最近の投稿で「米国がかねてから敵視しているイランに対して果たして開戦を決断するのかどうか、今、世界が注視している。米政府は5月12日には決断しなければならない」と書いたばかりである。
米国とイスラエルの関係をさらに見てみよう。
イランはシリアのアサド大統領からの要請に応えて、シリア国内に戦力を配備している。これはロシアがシリア国内に戦力を配備している状況とまったく同じだ。つまり、国際法に準拠した行為である。
しかしながら、イスラエルの目にはイラン軍がシリアに配備されると、イランの最前線はイスラエルにより近づくことになるから、軍事的な不安感が増大する。このような論理から、イスラエルはイランからシリア国内へ派遣された部隊に対して空爆を繰り返して来た。過去においてはイスラエルの攻撃はレバノン国内のヒズボラ武装勢力に武器を供給するためにイランからシリア国内を通過してレバノンへ向かって武器を搬送する車列が主な攻撃目標であった。ところが、最近の空爆はイラン軍が活用しているシリアのインフラを攻撃目標とし始めている。最近のふたつの空爆はシリア領土の奥深くで行われ、シリア軍とイラン軍の兵士を殺害し、負傷させた。(出典: Israeli Defense Minister Asks Russia to Stand Down Syria Air Defenses or They Will Be Attacked Too: By IWB, May/03/2018)
世界の覇者たる地位を自他ともに認める米国のイランに対する姿勢は同盟国であるイスラエルの意向を多分に反映しているものだと言えよう。つまり、米国はイスラエルによってすっかり言いくるめられているということだ。イスラエルにとっては、以前はシリアが緩衝地帯を形成していたのであるが、シリア国内にイラン軍が配備されたことによって今やイランは国境を挟んでイスラエルと対峙する形となった。
特に、イスラエルの影響力を見ると、米国内での選挙における影響力には想像を絶するものがある。反イスラエルを標榜すると、候補者のほとんどは落選の憂き目を見ることになる。これほどに凄まじい内政干渉があるだろうか?結果として、イスラエルを忖度する政治家は後を絶たない。これはロシアが2016年の米大統領選に干渉したとしてフェークニュースが毎日のように流されたロシアゲートとは質的に大きく違う。
イスラエルの対外政策は敵国を分断することにある。そうすることによってその国の軍事力を弱体化させることが狙いだ。イラク戦争が好例である。当初、イスラエルの戦略はイラクを3分割することが目標であった。シリア戦争においてもシリア国内を分断し、アサド政権を弱体化し、打倒しようと試みたが、これには失敗した。
イランではイスラエルは現政権を排除しようとしている。
中東の状況は刻々と変化している。米国とイランとの関係、その背景にあるイスラエルとイランとの関係について現状を読み解く上で大きな助けになりそうな記事に出遭った [注1]。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
<引用開始>
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イスラエルとイランの関係に最近急速に現れて来た中東の危機的状況については、ワシントンの政治評論家や政治家らは予測を述べることで今多忙を極めている。この危機では、もしもこれらの二国間に戦争が勃発した暁には米国はどちら側を支持するのかが論じられ、ロシアが決定的な支援を提供する中で裏口での外交もかなり以前から行われている。これは、米国ではなく、ロシアが当地域における緊張の緩和に如何に大きな影響力を持っているのかを示すものであって、中東の地政学的な風景はもはや米国によって定義される訳ではないことを示唆するものだ。ロシアが緊張を段階的に縮小し得る鍵を握っているとする理由はロシアが両国と強い関係を持っている点にある。ふたつのライバル国家に対して均衡のある付き合いを継続しながら外交的成果を達成することはそれ自体が大きな挑戦となるが、ロシアは過去の数年間目覚ましい成果を挙げて来た。特に、シリア危機が始まった頃以降、イスラエルとの間では戦闘を回避することの合意を結ぶ一方で、イランについてはダマスカス政府がイスラムの急進派によって倒されることがないようにするためにシリアにイラン軍を駐留させることで絶妙な均衡を保ってきた。しかし、イスラエルはイランが原爆を製造しようとしている証拠を握っていると主張し、もしもイランがシリアから攻撃を加えるならばイスラエルは報復すると言っている今、ロシアは果たしてこの地域の熱気をうまく冷ますことができるのであろうか?ロシア外交はこの地域で今まで見たこともないような悲惨で、緊張度が高い戦争の勃発を阻止することに全力を注入しているようだ。
イスラエルはロシアと取引をすることを嫌っている訳ではないこと、そして、シリアにおけるロシア軍の駐留に反対している訳でもないこと、さらには、ロシアの国益に相反することをシリアにおいて追及する特別な興味を持っている訳ではないことをすでに匂わせていた。このことはアヴィグドール・リーバーマン国防大臣が先週の金曜日(4月27日)に米国を訪問した際に確認した。「ここで理解しておく重要な点はロシア人は非常に現実的であるということだ」とリーバーマンが述べている。リーバーマンが中東におけるロシアのイランおよびシリアとの同盟関係について喋っている際にこれらのコメントが表明されたということが重要だ。彼のコメントはロシアの存在には信頼を置いており、ロシアがシリアにおけるイランの活動、例えば、イランが直接または間接的にイスラエルを攻撃することを回避し、管理することができるだろうという点を示している。「結局のところ、彼らは理に適った連中であり、彼らとは合意を結ぶことが可能だ。われわれは彼らの国益が何であるかを理解することができる」と彼は付け加えた。
最近開催されたソチ・コンファレンスにおいてはロシアの外交は積極的であった。この会議ではロシア安全保障委員会の事務局は、イランやイスラエルからの代表を含めて、約40カ国と会合を持った。驚くまでもないが、これらの二つの会合は至る所で大きな見出しとなって報じられることとなった。
ロシア側の高官はロシアがイランとイスラエルとの仲裁役を演ずることはまだ言及してはいない。しかしながら、この種の状況の進展に敏感に反応することは中東におけるロシアの国益の性格そのものを反映したものである。その一方、イランとイスラエルは両国とも同様に攻撃的な衝動を何とか抑えてくれる「バランス役」を必要としていることは否定できない。単純に言って、米国はこの役柄をこなすことはできない。何故ならば、米国はイスラエルがイランを敵視することに反対ではないし、イランとパレスチナに対するイスラエルの「自衛する権利」のすべてを常に支援して来たからである。
イスラエルとイランは国連安保理(UNSC)に段階的な緊張の緩和を求める積りはなさそうだ。シリア政府が化学兵器を使用して自国民を殺害したとされる件ではロシアと米国の両国は頻繁に衝突しているからである。したがって、UNSCはえらく希薄な存在となっており、たとえそのチャンスがあったとしても、仲裁役を演ずる機会は望み薄だ。
こうして、この役割はロシアに回って来る。結果的に、イスラエルはロシアがシリアで軍事的存在を示すことには何の懸念も表明せず、その軍事的存在が拡大することについても異議を挟まなかった。このことはワシントンでリーバーマンが喋った中で彼によって再度確認されてもいる。彼は「シリアにおけるロシアの存在はわれわれのビジネスではない。われわれはわれわれ自身の安全保障上の利益を守るだけだ」と述べている。
これがシリアで7人のイランの軍事顧問を殺害したイスラエル軍の攻撃を憂慮するモスクワの熱を冷まそうとしているイスラエルだ。この攻撃についてはロシアは強く反論し、イスラエルが実際にはシリアにおけるロシアの役割と利益を勘違いしていることを示したのである。何故ならば、もしもイスラエルとの国境付近でシリア国内においてイラン勢力が拡大することに対してイスラエルがモスクワ政府の保証を求めたいならば、モスクワ側には、この地域全体に不安定化の波を引き起こし、テロを撲滅するために行って来たすべての苦労を水の泡にしてしまうような行動(つまり、大規模な爆撃)は決して起こさないという保証をイスラエル側に求めることもなしに、そのような保証を一方的に与える気は毛頭ないのである。
ロシアはイスラエル側の具体的な利益について気配りを示してもいる。このことは退任が近いイスラエル駐在ロシア大使のアレクサンダー・シェインが明確に確認した。彼は「もちろん、われわれはイスラエルとイランの相互関係、つまり、両国が互いに脅かし、互いを拒絶し合っている現状には懸念を抱いている」と述べた。「また、われわれはシリアにおけるイランの圧力も懸念しなければならない。現状を悪化し、中東全域に戦争の勃発をもたらしかねない。」 これはロシアがイランに対して直接・間接的に、つまり、ヒズボラを通じてイランが演じる役割には限度を設けるよう説得を開始するかも知れないことを示している。イランは、イランの外相が最近述べているように、 シリア国内に長期的に軍を維持する意図は抱いてはいないようだ。
イランとイスラエルに関する限りでは、両国がますますロシアを当てにする理由は両国はシリアの現実を将来の見通しの中に置く必要があるからだ。シリアはもはやふたつの強国の間に存在する紛争地帯ではない。この状況においては、小国はふたつの強国のひとつにその軸足を置いて、自国の具体的な利益を確保するために自分のカードを巧みに使うことができるだけとなる。米国の大統領がシリアからの戦力の撤退を模索する中、シリアにはロシアだけが残り、中東で新たな危機の勃発を防ぐことが出来るのはロシアだけとなる。イスラエルとイランの両国は「第一次北部戦争」の勃発を防ぐためには彼ら自身のルールに基づいて動かなければならない。したがって、ロシアは中東の平和の鍵となるのである。
著者のプロフィール: サルマン・ラフィ・シェイクは国際関係およびパキスタンの外交関係や国内政治を分析する「ニュー・イースタン・アウトルック」オンライン・マガジン専属の研究者である。https://journal-neo.org/2018/05/03/russia-can-be-the-key-to-iran-israel-de-escalation/
<引用終了>
これで全文の仮訳が終了した。
今後中東に影響力を発揮するのが米国であろうが、ロシアであろうが、中東が不安定化して新たな危機に突入し、またもや新たな武力紛争の場を作って、何百万人もの市民が故郷から脱出せざるを得ないような事態は決して起こしてはならない。中東の安定化は当事国だけの課題ではない。5億人が住むEU全体の課題でもある。そして、過激派によるテロが横行すると、中国やロシアにとっては国内政治上の大きな脅威ともなり得る。ヨーロッパを襲った難民問題は過去の数年間貴重な教訓を残した筈だ。100年前にまで遡るような地政学的な課題が今でさえも如何に大きな影響を及ぼすかについては誰もが多くのことを学んだ筈だ。
米国は昨日(5月8日)イランとの核合意から脱退することを表明した。英独仏は同合意を維持することをすでに表明していた。米国はヨーロッパ勢に翻意するように圧力をかけることであろうが、ヨーロッパ各国は米国が主導した対ロシア経済制裁では非常に損な役回りを演じるという苦い経験を持っているだけに、今回はそう簡単には米国の言いなりにならないのではないか。
経済制裁は相手国に対して必ずしも実効を挙げるとは限らない。このことを考えると、米国がごり押しする国際政治の不毛さを見る思いがする。要するに、他国に対して経済制裁を課すという行為は米国が描くところの世界に対する覇権体制を可視化するためのひとつの道具でしかない。ガキ大将が自分の強さを周りに誇示する様子を皆に見て貰いたいのだ。政治評論家や主流メディアはこれをグロ―バル化とかネオキャピタリズムといった言葉を用いて外観を装おうとするが、実質は大変なまやかしである。
そして、その過程では米国は頻繁に国際法を無視する。例外主義という都合のいい言葉を使い始めた。
今後は、米国がイランに課す経済制裁の内容がどのようなものとなるのか、イランの報復措置がどんな内容となるのかに注目が集まることだろう。そして、ロシアの外交努力が奏功するのかどうかが最大の関心事となる。イラク戦争と同じことを繰り返してはならない。無辜の市民を再び犠牲にするようなことがあってはならない。ロシアの外交専門家やメディアにはイランを巡る戦争を是非とも回避して貰いたいものだ。
参照:
注1: Russia Can be the Key to Iran-Israel De-escalation: By Salman Rafi Sheikh, NEO, May/03/2018
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