2019年2月17日日曜日

グリフォサートの致死性を明らかにしたことによりスリランカ人の専門家が著名な科学賞を受賞

殺虫剤のグリフォサートに関しては、私は201462日に「芳ちゃんのブログ」に「モンサントの除草剤と腎疾患との関連性」と題して投稿した。

その内容はスリランカの米栽培農家の間で流行している慢性腎疾患に関する報告であった。たとえば、「典型的なグリフォサートの半減期は47日とされているが、金属イオンとの強固な化合物が生成されると、生分解するのに22年もの期間を要する・・・」といった極めて重要な情報がそこには見られる。つまり、モンサント社が広報のために用いていた情報が実は偽りであったという事実が報告されているのである。かなり詳細な報告であり、興味のある読者にはお勧めである。

ここに「グリフォサートの致死性を明らかにしたことによりスリランカ人の専門家が著名な科学賞を受賞」と題された最近の記事がある(注1)。この記事で報告されている科学賞は米国科学振興協会が科学者として、あるいは、技術者としてさまざまな困難にもひるまず「科学の自由と責任」を実践した人に対して授与するものだ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

産業界が提供する除草剤の致死性を突き止めるために、二人の公衆衛生の研究者が利害関係を有する強力な企業側と闘い、ついに医学上の謎を突き止め、世界中の農業従事者の健康を防護してくれた。これらふたりの科学者は米国科学振興協会(AAAS)から2019年度の「科学の自由と責任」賞を受賞することになった。

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スリランカだけではなく世界各国で何万人もの生命を奪った腎疾患の流行を招いた原因を突き止めるために行った調査研究の過程においては、サラス・グナティラーケ(Sarath Gunatilake)とチャンナ・ジャヤスマーナChanna Jayasumana)の両博士は死の脅迫に曝され、研究作業には不正行為があったとする根も葉もない嫌がらせ、等に直面した。最終的に、彼らが主張する見解は容疑者である「グリフォサート」という除草剤を一般大衆の関心に曝し、影響を被ったいくつもの国々でこの除草剤は販売禁止となった。

ジャヤスマーナ博士とのサステイナブル・パルスによる独占インタビュー
「著しい額の資本を危機に曝し、産業界と個人との間には勢力の不均衡が歴然としている中で悪を正すことは、これら二人の科学者が見せた科学的追及の意欲、職業上の粘り強さ、個人的なリスクの甘受、等の極めてユニークな組み合わせを必要とし、まさにそれらが今年の受賞をもたらしたのだ、とAAASの「科学の責任、人権および法律のプログラム」を率いるジェシカ・ウィンダムは言う。

1994年頃から、スリランカのノースセントラル州で米を栽培する農民らが慢性腎疾患(CKD)を発病した。この病気の流行には特異な側面が観察された。この病気で死亡した農民は比較的若く、糖尿病や高血圧といった通常CKDに伴う症状は見られなかったのである。2011年、同国の保健省はカリフォルニア州立大学ロングビーチ校の医師であり研究者でもあるグナティラーケ博士を招待し、この病気の原因を究明することにした。
当時、ジャヤスマーナ医師はノースセントラル州にあるラジャラタ大学で博士号を取得するためにCKDの流行について研究をしていたが、研究資金に窮していた。彼はグナティラーケ博士の指導の下で客員研究員としてカリフォルニア州立大学ロングビーチ校に加わることになり、尿や飲料水および米のサンプルを持参した。グナティラーケと ジャヤスマーナは「ラウンドアップ」という商品名でモンサント社によって販売されているグリフォサートがヒ素やカドミウム、その他の重金属を汚染された飲料水を飲んだ人たちの腎臓へ輸送し、これがCKDを引き起こしていることを発見した。

2014年、彼らはInternational Journal of Environmental Research and Public Health誌に調査結果を発表した。中米や北アフリカおよび東南アジアでもまったく同様の疾患が流行していたことから、この研究報告は世界中で関心を呼んだ。現時点までにこの論文は23,000回もダウンロードされ、64回も引用されている。

グリフォサートの販売会社や子会社、輸入業者の利潤には大きな痛手となり、これは研究者たちに何の影響も無しに済むわけではなかった。つまり、グナティラーケとジャヤスマーナは死の脅迫を受け、産業界から研究資金を受け取っていた12人の科学者らがグナティラーケの研究に不正行為があったとする苦情を申し立てた。結局、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校の科学的調査パネルがこの苦情を却下したことから、彼の潔癖が証明された。

グナティラーケ博士によって展開された強力な公衆衛生学上のキャンペーンに感謝の意を表して、スリランカ大統領は腎疾患の撲滅に向けて国家プロジェクトを立ち上げ、ジャヤスマーナをその指導者に任命した。2015年、スリランカはグリフォサートの輸入を禁止する最初の国家となった。3年後、スリランカはグリフォサートの輸入禁止を解除したものの、お茶やゴム園では今でも使用厳禁のままである。

過去の23年間、グナティラーケは学際的な国際会議を開催し、グリフォサートの危険性を議論し、犠牲者の家族のために2万ドルを超す募金を集めた。CKDはスリランカで25,000人もの生命を奪い、中米では20,000人が死亡した。 

「スリランカの貧しくて、何の政治力も持たない米の栽培農家のために勇敢にも声を大にして主張したことが、研究活動や農民の擁護、組織化、協力、等を介して今や世界に広がる環境運動として花を開いた」と公衆衛生学の教授であるハナン・オベイディがこの賞を推薦する手紙の中で書いている。

AAASの「科学の自由と責任」賞は1980年に設立された。この賞は挑戦が強いられる環境の下で科学の自由と責任を行使し、著しい成果を挙げた科学者や技術者、あるいは、組織に授与される。この賞が認識する成果には公衆の健康や安全または福祉を防護すること、あるいは、科学的な調査や教育、政策にかかわる重要な課題に公衆の関心をうながすこと、ならびに、科学者が社会的責任を行使し、科学者や技術者の自由を防衛するために新しい手順を開発すること、等が含まれる。本賞は5,000ドルの賞金と記念の盾で構成されている。

受賞者には、2019215日、ワシントンDCで開催される第185AAAS年次総会にて本賞が授与される予定だ。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

グナティラーケとジャヤスマーナ両博士はこの研究の過程で死の脅迫を受けたとのことだ。グリフォサートが「ラウンドアップ」という商品名でモンサント社(昨年の6月、ドイツのバイエル社に買収され、モンサントという企業名は消えた)から販売されていたことを考えると、資金力にものを言わせたさまざまな妨害工作が行われたことであろうと容易に想像される。世界最大の「アグリビジネス・マフィア」がふたりの科学者の相手であった。それだけに、グナティラーケとジャヤスマーナ両博士にとっては、このAAASの「科学の自由と責任」賞の受賞は非常に大きな社会的な意味合いを持っていると言える。2019215日は科学者冥利に尽きる一日であったと思う。




参照:

1Sri Lankan Experts Receive Top Scientific Award for Revealing Lethal Truth about Glyphosate: By Sustainable Pulse, Feb/04/2019








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