2017年4月26日水曜日

誤導されっぱなしのわれわれの「えり抜きの戦争」



今、核大国間の戦争、つまり、米ロ戦争の黒い影が近づきつつある。

シリアがその発火点となるのか、あるいは、北朝鮮がその発火点となるのかは分からない。しかし、戦争の嵐は急速に勢いを増している。その結果もたらされるであろう最悪の事態は文明の消滅である。人類の文明を自分たちの手で消滅させてしまうかも知れないのだ。

こんな心配をしなければならない現在の状況は人類の歴史の中であっただろうか?われわれは今とんでもない時代に生きていると言わざるを得ない。

ロシアの庶民の間では「たとえ貧弱な平和ではあっても、平和は勝ち戦よりもずっといい」と言われているそうだ。これは何度も外敵に攻め込まれて、最終的には外敵を押し戻すことに成功したとは言え、ロシアはその度に甚大な被害を被った。そのような歴史的体験を繰り返して来たロシア人の言葉であるからこそ、これらの言葉には重みが感じられる。

ロシアの歴史を見れば、誰でもが納得できるのではないかと思う。たとえば、第二次世界大戦中に起こった「レニングラードの包囲」を垣間見ると、ロシアの一般庶民が口にする上記の言葉の背景をより具体的に理解することができる。ナチスドイツ軍によって900日間も包囲されたレニングラードは奇跡的にも生き抜いた。もちろん、その代償は耐えがたいものであった。食べるものはなくなり、飢餓や病気で多数の市民が死亡した。レニングラードの市民がどうにかこうにか生き抜いた様子は歴史の証言としてさまざまな書物で紹介されている(たとえば、私が読んだのはハリソン・E・ソールズベリー著、大沢正訳の「攻防900日、包囲されたレニングラード」)。

上記に引用した文言はそうした経験を持っているロシア人社会ならではの世界観であると言えよう。

世界的な戦争の脅威が高まっている今、軍事力を誇示する米国特有の対外政策を改めて考えてみたいと思う。

今日のブログでは419日付けの「誤導されっぱなしのわれわれのえり抜きの戦争」と題された記事 [1] を覗いてみたいと思う。「われわれの」とは「米国の」という意味だ。この記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみよう。

国際情勢について十分な情報を持っている米国を代表する識者が今の米国をどう捉えているのかを知るいい機会になるのではないかと期待している。


<引用開始>

対外政策の目的には他の如何なる目的よりも大事なことがひとつある。それは、たとえシリア、北朝鮮あるいは他の国の何処が相手であったとしても、米国を新たな戦争に突入させないということに尽きる。最近、トランプ大統領はシリアをトマホークミサイルで攻撃し、アフガニスタンでは米国が所有する核兵器以外の兵器の中では最も破壊力が大きいとされる爆弾を使用した。そして、北朝鮮に対しては空母船団を送り込んでいる。われわれは急速に拡大する戦禍に巻き込まれ、米国は核戦力を保有する中国や北朝鮮およびロシアに対する戦争に引きこまれるかも知れないのだ。

もしもこの戦争が世界規模の核戦争となったら、世界は終焉することになろう。通常兵器による戦争であったとしても、米国の民主主義は終わりを告げるか、もはやひとつの連邦国家として存続し続けることはできないであろう。アフガニスタンにおけるソ連邦による戦争がソ連邦を崩壊させることになるなんていったい誰が想像し得ただろうか? 第一次世界大戦が始まった時点で、交戦国間で四つもの国家が崩壊することになるとはいったい誰が予測することができたであろうか?戦争の結果、ホーヘンゾレルン(プロシア)、ロマノフ(ロシア)、オットマンおよびハプスブルグが崩壊した。

こういった事例を見ると、恐ろしい可能性に気付かされる。これらの事例は超現実的で、本末転倒だと思うかも知れない。しかし、トランプはせっかちで、不安定でもあり、経験を持ってはいない。彼の対外政策は毎日のように大きく揺れ動く。北朝鮮を威嚇したように、彼は相手国を威嚇する。これは手ひどい惨状や紛れもなく壊滅的な結果を招くに違いない。

キューバでのミサイル危機に見舞われたJFKの行政府を想い起こして見よう。ケネディの軍事顧問は多くがわれわれを熱核戦争へと導いたであろう。ジョンとロバートのケネディ兄弟は冷静な頭脳と重い責任感に基づいて、顧問らの助言に逆らって、我々を救ってくれた。現在の米国の行政府の会合を考えると、われわれは恐怖で身震いに襲われる。

悲しいことではあるけれども、米国の戦争の歴史は皆を勇気づけるような代物ではない。米国の第二次世界大戦での輝くような高潔さや朝鮮戦争において米国が果たした積極的ではあったとしても、不備の多かった役割は米国が間違った理由付けで戦争を開始し、国内や国外で甚大な損害を引き起こした数多くの戦争を覆い隠すものとはならない。

代償が高い米国のえり抜きの戦争はさまざまな要因によって導かれて来た。ウィリアム・マッキンレー大統領は海外に帝国を樹立するために1898年にスペインに対して戦争をした。ウッドロー・ウィルソン大統領は「あらゆる戦争を終結させる戦争」をするという間違った将来像を抱いて、遅まきながらも1917年に、第一次世界大戦に参戦した。しかし、「あらゆる平和を終結させる平和」を招じ入れてしまったのである。リンドン・ジョンソン大統領は1964年に米国をベトナム戦争に引きずり込んだ。それは主として「共産主義に対して弱い」という自分自身に対する右翼からの非難をかわすためだった。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2001年にアフガニスタン戦争、2003年にはイラク戦争を行い、タリバンやサダム・フセインを倒そうとした。これらは考えが非常に甘いネオコンのゲームプランであって、米国の国益に反する政権を中東から取り除こうとするものであった。バラク・オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官はムアンマル・カダフィやバシャール・アル・アサドの政権を潰すために2011年にこういった戦争をリビアやシリアへと拡大して行った。 

大統領の座に就いて数週間が経過した今、トランプは前大統領らが開始した戦争を継承し、核兵器を所有する北朝鮮と戦争を始めようとしている。

これらのえり抜きの戦争には三つの重要な点がある。まず、米西戦争、ベトナム戦争、中東戦争においては米国は第二次世界大戦の時のような自衛のためではなく、他国を攻撃したのである。リンドン・ジョンソンは北ベトナムがトンキン湾で米海軍のマドックス号を攻撃したという口実の下でベトナムにおける戦争を拡大した。しかし、ジョンソンはその主張が間違いであることを承知していた。サダムやカダフィならびにアサドの場合、彼らは誰を取っても米国を攻撃したわけではない。イラクの場合、軍事侵攻の口実は存在してはいない大量破壊兵器だった。リビアとシリアの場合には、米国の軍事介入は人道的な目的のためだとされた。カダフィやアサドの圧政から民間人を守るというのが口実であった。どちらの国においても、米国の介入によって数多くの市民が恐ろしい惨状に見舞われることになった。

二番目に、国連が1945年に誕生してからは、このようなえり抜きの戦争は国際法に違反する。国連憲章が認めるのは自衛のための戦争と国連安保理事会の承認が与えられた軍事行動だけだ。一国の政府の国家的犯罪からその国の一般市民を「守る責任」を行使するために、国連安保理は国連自身の大原則の下で軍事行動を承認することができる。自衛のための戦争を除いては、如何なる国も単独で軍事行動を起こすことはできない。

多くの米国人は米国が必要と考える軍事行動に対してロシアが悉く拒否権を発動するとして国連安保理を退ける傾向にある。でも、これは完全にその通りだというわけではない。ロシアと中国はリビアの市民を守るために2011年のリビアに対する軍事行動に賛成した。しかし、NATOはただ単に一般市民の安全を守るのではなく、実際には、その国連決議案をカダフィ政権を倒すことに利用したのである。イランとの核協定を締結し、パリ気象条約を採択し、持続可能な開発目標を採択するためにロシアと中国は最近米国とチームを組んでいる。このように、外交努力は実現可能でなのである。常に邪魔をする姿勢は実現可能ではないのだ。

三番目には、これらのえり抜きの戦争は次から次へと大失敗に終わった。米西戦争では、米国は帝国を樹立し、肥沃なキューバを手に入れたが、同国およびフィリピンでは何十年にもわたる政治的不安定を引き起こし、結局、フィリピンの独立やキューバでの反米革命を招いたのである。第一次世界大戦では、米国の介入はドイツとオットマン帝国に対峙するフランスと英国の勝利に向けて戦局を盛り返させることに成功した。しかしながら、和平は大失敗に終わり、ヨーロッパや中東は不安定になり、15年間の無秩序状態がヒットラーの台頭を招いたのである。ベトナムでは、この戦争によって55千人の米兵が戦死し、百万人以上のベトナム人が殺害され、隣のカンボジアでは大虐殺を引き起こし、米国経済は不安定になり、結局のところ米国は完全撤退を余儀なくされた。

アフガニスタンやイラク、リビアでは、これらの国の政権は米軍によって速やかに崩壊させられたが、平和や安定は簡単に手に入ることがなかった。これらの国々では何れの国でも継続する戦争やテロリズムならびに米国の軍事介入によって破壊が続いた。そして、シリアでは、アサドがロシアとイランという強力な同盟国を持っていることから、アサド政権を倒すことには成功しなかった。アサド政権を倒すための米国の介入は多くの国や聖戦士のグループによる代理戦争へと発展して行った。もちろん、ISISはシリア国内へと侵入して行った。

米国の市民に対して戦争を扇動することは、たとえそれが誤導された戦争であったとしても、「米国が攻撃されている」、あるいは、「偉大な人道的理由から戦争を行うのだ」として嘘をつけばそれほど難しいことではない。しかしながら、これらはえり抜きの戦争のための口実ではあっても、正当な理由ではなかった。1898年のハバナ湾での軍艦メーン号の沈没は軍艦の石炭貯蔵庫の爆発によるものであったが、あの沈没はスペイン側が仕掛けたものであるとして戦争となった。トンキン湾における米艦マドックス号に対する攻撃はまったくの作り話であった。サダム・フセインが所有しているとされた大量破壊兵器は存在しないことが分かった。カダフィが市民に対して虐殺を行おうとしていると言う主張はプロパガンダであった。

シリアで進行している戦争については別の状況を指摘することができる。バシャール・アル・アサドに対する反政府派を支援することによって彼の地で進められている米国の介入は表向きでは人道支援を基盤としたものである。しかしながら、ウィキリークスやその他の情報源によると、米国の戦略は2011年以前にさえもIMFが推進する緊縮経済政策によって経済を不安定にし、アサド政権の転覆を模索していたことをわれわれは知っている。イランがアサド政権を後押ししていたことから、米国とサウジアラビアはアサドの退陣を願っていたのである。 

2011年の始めにアラブの春が始まった時、オバマ政権はアサドとカダフィの両指導者を退陣させる絶好の機会であると判断した。カダフィの排除には数か月間続くNATO主導の戦争が必要であったが、シリアではイランとロシアとが後押しをしているのでアサドを排除することはできなかった。

アサドが依然として政権に留まっているのを見て、現地の反政府派を支援するためにオバマはサウジアラビアやトルコとの間で協調作戦をとるようにCIA に命じた。こうして、米政府の戦略担当者の夢であったアサドを速やかに退陣させるという作戦は米国、サウジアラビア、トルコ、ロシアおよびイランを含めた全面的な地域戦争となって行った。これらの国々はすべてが聖戦士を含む代理戦争を介して地域的な覇権を競い合っているのである。

拡大するばかりのこの破壊行為をわれわれが何とか生き延びるにはどうしたらいいのか?我が国の外交政策に関しては四つの改善が必要であると私は考える。

第一に、CIAは大統領が動かす秘密の軍隊の役目を中断し、純粋に諜報だけに専念する機関として活動するべきである。そのためには抜本的な改革を推進するべきだ。1947年にCIAが組織化された時、ふたつのまったく違った役割、つまり、諜報と秘密作戦がその任務として与えられた。トルーマンはこれらのふたつの任務について警戒の念を示したが、時が経つにつれて彼は正しかったことが証明された。CIAが重要な情報を提供した時には生死を決するような成功をもたらしたが、CIAが大統領の秘密の軍隊として活動する時にはどうしようもない大失敗を仕出かす。われわれはCIA の軍隊としての機能を終わらせなければならないのだが、トランプは最近CIA の軍隊としての機能を拡大する権限を与え、国防省の承認もなしにドローン攻撃を行えるようにした。

二番目には、議会にとっては戦争と平和に関する意思決定権を取り戻すことは死活的に重要なことである。これは憲法で定められた役割であって、民主的な政府の防波堤として、恐らく、何よりも重要な役割である。しかしながら、議会はこの責任をほとんど完全に放り出してしまった。トランプが北朝鮮に向かって刀を振り回す時、あるいは、アフガニスタンやイラク、シリアおよびイエメンへ爆弾を投下する時、議会は沈黙したままであり、そのような行為に関して調査を行うでもなく、立法府の権限を与えるでもなく、それらの行為を無効にするでもない。議会としては、これは最大級とも言える責任の放棄である。核装備をしている北朝鮮に対して潜在的には非常に危険な戦争をトランプが引き起こす前に、議会は目を覚まさなければならない。

三番目には、米国の対外政策の意思決定における秘密主義を打破することが基本的に重要である。米国がシリアに対して行っている介入に関して緊急に調査を実施する必要がある。これは現在見るような泥沼をどうして招くことになったのかを一般大衆が理解するためである。議会はこの仕事を開始する様子もなく、もちろん、政府は決してそうする積りはないことから、情報を集め、機能を報告する責任は市民社会に、特に、学者やその他の専門家にあると言えよう。

四番目には、われわれは国連安保理の枠内で活動する世界規模の外交に速やかに復帰しなければならない。確かに、ロシアは米国の提案には拒否権を発動することだろう。そして、その逆の状況も起こるだろう。しかしながら、これは外交によって同意を取り付けた例のイランとの核交渉やパリでの気象変動に関する合意において実現された成功物語の再現である。これはわれわれ皆が生き延びることを可能にするものだ。

われわれは第一次世界大戦の100年目を迎えているが、数多くの歴史家は当時の状況と今われわれが抱えている現状に類似性を見い出している。第一次世界大戦の前夜、世界経済は絶頂期にあり、技術革新や科学は上昇の一途を辿り、世界戦争なんて夢にも考えられないことであった。しかしながら、技術進歩の力強さそのものや世界経済が強国間に恐怖を覚えさせ、互いに強い嫌悪感を引き起こしたのである。競い合う帝国は互いに他の帝国を相対的に危険であると見なすようになり、そのような恐怖を解消するには戦争しかないと考えるに至った。

もちろん、主要な違いは今や比較にはならないほどに大きくなった破壊力にある。半世紀前に JFKが大統領就任に当たって述べたように、 「今や、世界は大きく変化した。なぜかと言うと、人類はすべての形態の貧困を排除する力を持っている。それと同時に、すべての形態の人類の命を抹殺する力をも持っている」のである。 

米国は過去には考えることが出来なかったようなレベルの裕福さや生産性を実現し、技術ノウハウを開発した。しかしながら、われわれは戦争への理不尽な執着によってすべてを危険に晒してしまう。それに代わって、もしもわれわれが膨大な知識や経済力および先端技術を病気の克服や貧困の撲滅、環境保護および世界的な食糧の確保に用いたとしたら、米国は他の国々を多いに鼓舞し、新たな世界平和の時代をもたらすことに寄与することになるだろう。

著者のプロフィール: ジェフリー・デイビッド・サックスは米国の経済学者であって、コロンビア大学の地球研究所の理事長を務め、コロンビア大学が教授団に与えうる最高位の大学教授の称号を保持する。

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

この著者が言いたいことは米国は帝国主義的な対外政策を止めるべきだという点にある。そして、そのためには何をするべきかを提言している。

核装備を持った中国や北朝鮮およびロシアを相手に戦争を引き起こすことの無謀さを正面切って論じている点には好感を持てる。この著者と大手メディアに登場するネオコン贔屓の論説委員や評論家との間には雲泥の差が感じられる。

今の米国を眺めてみると、米国政府は重篤な生活習慣病に陥っているかのように見えてならない。軍事力を他国に対する威嚇のための道具として用いる対外政策や長年にわたる軍事行動が米国の財政を蝕み、国内経済を疲弊させ、庶民の生活の質をないがしろにしている。その影響は今や無視できないレベルに到達しようとしている。どこかの時点で、米国経済が心臓麻痺あるいは脳卒中を起こしたとしても決して不思議ではない。

米国の政治指導者は何時になったら目を覚ますのだろうか?

今や、中国経済は米国のそれに匹敵しており、中国の経済発展は続いている。IMFによると、購買力基準で算出したGDPでは2014年に中国が米国を抜いた。中国の国際社会に対する影響力は強まるばかりである。アジアに注視すると、アジアの盟主は日本から中国に移ってすでに久しい。米国による単独覇権の世界構造から多極的な世界へと移行している現実を見据えた対外政策の推進が米政府には待たれる。遅かれ早かれ、米国は必然的に引用記事の著者が提言する方向へと舵を切るしかないだろうと思う。


      

ここで、英国や米国が辿った軍事介入の歴史をもう一度簡単に反芻しておこうと思う。皆さんの参考のために2012124日の投稿、「法的帝国主義と国際法」の一部を下記に転載してみる(斜体で示す)。

115日付けのデイリー・テレグラフ紙の記事(British Have Invaded Nine Out of Ten Countries: By Jasper Copping, Nov/05/2012)によると、英国は次のように位置付けられる。約200カ国ほどの歴史を調査したところ、英国の侵略を受けなかった国はたった22カ国しかなかった。90%の国々は何らかの形で英国の侵略を受けた歴史を持っている。侵略を受けなかった幸運な22カ国はどこかと言うと、例えば、ガテマラやタジキスタン、マーシャル諸島、等がこのグループに含まれ、ヨーロッパではルクセンブルグが含まれる。日本では薩摩藩と英国海軍との戦いがあった(1863年)。「薩英戦争」と呼ばれている。戦闘は3日間続いた。この戦いの様子は大河ドラマ「篤姫」にも描かれている。当事の英国は日本へ陸軍を派兵する余裕がまったくなく、日本にとっては幸運なことに3日間だけの小規模の戦闘で終わった。

一方、米国による軍事介入の歴史を見ると、これも長いリストとなる。1890年から2011年までの121年間に行われた軍事介入に関する報告(出典:FROM WOUNDED KNEE TO LIBYA: A CENTURY OF U.S. MILITARY INTERVENTIONS: by Dr. Zoltan Grossman, academic.evergreen.edu/g/grossmaz/interventions.html)によると、146件の事例が掲載されている。平均で毎年1.2件。ただし、これには1992年にロサンジェルスで起こった略奪や暴動を鎮圧するために海兵隊を派遣した国内での介入がいくつか含まれている。61番目には第二次世界大戦が掲載されている。この表の最後を飾るのは2011年のリビアに対するNATOによる空爆である。今後、シリアやイランといった国々の名前が追加され、この表はさらに長くなるのかも知れない。


帝国の繁栄にとっては他国に対する侵略や富の略奪が重要な要素であることは論を待たない。そして、侵略を受ける国にとっては死活問題となる。それは経済問題であったり、政治的な課題であったりする。米国以外の一国の指導者が長期政権を目指そうとすると、はっきり言って、覇権国に追従するしかない。自国の国益を守ろうとする独立心が旺盛な一国の指導者は多くの場合短命に終わる。

こうした状況は経済や軍事力の面で段違いの差がある場合にのみ生じる。相手が軍事的に弱いからこそ、英国や米国は軍事力を誇示することによって世界中で覇権を維持することができたのだ。

しかしながら、今の米国が核保有国のロシアや中国を相手にして、カリブ海のグラナダへ軍事侵攻をした時のように相手を手玉に取ることが可能であろうか?私にはそうは思えない。

たとえ、戦争好きのネオコンが言うようにロシアに対して核による先制攻撃をしたとしても、外海の奥深くに潜む核装備をした潜水艦からの報復を受けることは火を見るよりも明らかだ。たった一隻の潜水艦が残ってさえいれば、その潜水艦は徹底的な反撃をすることができる。結局、米国が無傷のままで勝ち残ることなどはあり得ないだろう。

事実、米海軍のトップは下記のような発言をしている。「なぜ西側は大西洋をパトロールするロシアの潜水艦を恐れるのか」と題された記事 [2] によれば、こう発言している(引用部分を斜体で示す)。

「実効性があって、訓練が行き届いている、技術的にも進歩したロシアの潜水艦が大西洋で米国側に挑戦している」と、米海軍中将のジェームズ・フォッゴ3世が最近述べた。このコメントを評して、ドイツの日刊紙「ディ・ヴェルト」が米国の心配の理由をいくつか挙げている。

「ロシアは米国との間の技術的なギャップを急速に縮めている。彼らはわれわれが持っていた優位性を克服し、われわれの弱点につけ込むことができる近代的な軍事力を築いている」と、米海軍中将のジェームズ・フォッゴ3世はアメリカ海軍協会誌へ投稿した記事で書いている。

「ロシアは先進的で著しく静粛な攻撃型潜水艦やカリブル・クルーズミサイルで武装したフリゲート艦を開発し、建造している(これには地中海に配備されるキロ・クラスの6艘のディーゼル式攻撃型潜水艦が含まれる)。偶然にというわけではないが、これらの潜水艦はステルス性が高いことからわれわれにとってはもっとも困難で、やりがいのある相手だ。」

「冷戦時代にわれわれが享受していた対潜軍事力の優位性はなくなりつつある。ロシアの潜水艦は以前にくらべて能力が高く、われわれは再びロシアとの間で技術的な軍備競争に入っている」と、彼は付け加えた。

ドイツのディ・ヴェルト紙は米国がなぜそのような懸念を抱くのかに関して理由をいくつか挙げた。

潜水艦が核戦争の勝敗を決するからだ、とダニエル・ディラン・ベーマーが同紙に寄稿した記事の中で述べている。

本国が核攻撃を受けた場合、核弾頭ミサイルを搭載した潜水艦は自国の海域から遠く離れた場所からでさえも報復攻撃を行うことができる。

本国から遠く離れた外洋の奥深くに潜み、大量破壊兵器を搭載した移動可能な戦力は最初に戦端を開いた国を間違いなく破壊することを保証する。

こうして、原子力潜水艦は世界規模の戦略ゲームにおいてはもっとも重要な戦力のひとつであると見られている。

しかしながら、このゲームにおいてはもうひとつの非常に重要な戦力がある。一見しただけでは取るに足りないものに思えるが、それは潜水艦を探査する能力だ。 

相手の潜水艦を最初に発見した側は相手を破壊することが可能で、反撃を防止することが可能となる。

偵察用航空機は敵の潜水艦を発見することができることから、航空機と潜水艦との協力作戦が非常に重要となる。

ロシアは最新式の航空機を所有している。

核大国間では敵国の潜水艦の動きに匹敵する程の重要な情報はない、と著者は最終的に言う。


米軍の高官の発言には、多くの場合、誇張が含まれている。それは軍事予算を増額して欲しいからだ。少なくとも、軍事予算の削減は何としてでも回避したいのだ。それに加えて、軍需産業を繁盛させておきさえすれば、自分の退役後の仕事場を確保する可能性にもつながる。
それにしても、ロシアの潜水艦が静粛さを増し、索敵能力が向上していることは事実のようである。米海軍にとってはそのことが気になって仕方がないのであろう。

さまざまな議論がある中で、ここで、私が言いたいことはひとつだけ。それは米国で喧伝されている先制核攻撃論のことだ。ネオコンの連中が言うように、先制核攻撃によってロシア、あるいは、中国からの報復攻撃の可能性をゼロにすることはどう見ても不可能だ。ましてや、核兵器を搭載した潜水艦の存在を考慮すれば、なおさらのことだ。報復攻撃の可能性をゼロにすることができないとすると、たとえば、米ロ間では遅かれ早かれ全面的な核戦争となるだろう。こうして、全世界は壊滅する。文明が消滅してしまうのだ。

こんな馬鹿げたことが起こってもいいのか?私にはとてもそうは思えない。

皆さんはどうお思いだろうか?

そうした意味からも、本日のブログで引用したジェフリー・デイビッド・サックス教授の記事は本質的に非常に重要であると思う。



参照:

1: Our Misguided ‘Wars of Choice': By Jeffrey D. Sachs, Information Clearing House, Apr/19/2017

2: Why the West is so Worried of Phantom Russian Sub Patrols in the Atlantic: By Sputnik News, Jun/11/2016




 

2 件のコメント:

  1. 今回も興味深い記事のご紹介を有難うございます。

    米国は色々な国に難癖をつけて軍事介入してきましたが、中国とロシアはもちろん、北朝鮮のような核兵器保有国相手にも さすがに躊躇せざるを得ないようです。

    クリントン政権、ブッシュ政権の時に 第二次朝鮮戦争が起こった時の被害を米国で試算したところ、100万人以上の韓国人と10万人以上のアメリカ人が死亡するとの結果になり、当時の韓国大統領の大反対もあって断念したと聞きました。

    その代わりに、対話と経済協力で解決しようということで、北朝鮮には 核開発をやめさせる約束を取り付け、見返りに 軍事用には転用しにくい軽水炉を提供する ということで、日本政府は10億ドルを拠出させられたわけですが、その後も北朝鮮は核実験やミサイル開発は止めていない、むしろ今の金正恩体制になってから、加速しているわけです。

    国家間の紛争や領土の争いを 武力ではなく、平和的に 話し合いで解決できれば、それが一番良いのでしょうが、それが過去に失敗しているのが北朝鮮の例であって、話し合いだけで解決に導くのは 本当に難しいですよね・・・。

    いずれにしても、軍産複合体やグローバル金融資本家たちは 危機をあおればあおるほど、儲けるわけで、危機をあおることで 同盟国には高額な武器を買わせて、敵味方の両方に資金も融通し、核保有国相手には 最終的には ギリギリのところで武力衝突を回避した という状況を わざと繰り返しているのかな、とも思えてきます。
    うがった見方なのかもしれませんが・・・。

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  2. Kumiさま、

    コメントを有難うございます。

    「軍産複合体やグローバル金融資本家たちは危機をあおればあおるほど、儲けるわけで、危機をあおることで同盟国には高額な武器を買わせて・・・」はまったくその通りですよね。

    世界は米国の軍産複合体の思惑に操られています。

    ヨーロッパではロシアに対する恐怖感を煽ることによってNATO軍をバルト諸国やポーランドとロシアとの国境沿いに配備することにまんまと成功しています。そうすることによってドイツを始めとしてNATO加盟国に軍事費を増額させようとしています。その結果、儲かるのは米国の軍産複合体。

    また、ルーマニアへ設置されたイージス型対空仰撃ミサイルシステムは来年はポーランドにも設置される予定です。これらはイランからのミサイルに対抗するものだと米国は説明をしています。しかし、実際には、ロシアに対抗するものであると多くの専門家は見ています。

    イラクやシリアならびにイエメンでの紛争を巡っては、米国の武器が大量にサウジやカタールといった湾岸産油国によって調達されています。米国の軍需メーカーや雇い兵を請け負う警備保障会社は多忙を極めているのではないでしょうか。

    アジアでは、米国はすでに韓国へのTHAADシステムの売り込みに成功しています。そして、今回は北朝鮮に軍事的な圧力をかけています。「北朝鮮としては核装備だけが対米抑止力であることを再確認し、既定路線を堅持することになりそう。金正恩は核実験を行い、ICBMの開発を続ける。こうして、日本には大きな恐怖感を起こさせる。その結果、日本の世論は韓国と同様THAADミサイルの導入に賛成する・・・」という軍産複合体の筋書きが読み取れます。事実、米国と日本の外務・防衛閣僚協議が4月下旬に開かれ、そこでは北朝鮮の脅威に対してTHAADシステムの導入が協議されるということが報道されていました。さて、協議の結果はどうなったのでしょうか?

    北朝鮮の核装備については、米国がその気になれば何時でも潰すことが出来るのではないかと思います。通常兵器での戦いでは、仰るように、韓国軍や駐韓米軍に膨大な損害が生じるようですね。しかしながら、空母や潜水艦を含めた米軍の軍事力はダントツの違いではないかと思います。軍事的にはそれだけの能力を持っていると思います。米国は最近シリアでクルーズミサイルを使ってシリアの空軍基地を攻撃しましたが、北朝鮮でもクルーズミサイル攻撃を行うことは簡単にできるのではないかと思います。

    地政学的にはTHAADシステムは韓国への設置にしても、日本への設置にしても、本当の狙いは北朝鮮ではなくて、中国やロシアを意識したものではないかという専門家の見方が出ています。これが真の目的であるとすれば、北朝鮮に対する攻撃は短期間の内に終了することはないように思えます。THAADが実際に設置されるまでにはまだまだ時間がかかります。

    「軍産複合体にとっては平和は最大の敵」という皮肉な世界にわれわれは今住んでいることになりますよね。

    一般庶民のひとりとしては、イラクやシリア、イエメンならびにウクライナでの紛争を終わらせて、平和な日々を一日でも早く実現して欲しいものです。何百万人もの難民が故郷へ戻れ日を待っています。北朝鮮を起点として米中や米ロ間の核戦争に発展しないように願わずには居られません。文明の消滅は何としてでも回避しなければなりません。このこと以上にもっと重要な政治的目標なんてあり得るでしょうか?

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