RTは
Russia Todayの略で、モスクワに本拠を置くニュース専門の放送局である。
ウィキペディアによると、「RTは2005年12月10日に開局。ロシア連邦政府が所有する実質国営メディアでもある。RTはアメリカで2番目の視聴者を持つ外国語ニュースチャンネルで、BBCニュースに次ぐ規模を誇る。拠点のモスクワだけでなくワシントンD.C.やマイアミ、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、ニューデリー、テルアビブに支局がある。」
アラビア語、スペイン語、英語、ロシア語、ドイツ語、フランス語で配信している。
2年ほど前の投稿で私は次のように書いた。
「昨年の夏、世界はシリア危機に見舞われていた。あの頃だったと思う。私はロシアからの英語によるRT(Russia Today)の報道内容はすごく新鮮で、ジャーナリスト精神がすこぶる旺盛だと感じていた・・・」
これは2014年12月2日に掲載した「ロシアのメディアはどうしてこんなに人気があるのか?それは西側のメディアが役に立たなくなったからだ」と題した投稿から抜粋したものだ。
ところで、3年前の記事 [注1] にはRTが設立されたいきさつが紹介されている。その一部をここに抜粋してみよう(斜体で示す)。これはドイツのシュピーゲル・オンラインがRTの編集長を務めるマルガリータ・シモニアンに行ったインタビューを伝えたものだ。
Photo-1: RTの編集長、マルガリータ・シモニアン曰く、「われわれは今日まったく別の国になっており、以前とは違った気質を持っている。」
マルガリータ・シモニアン、33歳、は衛星放送の国営ニュース社「RT」の編集長を務める。シュピーゲルとのインタビューで、「西側のジャーナリストはロシアを邪悪に満ちた侵略者として描写し勝ちですが、わたしたちの局は政府のプロパガンダを行うための局ではありません」と、彼女は強く主張する。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領はCNN に対抗できるようにと、西側の視聴者を対象に衛星放送を行うニュース専門局「Russia
Today」を設立した。このネットワークの設立の目的は「マスメディアにおけるアングロサクソンの寡占状態を打ち破る」ことにあり、ロシア政府はこの目標をすでに達成したようだ。外国からやってきた他の局に比較して、RTは米国の主要都市でより多くの視聴者を獲得している。
ワシントンでは、ドイツの「ドイチェ・ヴェレ」に比べて13倍もの視聴者がRT を選局する。英国人は合計で2百万人がRT の番組を観る。ユーチューブでは、モスクワに本拠を置くこのRT が大台の10億の視聴回数を記録し、世界でも初の達成となった。33歳のマルガリータ・シモニアン編集長はこの放送局をロシアにとってはある種のメディア防衛省であると位置付けている。
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視聴者の間ではRTの人気が結構高いだけに、西側諸国では警戒されているようだ。ロシアとの間で情報戦争が進行している今、西側のメディアにとっては手ごわい競争相手が現れたということに他ならない。
新冷戦の一部としての情報戦が深化している中、西側のメデイアは新たに設立されたRTドイツにスパイを放った。メディア合戦においては、あり得そうな話だ。RTドイツはいったいどんな仕事をしているのか、あわよくばプーチン大統領のプロパガンダ機関の真骨頂をすっぱ抜いてやろう、と試みたようである。
そんな内容の記事 [注2]
が最近現れた。情報戦争の真ただ中にある昨今をいみじくも反映した内容である。それだけに、非常に興味深く思った。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたい。
<引用開始>
Photo-2:
© Evgeny Biyatov / スプートニク放送局
「プーチンのプロパガンダ放送局」をスパイしてやろうと、一人のドイツ人ジャーナリストがお忍びでRT ドイツに見習いとして応募した。しかしながら、事態は計画通りには進まなかった。たった二日後には、この男は逆に大手メディアの偏向振りに関して疑問を抱き始めたのである。さらには、自分自身の世界観についても。
ドイツの若者向けの雑誌「ネオン」はジャーナリストのマーチン・シラクをベルリンにあるRTドイツに送り込んだ。彼の任務は、彼の言葉を拝借して言えば、「ロシアの真実」はいったいどのようにして報道されているのかを探ることだった。
「俺はスパイだ」と、シラクは認める。
彼が記した記事によると、彼がひどく興味を感じていたのは次の点であった。RT における毎日の仕事において、ドイツの大手メディアがRTを描写する際に頻繁に使う言葉、「プーチンのプロパガンダ放送局」とか「クレムリンのハイブリッド兵器」といった表現に代表されるような仕事振りを自分の目で確認することだった。
その任務を果たすために、シラクは見習いとして応募し、数週間にわたって「プーチンの兵卒」として皆と一緒に仕事をした。「あそこにはいったい何があると想像していたと思う?部屋の真ん中にはファックスが置いてあって、クレムリンからの指令をまさに一分ごとに受け取っていると思っていたんだ」と、彼は皮肉っぽく自問自答するかのように言った。
ところが、現実はえらく平凡な光景であった。この自称「スパイ」氏は友好的に付き合ってくれる同僚やコーヒー・サーバー周りでの雑談、あるいは、ドイツ語を完璧に操る編集長のことなどを話してくれた。この友好的な環境においては、シラクの偽装は予想外に脆いものであることが分かった。
「あんたはひょっとしたらビルト紙からここへ送り込まれて来たスパイじゃないの、と思う事があるんだけど・・・」と、シラクが余りにも多くの質問をするので、RT ドイツの従業員のひとりが冗談交じりに言った。
自分の偽装振りを心配して、「スパイ」氏は教科書通りの動きをすることにした。しかし、予期しないことが起こった。
「今や自分自身がこれは真実だと見なすことについては俺自身が抵抗を感じ始めている」と、シラクは言う。「いったい誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのか?俺にはもう分からなくなってしまった。」
「俺はここの新しい同僚たちのことを信頼しているよ。彼らとは会ってからまだ2-3日しか経ってはいないけど、ドイツの大手メディア全部を一緒にしたよりもずっと多く信頼している」と、彼は言う。
「ドイチェ・べレはドイツの納税者からの寄付金によって設立された国際放送局で、政治や文化ならびに経済に関してドイツ人の見方や他の国の見方を網羅しようとしている」と、彼の記事は続く。「これはロシアの立ち位置を皆に分かって貰うためにRTがやっていることとまったく同じじゃないか!」
Photo-3: ロシアは「情報戦争」で勝利を収めている? それとも、本当の事を報道しているだけに過ぎないのか?
「ロシアという巨大国家が俺にとってはたまたま外国だからと言って、俺はロシアの報道を軽率にもプロパガンダと呼んでいるのではないだろうか?」
この難問を解くために、シラクはついに心理学者の応援を求めることにした。彼はコブレンツ・ランダウ大学の心理学の教授、マルクス・アッペルを訪問した。
「人は大多数の動きには従おうとはしない傾向がある」と、グループ内における人の挙動を調査したいくつもの科学的な実験を引用して、アッペル教授は言った。
しかしながら、RTドイツがフェースブック上で行った世論調査のひとつの結果を確認してから、シラクはようやく自分が抱いていた疑問を乗り越えることができた。そして、大手メディアを支持する側に残ることにした。この世論調査によると、RT
ドイツの視聴者の42パーセントがドイツの左派政党を支持し、17パーセントが移民に反対する大衆主義の政党である「ドイツのための選択肢」(AfD)を支持していることが分かった。
結果として、シラクはひとつの結論に達した。つまり、RT ドイツはドイツ社会における少数派集団のためにメディア・コンテンツを作成し、彼らが抗議する意識にぴったりした、あたかも「共鳴するような世界観」を彼らに提供しようとしているのだ。
「RT ドイツは共鳴するような世界観を描き、その世界観は視聴者の間ですでに形作られている意見を裏付けるものとなる」と、シラクは自分の記事に書いた。そして、それこそが「RTの真の脅威」なのであるとも付け加えた。
その後、シラクは再度アッペル教授と話をした。同教授はこう言った。「人々は集団内では矛盾することがなく共鳴するような世界観に固執しがちであり、自分の世界観に一致しない事実は無視するか、軽視する傾向にある。」
Photo-4:
ドイツのメディア規制当局にとってはRT ドイツをこの国のチャンネルから追放する理由は見つからなかった。
大手放送局によるオンラインでのニュースや解説の提供に対して代替となるようなひとつの選択肢をドイツ人視聴者に与えるために、RTドイツは2014年11月にRTのドイツ語支局として開局された。この局が開局される前、3万人を超す市民たちがドイツ語によるチャンネルの開局を求めて、RTに対する陳情書に署名をしていた。
2015年には、RTドイツのユーチューブ・チャンネルは2千万回を超す視聴回数を記録し、登録視聴者数は44,000人となった。
このチャンネルは間もなくドイツの政治家による批判を招来し、その政治家はRTドイツの番組は一方に傾いており、「ロシア側の立ち位置に偏っている」と主張した。この主張はRTドイツの番組を放映した地方放送局に対して立ち入り検査を実施するまでに発展して行った。しかしながら、放送法の違反は何も発見されなかった。
逆に、大手のドイツの放送局自体が持つロシアに対する偏見が暴露されるケースが数多くあった。2016年2月、人気の高いドイツの放送局である「ZDF」のウオルフガング・ヘルレス博士は同ネットワークやドイツの同業他社は何を報道し、何を報道しないかに関して政府の指示を受けていた事実を認めたのである。
ウクライナ危機の最中、非常に影響力が高いことで知られている「南ドイツ新聞」の対外政策部門のステファン・コルネリウスは数多くの報告において極端に一方的な態度を取ったことから、自分自身にスポットライトを当てることになった。
以前は「シュピーゲル」誌(ドイツではもっとも影響力がある政治関連の週刊誌)のジャーナリストを務めていたハラルド・シューマンは、あるインタビューで、自分が出版に従事していた頃、自分は情報操作されていたとの事実を述べ、ドイツには出版の自由が欠如しているとして批判した。
<引用終了>
「ミイラ捕りがミイラになった」みたいな話だが、これが現実の話であることから、この記事を一段と秀逸なものにしているのだとも言えよう。
また、ドイツのメディアでは名門とも言えるZDFや南ドイツ新聞およびシュピーゲル誌の偏向振りが明らかになったことが今後の業界の自浄作用に繋がってくれれば、いいことだと思う。表現の自由を確保し続ける上で大きな収穫になることだろう。
総論的に言うと、Photo-3のキャプションが非常に面白い。
ロシアは「情報戦争」で勝利を収めている? それとも、本当の事を報道しているだけに過ぎないのでは?
私は後者の「本当の事を報道しているだけに過ぎない」という見方に現実味を感じる。たとえロシアが「情報戦争」で勝利を収めているとしても、それは本当の事を報道した結果でしかない。逆説的に言えば、この文言は西側のメディアがいかに腐敗し切っているかを物語っていることになる。
悪化するばかりの新冷戦の展開を見ていると、メディアの責任がいかに大きいかがよく分かる。相手に対する悪口の応酬が続く。嘘で固められた報道を繰り返すことによってメディアは相手の実像を見失ってしまう。そして、挙げ句の果てには自分自身さえをも見失う。そこでは、和解の糸口を見つけようとする道徳意識や客観性さえもが消えてしまう。プロパガンダ・マシーンのなれの果てである。
問題は、販売部数や視聴率を優先し、視聴者の関心を呼ぶことだけに専念するあまり、メディア自身が本来堅持しなければならない筈の社会的責任を認識し実践することを軽視する社風とか企業文化が挙げられよう。日本も含めて、これは間違いなく現在の商業メディアを巡る最大級の難問である。
言い古された言葉ではあろうが、洋の東西を問わず、もっと的確にバランス感覚を醸成することができないものだろうか?少なくとも、視聴者のひとりであるわれわれ自身が早急に、かつ、真剣に認識しなけれならない問題である。視聴者が明確に意識し始めれば、メディア自身も自分の非に気付くことだろう。視聴者の信頼なくしては、メディアの存在はあり得ない。
参照:
注1: Russia Today’s Editor-In-Chief: ‘The West Never Got Over the Cold War
Stereotype': By Spiegel Online International, Aug/13/2013
注2: Journalist poses as intern to spy
on RT Deutsch… but turns into mainstream media doubter: By RT, Oct/11/2016
こんばんは。日本は秋真っ只中で各地の紅葉の話題が中心となっていますが、先般行なわれた新潟県知事選挙で、少しばかりの喜びを噛み締めています。
返信削除世界で最も規模の大きい柏崎刈羽原発(TEPCO)の再稼働推進派・自民公明推薦の前長岡市長、森民夫氏を約6万票の差をつけ、再稼働に反対を訴えた米山隆一氏が当選したことです。御用組合の集合体・連合が森氏側を推薦したため、民進党が党推薦にすることが出来ず、民進党は自主投票としたため、一時は米山氏も危うくなりましたが、県民の良識が結集して推進派を破りました。
新聞各社は、いまだ新潟県民は非常識と読売産経などが論説して、リニア新幹線の電源確保のための柏崎刈羽再稼働をし、国力を示そうと目論んでいます。
小生の知り合いのFaceBook上では、得体の知れない文化人気取りが、簡単な総括を書いてました。抜粋すると-------
A 情緒的な選挙の争点(原発再稼働反対)・戦術の効果:わかりやすく、情緒的。原発は、戦争と同じく誰でも怖い恐怖を煽る話である。簡単に人を引き付けられる。TPPは農業を破壊するも情緒的で人を引き付けるもの。
B 県政の質の低下:かつての県内の政治家を思い出せば、今回の選挙の姿は自明。主要政党の県支部に力のなさが見え隠れする。人材不足。選択肢のなさが今回の選挙結果の背景。
C TVで有名な野党リーダーの選挙への応援:新潟県民はTVで有名な中央の人に弱い。情緒的な判断をさらに促進。
総じて、新潟県という大県は行先の不明な航海に出ているようです。ただ、国政に対しては、一定の牽制となった点は、国内民主政治の健全性の観点から短期的ながら意義はあると思います。しかし、原発阻止のスタンドプレーが県政の中心になるとすると、それは更なる新潟県民の悲劇でしょう。理性的な判断なのか、情緒的な判断なのか。結果は県民が許容しなければならないのが民主政治です。
--------転載終わり
この方は、A******* Defence Force Academy National Security PhDだそうで、それなりの観点から上手くまとめていますが、本質が原発再稼働推進派だし、土を踏まずして、首都の机上からの思考で、ソースはメディアからでしょう。
このメディアの影響力は、知識人でも簡単に洗脳されてしまうというところでしょう。怖いものですねー。
Russia TodayはラジオもWebもあり毎日目を通してます。
間接的な表現が多く、ユーザーが可也自分で掘り下げないと理解できないことも多々ありますが、日本のプロパガンダ読売・産経より中立的に書かれているところは評価してます。
しかし、まだ寸止めの記事も多く、もう少し遠慮しないで書いてほしいと感じてます。
いま米大統領選では、不正選挙とトランプ氏が言い出しました。
RTは、日本の不正選挙を大々的に扱ってくれるとありがたいと熱望してます。
本日も読み応えのある記事、ありがとうございました。
Siragapapaさま
削除コメントを有難うございます。
新潟県知事選は原発再稼働反対派が見事な勝利を収めましたよね。これは新潟県民の良識の勝利だと思います。
原発の再稼働を反対することが何故に「情緒的」だと言うのでしょうか?私には理解できません。
原発は地震国である日本には不適切であることは福島第一原発事故によって証明されています。また、巨大な津波に襲われる可能性は歴史を紐解くと現実に起こるものであることを教えてくれています。日本では原発はすべてが海岸に立地しています。また、放射性廃棄物はいったいどこへ埋設したらいいのでしょうか。埋設処理に関しては技術的な対応策は示されてはいません。国内の原発施設の構内には使用済み核燃料が山積みとなっており、もう1年か2年で満杯状態になるとも言われています。
これらの状況を理性的に考えた場合、原発の再稼働という政府の方針はいったい何処から出て来るのでしょうか?従来の安全策に比べて大きな改善策が施されたととでも言うのでしょうか?日本の将来を担う若い世代が何世代にもわたって健康被害を受けたとしても、電力会社の重役や株主が当面の利益を確保できればいいとでも言うのでしょうか?
私にとっては、新潟県政は政治的には極めて明確な目標を抱いて未知の航海に乗り出したのだと思えます。原発再稼働反対という目標は毎日の生活を左右するかも知れず、非常に基本的な理念であると考えるからです。この明確な理念に基づいて、今後の寄港地や航路あるいは航海日程を新潟県が具体的に、かつ、客観的に決定していって欲しいと考えます。
RT-UKについては、今、政治的な議論が英国で起こっています。
数日前、National Westminster Bankが顧客であるRT-UKの銀行口座を閉鎖するとの通告を出したのです。これに驚いたRT側は「報道の自由」にもとるとして抗議しています。ラブロフ外相も含めて、ロシア政府の高官も抗議をしています。この銀行の筆頭株主は英国政府であることから(2015年の夏現在、73パーセントの株式を所有)、政府による何らかの関与があったのではないかと事情通の間では言われています。英国政府の政策は米国政府の政策を濃厚に反映します。つまり、すべてはワシントン政府によるロシア・バッシングに収斂してきます。
当初、銀行側は「これは最終結論であって、RT-UKと交渉を行う余地はない」と言っていました。しかしながら、昨日辺りからその姿勢を軟化させて、口座の閉鎖について再吟味すると言い始めています。銀行側は非常に情緒的な判断をしていたのではないかと思われます。RT-UKにとっての最強の味方は同銀行の顧客からの応援です。情報を歪曲し、情報を隠ぺいし、情報を操作する大手メデイアに代わって、本当の事実を丁寧に報道しようとする代替メデイアの存在は一部の市民にとっては今や日常生活においても不可欠のものとなっています。さらには、英国でもっとも大きな労組のひとつもRT-UKを応援していると報じられています。
さて、RT-UKは軟着陸することができるのでしょうか?
ドイツ人の大半は、まだ眠っています。短刀直入に言えば、あほです。皆、そうしていたいんだと思います。プロパガンダメディアにしっぽ振ってついてっています。人間てこんなにもいやらしいんだと思います。この記事の中にあるようなドイツ人は少数派です。さっさと変わってほしい。残念です。
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