2015年9月19日土曜日

14兆ドル – 2014年の全世界における戦争の代償



最近の米国は戦争に首まで浸かったままである。しかも、何年も続いている。

米経済の50パーセントは軍産複合体とそれに関連するサービスが占めると言われている。どこかで戦争をしていないと、米国の経済は動かない程である。

米国の2014年の軍事予算(5,810億ドル)は二番手の中国(1,290億ドル)を始めとした9か国(中国、サウジアラビア、ロシア、英国、仏、独、日、インド、韓国)の軍事予算の合計(5,660億ドル)を越す。中国の軍事予算は米国のそれの22パーセントに相当するに過ぎない。調査の対象となった残りすべての156ヵ国の軍事予算の合計は3,420億ドルである [1]

そして、不幸なことには、戦争による破壊活動は今年も続いている。
武力紛争はすべてを破壊する。住居、学校、病院、公共施設、道路、橋、鉄道、空港、上下水道、通信施設、等、ありとあらゆる構造物が破壊されてしまう。そして、何よりも悲惨なことは庶民の生活を破壊してしまうことだ。
シリア紛争で破壊された市街地の様子は凄まじいばかりだ。生命の危険を感じて国外(トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、およびエジプト)へ逃げ出したシリア市民の数は4百万人、長年住みなれた故郷を離れて国内で移動した市民は7.6百万人に達すると伝えられている。合計で、千2百万人に近い。死者数は32万人に達する。さらに、行方不明者や記録されてはいない死者が9万から11万人もいる。

「シリア紛争はプーチン抜きでは解決はできない - ドイツの政治家の弁」と題された913日の「スプートニク」の記事にはすっかり破壊された街の写真が掲載されている。街の名前は分からない。まさに瓦礫の山である。

 Photo-1: 瓦礫の山 © AFP 2015/ ABD DOUMANY 

この種の写真は嫌と言うほど見てきた。ボスニア・ヘルツエゴヴィナで、アフガニスタンで、イラクで、ガザで、リビアで、ウクライナのドネツク・ルガンスク両州で。そして、今、イエメンで。

紛争の当事者間で和平が実現したとしても、街の再建には莫大な費用と長い時間を必要とする。砲撃を受けて負傷した人の経済的損失や心的苦痛は想像する術もない。働き手を失った家族の苦難は計り知れない。

別の記事 [2] を見ると、2014年中の全世界での戦争による代償は14兆ドルに達すると報告している。

この14兆ドルという金額はいったいどれほどの額なのか私にはとても実感が湧かない。

これは全世界のGDP13パーセントに相当し、英国、フランス、ドイツ、カナダ、スペインおよびブラジルの経済規模の合計値にほぼ匹敵するという。仮にこの14兆ドルの10パーセントだけでも節減することができたとすれば、それだけで破産寸前のギリシャの負債を6回も繰り返して支払うことができるという。国の借金の総額をGDP70パーセントのレベルへ引き下げるために、ギリシャは2,120億ドルの融資を必要とする。昨年全世界が被った戦争による代償の10パーセントは1.43兆ドルに相当。さらに、その6分の12,383億ドルとなる。これだけあれば、EUをあれだけ騒がせたギリシャの救済には十分だ。

基礎的な大小関係を上記のように大雑把に把握した上で、二番目の記事を仮訳し、皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>



Photo-2: 米兵士の墓を訪れる家族

新しい報告書が金曜日(2015619日)に公開された。それによると、2014年の世界における戦争の代償は14兆ドルに達するという。

経済平和研究所(IEP)が作成した本報告書は、シリアやイラクおよびアフガニスタンでの紛争が世界における死者の殆んどをもたらす要因になったと報告している。

この報告書によると、シリアは地球上でもっとも平和に欠けた国であると位置づけられ、イラクとアフガニスタンがこれに続く。米国はこれら3カ国の戦争のすべてに関与している。「10年前は年間平均でテロリストの攻撃による死者はせいぜい2千人のレベルであったが、昨年は2万人が死亡した。」と、同報告書は述べている。

「世界平和度指数」報告書は戦争による代償は全世界のGDP 13パーセントにも達し、これは英国、フランス、ドイツ、カナダ、スペインおよびブラジルの経済規模を合計した値にほぼ匹敵すると報告している。

ムサブ・ヨセフはツイッターに下記を掲載している。pic.twitter.com/0rej5PF0Ze — Musab Yousef (@musabyousef1) June 18, 2015


経済平和研究所(IEP)報告によると、全世界の戦争による代償は14兆ドルに達する。


Photo-4: 戦争が世界経済に及ぼす影響 

経済平和研究所の創立者であり所長でもあるスティーブ・ギラレイは「世界中の戦争を均等に10パーセント程小さくすることができるとしたら、1.43兆ドルもの富が世界経済に追加されることになる…」と述べている。

2014年は矛盾に満ちた1年であった。OECD加盟諸国は歴史的に見てもより高い平和度を実現した。その一方、紛争国では、特に、中東では武力紛争が今まで以上に激しくなった。この状況は非常に深刻である。これらの紛争はますます解決が困難となり、テロリズムは他国へと広がって行く」と、ギラレイは付け加えた。

世界でもっとも平和な国はどこか? http://t.co/KXt1PoratJ #peace @GlobPeaceIndex pic.twitter.com/gIvitYCG1j世界経済フォーラム (@wef) June 18, 2015

2008年から毎年発行されている「世界平和度指数」は23個の指標、ならびに、「社会の安全とセキュリティーのレベル」、「国内や国外での紛争」および「軍事化の度合い」といった三つの重要なテーマを用いて算出される。

武力紛争によって死亡した人の数は2010年の49,000人から2014年には180,000人に急増した。中東や北アフリカでは2008年に平和度指数が公開されてから最悪の年となった。 

La nueva Televisión del Sur C.A. (TVSUR) RIF: G-20004500-0

この記事は最初にteleSUR [訳注: ベネズエラに所在するメディア] によって下記のサイトに掲載された: 
この記事を使用する際には情報源を記述し、オリジナルの記事とのリンクを示してください。www.teleSURtv.net/english
La nueva Televisión del Sur C.A. (TVSUR)

<引用終了>


あれだけ大騒ぎをしたギリシャに対する融資パッケージを(数字の上では)こうも簡単に充当することができるのだとすれば、ウクライナの救済なんて容易いことなのではないか。ウクライナの場合、融資必要額は、少なくとも、計算上では一桁も小さいからだ。

要は政治だ。如何に健全な政治を行うことができるかということに尽きる。

残念ながら、いつの時代にも戦争をしようとする国はある。誰かが言った。「戦争ほど大事な政治的行為はない」と。頷けるような気もするが、この論理は完全に覇権国側の論理である。

しかしながら、戦争を遂行する側の負担も無視することはできない。率直に言って、米国の今日の姿を見ると、そのことが良く分かる。非生産的な戦争を継続することによって、米国の経済は軍事産業だけに頼る経済と化しており、国家財政は破産寸前である。

「今日の米国は西暦460年のローマ帝国だ」と誰かが論評した。国家の変革を求める真面目な政治家もたくさんいるのだが、戦争経済にうつつをぬかし、強硬路線を叫ぶ政治家は大衆に受けるのが常である。こうして、変革には失敗し、ローマ帝国は崩壊した [3]

日本は日露戦争(1904~1905年)を遂行するために、戦争の開始前からロンドンで外債の募集を試み、多額の借金をして、戦争のための資金を確保しなければならなかった。戦費は19.8億円となり、これは1904年度の政府歳出額である2.2億円の8.9倍に相当。つまり、9年分の国家予算に相当するほどであった。

日露戦争の終結の交渉過程では、日本は戦費に相当する賠償金をロシアから奪おうとしたが、賠償金を手にすることはできなかった。日本国内では「ロシアに勝った!」として大騒ぎをしていたが、国際的には必ずしもそのようには評価されていなかったということだ。日本は負けないで済んだ、あるいは、引き分けに終わったということに過ぎない。

そして、日本は日露戦争での借金を返済するのに80年もかかった。借金は金利を含めて何倍にも膨らんだのである。

第一次世界大戦で敗戦したドイツは戦時中の借金を返済するのに92年もかかった(2010年まで)。これは日露戦争が日本に与えた影響と同程度の年月だ。

英国政府は、昨年10月、第一次世界大戦時に発行した戦時公債を100年たった今(20152月)償還することに決めたそうだ [4]。この戦時公債は償還期限がないことから、「永久債」とも呼ばれていた。昨今は金利が安い。相対的に高い金利の100年前の公債を償還して、もっと安い金利の国債を新たに発行しようということだ。政府にとっては、利払いを縮小するための策である。

「世界でもっとも平和な国はどこか?」のサイトを覗いてみると、日本は平和度指数が高く、トップの10ヵ国に入っている(8番目)。

しかし、この夏日本の政治は軍事化の傾向を強めている。中国や韓国およびロシアとの領土問題で敵対関係を続け、海外の戦争へ日本の自衛隊を派遣することができる体制の整備に身をやつしている。こうして、日本は「軍事化の度合い」を高めていると見られ、三つの重要なテーマのひとつで平和度の評価がさがるのではないだろうか。来年の平和度のランキングではトップ・テンから脱落するのかも知れない。

政治的には非常に不健全であると言いたい。


♞  ♞  ♞

我々一般庶民の目にはつきにくいことではあるが、借金の返済で苦労した各国の歴史を読んでみると戦争の惨たらしさを改めて痛感させられる。

そして、今の日本政府が抱えている債務はどのように返済していくのだろうかと考えさせられてしまう。

日本政府の債務総額は膨らむばかりで(2014年度の国債残高は885兆円)、減少の兆候はない。2014年度の国債残高は対GDP比で181パーセント。そして、日本の人口は減り続け、GDPは縮小の方向にある [注:これらの数値はウィキペディアによる]

戦場となった国や兵士を送り出した国では一番苦労させられるのは決まって一般大衆である。このことを忘れてはならない。幸いにも戦争を生きながらえることができたとしても、何十年にもわたって多額の税金を課され、支給される年金は雀の涙ほどでしかない。

要するに、戦争は非常に長い年月にわたって国民に負の影響を与えるのだ。


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日本政府は対外派兵や集団的自衛権の行使を容認しようとしており、本日、919日未明、安保関連法は参院本会議を通過し、可決された。

将来の日本を考える時、この安全保障関連法案は果たして賢い選択であるのかどうかを即断することは生易しいことではないが、少なくとも、米国の戦争に日本の自衛隊が参加する道を開くこの法案は日本が太平洋戦争以降70年間求めてきた平和国家、戦争を放棄する国家を希求することからの決別であると言える。この安保関連法は「将来の日本が生き残る道は米国の戦争に加担することしかないのだ」と言わんばかりだ。

しかし、本当にそうなにだろうか。決してそうではないと思う。

世論調査によると、有権者の3分の2は反対しているのである。世論が反対するこの法案を成立に導いた現内閣は「悪い内閣」の見本として歴史に名を残すことになるだろう。また、政府の言うことを無批判に右から左へ流してしまうような主要メディアはその存在理由が疑われる。ニュースを取り扱うメディアとしての基本的な機能を放り出してしまったのである。

「だからどうなんだ」と開き直らずに、我々一般庶民はますます広く、そして、ますます深く勉強し続けなければならない。幸いなことには、理解を深めるために必要な情報はいくらでも入手することが可能だ。


参照:

1This map shows how the rest of the world doesn’t even come close to the U.S. military spending: By Amanda Macias, “teleSur”, Feb/24/2015

2Global Cost of War Was 14 Trillion Dollars Last Year: By “teleSUR / mh-CM” and “Information Clearing House”, Jun/20/2015

3: It’s 460 AD in Rome: This won’t be fixed: By Paul Rosenberg, Information Clearing House – FREEMANSPERSPECTIVE

4UK bonds that financed first world war to be redeemed 100 years later: By Julia Kollewe and Sean Farrell, Oct/31/2014, www.theguardian.com > Business > Bonds




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