2016年3月14日月曜日

新たな世界規模の冷戦 - 金融戦争(その2)



米ロ間ならびに米中間の金融戦争について続けよう。

今日の投稿は前回の続きで、後半部分である。


<引用開始>

ボニー・フォークナー: マイケル、あなたはもうこの問題に関して答え始めていますが、多分、もう少し明確化することが出来るかと思います。ロシアの政府系ファンドがウクライナに対して融資をしました。このことをあなたは言及していますよね。このロシアの融資はIMFの融資手続によって保護され、この公債はロンドンの債権者を重要視する規則や裁判所の下で登録されています。ここで、IMFや世界銀行の規則がどのように第二次大戦後の当初の政府系融資手続きの構造を守って来たのかを説明してください。 

マイケル・ハドソン: 他国の政府に対して支払いの義務を負っている国、あるいは、他の政府に対して債務不履行となっていたり、外国政府への返済に関して誠意をもって交渉をしなかった国に対してはIMFは融資をしないと言いました。ウクライナはロシアの政府系ファンドに対して30億ドルの支払い義務を負っていました。ロシアの融資は譲渡的条件の下で行われましたが、この融資は保護条件も付けられていました。この融資は政府系ファンドであることから、この融資をロンドンで登録することによって保護されています。ロシアではウクライナが果たしてロシアへの返済を回避できるのかどうかについての議論が起こりました。

昨年、米財務省はウクライナは不履行に陥るかも知れないが、それでもなおIMFからの融資を受けられるか否かに関しては銀行の弁護士たちと延々と議論をしていました。我々はその答えをすでに目撃しています。つまり、IMFのルールが変更されたのです。欧州連合や多国籍銀行はIMFが参画してはいない国際借款団には通常参加しないということを覚えておいてください。借金国はIMFとの関係を良好に維持していなければなりません。

しかし、今、政府間融資の制度を守る代わりに、IMFは米国の影響圏内にある国に対する融資だけを守ろうとしており、米国が嫌う政府の融資は除外してしまいました。実際問題として、これは新自由主義政策を支持しない人にとっては何かを意味します。

基本的には、米国はウクライナから30億ドルを回収しようとするロシアの法的能力を排除しようとしたのです。ウクライナではこの融資を「不当債務」と見なすことができるのではないかという議論がありました。オバマ大統領がプーチンを泥棒政治家であり、腐敗していると称したことから、ロシアへの返済義務は如何なる融資でも不当債務と見なされるという論法です。過去50年間、米国は南米やアフリカならびにアジアの明らかに腐敗した独裁者に対して融資をして来ました。一方、ピノシェからトニー・ブレア―までは政治的に腐敗していたとは言えません。米国は国際法の枠組みをぶち壊しています。 

ウクライナはこの公債が登録されている英国の裁判所では自分たちは如何なる法的な試みをしてみても失敗に終わることを知っています。この裁判所は債権者を非常に重く見ます。しかし、少なくとも、ウクライナは最終的に決着をつけることが可能となります。

ウクライナとそれを後押しをする米国は、原油価格がバレル当たりで30ドル未満に低迷する今、ロシアは金を必要としており、多分、彼らはロシアを困窮させて、米国の支配に屈服させることが出来るかも知れないと考えているのかも知れません。これは気違い沙汰です。明らかに、ロシアは降参しようとはしません。2-3日前、セルゲイ・ラブロフ外相は、ロシアは西側との関係を再考すると述べました。ドイツや他のヨーロッパ諸国がロシアと経済的関係を繁栄させることに関しては米国が反対していることは明白です。そのような状況から、ロシアはヨーロッパとの関係を再考しつつあります。ヨーロッパが自分たちの経済的利害を追求せずに米国の51番目の州のように振舞う限り、ロシアは中国やBRICs諸国の方へ向かうことでしょう。残念なことです!相互に裕福になる素晴らしい関係になり得たのですから。

ボニー・フォークナー: あなたはご自分の記事を「中国とロシアを孤立化させるためにIMFはその規則を変更」と題しています。それが彼らが実際にやっていることであり、これらの規則変更の背景にある目的は中国とロシアを孤立させることにあります。ところで、中国とロシアは今までIMFや世界銀行と協力して来ました。そうでしょう?

マイケル・ハドソン: はい、その通りです。米国の戦略の主目的は当初から中国でした。すでに3年間も如何に中国を孤立させるかに関して米国は公然と議論をしています。米国は潜在的に独立した強国を目にしたくはないのです。中国の労働者が低賃金で働き、低価格の製品をウォールマートへ納入している間はまだいいのですが、中国が独立した強国になることは受け入れられないのです。

中国は米国の投資家や輸入者たちには米政府が中国に対して冷戦を激化しないようにロビー活動を行うよう十分に共通の利害を提供して来ました。しかし、ロシアは西側を裕福にするような手立てをそれ程数多く持っているわけではありません。特に、ホドルコフスキーがユーコスの石油利権をエクソンに売却しようとした際には彼らはホドルコフスキーを刑務所へ放り込んでしまい、それからというものはなおさらのことです。もしもこの売却が実現していたら、ロシア原油は基本的には国家的な世襲財産の地位からは外され、多分、エクソンの会計士は課税所得がほとんど残らないようにするために、例によって便宜置籍船やオフショア金融センターを活用して粉飾決算を行い、その結果、ロシアには売り上げや輸出代金はほとんど残らなかったことでしょう。 

中国は自国通貨をIMFの国際通貨バスケットの一部に組み込みたいと思っています。中国は元をドルと同じ地位に据えたいとしています。それが実現しますと、中国からの輸出業務を米銀に依存する必要はなくなります。特に、国内での信用の創造についてはなおさらそうです。中国は米国の新自由主義者たちが1992年から1993年にかけてロシアに対して行ったようなことは是非とも回避したいと思っています。彼らはロシアを説得しました。ロシアの中央銀行は国内のルーブルを支えるためには米ドルを保有する必要があると説いたのです。ロシアはそれ程多くの米ドルを保有してはいなかったことから、結果は極端なデフレを招き(治療をしない「ショック療法」)、これはロシアの脱工業化を招きました。 

ロシアは自国の労働力や産業のための国内支出を満たすために外国通貨を借りる必要はなかったのです。ルーブルは米ドルの衛星通貨となり、1997年にはルーブルが崩壊、英ポンドや米ドルへの資本の逃避が起こり、その額は年に250憶ドルにも達しました。

こういった状況を中国は是非とも回避したいのです。彼らは、米国から輸入しなければならない物を除いては、米ドルへの依存からは解放されたいのです。あるいは、米国の攻撃に対しては自国通貨を何とか防護したいのです。ジョージ・ソロスは元は下落すると予測しています。これは通貨の乗っ取り屋が中国通貨を下落させて利益を手にしようとしている兆候です。中国人は、米国からの輸入に充当するためにドルを稼ぐことを除いては、自分たちを米ドルの影響圏からは解放しようとしています。映画を除くと、輸入しなければならない物はそれ程多くはないと私には思えます。

ボニー・フォークナー: IMFはウクライナへの融資をするために自分たちの規則を4項目について変更したとあなたは仰いました。もしよろしかったら、これらの4項目を簡単に説明してくれませんか?そうして戴ければ、これがどうして大転換となるのかについて皆さんも理解することができるかと思います。

マイケル・ハドソン: ひとつ目の規則は借金を返済する能力を持たない国に対する融資はしないというものです。これは所謂「アルゼンチンでの過ちを繰り返すな」という規則です。しかし、シュトラウス・カーンが銀行を救済するために「システミック・リスク」という考え方を導入したことによって、この規則はすでにギリシャへの融資で破られています。

二番目は公的な債権者に対する借金の責任を認めない国、つまり、他国の政府からの借金を返済しようとはしない国には融資をしないという規則です。この規則によって、IMFは債権者団体のための執行役を果たしていました。しかし、今や、IMFは米国にお気に入りの債権者のためだけに執行役を演ずることになりました。

三番目は戦争をしている国へは融資をしないという規則です。ウクライナは戦争中です。東部の地域との内戦中です。しかし、ドンバス地域はロシアからの支援を受けていますから、ウクライナ政府への融資はOKというわけです。

四番目は緊縮経済を採用するというIMFの融資条件を実行しない国に対しては融資を行わないという規則です。緊縮経済は当事国を大層貧しくします。その国は破産状態に陥り、天然資源やその他の資産を売却することになります。ウクライナのクーデター後の政府は辞任に追いやられる憂き目を見ることなしにはとてもこのIMFの融資条件を満たすことは出来そうもありませんでした。しかし、何れは、キエフ政府は農地や天然ガス権をジョージ・ソロスやモンサントへ売却するでしょうから、ウクライナへの融資はOKということになります。

これらの四つの規則は今や破られてしまっています。ウクライナはまだ天然資源の売却を開始してはいません。例の泥棒政治家は天然資源を手放したくはなく、ロシアがかって90年代の始めに採用した取引と同様の方式(彼らの独占権の、多分、25パーセント程を米国へ売却し、自分たちの企業を米国と英国の株式取引市場に登録し、買い手に株式価格を競り上げて貰い、その後で残りの75パーセントを売り払い、売却益をロンドンやニューヨークにて保有する、あるいは、何処かへ持って行く・・・)を採用したいとして議論が続いているのです。ここで重要な点は、彼らは売却代金をウクライナの国外へ持ち出そうとしていることです。同国を無一文にしながらも、農地から得た利益や売却された道路やガスおよびその他のインフラから搾り取った経済的利益を毎年送金する義務が伴うことになります。

ボニー・フォークナー: 東西間の課題は経済開発に関する哲学にあるとあなたは仰いました。これらのふたつの陣営では経済開発についての考え方はどのように違うんでしょうか? 

マイケル・ハドソン: 新自由主義的な米国の考え方は、経済開発という考え方が欠如していることから、非常にオーウェル的です。経済開発を逆戻りさせてしまいます。新自由主義的な考えは脱工業化社会を構築することにあります。「脱工業化」によって私が言いたい点は新不労所得経済が封建主義に逆戻りするということです。競争力のある社会を実現するために政府が率先して基本的なサービスを低コストで提供する代わりに、新自由主義化された政府は道路やエネルギー、電気、上下水道を買手に売却してしまいます。これらの買手は市場が耐え得る限りはどんな料率でも課金しようとします。このような状況はその国に貧困化をもたらします。これは20世紀の間中教えられてきた開発経済学とは真反対です。

ボニー・フォークナー: 米国務省や財務省の職員は中国やロシアが他国に提示するインフラ関連の融資に対抗する手法としては最近の1年余りどのようなシナリオを論じてきたのでしょうか?

マイケル・ハドソン: 米国はAIIBには参加せず、米国は他の国々が参加しない様にと説得を試みました。英国がAIIBに参加し、他の国もそうしようとした時、心配が山のようにありました。基本的に、米国はBRICs 諸国を米ドルの領域から区別できるように鉄のカーテンを創設しようとしています。これは金融上のカーテンです。つまり、実際には鉄のカーテンではなく、電子のカーテンです。

ボニー・フォークナー: IMFは各国への融資を行い、それらの国は中国やロシアからの借金は返済しなくてもいい、それでもなお依然としてIMFからの融資は受けられると彼らに告げるかもしれないとご自分の記事に書いていますよね? 

マイケル・ハドソン: IMFが中国やロシアへの返済はしなくてもいいと融資先の国々に実際に言ったわけではありません。問題は国際裁判所が存在しなければなりません。執行機関が存在しなければなりません。たとえば、数多くの禿鷹ファンドがアルゼンチンは自国の公債について償還しなければならいと主張していますが、当面、彼らは回収ができないままでいます。彼らはガーナを説得して、アルゼンチン海軍の練習船を拿捕することに成功しましたが、これは政府の財産であったことから、ガーナは結局この練習船を解放することにしました。

ある国が他の国の政府または公的機関に対して借金を返済する義務があるとしましょう。もしも国際裁判所も執行制度も存在しないとしたら、債権者はいったいどのようにして貸付金を回収することができるのでしょうか。IMFや世界銀行はそういった執行制度の一部であったのですが、今や、彼らは「我々はもうその制度の一部ではない。我々は米国の国務省やペンタゴンのためだけに働く」と言っています。もしもペンタゴンがIMFにロシアや中国への返済をしない国があってもいいと言ったとしたら、その国はIMFとの関係に関する限りでは返済をする必要はありません。

これは第二次世界大戦後に構築された世界秩序をぶち壊します。世界は2分されつつあります。米ドルの領域と米国がもはやコントロールすることが出来ない領域です。言わば、後者の国の指導者たちは米国から給料を貰っているわけではありません。

ボニー・フォークナー: あなたは「これは地殻変動的で地政学的な変化であって、米国による異端審問は総力を結集して闘うことになるだろう」と言っています。ここでは、異端審問とは何を意味しているんでしょうか? 

マイケル・ハドソン: 汚らしいトリックのことです。オバマ大統領は、国内に経済的ならびに政治的な危機を引き起こさずに十分な兵力を動員することができる国はないので、我々は他国を侵略するようなことはしないと言いました。彼の代替案は目標を明確にした暗殺です。これは米国がニクソン・キッシンジャー時代にチリで、ならびに、リーガン政権時代にはグアテマラやニカラグアで長い間やってきたことです。

あるいは、話をもっと簡単にしようとするならば、他国に賄賂を贈って米国のために働いてくれる人たちを昇格させることです。たとえば、英国ではトニー・ブレア―のような人物が首相となり、彼は米国がいう事は何でもしてくれました。もしもある国が、チリがそうしたように、独立しようとしたら、米国がその国へやって来て、大統領を殺害するということを米国は明確にします。土地改革を望む国があるとします。そこではコンドル作戦を開始して、先生や土地改革支持者、労組指導者らを1万人も殺害します。基本的に、これはテロ政策そのものです。

最終的には、米国はISISやアル・ヌスラを米国の外人部隊として起用し、相手国を潰して乗っ取りたい国へこの外人部隊を送り込みます。

ボニー・フォークナー: あなたは「米国のペンタゴン式資本主義は金融バブルと共に衰退し、偏向した不労所得経済へと変化し、古式蒼然たる帝国主義が再興して来ると仰っています。崩壊が何時の日にか起こるとしたら、それは中途半端なものではなく、地殻変動的な地政学的変化となることでしょう」と書いています。第二次世界大戦後の国際金融システムが崩壊するとしたら、その崩壊はどのようなものになるとあなたはお考えでしょうか? 

マイケル・ハドソン: 他所の国は米国が裕福になったのと同じような手法で、つまり、米国がハイテック分野を支援したように、研究開発に助成金を出して支援することで国内市場を繁栄させ、裕福になろうとすることでしょう。彼らは利益の追求を防ぎ、それが特許あるいはケーブル・テレビ・システムの所有であろうとも、それらの特別な恩典は抑制しようとすることでしょう。その目的は余りにも大きな利益または経済的利益、つまり、不労所得を抑えることにあります。

人々は自分が生産に貢献した分を反映した稼ぎを手にすることを望んでいます。また、労働者の身分が向上することを望んでいます。労働者を教育し、彼らを近代的な技術志向の労働力にしたいと誰もが願っています。

これらはすべてが政府からの助成金を受けます。こうして、公共と民間のふたつの分野が入り混じった経済が現れ、そのような経済では民間領域の競争力をより向上させるために政府がインフラ・コストの大部分を支払います。

他所の国は米国が南北戦争以降行って来たことを実施しようとすることでしょう。彼らは保護主義者となり、自国の労働力を向上させようとし、農業の質を高めようとします。彼らはハイテック産業を推進し、公的医療制度ならびに最低限度のニーズを低額の公的支出で支えることでしょう。こうして、1世紀も前の開発時代に達成しようとして社会民主主義が目指したことを実現するかも知れません。また、これは米国とヨーロッパが今や拒絶してしまった道筋でもあります。

ボニー・フォークナー: あなたはご自分の論考で、その結果、「世界はふたつに分断される。親米経済は新自由主義的になり、ふたつ目は所謂進歩的資本主義と称され、インフラへの公共投資を維持して行くだろう」と書いています。

マイケル・ハドソン: 私の考えでは、旧ソ連邦が崩壊して、ソ連や他の国々が米国からの助言を求めた時、彼らは「米国が生産性が高く繁栄する産業経済を構築し発展させたのと同様に、これらの新自由主義者たちは俺たちを支援してくれる」ものと勝手に思っていた節があります。

ロシア人がまったく認識してはいなかったのは米国はロシア人に対して自分たちが裕福になったのと同じようにロシア人が裕福になるように支援をする気なんて毛頭なかったという点です。米国の助言者らはロシアをぶち壊し、乗っ取るためにロシアへやって来たのです。彼らは、バルト諸国を含めて、ロシアを脱工業化し、旧ソ連との繋がりを根絶しました。その結果、ロシアは原料供給国へと変貌したのです。

その結果何が起こったかと言いますと、貧困ばかりではなく、大量の移民です。たとえば、ラトヴィアはあたかもそれが成功物語であったかのように「バルト諸国の奇跡」と称されています。その奇跡の真相は、賃金が過去10年間低下する一方で、人口の10~20パーセントは国を去って行きました。しかも、主として労働年齢にある人たちです。まったく同じことがロシアでも起こりました。技術的に訓練されたエンジニアや他の職業の人たちが大挙して米国へ移住し、米国の工業化に貢献したのです。ロシアを新自由主義化することはロシアが裕福になることには何の助けにもなりませんでした。単に、米国の投資家をしばらくの間儲けさせてやっただけです。

ボニー・フォークナー: 2010年後のギリシャに対するIMF融資パッケージについてはどうでしょうか?これもIMFによる規則違反の事例となるのでしょうか?

マイケル・ハドソン: これはちょうど「アルゼンチンの過ちを繰り返すな!」というIMFの規則に関してIMFの内部で議論が沸き起こっていた頃のことでした。IMFは返済をする明確な手段を持たない国に対しては融資をしないことになっていました。これは私の著書「Killing the Host」でも述べていることです。ギリシャに関しては3章を割いています。ひとつの事例として、IMFが過去において主として米国の鉱山会社や他の輸出業者のためにどのようにして第三世界の国々を潰してきたかを詳述しています。ギリシャはヨーロッパではIMFが同国を民営化するために公然と乗り込んで行った最初の国となりました。ラトヴィアに関しても1章を割いています。ですから、このテーマは私の著書「Killing the Host」で論じている話題そのものとなります。

ボニー・フォークナー: あなたはギリシャに関してはドミニク・シュトラウス・カーンが米国・ヨーロッパの中央銀行の強硬な路線を支えたと記述しています。2015年にはクリスティーヌ・ラガルドも部下の抵抗を無視してそうしています。

マイケル・ハドソン: IMFの職員らはギリシャへの融資には反対していました。ギリシャは返済することができないからです。しかし、当時、シュトラウス・カーンはサルコジ仏大統領と会い、彼は大統領選に出馬したいと言ったのです。でも、サルコジはこう言いました。「IMFのボスとしてギリシャを債務不履行に追い込んだとすると、あなたはフランスでは立派な大統領にはなれそうもない」と彼に告げたのです。IMFがフランスの銀行に対して救済の手を差しのべないとすると、フランスの銀行は多いに苦しむことになります。

ティム・ガイトナー財務長官がヨーロッパへ電話をし、「もしもギリシャがフランスやドイツの公債保有者への支払いを怠ったとしたならば、米銀は大きな賭けをしており、大損をすることだろう。それだけではなく、契約相手であるヨーロッパの大銀行も同じことだ」と言った後、オバマ大統領はG20の会議に出かけました。シュトラウス・カーンはギリシャが返済できないことを知ってはいましたが、全制度が沈んでしまうということは米銀に損失を招くことを意味していました。オバマとガイトナーは「IMFはアメリカの賭博師たちがこの金融競馬で大きな賭けに敗れることを黙って許すことなんて出来ない」と言ったのです。これは、たとえヨーロッパが崩壊することになっても、ギリシャをぶち壊した方がいいということを意味していました。これは銀行対ギリシャ経済という二律背反の状況です。 

これはうぬぼれの強い米国の立ち場が露呈してくれた巨大な非対称性です。赤裸々な金銭欲そのものです。彼らはIMFやギリシャおよび欧州連合を潰す用意ができていたのです。ですから、ギリシャが返済をすることに賭けていたゴールドマン・サックスやウオール・ストリートの銀行は損失を受け入れようとはしませんでした。

これはIMFのヨーロッパ部門のボスを辞任に追い込みました。彼女はカナダへ出かけていきました。そこで内部告発の記事を出版したのです。これは、ウクライナ危機の前のことでしたが、IMFの信頼性を根こそぎにしてしまいました。

ボニー・フォークナー: ギリシャ経済を潰してしまう理由はスペインのポデモスの動き、ならびに、イタリアやポルトガルにおける同類の動きがユーロゾーンの緊縮経済の代わりにそれぞれの国が国家的な繁栄を目指してくるのを未然に防ぐことにあると、あなたは書いています。これは重要な要素であるとお考えでしょうか? 

マイケル・ハドソン: はい、その通りです。ヨーロッパ中央銀行が表明したことが非常に重要です。彼らは「我々はシリザを勝たせることは出来ない」と言い、ギリシャの財務大臣であったヤニス・ヴァロウファキスは「IMFおよびEU高官らとの会合で私は民主主義はもうどうでもいい」と言われたと述べています。人々が何のために投票したかはもうどうでもいいと。ギリシャは腐敗し切っていた前の政府が同意した借金を返済しなさいと言われているのです。

ファイナンシャル・タイムズやほとんどすべての国際紙は、もしもギリシャが沈没してしまうのを防ぐためにギリシャの負債を減額するならば、IMFと残りのEUトロイカはイタリア、スペイン、ポルトガルの借金についても同様に減額しなければならなくなると書きたてました。債権回収制度全体が沈んでしまうかも知れません。トロイカが銀行を救済するのか、それともギリシャ経済を救済するのかのどちらかです。彼らは「銀行を救済し、ギリシャ経済は見捨てる」と言ったのです。

これはオバマ大統領が2008年に銀行を救済した際に言った内容と同じです。彼は借金を減額することも、銀行を潰すこともしませんでした。この点こそがバー二―・サンダースが大統領選に出馬している理由です。

基本的には、親米領域の指導者は「銀行を救済し、経済は見捨てる」と言います。問題は金利がついてまわる借金は指数的に大きく膨らむことです。金利はそれがどんな利率であろうとも倍化時間がついてまわります。こうして、借金は増えて、指数的に膨らみます。これが借金国に緊縮経済をさらに深追いさせるのです。このような緊縮経済を課された経済は何れもロシアまたはラトヴィアあるいはギリシャのように反応します。他の国への移民が起こり、出生率が低下し、死亡率が高くなり、病気が広まります。借金国の経済が引きちぎられるにつれて、国内市場は小さくなってなって行きます。

銀行を救済するのか、それとも、経済を救済するのかに関する我々の闘争の時間はもう終わりを迎えています。最終的には銀行の借金のほとんどは支払いが不可能であることから、銀行を救済することはできません。米国の立ち位置は、事実上、「現行の歳入や現行の輸出では彼らは返済することはできないかも知れないが、公共分野の資産を債権者へ売却すれば支払いを行う余地はまだある」というものです。 

つまり、皆さんが今目にしているのは膨大な国際的な抵当流れのプロセスです。債権者や公債保有者は実際には国内の道路や輸送システム、通信、上下水道システム、ならびに、同類のインフラを支払いとして受け取ります。私はこれを「ネオ封建主義」と呼んでいます。これは産業資本主義を押し戻します。市場の成長を押し戻し、経済の縮小やネオ封建主義を無理強いします。まさに不労所得経済そのものとなります。これは利益を抽出する経済制度であって、生産を増やすことによって利潤を挙げる経済ではなく、生産を行うための労働者を雇用する経済でもなく、経済を拡大するものでもありません。これは一世紀も前に誰もが考えた産業資本主義の原動力のまったく逆になります。

ボニー・フォークナー: マイケル・ハドソンさん、どうも有難うございました。

マイケル・ハドソン: あなたのショウへ出るのはいつもながら素晴らしいです。ボ二―、あなたが帰って来てくれて私は嬉しいですよ。 

* * * * *

<引用終了>


これで全文の仮訳が終わった。

破られてしまったIMFの四つの規則についての説明、素晴らしい内容である。

『基本的には、親米領域の指導者は「銀行を救済し、経済は見捨てる」と言います』という指摘は秀逸だ。米国の金融の世界における覇権体制が親米派各国の指導者にそう言わせているのである。そう言わなければ、その指導者は政治的に失脚させられるか、暗殺の憂き目に遭うかのどちらかになるからである。

一国の指導者や政府与党は常に長期政権を目指す。政治の世界においては短期的な解決策は米国に追従することだと信じて疑わなくても、それは不思議ではあるまい。

また、2008年に、オバマ大統領が銀行を救済する際にもそう言ったのは彼自身の信念から言ったわけではなく、制度としての米政府の背景には「影の政府」が存在しており、その影の政府がオバマにそう言わせたに過ぎない。ここでも政治の力学はまったく同じである。

旧ソ連邦の崩壊後、ロシア経済の救済のために差しのべられた米国の支援についても述べているが、米国の姿勢がものの見事に要約されている。「ロシア人がまったく認識してはいなかったのは米国はロシア人に対して自分たちが裕福になったのと同じようにロシア人が裕福になるように支援する気なんて毛頭なかったという点です。米国の助言者らはロシアをぶち壊し、乗っ取るためにロシアへやって来たのです。」 これは金銭欲で固まった米資本主義のもっとも醜悪な部分だと言えようか。

ジョージ・ソロスは元は下落すると予測しています。これは通貨の乗っ取り屋が中国通貨を下落させて利益を手にしようとしている兆候です」というくだりがある。これはジョージ・ソロスの深層心理を読み解こうとしてハドソン教授が辿りついた結論であるに違いない。こういった鋭い見立てがこの記事を非常に興味深いものにしている。

今、全世界の注目を集めているのはイスラム国である、そのイスラム国については「最終的には、米国はISISやアル・ヌスラを米国の外人部隊として起用し、相手国を潰して乗っ取りたい国へこの外人部隊を送り込みます」と述べている。つまり、ロシアや中国へイスラム国のテロリストを送り込んで、国内を分断する手段として活用するのだ。これらの国を分断することができれば、米国による世界的な覇権は完成することになる。つまり、全世界が米国の多国籍企業や大銀行および投資家の奴隷となるのである。

イスラム国のテロリストはロシアや中国を分断するための道具として使う外人部隊だという見方をとると、イラクやシリアにおいてはなぜ米国主導のテロ作戦が成功しなかったのか、あるいは、成功させようとはしなかったのかがよく符合して来る。米国は訓練されたテロリストを温存しておきたいのではないか。

ところで、別の評論家は、今や、こういった現在の米国の内政や外交の姿を見て、「(米国の)金融制度はイスラム国によるテロよりも大きな脅威だ」とさえ指摘している。つまり、一部の専門家は現在の米国の資本主義は米国を除く全世界にとってはもう耐えられそうもないところまで来ていると述べている。

私自身は技術屋のはしくれであり、経済についてはまったくの素人であることから一部の仮訳では苦労させられた。ひとつの文章の意味がなかなか汲み取れず、翌々日になって何かの拍子に初めて合点がいった。その頃には、この記事を仮訳する作業を通じて何らかの学習効果が出て来ていたせいだろうと思う。何はともあれ、最初から最後まで興味を失うこともなく、仮訳を終えることができてホッとしている。それはこの記事の内容の面白さがそうさせたのだと思う。



参照:

1The New Global Financial Cold War: The Guns and Butter Interview: By Michael Hudson and Bonnie Faulkner, Global Research, February 28, 2016, Guns and Butter (KPFA)
February 19, 2016 [訳注: ラジオ放送局「KPFA」はカリフォルニア州のバークレイに本拠を置き、サンフランシスコ地域をカバーしている。Guns and Butterは番組の名称。]







4 件のコメント:

  1. 貴重な記事の翻訳、ごくろうさまでした!
    今後もマイケル・ハドソン教授の記事が読みたいと思っています!
    ありがとうございました!

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  2. 八ノ宮八助さま

    コメントを有難うございます。
    このマイケル・ハドソン教授の記事、本当に凄いですね。何と言っても我々のような経済の専門家ではない者でもスラスラと読んでいけるように解説している点が実に素晴らしいし、なかなか出来ないことだと思います。もうひとつ重要な点は米政府やその奥の院を「ヨイショ」するような気配はまったく無く、一般大衆のための経済学を説いているように感じます。この記事の冒頭部分に「代替経済学」という言葉が出て来ますが、これは主流の経済学とは立ち位置が違うんだということを明確にしているのだと思います。これからも、ハドソン教授の登場を心待ちにしていましょう。

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  3. 杉本です。何時もお世話になります。日本で怠惰に暮らしていては決して触れる事が出来ない様々な知見をご紹介頂きありがとうございました。素人ながら人の強欲を知り、人間が多様であり原始から続く飽くなき欲望の闘争が、お金を通じて今も連面と続いていることを感じさせられます。インターネットが個人の発信を世界に出来るようになった凄さを何時も感心します。また読ませて頂きます。ありがとうございました。

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    1. 杉本さま

      コメントを有難うございます。

      確かに、インターネットの威力は凄いですよね。

      私の個人的な経験からしますと、何十年間も愛読していた日経を、ある日、購読を中断しました。もう、インターネットだけで済ませると決断したからです。

      しかし、インターネットの場合、目に飛び込んで来る見出しの数は非常に限られていますから、自分から情報を探しに行く必要があります。

      自分が興味を感じるテーマだけが情報検索の対象となります。新聞で経験する見出しだけをザッと読むという受身的な読み方はインターネットではうまく行きません。

      日本のメデイアで問題となるのは、情報が米国寄りに偏っていることです。日本の戦後の政治的立場を考えると、どうしようもないことかも知れませんが、日本のメデイアは米国の主要メデイアが発する情報を右から左へと流しているような観があります。

      米国発の国際ニュースは米国に都合のよい情報に限られるということは疑う余地もありません。そのことを具体的に教えてくれたのが、このブログでご紹介したマイケル・ハドソン教授です。ウクライナ紛争に関する同教授の2年前のインタビュー記事は秀逸でした。米国政府が緘口令を敷いて、ウクライナ情勢について情報操作をしていたと、説明してくれています。日頃、民主主義を説き、報道の自由とか透明性を説いている米国での話ではあるのですが、それらとはまったく違う実態が暴露されたような感じでした。

      しかも、上記は氷山の一角にしか過ぎません。同様の事例は山ほどあります。しかしながら、情報検索をしてみないとそうした実態はなかなか把握できません。これが私個人の実感です。

      また、言語による情報の偏在も問題です。英語は世界中で使われていますが、ロシア語はそうは行きません。ロシアにおける一般大衆が何を思っているのかについては、西側では必ずしも十分には知られていないことが国際政治、つまり、米ロ関係を必要以上に難しくしているように思えます。米国における「ロシア人恐怖症」はその典型ではないでしょうか?

      今後、遅かれ早かれ、中国が国際政治の中心へ出てきますが、中国人もロシア人と同じように言語の壁に突き当たることになりそうです。



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