2015年9月23日水曜日

アサド大統領 - シリア内戦の原因はISISや西側のプロパガンダにある



今夏、何十万人にもなるシリア系の難民がヨーロッパを目指して移動した。それに加えて、イラクやアフガニスタンからの難民もだ。今も続いている。

これを見て、ヨーロッパ各国では多くの人たちがイスラム国(IS)の過激派武装集団の残虐性が自分たちの街の通りや自宅の裏庭へ迫って来るかも知れないと心配し始めた。自分たちがその原因を作ったことはすっかり忘れてしまったかのような言動も多く見られる。

難民問題を解く鍵は根本的な原因を取り除くしかない。それはシリアやイラクで勢力を拡大しているISを阻止し、排除することを意味する。また、イスラム過激派を醸成した要因は米国政府の中東における石油や天然ガス資源に対する飽くなき利権の追求にからんで、安定した政権を潰して、米国に都合のよい傀儡政権を樹立しようとしたネオコンの政策にあると指摘する専門家の意見も多い。つまり、米国政府の対外政策の変更が重要な要素だ。現行の政策を続ける限り、たとえイスラム国を潰すことに成功しても、第二、第三のイスラム国が出現することだろう。

実績を挙げてはいない米国主導のIS対策は今見直されようとしている。

米国はどうして実績を挙げることが出来ないのか?それはこういう背景から来ている。米国は建前上ではIS対策を声高に喋りながらも、背後ではイスラム国を支援し、戦場になっているシリア領内ではシリア政府軍を攻撃するという二重の政策を採用しているからだ。米国のこのような行動はIS対策を隠れ蓑にしたものであって、アサド政権の弱体化、さらには、その崩壊を目指したものであると、専門家たちが指摘している。

最近、ロシアは国際的な協力によってIS対策を進めようと動き始めた。外交ルートを通じて秘密の交渉が関係各国との間で進められているという。ロシアの主目的は、米国のそれとは大きく違って、国際協力体制を樹立して、それらの勢力をシリア軍の下へ統一して、実効性のあるIS対策を実施しようという点にある。

このような新しい状況の中、今、シリア大統領は何を考えているのだろうか?

ここに、つい最近行われたインタビュウに関する記事がある [1]。現状を理解するために、アサド大統領が今何を思っているのかに関しておさらいをしておきたいと思う。


<引用開始>

 Photo-1: アサド大統領

RTを含めたロシアの複数のメディアとのインタビュウで、シリアのバシャル・アサド大統領はテロリズムや難民危機、ならびに、西側のプロパガンダについて言及した。歴史的な背景にも分け入り、同大統領は米国のイラクへの侵攻がシリアに騒乱状態をもたらす切っ掛けになったと述べた。

シリア内戦の原因について:

シリア大統領はもし自分がシリアで起こった事柄の中に「重要な岐路」があったと言えば、それはいささか驚きとして受け取られるかも知れないが、「これは多くの人にとっては思いも寄らないことだと思う」と述べた。 

「あれは2003年のイラク戦争でした。米国はイラクへ侵攻しましたが、あの武力侵攻については我々は強く反対しました。そんなことをすれば、イラク社会が分断され、不安定な状態を作り出すだけだということを我々は予見していたからです。しかも、われわれはイラクの隣国です。あの当時、この戦争はイラクを派閥抗争の国に変えてしまうだろうと我々は推測していました。自国の利益に反した、分断された国家です。シリアの西側にはもうひとつの分断された国家、レバノンがあります。我々の国はそれらの間に位置しています。我が国が影響を受けるだろうということは十分に認識できることでした。その結果、シリア危機の始まりは、つまり、最初に何が起ったかと言うと、イラク戦争からごく自然に派生した影響やイラク国内の派閥争いです。その一部がシリアへも波及して来たのです。彼らにとっては派閥という論理に立つ幾つかのシリア人のグループを扇動するのは容易いことでした。」

大統領はさらにこう述べた。1980年代に西側はアフガニスタンで「公式に」テロリズムを採用し、テロリストを「自由の戦士」と呼んだ。そして、2006年に米国の支援の下でイラクにおいてイスラム国(IS、以前のISISまたはISILを指す)が出現した時、西側はIS とは戦おうとはしなかった。



Photo-2: シリア危機はイラク戦争やイラク国内での派閥間の状況から自然に生じたものだ

「これらのことのすべてが一緒になって、西側からの支援や湾岸諸国、特に、カタールやサウジアラビアからの資金を得て、また、エルドガン大統領は知的にはムスリム同胞団に共鳴していたことから、トルコは兵站面での支援を行いました。うまく事が運べば、シリアやエジプトおよびイラクで状況が変化し、それは新しいサルタンの支配国の誕生を意味することになるのです。今回はオットマン・トルコではなく、エルドガンの下に大西洋から地中海にまたがる同胞団のためのサルタンの統治というわけです。」

「これらのすべてが今日我々が直面している問題をもたらしたのです。もう一度言いますが、間違いもありました。間違いが起こると、常にギャップや弱点を形成します。でも、そうしたギャップや弱点だけでは問題をもたらすには十分ではありません。実際に起った問題点を説明し切れないのです。もしもこれらのギャップや弱点が原因のすべてだとしたら、湾岸諸国では、特に、民主主義についてはまったく無知とも言えるサウジアラビアではいったいどうして革命が勃発しなかったのでしょうか?答えは自明だと私は思います。」 

ISISおよびテロリズムについて: 

アサド大統領は、シリアは外国から支援を受けたテロリズムとの「戦争の真っ最中である」と言い、さまざまな政治勢力はシリアが求めている市民の安全の確保に向けて一致協力すべきだとも言った。

「我々は先ずテロリズムと戦うために団結するべきです。これは論理としても当然のことであり、自明の理でもあります」と大統領は言った。

彼はこう述べた。「以前はシリア政府軍と戦っていたけれども、今はシリア政府軍と一緒になってテロリズムと戦っている勢力も幾つかあります。この点に関しては我々は進歩したと言えますが、この機会にすべての勢力がテロリズムと戦うために団結するよう要請したいと思います。何故かと言うと、我々シリア人にとっては、自分たちのやり方としては対話や政治的行為を通じてのみ政治目標を達成することができるからです。」 

国境地帯をイスラム国の武装兵力がいない地帯にしようではないかとの提案をトルコから受けた時、アサドはその概念には他の地域ではテロリズムが容認されるかのような響きを持っていると言った。「あの提案はとてもじゃないが受け入れられない」と彼は言った。

「テロリズムはすべての地域から排除するべきです。我々はテロリズムと戦うために国際的な一致協力体制を確立するようすでに30年にもわたって提案し続けて来ました。」 

難民危機について: 

ヨーロッパで進行中の難民危機に関して、シリア大統領は、西側は「難民については片方の目で涙を流し、もう一方の目では自動小銃で彼らに照準をつけている」と言った。

その発言に加えて、アサド大統領はこうも言った。「もし難民について心配をしているならば、テロリストに対する支援を中断するべきです。これがこの危機についての我々の考えです。これこそが難民問題の中核的な要素です。」 

Photo-3: 西側は1980年代の初期にアフガニスタンで公式にテロリズムを採用した

また、西側のプロパガンダは、難民はテロリストたちから逃れようとして国外へ脱出しているにもかかわらず、難民たちはシリア政府から逃れているのだと報道している。しかも、メディアはシリア政府を強圧的な政権だと形容している。

この「プロパガンダ」はさらに多くの難民を西側にもたらすだけだと、シリア大統領は述べた。
「…今、アル・ヌスラやISISのようなテロリストが存在するが、西側はそれはシリア国家、シリア政権、あるいは、シリア大統領のせいだと言っています。彼らがこの種のプロパガンダを続ける限り、より多くの難民が創出されることでしょう。」 

内戦をシリア大統領のせいだとするプロパガンダについて: 

西側のプロパガンダはシリア危機を過剰に単純化しており、「シリア国内の問題のすべては一人の人物のせいだ」と報じているとして、アサド大統領は西側を非難した。この種の誇張の結果、市民らは「その張本人を排除しさえすればすべては上手く行く」と思ってしまう、と大統領は付け加えた。

また、自分が権力の座に居る限りは、西側はテロリズムに対する支援を継続するだろうとも大統領は述べた。「何故かと言いますと、シリアやロシア、ならびに、その他の国において西側が従っている行動原理は大統領を交代させよう、あるいは、政権を転覆させようという点にあるからです。何故でしょうか?彼らはパートナーを受け入れようとはしませんし、独立心が旺盛な国家は受け入れたくはないからです。」 

シリアでは大統領は市民による選挙を通じて選出される、と大統領は言った。そして、彼が下野する場合は、彼は市民の意志にしたがって下野する。一国の指導者は「米国の決定や安全保障理事会、ジュネーブ協定、あるいは、ジュネーブ・コミュニケにしたがって下野するわけではありません」と、彼は強調した。 

「指導者はその座に残って欲しいと国民が望むならば、彼は権力の座に残るべきです。国民が彼を更迭したいならば、彼は速やかに下野するべきです。これがこの問題を見る際の私の行動原理です。」 

シリア危機の政治的解決について: 

ダマスカスは、この国の将来について合意を得るためには、「シリア政権」「政治団体」との間で対話を継続し、それと同時にテロリズムと戦う必要がある、とアサド大統領は言った。

「前にも言っていますように、意見の一致を達成するには我々は対話を続けなければならないわけですが、実際的に何かを実現したいと思っても、国民が殺害されたり、流血沙汰が続いていたり、市民が安全・安心を感じることができないでいる限りは、何事も実現することはできません。シリア人の政党あるいは勢力として一堂に会して、何らかの政治、経済、教育、医療、あるいは、何でも結構ですが、特定のテーマについて合意を得ましょう。でも、シリア市民の一人一人が自分自身や家族の安全を確保することで精一杯でいる時に、いったいどうやってそのようなテーマを実現できると言うんでしょうか?合意を得ることはできるでしょうが、シリアにおけるテロリズムを撲滅しない限りはそれを実現することは不可能です。ISISだけに限らず、我々はテロリズムを撲滅しなければならないのです。」 

Photo-4: 我々はテロリズムを敗北させなければならない。ISISだけの話ではない。

ロシアやイランの協力について: 

ダマスカス政府はテロリズムとの戦いにおいて「友好国」との協力を準備している、とシリア大統領は述べた。これは、特に、ロシアやイランとの協力関係についての言及である。

シリアとイランとの間の関係は「古くからのもの」であって、この同盟関係は「非常に大きな信頼に基づいている」とアサド大統領は言った。

「イランはシリアならびにシリア市民を支援しています。同国は政治的にも、経済的にも、そして、軍事的にもシリアを支持しています」と、彼は言った。さらには、「この非常に困難な時に、残酷な戦争のさ中にあって」、イランからの支援はシリアにとっては非常に重要であるとも付け加えた。 

しかしながら、テヘラン政府は軍隊あるいは武装兵力をシリアへ派遣したとする西側メディアの主張に関しては、彼はそれを否定した。

「あの主張は本当ではありません。イランは武器を送ってきますし、勿論、シリアとイランとのあいだには軍事専門家の交流もあります。これはいつもの通りです。それぞれが戦争状態に置かれたふたつの国の間ではこの種の協力関係が進行するのはごく自然なことです」と、アサド大統領は言った。

ロシアに関しては、「モスクワとダマスカスとの間にはしっかりした、しかも、長い歴史を持った協力関係があります」とアサド大統領は言った。

しかし、アサド大統領はこうも述べている。「米国主導の国際的連携と称されるような軍事行動ではなくて、本当にテロリズムと戦う意志がある国についてはどの国に対してもシリアは拒否はしません。」 

「トルコやカタール、サウジアラビア、ならびに、テロリズムに支援を与えているフランスや米国、その他の西側諸国はテロリズムと戦うことはできません。単純に言って、テロリズムを支援しながら、それと同時に彼らと戦うことなんて不可能です。これらの国が自分たちの政策を変更し、テロリズムはサソリのようなものであるということを認識しさえすればいいのです。サソリを自分のポケットへ入れていると、サソリに刺されてしまうでしょう。そういった新たな認識があれば、我々はどこの国とも協力し合うことに異存はありません。勿論、テロリズムと戦う意志が本物であって、偽物ではないという前提です。」 

Photo-5: 西側は片方の目では難民に同情を寄せてはいるが、もう一方の目では彼らに銃口を向けている。

クルド人に対するアサド大統領の姿勢: 

クルド人については何か具体的な姿勢はあるのかとの問い掛けに対して、「彼らはシリアを構成する一員です」と、アサド大統領は言った。

「彼らは外国人ではありません。彼らは何世紀にもわたってシリアに住んで来たアラブ人やチェルケス人、アルメニア人、あるいは、その他諸々の民族性や分派のようにこの地域に住んでいます。これらのグループを除いては、同質のシリアは生まれなかったことでしょう…」

「その一方、クルド人のすべてを同一視することは不可能です。シリアを構成する他の民族のどれをとっても同じことですが、彼ら自身の間にはそれぞれ違った流れがあります。彼らはそれぞれ異なる党派に属しています。左派もおりますし、右派もいます。諸々の種族がいますし、互いに異なるグループもいます。したがって、クルド人を単独の集団として議論することは客観的ではありません」と彼は述べた。

Photo-6: 我々は30年間にもわたってテロリズムと戦うために国際的連携を呼びかけている。

しかしながら、「この段階では、誰かが示唆しているようなクルド人との同盟関係は何ら存在してはおりません」と、彼は強調した。

「シリア軍と一緒に戦って、戦死したクルド人はたくさんいます。これは、彼らがシリア社会を構成する一員であることを示しています。しかし、特定の要求を掲げた政党もあります。危機が始まった頃、幾つかの政党に対して我々の方から呼びかけたことがあります。国家とはまったく関係なく、国家として関心を寄せることができないような要求もあります。また、全国民や憲法に関わる要求もあって、そのような場合には、市民は国家が意思決定をする前にそれらの要求を承認するべきです。何れの場合にも、提案事項は国家的な枠組みの中で取り扱うべきです。だからこそ、我々はクルド人と共にあり、その他の種族についても彼らと共にあるのです。我々は皆がテロリズムと戦うための連携関係にあるのです。」 

シリアにおいてテロリストを駆逐した暁には、「特定の政党によって表明された」クルド人の要求は国家的な規模で議論することが出来ると、彼は付け加えた。

<引用終了>


アサド大統領とのインタビュウ記事を読むのはもう何回目になるだろうか。何時も感じることだが、アサド大統領はしっかりした政治哲学を持っているという点が非常に印象的である。さらには、民主的な選挙によって地滑り的な勝利を得ているからだろうか、一国を率いる大統領としての自信に満ちている。

シリアに関しては国際政治が急展開を見せているように思えるが、ここでシリアを取り巻く基本的な事実関係を再確認しておきたい。

こうした背景にあって、ロシアのプーチン大統領は国際社会に向けてシリアを中心とした連携を呼びかけ、テロリズムを排除しようとしている。928日の国連総会では各国首脳の演説が予定されているが、プーチン大統領の演説がどれだけの賛同を得ることが出来るのか、シリア内戦が収束する方向へ大きく舵を切ることになるのかどうか、今後の展開が見物である。 


参照:

1Cause of Syrian civil war, ISIS and Western propaganda: Assad interview highlights:  By RT, Sep/18/2015, http://on.rt.com/6rpk



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