2016年3月11日金曜日

新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その1)



2014年の2月以降、ウクライナ情勢が世界のメディアを席巻した。

我々日本人が日常的に日本語で入手できる情報は限られている。そして、好むと好まざるとにかかわらず、入手できる情報は偏っている。情報を偏らせているのは西側のメディアである。日本のメディアはその下流に控えている。上流側にいる西側の大手メディアが恣意的に情報操作をしているとしたら、日本のメディアはたまったものではない。ましてや、もっとも下流に位置している一般大衆はなおさらのことである。

「日常的に」とは、ここでは、情報源として全国紙とかNHKのニュース報道だけに頼り、それ以外には特段の努力をしない毎日の生活を指す。人々は毎日の生活に追われている。正直言って、多くの人たちはインターネットで英語で提供されている代替メディアに毎日アクセスし、ウクライナやシリアに関する最新の情報を検索するような作業は行ってはいない。 その結果何が起こるのかと言うと、私の個人的な感覚で言えば、現実との間に大きな情報のギャップが生じるということだ。

我々素人にとっては今の世界で起こっている事象がお互いにどう結びついているのかを正確に判断することは非常に難しい。そもそも個々の情報がどこまで正しいのか、もしかして偽情報ではないのか、等についての判断には高レベルの見識を必要とする。これが私の実感である。当然ながら、それは専門家にお任せするしかない。専門家はジグソーパズルを組みあげて、全体像を明快に示してくれる。

米国にマイケル・ハドソン教授という格好の経済学の教授がいる。私のブログでも、2014423日に「ウクライナのキエフで死者を出した発砲事件には反政府派が関与 - ドイツの公共テレビ放送」と題する記事を掲載した。そこでは、ハドソン教授は当時大ニュースとなっていたウクライナ情勢、つまり、220日に起こった発砲事件に関して、米国政府は情報管制を敷いていたと解説している。そこには、米政府の関与が公衆に暴露されることを何とか防ごうとする政府の取り組みの様子がまざまざと見て取れた。今では、ウクライナ紛争に対する米国の関与は公知の事実ではあるが、当時、私はそのことにどの程度の信ぴょう性があるのかを正確には把握できないでいたが、このハドソン教授の指摘はまさに決定的な役割を演じてくれた。

この2年前の投稿は数多くの読者の皆さんにアクセスして貰っている。今、2番目にランクされている。何と言っても、ハドソン教授の解説が最大の魅力となっている。あれから2年が経過。その後のウクライナ情勢に関してはさまざまな展開があり、数多くの関連要素が新たに加わってきた。それでもなお、この投稿を再読してみると改めて教えられることが多い。ハドソン教授の解説は今でも輝いているのだ。

そのハドソン教授との間で行われた新しいインタビューが報じられている [1]。その表題を仮訳すると、「新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争」となる。非常に大きなスケールの記事である。本日はこれを仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

2年前のハドソン教授の記事と同様、このインタビューも素人の我々にも理解できるように米ロ間の金融戦争について懇切丁寧に解説してくれている。この点が実に素晴らしい。このような記事に出くわすのは非常に稀なことだ。

いささか長くなるが、ご辛抱いただきたい。


<引用開始>

ハドソン教授は自身の論文に関して下記の項目について解説をしている: (1)中国とロシアを孤立化させるためにIMFは自らの規則を変更、(2)政府間債務の返済に取り組む役割を持つIMFに影響を与える四つの政策変更、(3NATOに対抗する軍事同盟「上海協力機構」、(4IMFや世界銀行に取って代わるアジア・インフラ投資銀行(AIIB)、(5TPP条約、(6)中国の国際決済システム(CIPS)、(7WTO投資条約、(8)ウクライナとギリシャ、(9)東西間に存在する経済発展に関する哲学の相違、(10)第二次大戦後の米ドル支配体制が崩壊、(11)世界はふたつの陣営に分裂。 

マイケル・ハドソン教授のプロフィール: 長期経済動向学研究所の所長であり、ウオール・ストリートの金融アナリストでもあり、キャンサス・シティーのミズーリ大学(UMKC)では経済学の教授として著名。1972年の彼の著書「Super Imperialism」は米国がIMFや世界銀行を駆使して如何に他国の経済を搾取したかを論じた書である。最近の著書は「Killing the Host: How Financial Parasites and Debt Destroy the Global Economy」と題されている。今日の番組では彼の記事「The IMF Changes Its Rules to Isolate China and Russia」について論じる。  

ある国が他国の政府あるいは公的機関から借金をしていると想定してみよう。もしも国際法廷とか実施制度がないとしたら、債権者はどのようにして貸した金を回収することができるのだろうか?実際には、IMFや世界銀行が実施制度の一部となっているのである。ところが、今、彼らはこう言っている。「我々はこの制度にはもう関与しない。これからは、我々は米国の国務省やペンタゴンのためだけに働く。もしもペンタゴンがある債務国に対してロシアや中国には返済しなくてもOKだとIMFに対して宣言するならば、IMFに関する限りではその当事国はもう返済しなくてもいいのだ。」 これは第二次世界大戦後に構築された世界秩序をぶち壊すものとなる。米ドルの支配圏と米国が制御できなくった国々に分裂する。言うなれば、後者の国の指導者らは米国から給与を貰っているわけではない。

私はボニー・フォークナーです。本日はマイケル・ハドソン教授をこの「Guns and Butter」の番組にお招きしています。本日のショウは「新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争」と題しています。

* * * * *

ボニー・フォークナー: マイケル・ハドソンさん、ようこそ。この前お会いしてから大分経ってしまいましたね。

マイケル・ハドソン: こちらへまた戻って来れて嬉しいです。この前はイタリアでお会いしましたよね。 

ボニー・フォークナー: その通りです。イタリアのリミニでした。あれは何年だったかしら?

マイケル・ハドソン: 4年前のことだったと思います。何故かと言うと、我々はUMKCのステファニー・ケルトンとも一緒でした。彼女はバーニー・サンダースによって上院予算委員会で民主党のチーフ・エコノミストに指名されていました。あの場にはUMKCのビル・ブラックも居ました。私はあそこで行った講演の幾つかを2012年に発刊した本「Finance Capitalism and Its Discontents」に収録しています。

ボニー・フォークナー: マイケル、私はあのリミニでのプレゼンテーションから実に7回分もの番組を作りましたよ。あなたやマーシャル・オーアーバック、ウィリアム・K・ブラック、ステファニー・ケルトンといった皆さんによる「現代通貨論」です。この番組はまさに大当たりでした。

マイケル・ハドソン: 良かったですね。確かに、あれは素晴らしいプレゼンテーションでした。私たちが入場して来た時、会場は大きなサッカー場でしたが、我々はあたかもビートルズのように中央の通路を歩いて行きました。観客は私たちに声援を送ってくれ、我々の名前を叫んでいました。まさにポップスターのような気分でした。

ボニー・フォークナー: イタリアの人たちは非常に暖かく、代替経済理論についても大層熱狂的でしたよね。私も驚いてしまいました。 

マイケル・ハドソン: まったくです。スペインからも来ていましたし、そこいらじゅうから来ていましたよね。あれは我々が経験した中では最高のプレゼンテーションのひとつです。

ボニー・フォークナー: あの場に参加することができて、私はすごく幸運でした。間違いなく、あの会議は記憶に残るものです。ところで、私は「中国とロシアを孤立化させるためにIMFは規則を変更」と述べているあなたの論考を読みました。あの記事は国際通貨基金(IMF)での規則の変更が意味することに警鐘を鳴らしています。IMFは政府への融資をします。IMFの規則変更についてお話をする前に、これらの抜本的な規則変更をもたらしたのはいったい何だったのでしょうか?

マイケル・ハドソン: 幾つもの政策変更があります。最初のひとつは、IMFはかっては他国政府に対して債務不履行に陥っている国には融資に応じませんでした。これは、過去においては、他国政府というのは米国自身のみだったからです。第二次世界大戦以降、IMFや世界銀行による国際的な緊急援助または安定化のための融資には、ほとんどの場合、米銀の融資団と連携して米国政府が絡んでいたのです。

しかし、中国やBRICs諸国が大きく成長して、今、初めて、各国は米国から借金をすることができるばかりではなく(米国に借金をしている国は米国からさまざまなロビー活動を受けることになりますが、それは別の議論として)、中国や他の国からも融資を受けることが可能となっています。
米国はIMF規則を変更することによって対応しました。米国はこう言ったのです。つまり、「ちょっと待てよ。今我々は冷戦状態にあるんだから、たとえ中国やロシアまたはBRICs諸国に対して債務不履行となっていても、そういう国に対して融資を続けてもいいよ。そもそも、IMFは我々のためにあるんだから。」 米国がIMFで拒否権を持っている限り、米国代表は米国に借金を抱えており米国がもはや支援をしたくはないような国に対しては何時でも融資を拒否することができます。こうして、ロシアに対して公的債務を持っているウクライナのような米国の衛星国に関してIMFは融資をすることには反対をしないのです。

昨年の12月、ウクライナではロシアの政府系ファンドから融資を受けていた30億ドルを返済する期限が迫っていました。米国はロシアに経済的な打撃を与えることができるならば何でも実施しようとしているのです。もしロシアに十分な打撃を与えることが出来れば、ロシアは米国側の戦略を受け入れるようになるかも知れないと考えているからです。新冷戦における米国の戦略は他国の経済を民営化させ、新自由主義的な政策に協調させることにあります。その目的は各国の経済を米国の企業や銀行に対して開放させることにあります。

IMF規則の変更は、基本的には、IMFを米国務省の出先機関として起用することだったのです。ウオール街には副次的なオフィスを開設しました。突然、IMFはもはや世界規模の経済動向に取り組む国際機関ではないことが明白となったのです。IMFは米国の冷戦時の外交手段としてオバマ政権の下で急速に右傾化しました。

ボニー・フォークナー: 今、上海協力機構(SCO)がNATO に対抗する組織として存在しています。また、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)もあります。これはIMFや世界銀行に取って代わるものだと言われています。西側の銀行制度を代替する物としてこれらはどの程度成功すると思いますか?

マイケル・ハドソン: まず大きな点としては、西側の銀行制度やIMFおよび世界銀行はうまく行っているとは言えません。IMFは「がらくた経済学」に頼っています。もしもあなたの国が外国の公債保有者や銀行に対して借金がある場合、あなたは借金を返済するためにその国に緊縮経済を課さなければなりません。今稼働中のがらくた経済学は、緊縮経済を実施することによって債務者が外国の銀行や公債保有者に支払うのに十分な税金を自国の経済から徴収することを可能にしてくれると主張しています。これは1920年代に英国人や米国人およびフランス人が用いたものであって、結果としては最悪の事態を招いた理論と同じです。ドイツが自国の経済に十分な課税をしさえすれば、ドイツは賠償金をいくらでも支払うことができると彼らは主張したのです。

ジョン・メイナード・ケインズはこの理論は間違いだとしていましたし、米国人としてはブルッキングス研究所のハロルド・モールトンも同様の考えでした。しかし、1920年代の教訓はIMFによって拒絶されました。ある国がたとえ緊縮経済を実施しても一国の対外債務を払えるようにはしてくれないことを彼らは良く知っていたからです。スタッフらがそのことを明確にしたのです。緊縮経済は当事国の支払い能力を低下させます。つまり、これはさらに借金をする必要が生じることを意味しているのです。

次に、IMFは二番目のパンチを繰り出します。一番目は緊縮経済でした。二番目のパンチでは彼らは次のように言います。「さてと、我々のプログラムはうまく行かなかったようだ。残念なことだ。[まあ、驚くには値しない。次から次とこういうことは起こるんだから・・・] あなた方は自分たちの産業や天然資源を民有化し始めなければならない。農地を売却しなさいよ。」 彼らは、基本的には、債務国に対しては昨年ギリシャに向けて言ったこととまったく同じことを言います。

2010年以降IMFが要求した緊縮経済はギリシャを救出することが出来なかった。この時、IMF2015年にトロイカ方式によって(欧州中央銀行や欧州連合と組んで)、ギリシャに対しては所有する島を売却し、港湾や水道システム等の公共インフラに属する物は何でも売却することを要求しました。2015年の夏、このような要求をギリシャに対して宣言した後、今度はウクライナの番がやって来ました。 

IMFがウクライナに与えた最初のパンチは、国内経済に課す税収によって外国の公債保有者への返済は可能になると主張して、緊縮策(がらくた経済学)を無理強いすることでした。これが状況をさらに悪化させた時、世界銀行と米国国際開発庁(USAID)が登場して来ました。米国が指名した財務大臣はウクライナが米国やヨーロッパの投資家へ売却することができる資産として農地や天然ガス採掘権ならびにその他の天然資源を指摘しました。しかし、売却先としてはロシアは除外されています。

その狙いは、もしも米国の投資家が主要なインフラを購入し、ウクライナ経済の頂点を制することが出来れば、米国はウクライナをロシアから引き離すことが出来るというものでした。ウクライナはロシア経済の重要な部分を占めていました。たとえば、ロシアの軍需や宇宙産業用の製品はウクライナ東部のドンバス地方で製造されていたのです。

ウクライナをロシアから引き離すという狙いはロシアを分断する上での最初のステップであり、その後は中国を分断して、幾つもの小国に分割することです。その目的は、あたかもショウウィンドウを破って金目の物をつかみ取るかのようにそれらの国で天然資源や企業を奪うために、中国とロシアを中東のリビアやイラク、アフガニスタンやシリアのように取り扱えるようにすることにあります。

ボニー・フォークナー: TPP条約の目的は何でしょうか?TPPはどのようにアジア・インフラ投資銀行(AIIB)と競い合うのでしょうか? 

マイケル・ハドソン: 軽薄な答え方をしてみましょうか。その目的は人口を50%減少させることにあります。人々を空腹にし、年金を中断し、貧困を広げることです。これらは、実際には、TPPがもたらす影響です。

表向きの目的は交易に関する条約ですが、この条約の実際の筋書きは民営化を推進し、政府による規制を剥ぎ取ることです。これは発展期の全期間にわたって中心となっていた課題とは逆行するものです。過去300年間、ヨーロッパや北米における大前提は混合経済を確立することにあり、政府はインフラや道路、そして、運輸、通信、上下水道、ガス、電力への投資を行うことでした。インフラにおける政府の役割はこれらの基本的なニーズを最低限のコストで提供することです。これは低コストで競争力のある経済を推進するためのものです。この手法によって米国は裕福になったのです。これこそがドイツが工業化し、ヨーロッパの他の国々も裕福になることが出来た要因です。TPPの目的は公共投資を反対側に巻き戻し、民営化することにあります。TPPのイデオロギーは経済を個人の所有者や民間企業が所有し、運営しなければならないとしており、彼らの目標は短期的に利益を挙げることにあります。

関連した目標がいくつかあります。たとえば、コストがかかる環境保護規制を無効にし、労働者の保護を無効にし、天然資源または経済的利益に対する課税を無効にします。考え方としては、道路や輸送システムは外国の投資家が所有し、高い使用料を課して、有料とします。インターネットや上下水道システムは売却され、それらの役務や基本的なニーズには課金され、有料となります。金融、産業および固定資産の分野は政府による監督に取って代わることになり、これは世界中で新封建主義とも言えるような不労所得経済を強いることになります。

この考え方はもっとも広範にわたるレベルで啓蒙主義を逆戻りさせ、封建主義を復活させることになると言えましょう。このような言い方はかなり極端に聞こえるかも知れませんが、TPPの投資条約が如何に急進的なものであるかを人々は認識してはいません。たとえば、オーストラリアがタバコに対する税金を高くし、タバコの箱に健康に関する警告を記載させた時、メーカーのフィリップ・モーリスが提訴し、オーストラリアの消費者がタバコを吸い続け、現行の発症率で癌が発症した場合の同社の利益をオーストラリア政府は支払うべきだと主張したのです。

エクアドル政府が環境汚染を理由に複数の石油会社を起訴した時、彼らは提訴しました。その結果、同国は石油会社が原油生産を続けていた場合に達成したであろう利益を石油会社に支払わなければならなくなったのです。しかも、永久にです。世界中を見渡しても、この条約を批准した国は如何なる国でも自国の環境を自由に規制することはもはやできませんし、利益やその他を求める民間企業に対して新たに課税する法律を制定することさえもできません。 

基本的には、道路や上下水道システムを新たに購入した者は、独禁法による規制も受けずに、利益を絞り上げるためにこれらを活用することができます。それは、市場が受け入れることが出来る限り、彼らは如何なる使用料でも課すことができることを意味します。まさにこれらの国々はニューヨーク市のケーブル利用者が扱われているのとまったく同じような扱いを受けることになります。私はクイーンズのフォレスト・ヒルに住んでいます。ケーブル・サプライヤーは1社だけあります。タイムワーナーです。もしも私がケーブルを使いたいとすれば、私は彼らが決めた課金を支払わなければなりません。彼らの課金は彼らのコストとは無関係です。私は彼らのケーブル・ボックスを賃貸しなければならず、購入することは出来ません。

これこそが経済的利益です。それは売上金額から生産コストを差し引いた部分です。何百年にもわたってアダム・スミスやデイビッド・リカルド、ジョン・スチュアート・ミル、ソースティ・ヴェブレン、等が主張する経済学はどのような製品であっても実際のコスト、つまり、技術的ならびに社会的に必要なコストに基づいて物を生産する経済を説いてきました。これはただ飯を抜きにした、即ち、不労所得(経済的利益)を抜きにした経済です。

TTPおよびそのヨーロッパ版の目的は不労所得を搾り取ることにあります。発展期や社会民主主義に対抗し、古典的な経済学に取って代わろうとするがらくた経済学を後押ししながら、不労所得生活者の利害は自由貿易を求める右翼のイデオロギーを生み出しています。彼らの言葉はオーウェルの二重思考そのものです。

ボニー・フォークナー: WTOによるこれらの裁定はあなたがお話しした国々、たとえば、オーストラリアに対して実行されたのでしょうか? 

マイケル・ハドソン: フィリップ・モーリスは敗訴しましたが、オーストラリア政府は訴訟費用として何千万ドルも支出せざるを得なかったと思います。企業弁護士のバッテリーを相手に自分たちの国家を守るには訴訟費用が必要となります。巨額の費用を賄うことは、オーストラリアにとってもがそうなんですが、エクアドルのような貧しい政府にとってはほとんど不可能に近いと言えます。TPPの下では、裁定者は企業側や法律事務所から引っ張って来ます。

判決や規則は政府の枠外で、さらには、選挙民が成立させた法律の枠外で決定され制定されます。こうして、大企業による少数独裁政治が民主主義に取って代わります。政府側が企業に対してどれだけの額の損害補償を支払うべきかは少数の裁定者のグループによって決定されます。これらの裁定者は回転ドアを介して企業と繋がっているのです。事実上、彼らはこれらの企業のためにロビー活動も行います。 

[訳注: TPPにおけるISDS(投資家対国家の紛争を解決する)条項について一言付け加えておきます。上記の会話にもあるように、ボニー・フォークナーTPPの運用の仕方を知らなかったので、オーストラリアやエクアドルの件で裁定を下したのはWTOだと思っていたようです。ハドソン教授はそのことを察知して、TPPの下では誰が裁定者の役割を演じるのかを説明しています。あるいは、これはハドソン教授に詳しい説明を促すためにボニー・フォークナーが仕掛けたトリックだったのかも・・・]

ボニー・フォークナー: 中国は代替となる中国国際決済システム(CIPS)とクレジットカード・システムの制定を加速させています。SWIFT銀行間決済システムとは何でしょうか。中国の支払いシステムはSWIFTにとっては脅威となるのでしょうか? 

マイケル・ハドソン: あなたが銀行口座からの引き落としとなる小切手を発行する時、銀行はその決済システムで小切手を処理します。SWIFTシステムは巨大なコンピュータ・プログラムであって、これによってある人が小切手を切って他の銀行に口座を持っている別の人に送金をすることが可能となります。

1年程前に米国の戦略家たちはロシアと新たな冷戦を開始することを考えました。これは急速に軍事的な戦いへと変化するかも知れません。しかし、冷戦は兵隊を送り出すこともなく、ロシアの経済を痛めつけるだろうと見ていました。我々は侵攻する必要はないのです。軍隊を送り込むなんて旧式の戦争です。今日では何処の国も他国へ侵攻するなんてことは出来ません。しかし、米国はロシアや他の任意の国をSWIFT 決済システムから突然除外することによってそれらの国を人質に取ることができるのです。その国の銀行や一般市民ならびに企業は決済することが不可能となります。米国はその国の経済的な繋がりや連絡を潰してしまうことが可能です。 

米国人がこのことについてお喋りを開始するや否や、中国とロシアは早速それに対応しました。ごく自然なことですが、彼らは自分たちに向かって戦争をしたいと思っている国家がそのような破壊的な威力を一方的に持つことは望んではいません。オバマとヒラリー・クリントンはすでにそのような脅迫を宣言しています。ロシアの指導者たちは自分たちは世界的な制度の構成員になりたいんだと言っていますが、米国が自国の利害のためだけにSWIFTを運営し、ロシアに対して敵対的に振る舞う限り、ロシアは自国の銀行決済システムを守る必要が出て来ます。 

こうして、中国は自国の銀行決済システムの構築で先鞭を切っています。中国やBRICs諸国の一般大衆や企業および政府機関はコンピュータ・マルウェア・プログラムを使ってイランの遠心分離機に対して行ったようなことをやり出しかねない米国の人質となる必要はまったくありません。我々がイランの遠心分離機の速度を上げるためにウィルスを送り込んで遠心分離器を壊したように、SWIFTについても米国はやろうと思えばやりかねません。今、中国やBRICs諸国はこういった事に対して自分たちを防護しようとして動いているのです。

ボニー・フォークナー: 中国の国際決済システムはもう稼働したんでしょうか?それとも、まだ計画の途上でしょうか? 

マイケル・ハドソン: 彼らはまだ開発中にあると思います。このシステムは複雑ですから、開発は結構困難です。これらの物事には慣性があり、それ故に既存の決済制度上に構築する方がより簡単です。すべてを置き換えるような制度を構築するには長い時間が必要となります。その状況はマイクロソフトのオフィス・プログラムみたいなもので、マック・コンピュータがワードやエクセルを使用している理由はそこにあります。不具合のないプログラムを開発するには何憶ドルもの費用がかかります。戦争が公然と起こっているわけではないので、中国の人たちは依然として不具合を排除する作業を続けているのだと思います。 

ボニー・フォークナー: ロシアのプーチン大統領は西側と経済的ならびに軍事的に台頭しつつたる東側の地域との間にパートナーシップあるいは、少なくとも、協力関係を築くことを提唱しました。しかし、西側に対するプーチンの提唱は聞く耳を持たない西側に届いてしまったかのようです。あなたはどう思いますか? 

マイケル・ハドソン: これは1990年代以降継続して見られてきた願望です。プーチンが政権につく以前からです。論理としては、先進国の間では核戦争をするなんて今や問題外であることから、ロシアはNATOに参画する用意があると言っています。

彼らはサウジアラビアによって資金を提供されているワッハーブ派イスラム教徒から共通した脅威を受けています。ワッハーブ派のシャリア法に基づいたテロです。ロシアはジョージアやアゼルバイジャンから中央アジアに至るまでの南部国境周辺においてサウジが後押しをするテロリストを懸念しています。一方、中国はウイグル地域でのワッハーブ派によるテロを懸念しています。ISISやアルヌスラはあたかも米国の外人部隊であるかのように振舞っています。ヒラリー・クリントンがリビア政府を転覆させた時、武器や軍需品のストックはISISに引き渡されました。リビアの中央銀行の財産も盗み出されてISISの手に渡りました。米国がイラクへ侵攻した際、この侵攻によってスン二派の軍隊の方向を変えさせ、何億ドルものビニール包装された100ドル紙幣の束は最終的にはISISの手に渡りました。ISISが米国人を殺害すると、米国はISISに対抗しますが、基本的には、ISISは米ドルを世界基準としては認めない国を解体する米国の手段として用いられています。

ロシアは米国がこれは気違いじみた制度であると認識することを願っていました。米国、ロシアおよび中国は相互貿易で裕福になることが可能です。もしもヨーロッパが自分の経済的利益を追求するならば、ヨーロッパは自分たちが自然発生的にロシアの貿易相手であることを自覚するでしょう。ロシアは今起業家を必要としていますから、ヨーロッパ人や恐らくは米国人もロシアへ出かけて、経済を盛り上げることが可能です。

しかし、ヨーロッパとロシアおよび米国の間で相互繁栄を追求する代わりに、米国はヨーロッパを新自由主義的な緊縮経済による死界へと追いやりました。これが今ヨーロッパ経済を縮小させ、ヨーロッパをロシアから引き離しているのです。これはヨーロッパの繁栄を阻害します。ヨーロッパの繁栄はロシアや中国を利することになるとの考えからです。

米国人側の考えはかって米国がキューバやイランおよびリビアを扱っていた時のようにロシアを取り扱うことです。この考えはロシアが屈服することを期待し、ロシアを孤立化させているのです。しかし、ロシアはキューバや北朝鮮よりも遥かに大きく、中国はもっと大きい。米国の新自由主義的経済に対して屈服する代わりに、彼らはこう判断しました。「我々を相互防衛で一致協力することに追い込んだのだのは米国側だ」と。皮肉にも、米国の外交そのものが米国にとっては回避したかったユーラシア同盟をもたらしてしまったのです。

ボニー・フォークナー: 仰る通りです。あなたは論文のどこかで、IMFのメンバーの誰かはIMFを解体するために自爆装置を身に付けているかのようだと述べていましたよね。私はあの表現はすごくいいなと思いました。

マイケル・ハドソン: 確かに、あれは米国が自爆装置を身に付けてIMFの会合の場に現れたようなもんです。彼らは「我々はIMFが米国の利害のためだけに行動して欲しいと思う。国際的な利害のためには行動しないでくれ」と言ったのです。これはIMFが世界の国々の安定化を求めて支援の手を正直に差し伸べるという幻想をぶち壊したのです。 

米国からの圧力がIMF規則に抜本的な変更をもたらしました。私が上記で言及したひとつのルールは他の政府への返済を拒む国に対しては融資をしないという規則です。これはIMFの合意書には公式には記述されてはいません。しかしながら、IMFの合意書に記載されている内容は融資を返済する明白な手段を有しない国へは融資をしてはならないということに尽きます。これは「アルゼンチンの過ちを繰り返すな」という規則として知られています。IMFはアルゼンチンが公債所有者への返済ができるようにと2001年にアルゼンチンに融資をしたのです。しかし、アルゼンチンにはこれらの焦げ付き融資を返済できる見通しはありませんでした。 

2010年にIMFがギリシャへの融資を行った時、IMFはまたもやこの規則を破りました。職員の一部は自分たちの分析結果が無視されたのを知って、IMFを去って行きました。IMFの重役会は、ギリシャがどのように返済するのかを見極めずに、IMFとしてはいったいどうやってギリシャへこれだけの金を融資し、ギリシャにはドイツやフランスおよび英国の銀行へ返済させ、公債所有者を救済することが出来るのかと質しました。

IMFの指導者、ドミニク・シュトラウス・カーンは新たに「システミック・リスク」の規則を導入することによって職員や重役会からの発言を封じてしまいました。このルールはIMFが自分たちの合意書に違反することを許容し、もしも返済の不履行が他の多くの国々に対してシステミック・リスクを引き起こす可能性があるならば如何なる国に対しても融資をすることは可能であるとしたのです。運用面では、IMFはシステミック・リスクをこう定義しました。つまり、公債保有者が1ドルを超す損失をする場合としたのです。これは「市場の自信」を破壊するかも知れません。公債保有者や銀行を救済するために借金が膨らみ、これによって経済が破綻する可能性があります。ところで、2-3日前のことですが、129日にIMFはこのルールを元に戻しました。「このような言い訳はもう使いません」と言っています。

IMFの合意書においては、別の条項には戦争を遂行している借り手には融資をしないと明記されています。この条項の明白な理由はこうです。もしもある国が戦争をしており、特に、ウクライナで実際に起こっているように、その国の輸出に貢献している地域を爆撃するような内戦状態にある場合、その国はいったいどうやって外国からの借金の返済に充てる外貨を手に入れることが出来るんでしょうか。ウクライナの輸出先はほとんどがロシアでした。ドンバス地方やウクライナ東部に対する武力攻撃はこの輸出産業を破壊してしまったのです。

米国はIMFに無理強いをしてウクライナへの融資を行わせたのです。IMFの専務理事、クリスティーヌ・ラガルドはウクライナはこの資金を戦争には使わないで欲しいと言いました。しかし、15億ドルは泥棒政治家(つまり、国の資源や財産を私物化する政治家)であり銀行の所有者でもあるコロモイスキーの手に渡り、彼はすぐさまその金を海外へ送り出し、自分の国内にある資金を用いて反ドンバス軍に対して資金提供をしました。その翌日、ポロシェンコ大統領は「ウクライナはこれでようやく戦争を再開できるようになった」と言っています。 

破られてしまったIMFの四つ目のルールは緊縮財政を実施できる可能性がない国に対しては融資をしないというものです。これは融資条件と呼ばれています。これには民主的な野党を無効にしてしまうことも含みます。ウクライナは年金の受給額を減額し、緊縮経済を実行しています。民主主義が生き残れる余地はほとんどありません。基本的には、米国がやって来て、民主主義を標榜する装いはポイと捨ててしまいました。1960年代と70年代において、米国は南米では専制主義を支援しました。たとえば、チリのアヘンデを放り出してしまいました。そして、今や、その当事国が米国の戦略計画者が望んでいることを実行してくれる限りは、IMFは戦争を遂行している国に対してでも融資を行います。ところが、ロシアやBRICs 諸国の銀行に対する支払いのための融資には応じません。

[訳注: この記事は長いので、2分割にしたいと思います。2分割にされた記事を読む不便さは、この記事がたくさんの情報を伝えており、しかも、米ロ間の金融戦争の全体像を理解する上で多いに役立つという点にご配慮いただき、ご容赦願えれば幸いです。後半は次回の投稿で掲載します。]

<引用終了>


少なくとも私自身は、ウクライナを巡ってはIMFがその規則を無視して融資を行っていることはさまざまな報道で気が付いていた。しかしながら、このハドソン教授の記事を読んで、全体像をより詳細に把握することができるようになった。米国の新自由主義が如何に反民主的であるかに関してもギリシャとIMFとの抗争の詳細を読んで、より明確に理解することができた。米国で何故オキュパイ・ウオール・ストリート運動が起こったのかが分かるような気がする。

また、TPPについては主要メディアがついぞ報道したこともないような新たな性格が分かって来た。これは非常に重要だと思う。

ハドソン教授は「TPPの目的は人口を50%減少させることにあります。人々を空腹にし、年金を中断し、貧困を広げることです。・・・表向きの目的は交易に関する条約ですが、この条約の実際の筋書きは民営化を推進し、政府による規制を剥ぎ取ることです」と要約している。また、「このような言い方はかなり極端に聞こえるかも知れませんが、TPPの投資条約が如何に急進的なものであるかを人々は認識してはいません」とも述べている。日本にとっては、この指摘は我々一般大衆に対する鋭い警鐘であると言えよう。

この記事を読んだ場合、多分、日本の多くの人たちは「TPPってこんなに悪辣なの?」と思うかも知れない。

何しろTPP条約を交渉した政府代表でさえも条約の本文を読んだことがなかったというのだから無理もない。国会議員も然りである。国会で政府に対して質問をすることさえもままならなかったではないか。一般大衆がTPPの本質を知らなかったからと言って彼らを責めるのは酷である。責めるべきはジャーナリストの使命を忘れてしまったメディアではないだろうか。

それはそうと、現時点での最大の問題は余りにも遅すぎたということかも知れない。

結局、最後に残されているのは米国の大統領選の結果次第ではTPPが米国では破棄されるかも知れない。それを期待するのみだ。

あるいは、資本主義世界の金銭欲には際限が無いという現実を考えると、ハドソン教授の著書「Killing the Host」の表題が示しているように、米国の新自由主義が行きつくところまで行って、その結果、宿主、つまり、米国自身を食い潰すのをのんびりと待つしかないのかも知れない。この最後の選択肢は中国にはぴったりの手法である。



参照:

1The New Global Financial Cold War: The Guns and Butter Interview: By Michael Hudson and Bonnie Faulkner, Global Research, February 28, 2016, Guns and Butter (KPFA)
February 19, 2016 [訳注: ラジオ放送局「KPFA」はカリフォルニア州のバークレイに本拠を置き、サンフランシスコ地域をカバーしている。Guns and Butterは番組の名称。]






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