2016年10月10日月曜日

ロシアに対する「からかい」が核戦争を誘発する危険性



米ロ間に「新冷戦」が始まっていると言われて、すでに久しい。

情報戦争とかハイブリッド戦争とか、さまざまな呼び方がある。ひとつの形態として、ロシアに餌を投げかけて、「からかい」をすることも含まれる。素人目から見ても、それらの中で情報操作は非常に重要な位置を占めている。米ロ間の新冷戦は、今や、うその言い放題という段階になっている。

事実、ロシアに対するプロパガンダ・マシーンをトップ・ギアに入れた米国務省の報道官は、最近、「うそは最初に喋った方が勝ちだ」とさえ放言した。結局のところ、金融戦争や経済制裁、あるいは、心理戦争も含めて、米帝国主義はすべての分野でロシアを袋叩きにしようと躍起になっている。戦争だから、何でもありだ。この夏リオデジャネイロで開催されたリオ・オリンピックさえも例外ではなかった。

米国は留まることを知らない。ロシアに続いて、さらには、中国も相手だ。衰退に向かった米国はツキジデスの罠にはまっている。

米ロ間の政治・経済・金融・軍事面で展開されているこのロシア・バッシングの行為を歴史的に見ようとする評論 [1] に出遭った。かなり最近のものだ。この評論は現在進行中の新冷戦が如何に危険性をはらんでいるかを歴史的な事例と比較しながら、一般読者により詳しく理解して貰おうと試みている。他の評論とは一味も二味も違い、私には新鮮に感じられた。

本日はその評論を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。新冷戦の現状を歴史的な視点から見直すことに少しでも役立てば幸いである。


<引用開始>

MH-17便の悲劇に関してオランダ政府主導の国際調査団が偏見に満ちた結論を提示したことから、さらには、シリアを巡って怒りを含んだ応酬が交わされていることから、ロシアに対するプロパガンダ戦争は制御不能に陥ってしまった。その結果、核戦争の危険性がにわかに高まってきた、とCIAの元分析専門家が述べている。

米ロ両国の高官が刺々しい言葉を応酬し合い、シリアを巡る外交交渉が成す術もなく消え去ろうとしていることから、ややもすると2014年の7月に撃墜されたマレーシア航空17便の犯人についての新たなプロパガンダを単なる余興として受け取ってしまい勝ちである。でも、それは大きな間違いだ。これはオバマ大統領の米ロ関係についてはほとんど何も知らない、青二才の、新入生みたいな顧問らが犯した大きな間違いだ。皮肉にも、彼らは自分たちの無知にご満悦のようでさえもある。

今や、大人らしい入力が痛ましいほどに必要だ。実務経験を有し、プロパガンダ戦争がいかに簡単に軍事衝突に発展してしまうかを観察してきた経験を有しているということにはそれ相当の大きな利点がある。スプートニク・ラジオとの928日のインタビューで米国ならびにヨーロッパのふたつの従属国(オランダとウクライナ)がロシアをMH-17便撃墜の真犯人として非難することによってロシアとの緊張関係をさらに高めるために下した最近の決断は実に深刻な意味合いを持っていることに私は触れたばかりだ。

ひと言でいうと、ロシア人はこのプロパガンダ攻勢(これによって、2014年の対ロ経済制裁を正当化した)を、中欧におけるNATO軍事力の示威行動と相俟って、戦争のための準備行為であろうと理解する恐れがある。事実、まさにそういった事態を懸念させる事例が存在する。

これと非常によく似た状況が33年前、198391日、ソ連が大韓航空の007便を撃墜した直後に起こった。同便はソ連邦内でももっとも敏感な軍事的目標の上空に迷い込んでしまった。その上、KAL-007便のパイロットは繰り返して発せられた警告には応えようともしなかった。その結果引き起こされた悲劇が明らかとなった時、ソ連側は航空機を撃墜したことを認めたが、その航空機が旅客機であるとはまったく知らなかったのである。

しかしながら、1983年はふたつの大国間でまたもや緊張が高まっていた時期でもあり、ロナルド・リーガン大統領はソ連邦を暗黒に包まれた国家として描写しようとしていた。こうして、リーガン政権はソ連が269人の乗客と乗員を故意に殺害しようとしたのだというストーリーを世界に向けて売り込もうとしたのである。

米政府のプロパガンダ部門ならびにその速記者の役を演じるメディアは嵐や衝動を可能な限り動員し、KAL-007 便を撃墜する前にソ連側は同便が旅客機であることを承知していたとする嘘八百を並べ立てた。ニューズウィークは「空中での殺人」と題した記事を報じる始末だった。 

悲劇につけ込むことによって、この緊張はさらに高まり、その2か月後には核戦争の勃発寸前となった。あれから30数年が経過した今、貴重な教訓がある。それは西側の政府や大手メディアはロシアについて果てしの無い恐怖や憎しみを作り出すということだ。


オランダとウクライナの愚行: 

水曜日に、ウクライナ東部でMH-17便を撃墜したのはロシアだとする新しい「証拠」が公開された。これはオーブンから引っ張り出されたばかりのものであって、ウクライナからの菓子職人を雇っている「オランダの少女」と称されるパン屋さんでの出来事であった。この証拠を食してみると、それは純粋な砂糖のようにすぐさま溶けるが、口中には不快な、人工的な後味が残る。

「合同調査班」(JIT)によって演じられたオランダとウクライナによるジェスチャーゲームにはベルギー、オーストラリアおよびマレーシアもそのメンバーとして加わった。しかし、これは撃墜によって殺害された298人の乗客や乗員の家族ならびに友人たちに対しては大きな侮辱である。衆知の通り、犠牲者の家族や友人たちは真実と説明責任を求めており、彼らは間違いなくそれに値する。

しかしながら、1983年にKAL-007便に関するリーガン政権のストーリーが騙されやすい視聴者によってそのまま受け止められたように、主要メディアはJITが報告した結論を「決定的だ」と評し、その証拠は「圧倒的だ」とさえ述べた。しかし、現実にはとびっきり底が浅いのである。特に、撃墜事故が起こった直後にロシアが張本人であると責めたて、盗聴した会話(ウクライナの諜報機関が収集した15万件もの断片的な情報)を組み立てて、あたかもロシアが有罪であるかのような印象を与えようとした場合はなおさらのことである。

JITの「調査」報告書として見なされ、調子よくぺらぺらと喋るテープにおいては、盗聴されたいくつかの声はウクライナ領内に実際に設置され、航空機を撃墜するために用いられたロシア製のブク・ミサイルについては何も言及してはいないし、後にブク・ミサイルをウクライナから搬出する必要性があることについても何も喋ってはいない。ごく初期に一人の声が「ブク・ミサイルが欲しい」と言ってはいる。しかし、その後は、ブク・ミサイルのことはまったく言及されてはいない。ビデオの中身はすべてが仮定からの産物である。[Consortiumnews.comに掲載されているTroubling Gaps in MH-17 Reportを参照]

また、もっと真っすぐで、極めて妥当なルートがありながらも、なぜロシア人たちがひどく遠回りとなるルートを選んだのかについては何も説明されてはいない。このように不可思議なルートを必要とした理由は、ただ単に、2014717日に移動したブク・ミサイルに関して「ソーシャル・メディア」に掲載された映像が、MH-17便の撃墜の前には、ロシアから西へ向かって移動したのではなく、ロシアに向かって東方向に移動しているブク・ミサイルを示しているからである。[Consortiumnews.comThe Official and Implausible MH-17 Scenarioを参照]

換言すると、ストーリー展開を(ソーシャル・メディアで)入手可能な映像と辻褄を合わせるために、JITは真犯人だとされるブク・ミサイルの車列が妥当なルートとはまったく離れたルートを通って、ミサイルの発射場所だとされるスニジニエの近くへ逆戻りをする前にドネツク市内で写真に撮られる機会を与えなければならなかったのだと言える。しかしながら、この発射場所は住居が立て込んでいる場所を通過して遠回りをする代わりにロシアとの国境からはいとも簡単に到達することができた筈なのだが。


不都合な証拠は避けて・・・: 

また、JITは、ウクライナ軍の車列が2014716日から17日にかけていわゆる「反政府軍の占領地域の内側深くに侵入していたという自分たち自身の証拠を無視しなければならなかった。でも、なぜ無視しなければならかったのか?それが明らかに意味するところは、もしもウクライナ軍の車列がルガンスク共和国の内部へ数マイルも侵入することが可能であったとするならば、盗聴された声のひとつが言っているように、ウクライナ軍のブク・ミサイルも東方へ移動していたのかも知れないのだ。

そして、前線の反政府軍を攻撃してくるウクライナ側の軍用機をロシア側が撃墜するにはブク・ミサイルが必要であり、ロシア側はこれを反政府軍側に与えると決断したのだとJITは想定したが、これは前線から遠く離れているスニジニエの南側にある農地へブク・ミサイルを設置したという想定とはまったく辻褄が合わないのである。JITの筋書きは全然用をなさない。

MH-17便を撃墜したのはいったい誰かという設問に対して他にも存在し、あり得そうだと思われるシナリオに関しては、JITはそれらを詳細に調べようともしなかった。何基かのウクライナ軍のブク・ミサイル装置がMH-17便が撃墜された当日稼働していたのだが、JITのビデオ報告書はこのことについては言及さえもしてはいない。

オランダ諜報機関(MIVD)はNATOの諜報能力に依存している。当初、2014717日にあの地域にあって、MH-17便を撃墜することが可能な対空ミサイル設備はウクライナ軍のコントロール下におかれていたと報告していた。

しかし、それらのウクライナ軍のブク・ミサイルはいったいどこに位置していたのか、あるいは、ウクライナ側はそれらのミサイル設備に装着されていたブク・ミサイルのすべてを把握していたのかどうかに関しては、JIT報告書は何らの説明もしてはいないのである。このJITによる目隠し行為はJITがウクライナの諜報機関(SBU)との協力関係にあり、SBUの任務のひとつはウクライナ政府の秘密を防護することから来たものだ。

JITに関するもっとも衝撃的な現実はMH-17便を撃墜したとされる主要な容疑者の一人であるウクライナがよりによってこの事故調査をひどく牛耳っている点にある。

水曜日のJITによる非難以降、西側の主要メディアは自分自身にも目隠しを装着して、この出来事における情報のギャップや辻褄が合わないことには気が付かないような振りをした。しかし、目隠し無しで誰もが理解することができることと言えば、JITは2014年のMH-17便の撃墜はロシアに責任があると言う点に狙いを定めており、その結論の前に立ちはだかる物は何も存在しないとする立場だ。

このあらかじめ想定された結論は撃墜事件のたった3日後にはその責任はロシア側にあるとして、ジョン・ケリー米国務長官が飛びついた判断によって始まったものだ。それ以降、JITは2年間をかけて、ケリーの結論を導くような「証拠」を集め、彼の結論を「実証」しようとしたのである。


核戦争に近い衝突: 

長年にわたってソ連邦を専門とするCIAの分析専門家を務めてきた私にとっては、MH-17撃墜事件の際に私の心にピンと来た点1983年のKAL-007 便の悲劇がプロパガンダの目的で使用されたという過去の事実であった。KAL-007便の撃墜後、米国のプロパガンダ・マシーンは、CIAの主導の下に、ギアをトップに入れ、ソ連側は撃墜の前にもKAL-007 便は民間航空機であることをすでに知っていたと言い張って、同機を故意に撃墜したことを「証明」するために証拠の改ざんさえをも行ったのである。

当時、「野蛮な」という言葉が用いられた。そして、つい最近、駐国連米国大使のサマンサ・パワーはクレムリンの指導者を形容するためにまったく同じ形容詞を用いた。

1983年に起こったロシアに対するヒステリー状態とまったく同じ状況が今起こっている。当時行われたモスクワに対する極端な悪口がソ連邦の指導者らにリーガン大統領は核戦争を準備していると確信させ、手ひどいプロパガンダや前例にもないような軍事演習、ならびに、その他諸々の挑発行為が行われ、事態は本格的な紛争が勃発する一歩手前にあった。このことは公開された資料によってわれわれは、今、十分に知っている。

昨年、CIA時代の元の仕事仲間で、ソ連邦部門の上級マネジャーであったメル・グッドマンが1983年の秋にクレムリン内で起こった「戦争の脅威」に関して書いた。その中で、彼は歴史は繰り返しているのかと問うた。グッドマンは個人的に緊張を一段と引き下げるようにとリーガン大統領に進言したが、今同じことをオバマ大統領に進言しようとする大人が果たしているのかどうかは不明だ。

グッドマンはこう書いた。1983年は1962年のキューバ・ミサイル危機以降ではソ連と米国の冷戦期間中でもっとも危険な年となった。リーガン大統領は「邪悪の帝国」に対して政治的および軍事的キャンペーンを宣言した…次に示す文言は国際的な均衡を意味するソ連の表現ではあるが、ソ連邦の指導者らは「世界における戦力の相関関係」はモスクワ政府にとっては不利であり、米国政府はロシアに敵対しようとする、危険な大衆の手中にある・・・と信じていた。

リーガンがソ連邦は「世界における邪悪の中心だ」と形容したことを受けて、新たにソ連邦の書記長に就任した元KGB長官のユーリ・アンドロポフはリーガンは正気ではなく、嘘つきだと言った・・・ アンドロポフは賭けに出ようとはしなかった。ソ連の指導者らは1983年の11月に行われた「エーブル・アーチャー」と名付けられた動員訓練を先制核攻撃を準備するために活用するのではないかと考えた。米国がそのような専制攻撃を準備しているのかどうかを特定するために、KGBは精度の高い情報収集を開始した・・・ 

「クレムリンに警告を与えたエーブル・アーチャー動員訓練に加えて、リーガン政権はソ連邦の国境に真近い場所で何時もとは違ってひどく攻撃的な演習を実施した。たとえば、ソ連邦の領土を侵害したのである。ペンタゴンの危険極まりない評価策の尺度には戦時のソ連邦に対する海軍の侵入経路さえもが含まれていた。こういった海域には米国の艦船は以前には侵入したことさえもなかった。ソ連邦内の目標に向けての海軍の奇襲攻撃を模擬して、追加の秘密作戦が展開された。」


リーガンの動きを抑えて・・・: 

グッドマンはこう続けている。「ロシアと米国との間には幾つもの相似点があるが、最大の相似点は両者とも相手からの奇襲攻撃に怯えていたことだ。米国は日本軍から受けた真珠湾の奇襲によって心理的な苦痛に悩まされていた。米国は今でも9/11テロ事件から回復してはいない。ところが、真珠湾の奇襲と同年にドイツが侵攻してきた際にロシアが「バルバロッサ作戦」から受けた同様の苦痛については米国はまったく意に介さなかった。ロシアは遥かに大きな苦痛を受けたというのに・・・」 

「ソ連のSS-20ミサイルに対抗して、米国が陸軍のパーシングIIミサイルと陸上発射型の巡航ミサイルを西ヨーロッパに配備した1983年、奇襲攻撃にかかわるロシア側の脅威はその頂点に達した。SS-20ミサイルはその射程が限られていた(3,000マイル)ことから、米国にはとても届かず、「戦略的」であるとは見なされなかった。一方、パーシングIIはソ連邦に到達するだけではなく、モスクワの指令所やコントロール施設を驚くべき精度をもって破壊することが可能であった。ソ連側には5分足らずという非常に限られた警告時間しかないだろうことから、パーシングIIはソ連側の早期警戒システムを破壊する格好の先制攻撃用兵器であると見られていた。」 

「パーシングIIや数多くの巡航ミサイルの配備によってもたらされる戦略的な利点に加えて、米国のMXミサイルの配備やD5トライデント潜水艦は、戦略的近代化の観点から言うと、ソ連側を不利な立場にした。全体的に言えば、米国は政治的にも、経済的にも、そして、軍事的にも非常に大きな戦略的利点を有している。」 

「クレムリンを脅かすために用いられるペンタゴンの心理戦争プログラムは、海軍や空軍によるソ連の国境地帯における危険な査察を含めて、CIAの分析専門家にはまったく知られてはいなかった。こうして、ペンタゴンが軍事演習や兵器の配備に関しては情報の共有を拒否したことから、CIAはソ連側の戦争の恐怖を分析することにおいては不利な状況にあった。」 

1983年、CIAは毎年繰り返されるエーブル・アーチャーの演習が高位高官を迎えての極めて挑発的な形で実施されるという計画についてはまったく知らなかった。この演習は、戦時の核兵器の取り外しや使用の手順を含めて、米国の指揮系統および連絡網の手順を試験しようとするものであった。」 

グッドマンは続けた。ロシア側の恐怖は本物であったと私は思う。リーガン政権の顧問を務めていたロバート・マクファーレンは「我々は彼らに注意を喚起したが、多分、やり過ぎだった・・・」とのコメントをしたことが知られている。CIA長官のウィリアム・ケーシーはわれわれの分析結果をホワイトハウスへ持参し、リーガン大統領は演習の緊張度を和らげるよう指示を出した。

「エーブル・アーチャーの演習はリーガン大統領やブッシュ副大統領、そして、ワインバーガー国防長官さえをも含めて実施される予定であったが、米国の意図に関するソ連側の懸念の程度にホワイトハウスが気が付いて、高位高官は演習には臨まなかった・・・ 長期にわたって使用に供されて来たソ連側の軍事上の教義によれば、米国がソ連邦に向けて核攻撃を開始する手口は軍事演習を実際の戦争に転換することだ。」 

30年後、歴史は繰り返している。ワシントンとモスクワはふたたびウクライナやシリアに関しては醜悪で、刺々しい非難の応酬を行っている。米ロ間の戦力の制限や軍縮に関する協議は後方にうっちゃられ、それに代わって大国間同士の紛争の可能性が正面にせせり出てきた。ペンタゴンの広報担当官はプーチンが率いるロシアは「米国の存在を脅かす脅威」であると述べ、かっての冷戦時代の文言を用いている。 

(メル・グッドマンの「エーブル・アーチャー」に関する説明からの引用はここで終わり)


前編としてのKAL-007便撃墜事件:

2014年のMH-17 便の撃墜事件後、私はこう書いた: 

アムステルダムを発ってクラルンプールに向かっていたマレーシア航空の旅客機の298人の乗員と乗客の全員の死はすでに轟音を上げて唸っている反ロ・プロパガンダマシーンに大量の燃料を注ぐことになるだろう。それでもやはり、米国のメディアは一瞬沈黙して、30年前にリーガン大統領がKAL-007便の悲劇にかこつけて事実を歪曲した事実を含め、今まで米政府によって完全に操られてきたことをまざまざと想い起こすことになるのかも知れない。

大韓航空の航空機の場合、198391日、その飛行コースは何百マイルも逸脱し、カムチャッカやサハリン島にある軍事施設の上空を通って、ソ連のもっとも敏感な空域に侵入していった。これを受けて、ソ連のジェット戦闘機は大韓航空の航空機を撃墜した。

KAL-007便はサハリンの上空でソ連のスホイ15戦闘機によってついに仰撃された。ソ連のパイロットは侵入した航空機に着陸の指示を出した。警告のサインが繰り返して出されたが、KALのパイロットはそれには応えなかった。同航空機の素性が不明で(数時間前には米国のスパイ機がこの付近を飛行していた)、ソ連の地上管制官は射撃するようにとパイロットに指示した。パイロットは射撃し、同航空機は墜落。269人全員が死亡した。 

ソ連側は、間もなく、とんでもない間違いを仕出かしたことに気が付いた。米諜報機関も通信の傍受からこの悲劇は意図的な殺人行為ではなく、間違いによって引き起こされたものであることに気付いていた(これは198873日に米海軍の艦艇ヴィンセンスがミサイルを発射して、ペルシャ湾上空でイランの民間航空機を撃墜し、290人が死亡した事件と酷似している。この事件については、ロナルド・リーガン大統領は「考え得る事故」として説明した)。

しかし、このKAL-007便の悲劇的な大間違いに関するソ連側の対応がリーガン政権にとっては不十分であるとして、同政権はこの出来事をプロパガンダ上の「棚からぼた餅」と見て取った。当時、冷戦のさ中にあって、ワシントン政府内で皆に感じられていた責務はソ連邦には少しでも多くの汚点を付け、モスクワとの緊張関係をさらに高めることにあった。

モスクワに対して最大級の汚点をでっち上げるために、リーガン政権は米国が傍受していた電子データが示唆する無実を証明する証拠さえをも押さえ込んでしまったのである。こうして、米国が主張する持論は「民間航空機を意図的に撃墜」となったのである。ニューズウィークの記事では「空中で殺人」という表題が踊っていた。 

「リーガン政権の情報歪曲マシーンが稼働を始めた」と、当時の米情報局のテレビ・映画部門の長を務めていたアルヴィン・A・スナイダーは1995年に著した書籍「Warriors of Disinformation」の中で書いている。 

米情報局の長官、チャールズ・Z・ウィックは「トップの補佐官に対して特別なタスクフォースを編成して、海外でストーリ―を展開するようにと命令した。目的は極めて単純だった。それはロシアに対して出来るだけ多くの嫌がらせを流布することだった」と、スナイダーは書いている。

「米国のメディアは米国政府のストーリー展開をそのまま鵜呑みにした」と、スナイダーは記している。ABCニュースの番組「ナイトライン」では尊敬すべきテッド・コッペルがこう述べた。「今までにもさまざまな機会があったけれども、今回こそは政府のプロパガンダ部門が生産するブツと商業放送ネットワークが生産するブツとの間にはこれっぽっちの差もない。」 

198396日、リーガン政権は国連安保理に改ざんした傍受記録を提示した・・・ 

「このテープは50分程の長さがある筈であったが」と、ソ連側を傍受した記録に関してスナイダーは言った。しかし、米情報局の我々が受け取ったテープは832秒の長さしかなかった・・・ 

「私はこのテープにリチャード・ニクソンの秘書、ローズ・メアリー・ウッズのような優れた手腕を見ているのだろうか?」と、私[スナイダー]は毒気を含んだ質問をした。

しかし、スナイダーにはやるべき仕事があった。つまり、彼の上司から頼まれたビデオを作成することであった。「われわれが伝達したかった概念はソ連邦は野蛮な行為を残酷にも実施したというストーリーであった」と、スナイダーは書いている。


全ストーリーを見た上で・・・: 

それから10年後のことだったが、スナイダーが記録のすべてを確認した時、リーガン政権が当時隠ぺいした部分も含めて、米国が国連安保理に提示した内容の中心的な要素には非常に多くの嘘八百が含まれていることを納得した。

傍受記録によると、ソ連のパイロットは自分は米国のスパイ機を追っかけているものと信じ込んでいたことが明らかであった。そして、暗闇の中で相手の航空機を識別することは困難を極めていた。ソ連の地上管制官からの指示に基づいて、パイロットはKAL機の周囲を旋回し、相手を強制着陸させるための指示として自分の戦闘機の翼を傾けた。パイロットは警告射撃さえも行ったと言う。「安保理へ提示したテープにはこのコメントも含まれてはいない」と、スナイダーは記している。 

スナイダーにとって明白なことは、冷戦時代特有の目標を追求する中、リーガン政権は嘘八百で構成された非難声明を国連安保理に提出し、米国国内や世界中の市民に対してさえもこれを示したのである。リーガン政権の高官らにとっては、ソ連に汚名を注ごうとするあまり、歴史的な記録を改ざんすることさえをも正当化することができたのである。

彼の本では、スナイダーはこの虚偽行為に対して自分がかかわった役割を認め、この出来事から皮肉な教訓を引き出した。米情報局の高官は「ストーリー作りのモラルでは、われわれの政府を含めて、自分の目的に合致しさえすればどこの政府であっても嘘をつく。重要な点は最初に嘘をつくことだ」と、書いている。

[ここで、私の引用は終わる]

ロシアに対する新しいヒステリー状態に対して、つまり、以前のプロパガンダの焼き直しから始まって軍事的な激化に至るまでのすべてに対してわれわれは何としてでも取り組まなければならない2016年にあって、もっとも急を告げている問題点は、物事が完全にコントロールを失ってしまう前にこの狂乱状態を律することができる大人を一人でもワシントン政府内に見出すことができるかどうかという点だ。

サンタヤーナは有名な言葉を残した。「過去を記憶することができない者は過去を繰り返すとして非難される。」 しかし、現実的な危険性は歴史が繰り返すことを決して中断することはなく、われわれを核戦争の断崖から突き落とすかも知れないという点にある。 

著者のプロフィール: レイ・マクガバーンはCIAの分析担当官として27年の経歴を有し、ソ連外交部門を率いてきた。後に、彼は「大統領日例指示」の場でリーガン大統領の国家安全保障の上級顧問らに対して朝の状況説明を担当した。現在はワシントン都心部にある教派を超えた結束を目指す救世主教会の出版部門「Tell the Word」 にて仕事をしている。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

33年前の大韓航空007便の撃墜事件は多くの機密文書が公開され、その結果、今ではあの出来事の全貌が判明している。もっとも重要な点は、あの撃墜事件は民間機の乗客を故意に殺害しようとして起ったものではなく、冷戦という異常な環境にあった当時のソ連空軍が関与した不幸な事故であった。

ところが、冷戦の渦中にあった当時のリーガン政権はソ連側に汚点を付けることに汲々としていた。傍受したソ連の情報を歪曲して、ソ連側は故意に旅客機を撃墜したのだとして国連安保理に改ざんしたビデオを提出したのである。こうした内容は30年経った今その全貌が判明している。
この論評が記述しているように、歴史を振り返ることによって、一国の政府のモラルは、時に、異常とも言える状況に陥ってしまうことをつぶさに知ることができる。そして、非常に残念なことには、30年前に米国政府がとった破廉恥な行動が、今、そのまま繰り返されようとしているのである。

・・・スナイダーはこの虚偽行為に対して自分がかかわった役割を認め、この出来事から皮肉な教訓を引き出した。米情報局の高官は「ストーリー作りのモラルでは、われわれの政府を含めて、自分の目的に合致しさえすればどこの政府であっても嘘をつく。重要な点は最初に嘘をつくことだ」と、書いている・・・ 

このくだりは実に秀逸である。政府という組織は容易にモンスターに化けてしまうのだ。そして、その結果引き起こされることに関しては何の痛痒も感じない。

一国の政府のモラルの低下に関して最近の事例を見てみよう。

911同時多発テロに関して米政府が指定した調査委員会は状況を調査し、その結果を事故報告書に記述した。そこにも、モラルの喪失がはっきりと見て取れる。この報告書は米政府にとって都合のいい説明だけで終わったのである。そこには客観性や透明性はまったくない。建築家、構造設計の専門家、エンジニア、化学の専門家、冶金学者、等がそれぞれの専門の立場から数多くの専門的な推論を提出しているのだが、それらはことごとく無視された。こうして、それらの専門家だけではなく一般大衆が理解している911同時多発テロの真相はこの事故調査委員会が公開した報告書の内容とは大きく異なるのだ。

そして、もっとも最近の事例はオランダが率いる合同調査班(JIT)がこの928日に公開したマレーシア航空機撃墜事件に関する報告書である。残念ながら、この報告書は事故調査報告書に要求される客観性や透明性にはまったく欠けている。

しかし、そうした報告書を公開することは、実は、マレーシア航空機撃墜事件のシナリオを書き下ろした当人たち、あるいは、当局にとってはこの上なく好都合であるに違いない。

2014717日の直後、米国政府は何の証拠もなしにロシア犯人説を公言した。そして、それを支えようとする西側の大手メディアの馬鹿騒ぎやヒステリー状態を今振り返ってみると、この状況は世界を取り巻く現実の姿を実によく物語っていると言えよう。しかし、それは非常に嘆かわしい現実ではあるが・・・

同著者が述べているように、以上の文脈に基づいて33年前に起こった大韓航空機撃墜事件との比較をしながら2年前のマレーシア航空17便撃墜事件を振り返ってみると、ふたつの事例の相似性が実にはっきりと浮かび上がってくる。これらのふたつの撃墜事件は、一国の政府の関与も含めて、驚く程に酷似しているのだ。

とは言え、相違点もある。最大の相違点は大韓航空機撃墜事件は、上記にも詳しく記述されているように、冷戦下の環境において起こった不幸な事故であった。一方、2年前のマレーシア航空機撃墜事件の真相は未だ最終的な公式見解に至ってはおらず、最終結論が出されるのは1年後、あるいは、2年後とされている。そうとは言え、後者の出来事については西側のメディアによる執拗な情報の歪曲があるにもかかわらず、圧倒的に多くの情報や証拠はウクライナによって故意に引き起こされたものであることを示唆している。

しかし、この真相が判明するのも30年後になるのだろうか?犠牲となった298人の乗客や乗員の家族ならびに友人たちにとってはやり切れない思いが募るばかりであろう。

「歴史は繰り返す」という現実を具体的な比較事例を添えて論じたこの著者の論評はわれわれ一般大衆が国際関係や一国の政府の信頼性について理解を深めようとする時非常に役立つし、そのタイミングも実にいい。

好むと好まざるとにかかわらず、歴史は繰り返そうとしている。

われわれはそのような世界に住んでいるのである。



参照:

1Russia-Baiting and Risks of Nuclear War: By Ray McGovern, "Information Clearing House" - "Consortium News", Oct/03/2016






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