かって全ヨーロッパを席巻したナポレオンは自身の周りにたむろする多くの政治家らを評して「彼らは愚鈍だ!」と言った、とどこかで読んだことがある。普通は4年前後の履修期間を必要とする陸軍士官学校ではたった11ヶ月の在籍で全課程を修了したというナポレオンのことであるから、彼の目には当時の政治家がえらく愚鈍に見えたとしても驚くには当たらない。
21世紀の世界ではインターネットであらゆる情報を手にすることが可能となっている。情報はあり余る程ある。しかしながら、情報を取り扱うことが専門ではない我々一般庶民は、多くの場合、その量に圧倒されるばかりだ。見出しを読んで、取捨選択を行う。最大の課題は個々の情報を手にする私やあなたが情報を選択する際の判断が果たして妥当であるのかどうかという点にある。何故ならば、好むと好まざるとにかかわらず、我々の知識は大手メディアが喧伝する情報によってすでに影響を受けており、何らかの先入観が形成されているからだ。
情報の流れを見た場合そのもっとも上流側にいる大手メディアは個々の情報を一般読者に流すのか、流さないのかを決めている。つまり、大手メディアは世論を操作するにはもっとも決定的な位置にあるわけだ。たとえば、国連安保理からの要請もなしに米国、ならびに、米国に賛同する有志国連合が2003年にイラクへ武力侵攻をした際、米国の大手メディアがどのように振る舞ったかは今でも記憶に新しい。大手メディアが武力侵攻の理由としてあれだけ大騒ぎをして報道したサダム・フセインの大量破壊兵器は、結局、見つからなかった。こうして、軍産複合体が旗を振り、大手メディアが後押しをしたイラク侵攻は大失敗に終わった。
ナポレオンがこの様子を見ることが出来たとしたならば、自説が今でも正しいことに改めて気を良くするに違いない。
そして、あの混乱は10年以上も経った今でさえも収束の目途がたってはいない。それどころか、昨年の夏は中東の戦禍に襲われた国々(イラク、リビア、シリア、等)を脱出した難民の波がヨーロッパを襲った。国境を解放する政策をとっているドイツを目指してやってきた。また、この難民の流入はEUからの離脱について賛否を問うために英国で行われた最近の国民投票では52パーセントもの賛成票をもたらした一因となったとも言われている。
米国がヨーロッパ諸国をコントロール下に維持する場面でさまざまな形で貢献してきた英国がEUを離脱することになった。これはヨーロッパに対する米国のコントロール能力を弱め、結果として、ヨーロッパとロシアとの経済的な連携を強化するのに役立つだろうとの観測がある。また、英国のEU離脱を切っ掛けにして、EU内部では溝が深まり、EU自体はジリ貧となり、米国が後押しをしてきたこのヨーロッパ統合プロジェクトは失敗に終わるだろうとの見方もある。
米国のネオコン政治家が判断し、大手メディアが支持し喧伝する米国の外交政策(つまり、覇権政策)が果たして彼らにとって成功をもたらすのか、それとも大失敗に終わるのかは、今や、サイコロを振るにも等しい有様である。
政治の世界ではなぜこのような大混乱が起こり、無軌道振りが横行するのだろうか?
この素朴な疑問を解く糸口としては、大手メディアがジャーナリストとしての自覚を持つことが必要だと、調査報道の大御所であるロバート・パリーは主張する。率直に言って、西側の大手メディアは政府の言いなりになってしまって、ジャーナリストとしての機能を果たしてはいないという指摘である。商業主義に徹する大手メディアは政府をチェックする批判精神をすっかり忘れ、反対意見には耳を貸そうともせず、ブルドーザーの如くに自分たちの計画を押し通そうとする軍産複合体やメガバンク、多国籍企業の独善的な考えや意思をなりふり構わず支援している。
大手の商業新聞やテレビ局のためではなく、真実を掘り出そうと独立して活動するジャーナリストらは多くがこのことを指摘をしている。問題はこれら独立心が旺盛なジャーナリストは少数派であるという点だ。
本日はロバート・パリーの最近の記事 [注1] を覗いてみようと思う。これは最近(7月8~9日)ポーランドの首都ワルシャワで開催されたNATOサミットに関するものだ。この記事は「狂気か、それとも嘘の塊りか? NATOはロシアに関して偽りの物語を再び確認」と題されている。
これを仮訳して、読者の皆さんと下記に共有したいと思う。
<引用開始>
核戦力を含めて膨大な量の戦力を並べ、苛立ちを示すNATO加盟国は集団としての思考力をすっかり喪失してしまったかのように見え、まさにゾッとする感じである。極めて騙されやすい西側の市民にはNATOが今まで言って来た嘘八百は実は本当なんだと引き続き思い込んでいて貰うためにも、NATOは自分たちの欺瞞に満ちた戦略的な情報 を公にした方がより安心だと、多分、考えたのかも知れない。
「ロシアの侵略行為」を非難するワルシャワ・サミットのコミュニケに署名するために、西側の主要な「民主主義国家」の指導者らが勢ぞろいした。しかし、この主張は各国の諜報機関によって必ずしも支持されているわけではないという事実を十分に承知していながらの話だ。
指導者らは、中でも主要国の指導者らはロシアのウラジミール・プーチン大統領が2014年にウクライナ紛争を引き起こしたのだと断定できるような信頼できる情報は存在してはいないことをよく承知している。それだけではなく、プーチン大統領はバルト諸国を侵略する計画を持っているとの推測についてもまったく同様だ。これらの事柄は、ワシントン政府や他の西側諸国のほとんどすべての「高官」らが実際にはそれとはまったく逆であると宣言しているにもかかわらずである。
しかし、真実がその姿を現す機会が何度かあった。たとえば、ワルシャワでのNATOサミットが終了に近づいた日、NATO軍事委員会の議長を務めるペートル・パヴェル将軍は秘密を漏らしてこう述べた。「バルト諸国へNATOの大隊を配備する理由は軍事的な行動というよりは、むしろ、政治的な配慮によるものだ・・・」と言った。
「大規模なロシア軍の侵攻に対して軍事的障害物を構築することがNATOの目的ではない。なぜならば、そのような侵攻は計画にさえも登場してはいないし、諜報機関の評価結果にもそのような証拠は見当たらないからだ」と、パヴェルは記者会見で述べている。
パヴェル将軍がうっかり喋ったことは過去2年余りの間私が諜報関係者から聞いていた内容ともよく一致する。つまり、西側のメデイアに見られる「ロシアの侵攻」という終わることのないドンチャン騒ぎはプーチンを悪魔視する悪賢いキャンペーンから由来したものであり、注意深い諜報分析の結果辿り着いた結論ではない。むしろ、これはワシントンにおける昔ながらの「集団思考」の賜である。
これに実によく似たプロパガンダ・キャンペーンが如何にしてあの大失敗に終わったイラク戦争を全世界にもたらしたか、また、如何にして致死的な結末が今もなお非安定化した中東に悪影響を与え続け、ヨーロッパをひどく狼狽させているのかに関して、皮肉にも、英国ではイラク戦争に関してチルコット報告書が作成され、公表されたばかりだ。公表の日からたった数日の内に、NATOはあの以前の大失敗を再演しようとしている。しかし、違う点がひとつだけある。今回は掛け金をつり上げて、核装備をしているロシアが相手だ。
このワルシャワ・コミュニケはバラク・オバマ大統領やドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのフランソワ・オランド大統領、ならびに、英国のデイビッド・キャメロン首相らを含めて、各国の指導者によって署名された。しかしながら、これは2013年末から2014年の始めにかけてウクライナで起こった現実を完全に無視している。その結果、この物語はすっかりあべこべに仕上がっているのだ。
西側の空虚なプロパガンダを繰り返す代わりに、オバマや他の指導者らは何かもっと新鮮な事柄を推進し、真実を伝えることが可能であった筈であるのだが、それは明らかに彼らの政治能力の枠外であったようだ。こうして、彼らは皆が危険極まりない嘘に署名をしたのである。
実際に起こったことは・・・:
事実に基づいた実際の物語はどうであったかと言えば、事実はウクライナ危機を引き起こしたのはロシアではなく、西側であったということを認めざるを得ない。西側は選挙で選出されていたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を暴力的に政権の座から追い出すことを画策・実行し、モスクワ政府やウクライナ東部のロシア語を喋る市民に敵対する西側志向の政権を樹立した。
2013年の終り頃、ウクライナとの経済連携協定を迫っていたのはEUであった。この協定にはIMFの要求が含まれており、すでに苦境にあるウクライナ市民に対してさらに厳しい緊縮経済を課そうとするものであった。政治的ならびにプロパガンダによる支援活動を行うことによってEUの計画を支えるために、米国民主主義基金やアメリカ合衆国国際開発庁といった米国政府の下部機関が動員され、資金援助を行っていた。
ヤヌコヴィッチ大統領がIMFの条件に尻込みをし、プーチンから提示されたもっと寛大な150憶ドルの融資枠を選択した時、米国政府は大衆デモの背後に米国の支援策を放り込んだ。それはヤヌコヴィッチを追い出して、EUとの協定に署名し、IMFの要求を受け入れさせるためにヤヌコヴィッチに代わって新政権を樹立しようとするものであった。
2014年の始め、危機が深まっていった頃、プーチンはソチ冬季オリンピックに全力を注いでいた。特に、大会期間中のテロ攻撃の脅威に備えようとしていた。プーチンがウクライナ危機を密かに醸成しようとしていたという証拠は何処にもない。すべての証拠が物語っているのは、実際にはプーチンは現状を維持しようとして、選挙で選出された大統領に支援策を提示し、事態が悪化することを避けようとしていたのである。
ウクライナをEUとの連携協定に引きずり込むためにプーチンが例のEUの非安定化策を何とか指揮し、マイダン革命の抗議デモを反ヤヌコヴィッチの暴力沙汰に仕上げるためにその舞台監督を務め、ウクライナの警察官を殺害し、ヤヌコヴィッチ大統領をキエフから逃走させるためにネオナチやその他の極端に国家主義的な武装勢力らと協力し、ついには、ヤヌコヴィッチの代わりに恐ろしく反ロシア的な政権を樹立したと言い含めようとするなんて、まさに狂気の沙汰だ。すべてはまったく逆である。
現実の世界はこの物語とはまったく違う。つまり、モスクワ政府は政治的な妥協点を見い出そうとするヤヌコヴィッチを助けようとしていたのである。これにはEUが仲立ちをした総選挙の早期実施や大統領権限の縮小さえもが含まれていた。しかしながら、こうした妥協を示したにもかかわらず、2014年2月22日、ネオナチの武装勢力が米国によって後押しされた抗議デモの先頭に躍り出て来た。ヤヌコヴィッチ大統領や彼の側近らは命からがら逃げだした。米国務省は素早くこのクーデター政権を「正当な政権」であるとして認め、他のNATO諸国もそれにならった。
私の個人的な注釈を述べると、私は時々陰謀論者らによって批判されることがある。米国の高官らが夢見ている悪辣な筋書きについて彼らが喧伝する事実無根の主張は、率直に言って、でたらめな話と同様に何らの根拠もないことから、私がそれを決して認めようとはしないからだ。それでも、プーチンがウクライナのクーデターの振付をしたとする西側の馬鹿げた陰謀論と比較すると、彼らはむしろまともに聞こえる程だ。
ところが、この根拠のない陰謀論はニューヨークタイムズのポール・クルグマンといった本来ならば真面目な思索家をも誘い込んできた。プーチンは領土をつかみ取ろうとしている、あるいは、国内の経済問題から国民の関心を逸らそうとしてこのウクライナ危機を掻きまわしているといった考えを彼はまさに魔法のように捻り出したのである。
「容易い勝利を妄想」と題して、クルグマンは2014年にあるコラムを書いた。「単なる推測に過ぎないが、ウラジミール・プーチンはウクライナ政府を転覆させることができると考えたようだ。少なくとも、ほんの少しでも反乱分子に支援をしてやることで、ウクライナの領土の大部分を実に安く手に入れることが出来そうだと・・・」
最近、ハーバード・ビジネス・レビューのジャスティン・フォックスがウクライナ危機の根幹は調子が良くはないロシア経済に起因していると提唱した。「プーチン氏が権力の座にあるのはひとつには急速な経済成長が続いていたからだ」と彼は言う。「しかし、ロシアの経済成長のエンジンは今や止まりそうで、プーチン政権は国民の気を逸らす必要があるのだと言えよう。」
危機の誕生に一役買う:
単なる「推測」ではなくて、むしろ、クルグマンは事実にこそ目をこらすことが出来ただろうに、そうはしなかったのである。たとえば、ヨーロッパ地域を担当するネオコン派の国務次官補のヴィクトリア・ヌーランドがやったことに注視できた筈だ。彼女は自分たちが選んだウクライナ人らをロシアの隣国の面倒を見ることが出来るようにさせようとしてクーデターを企んだ。この反乱の数週間前、ヌーランドが駐ウクライナ米国大使のジオフリー・パイアットと交わした電話が盗聴され、まさに「政権の転覆」を画策している様子が発覚した。
ヤヌコヴィッチをいったい誰に代わらせるかに関しては、ヌーランドが選んだ相手は彼女が「ヤッツこそが適任だ!」と評した人物で、彼の名前はアルセニー・ヤツエニュク。この電話はさらに延々と続き、いったいどうやって「これを確実に実行するか」とか、「どのようにしてこれに一役買うか」といったことに関して二人はあれこれと熟考した。2014年2月22日、このクーデターが実行され、二人が一役買った後、ヤツエニュクが一躍首相として現れ、IMFの緊縮財政計画を通じてウクライナの面倒をみることになったのである。
議会はロシア語を公用語として使用することを禁じることに投票し、ネオナチに対してクーデターに抗議をするロシア語系の市民を殺害することを許容するといった策をキエフ暫定政権が採用したことから、ウクライナの東部や南部においてはロシア語を喋る住民の間に抵抗運動が起こった。ウクライナの東部はヤヌコヴィッチの政治的な地盤であり、ウクライナ経済がヨーロッパに志向するとすれば殆んどすべてを失うかも知れず、ロシアとの経済的な繋がりは低下するばかりとなるだろうから、抵抗の動きが起こること自体はそれ程の驚きではない。
ウクライナ東部の住民が抱く懸念を認識しようとする代わりに、西側のメディアはロシア語を喋る市民らを自分の考えを持たないプーチンの手先として描写した。米国に後押しされたキエフ政権は彼らに対していわゆる「反テロ作戦」を開始した。ネオナチの武装勢力が先頭に立った。
ロシア語人口が非常に多く、ロシアとの繋がりに長い歴史を持っているクリミアでは住民投票が実施され、投票者総数の96パーセントがウクライナからの離脱とロシアへの帰属を選択した。この投票プロセスはウクライナ政府との間で以前から合意されている協定の下でクリミア半島に駐留しているロシア軍の支援を受けた。
ニューヨークタイムズやその他の米国の主要なメディアによって喧伝されている「ロシアの侵攻」はなかった。ロシア軍はすでにクリミアに駐留していたのである。つまり、ロシア軍はセバストーポリにあるロシアの歴史的な黒海艦隊の基地に派遣されていた。プーチンは、クリミアの併合は、ひとつの理由としては、ロシアの海軍基地がNATOの手中に陥り、ロシアに戦略的脅威をもたらすのではないかとの恐れによるものであったことを認めている。
しかし、プーチンは領土の拡大を意図し、国内の経済不振から市民の関心を逸らすためにウクライナ危機を引き起こしたのだとする西側の狂気じみた陰謀論に対する主要な反論は、ヤヌコヴィッチ大統領が政権から追い出され、ロシアを憎む政権がキエフに据えられたからこそクリミアを併合したという事実にある。もしもヤヌコヴィッチが政権から追い出されることがなかったとしたら、プーチンがクリミアを併合したり、ウクライナについて何かをすると考えなければならない理由は何も見当たらない。
虚偽の物語がひとたび回り始めると、それを止める術はない。ニューヨークタイムズやワシントンポストおよび他の西側の主要なメディアは米国政府のプロパガンダを事実として受け入れ、その流れに敢えて逆らおうとする少数のジャーナリストを脇に追いやり、イラク侵攻の直前に演じたことをまたもや再演したのである。
オバマやメルケルおよび他の主だった指導者らは西側のプロパガンダが如何に虚偽に満ちていたかを承知していたが、彼らは自分たちの政府が喧伝する虚偽の虜となってしまった。彼らにとっては公式の物語から大きく逸脱することは自分自身が強力なネオコン勢力や仲間であるメディアからの厳しい批判に晒されることを意味する。
NATOの「戦略的な情報」と僅かに矛盾する場合であってさえもだ。ドイツのフランク・ウォルター・シュタインマイヤー外相が「今我々がしてはならないことは武力を見せびらかし、戦争を挑発することによって状況をさらに悪化させることだ。・・・同盟ブロックの東の国境で象徴的にタンクのパレードを行う事が安全保障をもたらすと誰かが考えているとすれば、それは間違いだ」と言った時、厳しい批判が彼を見舞った。
ロシアに対する厳しい批判:
こうして、ワルシャワ・サミットではNATOとしては自分たちの虚偽の物語を再度確認する必要があった。事実、虚偽の物語があらためて確認されたのである。そのコミュニケはこう宣言した。「ロシアの侵略行為は、NATO圏の周辺地域における軍事的挑発行為、ならびに、武力による脅威やその使用によって政治的目標を達成しようとする意欲も含めて、地域が非安定化する根源となり、本同盟に対して基本的に挑戦するものであって、ヨーロッパ・大西洋圏の安全保障を損ない、ヨーロッパがその全体を維持し、自由を享受し、平和に過ごそうとする我々の長期目標を脅かすものである・・・」
「ロシアによる非安定化の行為や政策には次の事柄が含まれる。非合法的で不正なクリミアの併合 - これは我々としては決して容認することは出来ないし、ロシアがこれを元へ戻すよう要求する。主権国家の国境の武力による侵害。ウクライナ東部の非安定化。ウィーン文書の精神に反する大規模な軍事演習、ならびに、バルト諸国やバルト海さらには地中海東部を含むNATO圏の国境に隣接する地域での挑発的な軍事演習。無責任で挑発的な核戦争を言及した言い回し、軍事的な考え、それらに内在する態度。ならびに、NATO同盟国の領空への侵犯。」
「それらに加えて、ロシアによる武力介入、シリアにおけるロシア軍の存在ならびにシリア政府への支援、さらには、地中海東部に軍事的影響を及ぼす黒海におけるロシア軍の存在とその活用は同盟国やその他の諸国の安全保障に新たな脅威と挑戦をもたらしている。」
NATOやその他の西側の機構が存在し、今や上下がまったく逆さまになったこの世界においては、ロシアの国境沿いで行われるNATOの軍事行動に反応して自国の国境内で遂行するロシア側の軍事的行動は「挑発的である」と言う。国際的に認められている国家であって、イスラム国のテロリストだけではなく、サウジアラビアやカタールおよびNATOの加盟国であるトルコを含む西側の中東同盟国によって資金援助を受けるその他の反政府武装勢力によっても攻撃を受けているシリア政府に対して延べられたロシアの支援さえもが同一視される始末だ。
換言すると、NATOやその加盟国にとっては、まさに好きな時に、イラクやリビアおよびシリアといった国々へ侵攻し、ウクライナのように政権を転覆し、シリアでも同じことを引き起こそうとすることは完全に許容できるのである。しかし、NATO外の政府がそういった事態に対応し、自国を防衛することは許されない。そのようなことをすると、NATOに対する挑戦として受けとめられる。しかし、このような偽善が世界のあるべき姿として西側の主要紙によって受け入れられているのである。
2003年にイラクの大量破壊兵器について疑問を投げかけた際には我々が「サダムの擁護者」としてレッテルを貼られたように、これらの虚偽性や二重基準を大胆にも指摘しようとする我々はほとんどが「モスクワのぼけ役」に違いないと言われる始末である。
調査報道を専門とするロバート・パリーのプロフィール: 1980年代、AP通信社やニューズウィークのためにイラン・コントラに関して数多くの記事を発表した。最近の著書としてはAmerica’s
Stolen Narrative。同書は書籍としてはこちらで、電子書籍としてはAmazonあるいはbarnesandnoble.comから入手可。
<引用終了>
これで仮訳は終了した。
著者はこう言っている。「プーチンは領土の拡大を意図し、国内の経済不振から市民の関心を逸らすためにウクライナ危機を引き起こしたのだとする西側の狂気じみた陰謀論に対する主要な反論は、ヤヌコヴィッチ大統領が政権から追い出され、ロシアを憎む政権がキエフに据えられたからこそクリミアを併合したという事実にある。もしもヤヌコヴィッチが政権から追い出されることがなかったとしたら、プーチンがクリミアを併合したり、ウクライナについて何かをすると考えなければならない理由は何ら見当たらない。」
これは非常に興味深い論点であると思う。一連の出来事を詳しく検証すると、素人の私でさえもロバート・パリーが主張する事実関係に辿りつくことになる。要するに、クリミアの併合が何の前後関係もなく突然始まったというわけではない。そんなことはあり得ない。クリミアの併合をもたらした主因はヤヌコヴィッチ大統領が政権から追い出され、ロシアを憎む政権がキエフに据えられたという事実にある。要するに、西側の後押しを得て起こした政権転覆とロシア語系住民に対する敵意が主因である。クリミアの併合はそれらに対する反応として起こったものである。
それでも、依然として西側はこれは「ロシアの侵略」だと言い続けている。
世界に君臨しようとする「帝国」の偽善性や二重基準はさまざまな機会にさまざまな形で観察され、報告されている。それらを感知し、分析し、それがもたらすかも知れない弊害に関して政府や政治家に警告を出し、一般庶民にも丁寧に伝えることがメディアの一義的な使命である筈だ。これはどこにでも書かれていることだ。しかしながら、多くの場合、実践はまったく別の話となっている。しかも、理想と現実との間の隔たりは今や途方もなく大きい。
著者は『2003年にイラクの大量破壊兵器について疑問を投げかけた際には我々が「サダムの擁護者」としてレッテルを貼られたように、虚偽性や二重基準を大胆にも指摘しようとする我々はほとんどが「モスクワのぼけ役」に違いないと言われる始末である』と述べている。これは調査報道を専門とするジャーナリストとして生涯を捧げて来たロバート・パリー自身の体験を率直に語った言葉である。現実を伝える貴重な言葉であると言えよう。
事実、西側のメデイアによって連日行われているロシア・バッシングは大失敗に終わったイラク戦争の開戦当時の状況に酷似していると私は常日頃感じていた。対ロ経済制裁はイラクへの軍事侵攻そのものだ。相違点は軍事行動と経済制裁との違いだけである。
ニューヨークタイムズやワシントンポストといった米国の大手メディアがもたらす弊害は計り知れない。言うまでもなく、これらの弊害はお膝元の米国だけに限られるわけではない。ヨーロッパやアジアにもアッと言う間に波及して来る。そして、場合によっては、弊害の程度は米国本土のそれよりもヨーロッパや日本における弊害の方が遥かに大きいかも知れないのだ。
この著者はメディアに関して世界が直面している厳しい現実を一般読者に伝えようとしているのだ。そして、その根幹にはどこかで戦争が行われ、大きな軍需が継続して存在することが米国経済を維持する基本条件とさえなっているというとんでもない現実がある。帝国の戦争の場はアフガニスタン、イラク、リビア、シリアと続き、さらには、ウクライナへもやって来た。NATOは、今、核装備をしたロシアとの戦争を準備している。ロシアとしては傍観しているわけにはいかないだろう。軍備を徹底的に整備して、受けて立つしかない。
最悪の場合、下記のような事態になるのかも知れない。
たとえ地下壕を作って核シェルターを準備し、1年あるいは2年間の食糧や燃料を備蓄したとしても、米国の政治や経済を牛耳る指導者らの家族が核の冬を生きながらえることは不可能だ。要するに、世界に名だたる億万長者といえども、金で解決できるような状況ではない。米ロ間の核戦争が始まると、地球上の戦争はこれが最後の戦争となる。そして、その事実を語れる後世の歴史家はこの地球上には一人として生き残ってはいないだろう。
参照:
注1: Insanity or Lies? NATO Reaffirms Its
Bogus Russia Narrative: By Robert Parry, Information Clearing House / Consortium News, Jul/12/2016, consortiumnews.com/.../nato-reaffirms-its-bogus-russia-...
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