2019年5月23日木曜日

リークされた化学兵器禁止機関の内部メモによると、同機関が公表したドウーマでの化学兵器攻撃に関する結論は疑わしい


国連の機関である化学兵器禁止機関(OPCW)は化学兵器禁止条約(CWC)に参加している締約国が条約にしたがって化学兵器の開発、製造、貯蔵、使用をしていないことを専門家の立場から監視する役目を担っている。現在、193ヵ国・地域が加盟している。

シリアでは化学兵器攻撃が何回となく繰り返されてきた。反政府ゲリラと彼らを支援する国々は化学兵器を使用したのはシリア政府軍だ、アサド大統領は自国民を殺害したと主張してきた。その一方、シリア政府とその支援国は化学兵器攻撃は反政府ゲリラの仕業であって、シリア政府は何の関係もないと反論してきた。

シリアの現地で取材した何人ものフリーランス・ジャーナリストの報告によると、これらの出来事は反政府派武装ゲリラによる自作自演である。つまり、反政府派を支援する米国の企てであって、シリアに対する空爆を挙行するためのお膳立てである。ソーシャルメディアに投稿された化学兵器攻撃に関する動画は、多くの場合、反政府派を支援する作戦の一環として「ホワイトヘルメット」と呼ばれる団体によって作成され、ソーシャルメディアに投稿されたものだ。それらの動画の中には、化学兵器攻撃が実際に行われた時点よりも前に動画がソーシャルメディアに投稿されてしまったという珍妙な出来事さえもがある。こういった漫画的な出来事も含めて、自作自演の化学兵器攻撃は何回も繰り返されて来た。

シリア内戦は実際には内戦ではない。構造的に言えば、シリア内戦はシリアの原油や天然ガスをただ同然で入手しようと狙っている米国やその同盟国であるフランスならびに湾岸諸国と自国の主権や独立を守ろうとするシリア政府ならびにシリアを支援するロシア、中国およびイランとの間の地政学的な抗争である。

2015年、シリア政府軍は反政府派武装勢力の攻撃に曝されて劣勢を余儀なくされていた。その年の9月、ロシアはシリア政府から軍事支援に関する正式な要請を受け、ロシア空軍をシリアへ送り込んだ。その結果、シリア政府軍は急速に失地の回復を果たし、今や、米国が企てたシリアにおける代理戦争、つまり、シリアのアサド大統領を失脚させること、あるいは、シリアの世論を分断し、リビアのように機能不全に陥れるという筋書きは大失敗に終わった。しかしながら、米軍によるシリア国内での非合法的な駐留は今も続いている。

そのような流れの中で、米英仏がOPCWを本来の理念や行動規範から逸脱させて、シリアで起こった化学兵器攻撃について政治的に偏った報告をさせたとしたらどうなるか?これは国連という組織そのものを無視することに等しい。また、開発途上国に対しては民主主義の重要性を度々説いてきた米英仏にとっては政治的にも、倫理的にも自殺行為に等しい。

201847日にドウーマで起こった化学兵器攻撃に関してはOPCWによる最終報告書が今年の31日に公開された。最近になって、OPCW内部の報告書が新たにリークされた。このリークされた内部報告書にはOPCWが公開した最終報告書の内容とは決定的な相違がある。このことが今大きな批判を招いている。

ここに、「リークされた化学兵器禁止機関の内部メモによると、同機関が公表したドウーマでの化学兵器攻撃に関する結論は疑わしい」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

OPCWのエンジニアが作成した内部報告書がリークされた。その内容は20184月にシリアで起こった化学兵器攻撃について公表されたOPCWの最終報告書の内容とは異なっており、このことは米英仏がこの国連機関に与えた政治的圧力に疑問を投げかけている。 

20184月、シリア政府軍がドウーマ市をイスラム過激派の手から奪回しつつある中、「ホワイトヘルメット」は塩素ガスとサリンによる化学兵器攻撃が行われ、40人以上の市民が殺害されたと主張した。国連の調査員が現地へ到着するのを待たずに、米英仏はシリア政府の諸々の拠点を空爆し、バシャール・アサド大統領こそが責められるべきだと宣言した。

この化学兵器攻撃に関する最終報告書によると、化学兵器禁止機関(OPCW)の事実関係調査ミッションはサリンを発見することは出来なかったが、「分子状塩素」が充填されたボンベが航空機から投下されたと報告した。同報告書は作成者の名前を公表せず、不特定の外部「専門家」の言葉を引用した。しかしながら、もうひとつ別の報告書が最近現れた。それはOPCW内部のエンジニアが作成したものであって、最終報告書に記載されているこれらの最終結論に挑戦するものであるのだが、この内部報告書は最終報告書に包含されてはいない。



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この内部報告書は「シリア、プロパガンダおよびメディアに関する作業グループ」と称される独立した学者や研究者らから成るグループによって公開されたものである。同グループは武装過激派や彼らを支援する国家によって推進されてきたシリア内戦についての公的な見解に強く反論して来た。 「われわれはこの報告書が本物であることを複数の情報源によって確認して貰った」と、同作業部会のピアース・ロビンソン博士がRTに語っている。 

このリークされたエンジニアによる報告書の中でもっとも重要視される事項は攻撃に用いられたとされるガスボンベは人手でその場に置かれたという見解である。これは反政府過激派による犯行を示唆するものであり、シリア政府軍を示唆するものではない。さらには、これは公表されている最終報告書の主張を覆すものでもある。

要約すると、二カ所の現場で観察された事柄は、後に行われた分析の結果と相俟って、これらのふたつのガスボンベは人手によってふたつの場所に置かれたものであって、航空機から投下されたものではない可能性がより高いことを示している。

ロビンソンは次のことも述べている。OPCWはこの内部文書の正当性を否定せず、単に同文書と事実関係調査ミッションによる最終報告書との関連を断ち切ろうとしている。しかしながら、それは答えを提示するよりも、むしろ、もっと多くの疑問を招いている。

OPCWの事実関係調査ミッションの最終報告書には署名がされてはいない。誰の名前も署名されてはいないのだ。これはOPCWの最終報告書としては実に異例である」と、ロビンソンはRTに語った。彼はさらに次のことも指摘している。内部のエンジニアからの報告に代わって、同機関は「得体の知れない、名称が分からない、匿名の諸々の団体」の見解を採用した。同機関の最終結論の背後にはいったい誰が居るのかという深刻な疑惑を残すことになった。



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「内部のエンジニアからの報告を公表することを禁止し、それに代わって外部の匿名の者からの報告をOPCWに採用させたパリ、ロンドンおよびワシントンからの政治的圧力とはいったいどのようなものであったのか」を知りたいものだとロビンソンは述べている。

もしも国連の主要な監視機関であるOPCWがこの種の圧力に屈したとすれば、これはドウーマで実際に起こり、依然として完全な調査を必要としているあの残忍な行為に加えて、「思いもよらない程に深刻な問題」だ、と彼はRTに語った。 

RTは約一週間前にOPCWに質問状を送付したが、その後何の回答も受け取ってはいない。同機関はザ・メール・オン・サンデー紙の著名なコラムニストであるピーター・ヒッチンズに対しては回答を送り、こう言った。「われわれは問題の文書を許可も無しに公表したことに関して内部調査を行っている」と述べ、事実関係調査ミッションについてはそれ以上のコメントをしなかった。 

ここに暴露された新事実の重要性は誇張し過ぎることはない。戦争マシーンは今やわれわれの民主国家に対して嘘をつき、最強国間同士の全面戦争になりかねないような自作自演の化学兵器攻撃に手を染めているところを見つかってしまったのである。#Syria

— George Galloway (@georgegalloway) May 13, 2019

金曜日(517日)にロシアの国連特使ヴァシーリー・ネベンジアはモスクワ政府はOPCWが「元来の軌道に戻って来る」ことを望んでいると表明した。

「同機関はかっては技術者の組織であったが、今は極めて政治的な組織になってしまった」と、ネベンジアは言う。「われわれは同機関がかって見せていた姿勢に復帰することを望んでいる。」  



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事実関係調査ミッションの最終報告書が3月に公開されたことを受けて、OPCWに派遣されているロシア特使アレクサンダー・シュルギンはRTに次のように述べている。OPCWは厳しい圧力に曝されて、ダマスカス政府が化学兵器攻撃の張本人だとする米国の筋書きに「率直に言って、反論しようとさえもしなかった。」 

「あれは自作自演であった・・・と認めることは米国とその同盟国に対してシリア空爆の正当性を否定することになっただろう」とシュルギンは言った。

この空爆はOPCWの調査チームがドウーマに到着する2日前に行われ、100個以上もの巡航ミサイルを投下した。塵埃が鎮まって、OPCWの調査員が実際に現場へ到着すると、彼らは検査を実施するには「余りにも危険だ」と言って、武装ゲリラが塩素ガスのボンベを貯蔵していた倉庫の検査を拒んだ。

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

リークされた内部報告書はいったい何を意味するのかと言うと、OPCWが米英仏の対シリア政策のためにハイジャックされてしまったことを示している。OPCWの高官らは米英仏の政治的圧力に屈して、未知の空港へ強制着陸させられたのだ。そして、彼らはその空港には違和感を覚えないかのような振る舞いをしている。

このハイジャック事件は今も後遺症に悩まされている。引用記事は『同機関はザ・メール・オン・サンデー紙の著名なコラムニストであるピーター・ヒッチンズに対しては回答を送り、こう述べている。「われわれは問題の文書を許可も無しに公表したことに関して内部調査を行っている」と述べ・・・』と伝えている。最悪の場合、OPCWの内部告発者が特定され、解雇されるのかも知れない。

今年の315日、私は「OPCWのシリア報告書は西側の化学兵器攻撃という筋書きを不能にする」と題して投稿したが、あの投稿は著名なジャーナリストが米英仏によるシリア空爆の根拠として使われたドウーマにおける化学兵器攻撃は反政府派によって行われた自作自演であったことをさまざまな角度から検証したものだ。中でも、「化学兵器攻撃でいったい誰が得をするのか」という観点から行われた現状分析は秀逸である。勝利を間もなく手中に収めることができる政府軍側があのような化学兵器攻撃を行うことはあり得ないと断定した。見事な報告であった。

今回ここに引用した記事によると、OPCW内には最終報告書とはまったく異なる内容の報告がすでに存在していたことを示しており、OPCWの高官は英米仏からの政治的圧力に負けて、内部の専門家の報告を反故にして、外部の意見を取り入れた最終報告書を公開したことが明白となった。しかも、誰の署名もないという。これはOPCWの報告書としては異例である。OPCWにとっては非常に破廉恥な状況が一般大衆の眼に曝されることになった。

問題の内部報告書は15ページの文書で、OPCWの技術部門の専門家らしい詳細な内容で、綿密な構成となっている。もっとも重要な点は、引用記事にも報告されているように、「要約すると、二カ所の現場で観察された事柄は、後に行われた分析の結果と相俟って、これらのふたつのガスボンベは人手によってふたつの場所に置かれたものであって、航空機から投下されたものではない可能性がより高いことを示している」という指摘にある。つまり、ガスボンベはその場へ人手で置かれたという調査結果であって、これはOPCW31日に公表した最終報告書とはまったく異なる結論だ。

詳細な情報をお求めの方には「Assessment by the engineering sub-team of the OPCW Fact-Finding Mission investigating the alleged chemical attack in Douma in April 2018」と題された別の文書をお勧めしたい。この文書は引用記事で紹介されている「シリア、プロパガンダおよびメデイアに関する作業グループ」のピアース・ロビンソン博士らが執筆したものであって、読みごたえのある内容である。立派な技術報告書である。

このロビンソン博士らの反論に遭遇して、OPCWは今後どのようにして自分たちの整合性を説明するのであろうか?彼らにはOPCWの名誉を維持するために米英仏からの圧力に抗して、真実を追求しようとする勇気があるのだろうか?それとも、OPCWは内部文書をリークした告発者を罰して、すべてを終わらせてしまうのであろうか?

シリアにおける化学兵器攻撃とOPCWとの関係がどのようなものであるかをたとえ話を用いて対比してみよう。

私の想定はこんな具合だ。あなたや私が住んでいる地方の市では市立中学校や市立高校の生徒たちが麻薬中毒に冒され、その状況は急速に悪化している。子供たちが通っている中学校や高校は効果的な麻薬対策を講じたいものの、警察署のお偉いさんたちからはまともな協力は得られない。彼らは隣の市にある全国規模の暴力団の地方支部からさまざまな脅かしを受けており、麻薬対策はわれわれが思うようには進行しない。こんな状況に遭遇した場合、われわれ父兄に残された策は、多分、草の根的な署名活動を行い、何千人もの署名を携えて市議会に陳情し、親たちの懸念を理解して貰うしかないのではないか。われわれは隣の市の父兄にも呼び掛け、ふたつの市が団結することによってより効果的な行動を展開することができるかも知れない・・・

OPCWのお偉いさんたちは米英仏からの政治的圧力に屈してしまった。この状況はわれわれの市の警察署が暴力団の脅かしを受けて、学校での麻薬対策を思うように進行させ得ない状況とまったく同様であると言えよう。シリアにおける化学兵器攻撃の問題は単なるシリア国内の問題に留まらない。化学兵器に関して警察官役をしているOPCWは国連の機関である。この問題は国連加盟国全体の問題でもある。素人目にさえも一目瞭然だ。

それにもかかわらず、西側の大手メディアは沈黙を守ったままである。

代替メデイアからの情報によって、シリア内戦の現地の様子は詳しく報じられている。それらの報道は大手メディアが喧伝する筋書きとは大きく異なる。たとえば、フリーランス・ジャーナリストのヴァネッサ・ビーリーや記録映画作家のアンドレ・ヴルチェクの報告は秀逸だ。

今回の引用記事に登場したピアース・ロビンソンは、米大統領選で民主党全国委員会のサーバーコンピュータが不正侵入を受けたとして大騒ぎをした際にVIPS (Veteran Intelligence Professionals for Sanity)と称する元諜報部門の専門家で構成されたグループはこれはハッキングではなくて、誰かがフラッシュ・メモリーに直接ダウンロードしたとする内部犯行説を報告したが、あの明快な謎解きを思い起させる説得力を持っている。

大手メディアは扇動的な報道をすることによって読者を引き寄せようとするだけで、真理の追究では代替メディアに完全に後れを取っている。一般社会にとっては不幸なことではあるが、大手メディアが持つ限界は今や誰の眼にも明らかだ。

そして、大手メディアと同じ症状を示す、極めて末世紀的な症状が今回は国連の機関であるOPCWにも発見された。西側世界は、少なくともその一部は、今や、政治的にも、倫理的にも破産してしまったかのように見える。米国がその覇権を維持するためにあの手この手を使う限り、今の悲観的な趨勢はさらに悪化する一方であろう。こう感じるのは私だけであろうか?


参照:

1Leaked OPCW memo casts doubt on watchdog’s Douma ‘chemical attack’ conclusions: By RT, May/18/2019, https://on.rt.com/9unv






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