2019年3月8日金曜日

このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう

農業における殺虫剤の使用は有益な昆虫をも絶滅に追いやってしまうという懸念が今や高まるばかりである。
もっとも身近な例はミツバチの個体数の激減に見られ、果樹園での受粉作業さえもが影響を受けている。いくつもの推論があるが、それらの中で殺虫剤が主な要因であるとする説が有力視されている。ミツバチの個体数の激減はすでに各地で報告されている。
ネオニコチノイド系殺虫剤とミツバチの個体数の激減との関連性を論じた2016年の報告書(注1)はその要旨で次のように述べている:
野生のハナバチ(ミツバチやマルハナバチ、等)の減少は部分的にネオニコチノイド系殺虫剤に起因しているとされてきた。商業的に育成された種類、主として、ミツバチとマルハナバチに関する研究室における短期的な研究によると、亜致死的影響が特定されてはいるものの、これらの殺虫剤と野生のハナバチの個体数の減少との間には強い関係はないとされている。われわれは18年間におよぶ英国における62種の野生ハナバチの分布データと菜種に使用されたネオニコチノイドの量との関連性に着目する。多種間の動的ベイジアン占有分析を駆使して、われわれは菜種の種子処理に使用されたネオニコチノイドに応じてハナバチ集団が絶滅する率が増加する証拠を見い出す。菜種畑で採食するハナバチはこの作物が広大な面積で栽培されていることから恩恵を受けるが、それと同時に、ネオニコチノイドに対する暴露によって作物からの採食をしないハナバチに比べて3倍もの負の影響を受ける。われわれが見出した結論はネオニコチノイドの亜致死性がハナバチの生物多様性の喪失をもたらす原因となり得ることを示している点にある。ネオニコチノイドの使用を規制することによってハナバチの個体数の減少を抑えることが可能だ。
上記の要旨に述べられているごとく、著者らは数理統計学を駆使した調査によってハナバチの個体数の減少と菜種の種子処理で用いられたネオニコチノイドの残留物質との間に関連性があることを突き止めたのである。
ハナバチの生物多様性が失われた暁には、作物や果樹の受粉が行われず、食糧生産に甚大な悪影響を招くであろう。
前置きが長くなったが、ここに、「このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう」と題された最近の記事がある(注2)。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>
Photo-1

農薬業界からは独立した最近の研究報告によると、われわれは、ハナバチを含めて、農業用殺虫剤の使用によって世界中の欠かすことができない昆虫類の集団を絶滅させるという脅威を産み出している。われわれの殆どにとってハエやカまたはカリバチは迷惑であって、それらは避けたい存在である。しかしながら、最近の研究が何を示唆しているのかと言うと、自然界の均衡を維持している欠くことができない有益な昆虫を大量に駆逐してしまう危険を招くかも知れないのだ。地球上の生命に及ぼす影響に関する真剣な討議を、今になってようやく、始めようとしているところである。

最近、昆虫の種類や個体数の減少に関して初の世界規模の調査結果が「Biological Conservation」誌にて発表された(訳注:これは20194月号のことであるから、ごく最新の報告である。19ページもの長論文)。その結論は警告以上の存在である。もっとも中心的な結論は40パーセント以上もの昆虫の種が絶滅に瀕しているという現実にある。 

この調査は種の激減をもたらした主要因は、グリフォサートやネオニコチノイドおよびその他の殺虫剤、等による農薬汚染と並んで、昆虫の生息地が農業のために開発されてしまったことにあると報告している。「本稿では、われわれは世界中で発表された73個の歴史的な報告書を総合的に吟味した結果を提示し、基本的な要因を組織的に評価したい。我々の研究は驚異的な絶滅率を見い出した。今後2030年間に世界中の昆虫の40パーセントが絶滅するかも知れない」と著者らは説明する。

本調査は、最近の分析の結果、膨大な量の殺虫剤の使用が草原の鳥類や流れの中に生息する魚や蛙といった水棲生物の減少をもたらした主な要因であることを指摘している。 

本研究が言及する他の論点のひとつとしては、27年間に及ぶドイツでのいくつかの自然保護地区における昆虫の個体数に関する研究が挙げられ、次のように報告している。「驚くべきことには、これらのドイツの保護地域のいくつかにおいては飛翔昆虫が76パーセントも減少したことだ。これらの地域は人による害が比較的低いレベルにありながらも、これは年率で2.8パーセントもの減少に匹敵する。気がかりなことには、本調査はほぼ30年間にわたって恒常的な減少を示している。プエルトリコの熱帯雨林における研究によると、36年の期間に地上で捕食する節足動物や樹冠に生息する節足動物は78から98パーセントも減少した。これと並行して、同地域では鳥や蛙およびトカゲも減少している・・・」 

ハナバチの個体数の減少に注目しなければならない。特に、マルハナバチだ。1980年以降、英国における野生ハナバチは52パーセントも減少し、オランダでは67パーセントも減少した。第二次世界大戦後、大規模なアグリビジネスを展開し、農薬の使用を推進して来た米国では、2008年から2013年までの期間だけでも野生ハナバチが23パーセントもの減少を示した。主として、中西部、大草原地帯、および、ミシシッピ川流域で減少した。これらの地域では穀類の生産が盛んで、特に、バイオ燃料の生産に使われる遺伝子組み換え(GMO)トウモロコシが多く栽培される。GMOトウモロコシの栽培にはグリフォサートや他の農薬が広く使用される。1947年には米国全体で6百万ものミツバチの集団があったものだが、今日、その数は半数以下の250万に減少した。個体数の減少は有機塩素化合物であるDDTが農薬として使用されると共に始まった。米国では1972年にDDTの使用が禁じられたが、その後もDDTはグリフォサートをベースとした代替物質や他の農薬によって取って代わられ、個体数の減少は衰えることもなく、継続している。

不可逆的な減少か? 

一般大衆のほとんどは自然の生態や種の保全のために昆虫が演じている役割に関しては十分な理解をしてはいない。本報告書が報告しているように、「トガリネズミやモグラ、ヤマアラシ、アリクイ、トカゲ、両生類、コウモリのほとんど、数多くの鳥や魚は昆虫を捕食し、子育てでは昆虫に依存する。減少の途上にある昆虫は他の種類の昆虫によって置き換えられるとしても、昆虫全体のバイオマスの減少に対していったいどんな策を講じることができるのか?具体策を提案することは極めて困難である。」 酔いも覚めるような指摘をいくつもしている中で、本研究は「農地への除草・殺虫剤の散布は、他のどんな農法と比較しても、地上や水生の植物ならびに昆虫の生物多様性に対して遥かに否定的な影響を与えている」と結論付けている。今日、世界中でもっとも多く使用されている除草剤はグリフォサートであり、それをベースとしたモンサントのラウンドアップである。 

カリフォルニアの「無脊椎動物を保全するザークシーズ・ソサイエティ」(Xerces Society for Invertebrate Conservation)が行った最近の研究はカリフォルニアのオオカバマダラ蝶の個体数が史上で最低のレベルにあることを報告した。調査が開始された1980年代から2017年までの期間にオオカバマダラは97パーセントが消滅した。その後、2017年から今日までの期間に85パーセントもの減少が記録された。科学者らは殺虫剤や除草剤の大規模な使用が主要因であると主張している。

テキサス大学の科学者は議論が絶えることがないモンサント製ラウンドアップ除草剤に使用されているグリフォサートはミツバチが成長し、病原体に抵抗するのに必要な微生物叢に害を与えているとの事実を実験によって突き止めた。ニコチノイド系殺虫剤がミツバチの死と関連性があることをしばらく前に指摘した別の研究と組み合わせると、これを要するに、これは農作物に広く散布されている毒性物質に関する早急な精査を求めるものである。注目すべきは、ネオニコチノイド系殺虫剤とグリフォサートをベースにしたラウンドアップの世界最大の提供者はモンサントを吸収したバイエル社である。

これらの研究はどちらもが今まで多くの場合に無視されていた農薬の影響に焦点を当てている。世界中の生態系の多くにとって、昆虫はその基幹的な構造や機能の一部を成している。鳥やミツバチがいない世界はこの地球上の全生命に対して壊滅的な影響を及ぼすであろう。昆虫無しでは、生態系全体が崩壊してしまう。アグリビジネス業界は「世界の飢餓を解決する」と好んで主張するが、彼らが推進するグリフォサートのような特定の殺虫剤・除草剤はむしろ食糧システムに崩壊の脅威を与えている。正常な精神状態においてはわれわれは誰だってそのようなことをしたいとは思わないだろう。あなたはどうお思いだろうか?

著者のプロフィール: F・ウィリアム・エングダールは戦略的リスクに関してコンサルタント役を務め、講演を行う。プリンストン大学で政治学の学位を取得し、原油と地政学に関して最も良く売れている書籍を送り出し、オンライン・マガジンである「New Eastern Outlook」のために独占的に執筆している。


<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

レイチェル・カーソン著の「沈黙の春」という書籍があった。それは一般大衆の関心を呼び、かって農薬として世界中で広く使用されていたDDTを使用禁止へと導いた。また、シーア・コルボーン著の「奪われし未来」という書籍が環境ホルモンに関する一般大衆の理解を深めることに大きな役割を果たした。

これらの事実や他の多くの事例を歴史的な枠組みで眺めてみると、社会の不条理を是正する上でわれわれ一般大衆の理解が基本的にはもっとも重要であることを示していると言える。

除草剤や殺虫剤が生態系に及ぼしている悪影響は、この引用記事が主張しているように、今や地球上の生態系全体が存続できるのかどうかを危ぶませるような段階に到達している。この事実はもはや議論の対象ではなく、むしろ、不可逆的な地球規模の大惨事を起こさないためにも、われわれの世代、つまり、あなたや私の世代は具体的な施策を真剣に追求しなければならない。



参照:

1Impacts of neonicotinoid use on long-term population changes in wild bees in England: By Ben A. Woodcock, et al, Nature Communications volume 7, Aug/16/2016
2We’re Killing Off Our Vital Insects Too: By F. William Engdahl, NEO, Mar/02/2019





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