、その後遺症としてイラクでは今何が起こっているのか?
今多くのイラク市民が晒されている脅威はテロと健康被害である。
健康被害について言えば、湾岸戦争(1991)とイラク戦争(2003)との二度の戦争においてイラクでは400トン以上の劣化ウラン弾が使用されたと言われている[1]。この膨大な量の殆どは米軍が使用したものだ。一方、英国軍が使用した量は3トン弱だったとされている。ここに引用するガーデアン紙の報道によると、ノルウェー外務省の支援を受けてオランダの平和団体が行った調査の結果、劣化ウラン弾による放射能汚染は調査が進むにしたがって拡大しているそうだ。
一方、イラク戦争で使用された劣化ウラン弾の総量については様々な報告がある。ある報告[2]によると、米軍が1991年以降に使用した劣化ウランの総量は4,600トン。第一次湾岸戦争で1,000トン、コソボ紛争で800トン、アフガニスタンで800トン、イラク戦争で2,000トンとのことだ。イラクだけに限ると、第一次湾岸戦争とイラク戦争との合計で3,000トンとなる。
なお、個々の砲弾や弾丸の構造を見ると、全体が劣化ウランで作られている訳ではなく、大雑把に言えば、中央から先端部のみが劣化ウランで作られている。この点を考慮した上で劣化ウランのみの数値としての報告なのか、それとも砲弾や弾丸の総重量の数値であるのかを検証する必要がありそうだ。その意味では、上記にあげた二つの異なる数値については前者(400トン)が劣化ウランの正味の数値であり、後者(3,000トン)は総重量であるのかも知れない。
激戦があったファルージャ(イラク中部の都市、人口は約28.5万人)における健康被害は悲惨を極めている[3]。劣化ウラン弾を始めとする様々な化学物質による汚染が深刻な健康被害をもたらしているのだ。イラク戦争後に観察された新しい病気としては腎臓、肺、肝臓等の疾患や免疫系の障害が含まれる。劣化ウラン弾は、特に、子供たちの間で白血病、腎臓病、貧血等を急激に増加させた。
(なお、この[3]で引用する記事は当初はアル・ジャジーラによって315日に掲載され、その後、インフォメーション・クリアリング・ハウスによって319日に掲載されたものであることをお伝えしておきたい。また、インフォメーション・クリアリング・ハウスは利益を求める商業メデイアではなく、CNNなどの主流のメデイアからは入手できないような記事を掲載することに注力しており、世界的規模で見ても貴重な情報源であると思う。)
イラクの女性の間では流産や早産が劇的に増加した。特に、米軍による戦闘が激化した地域、例えば、ファルージャでは非常に顕著である。イラク政府の公式な統計によると、1991年に最初の湾岸戦争が起こる前の癌の発生率は10万人に対して40人だった。1995年には癌の発生率は10万人当たり800人となり、2005年には10万人当たり1,600人となった。そして、最近の調査によると、この増加傾向は続いている。
これらの統計数値そのものは非常に衝撃的なものである。しかしながら、イラクでは報告や調査ならびに文書化が適切には行われていないことから、実際の癌の発生率の数値はこれらの統計数値よりもはるかに大きいと推測される。
「イラクでは公的な保健制度の恩恵を受けている人は50%程度であることから、癌について正しい統計数値を入手することは難しい」と、イラクの保健管理推進協会のセイラ・ハダッド医師はアル・ジャジーラ紙に語った。「他の半分の人たちは民間組織に頼っており、民間組織の多くは統計数値を報告することにはあまり熱心ではない。したがって、わが国の統計数値は2倍にして受け取らなければならない。公的な数値は実際の数値の半分を示すだけだ。」
毒性の高い環境:
「同僚と私はファルージャでは先天異常や不妊症が増加していることに気づいた」と彼は言う。「ファルージャは、米軍の爆撃や彼らが使った弾丸や砲弾によって持ち込まれた毒物、例えば、劣化ウランの問題を抱え込んでいる。」
2004年に、米軍はファルージャ市を二回にわたって包囲し攻撃をした。その際に大量の劣化ウラン弾ならびに白燐弾が使用された。
「米軍が我々の環境へ持ち込んだ放射能や有毒物質に我々は晒され続けており、自分たちの子供の将来については非常に心配している」と、ハダッド医師は付け加えた。
「イラクのファルージャにおいて2005年から2009年の間に見られた癌、幼児の死亡、ならびに、出生時の性比」と題する疫学的研究は他の研究者たちによっても頻繁に参照されているが、この研究では700世帯以上を訪問して調査が行われた。
この調査研究の著者の一人である化学者のクリス・バスビー氏は、「健康に関してはファルージャ市民は危機的状況にあり、いまだかつて研究の対象とされた遺伝的損傷率の分野では最も高いレベルだ」と、述べた。

ここでクリス・バスビー氏他が行った疫学的研究報告の要旨[4]を覗いてみよう。それを下記に示すことにする。
要旨:
著者らは2010年の1月から2月にかけて研究者たちを編成し、ファルージャで711世帯を訪問し、アラビア語で記した先天異常や死産についての質問書に対する回答を収録した。回答を得た総人口は4,843人、回答率は60%となった。相対リスクはエジプトのカイロ市内ガルビーヤ地区に関する1999年の中東癌登録、ならびに、ヨルダンに関する1996年から2001年の中東癌登録との比較を行い、年齢対比も行った。2005年の1月から本調査の終了までの期間に発生した癌として62例が報告されている。この中にはゼロ歳から14歳の子供の16例が含まれている。最もリスクが高いのはゼロ歳から34歳の年齢グループの白血病、同じくゼロ歳から34歳のグループのリンパ腫、ゼロ歳から44歳の女性グループの乳癌、ならびに全年齢を通じての脳腫瘍である。
幼児の死亡率は2006年から2009年までの4年間の平均出生率に基づいたものであって、その1/62010年の1月から2月に報告された事例を加えたもの。この期間にゼロ歳から1歳の年齢グループでは34例の死亡が報告されており、これは1000の出生数当たり80人の死亡に相当する。これに対して、エジプトでは19.82008年のヨルダンでは17であり、2008年のクウェートでは9.7であった。
最近5年間に生まれた子供たちの平均の性比は極めて異常である。通常、人の性比は女児1,000人に対して男児が1,050人とほぼ一定である。遺伝的な障害が起こると、この性比は大きく振れる。ファルージャでの調査の結果、0-4歳、5-9歳、10-14歳および15-19歳のグループにおいては1,000人の女児に対して男児の数はそれぞれ8601,1821,1081,010であった。0-4歳のグループは明らかに遺伝的な障害を受けている(p < 0.01)ことが示唆された。
これらの結果はファルージャにおいては突然変異に関係した深刻な健康被害が存在していることを定性的に示すものだと言えるだろう。しかしながら、この種の調査では構造的な問題がついてまわることから、本紙の調査結果を定量的に解釈する場合には十分な注意をして欲しい。

上記の要旨を読んでみると、放射能や他の毒性物質による健康被害が如何に深刻であるかを知ることが出来る。実際の数値に基づいて統計学的に扱ったこの報告書の持つ意味は大きい。
また、先天異常についてはファルージャの医師たちは記録の一部として写真を撮影している。これらは貴重なデータとなっている。下記にその一部を掲載する。再度、[3]の記事へ戻ろう。


ファルージャ・ベイビー:

 
ファルージャの医師たちは急激に高まった先天異常を目撃している。例えば、頭が二つある、単眼、多発性腫瘍、身体の奇形、神経管の異常、等々。





ファルージャの医師たちは深刻な奇形を持って生まれた何百という子供たちの記録を取っている。これらの奇形の原因は劣化ウランや他の毒性物質だと見られている。[サミラ・アラニ医師/アル・ジャジーラ]




多重出生異常の多くはこの事例のように極めて深刻だ。米軍の攻撃を受けた時点以降に生まれた子供たちの間では多重出生異常が多発している。
20111221日の時点でアラニ医師は次のような事実をアル・ジャジーラに語った。彼女は1997年から病院勤務を続けているが、200910月以降677例の先天異常を個人的に記録した。そして、アル・ジャジーラが1229日に同病院を再訪した際、たった8日後のことではあったのだが、先天異常の件数は699に増えていた。
アラニ医師は何百枚もの写真を見せてくれた。口蓋裂、長頭、単眼、異常に伸びた四肢、異常に短い四肢、耳や鼻ならびに背骨の変形、等々。
アラニ医師は日本を訪れ、広島や長崎で米国が投下した原爆からの放射線によるものと判断される先天異常について研究を行っている日本の医師たちにも会った。
日本では先天異常の発生率は1から2パーセントであると彼女は言う。彼女の記録によると、ファルージャで生まれた子供たちの間では14.7パーセントであることから、日本の放射能被害地域における先天異常に比べると10倍も多い、と彼女は言った。
2013年の3月の時点に、「出生異常の率は依然として14パーセントのままだ」とアラニ医師はアル・ジャジーラ紙に伝えてきた。
これらの数値だけでも非常に大きな脅威である。しかし、同医師はハダット医師が指摘しているように、「実状よりもかなり低い数値が報告されている可能性」についても注意を喚起している。 

ここで、定量的な側面をおさらいしておきたい。
広島原爆は50キロのウランが使用されたが核爆発を起こしたのは1キロだけであったと見られている(ウィキペデイアから)。そうすると、残りの49キロのウランは原爆が爆発した際に微小なウラン金属として広島の上空でばら撒かれたと想定することができる。イラクで放射線汚染源となった400トンの劣化ウランはその濃度は0.25パーセント前後である。一方、広島型原爆のウラン濃度は90パーセントであったと言われる。これらのふたつの濃度から計算してみると、17.64トンの劣化ウランが広島型原爆で核爆発を起こさなかった49キロのウランに相当することになる。つまり、大雑把な話ではあるが、イラクでは最近の二度の戦争で22発の広島型原爆に相当するウランによって環境が汚染されたと言えるのではないか。イラクではファルージャと南部のバスラで汚染が特にひどい。上記で算出した22発の広島型原発は、大胆に単純化すると、ファルージャとバスラの都市がそれぞれ11発の原爆で汚染されたということになる。つまり、広島に比べて約10倍の放射能汚染があったと言えるのではないか。
次に、放射能レベルで比較してみたい。
幾つかの情報を収集してみて分かったのだが、ウラン粒子の大きさ次第で同一の単位重量から放射される場合であっても放射能の大きさは異なってくるとのことだ。これはウランの自己遮蔽効果のせいだと言われている。1グラムのウラン235があったとしよう。それが1個の球状の粒子であるのか、それとも、無数の微粉末になっているのかによって、その1グラムによる放射能総量は大きく異なるという。微粉末であれば、自己遮蔽効果が低減するので、同じ重量の1個の球状粒子に比べてその総表面積はすこぶる大きくなることから、総放射能は大きくなる。
つまり、広島の原爆で実際に核分裂には使われなかった49キロのウラン235とファルージャで使われた劣化ウラン弾に使われたウラン235はそれぞれ最終的にどの程度の粒子の大きさになって環境に広がったのかが分からないと放射能の大きさについて厳密には比較できないということになる。
ファルージャで戦闘が終わってから地方や隣国での一時的な避難場所から自分の家に帰ってきたものの自宅はすっかり破壊されていたとしよう。通常、家屋の再建に当たっては、再利用できるものはできる限り再利用しようとする。しかし、そういった再利用が可能な資材が劣化ウラン弾で汚染されていた場合、居住を始めた時点からその居住者はウランの微粉末を体内に取り込む危険に晒されることになる。
私が調べようとしてもその答えがなかなか見つからなった件について貴重な情報[5]が手に入った。それによると、
劣化ウランは湾岸戦争(1991)で大々的に使用された。米国政府の発表によると、0.01グラムの劣化ウランに晒されると1週間の内に健康障害が起こる。
米軍のM-1戦車から発射された砲弾は標的(例えば、敵軍の戦車)に当たると衝撃によって3,100グラムの放射性微粉が生成される。劣化ウランの微粉を吸い込んだり飲み込んだりすると、この微粉は水溶性ではないことから、体内に数年間も留まり、体内被曝の原因となる。
M-1戦車で使われる砲弾の直径は12センチ。この砲弾には10.7ポンド(約4.8キロ)の劣化ウランが使用されている。その重量の70パーセント前後が標的への衝突によって微粉化するものと想定されている。これによって、一発のM-1戦車の砲弾からは約3,100グラムの放射性微粉が生成されるという計算になる。
0.01グラムの劣化ウランが体内に入ると健康障害が起こると言われている程であるから、参戦した米軍の兵士たちの間にたくさんの被害者が出たとしても決して不思議ではない。湾岸戦争の戦場では放射能の防護装備を携行してはいなかったからだ。インターネット上のある情報によると、帰還した従軍兵士の約30%はさまざまな症候に今も悩まされているとのことだ。
また、劣化ウランの微粉として論じられているが、そのサイズはどれほどかと言うと、数ミクロンのオーダーらしい。このサイズになると、容易に呼吸器系へ取り込まれてしまう。数ミクロンという大きさは今冬中国から飛来し問題視された黄砂の微粒子とほぼ同じか、その2倍程度の大きさに相当する。
アラニ医師が述べた「ファルージャでは広島での先天異常の出現率に比べて10倍も多い」という報告についても、11発の広島型原爆に見舞われた可能性を考えたり、劣化ウランの微粉化、ならびに、0.01グラムの劣化ウランであっても体内にとりこまれると健康被害を生じる可能性があることを考えると、汚染箇所が身近にあった場合にはかなり厳しい健康被害を招くことになるのではないか、と容易に推測できる。
写真で報告された赤ちゃんは命を持って生まれてきた赤ちゃんだ。しかしながら、その命を全うすることができなかった不運な赤ちゃんだ。アラニ医師の写真には数多くの先天異常の事例が収録されているという。その一枚一枚の写真に写されている赤ちゃんには何の罪もない。これらの赤ちゃんはこの世の不条理を精一杯抗議しているのだと理解しておきたい。そして両親や家族の深い悲しみについてもそれが受けるに値するだけの関心を我々は持ちたいと思うし、理解を深めていきたいと思う。 

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「私は当時、尾長町で助産婦を開業しておりました。尾長町の本通りをつきあたりまして、山へ向かって行ったら矢賀町でございます。爆心地より2キロメートルになります....」という記述で始まる資料[6]がある。
これは岡村ヒサ子さんという方が広島で自分が体験した事柄を語ったもの。助産婦という職業柄、岡村ヒサ子さんが語ってくれた体験内容は、公的な資料が極めて少ない中、広島での先天異常の実態を描写している貴重な資料のひとつだ。
彼女が語った先天異常は昭和30年頃までの話であるから、広島へ原爆が投下されてから約10年間のことだ。「奇形が沢山出ましたね」と言っている。兎唇、口蓋裂、肢指過剰(多指)、鎖肛(肛門がない)、耳のない子、足の指が長い子、内臓露出、無脳児(終戦後2-3年)、頭骸骨が固まっていない子(終戦後4-5年の頃)、等多岐にわたる。
ここに記述されている先天異常の内容はイラクからの報告内容と実によく一致する。
一方、日本の放射線影響研究所と称する公的機関が発表した「出生時障害(19481954年の調査)」はインターネット上で閲覧可能である(http://www.rerf.or.jp/radefx/genetics/birthdef.html)。その内容を見ると、その冒頭で「原爆被爆者の子供における重い出生時障害またはその他の妊娠終結異常が統計的に有意に増加したという事実は認められていない」と報告している。
「統計的に有意に増加したという事実は認められない」という内容は、我々一般人が理解している広島体験とは大きく異なるような気がする。この違いは何処から来るのだろうか。
上記の岡村ヒサ子さんは先天異常として生まれた赤ちゃんは沢山いたと言っている。また、闇から闇に葬られた赤ちゃんたちについても言及している。これらの赤ちゃんは上記の統計には到底入ってはいないと推測する。つまり、重症になればなるほど統計には表れにくくなるという状況があったと言えるのではないか。岡村ヒサ子さんが体験したような事例を余すことなく統計的に反映することができたならば、上記の「出生時障害(19481954年の調査)」はまったく違った結論に到達していたかも知れない。
 

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チェルノブイリでは先天異常はどういう状況だろうか。地元の医師たちが発表した論文や報告書を多数収録していることで有名な書籍「Chernobyl – Consequences of the Catastrophe for People and the Environment[7]76ページには下記のような記述がある。
新たな突然変異として定義される先天異常の発生件数は汚染度が1平方キロメートル当たり15キュリーを越す地域で有意に増加している。(1999年、Lazjuk他)
残念ながら、先天異常の症例やそれらに関する数値についての報告はない。また、「1平方キロメートル当たり15キュリー」という汚染度を福島周辺の汚染地域にどう当てはめたらいいのか、あるいは、どう比較したらいいのか、残念ながら私は適切な手法を今持ち合わせてはいない。

<追記 - 2013年6月10日> この「1平方キロメートル当たり15キュリー」とは旧ソ連が定めた汚染区域の中で「強制移住区域」と「補償付き任意移住区域」との境界を示す数値であることが分かった。ミリシーベルトの単位で言うと、「1平方キロメートル当たり15キュリー」の汚染度は年間被爆線量で5ミリシーベルトに相当するとのことだ。

一方、インターネットでは幾つかの報告がある。そのひとつはロイターが2010年に伝えた記事[8]で、「小児科学」と題する専門誌に掲載された論文を紹介している。それを取り上げてみたい。同記事は次のような事柄を紹介している。
新たな研究結果によると、1986年のチェルノブイリ原発事故で最も深刻な影響を受けたウクライナのある地域では特定の出生異常の発生率が通常よりも高いことが判明した。
この研究によって得られた知見は「小児科学」誌で報告されたが、同知見は2005年に国連が発表したものとは好対照である。国連が発表した内容はチェルノブイリの事故で放射能によって汚染された地域で出生異常や生殖毒性があったという証拠はないというものであった。
今回得られた新たな知見はチェルノブイリ原発事故によって慢性的な低レベル被爆を受けている地域では出生異常に関して継続的な調査を行う必要があることを示唆するものである、とこの調査を行った南アラバマ大学の研究者、ウラジミール・ワートレッキ博士は述べている。
同博士は2000年から2006年の間に西ウクライナのリブニエ地域に生まれた96,438人の子供たちの間で、神経管(「脊椎破裂」を含む、脳や脊椎の深刻な障害)に異常を持った子供の率がヨーロッパの平均値よりも高いことを確認した。リブニエ地域では1万人当たり22人に異常が認められた。これに対して、ヨーロッパでは通常1万人当たり9人である。
さらには、ポリッシヤ地域(ウクライナ北部とべラルース南部にまたがる地域)では、残りのリブニエ地域での1万人当たり18人の発症率と比べて、神経管の障害を持った子供たちは1万人当たり27人と高い値を示した。
上記の他に、ヨーロッパでは平均0.2パーセントの発症がみられる「結合体双生児」ではリブニエ地域では0.6パーセントと高かった。また、尾骨の先天的な腫瘍である「仙尾部奇形腫」では文書化されている0.25から0.5パーセントの発症範囲を超して、リブニエ地域では0.7パーセントを示した。
これら以外にも2種類の先天的な異常が確認されている。「小頭症」と「小眼球症」である。
これらの知見は「最終的なものではない」とワートレッキ博士は言う。この調査では調査上の制約から妊婦が実際に受けた放射能レベルについては詳細な調査が実施されたわけではない。
また、妊婦の食事内容についての調査も進んではいない。リブニエ地域で通常よりも高く確認された先天異常は、胎児がアルコールに晒された場合にも起こり得る。また、神経管の障害は妊娠初期におけるビタミンB群のひとつである葉酸の欠如でも誘発される。
「アルコール」と「葉酸の欠如」ならびに「低レベルの放射能被爆」がこれらの知見にそれぞれどれだけの影響を与えているのかについては何も明らかにされてはいない。三つの要因が重なってこれらの先天異常を引き起こしていることも考えられる、とワートレッキ博士は付け加えた。
チェルノブイリでの先天異常の研究は緒に就いたばかりのようである。今後の研究成果に期待したい。先天異常の研究が何故進んでいないのかという疑問があるだろうが、そのひとつの説明として、国連が2005年に行った発表が要因であると研究者らは指摘している。これは国連による発表は政治的にあまりにも偏向しているという批判であることは言うまでもない。
 

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福島原発のメルトダウンから2年半、日本ではこれからどのような健康被害が発生し、どのように展開するのかは誰もはっきりとは言えない。
そんな中、インターネットで誰でも検索できる情報のひとつ[9]に、「直接知っている都内の知人複数に身体の異常がではじめました....二十代後半の沼津市内の女性が、震災後 に妊娠が発覚し、順調と言われていたのですが、無脳児とわかり、堕胎しました。その沼津の総合病院では、一年に一例も無脳症はないそうです」という情報がある。
ここに、福島原発による放射能被害に関する科学的な報告には乗っかってはこないだろうと思われる事例が日本でも非公式な形で報告され始めた。非常に気がかりだ。これが私の実感である。
[9]で引用したブログの著者は最近Scientific Reports誌に発表された論文[10]を参照している(その表題を仮訳すると「福島および東日本におけるセシウムによる淡水魚の汚染」となる)。同論文には2011年に水産庁が実施した調査結果が収録されている。最も興味深いのは鮎の汚染結果を地図に表したものだ。その地図を下記に掲載してみよう。




この論文の著者が言いたいことは半減期が30年のセシウム137(測定方法の制約から半減期2年のセシウム134も含まれる)による汚染が人口が密集している東関東に広く分布しており、この鮎の汚染は東関東全域の水系の汚染を示しているという点にあるようだ。大小の河川の水が飲料水や水田の灌漑用水として広く活用されていることから、食生活全般に影響を与える可能性が今後長い期間にわたって懸念材料となる。非常に重要な課題だ。
この地図を見ると、東京や神奈川の水源地域も結構汚染されていることがわかる。
卑近な例を挙げると、群馬県北部の赤城山の近くに大沼という湖がある。大沼は冬のワカサギ釣りで賑わう場所でもある。この湖から流れ出る川はなく、周辺に降った雨はすべてこの湖に流れ込む。この大沼での冬のワカサギ釣りについては、放射能汚染によって、釣り上げても家へ持ち帰らないという処置がとられている。今後50年、100年とこの処置を継続しなければならないのかも知れない。
また、上記にあげたチェルノブイリの事例報告は原発から200キロも離れた低汚染地域についての報告でもあることから、これらの報告を勘案するとこの東関東全域の汚染は無視できない状況であるとも言えよう。更なる調査、正確な理解がますます大切になってくる。
最後に、先天異常に関しては、堕胎によって処理される先天異常も含めて、放射能汚染によると判断される事例はことごとく報告する義務を法律によって制定し、今後何十年間かにわたって全国の医療機関が正確な情報を集めるようにする必要があると思う。 

 

参照:

1: Iraq’s depleted uranium clean-up to cost $30m as contamination spreads: By Bob Edwards, guardian.co.uk, Mar/06/2013, www.guardian.co.uk › EnvironmentNuclear waste 

2Depleted Uranium: a legacy of treason: www.byronbodyandsoul.com › Articles 

3: Iraq: War’s Legacy of Cancer: By Dahr Jamail, Information Clearing House/Al Jazeera, March 19, 2013, www.informationclearinghouse.info/article34351.htm 

4Cancer, Infant Mortality and Birth Sex-Ratio in Fallujah, Iraq 2005–2009: By Chris Busby, Malak Hamdan and Entesar Ariabi, Int. J. Environ. Res. Public Health 2010, 7(7), 2828-2837; doi:10.3390/ijerph7072828

6: 助産婦としての被爆後:岡村ヒサ子 (1989年聞き取り)  http://onodekita.com/Files/20121013okamurahisako.pdf

7 Chernobyl – Consequences of the Catastrophe for People and the Environment: By Alexey V. Yablokov, et al., 2009

8Higher birth-defect rate seen in Chernobyl area: Reuters, April 2010
10: Overview of active cesium contamination of freshwater fish in Fukushima and Eastern Japan: By Toshiaki Mizuno & Hideya Kubo, Scientific Reports, 29 April 2013, www.nature.com/srep/2013/130429/.../full/srep01742.html

 

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