2019年3月27日水曜日

第三次世界大戦のシミュレーションでは米国が敗退 - ランド研究所


「昭和168月の日本敗戦」という本をご存知だろうか。


実は、この本に関しては2013810日に「日本人の行動パターンはこのままでいいのか」と題した投稿でご紹介したことがある。あの投稿では、私は個人的な実感を次のように書いた。

毎年、8月になると日本が経験した敗戦のことをあれこれと考えさせられる。われわれ素人にとっては考えが及ぶ範囲はたかが知れたものではあるのだが、自己啓発という意味では8月は貴重な季節である。8月になると日本の近代史について知らないことが余りにも多いことに気づかされる。

本書の著者はさまざまな資料や当事者の切れ切れとなった記憶の断片を集めて、ひとつの歴史的事実を再現することに見事に成功したのではないかと思う。本書のプロローグによると、「昭和16128日の開戦よりわずか四ヶ月前の816日、平均年齢33歳の内閣総力戦研究所研究生で組織された模擬内閣は、日米戦争日本必敗の結論に至り、総辞職を目前にしていた....」

33人の研究生たちは政府機関、軍部、民間からそれぞれの部署における気鋭の若い人材として選りすぐられ、緊急に東京へと召集された。この総力戦研究所はその年の41日にスタートした。日米開戦に向けて戦雲急を告げる中を日本は突き進んでいた頃の話である。

昭和16827日のことであった。

本書の一部を下記に引用してみる。引用部分は段下げをして示す。

首相官邸大広間、午前9時。二つの内閣が対峙した。いっぽうは第三次近衛内閣、もうひとつは平均年齢33歳の総力戦研究所研究生で組織する<窪田角一内閣>である。

総力戦研究所研究生らで組織された模擬内閣は、対米英戦について<閣議>を続けていた。この日その結論に至る経過報告を第三次近衛内閣の閣僚たちに研究発表という形で明らかにしなければならない。

長い一日が始まりそうである。昭和16年の夏、彼らが到達した彼らの内閣の結論は次のようなものだった。

12月中旬、奇襲作戦を敢行し、成功しても緒戦の勝利は見込まれるが、しかし、物量において劣勢な日本の勝機はない。戦争は長期戦になり、終局ソ連参戦を迎え、日本は敗れる。だから日米開戦はなんとしてでも避けなければならない。

シミュレーション結果は当時の近衛内閣に報告された。しかしながら、日米開戦は何としてでも避けなければならないとする模擬内閣が到達した結論は無視され、4か月後に日本政府は日米開戦に踏み切った。模擬内閣を構成する総力戦研究所の33名の研究生は極めて冷静な思考を辿って結論に至ったが、日本政府の閣僚らは頭に血が上ってしまっており、彼らが下した判断は正気の沙汰ではなかった。

結局、日本は敗戦した。そればかりではなく、主権を失った状態が戦後70数年を経た今でも日本に黒い影を落としている。米軍基地、不平等極まりない日米地位協定、在日米軍駐留費負担、等によって日本社会をさまざまな形で苦しめているのである。さらには、トランプ政権の下では不要な、あるいは、時代遅れの軍備品を買わされ、米軍駐留費の負担は大幅に増える気配だ。

もうひとつのシミュレーションがある。つい最近のものだ。米国のランド研究所が第三次世界大戦のシミュレーション結果を発表した。ここに、そのことに関する記事がある(注1)。ロシアと中国を相手にした戦争で米国は敗退するとの結論だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

シミュレーションを行った第三次世界大戦においては、米国はロシアと中国を相手にして負け続ける、と戦争計画では一流の専門家ふたりが、先週、警告を発した。「われわれが行ったウーゲームではわれわれはロシアと中国を相手にし、ブルー軍はこてんぱんにやっつけられた」と木曜日(37日)にランド研究所の解析専門家のデイビッド・オチマネックが述べた。 

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ランド研究所のウーゲームでは、ブルーで識別された米軍はさまざまなシナリオで次々と決定的な負けを喫っし、西側の軍隊を殲滅しようとするロシア軍または中国軍(赤軍)を阻止することができない。

「われわれは無数の人員を失い、多くの施設や武器を失う。敵軍の侵攻を防ぐというわれわれの目標を達成することはできない」と、彼は警告する。 
専門家のある筋は2020年代の中頃には次回の軍事的対決がやって来るかも知れないと言う。陸、海、空、宇宙およびサイバースペースの五つのすべての領域で米国は厳しい戦いを強いられ、以前の対決では手にすることができた優位性に比べると、米国が優位性を達成することは非常に困難であろうと推測される。

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このウーゲームによると、赤軍は米軍のF-35ライトニングIIステルス戦闘機を、多くの場合、滑走路上で破壊し、米海軍のいくつかの艦隊を海中に沈め、米軍基地を破壊し、電子戦争によって非常に重要な軍事通信システムを自分たちのコントロール下に収めてしまう。一言で言えば、これは世界でももっとも近代的である筈の米軍のぞっとするような壊滅である。

「私が知る限りでは、どんな状況においてもF-35戦闘機は空中においては制空権を維持することができるけれども、F-35の多くは滑走路上でやられてしまう」と、シミュレーションでは何年にもわたって豊富な経験を有し、前国防副長官でもあったロバート・ワークは言う。

ロシアや中国は第5世代戦闘機や極超音速ミサイルを開発していることから、「滑走路や燃料タンクといった近代的な基地インフラに依存する戦闘集団は困難な事態を迎えるだろう」とオチマネックが述べた。「海上を航行する艦船も困難な状況に見舞われることとなろう。」 

「すでに報告しているように、来週にも公開される2020年予算では米空母トルーマンは何十年も早めに退役し、2艘の水陸両用輸送艦艇が廃棄されるが、それが理由だ。また、海兵隊がジャンプジェット型のF-35を購入するのもそれが理由だ。このモデルは小さな空港から離陸し、着陸することが可能であるが、ローテックな環境下でハイテックな航空機をどれだけ効率的に維持することができるのかは分からない」と「Breaking Defense」(訳注:これは米国の国防関連ニュースを扱うメディア)は報じている。

ところで、極めて仮定上の課題ではあるが、「ヨーロッパでわれわれが戦争を開始した場合、パトリオットミサイル部隊のひとつが動くであろうが、それはラムスタインへ向かうことになろう(訳注:ラムスタインはドイツの南西部に位置する巨大な空軍基地の町であって、ヨーロッパとアフリカにおける米空軍を指揮する中枢)。で、それで終わりだ」と言って、ワークは苦言を呈した。米国は大陸中に58もの旅団コンバットチームを配しているが、ロシアからのミサイル攻撃に対応するための対空ミサイル防衛能力は持っていない。


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ランド研究所はこのシミュレーションでサイバー攻撃や電子戦攻撃についてもウーゲームを行った。ワークによると、ロシアと中国は米国の通信ネットワークを活動不能にし勝ちであった。
「われわれが演習を行う度に、赤軍はわれわれの指揮統制を破壊し、われわれは演習を中断するしかない」と、冗談の素振りも見せずにワークは言う。北京政府はこれを「システム破壊戦」と呼んでいるとワークは言った。彼らは「米軍の戦闘ネットワークをあらゆるレベルで容赦なく攻撃してくる。彼らは常にその訓練を行っている。」 

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米空軍は、数年前に、ウーゲームによって判明したことを米国のために改善計画を立案するようランド研究所に依頼していた、とオチマネックが述べた。諸々の問題点を解決するために「年間80憶ドル以上も支出するなんて不可能だ。」  

「これは空軍のための80億ドルだ。陸軍と海軍(海兵隊を含む)を含めると、その3倍になる」と、オチマネックは言う。「つまり、240憶ドルだ。」
ワークは近い将来に戦争が起こることはそれ程懸念してはいない。彼はこう言った。中国とロシアは戦争の準備ができてはいない。彼らの近代化はまだ終了してはいないのだ。彼によると、今後10年から20年は大戦が勃発する可能性はなさそうだ。

「第三次世界大戦のために軍備を整えるべく今後5年間毎年240憶ドルを使うことは意味のある支出だ」と彼は言った。

米国は将来複数の前線で戦う戦争で敗退するというランド研究所の予測はまさに酔いが覚めるような警告である。米国は2017年には国防予算として2番手の中国と比較してその3倍も使っていることを考えると極めて衝撃的である。

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米国は、トランプ政権の間、年間約7000憶ドルの軍事予算が続く中、米国の好戦派は本シミュレーションを通じて恐怖感を煽ろうとしている。その目的はたったひとつだ。それは戦争のために庶民からの税金をもっと多く獲得することにある。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

何のことはない。ランド研究所が行ったシミュレーションは軍事予算の確保を狙ったものである。この手法は古くから活用されているものだ。そして、不幸なことには、今後もこの手法はあれこれと形を変えて続いて行くことであろう。不幸な思いをするのは米国人だけではない。西側のいわゆる同盟国、たとえば、ヨーロッパ諸国や日本、韓国、等は、自国の国益を主張しない限り、何の役にも立たない、非常に高価な米国製の武器を購入するよう強いられるのが落ちである。

西側の大手メディアではほとんど取り上げられなかった米国政府の機関が発行したふたつの報告書(これらの報告書は先端技術や軍事面において米国がかって持っていたダントツの優位性が今や失われてしまったことを指摘している)を含めて、将来の米ロ戦争ではロシアの勝ちだと予測する専門家は決して少なくはない。つまり、第三次世界大戦では米国が負けるという予測はランド研究所のシミュレーションを待つまでもないのである。

昨年の3月、東西間の軍事バランスに大きな変貌が起こったことはご存知であろうか?それは31日のことであった。ロシア連邦議会でプーチン大統領が演説を行い、ロシアが開発した最新鋭の極超音速ミサイルが報告されたのだ。その演説の詳細についてはここで論じる積りはない。ご興味がある方は20181125日に掲載した「対ロ戦争ではNATOの勝ち目はない」と題した投稿を参照していただきたい。


ところで、ここに、「米海軍で運用されているF-35C戦闘機で全機能が稼働している戦闘機は5パーセントにも満たない」と題された最新の記事がある(注2)。

それによると、要旨はこんな具合だ:

20186月の時点までに、ロッキードマーチン社は75機のF-35Bを顧客に納入した。大半は米海兵隊に納入された。仮に全数が海兵隊に納入されたとしても、この型式が公に運用可能になったと宣言されてから3年以上も経った201812月現在でさえも全機能が稼働する戦闘機は12機にも満たない。

F-35Cに関する数値も極めて悪い。2年間以上にわたって米海軍は標準機能がすべて稼働する戦闘機を20パーセント以上に引き上げることは出来なかった。201712月現在、米海軍では完全に満足な状態の戦闘機は一機もなかった。その1年後、稼働率は依然として一桁に留まったままだ。

28機のC型機全数では、この12か月間にわたって完全に満足な状態にある戦闘機は平均的に約1機だけであった。

このデータを疑ってかかる理由はまったく存在しない。2017年、米政府の会計検査院(GAO)が報告書を発行した。それによると、F-35Bの全機能が完全に稼働する率は15パーセント未満である。

さまざまな理由があることだろう。しかし、巨額の経費をかけて鳴り物入りで開発されたこのF-35ステルス戦闘機の現状は驚くべき状況である。さらには、これらの報告を読むと、戦闘機が配備された後も莫大な経費がかかるメンテナンスが待っていることがほぼ明らかだ。

我が国の航空自衛隊のウェブサイトを見ると、空自が購入するF-35A については下記のような説明を掲載している。

主要装備 F-35A
最新鋭の次期戦闘機です
F-35AF-4戦闘機の後継として導入を決定した最新鋭の戦闘機で、平成29年度から三沢基地に配備する計画です。F-35Aは高いステルス性能のほかこれまでの戦闘機から格段に進化したシステムを有し我が国の防衛、ひいては地域の安定に多大な貢献をしてくれる期待の戦闘機です。

昨年126日、空自のF-35Aステルス戦闘機1機が国内で初めて三沢基地に配備された。そして、今日(2019326日)現在、12機で編成された飛行隊が発足したという。将来は40機にする予定。

上記の空自の説明を額面通りに受け取れるのかどうか、つまり、日本の防衛に役立つのかどうかは今後何年間か運用してみて、稼働率を含めて、実際の数値が教えてくれることであろう。これは空自が透明性を維持し、実際の数値を正直に示してくれることを想定した上での話であるが、惨憺たるデータに誰もが驚愕することになるかも知れない・・・ 私自身の疑問を率直に言えば、このような惨憺たる状況ははたして米国だけに起るのであろうか?




参照:

1U.S. "Gets Its Ass Handed To It" In World War III Simulation: RAND: By Tyler Durden, ZEROHEDGE, Mar/11/2019

2The Navy’s “Operational” F-35C Is Fully Mission Capable Less Than 5% of the Time: By Joseph Trevithick, CHECKPOINT ASIA, Mar/23/2019



 










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