ここに「アルゼンチン - モンサントによって汚染された国」という記事 [注1] がある。多くの写真を添えたフォト・エッセイだ。APのカメラマンがアルゼンチンの遺伝子組み換え(GM)大豆の生産地帯を歩いて、GM大豆の栽培に併用されるモンサント製の除草剤がもたらした健康被害について取材した貴重な報告である。
ここに見る地域住民の苦境は、農薬の規制に関しては地方自治体が主導権を持つアルゼンチン特有の政治システムがまったく機能してはいないこと、ならびに、モンサントという米国の巨大資本による貪欲なビジネスとが相乗的に作用してもたらされたものであると言えよう。
これはどちらに転んでも人災である。人間の英知や常識が少しでも動員されていたら、こんなことにはならなかったに違いない。
また、バイオテクノロジー技術が如何に未完の技術であるかをこの記事は明確に伝えていると言えよう。
本日は、GM作物と併用される除草剤がもたらした健康被害について、アルゼンチンの大豆生産地帯の実態を学んでみたいと思う。
通常は全文を仮訳することをこのブログのモットーとしているのだが、この記事は余りにも長いので、一部を、特に後半の写真の一部を割愛することにする。前もってご了承願いたい。
<引用開始>
米国のバイオテクノロジーはアルゼンチンを世界で第3位の大豆生産国にしてくれた。しかし、このブームを巻き起こした推進役を大豆や綿花あるいはトウモロコシの畑の中だけに封じ込めておくことは出来なかった。除草剤は一般家庭や教室あるいは飲料水を日常的に汚染したのである。医師や科学者が訴える声は高まるばかりだ。十分な管理下に置かれてはいない除草剤の使用こそが地域住民の健康被害を増加させ、多くの患者をこの南米の国の病院へと送り込んでいると警告している。アルゼンチンの大豆生産地帯では65,000人の農家を戸別訪問して調査した結果、癌の罹患率は国の平均値よりも2倍から4倍も高く、甲状腺機能低下症や呼吸器系疾患が高い率で発生していることが判明した。アソシエイティド・プレス(AP)のカメラマン、ナターシャ・ピサレンコはこの問題を取材するためにアルゼンチンの農業地帯で数か月を費やした。
アルゼンチンの州の殆んどは除草剤やその他の農薬を住宅や学校の近傍で使用することを禁じており、人が居住する地域からは50メートルの距離、州によってはもっとも大きな距離として数キロメートルの空間を置かなければならない。ところが、APの取材によると、大豆畑は、多くの場合、家屋や学校からたった数フィート離れた場所においてでさえも栽培され、農薬は居住地域のど真ん中で調合されたり、トラクターへ積み込まれたりしている。過去20年間、農薬散布はアルゼンチンでは8倍にも増えた。1990年には9百万ガロンであったが、今日では84百万ガロンにもなる量が消費されている。モンサントの「ラウンドアップ」製品の主成分である「グリフォサート」は、大雑把に言って、米国に比べるとエーカー当たりで8倍から10倍も多く散布されている [訳注: 「エーカー当たりで8倍から10倍」という記述があるが、これは間違いかも知れない。同じような説明の中に「2倍」あるいは「2倍から4倍」という記述も出てくる]。しかし、アルゼンチンでは農薬に対しては国家基準を適用してはおらず、使用規則の制定や規則の励行は地方の権限に任されている。その結果、規則は広く無視されたままで、規制は地方ごとに異なり、ごちゃまぜの状態にある。この状況が住民をさらに危険な状態に晒しているのだ。
(denverpost.comによる)
(denverpost.comによる)
Photo-1: 2013年3月29日撮影。元農夫のファビアン・トマシ、47歳。アルゼンチンのエントレ・リオス州のバサヴィルバソの自宅内にたたずむ彼の体はすっかり痩せ衰えてしまっている。トマシの仕事は散布用飛行機の容器に農薬を速やかに充填し、少しでも長く飛行させることであったが、除草剤の取り扱いについては何の訓練も受けてはいなかったと彼は言う。今や、彼は多発性神経障害で死の瀬戸際に立たされている。
【アルゼンチンのバサヴィルバソ発AP】アルゼンチンの農夫、ファビアン・トマシは除草剤の取り扱いについて訓練を受けたことは一度もなかった。彼の仕事は散布用の飛行機を少しでも長く飛ばすために、飛行機の容器に農薬を速やかに充填することだった。しかし、この作業は、多くの場合、農薬でずぶ濡れになることを意味していた。
今、彼は47歳。生きる屍のような状態である。体は衰弱し、何かを呑みこむことや自分でトイレへでかけることさえもが困難だ。
学校の教師を務めるアンドレア・ドルエッタはアルゼンチンの大豆生産の中心地であるサンタフェ州に住んでいる。この地域では、居住地域から500メートル以内では農薬の散布は禁じられている。しかし、大豆は彼女の家の裏口からたった30メートルの位置にまで植えられている。彼女の息子たちは最近裏庭のプールで泳いでいる最中に農薬を浴びた。
ソフィア・ガティカは生まれたばかりの子供を腎不全で亡くした。彼女は農薬の不法散布としてアルゼンチンでは初めての刑事訴訟を起こした。しかし、イツザインゴ・アネックスに住む彼女の隣人たち、5,300人の多くにとっては、昨年下された裁定は余りにも遅かった。政府による現地調査の結果、土地や飲料水は農薬によってひどく汚染されていることが判明した。調査を受けた子供たちの80パーセントは、血液中に微量の除草剤が検出された。
米国のバイオテクノロジーはアルゼンチンを世界で第3位の大豆生産国にしてくれた。しかし、このブームをもたらした推進役を大豆や綿花あるいはトウモロコシの畑の中だけに封じ込めておくことは出来なかった。
APはアルゼンチンで何十もの事例を取材した。多くの地域では、農薬は規制当局が予測もしないような使い方で散布され、既存の法律が具体的に禁止している状況とはまったく異なる現状が見い出されている。散布された農薬は学校や家屋に流れ込み、水源池に落下した。農夫は保護具も付けずに農薬を調合し、水を貯蔵するために村民は廃棄しなければならない農薬の容器を用いたりする。
医師たちは、今、管理が野放しのままで使用されている除草剤こそがこの南米の国の穀倉地帯に住む千2百万人の地域住民の間で増加している健康被害の原因であるとして警告を発している。
サンタフェ州での癌の罹患率は、国の平均に比べて、2倍から4倍も多い。チャコ州においては、バイオテクノロジーがアルゼンチンの農業を劇的に拡大させたこの10年間に先天異常が4倍にも増えた。
「率直に言って、農業生産における技術革新によって疾病の統計データの全体像が大きく変貌した」と小児科医であり、新生児生理学の専門家であるメダルド・アヴィラ・ヴァスケスは言う。彼は「燻蒸消毒された町の医師団」の共同設立者のひとりである。この医師団は農業の安全性に関する規則の励行を訴えるキャンペーンに参画している。「我々の町は美しく健康的な町から癌の罹患率が高く、先天異常が多発し、以前は見られなかったような病気がまん延する町へと変わってしまった。」
草を食んで育った牛から得た牛肉で有名になったこの国は1996年以降大きく変貌した。あの年、米国のセントルイスに本拠を置くモンサント社は、同社の特許で守られた種子と農薬を採用すれば収穫量が伸び、除草剤の使用を減らすことができると約束した。今日、アルゼンチンの大豆はすべてがGM作物に取って代わられ、トウモロコシや綿花でもその殆んどがGM品種へと移行している。大豆の栽培面積だけでも、47百万エーカー(19百万ヘクタール)へと3倍になった。 [訳注:農林水産省のデータによると、2014年の日本の稲作面積は約1.57百万ヘクタール。アルゼンチンにおける大豆の栽培面積はこれの約12倍となる。]
農薬の使用量は最初は減少を見せたが、その後、回復して、1990年の9百万ガロン(34百万リットル)から今日では84百万ガロン(317百万リットル)へと増大した。これは農家がより多くの収穫を求め、雑草が農薬に対して耐性を獲得したからである。政府や産業界のデータに関するAPの分析によると、概して、アルゼンチンの農家は米国の農家に比べて2倍も多くの農薬を使用し、エーカー当たりでは4.3ポンドの農薬を散布する。
Photo-2: 2013年4月16日撮影。ブエノスアイレス州のローソンにある自宅を歩き回るフェリックス・サン・ロマン。彼が自分の庭の方へ漂ってくる除草剤の煙について苦情を述べたところ、散布業者は彼を殴りつけ、彼は背骨に傷を負い、何本かの歯を失ったとサン・ロマンは言う。「ここは小さな町で、誰かに文句を言うような町ではない。しかし、町のお偉方の見方はそれとは違う」とサン・ロマンは言った。「せめて、彼らには既存の規則に従って欲しい。規則によると、家屋から1,500メートル以内では農薬の散布は禁止されている筈だ。誰もこれを守ろうとはしない。どうしたらいいんだろう?」 (撮影: ナターシャ・ピサレンコ、AP)
グリフォサートがモンサントの人気のある除草剤「ラウンドアップ」の主要成分であって、ラウンドアップは世界でもっとも多く使われている除草剤のひとつである。この除草剤は適切に使用する限りは安全であるとされており、米国やEUも含めて、数多くの規制当局によって承認されている。
5月1日、米環境庁は食品中のグリフォサートの許容残留量を引き上げた。モンサントが提示した研究結果に基づいて、「この物質への暴露があったとしても、一般消費者、あるいは、小児や子供たちには危害をもたらすことはないとする極めて妥当な確実性が存在する」と、彼らは結論付けたのである。
アルゼンチンの23州は農業の規制に先鞭をつけた。規則は下記のような具合だ。
幾つかの州では農薬散布は居住区域から3キロメートル以内では禁止であり、この距離がもっとも小さい州でも50メートル以内は禁止となっている。約三分の一の州では何の規則もなく、多くの州ではこれらの規則を励行させる具体的な政策もない。
連邦環境法は毒性のある農薬を散布する農薬散布業者には、「たとえ科学的な因果関係が証明されなくても」、あるいは、「たとえコストや作業の中断の結果がどうなろうとも」、公衆の健康を害する行為を中断あるいは中止することを求めている。しかし、昨年、これは一度も農業に適用されてはいないことを会計検査院長官が指摘した。
苦情が急増するのを受けて、クリスティーナ・フェルナンデス大統領は2009年に農薬散布の人の健康に対する影響を調査する委員会を設けた。同委員会の最初の報告書は「除草剤の濃度や成分に関して体系だった管理を行うことを求め、例えば、グリフォサートを主成分とする農薬について、ならびに、アルゼンチンで実際に使用されている他の農薬との相互作用に関しても徹底した臨床検査や現地調査を実施することを求めた。」
しかしながら、この委員会は、2010年以降、まったく会合を持たなかったという事実を会計検査院長官が指摘している。
政府は、問題は研究の欠如ということではなく、人々の感情に作用する誤った情報にあると主張している。
「私はニュースや大学で数多くの文献や調査結果、ビデオ、記事を見て来た。これらを読む市民たちは目を眩ませて、混乱するばかりだ」と、ロレンソ・バッソ農務大臣が述べた。「アルゼンチンは食糧生産国であることに専念するということを我々はもっとはっきりと公にしなければならないと思う。食糧の輸出国としての我々のモデルが今問われている。我々には自分たちのモデルを防御する必要がある。」
モンサントの広報担当者、トーマス・ヘルシャーは、「モンサント社は除草剤の間違った使用や農薬に関連する法律、規則、裁判所の裁定を無視することは決して許容しない」と声明文で述べている。
「モンサントは製品管理を重く受け止めており、我々は顧客とは我々の製品の適切な使用に関して定期的に連絡を取っている」と、ヘルシャーは言った。
Photo-3: 2013年9月24日の撮影。「モスキート」として知られているトラクターでエントレ・リオス州のパラナ近郊の畑で農薬の散布。ほとんどの州では、農薬散布は居住区域から3キロメートル以内では禁止であり、この距離がもっとも小さい州であっても50メートル以内は禁止となっている。しかし、APの取材によると、大豆畑は、多くの場合、一般家庭や学校からたった数フィートしか離れていない場所であっても大豆が栽培され、農薬は居住地域のど真ん中で調合されたり、トラクターへ積み込まれたりしている。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
アルゼンチンはモンサント社や米国の他のアグリビジネスが提唱した新らしいバイオテック農法のモデルを採用した最初の国のひとつである。
表土を掘り起こし、播種の前に除草剤を散布し、除草剤が吸い込まれるのを待つ代わりに、農家は播種をし、特定の除草剤に耐性を持つGM作物に害を与えることもなく、その後、除草剤の散布を行った。
この「土起こしを必要としない」手法は従来必要とされていた時間と費用を大幅に削減し、農家がもっと多くの収穫量を確保することを可能とし、以前は見向きもしなかったような土地さえもが耕作地に転換された。
しかし、雑草は耐性を獲得する。ましてや、広大な土地に栽培されるGM作物に同じ種類の除草剤が使用される場合はなおさらのことだ。
グリフォサートは世界でももっとも安全な除草剤のひとつであるが、今や、農家はこの除草剤をもっと高濃度で使用するようになり、ベトナム戦争時に米軍が枯葉剤として用いた「エージェント・オレンジ」、つまり、「2,4,D」といった除草剤を混入して使用するまでになっている。
2006年、アルゼンチンの農畜水産省のある部門がグリフォサートへ他の強力な農薬を混合する農法は「家庭や居住中心地から十分に離れた農地」だけに限るべきだと主張し、警告ラベルの使用を推奨した。しかし、連邦会計検査院によると、この推奨策は無視された。
(アルゼンチン)政府は(米)EPAによって承認された産業界の研究結果に依存している。EPAは5月1日に「グリフォサートが神経毒であるという兆候は何もない。また、発育時の神経毒性に関して調査をする必要性もない」と述べた。
ブエノスアイレス大学で分子生物学を専門とするアンドレス・カラスコ博士は農薬カクテルによってもたらされる影響は非常に心配だと言う。グリフォサート単独であってさえも、人間の健康には問題を引き起こしかねない。非常に低濃度のグリフォサートを胎児に注入すると、レチノイン酸の濃度を変化させ、カエルや鶏の事例では脊髄損傷と同類の問題を引き起こすことを発見した。医師たちは農薬が周辺の環境にふんだんに存在する地域ではこの種の健康被害が増加する一方であると見ている。
このレチノイン酸はビタミンAの一種であるが、癌に対して王手をかけ、遺伝的発現を仕掛ける上では非常に重要な物質である。この一連のプロセスによって、胎児細胞は臓器や四肢へと発達して行くのである。
「研究施設においてこれを再現することが可能であるならば、実際に現場で起こっている状況は、間違いなく、もっと悪いだろうと思う」と、カラスコ博士は言った。「もしももっと悪い状況にあるとすれば、これこそが我々が恐れているわけではあるが、我々がしなければならないことはこの問題を徹底的に調べることだ。」
彼の知見は2010年に専門誌の「Chemical Research in
Toxicology」に発表されたが、早速モンサントの反撃を受けた。モンサントは「これらの研究結果は、研究手法や非現実的な農薬への暴露を考えると、決して驚くには値しない」と言った。
APからの質問に対しては、モンサントは化学品の安全性に関する試験は生きた動物で行うべきであって、胎児に注入する手法は「人間のリスク評価には関係性が非常に薄く、信頼性も非常に低い」と述べた。
「グリフォサートの毒性は子供の皮膚へ塗布する虫よけよりも弱い」と、ブエノスアイレスにあるモンサントの会社業務を担当する役員であるパブロ・ヴァケロが言った。「とは言え、子供の口の中へ虫よけを塗布するようなことは絶対にあってはならないし、農薬散布業者は環境の条件やこの製品を用いた場合にもたらされる脅威を念頭に置くこともなくトラクターや散布機で農地への農薬散布をしてはならないのだから、これらの製品の使用に当たっては責任を持ち、適切な使用を励行しなければならない。」
現場では、警告は広く無視されているのだ。
3年間にわたって、トマシはポンプを用いて農薬散布機の容器へ除草剤を充填する作業を続けていたが、その際彼はいつも農薬に晒されていた。今、彼は多発性神経障害に見舞われ、消耗しきって、死の瀬戸際に立たされている。
「手袋やマスクあるいは特別な防護具も付けずに何百万リットルもの毒液を取り扱った」と彼は言った。「何も知らなかったんだ。この毒物が実際にどんな影響を自分に及ぼしたのかを知ったのはずっと後になってからだ。科学者の意見を聞いてからだ。」
「この毒物は濃縮液の形で販売される。容器に入れられており、それを散布する際に励行しなければならないたくさんの警告の文章があるんだ」とトマシが説明した。「でも、警告文を真剣に受け取る者なんて誰もいなかった。」
収穫した大豆はトン当たり500ドルで売れるということで、農夫らは栽培が可能な場所であれば何処へでも大豆を植えた。多くの場合、モンサントの指針や州の規則は無視された。散布は予告もなしに行われ、風がある日でさえも散布が行われた。
エントレ・リオス州では、散布業者が50メートルの距離を置くことを怠ったとして、18校の教師らが報告をした。11件は授業中であった。今年は、5人の教師が警察で正式に苦情を提出した。
Photo-4: 2013年4月1日撮影。チャコ州、アヴィア・テライに住むアイハ・カノ、5歳は体中に毛の生えたほくろで覆われているが、医師らはこれを説明することはできない。証明することはほとんど不可能ではあるが、アイハの先天異常は農薬と関係があると医師らは言う。チャコ州では、バイオテクノロジーがアルゼンチンの農業を飛躍させてからというもの、子供たちが深刻な先天異常を持って生れて来る率は通常よりも4倍も高い。農薬は日常的に家庭や教室および飲料水を汚染する。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-5: 2013年5月2日撮影。モンサント製のラウンドアップを含めて、空き缶が転がっているサンチアゴ・デル・エステロ州のキミリにある廃棄物回収センター。アルゼンチンでは化学品による汚染は、一般には、より低レベルであるにもかかわらず、農薬散布量は1990年の9百万ガロンから今日では84百万ガロンへと急増した。モンサント社のラウンドアップ製品の主要成分であるグリフォサートは米国に比べてエーカー当たりで8倍から10倍も多く使用されている [訳注: 「エーカー当たりで8倍から10倍」という記述があるが、これは間違いかも知れない。同じような説明の中に「2倍」あるいは「2倍から4倍」という記述も出てくる]
。しかし、アルゼンチン政府は農薬には国家基準を適用せず、規則を制定する権限は州に与えられ、規則を励行する責任は地方自治体に委ねられている。その結果、さまざまな規則が寄り集まる状態にあって、規則は広く無視されたままとなっている。これが住民を危険に曝しているのである。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-6: 2013年4月1日撮影。水頭症をもって生れて来た息子のエゼキエル・モレノを見守りながら、チャコ州のガンセドにある赤レンガ製の自宅の壁に寄り掛かるシルビア・アルヴァレス。彼女は二回の流産と息子の健康問題は散布された農薬への継続的な暴露のせいだと言う。チャコ州での先天異常に関する報告によると、GM作物とその栽培に併用される除草剤とがこの地に導入されてから10年間で先天異常は4倍にも増えた。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-7: 2013年3月31日撮影。エリカ(右側)と彼女の双子の姉妹、マカレナ。マカレナは慢性呼吸器病に苦しんでいる。チャコ州のアヴィア・テライの自宅に佇むふたり。双子の姉妹の母、クラウディア・サリスキの家には上水道がなく、子供たちには埃っぽい裏庭にためられている廃品となった農薬の容器は使わせないと言う。でも、鶏は農薬の容器を使っている。彼女の家には家族が着る衣類を洗濯する水さえも供給されてはいない。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-8: 2013年9月24日撮影。車のバックミラーには農薬散布に用いられるトラクターの姿が映っている。エントレ・リオス州のパラナで撮影したもの。グリフォサートはアルゼンチンで用いられる農薬の三分の二を占めるが、雑草が農薬に対する耐性を獲得したことから、農家はベトナム戦争時に米国が枯葉剤として用いた「エージェント・オレンジ」、つまり、「2,4,D」を混入するまでになった。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-9: 2013年9月25日撮影。サンタフェ州のベラヴェブの町の近郊に囲い込まれた牛。アルゼンチンの牧場主らは利益が大きい大豆に鞍替えしたことから、以前は草を食んで育てられていた牛は肥育場でトウモロコシや大豆を食べて育てられる。セントルイスに本拠を置くモンサント社が特許で守られた種子と除草剤を使うことによって、少ない除草剤の使用でも大きな収穫量を約束したことから、この17年間にアルゼンチンの大豆のすべて、ならびに、トウモロコシの殆んどはGM品種となった。大豆の栽培は3倍になって、今や47百万エーカーで作付けされている。これがかっては草を食んで育てられる牛で有名であったアルゼンチンを世界でも3番目に大きな大豆生産国にしたのである。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-10: 2013年3月31日撮影。複数の臓器に問題を抱えて生まれ、深刻な身体不自由児であるカミラ・ヴェロン、2歳。チャコ州のアヴィア・テライにある自宅の庭先にて。カミラの母、シルビア・アチャヴァルに対して医師たちは「農薬のせいであろう」と言った。個々の患者の癌や先天異常について特定の農薬に対する暴露がその原因であると証明することはほとんど不可能ではあるが、医師らはこれらの事例は政府による徹底した調査を行う価値があると言っている。
「この地域では農薬の散布が非常に多いので、医者たちは水が原因だろうと言った」と、アチャヴァルは言う。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-11: 2013年9月26日撮影。ソフィア・ガティカはモンサントが南米で最大級の種子の生産工場を建設している現場へ入ろうとするトラックを阻止するためにデモに参加した。コルドバ州のマルヴィナス・アルゼンチナスの町にて。セントルイスに本拠を置くモンサント社が特許で守られた種子と除草剤を使うことによって、少ない除草剤の使用でも大きな収穫量を約束したことから、この17年間にこの国の大豆のすべて、ならびに、トウモロコシの殆んどはGM品種となった。ガティカの生まれたばかりの子供が腎不全で亡くなってから、彼女はコルドバ州で訴えを起こした。この訴えは、昨年、違法な農薬散布に関してはアルゼンチンでは初の刑事上の有罪判決へと繋がった。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-12: 2013年4月16日の撮影。ブエノスアイレス州のローソンで午後の陽ざしを浴びる収穫間際となった大豆。米国のバイオテクノロジーはアルゼンチンを世界で第3位の大豆生産国にしてくれた。しかし、このブームを巻き起こした推進役を大豆や綿花あるいはトウモロコシの畑の中だけに封じ込めておくことは出来なかった。除草剤は一般家庭や教室あるいは飲料水を日常的に汚染したのである。医師や科学者が訴える声は高まるばかりである。十分な管理下に置かれてはいない除草剤の使用こそが健康被害を増加させ、多くの患者をこの南米の国の病院へと送り込んでいると警告している。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
Photo-13: 2013年3月9日の撮影。サンタフェ州のアルヴェアールの中央広場にて、農薬による健康問題に関してダミアン・ヴェルゼナッシ医師と話し合うために集まって来る住民たち。アルゼンチンの大豆ビジネスの中心地で、65,000人もの住民が暮らす農業地区で戸別訪問による調査が実施された。それによると、癌の罹患率は全国平均に比べて2倍から4倍も高いことが判明した。また、甲状腺機能低下症や慢性の呼吸器系の病気も平均以上である。(撮影:ナターシャ・ピサレンコ、AP)
<引用終了>
この報告から学べる点は幾つかある。
まず、アルゼンチン政府の消極的な姿勢である。昨年、違法な農薬散布がアルゼンチンでは初の刑事上の有罪判決へと繋がったという実績は貴重である。とは言え、政府の動きは余りにも遅い。この種の遅きに失した政府の姿勢はもっと糾弾されてしかるべきであろう。
そして、もうひとつの重要な点がある。恐らく、一番重要な点となるだろうが、それは巨大企業がその資金力と組織力とを駆使してブルドーザの如く利益を追求する姿である。安全性が確立されているかのような宣伝をして、市場をどんどん大きくしていく姿には米国の資本主義はここまで来てしまったのかと思わせ、ビジネス以外には洟もひっかけない傲慢さが感じられる。そうした巨大企業の傲慢なビジネスの進め方の前では、個々の農民や地域住民はほとんど無力である。
そう感じるのは小生だけであろうか?
♞ ♞ ♞
ところで、グリフォサートの安全性の承認に関しては、今年の4月、重要な情報が現れた
[注2]。恐らく、これは主要メディアでは取り扱われなかったのではないかと推測する。
その一部を下記にご紹介してみよう。
<引用開始>
…それとはまったく反対のことを示す証拠が増えているにもかかわらず、モンサント社はグリフォサートおよびラウンドアップは指示書通りに使用してさえいれば事実上無害である(5)と主張をし続けているが、グリフォサートの最初の登録の時点ではグリフォサートについていったいどのようなことが分かっていたのかを究明したいと思い、我々は環境庁(EPA)の記録を調査した。この試みは以前「Sustainable Pulse」というグループによって行われた調査を繰り返ものとなった。同グループは米国のEPAの姿勢が1991年に突然豹変したという事実を見い出していたのだ。隠ぺいされていたことを白日の下へ晒してくれたのだ。1978年から1986年にかけて、グリフォサートの急性ならびに慢性毒性を調査するために(クマネズミやハツカネズミあるいは犬を使って)数多くの動物試験が実施されていた。これらの試験はモンサントのためにバイオ・ダイナミック社によって実施され、その結果はEPAの審査のために提出された。これらの内の報告書のふたつはクマネズミを用いて3世代にまたがって行われた生殖試験であって(6)(7)、もうひとつは「クマネズミに対するグリフォサートの生涯にわたる給餌試験」と題されている(8)研究であるが、他のすべての古い研究と同じように、これらの研究は「企業秘密」として今まで扱われて来ており、今もそのように扱われ、独立した精査を行うために自由にアクセスすることは出来ないのである。この状況はそれ自体がモンサントは今でも毒物学の専門家によって精査されることはまったく望んではいないことを示唆している。また、EPAがもっともらしい口実の下にモンサントからの機密の要求に同意していることは非常に憂慮すべき事態であると言えよう。
しかしながら、1980年代初頭の記録であって、アクセス可能なEPAのメモがクマネズミを使った研究が何を示しているのか(9)に関して重要なことを伝えていたのである。これらの研究は動物試験に関する国際的な指針や医薬品安全性試験実施基準(GLP)が採用された時期よりも古いものではあるけれども、これらの研究ではクマネズミは3世代にわたる試験において腎臓障害を起こしていた。これは腎臓の尿細管肥大であって、グリフォサートを摂取したグループは、対照区(グリフォサートを摂取しないグループ)に比べて、何れのグループでも尿細管肥大の発生件数が多かった。尿細管肥大や炎症を伴わない腎臓疾患は、すべての試験区において腸管線維症を伴っており、研究者らはある事例では腸管にアモルファス状の物質や細胞残屑の存在を認めた。対照区のクマネズミは三分の一未満が尿細管肥大の兆候を示した。このクマネズミを用いた研究結果によると、腎臓で濃縮された代謝生成物によって起こる膀胱粘膜の変化が著しく、腫瘍のごく初期的状態と見なすことができる過形成を起こしていた。EPAは1981年にはこれらの兆候は悪質であると心配し、最初はNOEL(no observed adverse effect levelの略で、「悪影響が観察されないレベル」)を発行することは避け、EPAはさらなる情報の提出を求め、追加的な研究を実施するよう要求した。1982年に提出した追加報告書で、モンサントは悪影響を最小化して、支離滅裂なデータを提示した。これを受けて、EPAはグリフォサートは危害を及ぼすことはないということを認めたのである。しかし、モンサントはこれらの研究データが詳しく吟味された場合は潜在的に同社の商業的な野心を台無しにしてしまうということを知っており、同社は研究論文を「企業秘密」として取り扱うように依頼したのである。結局、事実上独立した精査は行われなかった。危害が起こる証拠があったけれども、モンサントとEPAは共謀して、これらの論文が一方に偏ることがない公正な専門家によって吟味されることがないように防戦を張ったのである。(EPAが発がん性を疑っていたことは明白である。グリフォサートには腫瘍形成性があり、腎疾患を引き起こすことをEPAは1981年には知っていたが、この化学物質にNOELを発行し、市場へ送り出すために、この知見は謎として退けてしまったのである。)…
<引用終了>
二番目に引用した記事は非常に重要だ。驚くべき情報である。一部分だけの引用ではあるが、ことの真相は十分にお伝えすることができたものと思う。
ここに報告されているのはモンサントとEPAとが共謀して安全性データを隠ぺいし、偏見のない第三者による吟味が実施されない様にしていたという事実である。政府の役目は産業を振興することにあるばかりではなく、消費者や国民の健康を守るという非常に基本的な責任を担っている。しかし、明らかに、1980年代初頭の米国のEPAは何らかの理由でその責任を放棄してしまったと言える。
この引用記事はEPAがグリフォサートの使用を承認した陰で何が起こっていたのかを詳細に報告している。専門的にもかなり詳しい報告である。要するに、モンサントとEPAとの共謀によって、モンサント社はラウンドアップを技術的には未完成のままの状態で市場に展開したということである。
その結果、今の世代が支払っている対価はどんなか?
その代表的な例がここに報告されたアルゼンチンであると言える。アルゼンチンでは、子供たちを含めて、数多くの悲惨な健康被害が今起こっている。アルゼンチン政府の怠慢もさることながら、モンサントとEPAとによる共謀の真相は詳しく説明する必要があろう。
言うまでもなく、これはアルゼンチンの国民や健康被害を被った人たちにとって重要であるからというだけではなく、全世界がその真相を知る必要があるからだ。
参照:
注1: Argentina: The Country that Monsanto Poisoned? Photo
Essay: By Syddue, Dec/29/2014, overgrowthesystem.com/argentina-the-country-that-monsanto-...
注2:Monsanto knew
of glyphosate / cancer link 35 years ago: By GM-Free Cymru Special Report,
Apr/08/2015
素晴らしい翻訳ありがとうございます。勉強資料として使用させていただいてよろしいでしょうか。
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