2019年3月3日日曜日

節度を欠いたBBCの仮面舞踏会 - 病院での自作自演の場面を化学兵器攻撃の証拠として使用

BBCと言えば、世界を代表する報道機関のひとつとして押しも押されもしない存在であった。フェークニュースに身をやつし、ジャーナリズムの使命を忘れてしまった米国の大手メディアもまったく同様だ。今や、定評のあったこれら西側のメディアは歴史上の伝説と化してしまったかの感が強い。

その典型的な行動は事実を究明するという基本的な役割から逸脱し、さまざまな形で戦争を後押しするかのように振舞っている大手メディアの報道姿勢に見られる。新聞の販売部数やテレビの視聴率を伸ばすために扇動的な情報を流すことが行動規範となって久しい。悲しい現実である。

しかしながら、世間には大手メディアには属さず、事実を掘り起し、真実を伝えようとする調査報道に熱心なフリーランス・ジャーナリストが少なからず存在する。シリア紛争の例でも実証されているように、もしもあなたがシリア紛争の現場で何が起こっているのかを知ろうと思ったら、西側の大手メディアに頼ることは無意味だし、頼るべきではない。フェークニュースやでっちあげ記事によってうまうまと洗脳されるのが落ちだ。しかし、もっとも大きな脅威はあなたは偽りの報道を読んでいることにそう簡単には気付かないという現実である。少なくとも、私は自分の経験からそう断言することができる。膨大な資金を抱え、数多くの人材を組織化することが可能な大手メディアの報道は心憎いばかりに巧妙である。
このような疑似的現実を見るにつけ、フリーランス・ジャーナリストの存在が如何に重要であるかを改めて主張しなければならないと感じる。

「節度を欠いたBBCの仮面舞踏会 - 病院での自作自演の場面を化学兵器攻撃の証拠として使用」と題された最近の記事(注1)はジャーナリズム精神を実践しようとするフリーランス・ジャーナリストの活躍振りを詳細に伝えている。西側の大手メディアが紙屑同然になってしまった今、この記事にはわれわれ一般大衆が学ぶべき点がたくさん含まれている。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

途方もなく節度に欠けた仮面舞踏会であった。BBCが如何にして病院での場面をドーマでの化学兵器攻撃の証拠として描写したかを今一度ここでおさらいをしておこう。

Photo-1: 著者のヴァネッサ・ビーリーは独立した調査報道ジャーナリストである。彼女は「21st Century Wire」の副編集長を務めている。


Photo-2: 「化学兵器攻撃」があったとされ、ドーマの病院でその犠牲者が「処置」を受けている。© HO / Douma City Coordination Committee / AFP

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状況が展開する中、企業メディアが国家の外交政策の延長線上で行動している事実が暴露された。しかも、大手メディアという今日的な陰謀集団のメンバーのひとりによって暴露されたのである。彼らは、またもや、シリアの政権交代に対する賛意の醸成を演出しようとした。 

リアム・ダラティはベイルートにあるBBCの製作チームに所属する。ツイッター上ではBBCの中東特派員として著名なクンティン・サマーヴィルの「名誉ある同僚」であると自己紹介をしていた。自分が所属する英国政府にべったりのメディア集団とは異なり、ダラティはツイッター上で「約6か月間の調査の結果、ーマの病院での場面は疑いもなく演出だ」と言明した 

rt.comの関連記事: 2018年のドウーマでの「化学兵器攻撃」後の病院での場面はでっち上げだとBBCのプロューサーが述べる (BBC producer says hospital scenes after 2018 Douma ‘chemical attack’ were staged)

問題の場面は人道主義に徹した集団であると自称するホワイトヘルメットが作成したものであり、201847日に起こったとされる化学兵器攻撃の際にーマ地域を支配していたジャイシュ・アル・イスラムという武装過激派グループとも関わり合う行動であった。「化学兵器攻撃」の後に病院でホースで水を掛けられている子供たちの場面は信用できるものとして直ちに受け入れられ、BBCCNNおよびチャンネル4を含む西側のメディアによって扇動的な表題と並べて報じられた。ガーディアン紙のサイモン・ティスドールは「ドーマでの攻撃を受けた今、シリア政府に対する西側の反応は軍事的なものでなければならない」との表題を付して、自分の意見を表明した。これはドーマ事件のたった2日後のことであって、実質的に全面的な戦争を呼びかけるものであった。

ダラティのツイートは明らかに指導者階級の何人かの著名人には苦痛を与えただろうが、ダラティはこういった議論にまったく縁がなかったという訳ではない。ーマで起こったとされる事件の直後、彼は「活動家や反政府派は子供の死骸を使って、西側での情報の開示のために扇動的な場面を演出した」と述べて、個人的な不快感をツイートしていた。ダラティのツイートには感情的な言葉使いが見られるが、彼は「出来事をあれこれと操作することには辟易としていた。死体が散らばる戦場では子供が小道具として使われることはこれが初めてという訳でない。これは自国民をガスで毒殺したとして非難されているアサドを糾弾するにはシリアに対する軍事的介入を強化しなければならないとする筋書きに沿って、直ぐにでも必要な人道的支援を行うかのような装いを施しながら、一般大衆の賛意を引き出そうとするものである」ことを示唆した。


ダラティが言及したのはふたりの子供の死体をあたかも「最後のハグ」をしているかのように演出している様子であった。この写真は支配下にあるシリア人市民を拷問し、弄んだジャイシュ・アル・イスラム武装集団と協力する活動家らによってソーシャルメディア上に投稿され、大きな反響を呼んでいた。

ダラティが明らかに感情を爆発させた事実は、恐らく、彼が2013年の9月にBBCの「シリアの子供らを救う」と題されたパノラマ・ドキュメンタリーの製作に参画したことによっても説明することができよう。独立した研究者であるロバート・シチュアートは自分の生涯をかけた仕事をした。彼は「近所の学校に対する焼夷弾攻撃を示そうとしたBBCの職員や他の連中が2013826日に撮影したアタレブ病院やアレッポでの出来事を時間的な順序にしたがって並べてみると、すべてがそうだとは言えないが、そのほとんどは演出である」と述べ、説得力のある議論を行っている。ダラティは、多分、シリアにおける米ロ間の戦争へと発展したかも知れない余りにも多くの演出された出来事を目撃して来たに違いない。

ダラティが感じた憤りの理由が何であったにしても、骨抜きにされたバージョンが現れる前に彼のツイートは削除された。ダラティはこの変更の背後には「編集方針の侵害や前後関係に欠如があった」と述べている。明らかに、BBCの従業員はもっと数多くの子供たちの殺害が避けようもない戦争を後押しするためには、死んだふたりの子供たちの活用に「辟易としている」余裕なんて許されないのである。と同時に、ダラティのツイッター・アカウントには制限が施され、承認されたフォロワーだけが彼のツイートを見ることができるように変更された。

今までのところふたつの重要な機会があった。ダラティにはシリアのロードマップに関するBBCの筋書きからは逸脱しようとした節が見られる。しかしながら、ーマでの出来事が起こった時、彼が属する企業メディアは「化学兵器攻撃」に関して疑問を表明したジャーナリストや学者にリンチを加え、「陰謀論を標榜する理論家」であるとして彼らを退けようとしていたが、ダラティはその行動に加わっていた。これらの「陰謀論を標榜する理論家」には定評のあるジャーナリストであるロバート・フィスクやドイツの公共メディアであるZDFの経験豊富な戦場特派員であるウリ・ガック、等が含まれる。独立したジャーナリストであるエヴァ・バートレットやワン・アメリカン・ニュース・ネットワークのピアーソン・シャープも演出の証拠を示して、ーマでの出来事が大手メディアによって歪曲されていることを報告した。

攻撃があったとされた後に私はドーマを訪れ、化学兵器攻撃は何もなかったと断固として言い張る医療関係者や市民らにインタビューを行った。医師や看護師で、ちょうどその夜勤務に就いていた医療関係者は大人や子供らが煙を吸い込み、その影響に苦しんでいたと言った。彼らは活動家やホワイトヘルメットの工作員らが病院へやって来てパニックを引き起こす様子を描写してくれた。彼らは「化学兵器攻撃だ」と叫び、それにすっかり怯えてしまった患者らにホースで水をかけたのである。20歳のスレイマン・サオウールは私にこう言った。「午後の7時、われわれは一日中負傷者を受け入れていた。7時に誰かが男の子を連れてやって来た。彼はその子供をベッドの上に寝かせ、この子は化学兵器攻撃を受けたと言った。基本的には私がその子を診察した。その子は煙を吸い込んだせいで苦しんでいた。彼の顔を洗ってやり、スプレイとヴェントリンを投与した。後に、男の子が喘息持ちであることを発見したが、彼の喘息は煙のせいで悪化していた。」


「シリア、プロパガンダおよびメディアに関する作業グループ」の他のメンバーがそうであったように、学者であり教授でもあるピアース・ジョンソンとティム・ハワードは組織だった攻撃を受けた。それはこれらの学者が諸々の出来事を分析し、化学兵器攻撃があったとする主張に疑念を挟んだからであった。英国では、タイムズ紙が私や他の「ごろつき」学者らに「アサドの有用な愚か者」というレッテルを貼り、少なくとも4本の記事を流した。それはちょうど英米仏がシリアに対する非合法的な爆撃を行った日であり、この爆撃は西側の企業メディアが不名誉な程に慌てふためいて誤判断をした結果であった。

「陰謀を標榜する理論家」の名誉を傷つけたとして彼が批判していた相手と同じ結論にダラティ自身が到達するのに6カ月を要したことから、われわれは彼が突然その結論を公開するに至った動機を探ってみなければならない。シリア駐在の元英国大使であったピーター・フォードが私にダラティが行った暴露について自分の意見を伝えて来た。英国はシリアへの爆撃に関してトランプとマクロンに賛同した。彼らはBBCが嫌になるほど報道していた動画に爆撃の根拠を置いた。しかし、シリアに駐在するBBCのプロデューサーはその動画は演出されたものであって、彼はその証拠を持っていると言う。BBCは声明を発表したが、彼の主張を否定してはいない。これはいったい何を意味するのかと言うと、非常に衝撃的である。まず第一に、この国営放送は世論を操作することを文字通り黙認した。そして、二番目に、英国政府はシリアに対する攻撃を偽の情報や作り話に基づいて開始したという事実だ。これは公式調査の対象となる。」

フォードの声明はダラティが言ったことは非常に深刻な問題を提起していることを明らかにしてくれた。つまり、以前の「化学兵器攻撃」の筋書きでも情報が操作され、演出され、作り話であった可能性が高いのだ。「人権のためのスウェーデンの医師たち」が2015年にサルミンで起こった塩素ガス攻撃を調査した結果、その現場で行われた治療は非常に疑わしいものであったことを突き止めている。

スウェーデン人で小児科医のレイフ・エリンダー博士は「動画を詳細に調べた結果、何人かは死んだような様子で、子供たちに施された処置は奇妙であり、非医学的で、命を救おうとするものではなく、子供たちの生命を救うのには何の役にも立たない代物である」ことを発見した。この動画はホワイトヘルメットのメンバーとシリア・アメリカ医学界(Syrian American Medical SocietySAMS)での彼らの同僚によって作成され、飛行禁止区域を推進しようとする国連安保理での「非公開の会議」で提示されたものであった。この動きは米国およびその同盟軍が支援するシリアの地上におけるテロリスト部隊を防護しようとするものであると解釈される。

BBCのプロデューサーがドーマ「攻撃」における病院での場面は演出されていると公に喋ったことから、BBCはこれは従業員の個人的な見解であって、攻撃がなかったというわけではないと述べて、BBC自身を核心から遠のかせようとした。20187月のOPCWの中間報告は西側諸国のメディアの報告は扇動主義的であることをすでに記述している。「有機リン系神経剤またはその誘導物質は環境にも被害者とされる人たちの血清サンプルからも発見されなかった」と報告書は言う。サリンは発見されなかったのである。

rt.comの参考情報:イドリブでの「化学兵器攻撃」を演出するために、ホワイトヘルメットが子供らを拉致 (White Helmets stealing children for 'chemical attack' theater in Idlib)

OPCWによる「事実を究明するミッション」(FFM)はドーマで化学兵器攻撃が起こったという結論にはまだ至ってはいない。環境からのサンプルはトリクロル酢酸や抱水クロラールを含んでいると報告された。これらの物質は塩素消毒が施された飲料水から由来したものであるかも知れない。こうした断定的には言えない状況が存在しているにもかかわらず、BBCは、当初、ドーマでは「塩素が使用された」という表題を用い、後に、それを「ドーマでの攻撃では塩素が用いられた可能性がある」という表題に変更した。彼らはまたもや間違えたのだろうか?それとも、これはシリアにおける政権変更という外務・英連邦省による筋書きの方向へと世論を誘導し、それを補強しようとする懸命な試みであったのであろうか?

ダラティが言った内容は前後関係にしたがって判断しなければならない。彼の文言は企業メディア界の同僚でありジャーナリストでもあるガーデイアン紙のジェームズ・ハーキンが行き着いたものと同様な結論に到着した。ハーキンはドーマに関してザ・インターセプト(訳注:米国のインターネット・メディアのひとつ)にて長い調査結果を掲載していた。また、ハーキンはドーマの病院の場面は演出だったのではないかと言い、サリンが使用されたという作り話は役立たずであったことを認めている。

BBCの反論にもかかわらず、BBCの上層部からの承認もなしにダラティが自分の主張を公開するというリスクを負うとは考えられない。特に、BBCは現実には洗練された国営放送であることからも、植民地主義的なメディアを暴露する可能性がある出来事を吟味する際にはそのタイミングが常に非常に重要である。

われわれはOPCWが十分な情報や歴史的な前後関係を踏まえて諸々の出来事を理知的に解釈し、ドーマにおける攻撃について最終結論を下すであろうと推測する。BBCがドーマでの事実を偽り、歪曲したことを全面的に暴露する可能性をもった報告書、あるいは、企業メディアの報道について彼らにとっては不愉快極まりない質問を投げかけるような報告書となるのかも。これは、特に、シリアでの8年間の紛争の間シリア政府が化学兵器を用いたという彼らの主張にかかわるものだ。ダラティの衝撃的な情報公開は単にBBCが被害を最小限に抑えることでしかなかったのであろうか、それとも、ダラティは真理を報じようとした純然たる告発者だったのであろうか?この疑問は時間が解決してくれることであろう。

ダラティが行ったことは西側のメディアや政府高官らの偽善性や偏見に光を当てることである。ハーグにあるOPCWの本拠において証人たち(訳注:ドーマからやって来た6人の一般市民)がドーマでの化学兵器攻撃を否認した事実はロシアが「仕向けた」ものだとするBBCの報道は、とりもなおさず、この出来事を告訴することについて拒否した米英仏による「卑劣な行為」であるとして退けなければならないことを強調するものである。駐オランダ仏大使はシリアからやって来た証人たちが述べた証言を「節度を欠いた仮面舞踏会」であると評した。ガーディアン紙はこの言い回しを見出しに用い、ドーマでの攻撃について何らかの明快な説明をもたらそうとするロシアの真面目な試みを「推定された証人」をお披露目しただけだと揶揄した。これは自分たちのお気に入りの筋書きを脱線させかねないロシア側の試みについてその信用を落とそうとする試みであった。

真の意味で節度を欠いた仮面舞踏会はドーマの病院で起こった。その様子は英国の外務・英連邦省が資金を提供しているホワイトヘルメットによってでっち上げられ、ドーマをジャイシュ・アル・イスラムの手から最終的に救出する試みが急速に迫っている中でシリア政府軍をさらに犯罪者扱いするために、この作り話はBBCや言われたことを福音として書き留めるだけの他の国々によって採用された。そして、まさにこの節度を欠いた仮面舞踏会こそが米英仏による非合法的なシリア空爆をもたらしたのである。ピーター・フォードが言っているように、「この行為は公式調査を求める」ことになろう。

注:この記事に表明されている声明、見解および意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代弁するものではありません。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

この記事の目玉は化学兵器攻撃があったという主張は反政府側による自作自演であったのではないかという点にある。さらには、英国が資金援助をしていた「ホワイトヘルメット」と称される組織が大きな役割を果たしていた。引用記事の著者はシリア政府軍が行ったものではないと言いたいのである。

本記事の著者、バネッサ・ビーリーは独立したジャーナリストとしてシリアに関して現地から何度も報道をして来た。一方、西側の大手メデイアは現地からの報告は、この引用記事でも確認することができるように、西側が資金援助をしているホワイトヘルメットからの報告や動画が主体である。言うまでもなく、これら二つの報道姿勢には大きな隔たりがある。

この記事には著者と同様に調査報道に徹する著名なジャーナリストの氏名が沢山登場する。もちろん、これらのジャーナリスト以外にも献身的な人たちが数多くいる。しかしながら、独立したジャーナリストの数は大手メディアが抱えている無数の従業員やお抱えの評論家の総数に比べたら、ゼロに等しいのではないかと思う。

もしも英国が2018414日の米英仏によるシリア空爆に関して公的調査に乗り出すとすれば、その結果はかなり的確に推測することが可能だ。もっとも確率が高いと予想される結論はシリア空爆の根拠がでっち上げの動画に基づいていたという点であろう。今回のシリア空爆の状況は「大量破壊兵器」の存在をイラク攻撃の正当な理由として用いたかの悪名高い2003年の事例と驚くほどよく似ている。

バネッサ・ビーリーの活躍ぶりを読んで思い出すのはアンドレ・ヴルチェクというジャーナリストだ。彼については201819日に「戦場の特派員からの新年のメッセージならびに警告 - アンドレ・ヴルチェク」と題して掲載した。その投稿を一覧願いたいと思う。彼が描写する「疑似的現実」は今日の世界を理解しようとする時に必ずと言ってもいい程に用いたくなるような重宝な言葉である。一読に値すると付け加えておきたい。



参照:

1Real ‘obscene masquerade’: How BBC depicted staged hospital scenes as proof of Douma chemical attack: By Vanessa Beeley, Feb/16/2019, https://on.rt.com/9oh3 






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