英米仏のシリアへの空爆は秒読みの段階に入ったようだ。大手メデイアは毎日のように何本もの記事を流して、その準備の様子をつぶさに報道している。
そのメデイアの報道振りには、10年前、イラクの石油資源を米国の利益のために取り込むために、「イラクは大量破壊兵器を所有している」、「イラクは世界貿易センタービルへ航空機を激突させたアル・カイダと関係を持っている」と米政府が喧伝し、それに乗っかって米メデイアがプロパガンダに加わり、それによって米国の世論をイラク戦争へと誘導して行ったあの頃を髣髴とさせるものがある。
米国のオバマ大統領は、「もしシリア政府が化学兵器を使用したら、それは米国が武力行使に踏み切る条件となる」と、かねてから公言していた。
8月21日、毒ガスの使用によって数百人の犠牲者が出たというニュースが世界を駆け巡った。たとえば、英国のデイリー・メール紙は当日朝の8時11分(GMT)には報道をしている[注1]。毒ガスの使用は8月21日の早朝に起こった。現地の活動家の弁によると、政府軍による神経ガスの攻撃によって、1300人が死亡した。
この報道には白い布でくるまれた無数の子供たちの死体の写真が何枚も含まれている。延々と続くこれらの写真を見ていると、「言語道断だ!」、「これでもか!」といった報道姿勢が見え隠れしているように感じられ、「いささか扇情的過ぎるのではないか」という印象さえも覚えた。
人道的な観点からはこのような虐殺は到底許されない。それは明白なことだ。しかしながら、問題はそこまで扇情的にならなければならない理由は何なのかという点にある。メデイア自身の単なる商業的な理由なのか、それとも、多くのメデイアが10年前のイラク戦争以来すっかりプレステイチュートと化してしまった結果なのか?あるいは、その両方か?
まず最初に必要なのは誰がこの大量虐殺を行ったのかという点だ。毒ガスの使用が政府軍によって行われたものか、あるいは、反政府軍によって行われたものかに関しては、現実には、明確な検証は未だ行われてはいない。
最近、国連の調査団がシリアへ入った。しかしながら、彼らの調査目的は化学兵器が使われたかどうかを検証するだけであって、誰が使用したのかを検証することは彼らの活動範囲からは除外されているとのことだ。イラク戦争においては、結果として、後になって、戦争理由がまったくの虚偽であったことが判明した。あのイラク戦争を通じて十分な学習経験を持つに至ったわれわれとしては、この国連調査団が置かれている現状は「シリアでの毒ガスの使用が検証されさえしたら、誰が使用したのかを宣言するのは俺たちに任せてくれ」と、誰かが背後から指示を出しているようにさえ見えてくるほどだ。
遺憾ながら、国連の調査は、政府軍にその責任を押し付けることを意識したものであると言えるのではないだろうか。国連調査団に与えられた使命は中立が求められている国連の行動としては余りにも不可解である。この空爆に直接参加しない国々や積極的に反対している中国やロシアならびにイランに対して、米国とその同盟国は国連による調査を実施したとする詭弁のためでしかないのではないか。国連は、昨今、そこまでないがしろにされている。
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現在入手できる情報に基づいて私が到達した結論は、政府軍が毒ガスを用いたと喧伝されてはいるが、実際には、反政府軍による「自作自演」ではないのかという点に収束する。
私をそのように思わせた幾つかの情報を下記におさらいしてみたい。
8月21日:
ロシアのニュース専門局のRTは下記の内容[注2]を報道した。
ダマスカス近郊で起こった化学兵器の使用に関しての「偏向した地方メデイア」による報道は「事前に計画された挑発行為」である、とロシア外務省の報道官、アレクサンドル・ルカシェヴィッチが語った。「この報道は偏向した地方メデイアが、あたかも誰かの命令の下にあるかのように、政府側にその責任のすべてをなすりつけようと、その直後から積極的な情報攻撃を始めたという感じを与えている。」
ロシア外務省は、その情報源を引用しながら、化学物質(まだ解明されてはいないが)を搭載した手製のロケットは反政府軍が占拠している地域から発射されたと述べた。「有毒物質を搭載した今回の手製ロケットは反政府軍が制圧していたカーン・アル・アッサル(ダマスカスの近郊)において3月19日に反政府軍によって使用されたロケットと非常に類似している」
と、ルカシェヴィッチ報道官が述べた。
ユーロニュースは次の内容を報道した[注3]。
シリアで化学兵器が使用されたとの報道がビデオで世界中に流された中、専門家の中にはそれらの主張に十分な信憑性があるだろうかと疑義を挟む者もいる。
ステイーブン・ジョンソンは英国のクランフィールド法医学研究所で兵器や爆薬を専門として研究しているが、患者の症状には辻褄が合わない点があると彼は述べている。
幾つかのビデオを見ると、そこにはいささか現実離れしたような事例があり、ほとんど「やらせ」ではないかと思わせるような感じだ。これらのすべてが偽情報だと言うものではないけれども、懸念を生じさせる。何人かは確かに泡を吹いているが、その泡が余りにも白く、純粋過ぎる。これらは、通常見られるような体内の損傷によって現れる症状とは矛盾している。普通観察される症状はもっと血が混ざっていたり、黄色っぽいものとなる筈だ、とジョンソンが述べた。
多くのビデオが示す内容は、神経系に起こる症状と一致するとは言え、この事件が化学兵器によるものだと結論付けるのは時期尚早だ、とジョンソンは語った。
8月22日:
ウオールストリートジャーナル[注4]は、下記のように報道した。
シリアの反政府派は、21日、政府軍が同日未明に首都ダマスカス近郊で毒ガスを使用し、これによって1000人以上が死亡したと発表した。現場は、国連の化学兵器調査団が拠点としているところから8―16キロの地点。これが事実であるとすれば、シリア内戦開始以来最も大規模な化学兵器の使用となる。
シリア政府軍はダマスカス周辺で反政府軍側に対する新たな軍事作戦を開始したが、毒ガスの使用を否定し、反政府軍側が国際的な支持を得るために話をでっちあげたか、自作自演の攻撃を行ったかのどちらかだと反論した。
また、次のような情報もある。これはインターネット上に過激派によって掲載された10本のビデオに関してヒズボラーの機関紙が公表した情報をヴォイス・オブ・ロシアが英文で報道したものだ[注5]。
イスラムの文化や宗教を扱うウェブサイトであるIslamic
Invitation Turkeyの主張によると、シリアのダマスカス近郊における化学兵器の使用を示す幾つかのビデオは化学兵器が実際に使用された日の前日にインターネット上に掲載されていた。これは過激派が住民を虐殺し、世界を騙すためにその状況を記録したものの、自ら馬脚を現してしまったことを示しているいい証拠だ。シリアのテロリストたちはダマスカス近郊のゴウタ東部で起こした自分たちの犯行を記録したビデオを2013年8月20日にはインターネットにアップロードし、2013年8月21日早朝の化学兵器による攻撃はシリア政府が行ったものだと非難した、とIslamic
Invitation Turkeyがそ のウェブサイトで述べている。
この証拠は大量虐殺はテロリストたちによって実施され、彼らがこの大量虐殺を何としてでも政府軍側になすりつけようとしたことを示すものだ。
この記事に掲載されている写真をここに転載する。アラビア語であるが、確かにビデオ掲載の日付は2013年8月20日となっており、これは化学兵器が使用された8月21日の前日である。驚くべき情報だ。
また、この一日前に報道してしまった勇み足にはアル・ジャジーラとロイターが絡んでいた。この問題のビデオは下記のYouTubeのサイトで確認することができる。http://youtu.be/cO8_eZcZkNE
8月24日:
ロシアのニュース専門局RTは、シリア政府軍はダマスカス近郊で反政府軍によって化学兵器攻撃を受けた、と報道した[注6]。これは8月21日の化学兵器攻撃とは別個のものだ。下記のような内容である。
ダマスカスの近郊、ジョバールで反政府軍が政府軍に対して化学兵器を使用した。この場所では、政府軍側は対化学兵器用の解毒剤の在庫を発見したと、RTが報道。
「公の情報源」を引用しつつ、SANA(訳注:SANAとはSyrian Arab News Agencyの短縮形)はシリア軍の兵士の間には呼吸困難な状態が生じたとの報告を受けた。
情報筋によると、シリア軍の部隊はこの地域に入って行ったが、そこで兵士たちは攻撃を受けた。しかし、倉庫を取り押さえた。その倉庫には「KSA製」とのラベルがついた材料や大量の保護マスクが見つかった。
それに加えて、(直訳すると)「薬品産業のためのカタール・ドイツ企業」というラベルが付いた化学兵器用解毒剤も見つかった。
ジョバールでの反政府軍と政府軍との間の衝突はかねてから報道されていた。
上記に報道されている内容に「KSA製」とあるが、この「KSA」が何を意味するのかは私には不明だ。一方、解毒剤のメーカーあるいは販売会社はカタールの企業のようだ。カタールと言えば、シリアの反政府軍側に大量の資金を提供している国である。
8月25日:
「国境なき医師団」について非常に興味深い情報がある[注7]。その仮訳を下記に示そう。
シリア政府がたくさんの市民に対して化学兵器を使用したとする西側の「報道」は今までのところすべてが「国境なき医師団」の情報に基づいている。「支援グループによってその詳細が報告された化学兵器攻撃」と題したニューヨーク・タイムズの記事は次のように報告した:
国際的な支援グループは、土曜日(訳注:8月24日)に、ダマスカス近郊の化学兵器が使用されたと見られる現地にて支援活動を行い、報告された攻撃のあった朝3000人の患者を受け入れた。これらの患者たちは皆が神経ガスに暴露された症状を見せていた。これらの患者のうちで355人が死亡したと「国境なき医師団」が語った。
この発言は首都ダマスカスの北東部近郊で水曜日(訳注:これは「水曜日」ではなく、8月21日の「火曜日」の誤りであると思われる)に行われた攻撃に関してシリア国内で活動している国際的支援組織が発表した最初のものである。
西側の報道ではこの組織は「独立した組織」として記載されることが多いが、この記述は真実とはかけ離れたものだ。
まず、「国境なき医師団」はウオール街やロンドンの企業投資家あるいは海外政策(シリアやその隣のイランにおける政権の移行といった政策を含む)に関与する集団とほぼ同義語である企業からそのすべての資金を提供されている。「国境なき医師団」の年次報告書(2010年の報告書はここからアクセス可能)を見ると、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴー、シテイグループ、グーグル、マイクロソフト、ブルームバーグ、ミット・ロムニーのベイン・キャピタル、ならびに、その他たくさんの企業や投資会社が資金の提供者として名を連ねている。「国境なき医師団」の役員会には投資家が含まれ、そこにはゴールドマン・サックスのエリザベス・ベシェル・ロビンソンも含まれている。
「国境なき医師団」のいわゆる「独立性」や「支援」をさらに複雑にしている要素はこの組織の医療施設がシリアのテロリストたちに占拠された地域に設定されているという事実であり、特に、NATOのメンバーであるトルコとの国境に近いシリアの北部地域にあるという点だ。NPR(訳注:NPRは米国のNational Public Radioの略)とのインタビューにおいて、「国境なき医師団」のステイーブン・コーニッシは彼の組織がシリア紛争にどにように関与しているかその性格を述べた。それによると、支援物資はシリア政府軍が占拠している地域外(訳注:つまり、反政府軍が占拠している地域)へ送付され、同組織はこれらの反政府軍地域で医療施設を設定していると述べた。また、コーニッシは下記の状況を認めた:
最近の何ヶ月かの間にわれわれは洞窟の中で手術用施設を開設したり、養鶏場にも開設した。三番目の施設は民家だ。こういった組織で、われわれは十分に近代的な技術や必要な全領域をカバーする医療チームを提供することができるように全力をあげている。元来の目的は、戦闘員の負傷に対処し、紛争によって直接の影響を受けた市民を治療することだ。
言葉を換えて言えば、ウオール街から資金提供を受けるこの組織は西側の諸国によって資金や武器を受け取っている武装勢力に対して支援を行っているということになる。そして、そのほとんどはシリア人ではなく外国からやってきた連中であって、アル・カエダと近かったり、直接そのメンバーだったり、あるいは、事実上の政治団体であるムスリム同胞団に所属していたりする。このいわゆる「国際支援」組織は、実際には、シリアに対抗することになった軍事的マシーンのもうひとつの歯車であって、医療部隊としての役割を演じているのである。
「国境なき医師団」による公式声明には下記の事項が報告されている:
「2012年以降、MSF(訳注:これはフランス語表記の「国境なき医師団」の略語)はダマスカス行政区域にある医療ネットワークや病院ならびに医療拠点としっかりした信頼の置ける協力体制を築いてきた。彼らには医薬品や医療器具を提供し、技術支援を行ってきた。 しかしながら、安全上のリスクがあることから、MSFのスタッフはこれらの施設には近づくことはできなかった。」
さらに、「MSFはこれらの症状を引き起こしたそもそもの原因を科学的に究明することはできないし、誰がこの攻撃を行ったのかを確認することもできない」と、ジャンセンズ医師が述べた。
「国境なき医師団」とはどういう組織なのかについてはついぞ調べることはなかったことから、私は、正直言って、上記の記事の内容には驚かされた。この記事の著者は同組織は戦争マシーンの一部であるとまで言っている。
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私の判断として、シリアでの化学兵器の使用は反政府側が行ったものだと断定した。この断定はそれが完全に覆されるまではそのまま有効だ。果たして、そのような情報が出てくるのだろうか。
米英仏がシリアの空爆を急ぐ理由はかれらの持論が完全に反論されるのを避けようとするゴリ押しではないだろうか。そんな気がしてならない。皆さんはどうお思いだろうか....
参照:
注1:Syria’s darkest hour: Hundreds of children’s bodies piled
high after nerve gas attack near Damascus leaves up to 1,300 dead: By Sam Webb, Daily MAIL, 08:11 GMT, 21 August 2013
注2:Russia suggests Syria 'chemical attack' was 'planned provocation' by rebels:
RT, Aug/21/2013, http://on.rt.com/xwwmub
注4: シリア政府軍が毒ガス使用と反体制派発表―1000人以上死亡: ウオールストリートジャーナル、2013年 8月 22日、www.jiji.com > ホーム > ウォール・ストリート・ジャーナル
注5:News of chemical weapons attack in Syria published one
day before massacre happened - Islamic Invitation Turkey:By Voice of Russia, 22 August,
12:03 16, voiceofrussia.com/news/.../News-of-massacre-in-Syria-publish…
注6:Syrian rebels use toxic chemicals
against govt troops near Damascus - state media: By RT, August 24, 2013 10:12 , http://on.rt.com/i3ha5r
注7:“Doctors” Behind Syrian Chemical Weapons Claims are Aiding
Terrorists: By Tony Cartalucci, August 25, 2013, landdestroyer.blogspot.com/.../doctors-behind-syrian-chemical...
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