9月19日の報道によると、「もしも北朝鮮が核実験やミサイル発射実験を継続するならば、北朝鮮を完全に破壊するぞ」と、トランプ米大統領が脅しの言葉を放った。
これを受けて、北朝鮮は速やかに反論した。北朝鮮の李容浩(リヨンホ)外相は、9月21日、トランプ大統領を酷評。「こんな諺があるんだが・・・ たとえ犬が吠えても、パレードは続く。もしもトランプが犬の吠え声でわれわれを驚かそうと考えているならば、明らかに彼は夢を見ている。」
北朝鮮と米国との間でこうした辛辣な言葉の応酬が続く中、9月20日付けの「田中宇の国際ニュース解説」は「プーチンが北朝鮮を解決する」と題して、鋭い現状分析を提供している。プーチンの提案は北朝鮮をめぐる経済協力の実現を目指すものである。経済協力を活発にすることによって、北朝鮮を国際社会に復帰させ、北東アジア地域の安定と平和を実現しようという試みだ。
たとえば、その1節を引用すると次のような具合だ(斜体で示す)。
日本がトランプ政権の過激な策に同調している限り、日本上空を北のミサイルが通過する事態は止まらない。だが、プーチン案がうまくいくなら、日本にミサイルが飛んでこなくなる。日本の安全保障を考えると、トランプでなくプーチンに従うしかない。プーチンが新提案を発したウラジオの東方経済フォーラムには、日本から安倍首相と河野外相らが出席し、露中と協調して北問題を解決したいと、プーチン案を支持する方向の宣言を発している。
私が特に面白いなあと思うのは、「日本のメディアがまったく報じようとはしなかった」情報を記述している点だ。
さらには、「田中宇の国際ニュース解説」は次のように述べている。
今後もしプーチン案が成功すると、北の問題は米国無視・米国抜きのかたちで解決され、日本の安全が、米国でなくプーチン(露中)によって守られることになる。日本は対米従属一本槍から、中露や韓国・北朝鮮との関係強化へと動いていく。この転換を主導するのは政治家(安倍、自民党、国会)であり、官僚でない。
われわれ素人にとってはここまで一足跳びの判断をすることはとても出来ない。ここでは、日本の政治の中枢が今何を考えているのかを僅かながらでも学んでみたいと思う。ということで、日本の安倍首相と河野外相がロシアのウラジオストックの東方経済フォーラムでプーチンと何を喋ったのかを確認しておこう。
田中宇氏が引用しているぺぺ・エスコバーの記事
[注1] を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
Photo-1: 2017年9月4日に中国の福建省厦門市で開催されたBRICSサミットの晩餐会の前、習主席夫妻がロシアのウラジミール・プーチン大統領を歓迎。Photo:
AFP / Fred Dufour
モスクワ政府はユーラシア経済圏を東方に拡大することに役立ってくれる合意を確立することに注力して来た。問題はどうやって北朝鮮を説得するかである。
北朝鮮に対して課された新たな経済制裁は国連安保理で15対0の票を確保したが、これは、ある意味で、BRICSグループの中核的な存在である「中ロ」両政府の戦略的提携関係によって演じられている重要な役割を正しく認識することを難しくしている。
新経済制裁は実に厳しい内容である。たとえば、北朝鮮に対する原油や精製製品の輸出を30パーセント削減、天然ガス輸出の禁止、北朝鮮からの繊維製品輸出(過去3年間の実績を見ると平均で年間7億6千万ドルを売り上ている)の禁止、北朝鮮労働者に対する新規労働ビザの発給を停止(現時点で9万人以上が国外で働いている)、等。
しかし、先週リークされた安保理の原稿によると、この決議案はドナルド・トランプ米大統領が目標としていたものからは程遠い。金正恩の資産を凍結し、彼の旅行を禁止し、対イラク経済制裁のスタイルで大量破壊兵器に関連する項目さえをも含めていた。さらには、国連加盟国が公海上の北朝鮮船舶を臨検する権限を認め、原油の全面的禁輸も含まれていた。
「中ロ」両国はこれらの条件を推進しようとする決議は拒否することを明らかにした。ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは存在感が希薄になりつつあるレックス・ティラーソン米国務長官に対して「平和的に解決するために、ロシアは政治的、かつ、外交的な手法を模索する文言のみに同意する用意がある」ことを伝えた。原油の禁輸に関しては、ウラジミール・プーチン大統領は「北朝鮮に対する原油供給を停止すると、これは病院にいる患者やその他の一般市民を苦しることになる」と述べた。
Photo-2: セルゲイ・ラブロフ・ロシア外相。Photo: Reuters
「中ロ」の優先課題は明白である。それは平壌政府を「安定化」し、政権交代を強要せず、地政学的なチェス盤上での過激な変更を追求せず、大規模な難民危機を引き起こさないことである。
これらは中国が平壌に対して圧力を掛けることを回避するということではない。北東部国境地帯に位置する延吉市にある中国銀行、中国建設銀行および中国農業銀行の各支店は北朝鮮の市民が新たに口座を開くことを禁止した。現行の銀行口座が凍結された訳ではないが、預金や送金の業務が中断されている。
この問題の中核部分に迫ろうとするならば、先週のウラジオストックでの東方経済フォーラムで何が起こったのかを吟味する必要がある。ところで、本フォーラムの開催場所は北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)ミサイル実験場から300キロ程離れているだけだ。
すべては朝鮮半島を縦断する鉄道の話である:
トランプ政府やワシントンの環状道路一帯に住む連中の好戦的な文言とはまったく対照的に、「中ロ」両国のプロセスは、本質的には、ロシアの外交官が確認しているように、中立的な場所で開催する「5+1方式」(北朝鮮、中国、ロシア、日本、韓国、プラス米国)による会談である。ウラジオストックにおいては、軍事的なヒステリック状態を鎮めるために、プーチンが出て来て、経済制裁のさらに先へ足を踏み出すと、それは「墓場への勧誘」となりかねないと述べて、警告を発した。それに代わって、彼は商取引を提案したのである。
西側の企業メディアはほとんど報じなかったが、ウラジオストックで起こったことは実に画期的である。モスクワと北京は平壌を加えた三者から成る貿易構造を構築し、朝鮮半島全体とロシア極東との間の連結性に究極的な投資を行うことに合意したのである。
極めて重要なことには、文在寅はこの三者協力はロシア極東における合弁プロジェクトに的を絞るであろうと付け加えた。「この地域における開発はわれわれ二カ国の繁栄を促進し、北朝鮮を変化させる手助けとなり、三者合意を実現するための基盤を作り出すであろう」ことが彼には良く分かっているのである。
Photo-3: ロシアのウラジミール・プーチン大統領と韓国の文在寅大統領がウラジオストックのルースキー島における極東街頭エキシビションを訪問。Photo: Sputnik / Mikhail
Klimentyev
この協定に加えて、日本の河野太郎外相と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は「中ロ」という文言を用いてこの「戦略的協力」をさらに強調した。
地政学的な経済学は地政学的な政治学を補完してくれる。モスクワ政府は二国間に架け橋を構築するという考えを抱いて東京にも接近した。これは日本を物理的にユーラシアと連結することになる - そして、これは「新シルクロード」、あるいは、「一帯一路」構想とか「ユーラシア経済連合」とも呼ばれる通商と投資のための膨大な回転木馬に連結するものだ。また、これは朝鮮半島縦断鉄道をシベリア横断鉄道と連結するという計画を補完することにもなる。
ソウルは韓国と膨大なユーラシアとを結ぶ鉄道網を望んでいる。これは世界でも第5位の大きさの輸出規模を誇る韓国経済にとっては完璧なビジネス的意味合いを持っている。北朝鮮の孤立によって余計な負担を背負わされている韓国は、陸続きにありながらも、事実上ユーラシアからは分断されている。これを解決する答は朝鮮半島縦断鉄道である。
モスクワはこの計画に多いに乗り気で、プーチンはこう言った。 「われわれはロシアの天然ガスを朝鮮半島に供給し、ロシアの電力網と鉄道網を韓国と北朝鮮の電力網や鉄道網と連結することができる。これらの構想を実現することは経済的に大きな利益をもたらすだけではなく、朝鮮半島に信頼と安定を築くことにも役立つだろう。」
「われわれは(ロシアや韓国との)三者強力に反対ではないが、これを実現するには当面適切な状況ではない。」
モスクワの戦略は、北京の戦略のように、連結性である。つまり、平壌を仲間に引き入れる唯一の方法は朝鮮半島縦断鉄道とシベリア横断鉄道とを連結し、パイプラインを施設し、北朝鮮における港湾開発に関与し続けることである。
ウラジオストックへやって来た北朝鮮からの代表団はこの構想に賛成のようだ。しかし、当面は踏み出せそうにはない。北朝鮮の対外経済関係担当の金英宰(キム・ヨンジェ)大臣によると、「われわれは(ロシアや韓国との)三者強力に反対ではないが、これを実現するには当面適切な状況ではない」と言う。つまり、北朝鮮にとっては5+1形式の交渉が最優先であることを物語っている。
依然として、重要な点はソウルと平壌の両政府がウラジオストックへ出かけ、モスクワ政府と話をしたことだ。中心的な課題は朝鮮戦争を終結してはいない停戦協定にあるという点はほぼ間違いなく、このことについてプーチンと韓国ならびに北朝鮮によって話を切り出さなければならなかったことだ。しかも、米国を抜きにしてだ。
経済制裁が衰退し流れる一方、「中ロ」両国のより大きな戦略は明白である - それはユーラシアの連結性の推進である。問題は如何にして北朝鮮をその気にさせるかである。
<引用終了>
これで全文の仮訳が終了した。
この記事を読んで、田中宇氏が言わんとしていることがより正確に理解できるようになって来たように思う。
「西側の企業メディアはほとんど報じなかったが、ウラジオストックで起こったことは実に画期的である。モスクワと北京は平壌を加えた三者から成る貿易構造を構築し、朝鮮半島全体とロシア極東との間の連結性に究極的な投資を行うことに合意したのである」というぺぺ・エスコバーの報告は圧巻である。
米国は好戦的な発言を繰り返して、「北朝鮮を徹底的に破壊するぞ」と脅しをかけているが、武力の行使に反対する「中ロ」の提案は素人のわれわれが見てさえも政治的には遥かに素晴らしい内容である。常識を満たしてくれ、きわめて全うである。この状況はまるで腕白な子供同士の喧嘩と教養のある大人同士の話し合いとを比較しながら見ているような感じである。
9月24日のスプートニクの報道
[注2] によると、米国防省は北朝鮮がグアムを越して弾道ミサイルを発射した場合は迎撃すると言って、米市民を安心させようとしているが、「米国のミサイル防衛システムは北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃することはできない」と米国のミサイル防衛の専門家が指摘している。この専門家の話では、「目下、米国は飛行中にある北朝鮮の火星14号弾道ミサイルを迎撃することができる確率は50-50である。しかしながら、このような確立は北朝鮮が妨害電波発射装置やチャフ、囮(バルーンのような非常に簡単なものも含めて)といった策を講じてはいない場合での数値である。
つまり、米国が実戦で迎撃に成功する確率はどんどん低下するということだ。ここで言う米国のミサイル防衛システムとは日本でもわれわれが良く耳にするパトリオット、THAAD、イージス・システムによる3段階の防衛システムを指している。
要するに、北朝鮮との軍事的対決の方向に進み続ける限り、米国や日本および韓国は米国製のミサイル防衛システムでは対応が不十分であって、北朝鮮の核攻撃に曝されるリスクが高まるのだ。これは非常に基本的なことであるのだが、マスメディアは真面目に取り上げようとはしない。
北朝鮮の弾道ミサイルの能力が高まり、核兵器の開発が進むにつれて、米国とその同盟国(日本や韓国)にとっては北朝鮮との武力対決そのものを回避することが増々重要になってくる。
広島・長崎に続いて二回目の核攻撃に曝されることは何としてでも避けなければならない。日本のそのような戦略的選択肢を考える場合、上記にご紹介した田中宇氏の見方は非常に重要であると思う。
しかしながら、政治の現状を見ると、「北朝鮮の攻撃から日本国民を守るとか、日米同盟強化の重要性を訴える」と日本政府は言う。政府の姿勢そのものに自己矛盾が生じ、国民を守るという政治の究極目的からは大きく逸脱してしまう可能性が高まっているということだ。
読者の皆さんはどうお思いであろうか?
上述の情報が信頼に値するのかどうかという議論も、多分、出て来ることだろう。懐疑心を抱くこと自体には大賛成だ。しかしながら、そういった懐疑心は政府の発表についても公平に適用して欲しいし、その内容をより正確に吟味する態度が必要であると私は思う。たとえば、上記にご紹介した米国防省の発表とミサイル防衛システムの専門家の意見には非常に大きな違いがある。違いがあるというだけではなく、違いが大き過ぎる。ミサイル防衛システムの性能や有効性は、私のような素人にさえも、試射を理想的な条件下で実施し、成功することを念頭に置いて行った結果でしかないことが分かっている。その程度の代物だ。少なくとも、そのことをはっきりと記憶に留めておきたい。
参照:
注1: The
Russia-China plan for North Korea stability, connectivity: By Pepe Escobar, ASIA TIMES, Sep/13/2017, www.atimes.com/.../russia-china-plan-north-korea-stability-co..
注2:US Cannot Shoot Down DPRK Missiles, Global Defense
Experts: By Sputnik, Sep/24/2017, https://sptnkne.ws/f5GF
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