2018年5月4日金曜日

米国にはもはやイランとの全面的な戦争を遂行するだけの資金力はない - 教授が指摘


米国がかねてから敵視しているイランに対して果たして開戦を決断するのかどうか、今、世界が注視している。米政府は512日には決断しなければならない。

さまざまな予測が出回っている。その中で私が一番興味深く感じているのはトランプ流の政治手法だ。

トランプ大統領は北朝鮮に対する政策においては強気一辺倒の姿勢を貫いて、空母を朝鮮半島に派遣した。派手に強硬姿勢を示すことによって、実際には軍事対決を望まないペンタゴンからは「やり過ぎだ、いい加減にしてくれ」という声を引き出した。また、シリアでのミサイル攻撃ではロシア軍との直接対決を回避するという基本姿勢をペンタゴンから引き出した。大きな流れを見ると、これらは田中宇氏が解説する「やり過ぎを推進することによって軍部に失敗させ、それとは別の政治目標を達成する」手法であると思われる。非常に面白い見方である。

戦争が起こって欲しくはないのはもちろんだが、米国によるイランとの対決はどのような展開となるのだろうか?最近はごり押し一辺倒から戦争を回避する意見が米政府内でも出始めている。
ところで、米国にはお国の事情がある。とてつもなく大きく重要な要素である。その辺を解説する記事が見つかった [1]
本日はこの記事を仮訳し、イラン情勢ならびに中東情勢を左右しそうなひとつの要素に関して読者の皆さんと共有したいと思う。

 
<引用開始>


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Photo-1© REUTERS / Mike Segar

世界はトランプ大統領が512日にイラン核合意を延長するのかどうかに関心を寄せている。ラジオ・スプ―トニクとの対談で、米国が新たな譲歩を求めてイランに対して圧力をかけようとしている本当の動機はいったい何かについてテヘラン大学で政治学教授を務めるハメド・ムサビ氏にその概略を語って貰った。
スプ―トニク: ムサビ教授に伺います。例の核合意についてドナルド・トランプが批判している内容はイラン核合意そのもの、あるいは、その合意条件と何らかの関係があるのでしょうか?それとも、何かもっと大きな思惑があるのでしょうか? 
ハメド・ムサビ: 実際には、米国のエリートのほとんどは、諜報部門の専門家や、最近では、CIAの長官を務めており、今や国務長官に指名されているマイク・ポンペオといった人物さえをも含めて、核合意は実のところ米国の国益に適うと認めています。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Photo-2: © AP Photo / Michael Sohn   「議論の問題ではない」: メルケルとマクロンはイラン核合意を維持するようにトランプを説得することができない 
 
そうとは言え、トランプ政権が行おうとしていることは前政権が達成することに失敗した分野で譲歩を引き出すことにあると思われます。それらの課題のひとつは中東における力の均衡です。イラクやシリアにおいては、最近の出来事は米国ならびにイスラエルやサウジアラビア、等の同盟国が望んでいた状況にはなりませんでした。その結果、基本的には、これらの国々はイランが他の分野で譲歩するように核合意を活用しているのです。その一例がシリアです。

スプートニク: イランのハッサン・ロウハニ大統領はもしもドナルド・トランプが核合意を反故にするならばワシントン政府は厳しい結果に見舞われるだろうと述べています。テヘラン政府はいったいどのような報復をするとお考えですか? 

ハメド・ムサビ: もしもトランプが512日に核合意から離脱すると決断した場合どのような対応を取るべきかに関してはイランはまだ最終決定をしていないと思います。イランの対応には三つのシナリオが在り得ると私は思っています。まずは、米国を抜きにして、ヨーロッパやロシア、中国との間で合意を維持する。二番目はイランが核合意から離脱する。 
三番目はイラン社会のある層ではより人気のあるシナリオですが、NPT(核不拡散条約)からも同時に脱退すること。現時点では、この核合意から離脱しようとする米国を抜きにして考えても、人々は非常に憤慨しています。過去の2年間、現行の合意の下でイランが享受する筈であった経済的な恩恵をイランは受け取ってはいないのです。これはこの合意を常に潰そうとして来たトランプ政権のせいです。これらの脅かしの結果、この合意から離脱する米国は別にして、ヨーロッパや他の国々のビジネスマンの多くはイランに対する投資を非常に心配しています。結局、イランは当然享受する筈であった経済的な恩恵を手にすることができないでいます。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Photo-3: © Photo: an official website of the Iranian Presidency office 
国家的な「核の日」を記念する201849日のテヘランでの祝賀行事にて新たな核に関する達成について説明を受けるハッサン・ロウハニ大統領 


スプートニク: ムサビ教授、この合意の締約国である他の国々はトランプ大統領が合意を維持するように呼びかけています。それだけでなく、国際原子力機関(IAEA)はテヘランは合意内容に準拠して来たと言っています。それにもかかわらず、トランプ大統領はどうしてこの合意に反対するのでしょうか? 
ハメド・ムサビ: ご存知のようにJCPOAの合意の下では、イランの順守に関してその詳細を監視できる当事者はIAEAだけです。過去2年間IAEA9本の報告書を発行しました。どの報告書もイランは核合意の下で求められた義務を履行していることを認めています。つまり、その点については何らの問題も無いのです。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

しかしながら、トランプ政権にとってはこの合意には気に食わない点がふたつあると思います。最初の点はこの合意は前政権、つまり、オバマ政権によって成立されたものであって、トランプとしては基本的にオバマが行ったことは何でも元へ戻したいのです。この方針は米国の国内政策においては彼自身には政治的に都合がいいのです。彼の支持者はこの種の政策を喜ぶことでしょう。 
 
二番目は、上述のように、イランの地域政策やミサイル開発プログラムといった他の領域においてイランから何らかの譲歩を引き出すことです。 

中東では核大国はイスラエルだけであるということを常に理解していなければなりません。同国は200個以上もの核兵器を所有しています。その一方で、イスラエルはフリーパスを手に入れ、核兵器の開発さえもが可能です。イスラエルはNPTの参加国ではありません。ほかには、トランプ政権はイランに対して通常兵器によるミサイル防衛さえをも諦めるように求めています。基本的に言って、イラン側にとっては交渉に応じる余地はありません。米政府によるこれらの新たな要求をイランが受け入れるとは私には思えません。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Photo-5: © AP Photo / IRIB News Agency, Morteza Fakhrinejad   国営のIRIBニュース社が2017619日に配信したこの写真にはイラン西部のケルマンシャーからシリア国内のイスラム国武装勢力に向けて発射されたミサイルが示されている。

スプートニク: もしもドナルド・トランプがこの核合意を破棄すると決断したならば、他の締約国はどのように反応するでしょうか?
 
ハメド・ムサビ: これは彼が合意からどのような形で離脱するかによって左右されます。米国はイランに対してニ種類の経済制裁を課しているからです。まず最初の経済制裁ではイランとビジネスを行う米企業を罰することが目的です。二番目の経済制裁はイランとのビジネスを行う国家はどの国であっても罰せられます。ヨーロッパ、ロシアあるいは中国の企業であっても米政府が課す罰を受けることになります。 
もしもドナルド・トランプが512日に核合意から離脱すると決断すれば、いわゆる軟着陸を目指す可能性がありそうです。このシナリオでは同大統領は特定の国々を経済制裁からは除外するでしょう。たとえば、彼は「ドイツとフランスはこの二番目の経済制裁からは除外する」と言うかも知れません。これが何を意味するかと言えば、これらのヨーロッパ諸国にはイランとのビジネスを許すことになります。
ところで、もしもこれらの国々が除外されないならば、たとえ彼らが合意を維持したいとしても、この合意を継続することは非常に難しくなります。彼らはトランプ政権が合意を破棄したことを非難することでしょうが、基本的にこの合意は失効します。何故ならば、米国がイランとのビジネスを行った企業を罰し、経済制裁を課すと宣言すれば、イランにとってはヨーロッパ諸国やロシアおよび中国との取引を継続することが不可能となるからです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



Photo-6: © REUTERS / Joshua Roberts   2018424日、ワシントンのホワイトハウスにて到着の歓迎式典に臨むドナルド・トランプ米大統領とエマヌエル・マクロン仏大統領


スプートニク: 米議会で行った演説で仏大統領はイランとの合意はすべての課題を網羅するものではないかも知れないが、これに代わるものとしてより実質的な合意も無しにイランとの合意を破棄するべきではないと訴えました。しかし、彼はイランが核兵器を所有すると国際社会を危険に晒すので、イランは核兵器を所有するべきではないと付け加えています。ここで質問したいことは、国際社会はイランが核開発プログラムを持つことにどうしてこんなに反対するのでしょうか?米国だけでも6,800個以上の核弾頭を所有しており、核能力をさらに強化する予定です。パキスタンやインドは核兵器を所有していますが、NPTの締約国ではありません。ムサビ教授、仮定の上に立って喧伝されているイランの核開発プログラムは国際社会にとって本当に脅威となるのでしょうか?
ハメド・ムサビ: 問題はこの点にあるのです。つまり、現行の核合意の下ではイランは核兵器の開発は決してしないと義務付けられています。それが合意文書の文言です。しかも米政府によりますと、米国は実際にはイランの原爆を追及することになるとは思ってはいないのです。 
 
 
 
 
 
 
 
一例を挙げてみます。2-3週間前のことでした。マイク・ポンペオは上院外交委員会における確認の段階でイランの核兵器プログラムについて質問を受けました。彼はイランは実際にはJCPOAの前にも後にも核兵器を開発しようとしたことはないと陳述したのです。これがマイク・ポンペオの口から出たのです。しかも、彼は好戦派ですよ。彼さえもが問題は核兵器プログラムではないことを認めているのです。狙いはエネルギー開発を目指す民間プログラムです。 

れでもなお、米国はこれらの言い訳を駆使するだろうと私は思っています。これはイランに圧力を加えて、中東での力の均衡を元へ引き戻すためです。

中東では米国は過去の10年間後退に次ぐ後退をしてきたことを理解しておかなければなりません。イラク戦争は米国にとっては悲惨なものでした。兵力のほとんどを撤退しなければなりませんでした。アフガニスタンでの戦争は17年が経過した今でも好ましい状況にはありません。シリアにおける力の均衡は完全に変化してしまいました。一回や二回の空爆がその状況を変えることはないでしょう。つまり、本質的に言えば、中東にける力の均衡を変えようとしてまったく別の口実を活用しようとしているのです。イランの核兵器開発とは何の関係もないと私は思います。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Photo-8: © REUTERS / Leah Millis   マイク・ポンペオCIA長官の国務長官への指名に関してそれを承認するかどうかを確認するために開催された米議会上院外交委員会における公聴会の席から同長官が離れるところ。

スプートニク: 最終目標は何でしょうか?シリアですか? 

ハメド・ムサビ: 最終目標は中東における力の均衡を変えて、1990年代のレベルと同等なものに戻すことです。ソ連邦の崩壊後、米国は中東では独り勝ちで自他ともに認める最強国の地位を得ました。しかしながら、2000年代には、イラクやアフガニスタンで米国自身が仕掛けた戦争を始めとして、中東では緊張が非常に高まり、それと同時に米国は財政的にも人命においても悲惨な経験をしたのです。中東で多くの兵士を失いました。 

その最終結果としては、力の均衡は自分たちが望んでいた形からは完全にはみ出してしまい、実際には米国は自分たちの勢力の多くを失なったのです。これがイランのような地域的強国の台頭を促し、この地域の外ではロシアの台頭をもたらしたのです。米国はこれらの事実が好きではないのです。本質的には、彼らは中東において唯一の強国でありたいし、采配を振るっていたいのです。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Photo-9: © AP Photo / Hassan Ammar  トランプ米大統領を非難しながら、シリア、イランおよびロシアの国旗を振るシリア政府の支持者たち。このデモはバシャル・アサド大統領が自国民に対して行ったとされる化学兵器攻撃を罰するために行われた米英仏によるミサイル攻撃に抗議して2018414日、土曜日、シリアのダマスカスで行われた。

スプートニク: 報告によれば、ドナルド・トランプが核合意を破棄すれば、イランは核プログラムを再開するかも知れません。もしもテヘランがそうすると決断した暁にはイランは「大問題」に遭遇するだろうと米国の指導者が脅しをかけていました。われわれは今いったい何を議論しているのでしょうか?テヘランとワシントンとの間には軍事的衝突の危険性があるのでしょうか?
 
ハメド・ムサビ: 2-3ヵ月前のことですが、米国の借金は歴史上初めて20兆ドルを超しました。財政的には米国政府はうまく行ってはいないのです。昨年は6,660億ドルの財政赤字でした。2020年には年間の財政赤字が1兆ドルを超すものと予測されています。つまり、米国は財政的な観点から言えば、全面的な戦争を遂行するための資金を持ってはいないのです。
また、米国の世論は2003年に行われたイラク進攻のような侵略には反対しています。それ故に、政府の非常に攻撃的な論調とは裏腹に、トランプ政権は必ずしも全面的な攻撃を遂行するという姿勢ではないのです。これが理由で、たとえば、シリアではミサイル攻撃が行われましたが、シリア国内の軍事的均衡を変化させ得るものではありませんでした。これはイランについても当てはまると私は思っています。彼らは経済制裁を課すことができますし、外交的な圧力を加えることもできます。しかし、軍事的な観点から見ると、近い将来に何時でもイランを攻撃することが可能だとはとても思えません。

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。
この引用記事はマイク・ポンペオCIA長官が上院外交委員会の公聴会で述べた内容を公表している。非常に興味深い内容だ。米諜報部門のひとつを率いていた人物がイランには核兵器プログラムはないとはっきりと明言しているのである。しかしながら、主流メディアはイスラエルの宣伝に符合した言い回しだけを繰り返している。
日本のわれわれ一般庶民はどれだけの人がこの事実をはっきりと認識していたであろうか。恐らく、ゼロに近いのではないか。少なくとも、私は知らなかった。
512日が迫っている。同盟国であるイスラエルを支援するためにイランとの戦争を喧伝して来たトランプ政権はいったいどのような決断をするのであろうか?
国内の好戦派、つまり、ネオコン勢力に対する国内政策としては形だけでもイランに軍事的なちょっかいを出す可能性はあるだろう。しかしながら、その場合は早期の段階で全面戦争に発展することを回避することが可能なしっかりとした出口作戦が必要となって来るだろう。その時は、またもや、ロシアの影響力に期待するのであろうか?イランにおいて第二のアフガニスタン的な膠着状態を作り出す余裕は米国にはまったく無いのだから。
あるいは、ここで議論されている状況とはまったく別のシナリオが浮上して来るのかも知れない。
トランプ大統領がどこまで世論を大事にするかという点も大きな関心事である。本日(53日)のRTの記事(56 percent of US voters want Trump to keep Iran nuke deal as deadline looms)によれば、最近の調査で有権者の56パーセントはイラン合意を維持したいという。過去最高のレベルだ。それに対して、破棄したいと表明した有権者は26パーセント。今年の中間選挙を控えて、トランプ政権は512日にどう判断するのであろうか?
 

参照:
1US No Longer Has Resources to Start Full-Scale War Against Iran – Prof: Sputnik, Apt/29/2018

 

© REUTERS / Mike Segar
 

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