2015年9月12日土曜日

ピーター・ケーニッヒとのインタビュウ - 対ロ経済制裁、中ロ協力と世界経済の地殻変動、および大国



今ルーマニアの首都ブカレストに住んでいる小生にとっては、隣国のウクライナで続いている血なまぐさい内戦は気が気ではない。

この内戦が核大国である米国とロシアとの間の直接的な武力衝突になってしまうのではないかという懸念は、それを積極的に否定する答えがまったく見つからず、既に1年以上も経った今もその状況はまったく変わってはいない。最悪の場合、行き着く果ては核戦争である。そうなってしまうと、ウクライナの近くに住んでいようが、ウクライナから一万キロも離れた日本に住んでいようが、結局はそれほど意味のある違いはないのではないか。

インターネットを通じて観察できる英語世界での論調を見る限りでは、核戦争の脅威を論じる記事は昨年の夏よりも、今年の夏の方が遥かに多くなっている。多くの戦争を経験しているヨーロッパでは、「戦争は夏に始まる」という経験則がある。ウクライナの内戦に関して今後の展開は確かにこうなるとは誰も言えないことではあるが、ますます多くの人たちが近づきつつある危険を嗅ぎ取っているみたいだ。非常に不気味である。

今夏、ヨーロッパには新しい、大きな社会現象が出現した。それはイラクやシリアからの難民が急増したことだ。トルコからギリシャ、マケドニア、セルビアを通ってEU圏のハンガリーへ、その後はオーストリアを経由してドイツへ入ることができる。あるいは、地中海を船で横断し、イタリアへ渡るルートもある。戦禍にさらされ、家族のメンバーや自分自身の命を守るためにシリアを離れざるを得なくなったとか(真の意味での難民)、より良い経済的可能性を求めてとか(経済難民)、個々の難民が持つ理由はさまざまだ。大部分はトルコの難民キャンプに収容されている2百万人の難民の一部が移動をしているのであって、新たにシリア国内から難民が移動しているのではないとの指摘もある。

イラクを出発してドイツに到着した難民のひとりは、「72日もかかった」と言った。

中には、イスラム国からの5人のテロリストの例もある。彼らは難民を装ってブルガリアへ入ろうとしたが、ブルガリアの国境警備隊によって逮捕された。831日のニュースだった。一口に難民と言っても、その中身は雑多である。人道的な観点から公的な支援を差し伸べてやりたい難民も多くいる。ブルガリアからのニュースが示すようにイスラム国からのテロリストもいる。

イスラム国はテロリストを難民に紛れ込ませてヨーロッパへ送り込んでいるのではないのかという憶測が出回っている。しかし、武器も持たせずに、組織化することもできない状態でテロリストを送り込むという手法は軍事的な効率が余りにも悪いので、とても実際的とは思えないと指摘する識者もいる。この種の憶測はメディア特有の情報操作の一部かも知れない。

かっては、イラクには周辺諸国からたくさんの留学生がやってきていた。それだけ、イラクの教育制度は進んでいたのである。しかし、イラク戦争とそれ以降の破壊に次ぐ破壊によって、イラクを見捨て、新天地を目指す若者や家族は多い。また、リビアはかっては北アフリカ諸国の間では抜きんでた経済力を誇っていたものだが、米国およびNATOによる空爆によってカダフィ政権は崩壊し、インフラが破壊された。今や地方の武装勢力が跋扈する無政府状態に陥っている。シリアでは、西側に支援された反政府勢力とシリア政府軍との戦闘が今も続いており、激化するばかりである。

中東から北アフリカにかけての広大な地域には難民を創出する環境が整っている。

この夏、EU各国においては押し寄せる難民を目前にして、難民に対する否定的な反応が高まった。経済的負担とか、予想される将来の治安の悪化とか、悪化する失業率とか、あるいは、漠然とした外国人恐怖症とか、伝染病が始まるかも知れないとか、背景にはさまざまな理由がある。個々の理由が妥当なものであるかどうかは分からない。無知から来る理由もあるだろうし、メディアによる宣伝の結果形成された思い込みもあることだろう。そして、そこへは政治も入り込んで来る。与党の無為無策がこれらの問題をもたらしたとして、野党は政府を攻撃し始める。各国は入国管理を厳しくして、何とか防戦をしようとする。メディアにとっては、恰好の新しいテーマが出現した。彼らはさらに火に油を注ぐ。

イラクやリビアおよびシリアの国々のインフラを破壊し、経済をすっかり破壊したのは元をたどれば西側の自分たちであることをまったく忘れてしまったかのようでさえある。こうして、米国主導の難民製造装置は今日もシリアでフル操業を継続している。

最近、シリアからの難民家族を乗せてトルコから目と鼻の先にあるギリシャの島へ渡ろうとしたボートが転覆した。3歳の男の子が溺死。彼の兄も、彼の母親もだ。父親だけが助かった。この家族はすでにカナダに住んでいる親戚を頼って、カナダへ移動する途中だったという。赤いTシャツと青いショーツを身に付け、スニーカーを履いた男の子の遺体がトルコでは高級リゾート地のひとつであるボドルムの町の近くの海岸に打ち上げられた。その写真がインターネットに掲載され、ツイッターで瞬く間に広く拡散された。この男の子の遺体の姿は誰の目にも衝撃的だった。これは市民の同情を呼び、さらには、ヨーロッパの政治を動かす切っ掛けとなった。
そして、94日の真夜中、オーストリアとドイツの国境が難民のために開放された。
ドイツは80万人の難民を受け入れると表明している。


       

傾き始めた「豪華客船」に乗っているあなたや私の耳には依然としてオーケストラが奏でる甘い調べが聞こえている。本当にこのまま沈んでしまうのか、それとも、傾きながらも何処かの港へ辿りつくことができるのか。それは誰にも分からない。そうかと言って、船長や乗組員の説明や指示なんてとても信用できない。自分の判断に頼るしかないのだ。

問題は、ひとたび米ロ間の核戦争に発展すると、「核の冬」によって世界中のどの港も壊滅してしまう。寄港できる場所なんてありはしない。結局のところ、そこには勝者も敗者もいないのだ。何よりも確実なことは相互確証破壊の世界が待っているだけとなる。

それでも、あなたはこの「豪華客船」が宣伝する素晴らしい船の旅に出たいと思いますか?

言うまでもなく、この「豪華客船」とは米国が唱導する「新自由主義」あるいは「グローバル・キャピタリズム」のことであり、覇権国としての米国の「対外政策」のことでもある。あるいは、それらすべてのことだ。この1年、この豪華客船のオーケストラが奏で続けてきた調べは決まって「対ロ経済制裁」であり、「傀儡政権の樹立」であった。

一方、ロシアは手をこまねいてはいられない。祖国防衛のための戦争を準備するしかない。その対象には米国ばかりではなく、ヨーロッパや日本も含まれる。ルーマニアもNATO加盟国のひとつである。軍港やミサイル基地は核攻撃に晒されることになるだろう。ロシアは中国との連携を着々と強化している。インドやイランを迎え入れて上海協力機構を拡大しつつある。さらには、BRICS圏の勢力をさまざまな手法で強化している。政治面でも、金融面でも、そして、軍事面でもだ…

世界の秩序が今大きく変わろうとしている。


       

ここに、Sakerというブログ・サイトが掲載した「ピーター・ケーニッヒとのインタビュウ - 対ロ経済制裁、中ロ協力と世界経済の地殻変動、および大国」と題する記事がある [1]

それを仮訳して、この専門家が描く世界情勢の展望を少しでも学んでおきたいと思う。ピーター・ケーニッヒはこの方面の専門家であるだけに、この記事は我々素人が揺れ動く国際政治の全体像を学ぶには格好の材料だと思うからだ。


<引用開始>

The Saker: ロシアは経済制裁には今どのように対応していますか、また、その将来はどのようなものになると思いますか? 

Peter Koenig: まず、「経済制裁」とは何か、から始めてみましょう。経済制裁とは「帝国」の君臨に従わない国に対して「帝国」を自称するワシントン政府ならびにそれに追従するヨーロッパによって課される(経済的な)罰のことです。現実には、それだけではなくて、もっとたちが悪い。自分たちが損害を被ることになるにもかかわらず、意気地のないヨーロッパの操り人形たちはこれに参加しました。参加しなければ、「帝国」によって自分たちが制裁を受けるからです。幾つかの例が示していますが、彼らは非常に従順です。たとえば、対ロ経済制裁で観察されているように、自分たちの(経済的および政治的な)国益に反してでも対ロ経済制裁を推進し、戦場からはずっと離れた場所、つまり、大西洋の向こう側に位置している覇権国に喜んで貰おうとしているのです。覇権国は、いつも、実際の戦争行為が行われる場所からは遠く離れた場所に位置しているので、実際に爆撃を受けたり、傷を負うのは他国の連中ばかりとなります。

代表例: 第一次および第二次世界大戦。ふたつの世界大戦の誘発要因は米国にありましたが、戦闘はヨーロッパで行われ、ヨーロッパをすっかり破壊しました。現行の「ウクライナ危機」はどうかと言うと、すべてがワシントン政府によってでっち上げられ、けしかけられたものであって、もうひとつの世界大戦に発展するかも知れません。恐らくは、好むと好まざるとにかかわらず、われわれの文明の最後の大戦となることでしょう。ワシントンはロシアのプーチン大統領を侮辱する際には一撃だって仕損じることはなく、ウクライナのために鳥肌が立つようなパワー・ゲームを大っぴらに繰り広げています。ウクライナでは、オバマの取り巻きたちがヨーロッパの追従国と共にクーデターを組織化し、民主的な選挙で選出されていたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を引きずりおろし、その代わりに、犯罪者や殺人者的なネオナチ政府をキエフ政権の座に据えました。

根底にある考えは今までのすべての協定を破り、ウクライナをNATOの一員として、ウクライナの土地が持っている豊富な資源を略奪することです。ウクライナは何百年にもわたってヨーロッパの穀倉地帯という地位を誇ってきました。特に、旧ソ連邦やその後に続くロシアにとっても同じことです。ウクライナは鉱物資源や天然ガスを含め、天然資源が豊富です。1.2兆立方メートルの天然ガスの埋蔵が推測されており、ウクライナはヨーロッパでは3番目に大きなシェールガス資源を持っています。シェールガスは「フラッキング」と呼ばれる、いろいろと議論が分かれ、社会環境的には優しくない方法を用いて生産されます。

米国経済はその多くの部分が戦争関連産業に依存しており、米国は何時も何処かで戦争をしていることが必要となります。米GDP50%以上は軍需産業やそれと関連する産業およびサービスに依存しています。今、世界中にはほとんど無数とも言えるほどの紛争がありますが、オバマ政権の自慢好きな連中は「帝国」のために、現在、七つもの戦争に参画し、戦争をそそのかし、代理国による戦争に資金を注入し、戦争を継続しています。しかし、プーチン大統領はそう簡単に罠に陥るようなことはしません。事実、有難いことには、ウラジミール・プーチンの秀でた戦略的思考や外交手腕によって世界は、特に、ヨーロッパは今のところ第三次世界大戦に突入せずに済んでいます。100年以内には第三次世界大戦が起こるかも知れませんが… 

ロシアこそが血なまぐさいウクライナ紛争の発端となっていることを全世界に信じ込ませようとして、対ロ経済制裁が発動されました。プーチンを中傷し、侮辱し、非難しなければならないのです。「帝国」のむきだしの言葉は、政治家がそれを信じようが信じまいが、西側の新自由主義的な環境では今もそれ相当の影響力を持っています。彼らは、一般市民が裸の王様の新しい服が気に入ったのと同じように、それを信じてしまうのです。経済制裁はロシア市民を経済的に罰し、国内で謀反を誘発し、「政権の交替」につながるだろうという筋書きでした。でも、これとはまったく逆のことが起こったのです。プーチン大統領は選挙によって民主的に選出されている一国の指導者の中では全世界でダントツの85%もの支持率を謳歌しています。

ふたつ目の問い掛けは、「いったいどうして米国だけが経済制裁を課すことができるのか?」という点です。それは、こういうことです。第二次世界大戦後、米国はブレトンウッズ会議へ各国を招いて、世界銀行やIMFを設立しました。米国はすでにひとつの考えを持っていたのです。それは、金融上の武器を駆使して世界に君臨することです。その当時は明確にされてはいなかったことをそれ以降ははっきりとさせたのです。第二次世界大戦の戦勝国である「米国がすべてのルールを作る」と。

当時、米国はもっとも大量の金を保有していましたが、独創的なアイディアを持っていました。それは1オンス当たり35ドルという金の価格に米ドルを連動する基準を設立しようというもので、他のすべての西側の国々も自国通貨をドルへ連動させました。金を基準とした西側の通貨体制を監視するためにIMFが設立されました。

ニクソンは1971年にこの金本位制の通貨制度を破棄しました。その理由は、(1)米国が金の保有高を維持するには余りにも大量のドルが流通している、(2)ベトナム戦争が残した米国の負債は、金の市場価格がすでに固定相場の1オンス当たり35ドルの10倍にもなっているけれども、金を売って充当しなければならない。ここでお分かりのように、当時、ニクソン政権といえども何らかの倫理観をまだ失ってはいなかったのです。要するに、借金は払い戻さなければならないという倫理観です。

しかし、隠されていた本当の理由は巧妙なものでした。金本位制から離脱することによって、米ドルは、基本的には金に代わって、事実上世界で認められた参照通貨や主要な準備通貨となったのです。高額の国際契約は米ドルで締結され、これによって、米ドルの需要を増加させました。それに加えて、サウジ王の友達であるブッシュ家とサウジ王室との間の特別な取引を通じて、後にはキッシンジャーとサウジ政府とによって公式化されますが、OPECの総元締めとしてのサウジアラビアは今後取引される原油には米ドルだけを決済通貨として用いることを確認したのです。それを受けて、米国はサウジの安全保障を軍事的に担うことにしました。どこの国も原油を必要とすることから、各国は米ドルを必要としました。ますます多くの米ドルの流通が求められたのです。

国際決済銀行(BIS)は1930年に設立されましたが、元々はベルサイユ条約によってドイツに課された賠償金の支払いを手助けするために設立されたものです。BIS はロスチャイルド・グループや他の西側の銀行家グループによって所有されている私企業ですが、今日、「中央銀行の中の中央銀行」と称され、国際通貨決済のほとんどすべてを管理しています。これら決済の殆んどは米国に本拠を置くウオールストリートの銀行を経由しなければなりません。詐欺行為的な国際的に認められた通貨制度が設立されてからというもの、ご苦労なことに、ワシントン政府は今日もなお世界各国を相手にカウボーイ役を務めています。しかし、この状況は今急速に変化しています。

要約してみましょう。米国は、ロシアを含めて、世界各国に対して、どうしてこれ程までの金融パワーを持つことができたのでしょうか。ワシントン政府はどうして世界中の外国資産を必要に応じて差し押さえたり、凍結することができるのでしょうか。ワシントン政府はどうして他国を強要して自分たちの、つまり、米国の意図通りに従わせることができるのでしょうか。

しかし、この優位性は次第に崩れて、急速に色あせて来ています。経済制裁は実際の行動よりもむしろ脅迫へと変わって行くことでしょう。BRICS (ブラジル、ロシア、インド、中国および南ア) SCO(上海協力機構)の加盟国は自国通貨を使って取引をしようとしています。ロシアと中国との間の原油取引は自国通貨で決済しており、他の国々も間もなくこれにならうことでしょう。

「対ロ経済制裁のコスト」は活発に議論されているテーマです。CNNニュースによりますと、対ロ経済制裁のコストは「100兆ドルを超す」かも知れません。それと同時に、ニューズウィークは、ロシアはアジアや南米各国との取引を増やすことによってEU との取引を容易に置き換えることができると報道しています。そうすることによって、ロシアは経済制裁によって招来されるコストを急速に低減させることができます。米国主導の対ロ経済政策によってEUに派生するコストは少なくとも100兆ユーロになるとニューズウィークは言っています。インドのNDTVはヨーロッパが被るコストは21兆ユーロである、また、2013年のEUからのロシアへの輸出額は119兆ユーロであったと報じています。「経済制裁」は2014年に開始されました。

一方、地上の実際の状況は、特に、ヨーロッパの南部のスペインやギリシャ、イタリアでは悲惨な状況が拡大しています。農産物の輸出先を失い、観光客の減少によって一般市民は窮地に陥っています。何処でも失業が増加しています。たとえば、ドイツでは対ロ経済制裁(対ロ貿易の減少)によって生じた失業者は30万人になると推算されています。影響の連鎖には限りがなく、そのほとんどはヨーロッパ自身が痛めつけられているのであって、大西洋の向こう側に位置する覇権国ではありません。プーチンは実際にこんなことを言っています。「この経済制裁は、ロシアの農業や産業を発展させて、ゆくゆくは我が国の経済を西側との貿易に依存することから完全に独立することに繋がり、これは神様からの贈り物だ」と。

「原油価格問題と価格操作」もまた議論が分かれるテーマです。原油価格は過去12カ月の間に約50%も下落し、現在はバーレル当たり約50ドルです。この価格の下落は間違いなく原油を売る側に損害をもたらしています。その恩恵は政治的な分野にあります。米国を仲間とするサウジアラビアがロシアやイランおよびベネズエラといった敵に損害を与えるために増産していることは衆知の通りです。

しかしながら、今、新たな理論が浮上しつつあります。つまり、サウジアラビアは西側の凋落をいやが上にも認識し始めており、ロシアや中国との同盟関係を模索し始めました。サウジアラビアの原油にとってはこれら両国は確実なお客さんです。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とサウジアラビアのアデル・アル・ジュベイル外相との間では、最近、会談が何回か行われていますが、中でも8月の始めにサウジ外相がモスクワを訪問した際の会合は、単に、エネルギーに関するものではなく、ロシアとサウジ間の和解を示唆するものかも知れません。

幾つかの報道発信源は、サウジは西側の舟は沈みつつあると見て、新たな同盟国を探し始めたと報道しています。ロシア・中国の新たな同盟諸国(BRICSSCO)は、何らかの政治的な譲歩を見つけて彼らを歓迎することでしょう。ロシアとの合意の中で、当面はロシアに損失を招くことになるにもかかわらず、サウジは原油価格を低く抑え、これによって、ロシアに対するよりも、むしろ米国のシェールガス産業に多くの打撃を与えようとしています。国際エネルギー機関によりますと、原油生産の損益分岐点は約60ドル/バーレルの辺りにあって、これを下回ると、多くの生産拠点は利益を上げることはできなくなります。特にテキサスやサウスダコタがそうです。これらの企業は過去10年間に成長して来ましたが、多くの借金を抱えています。ですから、今、倒産で溢れています。テキサスでは、6万人のフラッキング関連の労働者が失業しました。まさに、これは「逆経済制裁」と言えましょう。

加えるに、今年の始めに天然ガス価格が下落した時、ロシアの天然ガス企業の株式を保有している西側の株主たちは多くがパニックに陥り、株式を激安価格で売り出しました。買手はロシア政府だけでした。こうして、今年初めのシュピーゲル・オンラインの報道によりますと、ロシア政府は数日間だけで20兆ドルもの利益を上げたのです。

誰もが知っているように、ラブロフとケリーとの間のシリアに関する外交交渉はたった1インチさえも先へは進みませんでした。それに反して、イスラム国は米国、サウジおよび他の湾岸諸国、ならびに、EUNATOによって支援され、シリアの領土を今まで以上に侵害し、多くの市民を虐殺し、無数の難民を創出しています。一方、難民たちは中東での大規模な破壊や悲惨な現状を作り出したことで共同責任を持っている筈のEUへの入国を阻止されています。 

The Saker: ロシアと中国の経済においては相互補完的な分野としては何があるでしょうか?これらふたつの経済が協力できる潜在性は何でしょうか? 

Peter Koenig: ロシアとサウジの高官レベルの会合では彼らの議題にはエネルギーや武器の取引の他には何があったかと言いますと、サウジが中東の非軍事化で積極的な役割を務めるという点です。特に、イスラム国や反シリア政府グループを経済的に支援したり、彼らを武装することを中断し、イランとの関係を正常化することです。シリアとイランは両国ともロシアと中国の非常に近しい同盟国です。

ロシアと中国は両国の中央銀行間の通貨スワップによる相互金融支援では緊密な関係を確立しています。貿易の分野でも、特に、最近締結された巨大な天然ガスの取引が示すように、連携を強めています。ロシアは昨年中国と800兆ドルに相当するふたつの巨大な天然ガスの契約を締結しましたが、この取引は米ドルではなく、それぞれの自国通貨を使って決済されます。

米ドル以外の通貨を使って取引されるこの契約や他の原油契約は米ドルの需要を著しく低下させるだけではなく、準備通貨としてのドルの信頼性をひどく弱めることになります。2000年には、国際的な準備通貨は70%以上が米ドル建てでした。この数値は2010年には60%にまで低下し、今日急速に50%へと近づきつつあります。この割合が50%を割り込むと、ドル離れが起こると推測されています。

Russia InsiderやRT 、ロシアは2016年に国際的に通用する新しいクレジットカードを発行すると報じています。これはMIR (ミール)カードと呼ばれ(「ミール」は平和を意味します)、日本のJCB カードとの協力によるものです。この新しいMIRカードが西側で定着しますと、米ドルの需要ならびに準備通貨としての信頼性はさらに低下することでしょう。非常に多くの国で略奪や破壊をする武器として使われ、西側によって認知されてきた通貨制度の崩壊は案外近いのかも知れません。

何故中国の通貨は「下落」し、中国の株式市場は暴落するのでしょうか? - 西側のメディアは低迷する中国経済に主たる責任があると報じています。もう一度見てみましょう。中国元は米国の執拗な要請にしたがって、過大評価されていました。中国の中央銀行はドルに対して2%の枠内で上下動をするよう維持してきました。この要請は1.6兆ドルもの巨額のドル建て準備通貨を抱えている中国にとっては許容できるものでした。さて、中国銀行は中国元が自然の価値にしたがって自由に変動する方式に変えることを決めました。これは世界市場でさらなる強さを発揮することでしょう。これは世界で通用する準備通貨としても魅力的に映ることでしょう。まさに、中国が望んでいた通りです。つまり、中国元はいずれIMFSDRバスケットへ組み込まれるでしょう。現在通貨バスケットへ組み込まれているのは米ドル、英ポンド、ユーロおよび日本円の四つの通貨です。中国元を加えることによって、中国元は事実上国際的に認められた準備通貨となり、米ドルの重みはますます低下することになります。

株式市場に関して - 驚いたことには、彼ら自身の説明(ブルームバーグ)によると、中国は依然として7%もの成長を続けているにもかかわらず、西側の銀行家はこれを中国経済の減速として宣伝しています。この7%の成長率は、まさに、中国政府が望んでいる通りです。上海株式市場がどれだけ世界の市場に影響を及ぼし得るかを知り尽くした上で、西側がしばしば実施しているように、中国の銀行家も中国市場をちょっと「マッサージ」してやって、株価を下落させることは可能なのではないでしょうか。これは西側に対する「逆経済制裁」となって、西側の投資家や銀行には何百兆ドルもの損害を招きますが、中国の国内経済を変えることはとても出来そうにはありません。

中国の習近平首席は201559日にロシアで挙行された対ナチ戦勝記念日に参列し、中国の儀礼兵はロシア軍とともに行進をしました。これと同様に、プーチンとロシア兵は、93日の抗日戦勝70周年記念日には第二次世界大戦の終了を祝して北京で習首席と一緒に参列する予定です。これはロシアと中国との間に生まれた自衛のための同盟を西側に示す明確なメッセージでもあります。20149月にタジキスタンで公表されたSCOの拡大策、つまり、インド、パキスタン、イランをこの経済・戦略的軍事同盟に受け入れるという方針は東方に新たな大国が出現することに寄与するものとなりましょう。

こういったさまざまな変化を観察していますと、これらは中東だけではなく、世界中で地殻変動とも言えるような覇権のシフトが近い将来に起こるという兆しであるのかも知れません。ゆっくりと起こります。一晩のうちにではありません。非同盟諸国は新時代に備える余裕があるでしょう。主権を尊重する国々が平和に共存し、社会正義を全うできるような新しい時代がやって来るのです。

ピーター・ケーニッヒのプロフィール: エコノミストであって、地政学的な分析も得意とする。彼は世界銀行の元職員であり、環境や水資源の分野を専門として、世界中を回って仕事をした。彼は定常的にGlobal ResearchICHRTSputnik NewsTeleSurThe Vineyard of The Saker Blog、および、その他のインターネット・サイトのために執筆している。彼は下記の書籍の著者でもある: Implosion – An Economic Thriller about War, Environmental Destruction、および、Corporate Greed 後者は事実に基づいたフィクションであって、30年に及ぶ世界銀行での体験にも基づいている。また、The World Order and Revolution! – Essays from the Resistanceの共著者でもある。

<引用終了>


これで全文の仮訳は終わった。

上記には「ロシアとの合意の中で、当面はロシアに損失を招くことになるにもかかわらず、サウジは原油価格を低く抑え、これによって、ロシアに対するよりも、むしろ米国のシェールガス産業に多くの打撃を与えようとしています」との記述があるが、当面のロシアの石油産業の現状についてもう少し詳細を見てみよう。

99日の報道 [2] によると、ロシアの石油企業の大手であるロスネフト、ルクオイルおよびガスプロム・ネフトはシェルやBPおよびエクソンといった西側の大手企業よりも業績がいい。 これはロシアの通貨が下落しているからだ。ロシア通貨の下落によって、生産コストが下がり、税金の額は小さくなった。ロシア企業は米ドルで収入を得て、ビジネスの経費はそのほとんどをルーブルで支払っている。今月の始め、アルファバンクは「下落したルーブルはロシアの原油産業が低迷する原油価格による損失を相殺することに使える重要な要素となっており、ロシア企業にとってはこれは世界中の同業他社に比べて非常に大きな利点となっている」と述べた。

要するに、サウジによる原油の増産によって原油価格の低迷が続いているにもかかわらず、ロシアのもっとも大きな産業である石油産業は西側が意図したほどには打撃を受けてはいないのだ。それどころか、その収益は西側の大手石油企業を凌ぐ程であるという。結局、米国のシェールガス業界で軒並みの倒産を誘発しただけで、現行の国際原油価格競争は収束するのかも知れない。

この著者が言うように世界情勢が変わっていくのかどうか、厳密にはそれは分からない。しかし、大きな潮流の変化が起こっていることは確かなようである。

また、2015418日付けの「ロシアの諜報専門家はウクライナ紛争をこう見ている」と題したブログにも書いたように、米国による単独覇権の構造が今急速に多極化の方向に移行している。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、米国の制止も聞かずに、西側諸国は雪崩をうって参加を表明した。残された主要な国は日米だけとなった。その米国でさえも、結局は、ルー財務長官がAIIBを歓迎すると表明した(331日)。この全体の動きは、ヨーロッパ勢の先頭を切って参加を表明した英国の姿(312日)を見るまでは、素人にとっては予想もつかない展開であった。 

米国の凋落を嗅ぎ付けているのはサウジアラビアだけではなく、上記に示すように英国も然りだ。そしてそれに続くEU各国も然りだ。

一方、政治の面でも、潮流の変化を示すような出来事が最近見られた。

8月末、エジプトのアブドルファッターフ・アッ=シーシ大統領がモスクワを訪れた。エジプトとロシア両国の大統領は記者会見に臨んで、こう言った。「ロシアとエジプトは、イスラム国と戦うために、シリアを含めて広範な反テロリスト同盟を設立することを支持する」と。

米国では中東地域に関する米国政府の筋書きはイスラエルを捨て、イランを支持することになるのかも知れない。イランやロシアの同盟国であるシリアに対する今後の取り扱いもこの新しい方向性にしたがって進展するのかも。

92日の報道によると、オバマ大統領は米上院では賛否が分かれていたイランとの核合意について上院の民主党から34番目の賛成票を獲得した。これによって、米議会で共和党が提出する法案に対してオバマ大統領は拒否権を発動する必要がなくなった。これで、米議会はイラン核合意を破棄することはできなくなったのである。これはオバマ大統領側の外交政策にとっては大きな勝利であると見られている。

こうして、イラン制裁は解除される。イランが国際政治の舞台へ復帰するのは真近かになって来た。

これからシリアに対するロシアとイランによる支援が強化され、シリア政府軍との協力の下でイスラム国との戦いが本格的に行われるのかも知れない。シリア内戦の停戦交渉ではイランが重要な役割を果たすことが予想される。特に、欧州はイランに対する期待が大きいようだ。結果として、中東を舞台とした国際政治ではロシアやイランの影響力が大きくなるということだ。しかも、イラン核合意にも見られたように、この潮流は米国政府の同意の上での話である。

この夏ヨーロッパを襲った難民を創出してきた根源的な理由に対して、ようやく、政治的な関心が向けられることになりそうだ。

以上、財政・経済ならびに政治の分野における潮流の変化についておさらいをしてみた。残るは軍事面であるが、この分野は専門家にお任せするしかなさそうだ。

国際政治は今急速に動いている。我々素人も国際政治の動きを少しでも理解するためには、アンテナを高く張って、情報の収集に努める必要がある。今や、これは必須条件だ。


参照:

1: The Saker interviews Peter Koenig: By The Saker, Aug/31/2015

2: Russian oil producers outperform global competitors on weaker ruble: By RT, Sep/09/2015, http://on.rt.com/6qw9








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