米国主導の下に親EUウクライナ政権が発足して4年になろうとしている。しかしながら、このウクライナ政府は内戦から和平に向かう具体的な動きをとらなかった。キエフ政府は東部のドネツクおよびルガンスク両州が中央政府に帰属することを求めている。それに対して、両州は最低でも自治権を許容する連邦制を主張し、可能な限りのウクライナ政府からの独立を模索している。
12月12日、米国ではトランプ大統領がウクライナに対する3億5千万ドル相当の殺傷兵器の提供を含む2018年度国防授権法(NDAA)に署名をした。その翌日、カナダ政府は国内の企業がウクライナへ兵器を売却することを容認した。両国の動きはウクライナを巡る米ロ間の折衝が上手く進んではいないことを示すものだ(以上は「US,
Canada to supply lethal weapons to Ukraine: By Mihai Turcanu, European Security
Journal, Dec/14/2017」から引用)。
両国の姿勢はあくまでも軍産複合体が喜ぶような軍需品の調達を促進しようとするものだ。武器の売却による短期的な利益を目指したものであると言わざるを得ない。軍産複合体が関心を示す地域(アフガニスタン、イラク、シリア、イエメン、北朝鮮、等)においては、市民の安全や生活の向上は二の次なのである。
そして、キエフ政府は米国とカナダの対応を歓迎している。ここでも、一般市民の安全や福祉の向上は優先的な関心事項ではないかのような振る舞いである。
そうした政治的思考がまん延するウクライナの現状を伝える記事 [注1] が最近登場した。12月20日の報道である。
この記事は医療サービスに関して首都のキエフと中央政府からの独立を志向し、政府側と内戦状態にある東部のルガンスク州とを比べている。約4年前までは同一のウクライナ国家に属し、互いに同レベルの医療を享受していた訳ではあるが、今までの内戦の結果、両地域の医療サービスには驚くほどの違いが現れている。
日本もかって敗戦という極限状態を通過せざるを得ない経験をしたが、ひとたび政治が間違うと、一般市民は悲惨な結末に見舞われるのが常である。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>
これはふたつのウクライナの話である。しかし、クーデターの前後を比較して、疲れ果ててしまった典型的な姿を描写しようとするものではない。これは、2017年12月の今日、ふたつのウクライナがどのような状況にあるかのを横並べにして、観察してみようとするものである。このような形で眺めることによって、どちらのウクライナがテロリストであるのか、そして、ウクライナ市民の生活のためにはどちらのウクライナが安全で、好ましいものであるのかを皆さんご自身が決断しなければならない。
米国やヨーロッパ、ロシア、ならびに、それ以外の世界の各国にとってはどちらのウクライナが立派なパートナーであるのかについて私はをあなた方の考えを学びたい。果たしてどちらのウクライナがあなたの隣人になり、バーベキュー・パーテイーにやって来て欲しいとあなたは思うのだろうか。
どんな話であったとしても、話の根底には何らかの事実が存在しているのが普通だ。そうだろう?ところが、たくさんの事実がありながらも、あんた方や世間の一般市民は時には厳しい現実を無視して、この世の機能不全の怪物らとお近づきになろうとする。彼らに寄り添うだけではなく、彼らにもたれかかって、熱烈なキスをしようとさえする。さて、ここで、われらがウクライナを眺めてみようではないか。
ひとつのウクライナはキエフが中心だ。第二次世界大戦以降外国から攻められたことはない。IMFから何百億ドルもの融資や国際的な支援を受けながらも、浪費して来た。さらに核心に迫るとすれば、それらの何百億ドルもの支援は盗まれてしまって、返済が実行されることはない。この金が構造改革や経済再建に使われることはない。
これらの融資が目的としていた改革を開始する代わりに、ウクライナのポロシェンコ大統領は恒常的に、しかも、執拗に自国の市民の生活水準を低下させてきた。今日、このウクライナは破綻国家であるソマリアでさえもが見下げるような国家に成り下がってしまった。
ウクライナはある医療の分野では世界でも指導的な地位を築いていたものであるが、自国の医療サービスを低下させ、今や、第三世界の国々に匹敵する程に後退した。
もっと大きな驚きは、ウクライナの厚生大臣
[訳注:ウィキペデイアで見る限りでは、「厚生大臣」ではなく、「厚生大臣代行」である] を務めるウクライナ系米国人のウラナ・スプルンの監視下で、彼女はウクライナが臓器の売買を法的に認めるよう推進したことである。非合法的な臓器の売買では世界をリードして来たウクライナは今や臓器売買を合法化し、ウクライナ政府は何の承諾も得ずにあなたの家族の臓器を摘出することができる。
医療行政における改革に関するスプルンの考え方は、生命に関わるような状況においてさえも治療を施さないことによって、心臓病患者に対する医療を破壊しつつある。キエフの心臓病研究所を率いるボリス・トドウロフや心臓外科医はスプルンの怠慢を非難して、何千人もの患者に死をもたらしたと言った。「あなたの怠慢が最近の内戦によって失われたウクライナ人の数よりも多くの命を奪ってしまったと私は責任を持って宣言する(そして、裁判所においてもそう繰り返して主張したい)」とトドウロフは述べている。
これと同様に、スプルンはウクライナの癌治療をも破壊した。彼女は癌や心臓病の治療に必要な医療品の調達を組織的に拒否することによって癌治療も破壊したのである。
子供たちに素晴らしい人生をスタートさせるという彼女の考えは何と子供たちが病気に罹らないために通常享受する筈のワクチンを調達しないという点にあった。いったいどの程度の話なのかとあなた方はここで質問したいところであろう。記録によると、2007年には96パーセントの子供たちがワクチンを接種していたが、2017年にはその数は20パーセントに低下した。
米国市民であり活動家でもあるウラナ・スプルンがウクライナで犯している犯罪がどの程度のものであるのかを理解するには、2014年の2月までに遡らなければならない。ウクライナは米国によって友好的な国家であると見られていた。ウラナ・スプルンは、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を追い出すことに加担したことによって、中立法に違反した。この法律によって米国の市民が最後に起訴されたのは2016年のことである。訴追された者は25年の刑を喰らう。どうして彼女は起訴されないのであろうか?
下記のような死の哲学がウクライナへ持ち込まれている。これはいったい何を意味するのか?
アレクサンドル・チェルノフをご紹介しよう。オブザーバー紙は彼をウクライナのメンゲレと呼んだ。 西側諸国の医師の誰もがヒポクラテスの誓いに同意するように、ウクライナでもそうしていた。しかしながら、ウクライナの新しい国家主義的指導者がウクライナ社会に与えた歪は甚大で、かっては患者に害を与えないことを誓っていた医師が、今や、指導者らが敵と見なす市民に害を与え、身体障碍者に変え、殺害するまでになったのである。
チェルノフによると、「自分の身の安全を確かめた上で、一番優先順位が高い自分の使命は医療によって敵側の市民や敵兵に害を与えることだ」と言う。
私の捉え方があたたかもナチズムがウクライナへ舞い戻って来たかのように聞こえるかも知れない。そうだとすれば、現実にその通りであるからだ。今日のウクライナの指導者らの親たちはほとんどがナチの兵士や将校であった。彼らはヒトラーのために戦い、第二次世界大戦後、国内で3万人ものウクライナの民間人を殺害した。
第二次世界大戦後、ソビエト政府にとってはOUNbやUPA (大戦中のナチ組織)を根絶するのに5年も要した。ウラナ・スプルンに聞いてみたまえ。彼女の父親はナチの兵士だった。彼女がウクライナへやって来る前、彼女は「ウクライナ世界会議」(UWC: Ukrainian World Congress)に奉仕していた。 この組織は強制収容所で働き、亡くなったナチの武装親衛隊を今でも賞賛し、彼らの子供たちに第二次世界大戦で大量虐殺を行った彼らの行動を見習うように教えている。
もうひとつのウクライナはドンバス地域にあって、内戦の危機にありながらも、軍事的攻撃が続く中で市民の生活水準を引き上げようとして来た。
1991年に旧ソ連邦が崩壊するまでは、ウクライナはソ連では最高水準のいくつかの病院を自慢していたものである。これらの病院は肺の治療や癌治療の分野では世界でも最高水準の研究や教育、治療を行っていた。
2014年5月に実施されたウクライナ政府に対する連邦化の要求に関する住民投票の結果、ドンバス地域のふたつの州、ルガンスク州とドネツク州はキエフのウクライナ政府から独立することを宣言した。
ウクライナの国家主義的な有志(ネオナチ、国家主義者、ナチ)らがこれらの州を攻撃した。この武力攻撃(休戦の取り決めがあったにもかかわらず、中断することもなく4年も続いている)の結果、両州は「ルガンスク人民共和国」(LNR)ならびに「ドネツク人民共和国」(DNR)と称する共和国を形成した。
LNRにおいては、2014年以降、銀行業務や他の通常の公的サービスは全地域で中断された。医療分野では、医師や看護婦、外科医、管理事務、救急車の運転士、その他の医療サービス関係者は長い間無給で働いた。これらの専従者たちは病院を稼働させ、患者の治療を継続した。
2014年の最悪の戦闘が行われていた頃、病院の救急車の担当職員は前線へ出かけ、負傷した兵士だけではなく、今ではキエフ政府側のトレードマークと化した民間人の犠牲者たちを拾った。そうすることによって彼らが何らかの報酬を受けるという期待は全然なかったにもかかわらずである。
銀行が閉鎖され、キエフ政府は年金の支払いを中止したことから、庶民のほとんどは医薬品を買うことさえも出来なくなってしまった。
ルガンスク人民共和国(LNR)では、入院、治療および外科手術は無料のままである。病院内では医師や看護婦たちは必要な物を蓄え、共有したが、医薬品を新たに入手することはほとんど出来なくなってしまった。
ロシアがLNRやDNRに対して今では良く知られている人道支援の輸送を開始したのはこの頃であった。この救命支援によって、喉から手が出るほど求められていた医療設備や医薬品が両地域に運び込まれた。国際法が存在するにもかかわらず、キエフ政府は心臓病に対する医薬品やインシュリンがこれらの封鎖された地域に届くことを妨害していたのである。
病院側は患者に対しては無料で医薬品を投与する。処方された医薬品がロシアからもたらされている限り、それらは無料である。これだけでも、INRでは無数の命が救われた。ロシアは最先端技術の診断装置さえをも持ち込んで来た。
LNRでは正当な患者とはどういった人たちなのだろうか? キエフのウクライナでは、あなたがもしもドンバスからやって来たとするならば、あなたは差別され、あなたに対する治療は拒否される。
LNRでは、あなたが病院を訪れると、病院は何の請求もせずに、あなたを治療してくれる。
あなたが何処からやって来たのかなんて問題ではないのだ。人々は治療や外科手術(ウクライナでは費用が高すぎて、もはや対応できないのだ)、あるいは、出産のためにウクライナとドンバス地域が接触する境界を横切ってやって来たし、今でもそうしている。2017年8月現在、ウクライナ政府がコントロールする地域からやって来た母親たちが135人の赤ちゃんをルガンスクの病院で出産した。
LNRの外科医は一般の患者を治療するのとまったく同様に搬送されて来たウクライナの兵士さえも治療する。何れの患者に対しても、施す治療には違いはない。ルガンスクの病院では西側の国の病院で受けるであろう治療とまったく同じレベルの治療が外国人に対しても施される。だが、ほとんどの場合、西側で入手可能な資源についても無制限に・・・という訳ではない。
ルガンスク人民共和国は国家が発足して3年目となるが、同共和国は国内に住む市民を殺害しようとする国家主義者らを排除するために戦争を行って来たが、国内では入院費用は国が支払っている。
病気になった人や、負傷した入院患者が治療を受けられるか、そして、その治療に最善を尽くしてくれるかどうかはあなたがどんな社会に住んでいるのかを示してくれる格好の指標である。他にも指標があり得るが、それらについては次の記事で議論をしたいと思う。
あなたはいったいどちらのウクライナを相手にしたいのか、正直に言って貰いたい。市民が支持するのはどちらのウクライナか?あなたはどちらをバーベキュー・パーティーに招待したいか、その答えは、時には、えらく簡単なのだ。
<引用終了>
これで、引用記事の全訳が終わった。
ウクライナの内戦のふたつの当事者がそれぞれの市民に対してどんな政治を行っているのかについては、その具体的な姿がはっきりと見えて来ることは必ずしも多くはない。この引用記事によって医療行政の違いを見せつけられた。一気に目が覚めたような感じがする。
この記事の著者に返事をしておこう。我が家の裏庭で行うバーベキュー・パーティーにはルガンスク人民共和国の人たちをご招待したいと思う。何の躊躇もない。
しかしながら、究極の私の答えはウクライナのどの地域から来た人であっても我が家のバーベキュー・パーティーに招待できるようなウクライナになって欲しいのだ。 一日でも早くそうなって欲しい。
参照:
注1: A Tale of two Ukraines - Health Care
in War-Torn Lugansk and Peaceful Kiev: By GH Eliason, Saker Blog, Dec/20/2017
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