米国が2月2日に中距離核戦力全廃(INF)条約を破棄したことを受けて、ロシアも同条約を破棄した。これに先立って、米国の声明によると、ロシアがINF条約を順守しさえすれば、米ロ両国は何時でもこの条約に回帰することが可能だと言っていた。
米国が主張するところによると、ロシアのINF条約の違反はロシア製の9M729型ミサイル(NATOによる呼称はSSC-8)にある。
米国の国家安全保障会議の高官であるクリストファー・フォードは2017年11月29日にウィルソンセンターで行ったスピーチでINF条約に違反するロシア製ミサイルはノヴァター9M729であると初めて公表した。この地上発射型クルーズミサイルは射程距離が500㎞から5,500㎞の範囲内にあると考えられ、その射程距離が12月7日に30歳を迎えるINF条約に違反すると米国側は判断したのである。(原典:Novator 9M729: The Russian Missile that Broke INF Treaty’s Back?:By Dave Majumdar, THE NATIONAL INTEREST, Dec/07/2017)
しかしながら、問題は米国の判断が正しいのかどうかだ。
ロシア外務省はソ連時代に締結された中距離核兵器廃絶条約についてロシアが違反しているとする米国の批判を退けた。「これらの批判は最近モスクワ政府に対して行われている他の批判とまったく同じで、何の根拠もない」とロシア外務省は声明で反論した。「根拠となる証拠は何ら提示されてはいない」と同声明は言う。
2019年1月23日、ロシア国防省は外国の大使館付き武官に対して9M729クルーズミサイル(NATOの呼称はSSC-8)を初めて展示した。この説明会には20か国以上の代表が集まった。しかしながら、「米国、英国、フランスおよびドイツの大使館付き武官は、招待状を受け取っているにもかかわらず、この説明会に姿を見せなかった」とロシア国防省は強調している。(原典:9M729 - SSC-8: By GlobalSecurity.org. 日付は不詳であるが、内容から察するに、発行日は少なくとも2019年1月23日以降)
状況証拠的に言えば、明らかに、米国は自分たちの主張が間違っていたことを認めたくはなく、ロシア側の招待には応じなかったのだ。逆に言うと、米国は自分たちが言っていたことが間違いであったことを自ら認めたに等しい。
しかし、ここでは米ロのどちらの言い分が正しいのかを究明する意図はない。そういった判断をする前に、少なくとも、現状をより客観的に理解しておくことが先決だと思う。
そういう意味では、ここにある「INF条約の破棄 - ロシアの勝ち、米国の負け」と題された最近の記事が実に興味深い(注1)。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
もちろん、世間にはさまざまな異なる意見や見解が存在する。本件についてもまったく同様だ。そのような現実を十分に承知した上で、この引用記事を読者の皆さんと共有したいと思う次第だ。
米国が主張するところによると、ロシアのINF条約の違反はロシア製の9M729型ミサイル(NATOによる呼称はSSC-8)にある。
米国の国家安全保障会議の高官であるクリストファー・フォードは2017年11月29日にウィルソンセンターで行ったスピーチでINF条約に違反するロシア製ミサイルはノヴァター9M729であると初めて公表した。この地上発射型クルーズミサイルは射程距離が500㎞から5,500㎞の範囲内にあると考えられ、その射程距離が12月7日に30歳を迎えるINF条約に違反すると米国側は判断したのである。(原典:Novator 9M729: The Russian Missile that Broke INF Treaty’s Back?:By Dave Majumdar, THE NATIONAL INTEREST, Dec/07/2017)
しかしながら、問題は米国の判断が正しいのかどうかだ。
ロシア外務省はソ連時代に締結された中距離核兵器廃絶条約についてロシアが違反しているとする米国の批判を退けた。「これらの批判は最近モスクワ政府に対して行われている他の批判とまったく同じで、何の根拠もない」とロシア外務省は声明で反論した。「根拠となる証拠は何ら提示されてはいない」と同声明は言う。
2019年1月23日、ロシア国防省は外国の大使館付き武官に対して9M729クルーズミサイル(NATOの呼称はSSC-8)を初めて展示した。この説明会には20か国以上の代表が集まった。しかしながら、「米国、英国、フランスおよびドイツの大使館付き武官は、招待状を受け取っているにもかかわらず、この説明会に姿を見せなかった」とロシア国防省は強調している。(原典:9M729 - SSC-8: By GlobalSecurity.org. 日付は不詳であるが、内容から察するに、発行日は少なくとも2019年1月23日以降)
状況証拠的に言えば、明らかに、米国は自分たちの主張が間違っていたことを認めたくはなく、ロシア側の招待には応じなかったのだ。逆に言うと、米国は自分たちが言っていたことが間違いであったことを自ら認めたに等しい。
しかし、ここでは米ロのどちらの言い分が正しいのかを究明する意図はない。そういった判断をする前に、少なくとも、現状をより客観的に理解しておくことが先決だと思う。
そういう意味では、ここにある「INF条約の破棄 - ロシアの勝ち、米国の負け」と題された最近の記事が実に興味深い(注1)。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
もちろん、世間にはさまざまな異なる意見や見解が存在する。本件についてもまったく同様だ。そのような現実を十分に承知した上で、この引用記事を読者の皆さんと共有したいと思う次第だ。
<引用開始>
著者のドミトリー・オルロフはロシアや他のテーマについて論じる論客の中ではもっともお気に入りの一人である。彼は子供の頃米国へ移住し、現在ボストン地域に住んでいる。
Photo-1
ザ・ニューヨーカー誌は2009年に彼を紹介した記事で彼の世界観を「反ユートピア的社会像」と呼んだが、彼はRUSSIA INSIDER (archive)の常連の寄稿者であるジェームズ・ハワード・カンストラーと共に最もよく知られている思索家のひとりだ。これらの理論家たちは現代社会が不快な、痛みを伴う崩壊に向かっていると考えている。
彼はソ連と米国の崩壊を比較した2011年の著作(米国の崩壊はもっと性質が悪いだろうと彼は述べている)によりもっとも良く知られている。彼は幅広いテーマを扱う多作家であって、アマゾンで彼を検索し、彼の作品を見ることが可能だ。
彼のウェブサイトのフォロワーは多数おり、パトレオンにおいても然りだ。Russia Insider(RI)がそうしているように、パトレオンでも彼を支援願いたい。
彼が目下没頭しているプロジェクトは居住可能な手頃なハウスボートの製作を組織化することである。彼自身ボートに住んでいる。
もしも彼の著作をまだご覧になっていないならば、RIにて彼の記事のアーカイブをご一覧願いたい。彼の記事はまさに宝物の如くである。米国とロシアについてその実態を見抜く力が存分に発揮され、両国が如何に関連しあっているのかに関する洞察は実に見事である。
彼はソ連と米国の崩壊を比較した2011年の著作(米国の崩壊はもっと性質が悪いだろうと彼は述べている)によりもっとも良く知られている。彼は幅広いテーマを扱う多作家であって、アマゾンで彼を検索し、彼の作品を見ることが可能だ。
彼のウェブサイトのフォロワーは多数おり、パトレオンにおいても然りだ。Russia Insider(RI)がそうしているように、パトレオンでも彼を支援願いたい。
彼が目下没頭しているプロジェクトは居住可能な手頃なハウスボートの製作を組織化することである。彼自身ボートに住んでいる。
もしも彼の著作をまだご覧になっていないならば、RIにて彼の記事のアーカイブをご一覧願いたい。彼の記事はまさに宝物の如くである。米国とロシアについてその実態を見抜く力が存分に発揮され、両国が如何に関連しあっているのかに関する洞察は実に見事である。
2018年3月1日、ロシアが新技術を駆使して開発した新兵器の存在は全世界に知られることになった。ロシア連邦議会での演説でプーチンがこれらの新兵器がどのようにして出現したのかについて説明したのである。2002年、米国は弾道弾仰撃ミサイル制限条約から脱退した。当時、ロシア側はこれに対応せざるを得ないだろうと述べたが、実質的には、「好き勝手にやってくれ」と言われた。
Photo-2:ライバルよりも頭が切れる
ロシア側は新兵器を開発した。それは弾道弾仰撃ミサイルシステムによって阻止しなければならないと考えることなんてかって一度もなかったような最新の兵器であった。ロシアはまったく好き勝手に開発を進めて来たのである。これらのロシアの新兵器にはすでに実戦に配備されたもの(キンジャール)や大量生産を開始するもの(アヴァンガルド)、目下テスト中のもの(ポセイドン、ブレヴェストニク、ペレスウェート、サルマート)、等が含まれる。簡単に言うと、これらの新兵器の特徴は下記のような具合だ:
- キンジャール: 極超音速の空中発射型クルーズミサイルで、マッハ10(時速7,700マイル)で飛行し、地上施設や船舶を破壊する。
- アヴァンガルド: マッハ20(時速15,300マイル)で飛行する大陸間弾道弾のための操縦可能で、極超音速で飛ぶ弾頭輸送システム。740マイル(1,184キロ)の射程距離を持ち、最大で300キロトンの核弾頭を搭載することが可能。
- ポセイドン:核動力の自律型魚雷で、射程距離には限度がなく、3,000フィート(900メートル)の深さで100ノット超の速度を維持する。
- ブレヴェストニク: 核動力のクルーズミサイルで、時速約270マイル(432キロ)で飛行し、24時間滞空することが可能。射程距離は6,000マイル(9,600キロ)。
- ペレスウェート: 移動可能なレーザー兵器で、ドローンや衛星の目をくらませることができる。つまり、宇宙空間や空中における偵察システムを破壊する。
- サルマート: 新たに開発された大型の大陸間用ミサイルで、任意の弾道飛行コース(たとえば、南極経由で)を飛行し、地上の任意の地点を攻撃することが可能。予想が可能な弾道飛行は行わないので、仰撃のしようがない。
この発表に対する当初の西側の反応は異常とも言えるような沈黙であった。何人かは自分の話を聞いてくれそうな人に対してこれははったりであって、コンピュータで作成したアニメーションに過ぎず、これらの兵器システムは実際には存在しないと述べて、それを信じ込ませようとした。(アニメーションは確かに低品質であって、誰かがこう注釈することだろう。多分、ロシアの典型的な軍人は米国人がお金をたっぷり注ぎ込むような見栄えのする映像がロシアをより安全にしてくれるなんて考えもしなかったであろう・・・) しかし、これらの新兵器システムが稼働していることが示され、米国の諜報部門はこれら新兵器の存在を肯定した。
Photo-3:自信過剰の犠牲者
何らかの反応をせざるを得ないと思い、米国側は後ろに従えるEUと一緒になって関連性のない事柄に関する広報活動で醜聞を引き起こした。たとえば、ウクライナでのクーデターがクリミアをロシアへの併合に追いやった後、マレーシア航空のMH17便事件に関しては感情的で、かつ、悪質な報道が雪崩のようにロシアを襲った。MH17便事件はウクライナ軍の手助けの下で米国が撃墜したものである。
これと同様に、新兵器システムに関するプーチンの発表後、セルゲイ・スクリッパルと彼の娘に対する「ノビチョク」による毒殺未遂事件では上記に述べた事例に負けず劣らずの、息をつかせないようなヒステリー発作が起こった。ご記憶だろうと思うが、二人のロシア人の旅行者がスクリッパルの毒殺を図ったとして非難された。スクリッパルが自宅を出た後でドアのノブに有毒物質を塗って、彼が二度と戻って来ることがないように手筈を整えたのだという。多分、そのような奇抜な行動は誰かを気持ち良くしてくれるのかも知れないが、フェークニュースを作り出し、それを流すことによって最新式の兵器システムに対抗するなんて、どう見ても妥当な反応とは思えない。
米国が弾道弾仰撃ミサイル制限(ABM)条約から脱退した際のロシアの反応についてあなたはどうお思いだろうか?ロシア側の反応は実に適切なものであった。そのような態度をとることの必要性は二つの事実に由来していた。まず、米国は他の国(広島、長崎)へ原爆を投下したことで知られている。米国は自衛のためではなく、抵抗することは無益である(抵抗をしても、まったく無駄な動きだ)というソ連側へのメッセージを伝えるために原爆を投下したのである。二番目に、米国は先制核攻撃を仕掛けてソ連を壊滅させようと何度も試みたことでもよく知られている。しかし、この先制核攻撃は何度か見送られた。最初の見送りは核兵器の数が足りなかったからだ。あるいは、ソ連側も核兵器を開発した。さらには、ソ連が大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を開発した、等が見送りの理由であった。
ロナルド・リーガンの「スターウオーズ」計画はソ連に対する先制核攻撃で勝利を導くためにソ連のICBMを大量に撃墜するシステムを開発しようというものであった。リーガンとゴルバチョフが1987年の12月にABM条約を署名した時、この作業は中断された。しかしながら、2002年にブッシュ・ジュニアーがABM条約から脱退したことから、両国は軍拡へとふたたび向かって行った。昨年、プーチンはロシアの勝利だと宣言した。つまり、米国がロシアを攻撃すれば、その結果、米国は完全に壊滅するということを米国人は今や確実に理解することが可能であって、米国は決してロシアを攻撃しようなんて思わないであろう。こうして、ロシア側は安心していられる。
しかし、それは単なる序章でしかなかった。実際の勝利は2019年2月2日に起こった。この日はリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイまでの大ユーラシアの争奪戦でロシアが米国を打ち負かした日として記憶されるであろう。
米国はいったい何を望んでいたのだろうか?それに代わって、彼らはいったい何を手にしたのだろうか?彼らはINF条約を再交渉し、条文の一部を変更して中国を巻き込もうとした。米国はINF条約を破棄すると宣言し、トランプは「関係国の代表すべてを大きな、美しい部屋へ招いて、今まで以上に立派な成果を得られる新条約を締結したい」と言った。トランプが言った「関係国の代表すべて」とは、多分、米国、中国、ロシアのことであろう。
彼らはどうしてこうも突然に中国を含めなければならないのであろうか?それは何故かと言うと、中国は一連の500~5,500キロの中距離弾道ミサイル(INF条約で禁止されている)を有し、かの地域全域の、つまり、韓国、日本、グアムの米軍基地に向けて配備しているからである。INF条約によって米国はこれらの基地で中国に向けて配備することができるようなミサイルの開発は禁止されているのだ。
ニューヨークの不動産王が得意とする「交渉の妙技」を核大国間で見せ付けようとしたのは、多分、トランプであった。あるいは、多分、帝国の自信過剰が米国のすべての指導者の脳みそを腐らせてしまったのかも知れない。何れにせよ、INF条約を再交渉しようとする計画は下記に想像し得るような筋書きと同じ程度に馬鹿げたものであったと言えよう:
これと同様に、新兵器システムに関するプーチンの発表後、セルゲイ・スクリッパルと彼の娘に対する「ノビチョク」による毒殺未遂事件では上記に述べた事例に負けず劣らずの、息をつかせないようなヒステリー発作が起こった。ご記憶だろうと思うが、二人のロシア人の旅行者がスクリッパルの毒殺を図ったとして非難された。スクリッパルが自宅を出た後でドアのノブに有毒物質を塗って、彼が二度と戻って来ることがないように手筈を整えたのだという。多分、そのような奇抜な行動は誰かを気持ち良くしてくれるのかも知れないが、フェークニュースを作り出し、それを流すことによって最新式の兵器システムに対抗するなんて、どう見ても妥当な反応とは思えない。
米国が弾道弾仰撃ミサイル制限(ABM)条約から脱退した際のロシアの反応についてあなたはどうお思いだろうか?ロシア側の反応は実に適切なものであった。そのような態度をとることの必要性は二つの事実に由来していた。まず、米国は他の国(広島、長崎)へ原爆を投下したことで知られている。米国は自衛のためではなく、抵抗することは無益である(抵抗をしても、まったく無駄な動きだ)というソ連側へのメッセージを伝えるために原爆を投下したのである。二番目に、米国は先制核攻撃を仕掛けてソ連を壊滅させようと何度も試みたことでもよく知られている。しかし、この先制核攻撃は何度か見送られた。最初の見送りは核兵器の数が足りなかったからだ。あるいは、ソ連側も核兵器を開発した。さらには、ソ連が大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を開発した、等が見送りの理由であった。
ロナルド・リーガンの「スターウオーズ」計画はソ連に対する先制核攻撃で勝利を導くためにソ連のICBMを大量に撃墜するシステムを開発しようというものであった。リーガンとゴルバチョフが1987年の12月にABM条約を署名した時、この作業は中断された。しかしながら、2002年にブッシュ・ジュニアーがABM条約から脱退したことから、両国は軍拡へとふたたび向かって行った。昨年、プーチンはロシアの勝利だと宣言した。つまり、米国がロシアを攻撃すれば、その結果、米国は完全に壊滅するということを米国人は今や確実に理解することが可能であって、米国は決してロシアを攻撃しようなんて思わないであろう。こうして、ロシア側は安心していられる。
しかし、それは単なる序章でしかなかった。実際の勝利は2019年2月2日に起こった。この日はリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイまでの大ユーラシアの争奪戦でロシアが米国を打ち負かした日として記憶されるであろう。
米国はいったい何を望んでいたのだろうか?それに代わって、彼らはいったい何を手にしたのだろうか?彼らはINF条約を再交渉し、条文の一部を変更して中国を巻き込もうとした。米国はINF条約を破棄すると宣言し、トランプは「関係国の代表すべてを大きな、美しい部屋へ招いて、今まで以上に立派な成果を得られる新条約を締結したい」と言った。トランプが言った「関係国の代表すべて」とは、多分、米国、中国、ロシアのことであろう。
彼らはどうしてこうも突然に中国を含めなければならないのであろうか?それは何故かと言うと、中国は一連の500~5,500キロの中距離弾道ミサイル(INF条約で禁止されている)を有し、かの地域全域の、つまり、韓国、日本、グアムの米軍基地に向けて配備しているからである。INF条約によって米国はこれらの基地で中国に向けて配備することができるようなミサイルの開発は禁止されているのだ。
ニューヨークの不動産王が得意とする「交渉の妙技」を核大国間で見せ付けようとしたのは、多分、トランプであった。あるいは、多分、帝国の自信過剰が米国のすべての指導者の脳みそを腐らせてしまったのかも知れない。何れにせよ、INF条約を再交渉しようとする計画は下記に想像し得るような筋書きと同じ程度に馬鹿げたものであったと言えよう:
- 何の証拠も示さずに、ロシアはINF条約に違反したとして批判する。その批判は出鱈目だと反論するロシア側の言い分は無視する。
- INF条約からの脱退を宣言する。
- しばらくの間待つ。そして、INF条約は重要であり、中核をなすものであると宣言する。恩着せがましくロシアを許し、新条約に署名するように提案する。しかし、中国を含めるように要求する。
- 中国が新条約に参加するようロシアが説得してくれるのを待つ。
- トランプの「大きな、美しい部屋」で新条約に署名する。
と、まあ、こんな調子である。この筋書きは実際にはどう進展したのであろうか?ロシアは即座に同国もINF条約を破棄すると言った。プーチンはラブロフ外相に本件に関しては米国との交渉は凍結するように命じた。さらに彼はショイグ国防相にロシアの空中および海上発射型のミサイルシステムについて陸上発射型のプラットフォームを早急に開発するように命じた。しかも、国防予算を増やすこともなしにである。プーチンはさらにこう追加した。新しい地上発射型システムは、米国製中距離ミサイルが配備されたらロシア側も配備する。そうそう、中国はこう宣言している。中国はそのような交渉にはまったく興味がない。今や、彼の「大きな、美しい部屋」はトランプの一人占めになりそうだ。
どうしてこんな展開になったのだろうか?ロシアにとってはINF条約のせいで長い間ミサイル群の中に大きな穴があいていた。特に、500~5,500キロの射程についてだ。ロシアは空中発射型のX-101/102ミサイルを前から有しており、結局、カリブル・クルーズミサイルを開発した。しかし、自衛のためには十分な航空機や艦艇を所有してはいるものの、NATO軍のすべてを壊滅するにはこれで十分だと保証することはできない。米国の好戦的な態度を常に見せつけられており、ロシアの国家安全保障としてはNATOがロシアとの間で武力紛争を起こした場合にはNATO諸国は徹底的に破壊され、そのような運命を避けるには彼らの対空防衛システムは何の役にもたたないことをよく認識させる必要があった。
地図を見て貰えば、500~5,500キロの射程を持つ兵器はこの課題を非常に上手く解決してくれることが分かるだろう。ロシアのカリーニングラードを中心にして5,500キロの円を描いてみよう。NATO諸国のすべてと北アフリカ、および、中東はその円内に入る。INF条約が初めて署名された時でさえも(この条約を署名したゴルバチョフは売国奴であった)、本条約はロシアにとっては必ずしも好ましいものではなく、NATOが東方への拡大を開始すると、これはとてつもなく悪い条約であることが明白となって来た。しかし、敵対もせずにロシアが本条約から脱退することは出来ず、ロシアは軍備を回復するための時間を必要としていた。
プーチンは、2004年、「新世代の兵器や軍事技術を取得するにはロシアには技術革新が必要だ」とすでに述べていた。当時、米国人は彼を無視し、ロシアは何時にでも崩壊するだろう、たとえロシア人が皆息絶えようとも、ロシアの原油や天然ガス、核燃料、その他の戦略的な資源を永久にただで手中に収めることが出来るだろうと思い描いていた。ロシアが抵抗しようとしても、ゴルバチョフやイエルツィンといった幾人かの売国奴を買収すればことが足りると彼らは考えていた。そして、すべてはうまく行くに決まっていると思っていた。
この15年間を早送りしてみよう。今われわれが手にしているのはまさにその通りなのだろうか?ロシアは軍備を更新した。ロシアの輸出産業は原油や天然ガスの輸出を抜きにしてさえも貿易収支をプラス側に維持している。ロシアは三つの巨大な天然ガス輸出用のパイプラインを同時に建設中である。ドイツ、トルコ、および、中国向けだ。ロシアは世界中で原発を建設しており、原子力産業では王者の地位を得ている。ロシアからの核燃料の輸入がなければ、米国はもはや国内の照明を維持することも出来ない。米国はロシアが行った再軍備に対抗するために必要となる新兵器システムを持っていない。そうそう、米国は幾つかの新兵器の開発について議論をしているものの、米国が現時点で持っているのは永遠に金を吸い込む巨大なシステムとパワーポイントで作成された数多くの提案書の山である。もはや米国にはこの仕事をこなす人材がない。時間もないし、金もない。
INF条約からの脱退に際してプーチンが出した命令のひとつは地上発射型の極超音速ミサイルの開発であった。まったく思いがけない新たな展開である。これらのミサイルは仰撃することが不可能であるだけではなく、もしもNATOがロシアを攻撃すれば、これらのミサイルはNATOの生存余命を分の単位から秒の単位へと短縮してしまうだろう。核エネルギーを動力源とする新兵器のポセイドン魚雷も言及された。たとえロシアに対する攻撃に成功したとしても、それは犠牲が大きくて、まったく引き合わない成功となるに違いない。その攻撃の結果、核爆発によって引き起こされた100フィートにも及ぶ巨大津波が米国の両岸で何百マイルもの内陸にまで達し、実質的に米国の全土を低濃度の放射性を帯びた荒れ地に変えてしまうであろう。
米国は攻撃能力を失ったばかりではなく、脅しを与える能力さえをも失ってしまった。米国が世界中でその驚異的な武力を投影する最強の手段は海軍力であるが、ポセイドン魚雷は米海軍を無用な、ゆっくりと動き回る鉄屑の山に変えてしまう。米空母がどこに配備されていようがそれにはお構いなく米国の戦略的価値をゼロにしてしまうには空母船団のひとつづつに一握りのポセイドンを追尾させるだけで十分だ。
INF条約という手かせや足かせが無くなって、ロシアはすでに時代遅れで、無用となったNATOを完全に無力化し、ヨーロッパ全域をロシアの安全保障圏に組み入れることが可能となるだろう。ヨーロッパの政治家は非常に柔軟であって、ロシアや中国との友好関係は貴重な財産であるが、米国へ依存しながら先へ進むことは巨大な障害となることに間もなく皆が気付くことであろう。多くの政治家らは風が今どちらに向かって吹いているのかをすでによく理解している。
ヨーロッパの指導者が決断をすることはそれほど困難ではないだろう。天秤の一方の皿には大ユーラシア、つまりリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイに至るまで平和と繁栄を約束する将来が乗っかっており、ロシアの核の傘の下で安全を確保し、中国の一帯一路政策とも連携する。
どうしてこんな展開になったのだろうか?ロシアにとってはINF条約のせいで長い間ミサイル群の中に大きな穴があいていた。特に、500~5,500キロの射程についてだ。ロシアは空中発射型のX-101/102ミサイルを前から有しており、結局、カリブル・クルーズミサイルを開発した。しかし、自衛のためには十分な航空機や艦艇を所有してはいるものの、NATO軍のすべてを壊滅するにはこれで十分だと保証することはできない。米国の好戦的な態度を常に見せつけられており、ロシアの国家安全保障としてはNATOがロシアとの間で武力紛争を起こした場合にはNATO諸国は徹底的に破壊され、そのような運命を避けるには彼らの対空防衛システムは何の役にもたたないことをよく認識させる必要があった。
地図を見て貰えば、500~5,500キロの射程を持つ兵器はこの課題を非常に上手く解決してくれることが分かるだろう。ロシアのカリーニングラードを中心にして5,500キロの円を描いてみよう。NATO諸国のすべてと北アフリカ、および、中東はその円内に入る。INF条約が初めて署名された時でさえも(この条約を署名したゴルバチョフは売国奴であった)、本条約はロシアにとっては必ずしも好ましいものではなく、NATOが東方への拡大を開始すると、これはとてつもなく悪い条約であることが明白となって来た。しかし、敵対もせずにロシアが本条約から脱退することは出来ず、ロシアは軍備を回復するための時間を必要としていた。
プーチンは、2004年、「新世代の兵器や軍事技術を取得するにはロシアには技術革新が必要だ」とすでに述べていた。当時、米国人は彼を無視し、ロシアは何時にでも崩壊するだろう、たとえロシア人が皆息絶えようとも、ロシアの原油や天然ガス、核燃料、その他の戦略的な資源を永久にただで手中に収めることが出来るだろうと思い描いていた。ロシアが抵抗しようとしても、ゴルバチョフやイエルツィンといった幾人かの売国奴を買収すればことが足りると彼らは考えていた。そして、すべてはうまく行くに決まっていると思っていた。
この15年間を早送りしてみよう。今われわれが手にしているのはまさにその通りなのだろうか?ロシアは軍備を更新した。ロシアの輸出産業は原油や天然ガスの輸出を抜きにしてさえも貿易収支をプラス側に維持している。ロシアは三つの巨大な天然ガス輸出用のパイプラインを同時に建設中である。ドイツ、トルコ、および、中国向けだ。ロシアは世界中で原発を建設しており、原子力産業では王者の地位を得ている。ロシアからの核燃料の輸入がなければ、米国はもはや国内の照明を維持することも出来ない。米国はロシアが行った再軍備に対抗するために必要となる新兵器システムを持っていない。そうそう、米国は幾つかの新兵器の開発について議論をしているものの、米国が現時点で持っているのは永遠に金を吸い込む巨大なシステムとパワーポイントで作成された数多くの提案書の山である。もはや米国にはこの仕事をこなす人材がない。時間もないし、金もない。
INF条約からの脱退に際してプーチンが出した命令のひとつは地上発射型の極超音速ミサイルの開発であった。まったく思いがけない新たな展開である。これらのミサイルは仰撃することが不可能であるだけではなく、もしもNATOがロシアを攻撃すれば、これらのミサイルはNATOの生存余命を分の単位から秒の単位へと短縮してしまうだろう。核エネルギーを動力源とする新兵器のポセイドン魚雷も言及された。たとえロシアに対する攻撃に成功したとしても、それは犠牲が大きくて、まったく引き合わない成功となるに違いない。その攻撃の結果、核爆発によって引き起こされた100フィートにも及ぶ巨大津波が米国の両岸で何百マイルもの内陸にまで達し、実質的に米国の全土を低濃度の放射性を帯びた荒れ地に変えてしまうであろう。
米国は攻撃能力を失ったばかりではなく、脅しを与える能力さえをも失ってしまった。米国が世界中でその驚異的な武力を投影する最強の手段は海軍力であるが、ポセイドン魚雷は米海軍を無用な、ゆっくりと動き回る鉄屑の山に変えてしまう。米空母がどこに配備されていようがそれにはお構いなく米国の戦略的価値をゼロにしてしまうには空母船団のひとつづつに一握りのポセイドンを追尾させるだけで十分だ。
INF条約という手かせや足かせが無くなって、ロシアはすでに時代遅れで、無用となったNATOを完全に無力化し、ヨーロッパ全域をロシアの安全保障圏に組み入れることが可能となるだろう。ヨーロッパの政治家は非常に柔軟であって、ロシアや中国との友好関係は貴重な財産であるが、米国へ依存しながら先へ進むことは巨大な障害となることに間もなく皆が気付くことであろう。多くの政治家らは風が今どちらに向かって吹いているのかをすでによく理解している。
ヨーロッパの指導者が決断をすることはそれほど困難ではないだろう。天秤の一方の皿には大ユーラシア、つまりリスボンからウラジオストークまで、ムルマンスクからムンバイに至るまで平和と繁栄を約束する将来が乗っかっており、ロシアの核の傘の下で安全を確保し、中国の一帯一路政策とも連携する。
その天秤のもう一方の皿には北米の荒野で迷子になった、曖昧で、かっては植民地であった国家が乗っかっている。この国家は自分たちの例外主義には揺るぎのない忠誠心を植え付けられている。しかし、国家が弱体化するにつれて国内は分断され、無秩序になっている。そうは言っても、依然として危険な存在だ。特に、この国家自身にとって・・・ そして、この国は核兵器条約と不動産の売買との違いをわきまえもせずにとうとうと語る道化師によって率いられている。同国は静粛に、かつ、平和裏に文明からは遠く離れた場所へ、さらには、歴史の余白へと追放しなければならない。
トランプは自分の会社を彼の「大きな、美しい部屋」に確保し、悲惨なほどに馬鹿げたことをすることは何としてでも避けるべきであろう。その一方で、もっと正常な精神の持ち主が名誉ある降伏に向かって静粛に交渉を進めるべきだ。米国が受け入れることが出来る唯一の出口戦略は同国が世界中に有する地位を静粛に、かつ、平和裏に放棄し、同国自身の地理的境界内へ退き、大ユーラシアに対する干渉を止めることに尽きる。
トランプは自分の会社を彼の「大きな、美しい部屋」に確保し、悲惨なほどに馬鹿げたことをすることは何としてでも避けるべきであろう。その一方で、もっと正常な精神の持ち主が名誉ある降伏に向かって静粛に交渉を進めるべきだ。米国が受け入れることが出来る唯一の出口戦略は同国が世界中に有する地位を静粛に、かつ、平和裏に放棄し、同国自身の地理的境界内へ退き、大ユーラシアに対する干渉を止めることに尽きる。
<引用終了>
ドミトリー・オルロフのユーモアを交えたこの論考は秀逸だ。もちろん、大げさに表現している部分が多々あると思うが、この論考の大筋は少なくともわれわれが日頃目にする国際政治から読み取ることができる米国の姿、つまり、進行しつつある米帝国の衰亡とよく符号すると思う。
この著者のユーモアが面白い。たとえば、彼は「米国は幾つかの新兵器の開発について議論をしているものの、米国が現時点で持っているのは永遠に金を吸い込む巨大なシステムとパワーポイントで作成された数多くの提案書の山である」と描写した。「パワーポイントで作成された」という言葉には「オヤッ」と思わせるものがあった。通常われわれはビジネスに関する会議で何かを報告する、あるいは、提案する時パワーポイント形式を頻繁に使う。それこそ、毎日のように使っている人も多いのではないだろうか。この「パワーポイントで作成された」という言葉がなくても十分に意味が通じるところへ著者は敢えてその言葉を挿入した。著者の茶目っ気として私には感じられた。
また、著者は「MH17便事件はウクライナ軍の手助けの下で米国が撃墜したものである」とも述べている。MH17便が撃墜された時、米国ご自慢の偵察衛星はウクライナの上空に位置していたと言われている。その偵察衛星は豊富な情報を集めていたに相違ない。しかしながら、米国が手持ちのレーダー情報をオランダを中心とした国際調査団には何も提示しなかった。この事実を考慮すると、米国はウクライナと共犯関係にあったのではないかと疑わざるを得ない。引用記事の著者は米国が主犯でウクライナは米国を手助けしただけだと述べている。このはっきりとした物の言い方には今まで読んできた数多くの記事とは断然異なる断定的な姿勢がうかがえることを指摘しておきたい。多分、何らかの根拠があるのだろう。
参照:
注1: RIP INF Treaty: Russia’s Victory, America’s Waterloo: By Dmitry Orlov, Club Orlov, Feb/11/2019
注1: RIP INF Treaty: Russia’s Victory, America’s Waterloo: By Dmitry Orlov, Club Orlov, Feb/11/2019
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